(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
<全体構成>
図1は、本実施の形態に従う電動圧縮機の構成を示す回路図である。
図1を参照して、電動圧縮機は、交流モータ5と、インバータ装置10と、交流モータ5によって駆動される図示しないスクロール圧縮機とを含む。
【0015】
インバータ装置10は、直流電源である高圧バッテリ1から電力を入力して交流モータ5を駆動制御する。交流モータ5は、三相同期モータであり、たとえば、自動車のエアコン用モータ(エアコンコンプレッサ用モータ)として使用される。
【0016】
インバータ装置10は、コンデンサ20と、スイッチング回路30と、モータ制御部40とを含む。また、インバータ装置10にはバッテリコントローラ70が接続される。
【0017】
高圧バッテリ1の正極端子には、コンデンサ20の一方の端子およびスイッチング回路30の正極電力線が接続される。また、高圧バッテリ1の負極端子には、コンデンサ20の他方の端子およびスイッチング回路30の負極電力線が接続される。高圧バッテリ1からは、コンデンサ20を介してスイッチング回路30に直流電力が供給される。
【0018】
スイッチング回路30は、スイッチング素子Q1〜Q6と、ダイオードD1〜D6と、シャント抵抗63〜65とを含む。スイッチング素子Q1〜Q6として、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いることができる。正極電力線と負極電力線との間には、U相用のスイッチング素子Q1,Q2およびシャント抵抗63が直列接続され、V相用のスイッチング素子Q3,Q4およびシャント抵抗64が直列接続され、W相用のスイッチング素子Q5,Q6およびシャント抵抗65が直列接続される。スイッチング素子Q1〜Q6にはそれぞれダイオードD1〜D6が逆並列接続される。スイッチング素子Q1とQ2、スイッチング素子Q3とQ4、スイッチング素子Q5とQ6の接続ノードには、それぞれ交流モータ5の各相のコイル6,7,8が接続される。コイル6,7,8はY結線される。
【0019】
スイッチング回路30の電源入力側において、正極電力線と負極電力線との間には抵抗61,62が直列接続される。抵抗61,62の接続ノードの電圧Vdcにより入力電圧を検知することができる。また、シャント抵抗63〜65の電圧により交流モータ5に流れる電流を検知することができる。
【0020】
モータ制御部40は、交流モータ5をベクトル制御する。モータ制御部40は、uvw/dq変換部41と、位置・速度推定部42と、減算器43と、速度制御部44と、減算器45,46,58と、電流制御部47と、dq/uvw変換部48と、入力電流算出部49と、制限値制御部57とを含む。
【0021】
モータ制御部40の減算器43には、外部から交流モータ5の指令速度が入力される。モータ制御部40は、指令速度に応じたベクトル制御によりスイッチング回路30を駆動する。
【0022】
dq/uvw変換部48は、U相制御信号、W相制御信号、V相制御信号を出力する。スイッチング素子Q1のゲート端子はdq/uvw変換部48からU相制御信号を受け、スイッチング素子Q2のゲート端子はインバータ50から出力されるU相制御信号の反転信号を受ける。
【0023】
スイッチング素子Q3のゲート端子はdq/uvw変換部48からV相制御信号を受け、スイッチング素子Q4のゲート端子はインバータ51から出力されるV相制御信号の反転信号を受ける。
【0024】
スイッチング素子Q5のゲート端子はdq/uvw変換部48からW相制御信号を受け、スイッチング素子Q6のゲート端子はインバータ52から出力されるW相制御信号の反転信号を受ける。
【0025】
uvw/dq変換部41は、シャント抵抗63〜65で検知された電流値に基づき交流モータ5におけるロータ軸上のd軸座標およびq軸座標にそれぞれ換算された励磁成分電流Idおよびトルク成分電流Iqを算出する。算出された励磁成分電流Idおよびトルク成分電流Iqは、位置・速度推定部42に入力される。また、算出された励磁成分電流Idは、減算器45に入力される。さらに、算出されたトルク成分電流Iqは、減算器46に入力される。
【0026】
