(54)【発明の名称】処理済み液晶ポリマーパウダー、これを含むペーストおよび、それらを用いた液晶ポリマーシート、積層体、ならびに処理済み液晶ポリマーパウダーの製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記紫外線を照射する工程は、低圧水銀灯またはエキシマランプで紫外線を照射することによって行なわれる、請求項5または6に記載の処理済み液晶ポリマーパウダーの製造方法。
前記液晶ポリマーパウダー分散液を得る工程より前に、二軸配向された液晶ポリマーフィルムを粉砕して液晶ポリマーパウダーを得る工程を含む、請求項5から8のいずれかに記載の処理済み液晶ポリマーパウダーの製造方法。
前記液晶ポリマーパウダーを得る工程は、前記液晶ポリマーフィルムを凍結させた状態で粉砕することによって行なう、請求項9に記載の処理済み液晶ポリマーパウダーの製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に基づく実施の形態1における処理済みLCPパウダーの概念図である。
【
図2】本発明に基づく実施の形態1における処理済みLCPパウダーにプラズマを照射する様子の説明図である。
【
図3】本発明に基づく実施の形態1における処理済みLCPパウダーに紫外線を照射する様子の説明図である。
【
図4】本発明に基づく実施の形態2におけるペーストの概念図である。
【
図5】本発明に基づく実施の形態2で示す実験例1における試料作製作業の第1の説明図である。
【
図6】本発明に基づく実施の形態2で示す実験例1における試料作製作業の第2の説明図である。
【
図7】本発明に基づく実施の形態2で示す実験例1における試料作製作業の第3の説明図である。
【
図8】本発明に基づく実施の形態2で示す実験例1におけるTピール試験の説明図である。
【
図9】本発明に基づく実施の形態2で示す実験例1におけるTピール試験の結果を示すグラフである。
【
図10】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法のフローチャートである。
【
図11】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法の第1の工程の説明図である。
【
図12】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法の第1の工程で得られるLCPパウダー分散液の概念図である。
【
図13】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法の第2の工程の第1の説明図である。
【
図14】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法の第2の工程の第2の説明図である。
【
図15】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法の第3の工程の説明図である。
【
図16】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法の第3の工程の変形例の第1の説明図である。
【
図17】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法の第3の工程の変形例の第2の説明図である。
【
図18】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法の好ましい例のフローチャートである。
【
図19】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法によって得た処理済みLCPパウダーを用いて基材の表面に膜を形成した例の断面図である。
【
図20】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法によって得た処理済みLCPパウダーを用いて積層体の途中に機能膜を介在させた例の断面図である。
【
図21】本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法によって得た処理済みLCPパウダーを用いて積層体内部の樹脂層の任意の領域に印刷した例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、「処理前の液晶ポリマーパウダー」を単に「LCPパウダー」と称し、「処理済み液晶ポリマーパウダー」を「処理済みLCPパウダー」と称する。
【0014】
