(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958378
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年7月27日
(54)【発明の名称】音声信号処理装置、音声信号処理装置の制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H03G 5/16 20060101AFI20160714BHJP
G10H 1/00 20060101ALI20160714BHJP
G10L 25/51 20130101ALI20160714BHJP
H03G 5/02 20060101ALI20160714BHJP
G10K 15/04 20060101ALI20160714BHJP
【FI】
H03G5/16 165
G10H1/00 B
G10L25/51 300
H03G5/02 025
G10K15/04 302F
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-27014(P2013-27014)
(22)【出願日】2013年2月14日
(65)【公開番号】特開2014-158103(P2014-158103A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】710014351
【氏名又は名称】オンキヨー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】特許業務法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉野 肇
(72)【発明者】
【氏名】大竹 将知
【審査官】
及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2009/0080675(US,A1)
【文献】
特開2005−136647(JP,A)
【文献】
特開平11−17480(JP,A)
【文献】
特開平4−362804(JP,A)
【文献】
特開2008−205522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03G 5/00−99/00
H03G 1/00−3/34
G10H 1/00
G10K 15/04
G10L 25/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された音声信号の第1の周波数帯域成分を抽出する抽出部と、
抽出した前記音声信号のアタック期間を検出するアタック期間検出部と、
前記アタック期間検出部で検出されたアタック期間において、入力された前記音声信号の第2の周波数帯域成分(但し、第1の周波数帯域成分≠第2の周波数帯域成分)を増幅する増幅部と、を備えたことを特徴とする音声信号処理装置。
【請求項2】
前記第1の周波数帯域成分は、低周波数帯域成分であり、前記第2の周波数帯域成分は、中高周波数帯域成分であることを特徴とする請求項1に記載の音声信号処理装置。
【請求項3】
前記アタック期間検出部は、
抽出した前記音声信号を第1の時定数の第1バンドパスフィルタに通した出力値と、前記第1の時定数より大きい第2の時定数の第2バンドパスフィルタに通した出力値と、に基づいて、前記アタック期間を検出することを特徴とする請求項1または2に記載の音声信号処理装置。
【請求項4】
前記アタック期間検出部は、
前記第1バンドパスフィルタの出力値から前記第2バンドパスフィルタの出力値を差し引いた値が0以上となる期間を、前記アタック期間として検出することを特徴とする請求項3に記載の音声信号処理装置。
【請求項5】
前記増幅部は、
抽出した前記音声信号の信号レベルに応じて、前記第2の周波数帯域成分を増幅することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の音声信号処理装置。
【請求項6】
入力された音声信号の第1の周波数帯域成分を抽出する抽出ステップと、
抽出した前記音声信号のアタック期間を検出するアタック期間検出ステップと、
前記アタック期間検出ステップで検出されたアタック期間において、入力された前記音声信号の第2の周波数帯域成分(但し、第1の周波数帯域成分≠第2の周波数帯域成分)を増幅する増幅ステップと、を実行することを特徴とする音声信号処理装置の制御方法。
【請求項7】
