特許第5958615号(P5958615)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5958615-金属と熱可塑性樹脂の複合体 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958615
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】金属と熱可塑性樹脂の複合体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20160719BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20160719BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20160719BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   B32B15/08 N
   B29C45/14
   B32B27/34
   B32B27/20 Z
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-136102(P2015-136102)
(22)【出願日】2015年7月7日
(62)【分割の表示】特願2013-507261(P2013-507261)の分割
【原出願日】2012年2月21日
(65)【公開番号】特開2015-214159(P2015-214159A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2015年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2011-68450(P2011-68450)
(32)【優先日】2011年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】平山 真一
(72)【発明者】
【氏名】原田 秀樹
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−337381(JP,A)
【文献】 特開2007−182071(JP,A)
【文献】 特開2009−292034(JP,A)
【文献】 特開2003−103563(JP,A)
【文献】 特開2010−064397(JP,A)
【文献】 特開2006−182071(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/016485(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29C 45/00−45/24
45/46−45/63
45/70−45/72
45/74−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物(A)と金属(B)とが接触接合した複合体であって、
前記熱可塑性樹脂組成物(A)は、熱可塑性樹脂と、タルク、グラファイト及び酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機充填材とを含む組成物であり、
前記金属(B)は、表面処理した金属であり、
前記熱可塑性樹脂組成物(A)の、前記熱可塑性樹脂組成物(A)と前記金属(B)との接合面に対して対向する面には、リブ、突起、穴、段差から選ばれた1種からなる収縮抑制構造が設けられていることを特徴とする複合体。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂である請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記無機充填材の配合量は、前記熱可塑性樹脂組成物(A)中に、0.01質量%以上50質量%以下である請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
前記金属(B)の表面処理は、その表面に微細な凹凸を形成する処理又は化学物質を固着させる処理である請求項1〜3のいずれか1つに記載の複合体。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂組成物(A)と前記金属(B)とが射出成形により接触接合されたものである請求項1〜4のいずれか1つに記載の複合体。
【請求項6】
全体形状が管または棒状であり、樹脂と金属が多層構成をなしている請求項1〜5のいずれか1つに記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属と熱可塑性樹脂の複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や電気・電子などさまざまな分野でエンジニアリングプラスチックスは、それまで金属材料で構成していた部品の構成材料を樹脂材料に置き換え、部品の軽量化やコスト低減に寄与してきた。しかし、構成材料に樹脂材料単独で使用した部品は、高温での強度・剛性不足や特定の化学物質への耐性不足などの理由から、樹脂材料への置き換えは限界に迫りつつある。また金属材料単体で構成していた部品を樹脂材料と複合化や多層化することで表面質感や防錆機能などの向上を図ることがあるが、金属と樹脂との接合不良から部品全体としての強度不足を招いたり、液体との接触がある部品の場合、金属と樹脂の接合部への液体の浸透や滞留などに起因する部品の機能低下を招く場合があった。
【0003】
このような事情から、金属と樹脂を強固に接合する技術が求められ、いくつか提案されている。代表的な例としては金属表面に主に化学的処理を施すことで微細な凹凸を形成させ、そこに樹脂を流入、固化させることで金属と樹脂とを接合させるものである。特許文献1には、金属表面に微細な凹凸を形成する手法として金属をアンモニア、ヒドラジン、および水溶性アミンから選択される1種以上の水溶液に浸漬する方法が記載されている。また、特許文献2には、陽極酸化法により微細な凹凸を金属表面に形成させる方法が開示されている。一方、特許文献3には、金属表面に特定の化合物を固着させる方法が開示されており、この特定の化合物を結合させた金属に樹脂を溶融接触させることで両者を接合させる方法が提案されている。
【0004】
さらに金属と樹脂の接着性を改良する為に、特定の処理を施した金属に特定の樹脂を用いる技術が提案されている。たとえば、特許文献4には陽極酸化法により微細な開口を有するアルミニウム合金を調製し、これに、オレフィン系樹脂を配合したポリフェニレンサルファイドを接合させることにより接合強度を向上させる技術が開示されている。また特許文献5には侵食性水溶液で表面処理したアルミニウム合金にポリアミド樹脂を接合する技術が開示されているが、この場合、ポリアミド樹脂に芳香族ポリアミドや耐衝撃改良材を配合することで接合状態を更に改良できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3967104号公報