(実施の形態1)
図1〜
図3を参照して、本発明に基づく実施の形態1における処理済みLCPパウダーについて説明する。本実施の形態における処理済みLCPパウダーは、
図1に拡大して示すように、プラズマまたは紫外線による表面処理を施した処理済みLCPパウダー101である。処理済みLCPパウダー101は、基本的には、
図2に示すようにLCPパウダー1にプラズマ2を照射するか、あるいは、
図3に示すようにLCPパウダー1に紫外線3を照射するかの少なくともいずれか一方による表面処理を行なって得たものである。このような表面処理をすることによって、LCPパウダー1は表面が改質され、処理済みLCPパウダー101となる。
【0015】
本実施の形態における処理済みLCPパウダー101は、材質はLCPでありながら、プラズマまたは紫外線による表面処理が施されているので、接合性が向上している。粒子同士の接合性が高いので、LCPの融点以上の温度に上げなくとも互いに接着させることができる。
【0016】
処理済みLCPパウダー101においては、粒子同士の接合性が増しているので、処理済みLCPパウダー101を塗布することによって膜を形成した場合、その膜の強度が上がる。また、LCP粒子同士の接合がしやすくなるだけでなく、たとえばLCP基板とLCP粒子との間での接合もしやすくなる。したがって、LCP基板の表面に処理済みLCPパウダーを塗布することによって成膜した場合にはその膜とLCP基板との間の接合強度が増すことになる。
【0017】
処理済みLCPパウダー101においては、粒子同士の接合性が増しているので、分散媒によって分散させなくともそのまま粉体成形を行なうことができる。射出成型の場合には、溶融した樹脂の流れの境目、すなわち、いわゆるウェルドラインの発生が問題となるが、粉体成形であれば、ウェルドラインが発生することもなく、良好に成形することができる。
【0018】
以上のように、本実施の形態における処理済みLCPパウダーによれば、不所望な流動や変形または不十分な接合性に起因する問題を解消することができる。
【0019】
(実施の形態2)
図4を参照して、本発明に基づく実施の形態2におけるペーストについて説明する。本実施の形態におけるペースト201は、上述の処理済みLCPパウダー101と、分散媒5とを含む、ペーストである。すなわち、ペースト201は、実施の形態1で説明したような表面処理を施した処理済みLCPパウダー101を分散媒5と混合させ、混練して得られたものである。
【0020】
本実施の形態では、プラズマまたは紫外線による表面処理を施すことによって接合性が高まった処理済みLCPパウダー101を用いて作製されたペーストであるので、接着力が高くなっている。特に、処理済みLCPパウダー101単体の場合に比べて、ペースト状となっていることから扱いやすく、作業が容易となる。
【0021】
分散媒5としては、たとえばエタノール、ターピネオール、ブチルラクトン、イソプロピルアルコールなどを用いることができる。
【0022】
(実験例1)
以下に、本発明に基づく処理済みLCPパウダーを作製し、その性能を測定した例について説明する。用いたものは以下のとおりである。
【0023】
LCPパウダー:厚み50μmのLCPフィルムを凍結粉砕したものを40μmメッシュのふるいにかけ、このふるいを通過したもののみを集めたもの。
【0024】
基材としてのフィルム:厚み125μmで、150mm×150mmの正方形のLCPフィルム。
【0025】
分散媒:エタノール。
上述のように用意されたLCPパウダーを、純水が入ったビーカーに、水面を覆う程度に投入した。さらに株式会社魁半導体製の粉体プラズマ処置装置によって、LCPパウダーが水と混和して分散するまで表面処理を行なった。なお、上記粉体プラズマ処理装置は、液体中で大気圧プラズマ処理を行なうもので、水を誘電体として用いた誘電体バリア放電プラズマ装置である。こうして処理済みLCPパウダーの分散液を得た。
【0026】
処理済みLCPパウダーの分散液から処理済みLCPパウダーをろ過回収し、乾燥させた。
【0027】
次に、処理済みLCPパウダーと分散媒とを1:2の比率で混合させ、混練することによってペーストを作製した。
【0028】
基材としてのフィルムは複数枚用意しておく。各基材の接合予定面には適宜必要な表面処理を行なっておく。この基材の1枚(以下「第1の基材」という。)の接合予定面に対して、スクリーン印刷法を用いて、上述のペーストを80μmの厚みで塗布した。
【0029】
ペーストを塗布した第1の基材を、ホットプレート上で80℃で1分間加熱することによって乾燥させた。ペーストを塗布してこのように乾燥させた後の面を、以下「ペースト塗布面」と呼ぶものとする。
