特許第5958545号(P5958545)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958545
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】車載用バッテリパックの圧力開放構造
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/10 20060101AFI20160719BHJP
   H01M 2/12 20060101ALI20160719BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20160719BHJP
   H01M 2/04 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   H01M2/10 A
   H01M2/10 S
   H01M2/12 Z
   H01M2/02 L
   H01M2/04 Z
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-535472(P2014-535472)
(86)(22)【出願日】2013年8月20日
(86)【国際出願番号】JP2013072216
(87)【国際公開番号】WO2014041970
(87)【国際公開日】20140320
【審査請求日】2014年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2012-202472(P2012-202472)
(32)【優先日】2012年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100180068
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 怜史
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 健
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信義
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−023230(JP,A)
【文献】 特開2007−087922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/10
H01M 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリパックケースを、バッテリパックロアフレームとバッテリパックアッパーカバーによって構成し、前記バッテリパックロアフレームにバッテリモジュールを配置した車載用バッテリパックにおいて、
前記バッテリパックロアフレームに対し前記バッテリパックアッパーカバーを、それぞれの外周縁部に沿って全周にわたって連続するシール部材を介して接合固定し、
前記バッテリパックアッパーカバーのうち、前記シール部材を介して接合固定される外周縁部を含む領域に、少なくとも高さ方向に高低差を持つ段差変形部を設け、
前記全周にわたって連続するシール部材のうち、前記段差変形部に対応する領域に、他の接合部よりも接合強度が低い接合脆弱部を設定した
ことを特徴とする車載用バッテリパックの圧力開放構造。
【請求項2】
請求項1に記載された車載用バッテリパックの圧力開放構造において、
前記バッテリパックアッパーカバーの上面部分に、第1平面部と、前記第1平面部より低い第2平面部と、前記第1平面部と前記第2平面部を繋ぐ第1傾斜面と、を形成し、
前記バッテリパックアッパーカバーの左右側面部分に、前記第1平面部と前記第2平面部と前記第1傾斜面の車幅方向端部から斜め下方に延びる左傾斜側面及び右傾斜側面を形成し、
前記段差変形部を、前記左右傾斜側面と前記第1平面部が交わる第1稜線と、前記左右傾斜側面と前記第1傾斜面が交わる第2稜線と、前記左右傾斜側面と前記第2平面部が交わる第3稜線と、を有して形成した
ことを特徴とする車載用バッテリパックの圧力開放構造。
【請求項3】
請求項2に記載された車載用バッテリパックの圧力開放構造において、
前記バッテリパックアッパーカバーの上面部分に、前記第1平面部より低いが前記第2平面部より高い第3平面部と、前記第3平面部と前記第2平面部を繋ぐ第2傾斜面と、を加え、
前記段差変形部を、前記第1稜線と前記第2稜線と前記第3稜線に、前記左右傾斜側面と前記第2傾斜面が交わる第4稜線と、前記左右傾斜側面と前記第3平面部が交わる第5稜線と、を加えて形成した
ことを特徴とする車載用バッテリパックの圧力開放構造。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか1項に記載された車載用バッテリパックの圧力開放構造において、
前記シール部材として、環境条件や入力負荷条件が成立する接着強度を持つウレタン系接着剤による接着シール部材を用いた
ことを特徴とする車載用バッテリパックの圧力開放構造。
【請求項5】
請求項4に記載された車載用バッテリパックの圧力開放構造において、
前記接着シール部材を、強接着シール部材と、前記強接着シール部材より接着強度を弱めた弱接着シール部材と、によって構成し、
前記バッテリパックロアフレームの外周縁部のうち、前記段差変形部に対応する領域に設けた凹領域に、前記弱接着シール部材を充填し、
前記バッテリパックロアフレームの前記凹領域を含む外周縁部に沿って、前記強接着シール部材を全周にわたって連続して介装した
ことを特徴とする車載用バッテリパックの圧力開放構造。
【請求項6】
請求項5に記載された車載用バッテリパックの圧力開放構造において、
前記凹領域に充填した前記弱接着シール部材の上面を、前記バッテリパックロアフレームの外周縁部の一般面と同一面にした