位置・速度推定部42は、励磁成分電流Id、トルク成分電流Iq、励磁成分電圧Vdおよびトルク成分電圧Vqに基づいて、交流モータ5におけるロータ推定速度を算出するとともに、ロータ推定位置を算出する。算出されたロータ推定速度は、減算器43に入力される。また、算出されたロータ推定位置は、dq/uvw変換部48に供給される。
【0027】
減算器43は、指令速度からロータ推定速度を減算する。速度制御部44は、減算器43から指令速度と推定速度との差分を受け、励磁成分電流Idに対する制限値Idref、および、トルク成分電流Iqに対する制限値Iqrefを算出する。励磁成分電流Idに対する制限値Idrefは減算器58に入力される。また、トルク成分電流Iqに対する制限値Iqrefは減算器46に入力される。
【0028】
制限値制御部57は、シャント抵抗63〜65で検知された電流値に基づき、検知電流に対する電流制限値を制御する。ある局面では、制限値制御部57は、検知電流と閾値Aとの比較結果に基づいて、制限値Idrefを低下させる制御を行なう。具体的には、制限値制御部57は、所定時間Ta(たとえば、4ms)内に検知電流が閾値A以上となる回数をカウントし、当該回数がNa回以上であるか否かを判定する。そして、制限値制御部57は、所定時間Ta内に検知電流が閾値A以上となる回数がNa回以上である場合には、制限値Idrefを低下させるための値を減算器58に入力する。詳細は後述するが、このような制限値制御は交流モータ5における過電流の発生を防止するために行なわれる。なお、当該回数がNa回未満である場合には、制限値Idrefを維持する値(ゼロ)を減算器58に入力する。
【0029】
別の局面では、制限値制御部57は、検知電流と閾値Bとを比較して、所定時間Taよりも長い所定時間Tb(たとえば、60〜70ms)内に検知電流が閾値B以上となる回数をカウントし、当該回数がNb回以下であるか否かを判定する。そして、制限値制御部57は、所定時間Tb内に検知電流が閾値B以上となる回数がNb回以下である場合には、低下させた制限値Idrefを増加させるための値を減算器58に入力する。詳細は後述するが、このような制限値制御は、低下させた交流モータ5の電流を元の状態(低下させる前の状態)に復帰させるために行なわれる。
【0030】
このように、制限値制御部57は、基本的には励磁成分電流Idに対する制限値Idrefはその値を増減させるような制御を行ない、トルク成分電流Iqに対する制限値Iqrefについてはその値を維持する。これは、交流モータ5のトルクを維持しつつ、出力電流を低下させるためである。
【0031】
減算器58は、制限値Idrefから制限値制御部57により入力された値を減算する。この減算結果が減算器45に入力される。
【0032】
減算器45は、減算された制限値Idref*(以下、単に「制限値Idref*」という)から励磁成分電流Idを減算する。この減算結果が電流制御部47に入力される。また、減算器46は、制限値Iqrefからトルク成分電流Iqを減算する。この減算結果が電流制御部47に入力される。
【0033】
電流制御部47は、制限値Idref*と励磁成分電流Idとの差分に基づいて交流モータ5におけるロータ軸上のd軸座標に換算された励磁成分電圧Vdを算出する。この励磁成分電圧Vdがdq/uvw変換部48および位置・速度推定部42に入力される。また、電流制御部47は、制限値Iqrefとトルク成分電流Iqとの差分に基づいて交流モータ5におけるロータ軸上のq軸座標に換算されたトルク成分電圧Vqを算出する。このトルク成分電圧Vqがdq/uvw変換部48および位置・速度推定部42に入力される。
【0034】
抵抗61,62による分圧された電圧Vdcは、dq/uvw変換部48に入力される。そして、dq/uvw変換部48は、入力されるロータ推定位置、励磁成分電圧Vd、トルク成分電圧Vq、および電圧Vdcに基づいて、交流モータ5の各相のコイル6,7,8に対する駆動電圧Vu,Vv,Vwを算出し、その駆動電圧Vu,Vv,Vwを得るのに必要な駆動波形信号(PWM信号)を生成する。この駆動波形信号により、上記スイッチング回路30の各スイッチング素子Q1〜Q6がオン,オフ駆動される。
【0035】
