(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
擁壁ブロックの上面に形成された固定用の凸部と、擁壁ブロックの下面部に形成された固定用の凹部と、前記上面に形成された擁壁ブロック吊上げ用の吊具を取付け可能な取付け部と、前記下面部に形成された挿入孔とを備えており、前記取付け部の位置は、前記凸部の位置よりも擁壁ブロックの前面側である擁壁ブロックを積み重ねて傾斜擁壁を構築する擁壁構築方法であって、
所定位置に設置された下段擁壁ブロックの上に設置する上段擁壁ブロックの前記上面の前記取付け部に、前記吊具を取り付ける工程と、
前記上面に取り付けられた当該吊具を用いて、当該上段擁壁ブロックを傾いた状態に吊上げる吊上げ工程と、
吊上げ状態の上段擁壁ブロックを、前記上面に支持部材が取り付けられた前記下段擁壁ブロックの上に設置するブロック設置工程とを有しており、
前記支持部材は、前記上面に取り付けられた状態で、当該上面から突出する支持部を有するものであり、
前記ブロック設置工程は、
吊上げ状態の上段擁壁ブロックの挿入孔の開口の位置と、前記下段擁壁ブロックの支持部の先端の位置とを一致させた状態にする一致工程と、
この状態から吊上げ状態の前記上段擁壁ブロックを下降させて、前記下段擁壁ブロックの前記支持部材の前記支持部を前記上段擁壁ブロックの前記挿入孔に挿入すると共に当該挿入孔の内面に接触させた状態にする挿入工程と、
前記下段擁壁ブロックの前記支持部の先端が前記挿入孔に挿入された状態の前記上段擁壁ブロックの前記凹部を、前記下段擁壁ブロックの前記凸部に係合させる位置決め工程と、を含んでおり、
前記下段擁壁ブロックの上に設置された前記上段擁壁ブロックは、当該上段擁壁ブロックの挿入孔の内面に接する前記下段擁壁ブロックの前記支持部材に支持されて前記下段擁壁ブロックの上に自立した状態で設置される、自立型擁壁ブロックを用いた擁壁構築方法。
前記支持部材は、前記取付け部に取付け可能であると共に吊上げに用いることができる係合部を有し、前記取付け部に取り付けられた状態で擁壁ブロック吊上げ用の前記吊具として用いることができるものであり、
前記上段擁壁ブロックの前記上面の前記取付け部に吊具を取り付ける工程は、支持部材を取り付ける工程である、請求項4から請求項7のいずれか一項に記載の擁壁構築方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した擁壁構築方法では、下段擁壁ブロックを設置すると、その後、上段擁壁ブロック設置前に下段擁壁ブロックの背面側に砕石などの裏込め材を充填し、これにより下段擁壁ブロックの設置状態を安定させた後、下段の擁壁ブロックの上に上段の擁壁ブロックを積み上げている。
このような擁壁構築方法で傾斜した練積み擁壁を構築する場合、擁壁ブロックは傾斜状態に設置されるので、擁壁ブロック背面側に裏込め材を充填する工程の間、設置した擁壁ブロックを支持棒などの仮支持用の支持具を用いて一時的に支える必要がある。
つまり、上述した擁壁構築方法においては、裏込め材の充填工程の前に支持具設置工程が行われ、充填工程終了後、設置していた支持具を撤去する撤去工程が行われる。
ところが、擁壁ブロックを一時的に支持する支持具の設置及び撤去は、擁壁構築現場によっては、必ずしも容易でない。そして、支持具の設置及び撤去が容易でない現場では、擁壁ブロックを積み上げる作業自体も容易でない場合が少なくない。
支持具の設置及び撤去が容易でなく煩雑な作業であれば、擁壁構築作業の作業性は低下する。同様に、擁壁ブロックを積み上げる作業が容易でない場合も、擁壁構築の作業性は低下する。
なお、積み上げられた擁壁ブロックを相互に連結する鉄筋は、全段の擁壁ブロックの積み上げ完了後、擁壁ブロックを貫通する状態に設置されるものであり、擁壁構築途中の擁壁ブロックを支持するものではない(特許文献1参照)。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、擁壁構築時の作業性に優れた擁壁ブロックを提供すること、及び作業性に優れた擁壁構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、複数の下段擁壁ブロックの上に複数の上段擁壁ブロックを設置して構成される複数段の擁壁ブロック積み上げ構造を有する傾斜擁壁で用いられる擁壁ブロックであり、擁壁構築時の吊上げ工程で用いることができる擁壁ブロック吊上げ用の吊具を取付け可能な取付け部を擁壁ブロック本体の上面に備えている擁壁ブロックであって、前記上面に取付け可能な支持部材と、擁壁ブロックの下面に形成された挿入孔とを、さらに備えており、前記支持部材は、前記上面に取付けられたときに、前記上面から突出した支持部を備えており、前記挿入孔は、前記下段擁壁ブロックの上に前記上段擁壁ブロックを設置するときに、前記下段擁壁ブロックに取付けられた前記支持部材の支持部が挿入される位置に形成されており、前記下段擁壁ブロックの前記支持部材は、当該下段擁壁ブロックの上に設置された前記上段擁壁ブロックの前記挿入孔に挿入され、当該挿入孔を有する前記上段擁壁ブロックの設置状態を維持する、擁壁ブロックである。
【0006】
