【実施例】
【0016】
以下、図面と共に本発明によるスラブ連続鋳造用装置の好適な実施の形態について説明する。
まず、本発明によるスラブ連続鋳造用装置の説明を行う前に、本出願人が本発明を開発するに到った状況について説明する。すなわち、本発明者らは、スラブ連鋳機において浸漬ノズルからの吐出流によって溶融金属の旋回流を得る方法を特許文献2と特許文献7を参考にして、水モデル実験により検討した。水モデル実験のサイズは実機と同等とし、スラブ厚さ250mm、スラブ幅2000mmのものを用いた。
その結果、以下のことを見出した。
(1) 特許文献2のような吐出孔が4孔のノズルより、特許文献7のような2孔のノズルがより優れる。
(2) 2孔ノズルを用いた場合、吐出流を長辺側に当てる方が好ましい。特許文献7のように短辺側へ向けることはあまり好ましくない。
(3) 吐出方向は鋳型短辺と長辺の交点から長辺の中心方向へ長辺長さの15%から40%の範囲に向けることが好ましい。換言すれば、特許文献2のように45°か、それ以上となることは好ましくなく、また、対角線の方向へ近付け過ぎることも好ましくない。
この知見を基に実機への適用を検討した。
【0017】
上述の(2)について、特許文献7では、特許文献2を引用し、長辺に吐出流が当たることで、凝固遅れや凝固殻の再溶解が起こり、著しい場合にはブレークアウトが発生するとしていることを懸念している。しかし、特許文献2を詳細に検討すると、検討に用いている方形モールドの縦横比は約2:3であり、吐出方向と各辺がなす角度は約60°と75°である。また、特許文献2の基の発明になる特許文献1では、(45±10)°としている。それに比較し、当知見の技術を適用した場合、長辺側に吐出流が当たるとしても、特許文献2と異なり平行流に近い角度となるため、大きな影響はないものと、発明者らは考えた。
以上の検討の基、実機への適用を試みたところ、良好な旋回流を得た。しかし、鋳込み初期には十分な旋回流が得られていたものが、鋳込み途中から十分な旋回流が得られないという問題が発生した。その原因を検討したところ、要因は2つ有り、ひとつは浸漬ノズル上部にあるストッパー5と上ノズル4の間を流れる溶融金属流の偏流の影響であった。また、ストッパーを用いた流量制御方式では、ストッパー5を上下させ,上ノズル4との間の距離を変更することによって、流量調整を行う。その際,ストッパー5と上ノズル4の芯のずれによって上ノズルを流れる溶融金属流は浸漬ノズル内の片側に寄る傾向があり、吐出流の角度が微妙に変化する。そのため、十分な旋回流が得られないのであった。もう一つはノズル内部に付着する介在物の影響であった。通常、鋳造開始後しばらくすると溶融金属中の介在物が浸漬ノズルの吐出孔周辺に堆積し、溶融金属の吐出流が変化することがある。特に、吐出口の片側に介在物が堆積すると吐出流の方向が鋳込み途中で変化し、十分な旋回流が得られなくなった。
この様な場合においても、鋳型内の溶融金属に十分な撹拌効果得が要求される。これらより、鋳込み途中に吐出方向を変えることができ、さらに浸漬ノズルの交換ができる装置が必須と考え、本発明に至った。
【0018】
図1に、一般的なノズルストッパー方式を用いた鉄鋼スラブ用の浸漬ノズル迅速交換装置を備えた連続鋳造機におけるタンディッシュ1から水冷鋳型2までの溶融金属流通経路の模式図を示す。
タンディッシュ1内に貯められた溶融金属3は、ストッパー5と上ノズル4の間の間隙Dを通じ、下ノズル9を経由して、浸漬ノズルケース10Aを有する浸漬ノズル10に供給される。この際、ストッパー5の上下位置を変化させることで上ノズルとの間の間隙Dの大きさを調整し、溶融金属3の流量を調整する。尚、下ノズル9を用いないで直接上ノズル4から浸漬ノズル10に溶融金属3が供給される場合もある。浸漬ノズル10の吐出口10bから吐出された溶融金属3は、水冷鋳型2で凝固される。
尚、上ノズル4はハウジング13の内側の位置決めガイド7と位置決め押さえ8により保持されている。