図5に示すように、第1の基材41のペースト塗布面にもう1枚の基材としてのフィルム(以下「第2の基材」という。)42を重ねる。この際には、第2の基材42の接合予定面が第1の基材41のペースト塗布面に接するように重ねる。
図5において、第1の基材41の上面はペースト塗布面であるが、第2の基材42の下面にはペーストは塗布されていない。
【0030】
このようにして第1の基材と第2の基材とが重なった状態のものに対して、プレス加工を行なった。このプレス加工の条件は、280℃、6MPa、10分間とした。これにより、
図6に示すように、第1の基材41と第2の基材42とは、接合された。接合面には先ほど塗布したペーストからなる層が挟み込まれている。
【0031】
次に、
図7に示すように、貼り合わせられた基材を幅5mmの短冊形状となるように切断した。この際、短冊形状の長手方向91は、基材としてのフィルムを当初成形した際の引張加工方向と一致するようにした。
【0032】
図7に示した短冊形状の貼合せ体に対して、Tピール試験を行なった。Tピール試験とは、
図8に示すように、引き剥がすこととし、必要な力の大きさからTピール強度を求めるものである。ここでは、平均速度が50mm/分となる速度条件で引き剥がし続けることとし、必要な力を測定した。得られた力の大きさをこの短冊形状の幅すなわち5mmで割った値がTピール強度となる。
【0033】
LCPパウダーに対して上述のようにプラズマによる表面処理を行なった場合の他に、表面処理をしなかった場合についても同様に短冊形状の試料を作製してTピール試験を行なった。表面処理をしなかった場合の試料とは、すなわち、表面処理を施していないLCPパウダーを用いてペーストを作成し、第1の基材41に塗布した上で、第2の基材42と接合したものである。
【0034】
各試料におけるTピール試験の結果を
図9に示す。この結果から、プラズマによる表面処理をした場合は、表面処理をしない場合に比べてTピール強度が上がっていることがわかった。Tピール強度が上がっているということは、フィルム同士の接合性が改善されているということに他ならない。
【0035】
(実施の形態3)
図10〜
図15を参照して、本発明に基づく実施の形態3における処理済みLCPパウダーの製造方法について説明する。本実施の形態における処理済みLCPパウダーの製造方法のフローチャートを
図10に示す。処理済みLCPパウダーの製造方法は、LCPパウダーを分散媒に分散して、LCPパウダー分散液を得る工程S1と、少なくとも一方が透光性部材である2つの部材の間に、前記LCPパウダー分散液を配置する工程S2と、前記透光性部材を介して前記LCPパウダー分散液に紫外線を照射する工程S3とを含む。工程S1,S2,S3はこの順に行なわれる。本実施の形態で示す最初の例では、工程S2でいうところの「2つの部材」は、互いに平行な2枚の板である。各工程について以下に詳しく説明する。
【0036】
工程S1では、
図11に示すようにLCPパウダー1を分散媒6に分散して
図12に示すようにLCPパウダー分散液7を得る。
【0037】
実施の形態2で示した分散媒5は、処理済みLCPパウダーを分散させることによってペーストを作り、そのペーストを使用するためのものであった。これに対して、本実施の形態における分散媒6は、LCPパウダーに対して紫外線による表面処理を行なうために、LCPパウダーを一時的に分散させるものである。分散媒6は、分散媒5と同じ種類の液体であってもよいが、異なる種類の液体であってもよい。
【0038】
工程S2では、たとえば次に示すような手順で作業を行なう。
図13〜
図15に示す板8a,8bは平板である。LCPパウダー分散液7を、
図13に示すように板8aの上に滴下する。
図14に示すように、板8aの上面にLCPパウダー分散液7が載ったものに対して、上方から板8bを被せる。板8a,8bは両方またはいずれか一方が透光性板である。ここでいう透光性板は、石英板であることが好ましい。透光性板が石英板であれば、紫外線を透過させたときの光の損失を少なく抑えられるからである。透光性板としては、254nmの波長の紫外線を十分透過できるものが好ましい。さらに好ましくは、254nmの波長に加え185nmの波長の紫外線も透過させるものを透光性板として用いることが好ましい。ここでは、板8a,8bの両方が石英板であるものとして説明を続ける。板8a,8bによって挟み込まれることによって、LCPパウダー分散液7はきわめて薄く広がって保持される。
【0039】
工程S3として、
