(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車輪(2,3)とエンジン(5)を備えた車体(1)と、エンジン(5)からの出力に応じて油圧出力を変える油圧式無段変速装置(34)と、前記油圧式無段変速装置(34)を調整して前進方向又は後進方向の油圧出力を踏み込み量に応じて調整する前後進ペダル(15)を備えた走行車両において、
前後進ペダル(15)の踏み込み量に対応した一定の走行速度に保つオートクルーズの設定と解除をオン・オフにより行うオートクルーズ自動スイッチ(14c)と、
該オートクルーズ自動スイッチ(14c)のオン時における走行速度を記憶する走行速度記憶手段(17)と、
オートクルーズ自動スイッチ(14c)がオフされた後に、オンされると、オートクルーズ走行に復帰するオートクルーズ復帰スイッチ(14d)と、
オートクルーズ復帰スイッチ(14d)がオンされると、前記走行速度記憶手段(17)に記憶された走行速度に戻し、オートクルーズ復帰スイッチ(14d)が押し続けられた場合に、記憶されたオートクルーズ走行速度の設定値まで走行速度を戻し、走行速度の増速中にオートクルーズ復帰スイッチ(14d)が押されるのが中止されると、その中止したタイミングにおける実際の走行速度に車両走行速度を固定する制御装置(100)
を備えたことを特徴とする走行車両。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明の好ましい実施の形態について説明する。
作業車両の一例としてトラクタを例に以下説明する。
図1(
図1にはフロントローダのない図を示す)に全体側面図、
図2に
図1のトラクタの平面図(キャビンを除いている)を示している。
図3は
図1のトラクタの変速装置の動力伝動機構線図、
図4は本実施例のトラクタの静油圧式無段変速装置の油圧回路図であり、
図5は本実施例のトラクタの制御ブロック図である。
【0016】
なお、本明細書において作業車両の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向を前、後進方向を後ろという。
図1、
図2に示すトラクタは走行車体1の前後部に前輪2,2と後輪3,3を備え、車体1の前部に搭載したエンジン5の回転動力を伝動ケース内の変速装置によって適宜減速して、これらの前輪2,2と後輪3,3に伝えるように構成している。
【0017】
車体1の中央のハンドルポスト6にはステアリングハンドル7が支持され、その後方には座席9が設けられている。
図1に示すように、燃料タンク8をボンネット22内に収められ、燃料タンク8本体の後側はハンドルポスト6内に収納状態となっている。
【0018】
また、ステアリングハンドル7の下方には車体1の進行方向を前後方向に切り替える前後進レバー10が設けられている。この前後進レバー10を前側に移動させると車体1は前進し、後方へ移動させると後進する。また、ハンドルポスト6を挟んで前後進レバー10の反対側にはエンジン回転数を変更するスロットルレバー11が設けられ、また、ステップフロア13の右コーナー部には前後進ペダル15と左右のブレーキペダル16,16が配置されている。前記前後進ペダル15は、基本的には路上走行時に使用し、その踏み込み量に応じてエンジン回転数が上昇すると共に、前後進ペダル15の踏み込み量を前後進ペダル位置センサ15a(
図5)が検出し、この前後進ペダル位置センサ15aの検出値に応じて静油圧式無段変速装置(HST)34のトラニオン軸30(
図4)の回動角度を変更させることができる。該トラニオン軸30の回動角度により斜板34d(
図4)の傾斜角度を変化させてHSTの出力を無段状に連続的に変更させることができる。
【0019】