【特許文献2】特許4541153号公報
【特許文献3】特公平5−51671号公報
【特許文献4】特許4527196号公報
【特許文献5】特開2007−182071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、樹脂と金属とを接合させる技術において実用性の高いものがなく、例えば特許文献1に記載されている金属表面に微細凹凸を形成させ、そこに溶融樹脂を流入させて固化させる場合、ポリアミド6やポリアミド66のような一般的な熱可塑性樹脂を用いた場合では後述の比較例にあるように強固な接合状態が得られなかった。また、特許文献4および5には前述のような材料組成による改良技術が記載されているが、これらの技術ではそれぞれの熱可塑性樹脂の元来の長所である高温での強度・剛性、耐薬品性などが損なわれる可能性がある上に、熱可塑性樹脂成分によっては成形性や溶着などの二次加工性の低下やコスト上昇を招く可能性もある。
【0007】
本発明の課題は熱可塑性樹脂の特性を損なうことなく、熱可塑性樹脂と金属が強固に接合した複合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、以下に示す本発明によって解決される。
即ち、本発明は、熱可塑性樹脂組成物(A)と金属(B)とが接触接合した複合体であって、前記熱可塑性樹脂組成物(A)は、熱可塑性樹脂と、タルク、グラファイト及び酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機充填材とを含む組成物であり、無機充填材とを含む組成物であり、前記金属(B)は、表面処理した金属であり、前記熱可塑性樹脂組成物(A)の、前記熱可塑性樹脂組成物(A)と前記金属(B)との接合面に対して対向する面には、リブ、突起、穴、段差から選ばれた1種からなる収縮抑制構造が設けられている複合体を提供するものである。
本発明においては、前記熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂であることが好ましい。
また、前記無機充填材の配合量は、前記熱可塑性樹脂組成物(A)中に、0.01質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
また、前記金属(B)の表面処理は、その表面に微細な凹凸を形成する処理又は化学物質を固着させる処理であることが好ましい。
また、本発明の複合体は、前記熱可塑性樹脂組成物(A)と前記金属(B)とが射出成形により接触接合されたものであることが好ましい。
更に、本発明の複合体は、全体形状が管または棒状であり、樹脂と金属が多層構成をなしているものでもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱可塑性樹脂と、タルク、グラファイト及び酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の無機充填材とを含む、熱可塑性樹脂組成物(A)を用いて、金属との接合状態を改善し、前記熱可塑性樹脂組成物(A)の、前記熱可塑性樹脂組成物(A)と前記金属(B)との接合面に対して対向する面に、リブ、突起、穴、段差等を設けることによって成形収縮を抑制した、複合体を提供することができる。
よって、本発明の複合体は、熱可塑性樹脂の高温時特性や耐薬品性などを損なうことなく樹脂と金属とが十分に接合することから金属の構造的補強効果が高く、自動車分野、電気・電子分野、一般産業機械などあらゆる分野の構造部品に好適に使用できる。また寸法精度や耐熱性などを部分的に高めるため、樹脂に金属を導入した場合、本発明においては金属と樹脂の固着状態を著しく改善でき、複合体としての品質をさらに改善できる。同様に導電性やガス透過抑制機能を高めるため樹脂と金属とで多層化されたシート、テープ、パイプ、チューブなどにおいても、本発明の複合体を用いることで、その品質をさらに高めることができる。
また本発明の複合体は、金属表面の微細凹凸に樹脂を流入、固化させる技術と金属表面に化合物を固着させて樹脂と接合させる技術の両方に有効である。したがって、従来できなかった化合物が金属表面に固着した金属に熱可塑性樹脂を射出成形により接合させることが、本発明により可能になり、熱可塑性樹脂と化合物が金属表面に固着した金属とが接触接合した複合体が製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の複合体の一実施形態を示す斜視図である。
図2】本発明の複合体の他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物(A)と金属(B)とが接触接合した複合体を提供するものである。以下に熱可塑性樹脂組成物(A)、金属(B)、及びそれらの接触接合の態様について説明する。
【0012】
[熱可塑性樹脂組成物(A)]
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物(A)は、熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂の結晶化温度を3℃以上上昇させる無機充填材とを含む組成物である。
(1)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂組成物(A)に使用される熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではないが、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン/プロピレン共重合体(EPR)、エチレン/ブテン共重合体(EBR)、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン/アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン/メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン/アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン/アクリル酸エチル共重合体(EEA)等のポリオレフィン系樹脂及び、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、シス−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エンドビシクロ−[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸等のカルボキシル基及びその金属塩(Na、Zn、K、Ca、Mg)、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ−[2.2.1]−