(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958453
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】無線局識別装置、無線局識別方法および無線局識別プログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 17/10 20150101AFI20160719BHJP
【FI】
H04B17/10 200
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-249988(P2013-249988)
(22)【出願日】2013年12月3日
(65)【公開番号】特開2015-109489(P2015-109489A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2013年12月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】本田 善郎
【審査官】
野元 久道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−044937(JP,A)
【文献】
特開2009−020459(JP,A)
【文献】
社本 道雄 Michio SHAMOTO,鳴き真似の分析と認識に関する研究 Analysis and Recognition of Human's Imitation,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.91 No.513 ,日本,社団法人電子情報通信学会 ,1992年 3月13日,第91巻,P.63-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各無線局からの無線信号を変換して得られる信号の立ち上がり時または立ち下がり時における周波数変動波形が示す特徴ベクトル波形を教師データとしてあらかじめ登録したデータベース部を備えて無線局を識別する処理を行う無線局識別装置であって、
受信した無線信号を発信している無線局を識別する際に、識別対象の無線局からの該無線信号の受信周波数と、該無線信号における前記特徴ベクトル波形から生成された絞り込みパラメータと、をインデックスに用いることにより、前記データベース部に登録されている前記教師データの中から、照合対象とする教師データを絞り込んで抽出し、
識別対象の無線局から受信した無線信号の前記特徴ベクトル波形を、抽出した前記教師データと順次照合して、抽出した前記教師データとの波形類似度を算出した結果に基づいて、識別対象の無線局を同定し、
前記絞り込みパラメータによりインデックスして前記データベース部から照合対象とする前記教師データを抽出する際に、前記データベース部のインデックスの区分を、前記絞り込みパラメータの±X(X:任意の実数)の範囲内に含まれる教師データを検索対象とするものとして設定し、
前記絞り込みパラメータの大きさは、前記教師データに対応する教師ベクトル波形の周波数変動の度合に対応している
ことを特徴とする無線局識別装置。
【請求項2】
前記絞り込みパラメータとして、識別対象の無線局から受信した無線信号の前記特徴ベクトル波形を時間軸上でm区間(m:正整数)に分割した各区間における周波数の2乗値をm区間分で平均した値で与えられる波形平均エネルギーを用いることを特徴とする請求項1に記載の無線局識別装置。
【請求項3】
前記絞り込みパラメータとして、識別対象の無線局から受信した無線信号の前記特徴ベクトル波形を時間軸上でm区間(m:正整数)に分割した各区間における周波数の2乗値の包絡線の値をm区間分で平均した値で与えられる波形平均包絡線を用いることを特徴とする請求項1に記載の無線局識別装置。
【請求項4】
前記データベース部に登録される前記教師データを、前記無線局から受信した無線信号から得られる複数の前記特徴ベクトル波形同士を平均化して生成されたベクトル波形とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の無線局識別装置。
【請求項5】
各無線局からの無線信号を変換して得られる信号の立ち上がり時または立ち下がり時における周波数変動波形が示す特徴ベクトル波形を教師データとしてあらかじめ登録したデータベース部を用いて無線局を識別する処理を行う無線局識別方法であって、受信した無線信号を発信している無線局を識別する際に、識別対象の無線局からの該無線信号の受信周波数と、該無線信号における前記特徴ベクトル波形から生成された絞り込みパラメータと、をインデックスに用いることにより、前記データベース部に登録されている前記教師データの中から、照合対象とする教師データを絞り込んで抽出し、識別対象の無線局から受信した無線信号の前記特徴ベクトル波形を、抽出した前記教師データと順次照合して、抽出した前記教師データとの波形類似度を算出した結果に基づいて、識別対象の無線局を同定し、前記絞り込みパラメータによりインデックスして前記データベース部から照合対象とする前記教師データを抽出する際に、前記データベース部のインデックスの区分を、前記絞り込みパラメータの±X(X:任意の実数)の範囲内に含まれる教師データを検索対象とするものとして設定し、