図15に示すように、板8a,8bでLCPパウダー分散液7を挟み込んだものに対して、紫外光源10から、紫外線3を照射する。ここでは、板8a,8bの両方が石英板であって透光性を有しているので、紫外光源10は板8a,8bの両方の側に配置されている。紫外線3を照射する工程S3は、低圧水銀灯またはエキシマランプで紫外線3を照射することによって行なわれることが好ましい。本実施の形態では、紫外光源10として低圧水銀灯を用いた。この工程S3によりLCPパウダー分散液7に含まれたLCPパウダーは、紫外線による表面処理を施した「処理済みLCPパウダー」へと変化する。
【0040】
工程S3を終えた後に、板8a,8bの間に挟まれていたLCPパウダー分散液7を回収する。この時点では、LCPパウダー分散液7には、処理済みLCPパウダー101が含まれているといえる。必要に応じて、LCPパウダー分散液7から処理済みLCPパウダー101を回収する。LCPパウダー分散液7からの処理済みLCPパウダー101の回収は、ろ過し、乾燥させることによって可能である。
【0041】
本実施の形態では、互いに平行な2枚の板の間に、LCPパウダー分散液を配置した状態でLCPパウダー分散液への紫外線照射を行なっているので、全体に均一に紫外線照射を行なうことができる。したがって、LCPパウダーの全体にわたって均一に接合性の改善を施すことができる。
【0042】
図15に示した例では、板8a,8bの両方が透光性板であったが、一方が透光性板であって他方は非透光性板であってもよい。その場合は、紫外光源10は、透光性板の側にのみ配置することとしてよい。その場合は、2枚の板の間に挟まれたLCPパウダー分散液7に対して、一方の側からのみ紫外線を照射することとなる。
【0043】
ここまで、工程S3のひとつの例として
図15を示して説明したが、工程S3としては、
図15に示したような透光性板以外の透光性部材を用いることもできる。たとえば、
図16に示すように、透光性の管状体を介して紫外線を照射することによっても処理を行なうことができる。
【0044】
この例では、工程S3を行なうに当たって、内層管51と、外層管52とを用いる。内層管51は透光性の管状体である。内層管51は石英で形成されている。内層管51は、中間部においては管状であり、一方の端が閉じている。
図16に示した例では、内層管51の閉じた側の端は半球形となっている。
図16における上下関係でいえば、内層管51は下端が閉じており、上端が開口部51cとなっている。外層管52は上端に開口部52cを有する。外層管52は外周面の下部に側方を向いた供給口52aを有する。外層管52は外周面の上部に側方を向いた排出口52bを有する。
図16に示すように、内層管51は、開口部52cから外層管52の内部に挿入される。石英からなる内層管51の内部に開口部51cから棒状の紫外光源10を挿入する。外層管52の開口部52cは蓋部材53によって塞がれる。ただし、蓋部材53は中央に貫通穴があいている。組み立てた後の状態を
図17に示す。
図16および
図17で示した供給口52aおよび排出口52bの形状、位置および数は、あくまで一例であり、このとおりとは限らない。
【0045】
内層管51と外層管52とによって二重管構造の紫外線照射装置が形成されている。内層管51と外層管52とに挟まれた間隙にLCPパウダー分散液7が流される。LCPパウダー分散液7は、供給口52aから外層管52の内部に供給され、排出口52bから排出される。紫外光源10が透光性部材である内層管51の内側に配置されており、紫外光源10から発せられる紫外光は、内層管51を透過してLCPパウダー分散液7に入射する。
【0046】
図16および
図17に示した方法では、外層管52と内層管51とを同芯状に配置することにより、外層管52の壁と内層管51の壁との間の距離は一定となり、LCPパウダー分散液7に対する均質な紫外線照射処理が実現できる。
【0047】
図15に示したような方法で工程S3を行なう場合、紫外光源10は全方向に紫外線を出射するので、大部分の紫外線が本処理に寄与せずにロスになっていた。一方、
図17に示した紫外線照射装置では、紫外光源10はLCPパウダー分散液によってほぼ覆われる位置に設けられているので、紫外光源10から出射した紫外線はほとんどが漏れ出さずにLCPパウダー分散液7に吸収されることになり、エネルギーのロスが最小に抑えられる。発明者らが検証した結果、
図17に示した方法によれば、
図15に示す紫外線照射方法と比較して、約80%のエネルギーすなわち電力の削減を実現することができた。
【0048】
図16および