前記スロットルレバー11はエンジン回転数を変更するもので、作業走行時に使用する。スロットルレバー11は操作した位置で手を離してもその位置が保持される構成である。 また、操縦席9の左側に低速、中速、高速及び中立のいずれかの位置を選択できる副変速レバー21が配置され、その後方に前輪2と後輪3の間に装着しているミッド作業機(モーア等)のPTO軸の入り切りと変速を行うミッドPTO変速レバー23aと、機体後部に装着する作業機(モーア、ロータリ、除雪機等(図示せず))のPTO軸52の入り切りと変速を行うリヤPTO変速レバー23bが設けられている。また、車体1の後方には作業機(図示せず)を連結する前記リンク31が設けられている。
【0020】
エンジン5の回転動力はHST入力軸33からHST34に伝達される。また、HST入力軸33から導入された動力により
図4に示す油圧ポンプ34aを作動させて、油圧ポンプ34aに設けられた斜板34dの傾斜角度に応じた圧油を油圧閉回路34cから油圧モータ34bに供給し、該油圧モータ34bにより走行出力軸35を駆動させて噛合式の変速装置38へ動力を伝達させる。
【0021】
図3に示すように、噛合式の変速装置38の副変速クラッチシフタ39は、変速軸43の回転がデフ装置46を介して後輪3が副変速高速段の走行速度で駆動される。
前記HST34から出力された動力は、走行出力軸35から回転軸36に伝達される。変速装置38による変速段は次のように設定される。すなわち、副変速高速段(3速)はギヤ38aからギヤ38bで変速された動力が変速軸43へ伝達される。また、副変速中速段(2速)は、ギヤ38cからギヤ38dで変速された動力が変速軸43へ伝達され、副変速低速段(1速)は、ギヤ38eからギヤ38fで変速された動力が変速軸43へ伝達される。これら副変速の3段変速は、副変速レバー21を操作してシフタ39が左右にスライドすることで切り替わる。変速軸43の回転がデフ装置46を介して後輪3が副変速中速段の走行速度で駆動される。
【0022】
一方、HST入力軸33から容量可変式の油圧ポンプ34a(
図4)に入力された動力はポンプ出力軸51(
図3にのみ図示)からPTO油圧クラッチ54などを経由してPTO軸52に設けられたPTO用の駆動系に伝達される。PTO軸52にはリヤPTO軸55とミッドPTO軸56に動力伝達される。
【0023】
なお、PTO油圧クラッチ54を油圧によりオン・オフさせるPTOクラッチスイッチ78(
図5)を配置している。
また、変速軸43の副変速下手側のギヤ58からPTO軸52のギヤ47、このギヤ47と一体のギヤ59を経由して、前輪出力軸48のギヤ57に伝達され、前輪2が駆動される。
【0024】
さらに、車体1の前方又は後方にローダ(図示せず)を取り付けたときはローダ昇降シリンダ(図示せず)でローダを昇降させる。
また、静油圧式無段変速装置(HST)34はトラニオン軸30(
図4)の回動角度、すなわち斜板34dの回動角度により、制御装置100で設定されているトラニオン軸30の回転数が決まり、詳細な説明は省略するが、前後進ペダル15の踏み込み量が前後進ペダル位置センサ15aで検出されると、前後進ペダル位置センサ15aの検出値に応じてトラニオン軸30の作動量(回転数)が制御装置100により自動的に設定され、静油圧式無段変速装置(HST)34の油圧出力が自動的に適切な値に設定される。
【0025】
なお、前後進レバー10の前進側又は後進側への切り替えで前後進レバー10の回動基部に設けている図示しない切替スイッチを作動させる等の方法で、制御装置100が静油圧式無段変速装置(HST)34のトラニオン軸30の回動方向を前進側又は後進側に設定する。このトラニオン軸30の回動方向は、切替弁63(
図4)で決定する。そして、トラニオン軸30の回動角度が、前後進ペダル15の踏み込み量に応じて変化する。トラニオン軸30の回動角度は、比例弁65の電磁弁への電流量で決定する。
【0026】
さらに、バルブスティック時などの緊急時には、操縦部にあるブレーキペダル16,16を目一杯踏み込むと強制的にHSTトラニオン軸30をニュートラルに戻すことができる。ブレーキ16,16を踏むときは、オペレータは前後進ペダル15から足を離しているので、トラニオン軸30は中立に戻る。このときトラニオン軸30が自然に戻る又は強制的に高速で戻すかは、機種により異なる。
【0027】