このような本発明に係る擁壁ブロックを用いれば、擁壁構築時、下段擁壁ブロックの上面に設置した支持部材によってその上に積み上げた上段ブロックを支持することができる。つまり、上段擁壁ブロックを設置すると同時に、擁壁構築作業途中の上段擁壁ブロックを一時的に仮支えすることができる。したがって、上段擁壁ブロックの設置が完了すると、その後、仮支持に関する作業を行うことなく、直ぐに擁壁構築に関する工程を行うことができる。このように、上段擁壁ブロックを仮支えするための支持具を設置する仮支持具設置工程が不要であり、さらには、仮支持具を撤去する仮支持具撤去工程も不要であるので、擁壁構築作業工程が著しく向上する。
本発明に係る擁壁ブロックの支持部材の取付け構造としては、取付け部に取り付ける構成のほか、取り付け部とは別途設けた取付け部に支持部材を取付ける構成を採用してもよく、種々の構成を採用可能である。
【0007】
挿入孔は支持部材の支持部が挿入される部位である。つまり、挿入孔の位置は、下段擁壁ブロックの支持部材によって上段擁壁ブロックを支持する位置である。擁壁ブロックは重量物であるところ、このような物体を後方に倒れないように支持する場合、支持部材に加わる負荷をできるだけ軽減するためには、支持部材の位置としてはできるだけ擁壁ブロック前方側であることが好ましい。
つまり、前記挿入孔の位置は、擁壁ブロックの背面の位置よりも擁壁ブロックの前面の位置に近い位置に配置されていることが好ましい。そして、取付け部も、擁壁ブロックの背面の位置よりも擁壁ブロックの前面の位置に近い位置であることが好ましい。
また、前記挿入孔の位置は、擁壁ブロックの重心の位置よりも擁壁ブロックの前面側の位置に配置されていることが好ましい。そして、取付け部は、擁壁ブロックの重心の位置よりも擁壁ブロックの前面側の位置であることが好ましい。
【0008】
なお、傾斜状態で設置された擁壁ブロックを転倒しにくくし、後方への転倒を確実に防止する方法として、ブロック上面から突出する支持部材の支持部の長さを長くすることが考えられる。ところが、支持部は、長さが長くなるほど取扱い性が低下する。したがって、取扱いの観点からすれば、支持部はできるだけ短い方が好ましい。そして、短い支持部で転倒を確実に防止するためには、挿入孔の位置は、擁壁ブロックの背面側に近い方が好ましい。
また、挿入孔周辺の擁壁ブロックの強度の観点からすれば、擁壁ブロック前面と挿入孔との間の離間距離は、擁壁ブロックで用いられている砂利や砕石などの骨材の平均粒径の3倍の距離以上であることがより好ましい。このような位置に配置されていれば、挿入孔周辺の強度を保持することができる。
【0009】
前記挿入孔の内周面の少なくとも一部は、擁壁ブロックに埋設された埋設部材で構成された平滑内周面であり、当該平滑内周面は、その表面粗さが前記擁壁ブロックの表面の表面粗さよりも小(密)である。
ところで、当初、擁壁ブロックに単に挿入孔を設け、その挿入孔に支持部材の支持部を挿入する構造とした。ところが、挿入孔に支持部を挿入するとき、挿入孔の内周面に支持部が引っかかる場合があることが解った。そこで、その点について、鋭意検討及び研究を行った。そして、挿入孔の内周面の少なくとも一部が平滑内周面である構成を見出した。このような構成であれば、支持部材を挿入孔にスムーズに挿入可能であり、挿入作業性を向上させることができる。挿入作業性に優れる構成は、擁壁ブロック設置作業性に優れた構成であり、擁壁を容易かつ迅速に構築することができる構成である。
【0010】
前記挿入孔の開口部は、開口端側ほど孔断面積が広がっているテーパ形状である。
上述したように、擁壁ブロックを構成するコンクリートは表面の状態が粗い素材であるので、挿入孔に支持部材を挿入するとき、支持部材が挿入孔の内周面に引っかかりやすい。そして、支持部材は、特に、挿入孔の開口部に引っかかりやすいことを見出した。この点、挿入孔の開口部がテーパ形状であれば、挿入孔に支持部材をスムーズに挿入可能であり、擁壁ブロック設置作業性に優れる。
さらに、支持部材としては、支持部材を擁壁ブロックに取付けられたときに前記擁壁ブロックの上面から突出する前記支持部の先端が先細形状であるものが好ましい。先細形状としては、先細の円錐形状や円錐台形状をはじめ、先端側に凸の球形状や円弧形状、先端側に凸の稜線形状など、種々の形状を挙げることができる。
【0011】
前記吊具を取付け可能な第2取付け部をさらに備えており、前記支持部材は、前記取付け部である第1取付け部及び前記第2取付け部のうちの少なくともいずれか一方に取付け可能であり、前記第1取付け部に取り付けた前記吊具を用いて擁壁ブロックを吊上げた第1吊上げ状態における擁壁ブロックの前面の仰角である第1仰角と、前記第2取付け部に取り付けた前記吊具を用いて擁壁ブロックを吊上げた第2吊上げ状態における擁壁ブロックの前面の仰角である第2仰角とを比較したとき、前記第1仰角は、前記第2仰角より大きい角度である。
このような構成であると、第1取付け部に取り付けた前記吊具を用いて上段擁壁ブロックを吊上げたとき、吊上げた上段擁壁ブロックを容易かつ迅速に下段擁壁ブロック上の所定位置に設置することができる。
擁壁ブロック前面の仰角とは、前面から前方に向けて延ばした法線と水平面とのなす角度(鋭角の角度)である。つまり、傾斜擁壁を構築すると、擁壁ブロック前面は傾斜擁壁の法面の方向に延在する面になる。したがって、擁壁ブロック前面が凹凸を有する面であり平面ではない場合であれば、例えば、背面と平行の仮想前面を用いて擁壁ブロック前面の仰角を特定することができ、さらに、擁壁ブロックがほぼ直方体形状である場合は、擁壁ブロックの下面又は上面と直交する仮想前面を用いて擁壁ブロック前面の仰角を特定することができ、擁壁ブロック側面と直交する仮想前面を用いて擁壁ブロック前面の仰角を特定することができる。なお、このとき、前記第1取付け部の位置は、擁壁ブロックの背面の位置よりも擁壁ブロックの前面の位置に近い位置に配置されることになる。第1取付け部がこのような位置であれば、第1取付け部に取り付けた吊具を用いて吊上げられた擁壁ブロックを、設置時の傾斜角度により近い傾斜状態で吊上げることができるので、擁壁設置作業をより容易かつ迅速に行うことができる。