このようにして、本実施形態においては、モータ制御部40は、シャント抵抗63〜65で検知した電流から得られた交流モータ5における励磁成分電流とトルク成分電流が制限値となるように交流モータ5の電流経路に設けられたスイッチング素子Q1〜Q6をPWM制御する。
【0036】
モータ制御部40は、ロータの回転速度が所定速度以上となるまでは、初期駆動動作用の制御を実行し、ロータの回転速度が所定速度以上となった後に、センサレス動作用の制御を実行する。センサレス動作は、モータのロータ位置を検出するレゾルバなどの回転速度センサを用いないで、モータ電流などからロータ位置およびロータ回転速度を推定してこの推定値に基づいてモータを回転させる動作である。センサレス動作用の制御については上記の位置・速度推定部42と速度制御部44とを用いた速度閉ループ制御が実行される。
【0037】
以上のような構成によって、指令速度に基づいてスイッチング回路30のスイッチング素子Q1〜Q6が制御され直流電流が三相交流電流に変換され、スイッチング回路30で変換された三相交流電流が交流モータ5の各相のコイル6,7,8に供給される。この三相交流電流によって、エアコン用の交流モータ5が駆動される。
【0038】
なお、
図1では高圧バッテリ(直流電源)1にスイッチング回路30を接続したが、これに代わり、交流電源の交流電圧を直流電圧に変換し、その直流電圧をスイッチング回路30に供給しても良い。
【0039】
また、電流検知手段としてシャント抵抗63〜65を用いたが、シャント抵抗に代わりカレントトランスを用いてもよい。
【0040】
<制限値の制御方式>
次に、制限値の制御方式について説明する。なお、以下では、交流モータ5が、エアコンの電動圧縮機に用いられるモータとして使用される場合について説明する。
【0041】
図2は、相電流の波形図の一例である。具体的には、
図2では、交流モータ5におけるU相、V相、およびW相の相電流のうちいずれかの相電流を代表的に示している。
【0042】
図2を参照すると、電流値が、過電流の発生を検知するための過電流閾値に切迫する箇所が周期的に現れていることがわかる。これは、圧縮機の吐出脈動による影響が大きくなることにより、交流モータ5の機械角1回転分ごとにUVW相電流が増大(電流リプルが発生)するためである。吐出脈動は、特に、モータが低速で回転(たとえば、3000rpm)しており、モータから見た負荷が高い条件(低速高負荷条件)で起こりやすくなる。たとえば、低速高負荷条件とは、高圧バッテリ1の電圧が低下しているときである。
【0043】
また、電流値が過電流閾値以上になると、スイッチング素子Q1〜Q6を保護するためモータ制御部40により交流モータ5は強制的に停止される。したがって、このような状態が続くと交流モータ5を安定かつ継続的に駆動させることが困難となる。
【0044】
そこで、本実施の形態では、制限値制御部57が、シャント抵抗63〜65により検知されたモータ電流(検知電流)を常時監視しておき、過電流発生の可能性がある(高い)場合にはモータ電流を低下させるための制御を行なう。また、制限値制御部57は、過電流発生の可能性がない(低い)場合には、低下したモータ電流を復帰させるための制御を行なう。
【0045】
図3〜
図5を参照しながら、制限値制御部57の制御方式をより具体的に説明する。
図3は、制限値制御部57における判定方式(その1)を説明するための図である。
図4は、制限値制御部57における判定方式(その2)を説明するための図である。
図5は、時間Tに対する電流制限値の変化の具体例を示す図である。なお、
図3および
図4においては、
図2と同様に、U相、V相、およびW相の電流のうちいずれかの相電流の波形図を代表的に示している。
【0046】
まず、
図3を参照して、制限値制御部57が過電流発生を回避する際に実行する判定方式について説明する。なお、
図3中の黒点はアナログ値である電流値を離散化(A/D変換)したサンプリング点である。
図3に示すように、所定時間Ta(たとえば、4ms)内に相電流値(の絶対値)が閾値A(ただし、閾値A>0)以上となる回数は3回であることがわかる。制限値制御部57は、この回数(3回)が、所定回数Na(ただし、Na≧1)以上か否かを判定する。たとえば、