前記絞り込みパラメータの大きさは、前記教師データに対応する教師ベクトル波形の周波数変動の度合に対応している
ことを特徴とする無線局識別方法。
【請求項6】
前記絞り込みパラメータとして、識別対象の無線局から受信した無線信号の前記特徴ベクトル波形を時間軸上でm区間(m:正整数)に分割した各区間における周波数の2乗値をm区間分で平均した値で与えられる波形平均エネルギーを用いることを特徴とする請求項5に記載の無線局識別方法。
【請求項7】
前記絞り込みパラメータとして、識別対象の無線局から受信した無線信号の前記特徴ベクトル波形を時間軸上でm区間(m:正整数)に分割した各区間における周波数の2乗値の包絡線の値をm区間分で平均した値で与えられる波形平均包絡線を用いることを特徴とする請求項5に記載の無線局識別方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれかに記載の無線局識別方法を、コンピュータによって実行可能なプログラムとして実施していることを特徴とする無線局識別プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線局識別装置、無線局識別方法および無線局識別プログラムに関し、特に、高速かつ高精度に無線局を識別することを可能にする無線局識別装置、無線局識別方法および無線局識別プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線局を識別する無線局識別装置において、通常、無線局からの無線信号を受信し、該無線信号の特徴波形ベクトルを検出する都度、あらかじめデータベース化して保持している識別対象の全ての教師データ(無線局を特定することができる波形ベクトル)と類似度計算を行い、類似度が高い教師データを識別結果として出力する。そのため、対象の教師データの数だけ類似度計算を繰り返すことが必要であり、識別結果を短時間に出力するためには、類似計算を行う対象の教師データ数をあらかじめ絞り込んでおくことが重要になる。
【0003】
しかし、インデックスに用いるパラメータや絞り込む細かさに依存して、無線局の見逃しなどが起こり、識別精度の悪化を招くおそれがあるため、識別精度を悪化させずに、教師データ数を細かく絞り込むことができるパラメータの選定が課題になっていた。
【0004】
このため、例えば、特許文献1の特許第4760967号公報「無線局識別装置、無線局識別方法、無線局識別プログラム」においては、未知の無線局における特徴ベクトル波形と、データベースに登録された既知の無線局における特徴ベクトル波形(教師データ)との類似度算出において、受信周波数および測定時刻をインデックスとして用いて、前記データベースから識別対象の教師データを絞り込み、該識別対象の教師データについて類似度を算出することによって、識別精度の向上や識別処理の迅速化を図ることを可能にする技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4760967号公報(第9−11頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1のように、測定時刻による絞り込みを行う場合、無線局の経年劣化の影響を除くために、識別対象を過去数年以内の教師データに限定するといった利用は可能になるものの、きめ細かな詳細な絞り込みを行うことは困難であるという問題があった。
【0007】
また、受信周波数による絞り込みについては、同じ無線局であっても、複数の周波数チャネルを選択することができることから、絞り込む受信周波数を細かく設定していくと、異なるチャネルで出現した無線局を見逃してしまうなど、受信周波数だけを用いる絞り込みには限界があるという問題があった。
【0008】
(本発明の目的)
本発明は、以上のような問題を解決するためになされたものであり、きめ細かな教師データの絞り込みを可能にし、高速かつ高精度な無線局の識別を可能にする無線局識別装置、無線局識別方法および無線局識別プログラムを提供することを、その目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するため、本発明による無線局識別装置、無線局識別方法および無線局識別プログラムは、主に、次のような特徴的な構成を採用している。