【0012】
前記下面部を水平の設置面に接触させた状態で自立可能な擁壁ブロックであり、前記水平の設置面に設置された自立状態の擁壁ブロックの前面の仰角である設置時仰角と、前記第1仰角と、前記第2仰角とを比較したとき、前記第2仰角は、前記設置時仰角以上の角度であり、前記第1仰角は、前記設置時仰角及び前記第2仰角より大きい角度である。
このような構成であると、第2取付け部に取り付けた前記吊具を用いて吊上げた上段擁壁ブロックは、水平面に設置した状態と同じ状態又はその状態に近い傾斜状態で吊上げられるので、水平面上に載置する際の作業性に優れている。つまり、擁壁ブロックに吊具を取り付ける際、単に擁壁ブロックを搬送する場合と擁壁構築の場合とで、第1取付け部と第2取付け部とを使い分けることができ、これにより、擁壁構築作業性だけでなくと擁壁ブロック搬送性をも確保することができる。
【0013】
前記支持部材は、前記取付け部に取り付け可能なものである。
このような構成であれば、上段擁壁ブロック設置時に用いた吊具を取外した後、当該吊具が取り外された取付け部に支持部材を取り付けることになるので、支持部材の誤装着が防止される。つまり、擁壁ブロック上面に多数の取付け部が設けられているような場合であっても、支持部材を取付け部に迅速に取付けることができ、擁壁構築作業性に優れる。
【0014】
前記支持部材は、吊上げに用いることができる係合部を有しており、擁壁ブロック吊上げ用の吊具である。このような構成であれば、上段擁壁ブロックを吊上げるために取付けた吊具をそのまま支持部材として用いることができるので、吊具を取外す作業及び支持部材を取付ける作業が不要になり、擁壁構築作業性がさらに向上する。
【0015】
前記第1取付け部は、2か所(2つ)又は3か所(3つ)以上である。
擁壁ブロックは一つ吊具にワイヤ等を引掛けて吊上げ可能であるが、第1取付け部が複数あれば、複数の吊具を用いて擁壁ブロックを吊上げることができるので、擁壁ブロック吊上げ安定性が向上し、擁壁構築作業性がより向上する。
【0016】
前記上面に形成された固定用の凸部と、前記下面に形成された固定用の凹部とをさらに備えており、前記下段擁壁ブロックの上に前記上段擁壁ブロックを設置するときに、当該上段擁壁ブロックの凹部を前記下段擁壁ブロックの凸部に係合させると、前記上段擁壁ブロックは、前記下段擁壁ブロックに対して少なくとも前後方向の位置が固定された状態で設置されるようになっており、前記上面に取り付けられた前記支持部材の高さは、前記凸部の高さより高い。
上述したように、擁壁ブロックを構成するコンクリートは表面状態が粗い素材であり、しかも擁壁ブロックは重量物であるので、下段擁壁ブロックの上に積み重ねた上段擁壁ブロックを、下段擁壁ブロックに対して滑り移動させることは必ずしも容易でない。したがって、下段擁壁ブロックの固定用の凸部と上段擁壁ブロックの固定用の凹部を係合させるとき、上段擁壁ブロックを滑らせながら両者(凸部及び凹部)の位置を合わせることは必ずしも容易でなく、両者(凸部及び凹部)の位置をある程度正確に合わせた上で両者を係合させる必要がある。
この点、支持部材の長さが凸部の高さより高ければ、凸部と凹部とを係合させる作業の前に必ず支持部材を挿入孔に挿入する作業が行われることになる。つまり、支持部材を挿入孔に挿入すれば、同時に、凸部と凹部との位置合わせが完了したおことになり、その後、支持部材が挿入孔に挿入された状態を維持しつつ上段擁壁ブロックを下段擁壁ブロックの上に設置すれば、凸部と凹部を迅速かつ確実に係合させることができ、上段擁壁ブロックを所定の設置位置に容易、迅速かつ正確に設置し固定することができる。
【0017】
また、本出願に係る別の発明は、前記擁壁ブロックで用いられる前記擁壁ブロック本体の前記取付け部に取付け可能な擁壁ブロック用支持部材である。
そして、本出願に係るさらに別の発明は、前記擁壁ブロックで用いられる前記支持部材を取付け可能な前記取付け部を備えている擁壁ブロック本体である。
支持部材が着脱可能な場合、支持部材60が取り付けられていない状態のブロックを擁壁ブロック本体ということができ、擁壁ブロック本体に支持部材が取り付けられたものを擁壁ブロックということができる。つまり、擁壁ブロックは、特有の構成を有する擁壁ブロック本体と特有の構成を有する擁壁ブロック用の支持部材とで構成されている。
【0018】
また、本出願に係るさらに別の発明は、擁壁ブロック吊上げ用の吊具を取付け可能な取付け部を擁壁ブロックの上面に備えている擁壁ブロックを積み重ねて傾斜擁壁を構築する擁壁構築方法であって、所定位置に設置された下段擁壁ブロックの上に設置する上段擁壁ブロックに前記吊具を取付けて、当該上段擁壁ブロックを吊上げる吊上げ工程と、吊上げ状態の前記上段擁壁ブロックを、前記下段擁壁ブロックの上に設置するブロック設置工程とを有しており、所定位置に設置された前記下段擁壁ブロックは、当該下段擁壁ブロックの上面から突出する支持部を有する支持部材を備えており、前記ブロック設置工程は、前記下段擁壁ブロックの前記支持部材の前記支持部を前記上段擁壁ブロックの下面部に形成されている挿入孔に挿入する挿入工程を含んでおり、前記下段擁壁ブロックの上に設置された前記上段擁壁ブロックは、前記下段擁壁ブロックの上に、立設する状態に設置される、擁壁構築方法である。