次に、ガイドレール26及びクランパー23を有する浸漬ノズル迅速交換機構20は、浸漬ノズル10を保持し、かつ上方へ押し付けるように構成され、下ノズル9の下方に取りつけられ、連々鋳途中で浸漬ノズルの溶損が激しくなり交換する際に、容易に交換できるように構成されている。
【0019】
次に、本発明の構成とその基本作用について、
図2を用いて説明する。
尚、
図1と同一又は同等部分には、同一符号を付している。
本発明は、上ノズル4と浸漬ノズル10の間に鋳造中に任意に水平断面における溶融金属3の吐出角度を変更できる吐出方向変更機構30を設けたことを特徴とするが、鋳造中での角度変更を可能とすることで、旋回流を得るために必要な吐出方向を確保できるという効果があり、良好な旋回流を継続的に得ることが可能となる。特に溶融金属3の吐出方向を変える必要が発生する場合は主として以下の三つの場合である。
【0020】
一つ目は、鋳込み途中で吐出口10b付近に介在物が堆積し、吐出口10bからの吐出方向が鋳込み中に変化する場合である。この吐出方向の変化をモールド内の湯面観察、湯面レベルの変化、水冷鋳型2に設置した温度の変化などから検知し、変化があった場合、吐出口10bの向きを適切な角度へ変更させることで、吐出方向を修正し、適切な吐出方向を維持することが可能となる。
前記鋳型2内の溶融金属3の流れは直接観察することはできないが、鋳型2内の溶融金属3の表面(通常はモールドパウダーが有るためその表面)を観察する事で鋳型2内の溶融金属3の流れを推察する事が可能である。例えば、溶融金属3の表面高さの変動や表面の流れ方(回転の状態)で判断できる。それらを目視で確認する事によって、最適な吐出方向になる様、浸漬ノズル10の取付け角度を調整する。
【0021】
また、溶融金属3の表面高さの変動は、図示しない超音波変位センサーや赤外線変位センサー等の非接触型変位測定装置によって知ることができるし、水冷鋳型2にはブレークアウトを感知する為の図示しない温度計(熱電対等)が設置されており、その温度変化によって現状の吐出方向を知ることもできる。それらの情報を元に吐出角度を変更することも可能であり、自動制御とすることもできる。
【0022】
二つ目は、鋳造中に水冷鋳型2の巾や厚さを変える場合である。水冷鋳型2の幅や厚さが変化すると、それに伴い旋回流を得るための適切な吐出方向も変化する。鋳造中に角度変更を可能とすることで、水冷鋳型2の幅や厚さを変えた場合にも、適切な吐出方向を確保することが可能となる。
三つ目は、非定常な鋳込み状態と定常的な鋳込み状態とで吐出方向を変化させることである。たとえば、鋳込み初期には、水冷鋳型2内では旋回流が発生していない。その状態で旋回流を発生させる場合には、旋回流をより起こしやすい角度にすることで、早期に定常状態に達することが可能となる。一方、一旦鋳型内に旋回流が発生すると溶融金属の慣性力によっても旋回流は維持される。この場合には、ブレークアウトなどがより起こりにくい角度に調整する方がよい。また、連続鋳造時における取鍋交換時や、異鋼種連々の際の鋼種変更時などでは、鋳込み速度を遅くする。この際も非定常となるので、上述の方法によって吐出方向を変化させることでより早く定常状態に達するように操作することもできる。具体的な角度調整方法としては、例えば、鋳込み初期の非定常な状態では、長辺と吐出方向がなす角を大きく取り、その後順次該角度を小さくしていくなどの方法が採用できる。
上述の際に吐出角度を変更するが、それらに限らず必要に応じて鋳込み途中で吐出角度を変更しても差し支えない。
【0023】
次に、本発明によるスラブ連続鋳造用装置を
図2から
図9を用いて説明するが、図は例示図であり本特許はこれに限定されるものではない。また、浸漬ノズル迅速交換機構は一般的な機構を採用可能であり、本説明装置に限るものではない。
前記吐出方向変更機構30は、吐出方向変更可能となる前記浸漬ノズル10の浸漬ノズル上面10aに設けられた摺動面40と、浸漬ノズル迅速交換機構20と、前記浸漬ノズル10からの溶融金属3の吐出方向変更のための駆動機構70によって構成される。