【0010】
(1)本発明による無線局識別装置は、各無線局からの無線信号を変換して得られる信号の立ち上がり時または立ち下がり時における周波数変動波形が示す特徴ベクトル波形を教師データとしてあらかじめ登録したデータベース部を備えて無線局を識別する処理を行う無線局識別装置であって、受信した無線信号を発信している無線局を識別する際に、識別対象の無線局からの該無線信号の受信周波数と、該無線信号における前記特徴ベクトル波形から生成された絞り込みパラメータと、をインデックスに用いることにより、前記データベース部に登録されている前記教師データの中から、照合対象とする教師データを絞り込んで抽出し、識別対象の無線局から受信した無線信号の前記特徴ベクトル波形を、抽出した前記教師データと順次照合して、抽出した前記教師データとの波形類似度を算出した結果に基づいて、識別対象の無線局を同定することを特徴とする。
【0011】
(2)本発明による無線局識別方法は、各無線局からの無線信号を変換して得られる信号の立ち上がり時または立ち下がり時における周波数変動波形が示す特徴ベクトル波形を教師データとしてあらかじめ登録したデータベース部を用いて無線局を識別する処理を行う無線局識別方法であって、受信した無線信号を発信している無線局を識別する際に、識別対象の無線局からの該無線信号の受信周波数と、該無線信号における前記特徴ベクトル波形から生成された絞り込みパラメータと、をインデックスに用いることにより、前記データベース部に登録されている前記教師データの中から、照合対象とする教師データを絞り込んで抽出し、識別対象の無線局から受信した無線信号の前記特徴ベクトル波形を、抽出した前記教師データと順次照合して、抽出した前記教師データとの波形類似度を算出した結果に基づいて、識別対象の無線局を同定することを特徴とする。
【0012】
(3)本発明による無線局識別プログラムは、前記(2)に記載の無線局識別方法を、コンピュータによって実行可能なプログラムとして実施していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の無線局識別装置、無線局識別方法および無線局識別プログラムによれば、以下のような効果を奏することができる。
【0014】
第1の効果は、受信周波数と絞り込みパラメータとのインデックスを用いることにより、データベース部の教師データの中から、無線局が出力する無線信号(特徴ベクトル波形)との類似度を算出するための識別対象の教師データを絞り込むことができることである。而して、データベース部に大量の教師データが登録されている場合であっても、無線局の識別処理を短時間にかつ高い精度で実施することができる。
【0015】
第2の効果は、受信周波数と絞り込みパラメータとのインデックスを用いることにより、識別対象の教師データを絞り込むことによって、無線局が出力する無線信号(特徴ベクトル波形)との類似度を算出するための処理時間が短縮され、さらには、算出処理にかかる負荷を軽減することができることである。而して、無線局の同定処理に安価なコンピュータを利用することができ、安価な無線局識別装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による無線局識別装置の内部構成の一例を示すブロック構成図である。
【
図2】特徴ベクトル波形抽出部において抽出された特徴ベクトル波形の一例を示す波形図である。
【
図3】データベース部に格納される教師データのデータ構造の一例を示す説明図である。
【
図4】或る受信周波数と絞り込みパラメータとにおけるデータベース部の教師データの登録例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明による無線局識別装置、無線局識別方法および無線局識別プログラムの好適な実施形態について添付図を参照して説明する。なお、以下の説明においては、本発明による無線局識別装置および無線局識別方について説明するが、かかる無線局識別方法をコンピュータにより実行可能な無線局識別プログラムとして実施するようにしても良いし、あるいは、無線局識別プログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録するようにしても良いことは言うまでもない。また、以下の各図面に付した図面参照符号は、理解を助けるための一例として各要素に便宜上付記したものであり、本発明を図示の態様に限定することを意図するものではないことも言うまでもない。
【0018】
(本発明の特徴)