図17に示した方法で工程S3を行なう場合の処理済み液晶ポリマーパウダーの製造方法は、整理すると以下のように表現することができる。
【0049】
ここでいう処理済み液晶ポリマーパウダーの製造方法は、液晶ポリマーパウダーを分散媒に分散して、液晶ポリマーパウダー分散液を得る工程と、外層管と、前記外層管の内部に配置され、透光性部材である内層管との間に、前記液晶ポリマーパウダー分散液を配置する工程と、前記内層管の内側から前記内層管を介して前記液晶ポリマーパウダー分散液に紫外線を照射する工程とを含む。
【0050】
(実験例2)
以下では、本実施の形態における処理済みLCPパウダーの製造方法を実施した例について説明する。
【0051】
エタノールと純水とを1:1の比率で混合した液を調製した。これを以下「混合液」という。混合液は
図11における分散媒6に相当する。工程S1として、LCPパウダーを、LCPパウダー:混合液=1:2の比率で混合し、LCPパウダー分散液を得た。これは、
図12におけるLCPパウダー分散液7に相当する。
【0052】
工程S2として、
図14における板8a,8bとして250mm×250mmで厚み4mmの合成石英板を2枚用意し、そのうち1枚の上にLCPパウダー分散液を10ml滴下し、もう1枚で覆って挟み込んだ。工程S3として、挟み込まれたLCPパウダー分散液に対して、一方の面から低圧水銀灯による紫外線照射装置で、波長254nmの積算光量が2000mJになるまで紫外線を照射した。反対側の面からも同じ積算光量となるように紫外線を照射した。
【0053】
合成石英板の間からLCPパウダー分散液を回収し、このLCPパウダー分散液をろ過し、乾燥させることによって処理済みLCPパウダーを回収した。
【0054】
この後、実験例1で説明したように、処理済みLCPパウダーを分散媒としてのエタノールと混合させ、混練することによってペーストを作製した。さらに、このペーストを用いて実験例1と同様に試料を作製し、Tピール試験を行なった。結果を
図9に示す。
【0055】
その結果、プラズマ処理によって表面処理を行なった場合よりもさらにTピール強度が上がっていることがわかった。Tピール強度が上がっているということは、フィルム同士の接合性が改善されているということに他ならない。すなわち、優れた接合性を確認することができた。
【0056】
(LCPパウダーを得る工程)
なお、本実施の形態においては、
図18にフローチャートで示すように、LCPパウダー分散液を得る工程S1より前に、二軸配向されたLCPフィルムを粉砕してLCPパウダーを得る工程S0を含むことが好ましい。この方法を採用すれば、予めLCPパウダーを用意しておかなくても、入手容易なLCPフィルムから処理済みLCPパウダーを得ることができる。二軸配向されたLCPフィルムを用いているので、粉末の粒子が繊維状ではなく球形に近いLCPパウダーを得ることができる。LCPフィルムの粉砕には公知の粉砕装置を適宜使用することができる。
【0057】
なお、LCPパウダーを得る工程S0は、LCPフィルムを凍結させた状態で粉砕することによって行なうことが好ましい。この方法を採用すれば、LCPは凍結した状態で粉砕されるので、効率良く粉砕して微小な粒子を得ることができる。
【0058】
なお、たとえばペレット状の一軸配向であるLCPを粉砕したものでは、LCPが長尺の繊維状となり、パウダー状となりにくいので好ましくない。
【0059】
(機能膜の形成)
さらに、本発明によって接合性を増した処理済みLCPパウダーによれば、他の粒子状のものを混入させることによって機能膜を形成することができる。たとえば低誘電率層を得たい場合、ガラス製の微小な中空球体を混入させることが考えられる。
【0060】
(実験例3)
本実施の形態で説明した工程S1〜S3を行なって得たLCPパウダー分散液に、ガラス製の微小な中空球体として住友スリーエム株式会社製のグラスバブルズiM30Kを、重量%で25%となるように添加した。これにより、エタノール、純水、LCP、グラスバブルスがすべて同量で25重量%ずつとなる。市販されているグラスバブルズiM30Kは、50%粒子径が16μmであり、真密度が0.60g/cm
2である。LCP自体は比重1.4g/cm
2であるので、グラスバブルズiM30Kは、LCPを含めた全固形分中において重量比で50%であり、体積比で約70%となる。
【0061】
この後、処理済みLCPパウダーおよびグラスバブルズiM30K(以下「ガラス微小中空球」という。)の混合物を、分散媒としてのエタノールと混合させ、混練することによってペーストを作製した。さらに、このペーストを用いて基材表面に塗布を行なうことによって、