【0024】
前記吐出方向変更機構30を設ける位置は、上ノズル4と浸漬ノズル10の間に設けることが好ましい。
浸漬ノズル迅速交換装置は、通常、浸漬ノズル交換に際し、一つの軸に沿って、
図3で示される使用後の浸漬ノズル10eを未使用の浸漬ノズル10nで押して、未使用の浸漬ノズル10nを鋳造位置に移動させ、かつ使用後の浸漬ノズル10eを撤去位置にまで移動させる。このため、浸漬ノズルのフランジ部分は点対称ではなく、軸対象、例えば矩形に作成し、矩形の一辺に沿って浸漬ノズル10を移動させて交換することが一般的である。
一方、本発明になる装置では、吐出口10bの方向を鋳込み途中で変更するので、それに応じて浸漬ノズル10の角フランジ25部分も浸漬ノズル10の中心軸を中心に回転する。しかし、角フランジ25部分の一辺が浸漬ノズル10の交換方向に平行でないと、ノズル交換が行えない。
そこで、浸漬ノズル迅速交換機構20ごと回転させ、浸漬ノズル交換時には交換位置まで戻して交換することが簡便である。
【0025】
上述のように上ノズル4と浸漬ノズル10の間には、下ノズル9を設置する場合があり、その場合は、前記摺動面40は下ノズル9と浸漬ノズル10の間に設置することが好ましい。また、下ノズル9が無い場合、上ノズル4と浸漬ノズル10の間に設置しても良い。
図2、
図4は、下ノズル9を上ノズル4と浸漬ノズル10の間に設置した場合を示す。
尚、前記浸漬ノズル10の上部の外周には、周知のように、金属製の浸漬ノズルケース10Aが設けられている。
【0026】
次に、浸漬ノズル10における吐出方向変更可能に用いる
図4の摺動面40は、浸漬ノズル10の浸漬ノズル上面10aと、下ノズル9の下ノズル下面9aとによって構成される。下ノズルを用いない場合、前記摺動面40は、上ノズル4の下面とによって構成される。溶融金属3の吐出方向を変更する場合、浸漬ノズル10は浸漬ノズル10の中心軸Pを中心に左右に旋回するように角度を変え、前記摺動面40で回転摺動する。前記摺動面40とすることで、気密を保ちながら吐出方向の向きを変えることが可能となる。この気密が保たれないと、溶融金属3が下ノズル9から浸漬ノズル10へと流れる際、ベルヌイの法則に従ってその付近では減圧となり、溶融金属3中に空気が多量に吸い込まれ、溶融金属3の酸化が起こり、また冷却後の鋳片には多量の気泡が取り込まれるという問題点が発生するので好ましくない。さらには、気密が保たれないと、カーボン含有耐火物を使用した場合、吸気によりカーボンが酸化した状態の耐火物が損傷され、著しい場合には漏鋼にいたる場合もあるので好ましくない。
【0027】
前記摺動面40は、吐出口10bの向きを変える頻度はそれほど多くなく、摺動面40が大きく摩耗することはない。このため、摺動面40を構成する耐火物は特には限定されないが、カーボンを含有する耐火物の場合、カーボンが固体潤滑剤としても機能するのでより好ましい。
前記摺動面は、浸漬ノズル迅速交換機構20における、新旧浸漬ノズルの上面と一致させることができる。
前記下ノズル9は浸漬ノズル吐出口10bの角度変更によって同時に供回りしないよう、
図9のように固定ボルト92を締め付け、アタッチメント91によって、回転を防止する。また、面取りをするなどの加工を施しても問題ない。円形状を角形状にして回転防止をしても良い。
【0028】
次に、
図4の浸漬ノズル迅速交換機構20について説明する。
前記浸漬ノズル迅速交換機構20は、
図4のように、ベース21と、前記ベース21に設けられたクランパーピン62を介して支持されるクランパー23と、前記ベース21に設けられ前記クランパー23を上方へ付勢するためのバネ22からなり、前記クランパー23と前記バネ22は180度対向して設けられる一対の機構であり、左右の前記ベース21は連結バー78にて連結される。ガイドレール26に沿って挿入された前記浸漬ノズル10はフランジ下面25aを複数個の前記クランパー23によって支持され、前記クランパー23はクランパーピン62を支点として、梃子の原理を使用した、支点を介したバネ22の力により、前記浸漬ノズル10を上方へ押し付ける。この動きにより摺動面40を適度な力で垂直方向上方に押し付け、摺動面40間の気密を保つ。