コンピューターに、請求項6に記載の音声信号処理装置の制御方法における各ステップを実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された音声信号のうち、特定の周波数帯域成分を強調する音声信号処理装置、音声信号処理装置の制御方法およびプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、ベースやドラムなど所望の音楽成分を選択して周波数特性を調整する周波数特性調整装置が知られている。例えば特許文献1には、ベースやドラムの音楽成分が存在する100Hz以下のレベルを検出する第1検出手段と、ボーカルやリードギターの音楽成分が存在する100Hz以上のレベルを検出する第2検出手段と、第1検出手段および第2検出手段により検出された検出レベルの比に応じて、100Hz以下の周波数特性を調整する制御手段と、を備えた周波数特性調整装置が開示されている。この構成により、周波数特性を調整したいベースやドラムの音楽成分が比較的大きいときは、低域のブースト量が上がり、周波数特性を調整したくないボーカルやリードギターの音楽成分が比較的大きいときは低域のブースト量が下がるため、ユーザーの意に反して、ベースやドラムと同時にボーカルやリードギターまで強調されてしまうなどの不具合を解消している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−17480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的にバスドラム(キック)等の低音を強調しようとする場合、上記の周波数特性調整装置のように、100Hz以下の低域成分を増幅して強調する方法がとられる。しかしながら、バスドラムのアタック期間(マレットが打面に当たった瞬間を開始点とした数十msecの期間)には、中高域の高い周波数成分が含まれている。このため、上記の周波数特性調整装置のように、バスドラム音を強調するために100Hz以下の低域だけを増幅した場合、低音の迫力はでるが、相対的にアタック音が小さく感じられ、アタック感のない、はっきりしない音になってしまう。これを解決するために、中高域の音楽成分も増幅することが考えられるが、一般的に中高域には他の楽器の音楽成分が含まれているため、単純に中高域を増幅すると他の楽器音も強調されてしまい、アタック音の強調効果が薄れてしまう。つまり、従来の技術では、バスドラム音など、比較的広い帯域の音楽性分を有するような楽器音を、他の楽器音に影響を与えることなく、且つバランス良く強調することが困難であった。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑み、特定の楽器音を、他の楽器音に影響を与えることなく、且つバランス良く強調することが可能な音声信号処理装置、音声信号処理装置の制御方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の音声信号処理装置は、入力された音声信号の第1の周波数帯域成分を抽出する抽出部と、抽出した音声信号のアタック期間を検出するアタック期間検出部と、アタック期間検出部で検出されたアタック期間において、入力された音声信号の第2の周波数帯域成分(但し、第1の周波数帯域成分≠第2の周波数帯域成分)を増幅する増幅部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の音声信号処理装置の制御方法は、入力された音声信号の第1の周波数帯域成分を抽出する抽出ステップと、抽出した音声信号のアタック期間を検出するアタック期間検出ステップと、アタック期間検出ステップで検出されたアタック期間において、入力された音声信号の第2の周波数帯域成分(但し、第1の周波数帯域成分≠第2の周波数帯域成分)を増幅する増幅ステップと、を実行することを特徴とする。
【0008】
上記の音声信号処理装置において、第1の周波数帯域成分は、低周波数帯域成分であり、第2の周波数帯域成分は、中高周波数帯域成分であることを特徴とする。
【0009】
本発明の構成によれば、入力された音声信号の第1の周波数帯域成分のアタック期間を検出し、当該アタック期間において、第1の周波数帯域成分とは異なる第2の周波数帯域成分を増幅するため、例えばバスドラム音を強調したい場合、低周波数帯域成分のアタック期間において、中高周波数帯域成分を増幅することで、他の楽器音に影響を与えることなく、バスドラムのアタック音を強調することができる。また、第2の周波数帯域成分(中高周波数帯域成分)の増幅と共に、第1の周波数帯域成分(低周波数帯域成分)を増幅することで(例えば、イコライザー等による増幅を行うことで)、バスドラム音をバランス良く強調することができる。
なお、第1の周波数帯域成分と第2の周波数帯域成分は、少なくとも範囲の一部が異なれば良い。言い換えれば、第1の周波数帯域成分と第2の周波数帯域成分の一部が重複していても構わない。
また本発明は、バスドラムだけでなく、他の打楽器、または打楽器以外の楽器のアタック音を強調する処理にも適用可能である。ここで「アタック音」とは、楽器の鳴り始めの突発的・衝撃的な音を指す。また、「アタック期間」とは、楽器音の鳴り始めから、特定の周波数帯域成分が一定の値まで下がるまでの期間を指す。