図19に示すように、LCPを含む膜を形成した。基材43の表面に膜44が形成されており、膜44は処理済みLCPパウダー101を含んでいるが、ガラス微小中空球12を多数含んでいる。
【0062】
その結果、優れた接合性が得られると同時に低誘電率の膜とすることができた。LCPのみで同じ程度の低誘電率の膜を得ようとした場合、厚みを大きくしなければならないところであるが、膜44の場合は、小さな厚みでありながら低誘電率の膜とすることができている。低誘電率の膜とすることにより、損失が少なくなるので、高周波帯域における伝送特性の改善をすることができる。
【0063】
また、同時に膜44は、熱膨張係数が小さな膜とすることも実現できている。したがって、熱衝撃に対する耐性を改善することにも貢献している。
【0064】
ここでは、フィラーの一例としてガラス微小中空球を用いたが、フィラーはガラス微小中空球に限らない。処理済みLCPパウダーに他の種類のフィラーを混入させることによって、他の所望の特性を変化させることもできる。処理済みLCPパウダーは、接合性が増しているので、何らかのフィラーを混入してもその状態で塗布され加圧された後、安定して膜を形成することができる。誘電率を上げたい場合にも下げたい場合にも、熱膨張係数を上げたい場合にも下げたい場合にも、適切なフィラーを選択して適切な量だけ混入させることで特性を調整することができ、所望の機能膜を得ることができる。誘電率、熱膨張係数に限らず、他のパラメータに関しても同様である。
【0065】
樹脂層の積層体を形成する際に、
図20に示すように、上述のようなフィラーを混入させた機能膜45を途中の層に適宜介在させることによって、積層体300全体の特性を調整することも考えられる。ある層の全体を機能膜45とする以外に、特定の層における平面的に見た部分的な領域のみを機能膜45とすることとしてもよい。
【0066】
積層体を構成する樹脂層の表面に導体パターンが配置されており、その導体パターンにおける隣接樹脂層との間の剥離が問題となるような場合には、上述のようなフィラーを混入させた機能膜45を積層体内部の導体パターンを有する樹脂層の任意の領域に印刷することによって、層間剥離を抑制することができる。このような構成を
図21に例示する。積層体301の内部でいくつかの樹脂層において一部の領域に機能膜45が印刷によって形成されている。
【0067】
たとえば各種パターンを表面に形成した熱可塑性樹脂シートを積層することによって積層体を作製しようとする場合に、各熱可塑性樹脂シートの表面のパターンの有無、パターン密度の偏り、内蔵部品の有無などにより、平面的に見た一部の領域において積層体の厚みが不足し、結果的に積層体の表面に不所望な段差が生じる場合がある。そのように厚みが不足する領域において、熱可塑性樹脂シートの表面に、本発明に基づくLCPパウダーを含むペーストを予め塗布しておくことにより、このペーストによって形成される層の厚みを以て、積層体の表面に生じる不所望な段差を解消することも可能である。
【0068】
(その他の実施の形態)
上記実施の形態では、処理済みLCPパウダー101を用いたペーストによって積層体内に樹脂層を形成する例について説明したが、処理済みLCPパウダー101を用いたペーストをシート状に構成し、これを単層の液晶ポリマーシートとして用いてもよい。その場合も、プラズマ処理または紫外線処理によりペースト中のLCP粒子同士が接合しやすくなっているので、液晶ポリマーシートを容易に作製することが可能になる。特に上述の単層の機能膜45を得たい場合に、特定のフィラーなどを含む機能膜45を容易に作製することが可能となる。また、このようにして作成された液晶ポリマーシートを積層体の特定の層に配置したり積層したりしてもよい。
【0069】
なお、上記実施の形態では、処理済みLCPパウダー101を分散媒に混合し、混練したペーストによって樹脂層を形成していたが、分散媒を使用せずに処理済みLCPパウダー101を熱圧着などによりシート化することによって、液晶ポリマーシートを得るようにしてもよい。その場合も、プラズマ処理または紫外線処理により処理済みLCPパウダー101同士が接合しやすくなっているので、液晶ポリマーシートを熱圧着により容易に作製することが可能になる。
【0070】
上述のように、処理済みLCPパウダーまたはペーストをシート化してなる液晶ポリマーシートを樹脂層として含むように積層体を構成してもよい。
【0071】
なお、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。