図4に示すHST34の油圧回路34cにおいて、不純物でバルブなどが詰まる(バルブスティック)際には、操縦部にある緊急停止レバー(図示せず)を引いて、HST34のトラニオン軸30をニュートラルに戻す。
【0028】
図2のトラクタの全体平面図に示すように、ハンドル7の回りのハンドルポスト6にはスロットルレバー11と前後進レバー10が左右に配置されている。スロットルレバー11の右側のステップフロア13上には前後進ペダル15が配置されている。前後進ペダル15はHST34のトラニオン軸30の回動角度の調整を行うことができる。
【0029】
さらに、操縦席9の右側のレバーガイド12aには最高速設定ダイヤル14a、車速緩慢度応答ダイヤル14bとクルーズ自動スイッチ14cとクルーズ復帰スイッチ14dが前側から後側に順に一列に配置されている。なお、前記ダイヤル14a,14bとスイッチ14c,14dは前後方向に一列に順に配置されていれば良く、ダイヤル14a,14bとスイッチ14c,14dの配列順序にはこだわらない。
【0030】
最高速設定ダイヤル14aはダイヤル式であり、トラニオン軸30の回動角度を調整して車体の最高速度を規制するものであり、所定の最高速を操縦者が決めることができるように、例えば約15〜30km/hの範囲にダイヤル式に変更できる構成としている。したがって、前後進ペダル15を最大まで踏み込んでも、最高速設定ダイヤル14aで規制している速度までしか出せない構成としている。
【0031】
車速緩慢度応答ダイヤル14bもトラニオン軸30の回動速度を変更設定するものである。前後進ペダル15を踏むと、前後進ペダルセンサ15aで目標となる速度、すなわち目標となるトラニオン軸30の回動角度が決まるが、この目標となるトラニオン軸30の回動角度の位置までに、トラニオン軸30が到達する時間を変更するものである。例えば、車速緩慢度応答ダイヤル14bを鈍感(スロー)にしておくと、前後進ペダル15を素早く踏んでも、トラニオン軸30の目標となる回動角度への到達時間がゆっくりとなるので、ゆっくりと加速していく構成である。この目標位置への到達時間の変更は、比例弁65(
図4)への電流のデューティー比を変更することで行う。この車速緩慢度応答ダイヤル14bによる所定の車速に達するまでの時間は、例えば約3秒間から約6秒間までとダイヤル式に変更できる構成としている。
【0032】
クルーズ自動スイッチ14cは入り切り式のスイッチであり、ある特定の速度で走行しているときにこのクルーズ自動スイッチ14cを入りにすると、前後進ペダル15から足を離しても、そのときの速度を維持する構成である。すなわち、クルーズ自動スイッチ14cは該クルーズ自動スイッチ14cを入れたときの車速(前後進ペダル15に踏み込み位置に対応する)に合致するように、トラニオン軸30の回動角度を一定とし、したがってHST34の出力が一定に保持されて車速が一定に保持される。クルーズ自動スイッチ14cを入れた後で前後進ペダル15から足を離しても、そのときの速度を維持する。
【0033】
また、クルーズ復帰スイッチ14dは、クルーズ自動スイッチ14cをオフした後にオンすると、CPU100の走行速度記憶手段17に記憶されたオートクルーズ走行速度に復帰するスイッチである。このとき走行速度記憶手段17には、例えば、最新のオートクルーズ走行速度が記憶する設定になっている。
【0034】
このように最高速設定ダイヤル14a、車速緩慢度応答ダイヤル14b、クルーズ自動スイッチ14c、及びクルーズ復帰スイッチ14dのいずれかを入りとするだけで、HST34のトラニオン軸30の回動角度を予め設定された3走行モードに設定できるので、これらのダイヤル14a,14bとスイッチ14c,14dを設けない場合に比較して操縦性が良くなる。しかも、ダイヤル14a,14bとスイッチ14c,14dは操縦席9の隣接位置に前後方向に一列に並べて配置されるので、これらのダイヤル14a,14bとスイッチ14c,14dの選択に迷うことがなく、目的のダイヤル、スイッチを素早く入れることができる。
【0035】