【0019】
このような擁壁構築方法によれば、上段擁壁ブロックは、下段擁壁ブロックの上に設置されると同時に、下段擁壁ブロックの上に立設されるので、上段擁壁ブロック設置工程後に、当該上段擁壁ブロックを仮支えする必要がなく、仮支えするための支持具を設置する必要もないので、容易かつ迅速に擁壁を構築することができる。
【0020】
前記ブロック設置工程は、前記下段擁壁ブロックの傾斜状態の前記上面の上に、前記上段擁壁ブロックを設置する工程であり、前記下面を水平面に接触させた状態で当該水平面に載置された状態における擁壁ブロックの前面の仰角である設置時仰角と、前記取付け部に取り付けた前記吊具を用いて擁壁ブロックを吊上げた状態における擁壁ブロックの前面の仰角である第1仰角とを比較したときに、前記第1仰角が前記設置時仰角より大きい角度になる位置に、前記取付け部が配置されており、
前記吊上げ工程は、擁壁ブロックの前記前面及び前記挿入孔の延在方向が傾斜する状態になるように前記上段擁壁ブロックを吊上げる工程である。
【0021】
所定位置に設置された状態の前記下段擁壁ブロックの前記上面の傾斜角と前記第1仰角とを比較したときに、前記第1仰角が前記傾斜角度以下の角度になる位置に、前記取付け部が配置されている。
【0022】
前記挿入孔の開口部は、開口端側ほど孔断面積が広がっているテーパ形状であり、
前記挿入工程は、前記支持部材の支持部の先端を、前記挿入孔内に向けて前記開口部面のテーパ面に沿って挿入方向に挿入する工程である。
【0023】
前記支持部材の前記支持部の先端は、先細のテーパ形状であり、前記挿入工程は、テーパ形状である前記支持部材の支持部の先端を、前記挿入孔内に向けて前記開口部面のテーパ面に沿って挿入方向に挿入する工程である。
【0024】
前記挿入孔の内周面の少なくとも一部は、擁壁ブロックに埋設された埋設部材で構成された平滑内周面であり、当該平滑内周面は、その表面粗さが前記擁壁ブロックの表面の表面粗さよりも小(密)であり、前記挿入工程は、前記支持部材の支持部の先端を前記平滑内周面に沿って挿入方向に挿入する工程である。
【0025】
前記吊具は、前記取付け部に取付けられ状態で前記上面から突出する突出支持部を有し、前記挿入工程は、前記下段擁壁ブロックに取り付けられた前記吊具の前記突出支持部を前記上段擁壁ブロックの下面部に形成されている挿入孔に挿入する工程であり、前記吊具の前記突出支持部を前記支持部材の支持部として用いてもよい。
【0026】
また、前記ブロック設置工程の前に、所定位置に設置された前記下段擁壁ブロックに取付けられた状態の前記吊具を、当該下段擁壁ブロックから取り外す工程と、
所定位置に設置された前記下段擁壁ブロックの前記上面に前記支持部材を取付ける工程とを有する方法でもよい。
【0027】
そして、前記下段擁壁ブロックの上に設置された前記上段擁壁ブロックから前記吊具を取外す工程をさらに有していてもよい。吊具が取外された当該上段擁壁ブロックは、前記下段擁壁ブロックの上に立設状態で設置される。
なお、吊具を取外す工程は、少なくとも擁壁を構成する擁壁ブロックのうち最上段の擁壁ブロックについて行われる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る擁壁ブロックは、その下面に挿入孔を備えており、しかもその上面に取付け可能な支持部材を備えているので、擁壁構築時、下段擁壁ブロックの上面に設置した支持部材によってその上に積み上げた上段ブロックを支持することができる。つまり、上段擁壁ブロックを設置すると同時に、擁壁構築作業途中の上段擁壁ブロックを支持部材によって支えることができる。したがって、上段擁壁ブロックの設置が完了すると、その後、積み上げた上段擁壁ブロックを仮支えするための支持具を設置する作業が不要であり、直ぐに擁壁構築に関する工程を行うことができる。なお、上段擁壁ブロックを仮支えするための支持具を設置する仮支持具設置工程が不要であれば、その後、仮支えに用いた支持具を撤去する仮支持具撤去工程も不要である。したがって、本発明に係る擁壁ブロックを用いた擁壁構築方法は、擁壁構築作業性が極めて優れている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明に係る擁壁ブロックについて説明する。
【0032】
図2に示されるように、擁壁ブロック10は、略直方体の形状であり、擁壁構築時に外界(空間側)に露出する状態に設置される前面1fと、土壌、地盤あるいは山腹側(以下、単に土側と称する)に向けて配置される背面1b(
図1参照)と、鉛直方向の上方に向けて配置される上面1uと、鉛直方向の下方に向けて配置される下面1d(
図1参照)と、両側面1s,1sとを備えている。
【0033】
そして、擁壁ブロック10は、上面1uに形成された凸部11aと、下面1d(
図1参照)に形成された凹部11bと、各側面1s,1sに形成された縦溝部12と、上面(上面部)1uに設けられた搬送用具装着部(第2取付け部)13,13とを備えている。この搬送用具装着部も取付け部である。
【0034】
擁壁ブロック10の凸部11a及び凹部11bは、上下に積み重ねられた擁壁ブロック相互の固定に用いられる。擁壁A(