また、アタック期間の検出は、第1の周波数帯域成分のアタック時点(アタック期間の開始点)のみを検出し、アタック時点から一定期間を、アタック期間として規定しても良い。
【0010】
上記の音声信号処理装置において、アタック期間検出部は、抽出した音声信号を第1の時定数の第1バンドパスフィルタに通した出力値と、第1の時定数より大きい第2の時定数の第2バンドパスフィルタに通した出力値と、に基づいて、アタック期間を検出することを特徴とする。
【0011】
本発明の構成によれば、例えば振幅エンベロープを閾値と比較し、閾値を超えた時点から溯って極小値を探索し、その位置をアタック時点とするような既知の方法と比較し、アタック期間を正確に検出することができる。つまり、既知の方法では、絶対的な閾値との比較になるため、音声信号の信号レベルがその値を超えない場合、アタック期間を検出することができないが、本発明では、時定数の異なる2種類のバンドパスフィルタを用いてアタック期間を検出するため、信号レベルに影響されることなくアタック期間を確実に検出することができる。
なお、バスドラムのアタック期間を検出する場合は、バンドパスフィルタとしてローパスフィルタを用いることが好ましい。
【0012】
上記の音声信号処理装置において、アタック期間検出部は、第1バンドパスフィルタの出力値から第2バンドパスフィルタの出力値を差し引いた値が0以上となる期間を、アタック期間として検出することを特徴とする。
【0013】
本発明の構成によれば、2種類のバンドパスフィルタの出力値から得られる振幅エンベロープの立ち上がりおよび立ち下がりのタイミングの違いを利用して、容易且つ正確にアタック期間を検出することができる。
【0014】
上記の音声信号処理装置において、増幅部は、抽出した音声信号の信号レベルに応じて、第2の周波数帯域成分を増幅することを特徴とする。
【0015】
本発明の構成によれば、例えばバスドラム音を強調したい場合など、バスドラム音が大きい部分では強調度を高く、バスドラム音が小さい部分では強調度を低くするため、不要なタイミングでバスドラム音が強調されることを防ぐことができる。
【0016】
本発明のプログラムは、コンピューターに、上記の音声信号処理装置の制御方法における各ステップを実行させることを特徴とする。
【0017】
このプログラムを用いることにより、特定の楽器音を、他の楽器音に影響を与えることなく、且つバランス良く強調することが可能な音声信号処理装置の制御方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る再生システムの構成図である。
【
図3】バスドラムの音声信号波形と、バスドラムのアタック期間の関係を示す図である。
【
図6】
図4に、第1LPFおよび第2LPFの出力波形を重畳した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る音声信号処理装置、音声信号処理装置の制御方法およびプログラムについて、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る再生システムSYの構成図である。再生システムSYは、音源1、音声信号処理部2、パワーアンプ3およびスピーカー4から成る。なお、同図では簡略化のため、LR(左信号および右信号)の2チャンネルを1本の線で示している。また、請求項における「音声信号処理装置」は、音声信号処理部2に相当する。
【0020】
音源1は、音声信号処理部2に対して音声信号を供給するものであり、各種記憶媒体(CD、SDカード、USBメモリ等)、各種電子機器(オーディオプレーヤー、パーソナルコンピューター、タブレット端末、携帯電話等)、各種サーバー(Web上のサーバー、LANネットワーク上のサーバー等)に相当する。
【0021】
音声信号処理部2は、音源1から供給された音声信号に対し、各種音声処理を行う。特に本実施形態では、バスドラム音の強調処理を行うことにより、ビートの効いた楽曲再生を実現する。また、バスドラム音の強調にあたり、低周波数帯域成分(第1の周波数帯域成分)と中高周波数帯域成分(第2の周波数帯域成分)に分けて音声処理を行う。詳細については、後述する。
【0022】
パワーアンプ3は、音声信号処理部2による処理後の音声信号を増幅し、スピーカー4を駆動する。また、スピーカー4は、パワーアンプ3の駆動により、音声信号を出力する。なお、パワーアンプ3は、スピーカー4に内蔵しても良い。また、音声信号処理部2は、DSP(Digital Signal Processor)などのソフトウェアによって実現しても良いし、アナログ機器によって実現しても良い。また、スピーカー4に代えて、ヘッドフォンやイヤフォンを用いても良い。
【0023】