これらのダイヤル14a,14bとスイッチ14c,14dはまとめてサーボスイッチとも呼ばれているが、操縦席9に隣接する右のレバーガイド12aに前後方向に一列に並べる順序としては前側から後側に最高速設定ダイヤル14a、クルーズ自動スイッチ14c、クルーズ復帰スイッチ14d及び車速緩慢度応答ダイヤル14bの順に配置しても良い。
【0036】
また、操縦席9の左側には副変速レバー21、ミッドPTOレバー23a、リヤPTOレバー23b及び4WDレバー24が配置されている。4WDレバー24の外側には副変速レバー21が配置され、リヤPTOレバー23bの外側にはミッドPTOレバー23aが配置されている。
【0037】
バルブスティック時などの緊急時には、
図2に示す操縦部にあるブレーキペダル16,16を目一杯踏み込むと強制的にHSTトラニオン軸30をニュートラルに戻すことができる。
【0038】
HSTサーボ付きのトラクタにおいて、スロットルレバーセンサ11aで検知するスロットルレバー11の操作位置がハーフスロットル位置の近傍にある場合(エンジン回転数は最高回転数の約半分の場合)には、機体の前方に昇降自在に取り付けられるローダ(図示せず)のバケット内に負荷のかかる荷をのせて作業中であると判定して、前後進レバー10が前進側にある場合(トラニオン軸30の回転方向が前進側にある場合)は、スロットルレバー11はそのままとしてエンジン回転数を一定に維持し、前後進ペダル15を踏み込んでHST34の油圧出力を上げて車速のみを上げるが、前後進レバー10が後進側にある場合には前後進ペダル15の踏み込み量に応じたトラニオン軸30の回動角度に対応した回転数で、かつダイヤル14bで設定される車速緩慢応答速度より遅い変速速度で変化させて、車速を緩やかに上げる制御を行うようにしても良い。
【0039】
また、前後進ペダル15の踏み込みによりトラニオン軸30の回動角度を上げていき、エンジン回転数がハーフスロットル相当以上になっても前後進ペダル15の踏み込みがさらに続くと、エンジン回転数を上げる。このような車速の上げ方は前後進ペダル15の踏み込み量に応じてコントローラ100で制御されるトラニオン軸30の回動角度調整用の比例弁65の作動量の増加により行われる。
【0040】
上記したエンジン回転数の制御によりハーフスロットル状態では低燃費化が図れる。特に後進時にはエンジン回転数を緩やかに上げることで、エンジン駆動力を減らすことができて低燃費化が図れる。
【0041】
また、前後進レバー10の基部に設けた前後進レバー切替速度センサ10aで検出される前後進レバー10の前後進切替速度に応じて目標速度への到達速度を変更することができる。例えば、オペレータの意図を考慮して前後進レバー10が速く切り替わった場合は目標速度に達する時間を短くすることができる。
【0042】
さらに、前後進レバー10の前後進の切替速度に応じて目標速度への到達速度を変更することができる制御構成(前後進レバー10の前後進の切替速度に応じて、オペレータの意図を考慮し、速く前進と後進が切り替わると、目標とする速度に達するまでの時間を短くする構成)を採用した上で、さらに、このとき後進から前進への切替速度は前進から後進への切替速度に比べて、目標とする速度に達するまでの時間を長くする。これは、オペレータが後進から前進への切り替えに恐怖感を感じやすいので、それを防ぐためである。
【0043】
上記HSTサーボ付きトラクタにおいて、前後進レバー10の前後進の切替速度に応じて目標速度への到達速度を変更する制御と同時に、後進から前進への切替速度はその反対の前進から後進への切替速度より遅くして、目標速度への到達速度が遅くなるようにすることで、オペレータの恐怖感をなくすと共に、さらにHST出力軸回転センサ35aの検出値とトラニオン軸回動角度センサ30aの検出値との偏差(両検出値の差異における所定値からのずれ)により作業機の牽引負荷を判断し、その牽引負荷に応じて静油圧式無段変速装置34の出力の変更速度を調節することで、ローダ作業などの作業を容易に行うことができる。例えば、トラクタの牽引負荷を判断してローダ(図示せず)のバケットに土砂が入っていると判断されると、ローダバケットから土砂を落とさないように、土砂が入っていないときより緩やかに前後進の切り替えを行う制御構成を採用する。