図5に
図3に示した浸漬ノズル迅速交換機構20の拡大図を示す。バネ22の種類は限定されず、図ではコイルバネとしたが、皿バネ、板バネなどを利用してもさしつかえない。
また、押付け力の大きさは、面圧として100〜2000kPaであることが好ましい。押付け力が100kPa未満であれば、気密が十分には保てず、また、漏鋼の危険性が増すので好ましくない。押付け力が2000kPaより大きければ、摺動面での抵抗が大きくなりすぎ角度を変えることができなくなるので好ましくない。一方、通常時は強く押圧し、角度変更時に緩め、再度強く押圧固定する事も可能である。
【0029】
さらに、前記浸漬ノズル迅速交換装置20は、前記ハウジング13に保持された支持ガイド61および支持ガイドローラー63によってベース21が保持され、ベース21に取りつけられたクランパーピン62によってクランパー23を保持し、クランパー23によって浸漬ノズル10が保持される(
図3、
図4)。
前記ベース21の外周は、浸漬ノズルの中心軸Pを中心とした円形状でカギ型の断面としてある。このベース21を支持する支持ガイド61も、ノズル中心軸Pを中心とした円形状でカギ型断面とし、支持ガイドローラー63の断面形状もカギ型断面とする。支持ガイド61は、ハウジング13に保持されている。ベース21と支持ガイド61とは、それぞれ中心軸Pを中心として摺接する回転面で構成され、回転自在に摺接するように取りつけられる。支持ガイド61とベース21の滑り面79は、ベース21のカギ型の下面と側面となる。また、ハウジング13とベース21の間も滑り面79となる。ベース21とハウジング13との間には、適度の隙間を設けることが好ましいが、隙間が大きすぎると装置の遊びが大きくなりすぎて好ましくない。このため、熱膨張を考えてできるだけ隙間を小さくすることが望ましい。
後述する角度変更のための駆動装置71からの力を受けた際、前記ハウジング13に摺動可能に保持されたベース21は、中心軸Pを中心とする回転方向に摺動し、クランパー23を介して保持された浸漬ノズルを回転させ、吐出口10bの吐出方向を変更することが可能となる。ハウジング13とベース21の滑り面79には適当な潤滑剤を塗布しても差し支えない。また、この面にベアリング等を設置しても良い。
【0030】
次に、吐出方向変更のための駆動機構70について説明する。前記浸漬ノズル10の溶融金属3の吐出方向変更機構30を駆動させる為の前記吐出方向変更のための駆動機構70は、角度変更のための力を加える駆動装置71と、この駆動装置71からの力を浸漬ノズル10が保持された浸漬ノズル迅速交換機構20に伝える伝達部90からなる。
まず、上記伝達部90から説明する。前記伝達部90は、レバー74とピン73で構成される(
図3、
図5)。
前記レバー74はベース21に固定されている。このレバー74の大きさ(幅や長さ)は特には限定されない。レバー74の先端に水平方向の力、あるいは浸漬ノズル10の中心軸Pを中心に回転する方向の力をピン73を介して加えることで、ベース21が中心軸Pを中心に回転することで角度を変え、それと同時に浸漬ノズル迅速交換機構20に保持された浸漬ノズル10も角度を変え、吐出方向を変えることが可能となる。
【0031】
前記駆動装置71からの力をレバー74先端に加えることで、吐出角度が変更できる(
図6)。
この駆動装置71としては、例えば、油圧シリンダーが利用できる。油圧シリンダーはハウジング13に固定され、ロッド76の先端には連結部材77によってスライダー72が取り付けられ、前記ロッド76の先端とスライダー72は同時にスライドする。このスライダー72は、ガイド75によってハウジング13に支持されている。スライダー72には、ピン73が設けてあり、ベース21に固定されたレバー74の