ことを特徴とする車載用バッテリパックの圧力開放構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両に走行用電源として搭載される車載用バッテリパックの圧力開放構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケース部材の開口部をカバー部材で覆い、ケース部材とカバー部材の間にシール部材を介装させ、ケース室を密封した車載用バッテリパックが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−232330号公報
【特許文献2】特開2006−236775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車載用バッテリパックにあっては、ケース室の密封性を確保することはできるものの、ケース室の内圧がガスの発生により高まったとき、内部ガスを外部へ排出する機能を有さない、という問題があった。
【0005】
すなわち、車載用バッテリパックの場合、過充電等の異常時、ケース室の内部に配置され、複数のバッテリセルにより構成されたバッテリモジュールからガスが発生し、ケース室の内圧が高まってしまうことがある。ここで、バッテリモジュールからのガス発生は、例えば、特開2006−236775号公報(特許文献2)に記載されているように、バッテリセルの内部にてガスが発生し、内圧が上昇すると、シール部材の電池内側の相対的に薄肉な部分を破断させ、ガスを外部(ケース室)に排出することでなされる。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、ケース室の内圧がガスの発生により高まったとき、接合脆弱部の離間開口により内部ガスを外部へ排出する車載用バッテリパックの圧力開放構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、バッテリパックケースを、バッテリパックロアフレームとバッテリパックアッパーカバーによって構成し、前記バッテリパックロアフレームにバッテリモジュールを配置した。
この車載用バッテリパックにおいて、前記バッテリパックロアフレームに対し前記バッテリパックアッパーカバーを、それぞれの外周縁部に沿って全周にわたって連続するシール部材を介して接合固定した。
前記バッテリパックアッパーカバーのうち、前記シール部材を介して接合固定される外周縁部を含む領域に、少なくとも高さ方向に高低差を持つ段差変形部を設けた。
前記全周にわたって連続するシール部材のうち、前記段差変形部に対応する領域に、他の接合部よりも接合強度が低い接合脆弱部を設定した。
【発明の効果】
【0008】
上記のように、バッテリパックアッパーカバーのうち、シール部材を介して接合固定される外周縁部を含む領域に、少なくとも高さ方向に高低差を持つ段差変形部が設けられる。そして、全周にわたって連続するシール部材のうち、段差変形部に対応する領域に、他の接合部よりも接合強度が低い接合脆弱部が設定される。
したがって、ケース室の内部に配置されたバッテリモジュールからガスが発生し、ケース室の内圧が高まったとき、ケース構造のうち、最もケース中心側に突出した部分、つまり、バッテリパックアッパーカバーの段差変形部に内圧が集中する。この内圧集中により、段差変形部において、高さ方向の段差の高低差を無くす方向、つまり、低い段差から高い段差へと向かう高さ方向にバッテリパックアッパーカバーを変形させる。このカバー変形により、段差変形部に対応する領域に設定された接合脆弱部の接合が剥離し、バッテリパックロアフレームの外周縁部からバッテリパックアッパーカバーの外周縁部が離れ、接合脆弱部に開口が形成される。このため、ケース室の内圧がガスの発生により高まったとき、バッテリパックアッパーカバーを破断させたり破損させたりすることなく、接合脆弱部の開口から内部ガスが外部へ排出される。
このように、バッテリパックアッパーカバーの段差変形部に内圧が集中すると、バッテリパックアッパーカバーの変形を促し、カバー変形に伴い接合脆弱部が剥離してケース室と外気を連通させる開口が形成される構成とした。このため、ケース室の内圧がガスの発生により高まったとき、接合脆弱部の離間開口により内部ガスを外部へ排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の車載用バッテリパックを搭載したミニバンタイプの電気自動車を示す概略側面図である。
図2】実施例1の車載用バッテリパックを搭載したミニバンタイプの電気自動車を示す概略底面図である。
図3】実施例1の圧力開放構造を備えたバッテリパックBPを示す全体分解斜視図である。
図4】実施例1の圧力開放構造を備えたバッテリパックBPを示す全体斜視図である。
図5】実施例1の圧力開放構造を備えたバッテリパックBPのバッテリパックロアフレームを示す平面図である。
図6】実施例1のバッテリパックBPの圧力開放構造である段差変形部及び接合脆弱部を示す図4のA方向矢視図である。
図7】実施例1の圧力開放構造を備えたバッテリパックBPにおいてロアフレームとアッパーカバーの通常接合部での接合構造を示す図5のB−B線端面図である。
図8】実施例1の圧力開放構造を備えたバッテリパックBPにおいてロアフレームとアッパーカバーの段付きボルト固定部での接合構造を示す図5のC−C線端面図である。
図9】実施例1の圧力開放構造を備えたバッテリパックBPにおいてロアフレームとアッパーカバーのアースボルト固定部での接合構造を示す図5のD−D線端面図である。
図10】実施例1の圧力開放構造を備えたバッテリパックBPにおいてロアフレームとアッパーカバーの接合脆弱部での接合構造を示す図5のE−E線端面図である。
図11】実施例1の圧力開放構造を備えたバッテリパックBPにおいて圧力開放作用を示す作用説明図である。
図12】実施例1の圧力開放構造を備えたバッテリパックBPにおいて圧力開放状態でのアッパーカバーの離間開口を示す図11F−F線端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の車載用バッテリパックの圧力開放構造を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