【0044】
この制御構成もオペレータが後進から前進への切り替えに恐怖感を感じやすいので、それを防ぐために行う。
また、トラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの両検出値の差異が所定値からずれていると、トラクタに牽引負荷があると判断してフィードバックのスピードを変更することができる。
【0045】
通常はトラニオン軸回動角度とHST出力軸回転数とは比例関係にあるが、走行負荷によってはトラニオン軸回動角度が一定でも、負荷が掛かるとHST出力軸回転数が変化する。エンジン回転数が一定のときに、エンジン回転数の変化を読み取り、その時間当たりの変化量に応じてHSTトラニオン比例弁65の変更速度を調整する。例えば、HSTトラニオン比例弁65(
図5)の変更速度をゆっくりにすると、車速もゆっくり下げることができる。
【0046】
なお、本実施例のトラクタの制御装置の制御ブロック図を
図5に示す。
また、トラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの前記偏差により、トラクタの牽引負荷を判断してフィードバックのスピードを変更する際に、トラクタの牽引負荷に変化がないにも拘わらず、PTO負荷によりエンジン回転数が減少する場合には、PTO負荷があると判断して車速を下げる制御を行い、PTO負荷によるエンストを防止する。
【0047】
また、トラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの前記偏差により、トラクタの牽引負荷を判断して、牽引負荷に変化がなく、スロットルレバー11を操作していないためにスロットルレバーセンサ11aによるスロットルレバー11の動きの検知がない場合に、PTO負荷によるエンジン回転数の変動があったときにはHSTトラニオン比例弁65の変更速度を調整して車速を下げる。
【0048】
これはPTO作業時に一定車速で走行中にPTO負荷によりエンジンドロップがあった場合は、最悪の場合にエンストするので、そのエンストの防止のためである。
また、トラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの前記偏差とエンジン回転数の変動を総合的に判断して(トラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの検出値にズレがあり、かつエンジン回転数が低下しているときは、負荷大と判定する。またトラニオン軸回動角度センサ30aとHST出力軸回転センサ35aの検出値にズレがあっても、エンジン回転数が低下していない場合は、負荷ではなく機械的な部材の構成によるトラブルが考えられる)、トラクタの牽引負荷とPTO負荷の変動とを両方感知してHSTトラニオン比例弁65の変更速度を調整して車速を変更する制御構成としても良い。
【0049】
こうしてPTO負荷と牽引負荷の変動を検出し、この負荷に応じて車速を下げることでエンストの防止を図ることができる。
本実施例の電子制御式のHST34では、HST34のトラニオン軸30の斜板34dの傾斜角度を低速側と高速側の2ステージ仕様に切替可能とした構成としても良い。
【0050】
図4に示すように、HST34のポンプ34a側に斜板34dがあり、斜板34dは傾斜角度を変更可能であり、一般に可変ポンプ34aという。一方、モータ34b側には一般に斜板はなく、定量モータ34bという。このように以下に述べるHST34のステージの切替機能がない定量モータ34bを用いる場合は、ステージが固定されており、この固定は機種によりいろいろ異なるため、通常は高速、高速近傍、又は高速と低速の中間などである。
【0051】