図3の例において所定回数Naが3に設定されている場合には、制限値制御部57は、所定時間Ta内に相電流値が閾値A以上となる回数が所定回数Na以上であると判定する。この場合、制限値制御部57は、現在の交流モータ5の状態は、過電流発生の可能性がある状態であると判断して、制限値Idrefを低下させる制御を行なう。
【0047】
ここで、閾値Aおよび所定回数Naは、予め定められているか、あるいは、ユーザによって適宜定められる。閾値Aが小さく、所定回数Naが小さいほど過電流発生の可能性が高いか否かがより厳しく判定されることになる。そのため、より厳しく判定する場合には、閾値Aおよび所定回数Naは小さく設定される。ただし、所定回数Naを1とした場合には、ノイズにより電流値が閾値A以上になった場合であっても、過電流発生の可能性が高い状態であると判定されてしまうため、所定回数Naは2以上であることが好ましい。
【0048】
次に、
図4を参照して、制限値制御部57が低下した制限値Idrefを復帰させる際に実行する判定方式について説明する。
図4中の黒点はアナログ値である電流値を離散化(A/D変換)したサンプリング点である。
図4に示すように、所定時間Tb内に相電流値(の絶対値)が閾値B(ただし、閾値B>0)以上となる回数は0回であることがわかる。制限値制御部57は、この回数(0回)が、所定回数Nb(ただし、Nb≧0)以下か否かを判定する。たとえば、
図4の例において所定回数Nbが0に設定されている場合には、制限値制御部57は、所定時間Tb内に相電流値が閾値B以上となる回数が所定回数Nb以下であると判定する。この場合、制限値制御部57は、現在の交流モータ5の状態は、過電流発生の可能性が低い状態であると判断して、低下した制限値Idrefを復帰(増加)させる。
【0049】
ここで、閾値Bおよび所定回数Nbは、予め定められているか、あるいは、ユーザによって適宜定められる。閾値Bおよび所定回数Nbが小さいほど過電流発生の可能性が高いか否かをより厳しく判定することになる。そのため、より厳しく判定する場合には、閾値Bおよび所定回数Nbは小さい値に設定される。逆に、より早く通常の制限値に復帰させることを重視する場合には、閾値Bおよび所定回数Nbは大きく設定される。ただし、閾値Bは閾値A以下に設定される。
【0050】
また、圧縮機の吐出脈動による影響により交流モータ5の機械角1回転分ごとにUVW相電流が増大する傾向があるため、所定時間Tbは、交流モータ5の機械角1回転分以上の時間であることが好ましい。たとえば、所定時間Tbは、60ms〜70msである。これにより、この時間ごとに変動する周期的な電流増大の影響を考慮した上で、電流制限値を復帰するため、無駄に交流モータ5の出力電流を低下させたままになることがない。
【0051】
次に、
図5を参照して、制限値制御部57の制御により、制限値Idrefが時間Tに対してどのように変化するのかを具体的に説明する。制限値Idrefの値は、初期状態では標準値Idr
1(制限値制御部57により低下制御されていない値)であるとする。
【0052】
制限値制御部57は、時刻T1において、所定時間Ta内に相電流値が閾値A以上となる回数が所定回数Na以上であると判定すると、Idr
1を低下させる制御を行なう。具体的には、制限値制御部57は、|α|(αはゼロではない)を減算器58に出力する。これにより、制限値Idrefの値は、Idr
2(=Idr
1−|α|)となる。
【0053】
制限値制御部57は、時刻T2において、所定時間Tb内に相電流値が閾値B以上となる回数が所定回数Nb以下であると判定すると、Idr
2を増加させる制御を行なう。具体的には、制限値制御部57は、|α|−|β|(|α|>|β|、βはゼロではない)を減算器58に出力する。これにより、制限値Idrefの値は、Idr
2+|β|(=Idr
1−|α|+|β|)となる。時刻T3,T4,T5においても同様の制御を行なうことにより、制限値Idrefの値は徐々に増加していき、時刻T5で制限値Idrefの値は標準値であるIdr
1まで復帰する。
【0054】
制限値制御部57は、時刻T6において、所定時間Ta内に相電流値が閾値A以上となる回数が所定回数Na以上であると判定すると、制限値Idrefの値(Idr