また、本実施形態の再生システムSYは、バスドラム音の強調ニーズの高いDJスピーカー、DJミキサー、DJプレーヤー等のDJ機器に好適であるが、他の再生システム(ミニコンポ、ヘッドフォンアンプ等)にも適用可能である。
【0024】
次に、
図2を参照し、音声信号処理部2の構成について説明する。音声信号処理部2は、低域強調処理部10およびアタック強調処理部20を含む。なお、同図においても、LRの2チャンネルを1本の線で示している。
【0025】
低域強調処理部10は、イコライザーを用いた強調処理など、既知の方法により、バスドラム音の低周波数帯域成分を強調する。一方、アタック強調処理部20は、バスドラムのアタック音が鳴るアタック期間において、中高周波数帯域成分(中域および高域の周波数帯域成分)を強調する。つまり、中高周波数帯域成分についてはアタック期間のみ強調し、低周波数帯域成分については、アタック期間に関係なく強調する。これにより、他の楽器音に影響を与えることなく、且つバランス良くバスドラム音を強調することができる。
【0026】
ここで、「アタック音」とは、バスドラムのマレットが打面に当たった瞬間の音を指す。また、「アタック期間」とは、バスドラム音の鳴り始めから、バスドラム音の中高周波数帯域成分が一定の値に下がるまでの期間を指す。
【0027】
図3は、バスドラムの音声信号波形と、バスドラムのアタック期間の関係を示す図である。また、
図4は、
図3の一部を時間方向に拡大した図である。両図において、横軸は、時間を示し、縦軸は、音声信号の振幅(ゲイン)を示している。また、音声信号波形に重畳表示された符号L0(図示、太実線)は、バスドラムのアタック期間、すなわちバスドラムのアタック音が強調されるタイミングを示している。当該符号L0の波形は、アタック強調処理部20内で、低周波数帯域成分を解析することにより生成され(バスドラム音検出部22,
図5参照)、後述する可変増幅器43a,43b(中高域足し込み部24,
図5参照)のゲインとして用いられる。このように、アタック強調処理部20では、低周波数帯域成分からバスドラム音のアタック期間を検出し、そのアタック期間ごとに中高周波数帯域成分を強調する。
【0028】
図5は、アタック強調処理部20の回路構成図である。同図に示すように、アタック強調処理部20は、LR加算器21、バスドラム音検出部22、ディレイ部23および中高域足し込み部24を備えている。
【0029】
LR加算器21は、L信号とR信号を加算し、モノラル信号を出力する。また、バスドラム音検出部22は、音声信号処理部2に入力された音声信号の低周波数帯域成分を解析し、アタック期間を検出する(符号L0の波形を生成する)。また、中高域足し込み部24は、バスドラム音検出部22により検出されたアタック期間において、中高周波数帯域成分を強調する。また、ディレイ部23は、中高域足し込み部24の処理に対するバスドラム音検出部22の処理遅延を補正する。
【0030】
ここで、バスドラム音検出部22について詳細に説明する。バスドラム音検出部22は、バスドラム音検出用の第3LPF(ローパスフィルタ)31、ABS32、時定数1の第1LPF33(第1バンドパスフィルタ)、時定数2の第2LPF34(第2バンドパスフィルタ)、減算器35、第1リミッタ36、可変増幅器37および第2リミッタ38を備えている。
【0031】
バスドラム音検出部22では、まずLR加算器21から出力された音声信号を、第3LPF31により、バスドラム帯域(例えば、100Hz以下)に制限する。そして、ABS32で絶対値を算出した後、時定数の異なる2種類のLPF33,34を施すことにより、2種類の出力波形を得る。
図6は、この2種類の出力波形(振幅エンベロープ)を、
図4に重畳した図である。
図6において、符号L1(図示、細点線)は、第1LPF33の出力波形を示し、符号L2(図示、細実線)は、第2LPF34の出力波形を示している。
【0032】
また、第1LPF33の時定数1は、第2LPF34の時定数2よりも小さいことを条件とする。この場合、
図6に示すように、バスドラムが鳴った瞬間のような急峻な立ち上がりの部分において、時定数が大きい第2LPF34の出力波形(符号L2)よりも、時定数が小さい第1LPF33の出力波形(符号L1)の方が早く立ち上がる。その後、バスドラム音の余韻が小さくなっていくにしたがって、いずれの出力波形も下りに転じるが、この立ち下がりの部分においても、時定数が大きい第2LPF34の出力波形(符号L2)より、時定数が小さい第1LPF33の出力波形(符号L1)の方が早く小さくなっていく。このように、時定数の違いにより、第1LPF33の出力波形(符号L1)が第2LPF34の出力波形(符号L2)より大きくなる期間が発生する。後段の減算器35では、それらの差異を検出する。つまり、第1LPF33の出力値≧第2LPF34の出力値となる期間(第1LPF33の出力値が第2LPF34の出力値以上となる時点を開始点とし、その後第1LPF33の出力値が第2LPF34の出力値未満となる時点を終了点とした期間)を、アタック期間として検出する。なお、減算器35は、デシベル換算での減算を行う。