図1参照)の構築では、
図5及び
図6に示されるように、下側に設置された擁壁ブロック(以下、下段擁壁ブロック10a)の上面1uの凸部11aと、その上に設置される擁壁ブロック(以下、上段擁壁ブロック10b、
図6参照)の下面1dの凹部11bとを係合させつつ擁壁ブロック10を積み重ねる。擁壁Aを構成する各擁壁ブロック10は背面側からのいわゆる土圧を受けるものであるが、下段擁壁ブロック10aの上面の凸部11aに上段擁壁ブロック10bの下面の凹部11bが係合する構造であるので、土圧による擁壁ブロック10の位置ズレ(特にブロック前後方向の位置ズレ)を防止することができる。
なお、上面1uの凸部11a及び下面1dの凹部11bは、擁壁ブロック10の前後方向の中央部に形成されている。ここで、凸部11aや凹部11bが中央部に形成されている状態とは、凸部11及び凹部の一部が擁壁ブロック10の中央位置1c(
図1参照)に重なる状態で、凸部11a又は凹部11bが形成されていることである。なお、中央位置1cとは、前面1fの前端位置から背面1bの後端位置に至る前後方向の中央位置のことである。そして、前側2fとは、中央位置1cよりも前面側(前面側部2f)のことであり、後側(背面側部2b)とは、中央位置1cよりも背面側のことである。
【0035】
擁壁ブロック10の各側面1s,1sの縦溝部12は、横方向に並べて設置された擁壁ブロック相互の連結に用いられる。より具体的には、縦溝部12は各側面1s,1sの中央部に上下方向に延在する状態で形成された溝構造である。
擁壁構築時、横方向に並べて設置される擁壁ブロック10は、隣接する側面1s同士が対面する状態に設置される。そして、横並びで隣接する擁壁ブロック10同士の当接部分には、対面する縦溝部12,12に囲まれた空間が形成される。練積み擁壁Aでは、この空間内にペースト状のコンクリート(不図示)を充填して硬化させることで、擁壁ブロック10同士を堅固に連結させている。擁壁構築工程については、周知の工程を用いることが可能であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0036】
搬送用具装着部13,13は、擁壁ブロック製造時にブロック内に埋め込まれた埋め込みナットであり、
図2に示されるように、擁壁ブロック10の上面に一対(2か所に)設けられている。擁壁ブロックは、一般的には、1本のワイヤW等でも吊上げ可能であるが、複数のワイヤW等で吊上げると吊上げ状態における安定性が向上する。なお、埋め込みナットが設置された構造は周知であるので、ここでは製造方法等の説明を省略する。
搬送用具装着部13には、擁壁ブロック搬送時、擁壁ブロック10を吊上げるために用いられる吊具50(
図5及び
図6参照)を捩じ込みによって着脱自在に取り付け可能である。なお、吊具50は、捩じ込み部51と、捩じ込み部51の一端に形成された引掛け部52とを有する周知のものであるので、ここではその詳細な説明を省略する。
2つの搬送用具装着部13,13は、いずれも、擁壁ブロック上面1uの前後方向の中間位置である中央位置1cに配置されている。別言すれば、この位置は、下面1dを水平面に接触させて自立状態で水平面上に置かれた擁壁ブロック10の重心S(
図1参照)の位置の鉛直上方の位置であり、擁壁ブロック10の前面1f(又は背面1b)から搬送用具装着部13までの距離と、前面(又は背面)から重心Sまでの距離とが等距離になる位置である。
略直方体の擁壁ブロック10において、搬送用具装着部13が配置されてる位置は、擁壁ブロック10の重心Sを通る前面1f又は背面1bと平行の垂直面(中央位置1c)と上面1uとの交線1z(
図2参照)の位置に対応する。
【0037】
この搬送用具装着部13,13に吊具50を取り付けて、クレーン等のワイヤWで擁壁ブロック10を吊上げると、擁壁ブロック10の下面1dが水平の状態を維持しつつ擁壁ブロック10を吊上げることができる(不図示)。擁壁ブロック10の前面1fは、水平面上に置かれた状態において垂直であると共に搬送用具装着部13,13に取り付けた吊具50を用いて吊上げた状態においても垂直であり、水平面に置かれた状態における擁壁ブロック前面1fの仰角(以下、設置時仰角)及び搬送用具装着部13,13に取り付けられた吊具50を用いて吊上げられた状態における仰角(以下、第2仰角)はいずれも0度である。擁壁ブロック前面1fの仰角αとは、前面1fから前方に向けて延ばした法線1x(
図1参照)と水平面とのなす角度(鋭角の角度)である。第2仰角は、設置時仰角以上の角度であり、設置時仰角より大きい角度であってもよい。なお、仰角の値がマイナスの値の角度である場合とは前面1fが下向きの場合である。
擁壁ブロック下面1dが水平の状態で擁壁ブロック10を吊上げることができれば、擁壁ブロック搬送時、擁壁ブロック10を荷台に積み込んだり、荷台から積み下ろしたりする作業を容易且つ迅速に行うことができる。
【0038】
擁壁ブロック10は、さらに、
図2に示されるように、上面(上面部)1uに設置された複数の設置用具装着部(第1取付け部)30,30と、下面(下面部)1dに形成された複数の挿入孔40,40とを備えている。
【0039】
設置用具装着部30は、擁壁ブロック製造時に擁壁ブロック10内に埋め込まれた埋め込みナットである。この設置用具装着部30には、擁壁ブロック設置時にも用いられる吊具50(