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物等の酸無水物基、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル等のエポキシ基等の官能基が含有された化合物により変性された、上記ポリオレフィン系樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル(LCP)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)等のポリエステル系樹脂、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド(PPO)等のポリエーテル系樹脂、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)等のポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリチオエーテルスルホン樹脂(PTES)等のポリチオエーテル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリルエーテルケトン(PAEK)等のポリケトン系樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体(MBS)等のポリニトリル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル(PEMA)等のポリメタクリレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル(PVAc)等のポリビニルエステル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体等のポリビニル系樹脂、酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂、ポリカーボネート(PC)等のポリカーボネート系樹脂、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド等のポリイミド系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(TFE/HFP,FEP)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体(TFE/HFP/VDF,THV)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)等のフッ素系樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリウレタンエラストマー、本発明において規定した以外のポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等が挙げられる。これらの中でも表面処理した金属との接合力の弱い、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)以外の、比較的明瞭な結晶化または凝固温度を示す熱可塑性樹脂が、金属との接合効果改善の観点から好ましく、成形性等の取り扱いの容易さや高い耐熱性、機械強度からポリアミド樹脂がより好ましい。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0013】
ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリカプロラクタム(ポリアミド6)、ポリウンデカンラクタム(ポリアミド11)、ポリドデカンラクタム(ポリアミド12)、ポリエチレンアジパミド(ポリアミド26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(ポリアミド69)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンウンデカミド(ポリアミド611)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンヘキサヒドロテレフタラミド(ポリアミド6T(H))、ポリノナメチレンアジパミド(ポリアミド96)、ポリノナメチレンアゼラミド(ポリアミド99)、ポリノナメチレンセバカミド(ポリアミド910)、ポリノナメチレンドデカミド(ポリアミド912)、ポリノナメチレンテレフタラミド(ポリアミド9T)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミドTMHT)、ポリノナメチレンヘキサヒドロテレフタラミド(ポリアミド9T(H))、ポリノナメチレンナフタラミド(ポリアミド9N)、ポリデカメチレンアジパミド(ポリアミド106)、ポリデカメチレンアゼラミド(ポリアミド109)、ポリデカメチレンデカミド(ポリアミド1010)、ポリデカメチレンドデカミド(ポリアミド1012)、ポリデカメチレンテレフタラミド(ポリアミド10T)、ポリデカメチレンヘキサヒドロテレフタラミド(ポリアミド10T(H))、ポリデカメチレンナフタラミド(ポリアミド10N)、ポリドデカメチレンアジパミド(ポリアミド126)、ポリドデカメチレンアゼラミド(ポリアミド129)、ポリドデカメチレンセバカミド(ポリアミド1210)、ポリドデカメチレンドデカミド(ポリアミド1212)、ポリドデカメチレンテレフタラミド(ポリアミド12T)、ポリドデカメチレンヘキサヒドロテレフタラミド(ポリアミド12T(H))、ポリドデカメチレンナフタラミド(ポリアミド12N)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリメタキシリレンスベラミド(ポリアミドMXD8)、ポリメタキシリレンアゼラミド(ポリアミドMXD9)、ポリメタキシリレンセバカミド(ポリアミドMXD10)、ポリメタキシリレンドデカミド(ポリアミドMXD12)、ポリメタキシリレンテレフタラミド(ポリアミドMXDT)、ポリメタキシリレンイソフタラミド(ポリアミドMXDI)、ポリメタキシリレンナフタラミド(ポリアミドMXDN)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンテレフタラミド(ポリアミドPACMT)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンイソフタラミド(ポリアミドPACMI)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリイソホロンアジパミド(ポリアミドIPD6)、ポリイソホロンテレフタラミド(ポリアミドIPDT)やこれらのポリアミド共重合体が挙げられる。この中でも機械的特性および耐薬品性などの材料機能と価格のバランスの観点から、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド6/66共重合体(ポリアミド6とポリアミド66の共重合体、以下、共重合体は同様に記載)、ポリアミド6/12共重合体、ポリアミド6/66/12共重合体が好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド6/12共重合体がより好ましく、成形性、機械物性、耐久性の観点から、ポリアミド6および/またはポリアミド66がより好ましい。これらは1種又は2種以上を用いることができる。