【0033】
また、
図5に示すように、後段の第1リミッタ36では、減算器35の出力値x1が負の値となったとき、0にリミッティングする。さらに、後段の可変増幅器37では、第1リミッタ36の出力値を、低周波数帯域成分の信号レベルに応じて増幅する。ここで信号レベルは、第1LPF33の出力値を用いる。つまり、可変増幅器37では、第1LPF33の出力レベルで、第1LPF33と第2LPF34の差異を示す信号の増幅量を制御する。これにより、バスドラム音が大きいほどアタック期間の強調量が大きく、バスドラム音が小さいほどアタック期間の強調量が小さくなる。
【0034】
例えば、バスドラムが鳴っておらず、バスドラムと同じ低周波数帯域成分のベースギターのレベル変動があるような場合は、中高周波数帯域成分の足し込みを行いたくない。一般的にベースギターの波形の振幅はバスドラムより小さいので、この可変増幅器37により抑圧され、中高周波数帯域成分は殆ど強調されなくなる。つまり、バスドラムのような大きな音が入力された時のみ強調され、結果的にバスドラムを選択して増幅するような動作となる。その結果、後述する中高域足し込み部24により、不要なタイミングで中高周波数帯域成分を足し込んでしまう弊害をなくすことができる。その後、後段の第2リミッタ38では、可変増幅器37の出力値x2の最大値を、所定の値βにリミッティングする。これは、楽曲による効果のバラツキを抑えるためである。
【0035】
次に、中高域足し込み部24について説明する。中高域足し込み部24は、時定数が同じ2つのLPF41(第4LPF41aおよび第5LPF41b)、時定数が同じ2つのHPF(ハイパスフィルタ)42(第1HPF42aおよび第2HPF42b)、2つの可変増幅器43(可変増幅器43aおよび可変増幅器43b)および2つの加算器45(加算器45aおよび加算器45b)を備えている。
【0036】
第4LPF41aおよび第1HPF42aでは、L信号の中高周波数帯域成分を抽出する。同様に、第5LPF41bおよび第2HPF42bでは、R信号の中高周波数帯域成分を抽出する。可変増幅器43aおよび可変増幅器43bは、抽出されたL信号およびR信号の中高周波数帯域成分をそれぞれ増幅する。これら可変増幅器43a,43bは、バスドラム音検出部22の出力レベルで増幅量を制御する。つまり、
図4,
図6に示す符号L0の波形に基づき、その値が0でない、山形になっているアタック期間だけ、入力された音声信号の中高周波数帯域成分を増幅する。これにより、バスドラムのアタック音に同期した強調を行うことができる。
【0037】
そして、後段の加算器45aおよび加算器45bでは、増幅されたL信号およびR信号の中高周波数帯域成分を、それぞれ元の信号(L信号およびR信号)に加算する。なお、元の信号は、ディレイ部23によりディレイ調整されている。つまり、ディレイ部23では、バスドラム音検出部22により検出されたアタック期間が、実際強調したいバスドラム音の中高周波数帯域成分が存在している期間より若干遅い時間位置になることを補正すべく、元の信号に対して遅延処理を行う。なお、
図4,
図6の符号L0の波形は、実際の時間軸上における強調タイミングに合わせ、このディレイ分左側にシフトして図示している。そして、加算器45a,45bでは、遅延処理後の元の信号に、増幅された中高周波数帯域成分を足し込む。
【0038】
なお、請求項における「抽出部」は、バスドラム音検出部22の第3LPF31を主要部とする。また、請求項における「アタック期間検出部」は、バスドラム音検出部22の第1LPF33、第2LPF34および減算器35を主要部とする。さらに、請求項における「増幅部」は、バスドラム音検出部22の可変増幅器37および第2リミッタ38、並びに中高域足し込み部24の可変増幅器43a,43bを主要部とする。
【0039】
以上説明したとおり、本実施形態のアタック強調処理部20は、入力された音声信号の低周波数帯域成分の解析結果から検出されたアタック期間に対して中高周波数帯域成分を増幅するため、アタック期間のみ、中高周波数帯域成分を増幅することができる。つまり、バスドラム音の強調処理の一部として、バスドラムのアタックごとに中高周波数帯域成分を増幅するため、他の楽器音に影響を与えることなくアタック音を強調することができる。また、アタック強調処理部20による処理と共に、低域強調処理部10による低周波数帯域成分の強調処理を行うため、バスドラム音をバランス良く強調することができる。
【0040】