また、モータ34b側に斜板34eを設けたモータ34bを可変モータ34bという。本実施例では、モータ34b側にも斜板34eを設けて、この斜板34eを動かす制御を行うことができる構成を採用しても良い。そして、可変式としたモータ34bの出力を高速と低速の2段切り替えとしている。これを、斜板34eを有する可変モータ34bのステージ切替という。
【0052】
低速側と高速側の2ステージ仕様は、可変油圧モータ34bの斜板34eの傾斜角度を変化させることで行い、可変油圧ポンプ34aではできない。可変油圧ポンプ34aの斜板34dは、前後進ペダル15の踏み込み量に応じて、その回転角度が変化する。
【0053】
HST34の特性として、ポンプ34a側で斜板34dの傾斜角度を変更して速度を変えてもトルクは変わらず、トルクの変動はエンジン回転数が変更されたときのみ発生する。しかし、モータ34b側の斜板34eの傾斜角度を変更して速度を変えると、トルクも変わり、低速にするとトルクが大きくなり、高速にするとトルクは小さくなる。
【0054】
エンジン負荷が大きくなり、エンジン回転数が低下すると、モータ34b側の斜板34eの傾斜角度を変更してHSTステージを低速にすることにより、HST34の出力速度が低速になるとトルクが大きくなるので、エンスト防止ができ、安定した作業ができるようになる。このときポンプ34a側の斜板34dを低速側にしてもトルクが大きくならないので、安定した駆動力を得られない。
【0055】
このように可変油圧モータ34bの斜板34eの回転角度を変えて車両の走行速度を変えることでトルクが変化するが、可変油圧ポンプ34aで速度を変えてもトルクは変化しないのが油圧式無段変速装置34の特徴であり、本発明は前記HST34の特徴点を利用したものである。
【0056】
また、前記2ステージ切替用のステージ切替スイッチ72(72a,72b,72c)は
図5のブロック図に示す。低速ステージ切替スイッチ72a、高速ステージ切替スイッチ72b、ステージ自動切替スイッチ72cをそれぞれ別々のスイッチとしても良いし、図示しない1つのダイヤルスイッチで前記3種類のステージを選択できる構成としてもよい。
【0057】
ステージ自動切替スイッチ72cを選択すると、例えば負荷が作用してエンジン回転数が下がると、可変油圧モータ34bの斜板34eの回転角度を低速側(低速ステージ)に自動的に切り替えてトルク増大を図ることができる。
【0058】
また、本実施例の制御構成では高速側ステージで、車両の作業負荷又は走行負荷でエンジン回転数が低下した場合は、低速側ステージに自動切替が出来るようにステージ切替弁73(
図4参照)が設けられている。
【0059】
また、ステージ切替弁73の切り替えは走行開始前に高速か低速かを選択しておく必要があり、制御装置100が、選択されたステージで走行中にステージを自動で切り替えた方が良いと判断すると一時的に変更可能である。ただし、本実施例とは別の考えで、ステージの切り替えを全自動で行う構成もある。この場合は、車速センサ等により自動切替を行う。また、本実施例では高速ステージと低速ステージの2段のステージ切替の例を示したが、高速と低速の2段に限らず、3段、4段などとしてもよい。
【0060】
エンジン回転数が低下しており、左右両ブレーキ16,16が作動するときは、モータ34b側の斜板34eが高速側にあっても低速側に切り替えない構成とすることができる。すなわち、左右のブレーキペダル16,16が踏み込まれたことを検知するスイッチ77a,77bを左右に設けておけば、左右のブレーキペダル16,16のいずれかが踏み込まれてエンジン回転数が低下しているときは、前記HST34が高速側のステージにある場合は、前記2ステージの切り替えを行わない制御構成とする。
【0061】
オートクルーズ復帰スイッチ14dのオンによるオートクルーズ復帰中はブザー80を断続的に鳴らすこと又はオートクルーズランプ81を点滅させることで、オートクルーズ復帰中は変わる走行速度に対してオペレータに注意を促し、安全に作業ができる。
【0062】