実施例1の車載用バッテリパックの圧力開放構造における構成を、「バッテリパックを搭載した電気自動車の概略構成」、「バッテリパックの構成」、「バッテリパックに備えた圧力開放構造の詳細構成」に分けて説明する。
【0012】
[バッテリパックを搭載した電気自動車の概略構成]
図1及び図2は、実施例1の車載用バッテリパックを搭載したミニバンタイプの電気自動車を示す概略側面図及び概略底面図である。以下、図1及び図2に基づき、バッテリパックを搭載した電気自動車の概略構成を説明する。
【0013】
前記電気自動車は、図1及び図2に示すように、フロアパネル100とダッシュパネル104によりモータルーム101と車室102に画成され、フロアパネル100の下部にバッテリパックBPが配置され、モータルーム101にパワーユニットPUが配置される。このパワーユニットPUは、左右の前輪119を駆動する。つまり、左右の前輪119を駆動輪とし、左右の後輪120を従動輪とする。
【0014】
前記車室102は、図1に示すように、フロアパネル100の上部に形成され、ダッシュパネル104の位置から車両後端面103の位置までの乗員や荷物の空間として確保される。フロアパネル100は、車両前方から車両後方までのフロア面の凹凸を抑えたフラット形状としている。この車室102には、インストルメントパネル105と、センターコンソールボックス106と、エアコンユニット107と、乗員シート108と、を有する。
【0015】
前記バッテリパックBPは、図1に示すように、フロアパネル100の下部のホイールベース中央部位置に配置され、図2に示すように、車体強度部材である車体メンバに対して10点にて支持される。車体メンバは、左右一対のモータルームサイドメンバ122,122と、左右一対の車体サイドメンバ109,109と、複数の車体クロスメンバ110,110,…と、を有して構成される。バッテリパックBPの両側は、左右一対の第1車体サイドメンバ支持点S1,S1と、左右一対の第1車体クロスメンバ支持点C1,C1と、左右一対の第2車体サイドメンバ支持点S2,S2により6点支持されている。バッテリパックBPの後側は、左右一対の第2車体クロスメンバ支持点C2,C2により2点支持されている。さらに、バッテリパックBPの前側は、図外のメンバ支持点により2点支持されている。
【0016】
前記パワーユニットPUは、図1に示すように、モータルーム101に配置され、バッテリパックBPとは、充放電に用いる強電ハーネス111を介して接続される。このパワーユニットPUは、各構成要素を縦方向に積層配置にしたもので、強電モジュール112(DC/DCコンバータ+充電器)と、インバータ113と、モータ駆動ユニット114(走行用モータ+減速ギヤ+デファレンシャルギヤ)と、を有する。また、車両前面中央位置には、充電ポートリッドを有する急速充電ポート115と普通充電ポート116が設けられる。急速充電ポート115と強電モジュール112は、急速充電ハーネス117により接続される。普通充電ポート116と強電モジュール112は、普通充電ハーネス118により接続される。
【0017】
前記左右の前輪119は、独立懸架方式のサスペンションにより支持され、前記左右の後輪120は、車軸懸架方式のリーフスプリングサスペンション121,121により支持される。
【0018】
[バッテリパックの構成]
図3は、実施例1の圧力開放構造を備えたバッテリパックBPを示す全体分解斜視図である。以下、図3に基づき、バッテリパックの構成を説明する。
【0019】
実施例1のバッテリパックBPは、図3に示すように、バッテリパックケース1と、バッテリモジュール2と、温調風ユニット3と、サービス・ディスコネクト・スイッチ4(以下、「SDスイッチ」という。)と、ジャンクションボックス5と、リチウムイオン・バッテリ・コントローラ6(以下、「LBコントローラ」という。)と、を備えていている。
【0020】
前記バッテリパックケース1は、図3に示すように、バッテリパックロアフレーム11とバッテリパックアッパーカバー12の2部品によって構成される。
【0021】
前記バッテリパックロアフレーム11は、図3に示すように、車体メンバに対して締結固定されるフレーム部材である。このバッテリパックロアフレーム11には、バッテリモジュール2や他のパック構成要素3,4,5,6を搭載する方形凹部による搭載空間(ケース室)を有する。このバッテリパックロアフレーム11のフレーム前端部には、冷媒管コネクタ端子13とバッテリ側強電コネクタ端子14とPTCヒータ用コネクタ端子15と弱電コネクタ端子16とが取り付けられている。
【0022】
前記バッテリパックアッパーカバー12は、図3に示すように、バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aの位置に10箇所にて締結固定されるカバー部材である。バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aとバッテリパックアッパーカバー12の外周縁部12aには、それぞれ10箇所のボルト穴が形成されている。バッテリパックロアフレーム11に形成された10箇所のボルト穴には、ボルト穴の内側位置に図外のスタッドナットが溶接固定される。一方、バッテリパックアッパーカバー12に形成された10箇所のボルト穴のうち、4隅位置のボルト穴には、4本のアースボルト71が差し込まれ、左右両側の車両前後方向にそれぞれ配列されたボルト穴には、合計6本の段付きボルト72が差し込まれる。このバッテリパックアッパーカバー12には、バッテリパックロアフレーム11に搭載される各パック構成要素2,3,4,5,6のうち、特にバッテリモジュール2の凹凸高さ形状に対応するとともに、後述する圧力開放構造に対応する凹凸段差面形状によるカバー面を有する。
【0023】