図6参照)を捩じ込みによって着脱自在に取り付け可能であると共に、後述しているように、挿入孔40との協働によって擁壁ブロック10を支持する支持部材60(
図3及び
図6参照)を取り付け可能である。
設置用具装着部30は、
図2に示されるように、擁壁ブロック10の上面に一対(2か所に)設けられている。擁壁ブロックは、一般的には、1本のワイヤW等でも吊上げ可能であるが、複数のワイヤW等で吊上げると吊上げ状態における安定性が向上する。
一対の設置用具装着部30,30は、擁壁ブロック10の一方の側面1sから他方の側面1sに至る横方向の中間位置1gを中心として横方向に左右対称の位置(中間位置1gから等距離30x)に設置されている。なお、ここでいう横方向は、前後方向と直交する水平の幅方向のことである。
また、設置用具装着部30,30は、その上端の開口位置が擁壁ブロック上面1uの前後方向の前側(前面側部2f)の位置に配置されている。そして、本実施形態では、凸部11aよりも前後方向前側に配置されている。
したがって、
図6に示されるように、設置用具装着部30,30に取り付けた吊具50,50にワイヤWを引っかけて擁壁ブロック10を吊上げると、擁壁ブロック10は傾いた状態で吊上げられる。つまり、設置用具装着部30,30に取り付けた吊具50,50を用いて吊上げられた擁壁ブロック10の前面1fは、所定の仰角(以下、第1仰角α1)で上向きに傾いた状態になる。そして、この第1仰角α1は前述の第2仰角よりも大きい角度である。第1仰角α1は、上面に設ける設置用具装着部30,30の位置を調整することによって調整及び変更が可能であり、台Bの上面(設置面)の傾斜角度α0に近い角度が好ましく、当該角度α0と同じであることがより好ましい。
また、設置用具装着部30は、雌ねじ部31のねじ込み軸31a方向が擁壁ブロック10の上面1uと直交する方向になるように設置されている(
図3参照)。なお、本実施形態では、雌ねじ部31のねじ込み軸31aの方向は、擁壁ブロック10の前面1u及び側面1sと平行である。
【0040】
挿入孔40は、挿入孔40の中心軸40aと設置用具装着部30の雌ねじ部31のねじ込み軸31aとが一致する位置に形成されている(
図5参照)。
したがって、仮に、下段擁壁ブロック10aの真上に上段擁壁ブロック10bを積み重ねると、下段擁壁ブロック10aの設置用具装着部30の開口(埋め込みナット31の開口)と、上段擁壁ブロック10bの挿入孔40の開口40bとが相対向する状態になる。別言すれば、下段擁壁ブロック10aの設置用具装着部30の雌ねじ部31に取り囲まれた中空部と、上段擁壁ブロック10bの挿入孔40とが連通した状態になる。
【0041】
また、挿入孔40は、中心軸40aの方向に延在する円筒形状の中空部であり、
図4に示されるように、管状部材(埋設部材)41を埋設することによって形成されている。つまり、挿入孔40は、埋設された管状部材41の内周面(平滑内周面)41aに取り囲まれている。
管状部材41は、その開口側の端部が擁壁ブロック10の下面1dよりも擁壁ブロック上方(中央側)に後退した位置に位置するように配置されている。
そして、挿入孔40は、その開口側の端部に、開口端側に向けて末広がりのテーパ形状部42を備えている。つまり、挿入孔40の開口部には、開口端部(擁壁ブロック10の下面1d)に向けて徐々に大口径になっており、徐々に断面積が大きくなっている空間(拡開空間)が設けられている。
【0042】
管状部材41は、挿入孔40を取り囲む円筒形状の内周面41aと、開口端部側の端部に形成されたテーパ部41bとを備えている。内周面41aは、挿入孔40に挿入された後述の支持部材60と接する部位であり、擁壁ブロック10の表面(下面1d)よりも平滑な平滑面である。つまり、内周面41aは、その表面粗さは擁壁ブロック10の表面の表面粗さより小(密)である。また、テーパ部41bは、挿入孔40のテーパ形状部42の一部を構成するものである。
挿入孔40の内周面がコンクリートであれば、後述の支持部材60の支持部62を挿入孔40に挿入するとき、支持部62の先端等が挿入孔40の内周面に引っかかって擁壁ブロック設置作業に時間がかかるおそれがある。この点、本実施形態のように内周面41aが平滑面であれば、支持部材60の支持部62をスムーズに挿入することができ、擁壁ブロック10を迅速に設置することができる。
本実施形態では、管状部材41は塩化ビニル製のパイプで構成されている。従って、内周面41aは、平滑面であるだけでなく、擁壁ブロック10を構成しているコンクリートよりも硬度が低い柔軟面である。そして、内周面41aは、後述の支持部材60の支持部62よりも硬度が低い柔軟な面でもある。
なお、擁壁ブロック10に管状部材41を備える方法としては、周知の埋設方法を用いることができるので、ここでは製造方法の説明を省略する。
【0043】
そして、擁壁ブロックの上面1uには、支持部材(突起部材)60を着脱自在に取り付け可能である。擁壁ブロック10の上面1uに、支持部材60を取付けるための取付け部を設けてもよいが、本実施形態の擁壁ブロック10では、擁壁ブロック上面1uの装着部13,30に支持部材60を取付け可能である。つまり、各装着部13,30には、吊具50を取り付け可能であると共に、後述の支持部材60を捩じ込みによって着脱自在に取り付け可能である。さらに言えば、支持部材として使用可能な構成の吊具50を用いることができ、吊具として使用可能な構成の支持部材60を用いることができる。