【0014】
尚、ポリアミド樹脂の末端基の種類及びその濃度や分子量分布に特別の制約は無く、分子量調節や成形加工時の溶融安定化のため、分子量調節剤として、酢酸、ステアリン酸等のモノカルボン酸、メタキシリレンジアミン、イソホロンジアミン等のジアミン、モノアミン、ジカルボン酸のうちの1種あるいは2種以上を適宜組合せて添加することができる。
【0015】
ポリアミド樹脂は、粘度測定方法(JIS K−6920)に準じ、96質量%硫酸中、ポリマー濃度1質量%、温度25℃の条件下にて測定した場合、その相対粘度が、得られるポリアミド樹脂の機械的性質と成形性の観点から、1.0以上5.0以下であることが好ましく、1.5以上4.5以下であることがより好ましく、1.8以上4.0以下であることがさらに好ましい。
【0016】
また、JIS K−6920に規定する低分子量物の含有量の測定方法に準じて測定したポリアミド樹脂の水抽出量は、特に制限はないが、成形加工時に発生するガス等の環境上の問題、製造設備への付着による生産性の低下や複合体への付着による外観不良等を引き起こす可能性があるため、5質量%以下であることが好ましい。
【0017】
(2)無機充填材
熱可塑性樹脂組成物(A)に用いられる該熱可塑性樹脂の結晶化温度を3℃以上上昇させる無機充填材としては、該熱可塑性樹脂の結晶化温度を3℃以上上昇させる無機充填材であればよく、複合体の接合強度の観点から、該熱可塑性樹脂の結晶化温度を6℃以上上昇させる無機充填材が好ましい。
具体的な熱可塑性樹脂の結晶化温度を3℃以上上昇させる無機充填材としては、タルク、グラファイト、酸化マグネシウム、カオリン及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、タルク、グラファイト及び酸化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種がより好ましい。
【0018】
上記無機充填材の配合量は、熱可塑性樹脂組成物(A)中に、0.01質量%以上50質量%以下が好ましく、接合強度の観点から、0.05質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。尚、熱可塑性樹脂の種類と金属の種類およびその表面処理法により、0.05質量%でも十分な接合状態が得られるため、この配合量は複合体の用途によって選定することが望ましい。
【0019】
上記無機充填材の平均粒径は、特に制限はないが、成形品の外観や衝撃強度を考慮して20μm以下が好ましく、金属との接合性の観点から3〜15μmが望ましい。その平均粒径は、例えば日本工業規格の粉塊混合物−サンプリング方法通則(JIS M8100)に準じて無機充填材を採取し、同ファインセラミック原料粒子径分布測定のための試料調整通則(JIS R 1622−1995)に準じて無機充填材を測定用試料として調整し、同ファインセラミック原料のレーザー回折・散乱法による粒子径分布測定方法(JIS R 1629−1997)に準じて測定できる。装置としては株式会社島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−7000等を用いることができる。
【0020】
また、上記無機充填材は、機械的物性や成形外観を改良するため樹脂との密着性を向上させるようなカップリング処理を施すことができる。カップリング剤としてはシラン系カップリング剤、エポキシシランカップリング剤などが挙げられる。その添加量としては、上記無機充填材100質量部に対し、0.01〜5質量部で処理することができる。
【0021】
熱可塑性樹脂組成物(A)には、上記無機充填材以外に、本発明の複合体の特性を損なわない範囲内で通常配合される各種の添加剤、改質剤、強化材、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、フィラー、可塑剤、発泡剤、ブロッキング防止剤、粘着性付与剤、シール性改良剤、防雲剤、離型剤、架橋剤、発泡剤、難燃剤、着色剤(顔料、染料等)、カップリング剤、ガラス繊維等の無機強化材等を含有することができる。これらの各種添加剤を熱可塑性樹脂に配合する方法は、タンブラーやミキサーを用いるドライブレンド法、成形時に使用する濃度で予め原料に一軸又は二軸の押出機を用いて溶融混練する練り込み法、あるいは予め高濃度で原料に一軸又は二軸の押出機を用いて練り込み、これを成形時に希釈して使用するマスターバッチ法等の一般的な方法が挙げられ特に限定はない。
【0022】
[金属(B)]
本発明の金属(B)は、表面処理した金属であれば、金属の材質として特に限定するものではなく、例えば、鉄,銅,ニッケル,金,銀,プラチナ,コバルト,亜鉛,鉛,スズ,チタン,クロム,アルミニウム,マグネシウム,マンガン及びこれらの合金(ステンレス,真鍮,リン青銅など)を挙げることができる。また薄膜の金属や被膜(金属メッキ,蒸着膜,塗膜等)がなされた金属も対象となる。
【0023】
表面処理とは、例えば金属表面を侵食性液体に浸漬処理する方法や陽極酸化で金属表面に微細な凹凸がなされた状態や金属表面に化学物質が固着された状態を指す。
【0024】
侵食性液体としては、水溶性アミン化合物が挙げられ、その水溶性アミン化合物は、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、アリルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アニリン、その他のアミン類が挙げられる。これらの中でも、特にヒドラジンが、臭気が小さく、低濃度で有効なことから好ましい。
【0025】
陽極酸化被膜とは、金属を陽極として電解質溶液中で通電した際に、金属表面に生じる酸化皮膜のことをさし、電解質としては、例えば、前記の水溶性アミン化合物が挙げられる。
【0026】
金属表面に微細な凹凸がなされた状態としては、金属表面が、電子顕微鏡観察での測定で数平均内径10〜100nmの微細凹部、又は孔開口部で覆われるようなものにすることが好ましい。
【0027】
金属表面に固着させる化学物質としては、トリアジンジチオール誘導体が挙げられ、トリアジンジチオール誘導体は、下記一般式で表わされるものが好ましい。
【0028】
【化1】

(上式において、Rは−OR1,−OOR1,−SmR1,−NR1(R2);R1,R2はH,水酸基,カルボニル基,エーテル基,エステル基,アミド基,アミノ基,フェニル基,シクロアルキル基,アルキル基,あるいは、アルキン,アルケンの様な不飽和基を含む置換基であり、m は1から8までの整数を意味し、MはH,もしくは、Na,Li,K,Ba,Ca,アンモニウム塩などのアルカリ)が好ましい。