前記バッテリモジュール2は、図3に示すように、バッテリパックロアフレーム11に搭載され、第1バッテリモジュール21と第2バッテリモジュール22と第3バッテリモジュール23との3分割モジュールにより構成される。各バッテリモジュール21,22,23は、二次電池(リチウムイオンバッテリ等)による複数のバッテリセルを積み重ねた集合体構造である。各バッテリモジュール21,22,23の詳しい構成は、下記の通りである。
【0024】
前記第1バッテリモジュール21は、図3に示すように、バッテリパックロアフレーム11のうち車両後部領域に搭載される。この第1バッテリモジュール21は、厚みが薄い直方体形状のバッテリセルを構成単位とし、複数個のバッテリセルを厚み方向に積み重ねたものを用意しておく。そして、バッテリセルの積み重ね方向と車幅方向を一致させて搭載する縦積み(例えば、20枚縦積み)により構成している。
【0025】
前記第2バッテリモジュール22と前記第3バッテリモジュール23のそれぞれは、図3に示すように、バッテリパックロアフレーム11のうち、第1バッテリモジュール21より前側の車両中央部領域に車幅方向に左右分かれて一対搭載される。この第2バッテリモジュール22と第3バッテリモジュール23は、全く同じパターンによる平積み構成としている。即ち、厚みが薄い直方体形状のバッテリセルを構成単位とし、複数枚(例えば、4枚と5枚)のバッテリセルを厚み方向に積み重ねたものを複数個(例えば、4枚積みを1組、5枚積みを2組)用意しておく。そして、バッテリセルの積み重ね方向と車両上下方向を一致させた平積み状態としたものを、例えば、車両後方から車両前方に向かって順に4枚平積み・5枚平積み・5枚平積みというように、車両前後方向に複数個整列させることで構成している。第2バッテリモジュール22は、図3に示すように、前側バッテリモジュール部22a,22bと、前側バッテリモジュール部22a,22bより高さ寸法がさらに1枚分低い後側バッテリモジュール部22cと、を有する。第3バッテリモジュール23は、図3に示すように、前側バッテリモジュール部23a,23bと、前側バッテリモジュール部23a,23bより高さ寸法がさらに1枚分低い後側バッテリモジュール部23cと、を有する。
【0026】
前記温調風ユニット3は、図3に示すように、バッテリパックロアフレーム11のうち車両前側空間の右側領域に配置され、バッテリパックBPの送風ダクトに温調風(冷風、温風)を送風する。なお、温調風ユニット3のエバポレータには、フレーム前端部に取り付けられた冷媒管コネクタ端子13を介して冷媒が導入される。また、温調風ユニット3のPTCヒータには、ジャンクションボックス5を介してヒータ作動電流が導入される。
【0027】
前記SDスイッチ4は、図3に示すように、バッテリパックロアフレーム11のうち車両前側空間の中央部領域に配置され、手動操作によりバッテリ強電回路を機械的に遮断するスイッチである。バッテリ強電回路は、内部バスバーを備えた各バッテリモジュール21,22,23と、ジャンクションボックス5と、SDスイッチ4と、を互いにバスバーを介して接続することで形成される。このSDスイッチ4は、強電モジュール112やインバータ113等の点検や修理や部品交換等を行う際、手動操作によりスイッチ入とスイッチ断が切り替えられる。
【0028】
前記ジャンクションボックス5は、図3に示すように、バッテリパックロアフレーム11のうち車両前側空間の左側領域に配置され、リレー回路により強電の供給/遮断/分配を集中的に行う。このジャンクションボックス5には、温調風ユニット3の制御を行う温調用リレー51と温調用コントローラ52が併設されている。ジャンクションボックス5とパワーユニットPUの強電モジュール112は、バッテリ側強電コネクタ端子14及び強電ハーネス111を介して接続される。ジャンクションボックス5と外部の電子制御システムは、弱電コネクタ端子16及び弱電ハーネスを介して接続される。
【0029】
前記LBコントローラ6は、図3に示すように、第1バッテリモジュール21の左側端面位置に配置され、各バッテリモジュール21,22,23の容量管理・温度管理・電圧管理を行う。このLBコントローラ6は、温度検出信号線からの温度検出信号、バッテリ電圧検出線からのバッテリ電圧検出値、バッテリ電流検出信号線からのバッテリ電流検出信号に基づく演算処理により、バッテリ容量情報やバッテリ温度情報やバッテリ電圧情報を取得する。そして、LBコントローラ6と外部の電子制御システムは、リレー回路のオン/オフ情報やバッテリ容量情報やバッテリ温度情報等を伝達する弱電ハーネスを介して接続される。
【0030】
[バッテリパックに備えた圧力開放構造の詳細構成]
図4図10は、実施例1のバッテリパックに備えた圧力開放構造の詳細構成を示す。以下、図4図10に基づき、バッテリパックに備えた圧力開放構造の詳細構成を説明する。
【0031】
実施例1のバッテリパックBPに備えた圧力開放構造は、強接着シール部材81(シール部材)と、弱接着シール部材82(シール部材)と、段差変形部83と、接合脆弱部84と、凹領域85と、を備えている。
【0032】
前記バッテリパックBPは、図4に示すように、バッテリパックケース1を、バッテリパックロアフレーム11とバッテリパックアッパーカバー12によって構成し、バッテリパックロアフレーム11にバッテリモジュール2を配置している(図3)。なお、バッテリパックロアフレーム11とバッテリパックアッパーカバー12は、いずれも鉄等の金属素材により構成される。
【0033】
前記バッテリパックロアフレーム11に対しバッテリパックアッパーカバー12を、それぞれの外周縁部11a,12aに沿って全周にわたって連続する強接着シール部材81及び弱接シール部材82を介して接合固定している(図5)。
【0034】
前記バッテリパックアッパーカバー12には、図4に示すように、高さ方向に高低差を持つ段差変形部83を設けている。そして、図5に示すように、全周にわたって連続する強接着シール部材81及び弱接着シール部材82のうち、段差変形部83に対応する領域に、他の接合部よりも接合強度が低い接合脆弱部84を設定している。
【0035】
前記段差変形部83の詳しい構成を、図4に基づき説明する。