なお、上述したように、支持部材60は着脱可能なものであることから、本実施形態においては、支持部材60が取り付けられていない状態のブロックを擁壁ブロック本体ということができ、擁壁ブロック本体に支持部材60が取り付けられたものを擁壁ブロック10といことができる。つまり、擁壁ブロック10は、特有の構成を有する擁壁ブロック本体と特有の構成を有する擁壁ブロック用の支持部材60とで構成されている。
【0044】
支持部材60は、鋼材製であり、設置用具装着部30にねじ込み可能な雄ねじ部61(着脱部)と、棒状の部材で構成された支持部62とを備えている。
支持部62は、断面円形の棒状部材で構成されており、雄ねじ部61のねじ込み軸61a方向に延びている。本実施形態においては、支持部62を構成する棒状部材の中心軸は、雄ねじ部のねじ込み軸と一致している。したがって、装着部13,30に支持部材を取り付けると、支持部62は、装着部13,30の雌ねじ部のねじ込み軸上に位置する(
図1参照)。
また、支持部62の先端部62tは、先端に向けて先細のテーパ形状になっていると共に平滑面で構成されている。このように、支持部62の先端部62tの形状を傾斜した形状にしたり、平滑面で構成したりすると、後述の擁壁ブロック設置工程の作業性を向上させることができ好ましい。
【0045】
次に、上述した練積み擁壁構築用の擁壁ブロック10を用いて、傾斜擁壁Aを構築する擁壁構築方法について説明する。
ここでは、一段目(以下、下段)に複数の下段擁壁ブロック10aを台Bの上面である傾斜面上に設置して下段の擁壁を構築した状態(
図5参照)を基点として、その後の擁壁構築工程について説明する。
【0046】
なお、下段擁壁ブロック10aで構成された擁壁部分の構築では、下段擁壁ブロック10aを吊上げて所定位置に設置する工程、下段擁壁ブロック10aの吊上げ移動に用いたワイヤWを吊具50から取外す工程(ワイヤ取外し工程、
図5参照)、下段擁壁ブロック10から吊具50を取外す工程(吊具取外し工程、
図5参照)、下段擁壁ブロック10aの背面側に砕石等の裏込め材Fを充填する工程(盛土工程、
図5参照)、並列状態に設置された下段擁壁ブロック10aの側面の縦溝部12に囲まれた空間にコンクリートを充填する工程(充填工程)などが行われる。これらの工程は周知の工程であり、適宜の順番で行われるものであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0047】
下段擁壁ブロック設置工程が終了すると、次に、下段擁壁ブロック10a(
図5参照)の上に上段擁壁ブロック10bを設置する作業を行う。
【0048】
上段擁壁ブロック10bの設置では、まず、
図6に示されるように、下段擁壁ブロック10aの設置用具装着部30,30に支持部材60を取り付ける(支持部材取付け工程)。
これにより、取り付けられた支持部材60の支持部62は、その中心軸が下段擁壁ブロック10aの装着部の雌ねじ部31のねじ込み軸31a上に位置する状態になるように設置される。
【0049】
次に、設置前の上段擁壁ブロック10bの設置用具装着部30,30に吊具50を取付けた後(吊具取付け工程)、取付けられた吊具50にクレーン(不図示)の吊上げ用のワイヤWを引っかけて(ワイヤ引掛け工程)、上段擁壁ブロック10bを吊上げる(ブロック吊上げ工程、第1吊上げ状態)。
【0050】
そして、吊上げた上段擁壁ブロック10bを、所定の下段擁壁ブロック10aの上に設置する(ブロック設置工程)。
このブロック設置工程では、上段擁壁ブロック10bの下面1dの挿入孔40の開口(テーパ形状部42)の位置と、下段擁壁ブロック10aに取り付けられている支持部材60の先端位置62tとが一致する状態になるように、吊上げ状態の上段擁壁ブロック10bを移動させる(
図6参照)。
この状態から上段擁壁ブロック10bを下降させて、上段擁壁ブロック10bの挿入孔40に下段擁壁ブロック10aの支持部材60を挿入する(挿入工程)。これにより、下段擁壁ブロック10aの支持部材60は、上段擁壁ブロック10の挿入孔40の内周面41aに接触しながら挿入孔40内に挿入され、支持部62の挿入部分長さが徐々に長くなる。挿入孔40の内周面41aは滑らかであるので、支持部62の先端等が内周面41aに引っかかることがなく、挿入孔40内に支持部材60の支持部62をスムーズに挿入することができる。
そして、その後、上段擁壁ブロック10bの下面1dが下段擁壁ブロック10aの上面1uに接触し、上段擁壁ブロック10bは、傾いた状態で下段擁壁ブロック10aの上に設置される(
図1参照)。このとき、上段擁壁ブロック10bは、外部から支えられることなく立設された状態であり、自立状態ということもできる。
【0051】
このとき、上段擁壁ブロック10bは、傾斜した状態で下段擁壁ブロック10a上に設置され、下段擁壁ブロック10aの支持部材60によって支持され、下段擁壁ブロック10aの上に設置された状態が維持される。このように、本実施形態によれば、上段擁壁ブロック10bを下段擁壁ブロック10a上に設置すれば、設置された上段擁壁ブロック10bは、下段擁壁ブロック10aによって支持された状態になり、後方に倒れることが防止された状態になる。
従来であれば、設置した上段擁壁ブロック10bを一時的に支持する仮支持用の支持具の設置及び撤去作業が必要であったが、本実施形態の擁壁ブロック10を用いれば、これらの作業が不要であり、上段擁壁ブロック設置後すぐに、背面側への裏込め材Fの充填工程を行うことができる。このように、本実施形態の擁壁ブロック10を用いる擁壁構築方法は、擁壁構築の作業性に優れており、しかも擁壁構築期間の大幅な短縮を実現できる構築方法である。