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の特徴についてその概要をまず説明する。本発明は、無線局から受信した無線信号を変換して得られる信号の信号立ち上がり時(OFF→ON切り替えの瞬間)または信号立ち下がり時(ON→OFF切り替えの瞬間)における周波数変動波形(以下、特徴ベクトル波形と称する)を特徴として登録したデータベース部を備えて無線局を識別する処理を行う無線局識別装置において、前記特徴ベクトル波形に応じて教師データの絞り込みを行うことによって、データベース部に大量データが登録されている場合であっても、短時間に、かつ、正確に、無線局の識別結果を出力することを可能にすることを主要な特徴としている。
【0019】
より具体的には、本発明は、無線局から受信した無線信号の受信周波数と、該無線信号に関する特徴ベクトル波形から算出される波形平均エネルギーや波形平均包絡線などの絞り込みパラメータとを、データベース部の検索用のインデックスに用いることによって、データベース部から識別対象の教師データをより詳細に絞り込み、識別対象の教師データについてのみ類似度計算を行うことを可能にし、而して、データベース部に大量の教師データが登録されている場合であっても、無線局の識別結果を、迅速かつ高精度に出力することを可能にしている。
【0020】
(実施形態の構成例)
次に、本発明による無線局識別装置の構成例について
図1を参照しながら詳細に説明する。ここで、
図1は、本発明による無線局識別装置の内部構成の一例を示すブロック構成図である。本発明の一例として
図1に示す無線局識別装置1は、アンテナ2、受信機3、A/D変換器4、特徴ベクトル波形抽出部5、絞り込みパラメータ算出部6、特徴データ生成部7、無線局同定処理部8、データベース部9、教師データ生成部10を少なくとも含んで構成される。
【0021】
アンテナ2は、無線局から送信されてくるあらかじめ設定された特定の周波数の信号を受信信号として取得する部位である。受信機3は、アンテナ2により取得された受信信号の受信周波数を検出するとともに、当該受信信号の受信周波数を中間周波数信号に変換して、変換した中間周波数信号をA/D変換器4および特徴データ生成部7に対して送信する部位である。A/D変換器4は、受信機3から受け取った中間周波数信号を、デジタル信号であるデジタル複素包絡信号に変換し、変換したデジタル複素包絡信号を特徴ベクトル波形抽出部5に対して送信する部位である。
【0022】
特徴ベクトル波形抽出部5は、A/D変換器4から受け取ったデジタル複素包絡信号を解析するとともに、当該デジタル複素包絡信号の立ち上がり時(つまり、OFF状態からON状態に切替えられるタイミング)または立ち下がり時(つまり、ON状態からOFF状態に切替えられるタイミング)における周波数の変動波形を特徴ベクトル波形として抽出し、抽出した特徴ベクトル波形を絞り込みパラメータ算出部6および特徴データ生成部7に対して送信する部位である。なお、特徴ベクトル波形については、周波数変動が収束する中心周波数を0Hzにオフセット補正した波形とする。
【0023】
絞り込みパラメータ算出部6は、特徴ベクトル波形抽出部5から受け取った特徴ベクトル波形を解析して絞り込みパラメータを算出し、算出した絞り込みパラメータを特徴データ生成部7に送信する部位である。
図2は、特徴ベクトル波形抽出部5において抽出された特徴ベクトル波形の一例を示す波形図であり、横軸が時間、縦軸が周波数である。
図2に示すように、特徴ベクトル波形11を時間軸上でm区間(m:正整数)に分割し、第i番目(1≦i≦m)の区間における周波数の値をf
_iとすると、各区間における特徴ベクトル波形11の周波数として、f
_1、f
_2、f
_3、…、f
_mの周波数が取得される。
【0024】
ここで、絞り込みパラメータとして、例えば、波形平均エネルギーや波形平均包絡線などを用いることが可能である。波形平均エネルギーは次の式1によって与えられる。すなわち、波形平均エネルギーは、特徴ベクトル波形11を時間軸上でm区間(m:正整数)に分割した各区間における周波数の2乗値を算出し、該2乗値をm区間分で平均した値で与えられる。
【0026】
一方、波形平均包絡線は次の式2によって与えられる。なお、式2においては第i番目の区間における周波数の2乗値の包絡線の値をA
_iと表示している。式2に示すように、波形平均包絡線は、特徴ベクトル波形11を時間軸上でm区間(m:正整数)に分割した各区間における周波数の2乗値の包絡線をm区間分で平均した値として与えられる。
【0028】
特徴データ生成部7は、受信機3から受け取った中間周波数信号に示される周波数を、特徴ベクトル波形抽出部5から受け取った特徴ベクトル波形の受信周波数として、当該特徴ベクトル波形の受信周波数と、絞り込みパラメータ算出部6から受け取った絞り込みパラメータとを当該特徴ベクトル波形と組み合わせた特徴データを生成して、無線局同定処理部8および教師データ生成部10に送信する部位である。ここで、前記特徴データは、前述のように、受信周波数、絞り込みパラメータおよび特徴ベクトル波形を含む信号データを意味している。このため、無線局同定処理部8は、前記特徴データを受け取った際に、受信周波数および絞り込みパラメータをキーとして、データベース部9に記憶された教師データの識別対象(範囲)を限定することができる。而して、無線局の識別処理を迅速化することができ、さらには、無線局の識別精度を向上させることができる。