【0029】
上記一般式のトリアジンジチオール誘導体の具体例としては、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール・モノナトリウム、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール・トリエタノールアミン、6−アニリノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール、6−アニリノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム、6−ジブチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール、6−ジブチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム、6−ジアリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール、6−ジアリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリチオール・ジテトラブチルアンモニウム塩、6−ジブチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・テトラブチルアンモニウム塩、6−ジチオクチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール、6−ジチオクチルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム、6−ジラウリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール、6−ジラウリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノナトリウム、6−ステアリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール、6−ステアリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノカリウム、6−オレイルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール、6−オレイルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール・モノカリウムが挙げられる。
【0030】
金属表面に上記化学物質を固着させる方法としては、上記化学物質の水溶液、又はメチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、アセトン、トルエン、エチルセルソルブ、ジメチルホルムアルデヒド、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ベンゼン、酢酸エチルエーテルなどの有機溶剤を溶媒とした溶液を用い、金属を陽極に、白金板チタン板またはカーボン板などを陰極とし、これに20V以下で、0.1mA/dm〜10A/dmの電流を、0〜80℃、0.1秒〜10分間、通じて行なう方法が挙げられる。
【0031】
表面処理した金属としては、金属表面が、電子顕微鏡観察での測定で数平均内径10〜100nmの凹部又は孔開口部で覆われた金属もしくはトリアジンチオール誘導体が固着した金属が好ましい。
【0032】
[複合体]
本発明において、熱可塑性樹脂組成物(A)と金属(B)とを接触接合する方法については、特に制限されるものではないが、射出成形により接触接合することが好ましい。例えば、金型の一方に金属(B)を設置し、金型を閉め、熱可塑性樹脂組成物(A)を射出成形機のホッパー部から射出成形機に導入し、溶融した樹脂を金型内に射出し、可動金型を開き離型することにより、熱可塑性樹脂組成物(A)と金属(B)とを接合した複合体を得ることができる。
射出成形の条件は、熱可塑性樹脂の種類により異なり、特に制限はないが、金型温度は10℃以上160℃以下が好ましい。一般には強度など製品品質と成形サイクルの観点から40℃以上120℃以下がより好ましいが、金属と接合させる射出成形については90℃以上がさらに好ましい。
【0033】
また、上述したとおり、本発明によれば、熱可塑性樹脂とその熱可塑性樹脂の結晶化温度を上昇させるように配合された無機充填材とを含む、上記熱可塑性樹脂組成物(A)を用いて、金属との接合状態を改善することができるが、部品・製品の形状設計として成形収縮を抑制することが望ましいことは、勿論である。例えば図2に示すように、平板形状の金属10の片面に、所定厚さの層状の樹脂部材20を接合する場合、該樹脂部材20の接合面と反対側の面の周囲に、リブ21を形成することにより、そのリブ21が金型内で形成される間その形状に相当する金型部分で移動が抑制されるので、樹脂部材20を構造的にも収縮しにくくすることができる。この場合、樹脂部材20の層の厚さは、0.5〜10mm程度が好ましく、リブ21の高さは、該樹脂材料の成形収縮率にもよるが一般に1.0mm以上が好ましい。尚、リブ21の代わりに、突起(ボス)、穴、段差等を設けることもできる。
【0034】
本発明において、熱可塑性樹脂組成物(A)と金属(B)とを接触接合する方法については、常法に準じた押出成形によっても行うことができる。この場合、全体形状が、例えば円筒などの一様断面をもつ管または棒状のもので、樹脂と金属が多層構成をなす形状のものに、好ましく適用し得る。
【0035】
本発明の複合体は樹脂と金属が十分に接合していることから、自動車部品、電機・電子部品、一般機械部品、シート・テープ、パイプ・チューブなど幅広い用途に適用でき、特に、耐熱性、耐性、気体・液体の透過抑制性、寸法・形状安定性、導電性、熱伝導性、強度を同時に要求される用途、たとえば、自動車の燃料部品に好適に使用できる。
【実施例】
【0036】
以下において例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の例に限定されるものではない。使用した原材料と各種評価方法を次に示す。
【0037】
[熱可塑性樹脂組成物(A)]
・ポリアミド樹脂組成物(a−1)
1質量%のアミノシランカップリング剤で表面処理した平均粒径14μmのタルク(富士タルク工業株式会社のPKP−80)を40質量%と、相対粘度2.47、水抽出分5質量%以下のポリアミド6を60質量%、とからなるポリアミド樹脂組成物。(以下、(a−1)と称する。)
・ポリアミド樹脂組成物(a−2)
(a−1)において、タルクの配合量を0.5質量%とした以外は(a−1)と同様であるポリアミド樹脂組成物(a−2)(以下、(a−2)と称する。)
・ポリアミド樹脂組成物(a−3)