また、アタック強調処理部20では、時定数の異なる2種類のLPF33,34を用いてアタック期間を検出するため、入力された音声信号の信号レベルに影響されることなく、正確なアタック期間を検出することができる。また、中高周波数帯域成分の増幅は、低周波数帯域成分の信号レベルに応じて利得を変化させるため、不要なタイミングで中高周波数帯域成分を足しこんでしまう弊害を防止できる。このように、アタック期間については、信号レベルに関係なく検出し、中高周波数帯域成分の増幅量に関しては、信号レベルに応じて可変することにより、バスドラムのアタック感をより効果的に強調できる。また、アタック期間の検出、中高周波数帯域成分の増幅量制御のいずれについても、中高周波数帯域成分の解析を必要としない(中高周波数帯域成分の音声信号からアタック期間を検出したり、中高周波数帯域成分の信号レベルに応じて増幅量を制御したりしない)点も、本実施形態の特徴である。
【0041】
なお、以下の変形例を採用可能である。例えば、上記の実施形態では、バスドラム音を強調する場合を例示したが、他の打楽器音、または打楽器以外の楽器音を強調する処理にも適用可能である。また、この場合、アタック期間を検出する帯域(第1の周波数帯域成分)は、低周波数帯域成分に限らない。また、増幅の対象となる帯域(第2の周波数帯域成分)も中高周波数帯域成分に限らない。つまり、楽器音によっては、中高周波数帯域成分の解析結果からアタック期間を検出し、当該アタック期間のみ低周波数帯域成分を増幅する、などの処理も考えられる。但し、バスドラム音の場合など楽器音によっては、アタック期間を検出する帯域と、増幅の対象となる帯域と、が重ならないように(第1の周波数帯域成分と第2の周波数帯域成分が分離するように)設定されることが好ましい。
【0042】
また、更なる変形例として、楽器音によっては、第1の周波数帯域成分と第2の周波数帯域成分の一部が重複するように設定しても良い。また、第1の周波数帯域成分と第2の周波数帯域成分の帯域を、強調する楽器音ごとに、ユーザーが設定・変更可能としても良い。
【0043】
また、上記の実施形態では、バスドラム音検出部22においてアタック期間の開始点および終了点を検出したが、アタック時点(アタック期間の開始点)のみを検出しても良い。また、この場合、検出したアタック時点から一定期間を、アタック期間として規定しても良い。
【0044】
また、上記の実施形態では、LR加算器21によりL信号とR信号を加算して、バスドラム音検出部22による検出を行ったが、LR信号を個別に処理し、アタック期間の検出を行っても良い。この場合、中高域足し込み部24では、対応するチャンネルの中高周波数帯域成分を足し込むこととなる。
【0045】
また、上記の実施形態では、中高域足し込み部24において、LPF41とHPF42により抽出した中高周波数帯域成分を利得制御して原信号(元の信号)に足し込む方法を例示したが、イコライザーにより中高周波数帯域成分の利得を制御する方法を用いても良い。
【0046】
また、上記の実施形態では、アタック強調処理部20において、ディレイ部23を備えた構成を例示したが、ディレイ部23を省略しても良い。この場合、遅延量が小さくなるように、第1LPF33および第2LPF34の時定数を調整することが好ましい。
【0047】
また、上記の実施形態では、
図2に示したように、低域強調処理とアタック強調処理を個別に行うものとしたが、同じ処理回路内で強調処理を行っても良い。例えば、アタック強調処理部20のディレイ部23と中高域足し込み部24の間で、低域強調処理を行っても良い(
図5参照)。
【0048】
また、上記の実施形態および変形例に示した再生システムSY(特に、音声信号処理部2)の各構成要素および各処理工程をプログラムとして提供することが可能である。また、そのプログラムを各種記憶媒体(CD−ROM、フラッシュメモリ等)に格納して提供することも可能である。すなわち、再生システムSYの各構成要素または各処理工程を実現するためのプログラム、およびそれを記録した記憶媒体も、本発明の権利範囲に含まれる。
【0049】
また、上記の実施形態および変形例では、音声信号処理部2(請求項における「音声信号処理装置」)を、再生システムSYに適用した場合を例示したが、再生専用装置に限らず、パーソナルコンピューター、タブレット端末、携帯電話またはカーナビゲーション装置など、他の電子機器に適用しても良い。また、音声信号処理部2をWeb上のサーバーやLANネットワーク上のサーバーで実現するなど、クラウドコンピューティングに適用しても良い。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…音源 2…音声信号処理部 3…パワーアンプ 4…スピーカー 10…低域強調処理部 20…アタック強調処理部 21…LR加算器 22…バスドラム音検出部 23…ディレイ部 24…中高域足し込み部 31…第3LPF 32…ABS 33…第1LPF 34…第2LPF 35…減算器 36…第1リミッタ 37…可変増幅器 38…第2リミッタ 41a…第4LPF 41b…第5LPF 42a…第1HPF 42b…第2HPF 43…可変増幅器 45…加算器 SY…再生システム