図6のピン孔83に連結する様配置してある為、駆動装置71を駆動させることで吐出角度を変更することが出来る。本図の場合、ピン孔83は長円の片方を切り欠いたU字形としているが、それに限らず、長円形などとしても良い。この連結方法は、実施例の構造に限らず、駆動装置71の運動が浸漬ノズル10の回転運動に伝達される連結方法であれば良い。
【0032】
前記駆動装置71は、油圧シリンダーに限らず、
図7のネジ棒81の回転動により、メネジブロック80を介してスライダー72をスライドさせても良い。この場合、駆動装置71は油圧シリンダーではなく回転するモーター、減速機等が使用される。
また、前記レバー74の代わりに、ベース21の外周の一部に円状のギア82を設けて、駆動装置71にウォームギア、ベルト、減速機、モーター等を使用しても良い(
図8。ウォームギア、ベルト、減速機、モーターは図示せず) 。
吐出の可変角度はすくなくとも30°以上であることが好ましい。最適位置に調整すれば、操業中の角度変更は±10°程度とすることも可能である。しかし、様々な使用方法を考えた場合、60°程度とすることもできる。
図6に、吐出角度を変更した際の、本発明例を示す。
【0033】
次に、浸漬ノズル10の上面10aには、上述の摺動面40が設けられている。
この浸漬ノズル10は、上部に溶融金属流入路10cを持ち、下部に軸対象に対向する一対の吐出口10bを有し、水冷鋳型2の短片側壁面方向に溶融金属3の吐出流3Aを吐出する形状であって、溶融金属流入路10c、吐出口10bの形状に特に制限はなく、角型、丸型形状等が使用できる。吐出孔数については、前述の通り対向する方向に2孔を有するものが好ましい。また、上記2孔に加えて浸漬ノズル10の下側にもう一つの吐出口10bを設けた3孔式の浸漬ノズル10も、使用できる。
【0034】
前記溶融金属3は上記の対向する2孔の浸漬ノズル10からの長辺に向かって吐出し、吐出方向が鋳型短辺と長辺の交点から長辺の中心方向へ長辺長さの15%から40%の範囲に向けることが好ましい。15%未満では、流れの一部が短辺に当たるようになり効率的に旋回流を生むことができない。40%より大きいと、吐出流3Aが長辺に当たった後、長辺に沿って短辺まで流れる吐出流3Aの流れが継続されず、この場合も効率的に旋回流を生むことができない。より好ましくは20%〜35%の範囲である。
【0035】
前記浸漬ノズル上面10aは下ノズル下面9aと接触して摺動面40を形成するが、一般的には下ノズル9の横断面は円形であることから、摺動面40も円形とすることが好ましい。一方、浸漬ノズル迅速交換機構20において、浸漬ノズル上面には矩形の角フランジ25を取りつけている。そこで、円形の摺動面の周囲を鉄板ケースで保護し、その外周部に浸漬ノズルを保持、押し付けるクランパー23と合致する角フランジ25を取りつけることが望ましい。これによって、保持、取付を円滑に行うとともに、浸漬ノズル上部の変形が減少してシール性が向上し、強度が付与されるので浸漬ノズルの亀裂発生を抑制できる。外周の角フランジ25は、摺動面40とは分離されているため、たとえフランジ部に変形が生じても、摺動面40のシール性には悪影響を及ぼさないという利点もある。
【0036】
前記浸漬ノズル10の取り付け、取り外し、即ち迅速交換は以下のような方法が採用できる。しかし、これに類した方法であれば他の方法を採用しても問題がない。
浸漬ノズル10の吐出方向は連続鋳造中に適宜変更されている。しかし、吐出方向が変更されたままでは、浸漬ノズルの迅速交換はできない。浸漬ノズルの迅速交換に当たっては、まず、浸漬ノズル10の吐出方向と平行な角フランジ25の一辺が、ガイドレール26と平行になるように角度を調整する。平行でないと、ノズル交換時、浸漬ノズル10の角フランジ25とガイドレール26が干渉して交換できなくなる。
ついで、未使用の浸漬ノズル10nを
図3の二点鎖線位置にセットする。