平均粒径が8μmのタルク(日本タルク株式会社のシムゴンM)を30質量%と、相対粘度2.47、水抽出分5質量%以下のポリアミド6を70質量%、とからなるポリアミド樹脂組成物(a−3)(以下、(a−3)と称する。)
・ポリアミド樹脂組成物(a−4)
平均粒径が33μm、かさ密度0.18g/cmのグラファイト(日本黒鉛工業株式会社のSP−10)を40体積%と、相対粘度2.47、水抽出分5質量%以下のポリアミド6を60体積%、とからなるポリアミド樹脂組成物(a−4)(以下、(a−4)と称する。)
・ポリアミド樹脂組成物(a−5)
平均粒径が2.3μm、かさ密度0.4g/cmの酸化マグネシウム(宇部マテリアルズ株式会社のRF−50−AC)を40体積%と、相対粘度2.47、水抽出分5質量%以下のポリアミド6を60体積%、とからなるポリアミド樹脂組成物(a−5)(以下、(a−5)と称する。)
・ポリアミド樹脂組成物(a−6)
平均粒径が7〜9μmのウォラストナイト(キンセイマテック株式会社のFPW−400S)を40質量%と、相対粘度2.47、水抽出分5質量%以下のポリアミド6を60質量%、とからなるポリアミド樹脂組成物(a−6)(以下、(a−6)と称する。)
・ポリアミド樹脂組成物(a−7)
ガラス繊維(日本電気硝子株式会社のECS03T249)を30質量%と、相対粘度2.64、水抽出分5質量%以下のポリアミド6を70質量%、とからなるポリアミド樹脂組成物(a−7)(以下、(a−7)と称する。)
・ポリアミド樹脂組成物(a−8)
ガラス繊維(日本電気硝子株式会社のECS03T249)を45質量%と、相対粘度2.64、水抽出分5質量%以下のポリアミド6を55質量%、とからなるポリアミド樹脂組成物(a−8)(以下、(a−8)と称する。)
・ポリアミド樹脂組成物(a−9)
ガラス繊維(日本電気硝子株式会社のECS03T289)を45質量%と、相対粘度2.75、水抽出分5質量%以下のポリアミド66を55質量%、とからなるポリアミド樹脂組成物(a−9)(以下、(a−9)と称する。)
・ポリアミド樹脂組成物(a−10)
ガラス繊維(日本電気硝子株式会社のECS03T289)を35質量%と、ポリアミド12を5質量%と、芳香族ポリアミドを13質量%と、相対粘度2.75、水抽出分5質量%以下のポリアミド66を47質量%、とからなるポリアミド樹脂組成物(a−10)(以下、(a−10)と称する。)
・ポリアミド6樹脂(a−11)
相対粘度2.47、水抽出分5質量%以下、結晶化温度Tcが179.8℃のポリアミド6樹脂(a−11)(以下、(a−11)と称する。)
【0038】
[金属(B)]
外寸が12mm×12mm、厚みが1.0mm、長さが150mmであるステンレス、鋼材及びアルミニウムの試験片を準備する。
ステンレスは、18%のCrと8%のNiを含むステンレス鋼であるSUS304−HLを使用し、
鋼材は、機械構造用角形鋼管の規格のSTKMR290を使用し、
アルミニウムは、JIS H4040:2006に規定されるA5052を使用した。
それぞれの試験片の表面に対して、微細凹凸を形成するものとして特許文献1に記載されている侵食性液体(ヒドラジン)を用いた表面処理(以下処理1ともいう。)、もしくは、金属表面に固着するものとして特許文献3に記載されているトリアジンジチオール誘導体を用いる表面処理(以下処理2ともいう。)を施した。
表面処理後の金属はポリエチレンとアルミニウムの多層袋の中に入れ、ヒートシール機で密封し、樹脂との接合成形の直前まで室温で保管した。
【0039】
(強度測定および接合性評価)
図1の1に示す複合体の金属部材をERON社製万力N735に固定する。樹脂部の開口側に200mm×150mm×12mmのSUS304製板材を挿入し、曲げ荷重を挿入した板材の複合体の樹脂と金属の境界面である図1の斜線部分4から0.2m離れた部分にかけて複合体を破壊させた。破壊時の曲げモーメントを接合面全体の断面係数で割り、曲げ強度を求めた。具体的には、下記式より求めた。
曲げ強度(Pa)=0.2(m)×破壊時の荷重(N)/(0.15(m)×0.012(m)×0.012(m)/6)
接合性とは、その破壊面の状態を下記のA〜Eの5段階で評価したものである。
A:剥離させるのに工具を要し、金属と樹脂の境界面で剥離せず樹脂部が破壊する。
B:剥離させるのに工具を要し、金属側に0.2mm以上の厚さを持った樹脂が残る。
C:取り出し後、手で剥がれるが、抵抗感があり、金属の剥離面に変色がある。
D:取り出し後手で剥がれ、肉眼では界面に変化がない。
E:突き出し時、または取り出し時に手を触れることなく剥離する。
【0040】
(線膨張係数の測定)
複合体を成形する際に得られる図1の5のスプルー部分から、幅4mm、厚み4mm、長さ10mmの試験片を切り出す。セイコーインスツル株式会社のTMA装置SSC5000を用い、切り出した試験片に2gの荷重をかけ、5℃/分の昇温速度にて50〜150℃の温度範囲の線膨張係数を測定し、その間の平均値を熱可塑性樹脂の線膨張係数とした。
【0041】
(結晶化温度Tcの測定)
線膨張係数と同様、スプルー部分から直径6mm、厚さ1mmの円板寸法からはみ出さない薄板状試験片を切り出す。装置はセイコーインスツル株式会社製示差走査熱量計EXSTAR6000 DSC6220を用いて窒素雰囲気中で測定した。試験片は室温から250℃まで10℃/分の速度で昇温し、250℃で10分保持した後、25℃まで10℃/分の速度で降温した。得られたDSCチャートで降温のピーク温度をTcとした。
【0042】
実施例1
処理1で表面処理したアルミニウムの試験片を200℃に設定したアズワン株式会社の自然対流乾燥器SONW−450で予熱し、その試験片を住友重機械工業株式会社の射出成形機SE−100Dに取り付けた図1の複合体が成形できる金型内に設置し、(a−1)を12.5質量%と(a−6)を87.5質量%とを混合したポリアミド樹脂組成物を同射出成形機に導入し、金型温度150℃の金型に樹脂温度260℃で射出し、保持圧力40MPaを40秒間かけた後、金型内で45秒冷却し、図1の形状の複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
実施例2
実施例1において、(a−1)を25質量%、(a−6)を75質量%にした以外は、実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
実施例3
実施例1において、(a−1)を50質量%、(a−6)を50質量%にした以外は、実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
実施例4
実施例1において、(a−6)を使用せず、(a−1)を100質量%にした以外は、実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
比較例1
実施例1において、(a−1)を使用せず、(a−6)を100質量%にした以外は、実施例1と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例5