前記バッテリパックアッパーカバー12の上面部分には、第1平面部12bと、第1平面部12bより低い第2平面部12cと、第1平面部12bと第2平面部12cを繋ぐ第1傾斜面12dと、を形成している。さらに、第1平面部12bより低いが第2平面部12cより高い第3平面部12eと、第3平面部12eと第2平面部12cを繋ぐ第2傾斜面12fと、を加えて形成している。
前記バッテリパックアッパーカバー12の左右側面部分には、第1平面部12bと第2平面部12cと第1傾斜面12dと第3平面部12eと第2傾斜面12fの車幅方向端部から斜め下方に延びる左傾斜側面12g及び右傾斜側面12hを形成している。
【0036】
前記段差変形部83は、左右傾斜側面12g,12hと第1平面部12bが交わる第1稜線83aと、左右傾斜側面12g,12hと第1傾斜面12dが交わる第2稜線83bと、左右傾斜側面12g,12hと第2平面部12cが交わる第3稜線83cと、により基本構成を形成している。さらに、左右傾斜側面12g,12hと第2傾斜面12fが交わる第4稜線83dと、左右傾斜側面12g,12hと第3平面部12eが交わる第5稜線83eと、を加えて形成している。
【0037】
前記強接着シール部材81及び弱接着シール部材82は、いずれもウレタン系接着剤による接着シール部材である。強接着シール部材81としては、環境条件や入力負荷条件が成立する接着強度を持つ接着シール部材を用いている。ここで、環境条件とは、高圧洗車や冠水路走行等においてケース室内への水浸入を抑える水密性や環境温度変化に対しケース室内を密封状態に保つ気密性のシール性能確保条件をいう。入力負荷条件とは、前突時や側突時等での衝撃入力や路面等からの振動入力に対して亀裂や破断の発生を抑える入力耐久条件をいう。
一方、弱接着シール部材82としては、環境条件や入力負荷条件が成立する接着強度を持つものの、強接着シール部材81より接着強度を弱めたペイントシールによる接着シール部材を用いている。そして、弱接着シール部材82は、硬化した後、被着体が離間する方向に大きな力が加わると、接着剤と被着体が剥離する性質(界面破壊)ではなく、接着剤そのものが分断する性質(凝集破壊)を持つ(図12参照)。
【0038】
前記弱接着シール部材82は、図5に示すように、バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aのうち、段差変形部83に対応する車幅方向の左右対称領域に設けた凹領域85に充填している。すなわち、弱接着シール部材82は、図6に示すように、段差変形部83(各稜線83a,83b,83c,83d,83e)に対応する領域であって、2つの段付きボルト72,72に挟まれた領域に、他の接合部よりも接合強度が低い接合脆弱部84を設定するために介装している。
【0039】
前記強接着シール部材81は、図5に示すように、バッテリパックロアフレーム11の凹領域85を含む外周縁部11aに沿って、全周にわたって連続して介装している。ここで、バッテリパックロアフレーム11とバッテリパックアッパーカバー12の接合構造を具体的に説明する。
【0040】
通常接合部での接合構造は、図7に示すように、それぞれの外周縁部11a,12aのシール間隔SSに強接着シール部材81のみが介装される。
段付きボルト固定部での接合構造は、図8に示すように、それぞれの外周縁部11a,12aのうち、段付きボルト72から少し内側位置のシール間隔SSに強接着シール部材81のみが介装される。
アースボルト固定部での接合構造は、図9に示すように、それぞれの外周縁部11a,12aのうち、アースボルト71から離れた内側位置のシール間隔SSに強接着シール部材81のみが介装される。なお、アースボルト71の固定位置では、外周縁部11a,12aを接触させることで、シール間隔SSを確保するスペーサ機能を持たせている。
【0041】
これに対し、接合脆弱部84での接合構造は、図10に示すように、それぞれの外周縁部11a,12aのシール間隔SSに強接着シール部材81及び弱接着シール部材82が介装される。つまり、凹領域85に充填した弱接着シール部材82の上面を、バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aの一般面(凹領域85を除く外周縁面)と同一面にし、弱接着シール部材82の上面に重ね合わせて、通常接合部やボルト固定部の接合構造と同様の断面形状による強接着シール部材81が介装される。
【0042】
次に、作用を説明する。
実施例1の車載用バッテリパックの圧力開放構造における作用を、「バッテリケースの接合固定作用」、「バッテリケースのシール作用」、「内圧発生時におけるバッテリケースの圧力開放作用」に分けて説明する。
【0043】
[バッテリケースの接合固定作用]
バッテリパックロアフレーム11に対しバッテリパックアッパーカバー12の接合固定するに際しては、
(a) 弱接着シール部材充填工程
(b) 強接着シール部材塗布工程
(c) スペーサ及びクランプ設定工程
(d) アースボルト締結工程
(e) 段付きボルト締結工程
を経過してなされる。
【0044】
前記弱接着シール部材充填工程では、バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aの凹領域85に、凹領域85の窪み容積と同量の弱接着シール部材82を充填する。
前記強接着シール部材塗布工程では、バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aに沿って連続するように、強接着シール部材81を高く盛り上げた断面を保ちながら塗布する。
前記スペーサ及びクランプ設定工程では、塗布された強接着シール部材81の内側にシール間隔を保つスペーサを複数個設定し、スペーサを設定した位置にそれぞれクランプを設定する。
前記アースボルト締結工程では、シール間隔を保つアースボルト71を4隅に締結固定する。上記スペーサ及びクランプ設定工程とアースボルト締結工程によりケース全周にわたって一定のシール間隔が保たれる。