現状の走行車両では、オートクルーズ解除をすると、オートクルーズ設定を初めからやり直さないとオートクルーズ走行は出来ない。すなわち、現状の走行車両では前後進ペダル15で速度を決めてオートクルーズ自動スイッチ14cを押すことでオートクルーズ走行速を固定させるため、常に同じ位置に前後進ペダル15をセットすることは難しいので再現性良くオートクルーズ設定が出来ない。
【0063】
しかし本実施例によれば、オートクルーズ復帰スイッチ14dのオンにより、走行速度記憶手段17に記憶された直近のオートクルーズ自動スイッチ14cのオン時における走行速度に戻す制御が行われるので車両の操作性が従来より向上する。
【0064】
本実施例の構成ではオートクルーズ復帰スイッチ14dを押し続けることで、記憶されたオートクルーズ走行速度の設定値まで走行速度を戻す制御構成と、走行速度を増速中にオートクルーズ復帰スイッチ14dを押すのを中止すると、その中止したタイミングにおける実際の走行速度に車両走行速度を固定する制御構成を制御装置100に備えている。
【0065】
こうして、前後進ペダル15で速度を決めてオートクルーズ自動スイッチ14cのオンによりオートクルーズ走行中にオートクルーズ復帰スイッチ14dを押し続けると、走行速度記憶手段17に記憶されたオートクルーズ設定値まで戻すので、オートクルーズの走行速度は元の走行速度に戻り、安定したオートクルーズ走行ができる。
【0066】
また走行速度を増速している間に、オートクルーズ復帰スイッチ14dを押すのを中止すると、その中止したタイミングにおける実際の走行速度に車両走行速度を固定することができるので、走行速度設定の任意変更が可能となり、車両の操作性が従来技術より良くなる。
【0067】
また、本実施例の構成ではオートクルーズ復帰スイッチ14dを押し続けることで、走行速度記憶手段17に記憶されたオートクルーズ設定値まで走行速度を戻す制御構成と、走行速度を増速中に、オートクルーズ復帰スイッチ14dを押すのを中止すると、その中止したタイミングにおける走行速度に車両走行速度を固定する制御構成と再びオートクルーズ復帰スイッチ14dを押し続けながら前後進ペダル15を踏むと増速し、この増速中にオートクルーズ復帰スイッチ14dを押すのを中止すると、その中止したタイミングにおける走行速度に車両走行速度を固定する制御構成を制御装置100に備えている。
【0068】
そのため、再びオートクルーズ復帰スイッチ14dを押し続けながら前後進ペダル15を踏むと増速し、この増速中にオートクルーズ復帰スイッチ14dを押すのを中止すると、その中止したタイミングにおける走行速度に車両走行速度を固定することで速度設定の任意変更が可能となる。
【0069】
また、上記構成で、オートクルーズ復帰スイッチ14dをオフにしたときの設定で、新たに走行速度記憶手段17にオートクルーズ設定値を設定する制御構成にしても良い。この場合もオートクルーズ設定値を任意に変更可能となる。
【0070】
また、上記構成で、オートクルーズ復帰スイッチ14dを押し続けることで、記憶されたオートクルーズ設定値まで戻す制御構成と、再びオートクルーズ自動スイッチ14cを押すことで増減速された設定値を走行速度記憶手段17に記憶させる構成にしても良い。
【0071】
本実施例では、耕耘装置などの作業機を走行車両に装着していない時には、前後進レバー10の後進操作で作業機が上昇するバックアップ機能をオフにする構成を採用しても良い。
【0072】
前記バックアップ機能は、作業機装着時の安全性・利便性に優れているが、作業機を装着していない時のバックアップ機能は前後進を繰り返す作業において、特に後進時に作業機昇降用の部材が不用意に作動することは利便性に欠ける。そこで作業機を取付けていない状態で前後進レバー10の後進側への操作で作業機昇降用の部材が不用意に作動しないようにしている。
【0073】
例えば、作業機の未装着時には、走行車両の前後進を繰り返すことが多いため、後進時にバックアップ機能が作動することは不便である。そこで作業機の未装着時には、バックアップ機能が作動しない設定にすることが望ましい。なお、作業機の未装着時であるか否かは本機側と作業機側を接続するハーネスのカプラ部の接点により判断できる。
【0074】