処理1で表面処理した鋼材の試験片を200℃に設定したアズワン株式会社の自然対流乾燥器SONW−450で予熱し、その試験片を住友重機械工業株式会社の射出成形機SE−100Dに取り付けた図1の複合体が成形できる金型内に設置し、(a−2)2質量%、(a−7)66.7質量%及び(a−11)31.3質量%を混合したポリアミド樹脂組成物を同射出成形機に導入し、樹脂温度270℃で、金型温度150℃の金型に射出し、保持圧力50MPaを45秒間にかけた後、金型内で45秒冷却し、図1の形状の複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0049】
実施例6
実施例5において、(a−2)20質量%、(a−7)66.7質量%及び(a−11)13.3質量%にした以外は、実施例5と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0050】
実施例7
実施例5において、(a−1)2.5質量%、(a−7)66.7質量%及び(a−11)30.8質量%にした以外は、実施例5と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0051】
実施例8
実施例5において、(a−1)25質量%、(a−7)66.7質量%及び(a−11)8.3質量%にした以外は、実施例5と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0052】
実施例9
実施例5において、(a−1)50質量%、(a−8)44.4質量%及び(a−11)5.6質量%にした以外は、実施例5と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0053】
比較例2
実施例5において、(a−7)66.7質量%及び(a−11)33.3質量%にした以外は、実施例5と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例10
処理1で表面処理したステンレスの試験片を200℃に設定したアズワン株式会社の自然対流乾燥器SONW−450で予熱し、その試験片を住友重機械工業株式会社の射出成形機SE−100Dに取り付けた図1の複合体が成形できる金型内に設置し、(a−1)を同射出成形機に導入し、樹脂温度270℃で、金型温度140℃の金型に射出し、保持圧力60MPaを15秒間かけた後、金型内で30秒冷却することにより図1の形状の複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0056】
実施例11
実施例10において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理1で表面処理した鋼材の試験片にした以外は、実施例10と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0057】
実施例12
実施例10において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理1で表面処理したアルミニウムの試験片にした以外は、実施例10と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0058】
実施例13
実施例10において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理したステンレスの試験片にした以外は、実施例10と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0059】
実施例14
実施例13において、処理2で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理した鋼材の試験片にした以外は、実施例10と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0060】
実施例15
実施例13において、処理2で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理したアルミニウムの試験片にした以外は、実施例10と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0061】
実施例16
処理1で表面処理したステンレスの試験片を200℃に設定したアズワン株式会社の自然対流乾燥器SONW−450で予熱し、その試験片を住友重機械工業株式会社の射出成形機SE−100Dに取り付けた図1の複合体が成形できる金型内に設置し、(a−3)を同射出成形機に導入し、樹脂温度270℃で、金型温度140℃の金型に射出し、保持圧力60MPaを15秒間かけた後、金型内で30秒冷却し、図1の形状の複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0062】
実施例17
実施例16において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理1で表面処理した鋼材の試験片にした以外は、実施例16と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0063】
実施例18
実施例16において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理1で表面処理したアルミニウムの試験片にした以外は、実施例16と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0064】
実施例19
実施例16において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理したステンレスの試験片にした以外は、実施例16と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0065】
実施例20
実施例19において、処理2で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理した鋼材の試験片にした以外は、実施例19と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0066】
実施例21
実施例19において、処理2で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理したアルミニウムの試験片にした以外は、実施例19と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0067】
実施例22
実施例10において樹脂組成物を(a−1)50質量%および(a−9)50質量%の混合物、金型温度を120℃とした以外は実施例10と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0068】
実施例23