【0029】
無線局同定処理部8は、特徴データ生成部7から特徴データを受け取ると、該特徴データに含まれる受信周波数と絞り込みパラメータ例えば波形平均エネルギーとを、キーとして、データベース部9に送信し、データベース部9から、該キーに該当する類似度算出対象の教師データを、前記特徴データに含まれる特徴ベクトル波形との照合を行うべきデータとして受け取る。そして、特徴データ生成部7から受け取った特徴データに含まれる特徴ベクトル波形とデータベース部9から受け取った教師データの教師ベクトル波形との照合結果として得られる波形類似度から、無線局を同定し、同定した結果を出力する。
【0030】
データベース部9は、教師データ生成部10から受け取った教師データを登録する。教師データは、受信周波数、絞り込みパラメータをインデックスにして、教師データ生成部10から受け取った教師ベクトル波形をデータベース化して格納する。
図3は、データベース部9に格納される教師データのデータ構造の一例を示す説明図である。すなわち、
図3に示すように、データベース部9に格納される教師データは、受信周波数21、絞り込みパラメータ22、教師ベクトル波形23からなるツリー構造により構成されており、或る受信周波数21のインデックスf
_kに含まれる教師データを、絞り込みパラメータ22の大きさ(例えばE_1、E_2、E_3の3つ)で区分して、その配下に、該当する教師ベクトル波形23を教師データとして格納している。
【0031】
データベース部9は、無線局同定処理部8から特徴データの受信周波数と絞り込みパラメータとを受け取ると、受け取った受信周波数と絞り込みパラメータとをキーにしてツリー構造のインデックスを検索し、データベースとして保存されている教師データの中から、該当する教師データ(教師ベクトル波形)のみを識別対象として抽出して、無線局同定処理部8に送信する。なお、前述のように、インデックスの区分を絞り込みパラメータごとにあらかじめ決めておく方法の他に、未知の無線局における特徴ベクトル波形の絞り込みパラメータの±X(X:任意の実数)の範囲内に含まれる教師データ(教師ベクトル波形)を検索して、検索した結果を識別対象として抽出する方法も可能である。ここで、Xを、定数として与えることや、絞り込みパラメータの関数などの変数として与えることが可能である。
【0032】
教師データ生成部10は、特徴データ生成部7から特徴データを受け取った際に、外部(例えば無線局識別装置1のオペレータである測定者)から登録指示を受け取った場合などに、該当する無線局ごとにあらかじめ蓄積されている複数の特徴データを加工することによって、教師データを生成する。教師データの生成については、蓄積された複数の特徴データの特徴ベクトル波形同士を平均化する処理を行うことにより教師ベクトル波形を教師データとして生成するものであり、生成した教師データはデータベース部9に送信される。かくのごとく、或る無線局からの無線信号に関して蓄積された複数の特徴データの特徴ベクトル波形同士を平均化する処理を施すことにより、教師データにおけるS/N比を改善することができる。
【0033】
(実施形態の動作の説明)
次に、
図1に示した無線局識別装置1の動作についてその一例を詳細に説明する。まず、受信機3が、アンテナ2を介して無線局からの無線信号を受信すると、受信した該無線信号の受信周波数を検出し、該無線信号を変換した中間周波数信号とともにA/D変換器4と特徴データ生成部7とに送信する。A/D変換器4は、受信機3から受信した該中間周波数信号をデジタル信号に変換して、特徴ベクトル波形抽出部5に送信する。
【0034】
次いで、特徴ベクトル波形抽出部5は、A/D変換器4から受け取ったデジタル信号を解析して、当該デジタル信号の立ち上がり時(OFF→ON切り替えの瞬間)または立ち下がり時(ON→OFF切り替えの瞬間)における周波数変動波形を、前記無線局の特徴ベクトル波形として抽出して、絞り込みパラメータ算出部6と特徴データ生成部7とに送信する。絞り込みパラメータ算出部6は、受け取った特徴ベクトル波形の絞り込みパラメータ例えば波形平均エネルギーを算出して、特徴ベクトル波形とともに特徴データ生成部7に送信する。
【0035】
特徴データ生成部7は、受信機3から受け取った受信周波数と絞り込みパラメータ算出部6から受け取った絞り込みパラメータとを、特徴ベクトル波形抽出部5から受け取った特徴ベクトル波形と組み合わせて特徴データを生成して、無線局同定処理部8と教師データ生成部10とに送信する。