1)を低下させる制御を行なう。そして、制限値制御部57は、時刻T7、T8において、所定時間Tb内に相電流値が閾値B以上となる回数が所定回数Nb以下であると判定して、低下している制限値Idrefの値を増加させる制御を行ない、制限値Idrefの値はIdr
2+2|β|(=Idr
1−|α|+2|β|)まで復帰する。
【0055】
制限値制御部57は、時刻T9において、所定時間Ta内に相電流値が閾値A以上となる回数が所定回数Na以上であると判定すると、制限値Idrefの値(Idr
2+2|β|)を低下させる制御を行なう。これにより、制限値Idrefの値は、Idr
3(=Idr
2−|α|+2|β|=Idr
1−2|α|+2|β|)となる。このように、制限値Idrefが標準値(Idr
1)に復帰する前に、所定時間Ta内に相電流値が閾値A以上となる回数が所定回数Na以上であると判定された場合には、制限値Idrefの値はIdr
2よりもさらに小さい値となる。そして、制限値制御部57は、時刻T9以降、制限値Idrefの値を徐々に増加させる制御を行なう。
【0056】
図5の例では、制限値Idrefの低下量(αの絶対値)は、増加量(βの絶対値)よりも大きく設定されている(増加量は、低下量の3分の1)。そのため、制限値制御部57は、電流制限値を低下させる低下量よりも、低下した電流制限値を増加させる増加量の方が小さくなるように制御する。すなわち、制限値制御部57は、過電流発生の可能性が高い場合には制限値Idrefを大きく低下させ、過電流発生の可能性が低い場合には低下した制限値Idrefを徐々に増加していく。これにより、交流モータ5における過電流発生の可能性が低く、かつ、できるだけ交流モータ5の出力電流が大きい状態を適切に見出すことが可能となる。
【0057】
<処理手順>
次に、制限値Idrefを低下および増加させる際の処理手順について説明する。
図6は、制限値Idrefを低下させる際の処理を示すフローチャートである。この処理は、所定の制御周期ごとに実行される。
【0058】
図6を参照して、制限値制御部57は、シャント抵抗63〜65で検知されたU相、V相、およびW相の電流値を取得する(ステップS10)。
【0059】
制限値制御部57は、U相、V相、およびW相の電流値のいずれかが閾値A以上であるか否かを判定する(ステップS12)。閾値A以上ではない場合には(ステップS12においてNOの場合)、制限値制御部57はステップS16の処理を実行する。これに対して、閾値A以上である場合には(ステップS12においてYESの場合)、制限値制御部57は、カウンタCの値を+1して(ステップS14)、この処理を開始してから所定時間Taが経過したか否かを判定する(ステップS16)。
【0060】
所定時間Taが経過していない場合には(ステップS16においてNOの場合)、制限値制御部57はステップS10からの処理を繰り返す。所定時間Taが経過している場合には(ステップS16においてYESの場合)、制限値制御部57はカウンタCが所定回数Na以上であるか否かを判定する(ステップS18)。
【0061】
カウンタCが所定回数Na以上である場合には(ステップS18においてYESの場合)、制限値制御部57は、制限値Idrefを低下させる制御を行ない(ステップS20)、カウンタCの値をリセットして(ステップS22)、処理を終了する。これに対して、カウンタCが所定回数Na未満である場合には(ステップS18においてNOの場合)、制限値制御部57は、カウンタCの値をリセットして(ステップS22)、処理を終了する。
【0062】
上記のステップS12において、U相、V相、およびW相の電流値のうちの2つ以上の電流値が閾値A以上である場合には、その数に応じてカウンタCを加算してもよい。たとえば、U相、V相、およびW相の電流値のうちの2つの電流値が閾値A以上である場合にはカウンタCの値を+2して、3つの電流値が閾値A以上である場合にはカウンタCの値を+3する。
【0063】
図7は、制限値Idrefを復帰(増加)させる際の処理を示すフローチャートである。なお、制限値Idrefを復帰するための処理は、制限値Idrefが標準値から低下している場合に当該制限値Idrefを復帰させるために実行されるものである。
【0064】
そのため、制限値制御部57は、制限値Idrefが標準値未満であると判定した場合に以下の