実施例22において樹脂組成物を(a−4)、金属の種類をアルミニウムにした以外は実施例22と同様にして複合体を得、接合性の評価を行った。また切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0069】
実施例24
実施例23において樹脂組成物のグラファイトを酸化マグネシウムにして樹脂組成物(a−5)とした以外は実施例23と同様にして複合体を得、接合性の評価を行った。また切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0070】
比較例3
処理1で表面処理したステンレスの試験片を180℃に設定したアズワン株式会社の自然対流乾燥器SONW−450で予熱し、その試験片を住友重機械工業株式会社の射出成形機SE−100Dに取り付けた図1の複合体が成形できる金型内に設置し、(a−7)を同射出成形機に導入し、樹脂温度290℃で、金型温度80℃の金型に射出し、保持圧力60MPaを15秒間かけた後、金型内で30秒冷却し、図1の形状の複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0071】
比較例4
比較例3において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理1で表面処理した鋼材の試験片にした以外は、比較例3と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0072】
比較例5
比較例3において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理1で表面処理したアルミニウムの試験片にした以外は、比較例3と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0073】
比較例6
比較例3において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理したステンレスの試験片にした以外は、比較例3と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0074】
比較例7
比較例6において、処理2で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理した鋼材の試験片にした以外は、比較例6と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0075】
比較例8
比較例6において、処理2で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理したアルミニウムの試験片にした以外は、比較例6と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0076】
比較例9
比較例3において、試験片を200℃で予熱し、金型温度を150℃にした以外は、比較例3と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0077】
比較例10
比較例9において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理したステンレスの試験片にした以外は、比較例9と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0078】
比較例11
比較例9において、(a−7)を(a−9)にした以外は、比較例9と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0079】
比較例12
比較例11において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理1で表面処理した鋼材の試験片にした以外は、比較例11と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0080】
比較例13
比較例11において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理1で表面処理したアルミニウムの試験片にした以外は、比較例11と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0081】
比較例14
比較例9において、(a−9)を(a−6)にした以外は、比較例9と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0082】
比較例15
比較例14において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理したステンレスの試験片にした以外は、比較例11と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0083】
比較例16
処理1で表面処理したステンレスの試験片を200℃に設定したアズワン株式会社の自然対流乾燥器SONW−450で予熱し、その試験片を住友重機械工業株式会社の射出成形機SE−100Dに取り付けた図1の複合体が成形できる金型内に設置し、(a−10)を同射出成形機に導入し、樹脂温度290℃で、金型温度80℃の金型に射出し、保持圧力60MPaを15秒間かけた後、金型内で30秒冷却することにより図1の形状の複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。その結果を表3に示す。
【0084】
比較例17
比較例16において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理2で表面処理したステンレスの試験片にした以外は、比較例16と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。その結果を表3に示す。
【0085】
比較例18
比較例16において、(a−10)を(a−8)にした以外は、比較例16と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0086】
比較例19
比較例18において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理1で表面処理した鋼材の試験片にした以外は、比較例18と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0087】
比較例20
比較例18において、処理1で表面処理したステンレスの試験片を処理1で表面処理したアルミニウムの試験片にした以外は、比較例18と同様にして複合体を得た。得られた複合体の強度測定および接合性評価を行った。また、切り出した試験片から線膨張係数と結晶化温度の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0088】
【表3】

図1
図2