前記ストッパー5の開度を絞り、鋳込み速度を低下させた後、ストッパー5を完全に閉とし、浸漬ノズルから鋳型への溶鋼の注入を一旦停止する。
浸漬ノズル交換用駆動装置27を用い、未使用の浸漬ノズル10nを矢印Eで示されるように
図3の図面右方向に向かって押す。浸漬ノズル10は未使用の浸漬ノズル10nに押され、使用後の浸漬ノズル10eの位置へ移動する。未使用の浸漬ノズル10nの中心軸の位置が、浸漬ノズル10の移動前の中心位置Pに来たところで停止させる。クランパー23の働きによって、未使用の浸漬ノズル10nは下ノズル9下面に押し当てられる。
その後、ストッパー5を開にして、未使用の浸漬ノズル10nを通じた溶鋼の供給を開始し、連続鋳造を再開させる。
その後、使用後の浸漬ノズル10eは、
図3の矢印Fで示されるように、鋳型内の外に取り出される。
【0037】
次に、本発明に用いられる前述のストッパー5を形成するための耐火物は、特殊なものは必要とせず一般的なものが使用できる。すなわち、材質としては、アルミナ・カーボン質、アルミナ質、ハイアルミナ質、ろう石質などを用いる事ができる。
また、その構造は、短尺のスリーブ煉瓦を組み合わせたスリーブ式としても良いし、全体を一体成形したモノブロック式としてもさしつかえない。
【0038】
前記下ノズル9には、市場で知られている一般的なものが使用でき、例えば、アルミナ・カーボン質の耐火物が使用できる。また、アルミナ・カ−ボン質、アルミナ・ジルコニア・カーボン質、スピネル・カーボン質、マグネシア・カーボン質などが利用でき、アルミナ、マグネシア、ジルコン、ジルコニア等のカーボンを含まない材質を用いる事ができる。
それら形状は、前述の摺動面40と供回り防止の対策以外は、特には限定されない。
【0039】
前記浸漬ノズル10に使用できる耐火物の材料には、特に限定はなく、Al
2O
3、SiO
2、MgO、ZrO
2、CaO、TiO
2、Cr
2O
3等からなる酸化物単独もしくは鱗状黒鉛や人造黒鉛、カーボンブラック等のカーボンとを組み合わせた耐火物が使用できる。出発原料としては、前記酸化物の1種を主体とする、例えばアルミナやジルコニア等を用いることができるし、2種以上からなるもの、例えばAl
2O
3とSiO
2からなるムライトやAl
2O
3とMgOからなるスピネル等を用いて、これらを浸漬ノズルの各部位の特性を満足させるように調整、配合して耐火物が製造される。また、SiCやTiCやCr
2O
3等の炭化物やZrBやTiB等の酸化物を酸化防止や焼結調整の目的で添加されることもある。
溶融金属中の介在物が浸漬ノズルの吐出孔周辺に堆積するのを防止するため、浸漬ノズル10内から吐出孔10bまでの溶融金属3の偏流を防止し、浸漬ノズル10の内管に段差を設けるものや、複数の突起部を配設し浸漬ノズルの吐出孔周辺に堆積する原因となる浸漬ノズル10内から吐出孔10bまでの溶融金属3の偏流を防止するものを併用する事で、堆積物による溶融金属3の吐出流3aの変化を抑制する技術が知られており、本件特許と併用して使用する事が出来る。
【0040】
次に、溶融金属3の連続鋳造を、本発明に係わる方法および従来の方法とで行い、鋳片を製造した。使用した鋳型は長辺壁が1500mm、短片壁が200mmで、平断面が長方形のものであった。浸漬ノズルは軸対象の2孔のノズルを用いた。溶融金属3にはCが200ppm、Sが25ppm、Pが15ppmの炭素鋼を選び、鋳造速度はいずれも1.5m/分とした。
水冷鋳型2内における溶旋回流は、鋳型2表面を観察し、旋回流が発生し連々中も継続して安定した旋回流があった場合を◎、旋回流が発生したが途中で旋回流が安定しなくなった場合を○、旋回流の発生が十分でない場合を△、旋回流が全く発生しない場合を×と評価した。
ブレークアウト発生指数は、鋳型2に取り付けたブレークアウト検知器によって、ブレークアウトの警報が出た回数で評価し、比較例7を1.0とし、警報回数に比例した値とした。数値が大きいほど、ブレークアウトが発生しやすいことを示す。