図6に操縦席9の前方にある操縦パネル9bの平面図を示す。前記バックアップ機能のオン/オフを切り替えるダイヤル式又はボタン式のバックアップスイッチ74を設けることもできる。この場合はバックアップスイッチ74をダイヤル式又はボタン式に構成することで、一度、ダイヤル又はボタン(オン・オフボタン)を選択しておけば、走行車両の始動キーをオフにした時でも、操縦者の好みに応じてバックアップ機能をオンとするかオフとするか選択可能となる。
【0075】
図7に走行車両1の前方要部の内部構造図を示すように、燃料タンク8は本走行車両の輸送時での安全確保のために燃料給油量を抑制するため、一時的なサブタンク8aを設ける。
【0076】
従来は走行車両の燃料タンク8に全ての燃料を入れていたが、走行車両をトラックなどで運搬中に発生する可能性のある不具合を防ぐために燃料残量ができるだけ燃料タンク8に存在しないようにするため、燃料タンク8内の燃料を抜いて一時的なサブタンク8a(取り外し可能)に必要分だけの燃料を貯留できるようにすることで、残量を抑えられ、安全性が従来より向上する。
【0077】
また、
図8には燃料タンク8の装着部の構造図を示すが、例えば走行車両を船積みする際などに必要な分量だけの燃料を貯留できる大きさの容積確保用の流管8bを燃料タンク8の下方にあるフィルタ8cより上方の燃料ホース8dに設ける。こうして僅かな燃料で走行車両を船積みなどすることができ、また燃料漏れなどのおそれが少なく、安全性が高まる。
【0078】
本実施例では、操縦席9から操縦者が腰を浮かしたときにエンジン5が停止する安全スイッチ(図示せず)の動作を段階的に行う構成を採用しても良い。例えば、a)腰を浮かして2秒間は何もしない、b)2秒〜5秒まで警報音を鳴らす。c)5秒経過した段階でエンジン5を停止する、さらにd)操縦席9に操縦者が着座しないとエンジン5の回転が上がらないなどの動作を順次行う構成にすると、操縦者が体を動かす場合に誤動作が生じないようにすることができる。
【0079】
前記d)操縦席9に操縦者が着座しないとエンジン5の回転が上がらない構成を採用すると、走行車両から操縦者が降りるとエンジン5が低回転となるため、作業機などの走行車両1への装着を安全に行うことができる。
【0080】
また、操縦席9から操縦者が腰を浮かしたときにエンジン5が停止する図示しない安全スイッチを一時的に解除できる解除スイッチ(図示せず)を設けておくと、解除スイッチを押した後、操縦者が立ち上がるとエンジン回転が下がるシステムとすることができる。この構成を採用する場合も走行車両から操縦者が降りるとエンジン5が低回転となるため、作業機などの走行車両1への装着を安全に行うことができる。
【0081】
また操縦席9から操縦者が腰を浮かしたときにエンジン5が停止する安全スイッチを条件付で解除できる次のような構成を採用しても良い。
a)前後進(変速)レバー10が中立であること、b)駐車ブレーキが架かっていること、c)エンジン5が低回転であることの3条件がそろった時にだけエンジン5が停止しないシステムとする。
【0082】
操縦者が車両から降りるとエンジン5が低速回転になるため、作業機等取付けを安全に行える。
本実施例の走行車両のボンネット22を前後に分割し、後方のフードを左右に分割して左右一対の左右フード22a,22aと該左右一対のフード22a,22aの前端部を覆う前方フード22bと基礎フード22cを左右フード22a,22a上でオーバーラップさせ、ボルト22dで固定してオーバーラップ部分で位置を規制して固定した構成を採用しても良い。
【0083】
図9(a)と
図9(b)は、ボンネット22形成用の左右一対のフード22a,22aと前方フード22bと基礎フード22cの段差を設け、該段差部分に前方フード22bの前方部を重ねて基礎フード22cの後方部を覆う構成からなる要部断面図と要部平面図であり、これらフード22a〜22cの組み付け時に位置が規制されるため組み付けミスがなくなり、部品合わせ面がきれいに仕上がる。また部品の組み付け誤差による段差の幅の違いを目立たなくさせることができる。