図7に示す処理を実行する。たとえば、制限値制御部57は、制限値Idrefを過去に低下させていない場合には制限値Idrefは標準値であると判定できる。また、制限値制御部57は、制限値Idrefを過去に低下させている場合には標準値まで復帰させたか否かにより、制限値Idrefが標準値未満であるか否かを判定できる。なお、制限値制御部57は、速度制御部44から現在の制限値Idrefを取得して当該判定を行なってもよい。
【0065】
図7を参照して、制限値制御部57は、シャント抵抗63〜65で検知されたU相、V相、およびW相の電流値を取得する(ステップS52)。
【0066】
制限値制御部57は、U相、V相、およびW相の電流値のいずれかが閾値B以上であるか否かを判定する(ステップS54)。閾値B以上ではない場合には(ステップS54においてNOの場合)、制限値制御部57はステップS58の処理を実行する。これに対して、閾値B以上である場合には(ステップS54においてYESの場合)、制限値制御部57は、カウンタCxの値を+1して(ステップS56)、この処理を開始してから所定時間Tbが経過したか否かを判定する(ステップS58)。
【0067】
所定時間Tbが経過していない場合には(ステップS58においてNOの場合)、制限値制御部57は、
図6に示したように所定時間Tb内に制限値Idrefを低下させる制御を実行したか否かを判断する(ステップS64)。当該制御を実行していない場合には(ステップS64においてNOの場合)、制限値制御部57は、ステップS52からの処理を繰り返す。これに対して、当該制御を実行している場合には(ステップS64においてYESの場合)、カウンタCxの値をリセットして(ステップS66)、処理を終了する。
【0068】
また、所定時間Tbが経過している場合には(ステップS58においてYESの場合)、制限値制御部57は、カウンタCxが所定回数Nb以下であるか否かを判定する(ステップS60)。カウンタCxが所定回数Nb以下である場合には(ステップS60においてYESの場合)、制限値制御部57は、低下している制限値Idrefを増加させる制御を行ない(ステップS62)、カウンタCxの値をリセットして(ステップS66)、処理を終了する。これに対して、カウンタCxが所定回数Nb以下ではない場合には(ステップS60においてNOの場合)、制限値制御部57は、カウンタCxの値をリセットして(ステップS66)、処理を終了する。
【0069】
上記のステップS54において、U相、V相、およびW相の電流値のうちの2つ以上の電流値が閾値B以上である場合には、その数に応じてカウンタCxを加算してもよい。
【0070】
上述した実施の形態では、制限値制御部57は、制限値Idrefを増減させるような制御を行ない、トルク成分電流Iqに対する制限値Iqrefについてはその値を維持する場合について説明したが、これに限られない。制限値Iqrefについても、上述した制限値Idrefの制御方式と同様な制御を行なうことで増減されてもよい。
【0071】
<実施の形態の効果>
本実施の形態によると、交流モータにおける過電流の発生を確実に回避することで、交流モータを保護するとともに、安定的に動作させることが可能となる。
【0072】
また、過電流発生の可能性がある場合には、励磁成分電流Idに対する制限値Idrefを低下させるが、トルク成分電流Iqに対する制限値Iqrefは維持される。これにより、交流モータのトルクを維持することができる。
【0073】
また、過電流発生の可能性がない場合には、制限値Idrefを増加(復帰)させることにより、無駄に交流モータの出力電流を低下させたままになることがない。
【0074】
また、所定時間Tbを機械角1回転分以上の時間とすることで、コンプレッサの吐出脈動による周期的な電流増大の影響を考慮した上で、交流モータの電流が復帰されるため、交流モータの出力電流を精度良く調整することができる。
【0075】
また、電流制限値を低下させる低下量よりも、電流制限値を増加させる増加量の方が小さくなるように制御することで、交流モータの状態に応じた電流制限値を適切に設定することができる。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。