【0036】
次に、無線局同定処理部8は、特徴データに含まれる受信周波数と絞り込みパラメータ例えば波形平均エネルギーとをキーにして、データベース部9をインデックス検索し、該当する教師データを識別対象の教師データとして抽出する。
図4に、或る受信周波数と絞り込みパラメータとにおけるデータベース部9の教師データの登録例を示している。
図4に示す例においては、或る受信周波数21のインデックスf
_kに対して、絞り込みパラメータ22の大きさが小さい順にE_1、E_2、E_3のインデックスを付けた場合の教師ベクトル波形23を教師データとして登録している。ここで、
図4に例示するように、絞り込みパラメータ22の大きさは、教師ベクトル波形23の周波数変動の度合に対応していることが分かる。
【0037】
そして、無線局同定処理部8は、特徴データ生成部7から受け取った特徴データに含まれる特徴ベクトル波形と、データベース部9から受信周波数と絞り込みパラメータとをキーとしてインデックスすることにより絞り込まれて抽出された教師ベクトル波形と、を順次照合して、両者の波形類似度を算出し、該波形類似度に基づいて、特徴データに含まれる受信周波数の無線信号を発信している無線局を同定し、同定した結果を無線局識別結果として出力する。
【0038】
なお、複数の無線局について、受信周波数と絞り込みパラメータとのインデックスによる効果をシミュレーションによって評価した結果、データベース部9に登録されている全教師データに対して照合対象として抽出される教師データ数の割合を数十%程度にまで絞り込むことができることが分かった。また、シミュレーションにより、同一無線局の教師データを抽出できなかった割合すなわち無線局の見逃し率を評価した結果、該見逃し率を数%程度に抑えることができることが分かった。
【0039】
したがって、受信周波数のみならず、特徴ベクトル波形に関連する波形平均エネルギーや波形平均包絡線などからなる絞り込みパラメータをもインデックスに用いることによって、教師データの識別対象数を大幅に削減することができ、かつ、識別対象の無線局の見逃しの発生頻度を極めて少なく抑えることができるので、迅速にかつ高い識別精度で無線局の識別を実現することができることが分かった。つまり、絞り込みパラメータは、教師データの識別対象の絞り込みに効果的なインデックスであり、教師ベクトル波形の種類が増えれば増えるほど、絞り込みパラメータを用いたインデックスによる絞り込みの効果が大きくなる。
【0040】
なお、データベース部9から絞り込まれて抽出された教師データを、ハードディスク上ではなく、メモリ上に設定することにすれば、ハードディスクとの間のI/O動作を減らすことが可能になり、無線局の識別をさらに高速化することも可能になる。
【0041】
(実施形態の効果の説明)
以上に詳細に説明したように、本実施形態においては、以下のような効果が得られる。
【0042】
第1の効果は、受信周波数と絞り込みパラメータとのインデックスを用いることにより、データベース部9の教師データの中から、無線局が出力する無線信号(特徴ベクトル波形)との類似度を照合するための照合対象の教師データを絞り込むことができることである。而して、データベース部9に大量の教師データが登録されている場合であっても、無線局の識別処理を短時間にかつ高い精度で実施することができる。
【0043】
第2の効果は、受信周波数と絞り込みパラメータとのインデックスを用いることにより、照合対象の教師データを絞り込むことによって、無線局が出力する無線信号(特徴ベクトル波形)との類似度を照合するための処理時間が短縮され、さらには、照合処理にかかる負荷を軽減することができることである。而して、無線局の同定処理に安価なコンピュータを利用することができ、安価な無線局識別装置を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、不法無線局などから発射される電波を自動監視するための電波監視装置といった用途に好適に適用することができる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態の構成を説明した。しかし、かかる実施形態は、本発明の単なる例示に過ぎず、何ら本発明を限定するものではないことに留意されたい。本発明の要旨を逸脱することなく、特定用途に応じて種々の変形変更が可能であることが、当業者には容易に理解できよう。
【符号の説明】
【0046】
1 無線局識別装置
2 アンテナ
3 受信機
4 A/D変換器
5 特徴ベクトル波形抽出部
6 絞り込みパラメータ算出部
7 特徴データ生成部
8 無線局同定処理部
9 データベース部
10 教師データ生成部
11 特徴ベクトル波形
21 受信周波数
22 絞り込みパラメータ
23 教師ベクトル波形