また、表面欠陥発生指数は、鋳片の手入れ状況から表面欠陥の数を求め、比較例7の2チャージ目を1.0とした指数を示し、欠陥数に比例した値とした。なお、連々最初のチャージは、鋳込み開始時のトラブルや欠陥がおきやすく、本発明と従来方法との災害の原因によって欠陥が発生する場合があったので、差が明確となる2チャージで評価した。また、ノズル閉塞などの影響を見るために、連々5ch目の鋳片でも同様に表面欠陥発生指数を評価した。この場合も、比較例7の2チャージ目を1.0とした指数である。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に、鋳型幅を一定とした場合の結果を示す。実施例1〜3では、吐出方向をそれぞれ鋳型交点からの距離を長辺長さの割合で、35%、30%、20%へと変化させた。途中、鋳型表面の溶融金属流を観察し、吐出方向を±5°程度変化させて鋳造を行った。いずれの場合も、旋回流は安定してえられた。鋳型内ではブレークアウト発生指数は従来と変化無く、表面欠陥発生指数がいずれも低い値となった。
比較例1は、吐出方向を45%に固定した場合であり、文献1に準拠したものであるが、旋回流は全く発生しなかった。さらに、ブレークアウト指数が悪化した。また、表面欠陥発生指数は比較例7に対してやや低下したがその度合いは大きいものではなかった。
比較例2〜4は、当初の吐出方向は本発明1〜3と同じであったが、鋳造中に吐出方向を変化させなかった場合である。旋回流は当初良好であったが、連々数が増加するに従って次第に不安定となった。ブレークアウト指数は、従来と比べて変化はなかった。また、鋳込み初期の2チャージ目での表面欠陥発生指数は小さい値であったが、5チャージ目では上昇する傾向にあった。鋳造後、浸漬ノズル内部には非対称な介在物の付着が認められた。このことから、非対称に付着した介在物によって偏流が発生し、鋳型内での溶融金属流の旋回が継続しなかったものと考えられた。
比較例5は、吐出方向を鋳型交点からの距離を長辺長さの割合で10%としたものであり、比較例6は文献7に基づく例であるが、旋回流は発生したものの、十分な旋回流とは言えなかった。表面欠陥発生指数は比較例7に対してやや低下したがその度合いは大きいものではなかった。
比較例7は、通常で用いられるものであるが、旋回流は得られず、表面欠陥発生指数は他の例に比較して多かった。
【0043】
【表2】
【0044】
表2は、上述の幅1500mmの鋳型を用いて5チャージ連々後、鋳型の幅を1500mmから1800mmに変更した場合の、幅変更後の結果を示す。
前述の旋回流は、幅変更後の結果を示し、評価方法は表1の場合と同様である。ブレークアウト指数は、表1と同等の比較例7を100とする方法で評価した。表面欠陥発生指数は、表1の評価方法と同一で比較例7を100とする方法で、幅変更後2チャージ目と5チャージ目を比較した。
実施例では幅変更に伴い、それぞれ吐出方向をそれぞれ鋳型交点からの距離を長辺長さの割合で、35%、30%、20%へと追随させて吐出方向を変化させた。また、その後、±5°程度の角度調整を行っている。本発明では、安定した旋回流が確保され、ブレークアウト指数は従来と変化せず、また表面欠陥発生指数は低い値を示した。
それに対し、比較例8〜17は、それぞれ比較例1〜7の鋳込み条件で、幅変更した場合である。吐出方向が幅1500mmのまま固定されていたので、幅1800mmに変化するに伴い、吐出方向も長辺に対し値が大きくなるように数値が変化した。
比較例8と比較例14は、比較例1と比較例7と同様の結果で、十分な旋回流は得られなかった。比較例9〜比較例11では、幅1500mmでの鋳込みの後に既に十分な旋回流が得られない状態になっていたので、旋回流の評価は△とした。
比較例13では、幅変更後の旋回流は得られなかった。
十分な旋回流が得られない場合、それに伴い表面欠陥発生率は連々チャージ数の増加に従い、増加した。
従って、比較例に対する本発明の優位性は明らかである。