前記段付きボルト締結工程では、ケース全周にわたって一定のシール間隔を保った状態で強接着シール部材81及び弱接着シール部材82がある程度硬化するのを待った後、クランプを取り外し、6本の段付きボルト72を締結固定する。
【0045】
したがって、強接着シール部材81は、シール幅とシール厚が全周にわたって一定となるように管理され、弱接着シール部材82は、その上面がバッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aの一般面と同一面に管理される。
【0046】
[バッテリケースのシール作用]
車体床下に搭載されるバッテリパックBPには、厳しい環境条件や入力負荷条件が課され、これらの条件を克服してシール性能を確保する必要がある。以下、これを反映するバッテリケースのシール作用を説明する。
【0047】
実施例1では、シール部材として、環境条件や入力負荷条件が成立する接着強度を持つウレタン系接着剤による強接着シール部材81及び弱接着シール部材82を用いる構成を採用した(図7図10)。
したがって、内圧非発生である通常時においては、接着シール部材81,82が、選定した環境条件を成立するだけの接着強度を持つことで、高圧洗車や冠水路走行等においてケース室内への水浸入が抑えられ、ケース室内の水密性が確保される。加えて、外気温度やケース内温度の変化によりケース内圧が所定範囲内で変動しても密封状態に保つ気密性が確保される。また、接着シール部材81,82が、選定した入力負荷条件を成立するだけの接着強度を持つことで、前突時や側突時等での衝撃入力や路面等からの振動入力に対し、シール亀裂やシール破断の発生が抑えられ、シール耐久性が確保される。すなわち、車体床下に搭載されるバッテリパックBPに要求されるシール性能が確保される。
【0048】
また、2つのケース部材の間に介装し、シール性を確保する部品としては、ガスケットが用いられるのが一般的である。しかし、バッテリパックのように大型のケース部品の場合、弾性材にて製造されたガスケットは、組み付け時に変形し易く、予め規定された位置にガスケットを配置するのに工数を要し、接合作業性が低い。加えて、全周シール性能が確保できるように、品質管理により不良品が除かれた大型のガスケットを用意する必要があり、コスト増にもなる。
これに対し、接着シール部材81,82の場合、上記のように、弱接着シール部材82の充填作業と、強接着シール部材81の塗布作業によりシール部材が設定できるため、ガスケットに比べ接合作業性が高くなる。加えて、作業用容器に入れられたウレタン系接着剤を用意するだけで良く、液状の接着剤を無駄なく使えるため、ガスケットに比べコスト減になる。
【0049】
実施例1では、接着シール部材を、強接着シール部材81と、強接着シール部材81より接着強度を弱めた弱接着シール部材82と、によって構成した。そして、バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aのうち、段差変形部83に対応する領域に設けた凹領域85に、弱接着シール部材82を充填し、凹領域85を含む外周縁部11aに沿って、強接着シール部材81を全周にわたって連続して介装する構成を採用した(図5)。
すなわち、強接着シール部材81を、バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aの全周にわたって連続して介装したことで、シールが介装される全周で水密性能や入力耐久性能のバラツキが抑えられ、上記要求されるシール性能が確保される。そして、凹領域85の接合構成は、図10に示すように、下側の弱接着シール部材82の上に強接着シール部材81が重ねられた構成となり、この部分により接合脆弱部84が設定される。
したがって、接着シール部材として、全周の強接着シール部材81と、強接着シール部材81と一部分で重合する弱接着シール部材82を用いることで、要求されるシール性能の確保と、接合脆弱部84の設定と、の両立が図られる。
【0050】
実施例1では、凹領域85に充填した弱接着シール部材82の上面を、バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aの一般面と同一面にする構成を採用した(図10)。
したがって、同じ断面形状を持つ強接着シール部材81を、バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aの全周にわたって連続して介装できることで、シールが介装される全周で水密性能や入力耐久性能の均等化が図られ、要求されるシール性能が安定して確保される。
【0051】
[内圧発生時におけるバッテリケースの圧力開放作用]
上記のように、正常な状況ではシール性能が要求されるものの、ケース内でのガス発生により内圧が上昇したときには、シール性能を断ち、内部ガスをケース外部に排出するヒューズ機能が要求される。以下、図11及び図12に基づき、これを反映する内圧発生時におけるバッテリケースの圧力開放作用を説明する。
【0052】
実施例1では、バッテリパックアッパーカバー12に、高さ方向に高低差を持つ段差変形部83が設けられる。そして、全周にわたって連続する接着シール部材81,82のうち、段差変形部83に対応する領域に、他の接合部よりも接合強度が低い接合脆弱部84が設定される(図6)。
【0053】
したがって、ケース室の内部に配置されたバッテリモジュール2からガスが発生し、ケース室の内圧が高まったとき、ケース構造のうち、最もケース中心側に突出した部分、つまり、バッテリパックアッパーカバー12の段差変形部83に、図11の矢印Gに示すように、内圧が集中する。
ここで、段差変形部83に内圧が集中する理由を詳しく説明する。ケース内に閉じ込められたガスの圧力が高まったとき、そのケース内面にかかる圧力(内圧)を全ケース内面一定にしようとする。つまり、極端にいえばケースを球体にする(全内面がその球体になったときの中心から同じ距離にする)ように作用する。しかし、ケースの剛性は、その内圧で、球体までに変形できるほど弱くないため、基本形状を保ったままで小さく変形するにとどまる。よって、球体に近くない部分(ケースが球体になったときの仮想中心から同じ距離にある仮想ケース内面と相違が大きい部分)を強く押し出し、球体に近い部分(仮想ケース内面と相違が少ない部分)は弱く押し出すことになる。なお、実際はケース形状が複雑なため、圧力分布も複雑であるが、概念としては、球体に近くない部分を強く押し出すことに変わりない。この強く押し出すという作用が内圧集中である。したがって、ケースの中心側(内側)に凹んだ(逆に言えば、中心側に突出した)部分である段差変形部83に内圧が集中する。
【0054】
この内圧集中により、段差変形部83において、高さ方向の段差の高低差を無くす方向(図11のHに示す仮想線方向)、つまり、低い段差から高い段差へと向かう高さ方向にバッテリパックアッパーカバー12を変形させる。このカバー変形により、段差変形部83に対応する領域に設定された接合脆弱部84の接合が剥離し、バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aからバッテリパックアッパーカバー12の外周縁部12aが離れ(図11の変形後のアッパーカバー)、接合脆弱部84に開口Iが形成される。このため、ケース室の内圧がガスの発生により高まったとき、バッテリパックアッパーカバー12を破断させたり破損させたりすることなく、図12の矢印Jに示すように、接合脆弱部84の開口Iから内部ガスが外部へ排出される。
【0055】
このように、バッテリパックアッパーカバー12の段差変形部83に内圧が集中すると、バッテリパックアッパーカバー12の変形を促し、カバー変形に伴い接合脆弱部84が剥離してケース室と外気を連通させる開口Iが形成される構成とした。このため、ケース室の内圧がガスの発生により高まったとき、接合脆弱部84の離間開口により内部ガスを外部へ排出することができる。
【0056】
実施例1では、バッテリパックアッパーカバー12の上面部分に、第1平面部12bと第2平面部12cと第1傾斜面12dと第3平面部12eと第2傾斜面12fを形成し、左右側面部分に、左傾斜側面12g及び右傾斜側面12hを形成した。そして、段差変形部83を、上面部分と左右側面部分とが交わる第1稜線83aと第2稜線83bと第3稜線83cと第4稜線83dと第5稜線83eにより形成する構成を採用した(図4)。
すなわち、段差変形部83は、図11のHに示すように、第1稜線83aの端部と第5稜線83eの端部を結ぶ線に対し、第2稜線83bと第3稜線83cと第4稜線83dが車両下方向に陥没し、ケース構造で最もケース中心側に突出した部分になる。このため、ケース室の内圧が高まったとき、車両下方向に陥没した第2稜線83bと第3稜線83cと第4稜線83dに内圧が集中する。この内圧集中により、第2稜線83bと第3稜線83cと第4稜線83dの車両下方向陥没を無くす方向にバッテリパックアッパーカバー12を大きく変形させる。
したがって、ケース室の内圧上昇に対して、大きなカバー変形性を持たせた段差変形部83が形成されることで、ケース室の内圧がガスの発生により高まったとき、確実にカバー変形による接合脆弱部84からの圧力が開放される。
【0057】
なお、バッテリパックアッパーカバー12の上面部分に、第1平面部12bと第2平面部12cと第1傾斜面12dを形成し、左右側面部分に、左傾斜側面12g及び右傾斜側面12hを形成する。そして、段差変形部83を、上面部分と左右側面部分とが交わる第1稜線83aと第2稜線83bと第3稜線83cにより形成しても良い。
この場合、内圧集中により、第1稜線83aと第2稜線83bがなす折れ線角度と、第2稜線83bと第3稜線83cの折れ線角度と、を延ばす方向にバッテリパックアッパーカバー12を変形させる。
したがって、ケース室の内圧上昇に対して、十分なカバー変形性を持たせた段差変形部83が形成されることで、ケース室の内圧がガスの発生により高まったとき、カバー変形による接合脆弱部84からの圧力が開放される。
【0058】
次に、効果を説明する。
実施例1の車載用バッテリパックの圧力開放構造にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0059】
(1) バッテリパックケース1を、バッテリパックロアフレーム11とバッテリパックアッパーカバー12によって構成し、前記バッテリパックロアフレーム11にバッテリモジュール2を配置した車載用バッテリパックにおいて、
前記バッテリパックロアフレーム11に対し前記バッテリパックアッパーカバー12を、それぞれの外周縁部11a,12aに沿って全周にわたって連続するシール部材(強接着シール部材81、弱接着シール部材82)を介して接合固定し、
前記バッテリパックアッパーカバー12に、少なくとも高さ方向に高低差を持つ段差変形部83を設け、
前記全周にわたって連続するシール部材(強接着シール部材81、弱接着シール部材82)のうち、前記段差変形部83に対応する領域に、他の接合部よりも接合強度が低い接合脆弱部84を設定した(図6)。
このように、バッテリパックアッパーカバー12の段差変形部83に内圧が集中すると、バッテリパックアッパーカバー12の変形を促し、カバー変形に伴い接合脆弱部84が剥離してケース室と外気を連通させる開口Iが形成される構成とした。このため、ケース室の内圧がガスの発生により高まったとき、接合脆弱部84の離間開口により内部ガスを外部へ排出することができる。
【0060】
(2) 前記バッテリパックアッパーカバー12の上面部分に、第1平面部12bと、前記第1平面部12bより低い第2平面部12cと、前記第1平面部12bと前記第2平面部12cを繋ぐ第1傾斜面12dと、を形成し、
前記バッテリパックアッパーカバー12の左右側面部分に、前記第1平面部12bと前記第2平面部12cと前記第1傾斜面12dの車幅方向端部から斜め下方に延びる左傾斜側面12g及び右傾斜側面12hを形成し、
前記段差変形部83を、前記左右傾斜側面12g,12hと前記第1平面部12bが交わる第1稜線83aと、前記左右傾斜側面12g,12hと前記第1傾斜面12dが交わる第2稜線83bと、前記左右傾斜側面12g,12hと前記第2平面部12cが交わる第3稜線83cと、を有して形成した(図4)。
このため、(1)の効果に加え、ケース室の内圧上昇に対して、十分なカバー変形性を持たせた段差変形部83が形成されることで、ケース室の内圧がガスの発生により高まったとき、カバー変形による接合脆弱部84からの圧力を開放することができる。
【0061】
(3) 前記バッテリパックアッパーカバー12の上面部分に、前記第1平面部12bより低いが前記第2平面部12cより高い第3平面部12eと、前記第3平面部12eと前記第2平面部12cを繋ぐ第2傾斜面12fと、を加え、
前記段差変形部83を、前記第1稜線83aと前記第2稜線83bと前記第3稜線83cに、前記左右傾斜側面12g,12hと前記第2傾斜面12fが交わる第4稜線83dと、前記左右傾斜側面12g,12hと前記第3平面部12eが交わる第5稜線83eと、を加えて形成した(図4)。
このため、(2)の効果に加え、段差変形部83によるカバー変形性がより高められることで、ケース室の内圧がガスの発生により高まったとき、応答良く、且つ、確実にカバー変形による接合脆弱部84からの圧力を開放することができる。
【0062】
(4) 前記シール部材として、環境条件や入力負荷条件が成立する接着強度を持つウレタン系接着剤による接着シール部材(強接着シール部材81、弱接着シール部材82)を用いた(図7図10)。
このため、(1)〜(3)の効果に加え、バッテリパックBPに要求されるシール性能を確保することができるのに加え、シール部材としてガスケットを用いる場合に比べ、接合作業性を良好にすることができると共に、コスト低減を図ることができる。
【0063】
(5) 前記接着シール部材を、強接着シール部材81と、前記強接着シール部材81より接着強度を弱めた弱接着シール部材82と、によって構成し、
前記バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aのうち、前記段差変形部83に対応する領域に設けた凹領域85に、前記弱接着シール部材82を充填し、
前記バッテリパックロアフレーム11の前記凹領域85を含む外周縁部11aに沿って、前記強接着シール部材81を全周にわたって連続して介装した(図5)。
このように、接着シール部材として、全周の強接着シール部材81と、強接着シール部材81と一部分で重合する弱接着シール部材82を用いることで、(4)の効果に加え、要求されるシール性能の確保と、接合脆弱部84の設定と、の両立を図ることができる。
【0064】
(6) 前記凹領域85に充填した前記弱接着シール部材82の上面を、前記バッテリパックロアフレーム11の外周縁部11aの一般面と同一面にした(図10)。
このため、(5)の効果に加え、シールが介装される全周でシール性能の均等化が図られることで、要求されるシール性能を安定して確保することができる。
【0065】
以上、本発明の車載用バッテリパックの圧力開放構造を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0066】
実施例1では、段差変形部83として、バッテリパックアッパーカバー12の上面部分と左右側面部分とが交わる第1稜線83aと第2稜線83bと第3稜線83cと第4稜線83dと第5稜線83eにより形成する例を示した。しかし、段差変形部としては、例えば、バッテリパックアッパーカバーの上面部分と左右側面部分とが交わる第1稜線と第2稜線と第3稜線により形成する例としても良い。すなわち、段差変形部としては、少なくとも高さ方向に高低差を持つ部分であって、ケース室の内圧が上昇し、内圧が集中すると、バッテリパックアッパーカバーの変形を促すような構造であれば、具体的な形状は、実施例1の形状に限られることはない。
【0067】
実施例1では、シール部材として、ウレタン系接着剤による強接着シール部材81と弱接着シール部材82を用いる例を示した。しかし、シール部材としては、ガスケットシール部材を用いても良いし、また、ガスケットシール部材と接着シール部材を組み合わせて用いても良く、具体的なシール部材の素材は、実施例1のウレタン系接着剤に限られることはない。
【0068】
実施例1では、接合脆弱部84として、全周にわたって連続する強接着シール部材81のうち、段差変形部83に対応する一部の領域に、弱接着シール部材82を重ね合わせることで設定する例を示した。しかし、接合脆弱部としては、シール部材の素材や組み合わせ等に応じて、他の接合部よりも接合強度が低い部分を設定するものであれば、具体的な接合脆弱部の設定は、実施例1に限られることはない。
【0069】
実施例1では、本発明の圧力開放構造を走行用駆動源として走行用モータのみを搭載したミニバンタイプの電気自動車に適用する例を示した。しかし、本発明の車載用バッテリパックの圧力開放構造は、ミニバンタイプ以外に、セダンタイプやワゴンタイプやSUVタイプ等の様々な電気自動車に適用できるのは勿論である。さらに、走行用駆動源として走行用モータとエンジンを搭載したハイブリッド車に対しても適用することができる。要するに、バッテリパックが搭載された電動車両であれば適用することができる。
【関連出願の相互参照】
【0070】
本出願は、2012年9月14日に日本国特許庁に出願された特願2012−202472に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。
図1
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図5
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図7
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図11
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