【0052】
上段擁壁ブロック10bの設置が完了すると、上段擁壁ブロック10bの吊具50からワイヤWを取外し(ワイヤ取外し工程)、その後、上段擁壁ブロック10bから吊具50を取外す(吊具取外し工程)。
そして、この上段擁壁ブロック10bの上にさらに擁壁ブロック10を設置する場合は、当該上段擁壁ブロック10bの設置用具装着部30,30に支持部材60を取り付ける(支持部材取付け工程)。このとき、設置された上段擁壁ブロック10bは、次に設置される擁壁ブロックとの関係においては下段擁壁ブロックである。
【0053】
このような工程を繰り返して擁壁Aを構築する。なお、擁壁構築方法の基本的な工程については周知の工程を用いることができるので、ここではその詳細な説明を省略する。
本実施形態の擁壁ブロックを用いる擁壁構築方法によれば、従来の擁壁構築方法とは異なり、擁壁構築の作業性向上を実現することができる。
【0054】
さらに、本実施形態の擁壁ブロック及び擁壁構築方法について詳細に説明する。
【0055】
上述したブロック設置工程において、下段擁壁ブロック10aのうち、上段擁壁ブロック10bに最初に接する部分は、下段擁壁ブロック10aに設置された支持部材60の支持部62の先端62tである。従来の擁壁構築では、上段擁壁ブロック10bの下面1dの前端縁を下段擁壁ブロック10aの所定位置に位置合わせたり、下段擁壁ブロック上面1uの凸部11aと上段擁壁ブロック下面1dの凹部11bとを係合させたりしつつ、上段擁壁ブロック10bを下段擁壁ブロック10aの上に設置する必要がある。この場合、コンクリート表面同士を位置決めする必要があるが、コンクリート同士は滑りにくいので、位置決め作業は必ずしも容易ではない。この点、本実施形態の擁壁ブロックを用いれば、下段擁壁ブロック10aの支持部材60と上段擁壁ブロック10bの挿入孔40とを位置決めすればよいので、位置決め作業が容易である。このように、本実施例形態においては、擁壁ブロック設置工程は、従来の工程とは全く異なり作業性が極めて優れている。
【0056】
また、ブロック設置工程では、上述したように、上段擁壁ブロック10bを傾斜状態に吊上げた状態で、所定位置に設置する。このとき、上段擁壁ブロック10bの挿入孔40の延在方向の傾斜角度(鉛直方向とのなす角度)は、0度より大きく、しかも下段擁壁ブロック10aの支持部材60の支持部62の延在方向と鉛直方向とのなす角度以上であることが好ましく、下段擁壁ブロック10aの支持部材60の支持部62の延在方向と一致する傾斜角度であることがより好ましい。そして、傾斜状態で吊上げられた上段擁壁ブロック10bを下段擁壁ブロック10aの支持部62の延在方向に移動させつつ下降させて、上段擁壁ブロック10bの挿入孔40に下段擁壁ブロック10aの支持部62を挿入することが好ましい。
【0057】
また、挿入工程について、さらに検討したところ、挿入孔40の内周面41aを平滑面にすると、挿入工程をよりスムーズに行うことができ、擁壁構築作業効率が向上することができた。擁壁ブロック10は重量物であり、上段擁壁ブロック10bの位置や傾斜角度と支持部62の傾斜角度とを完全に一致させた状態を維持しつつ挿入工程を行うことは必ずしも容易でないところ、ブロック表面が平滑でなければ、下段擁壁ブロック10aの支持部材60の支持部62と上段擁壁ブロック10bの挿入孔40の内周面41aとの接触位置において引っかかりが生じ、スムーズな挿入工程が妨げられるからであると考えられる。
【0058】
また、擁壁ブロック10を単に移動させたり搬送したりする場合は、搬送用装着部13に吊具50を取付け、この吊具50を用いて擁壁ブロック10を吊上げる。搬送用装着部13は、擁壁ブロック上面1uの前後方向中央部に配置されており、搬送用装着部13に取り付けた吊具50を用いて吊上げた擁壁ブロック10は、真っ直ぐの状態で吊上げられる(第2吊上げ状態)。真っ直ぐの状態で吊上げられた擁壁ブロック10は、吊上げが容易であるのみならず、吊上げた擁壁ブロック10を水平面上に載置する作業も容易であり、搬送性に優れている。
これに対して、本実施形態のように、あらかじめ傾いた状態で吊上げることができる擁壁ブロック10であれば、より短時間で傾斜状態に設置可能であるので、位置ズレに起因する設置作業のやり直しをより確実に防止することができる。
なお、所望の設置位置に接触させる部分としては、上述した前端縁と後端縁のうち、前端縁が好ましい。擁壁の構築においては、擁壁前面をできるだけ正確な位置に位置させることが重要だからである。
このようなことから、傾斜擁壁構築用の擁壁ブロック10としては、吊上げた状態における擁壁ブロック10の傾斜角度(上段擁壁ブロック10aの前面1fの仰角α1)が傾斜擁壁Aの傾倒角度(台Bの上面の傾斜角度α0)以下の角度であることが好ましい。擁壁ブロック10の吊上げ状態における傾斜角度が傾斜擁壁Aの傾倒角度以下であれば、吊上げた擁壁ブロック10を傾斜面に設置するとき、擁壁ブロック下面の後端縁が前端縁よりも先に設置面に接することが防止されるので、前端縁を基準として擁壁ブロック10の設置位置を定めることができ、擁壁Aの前面の位置をより容易に正確な位置に配置することができる。
設置用具装着部30の位置としては、吊上げた擁壁ブロック10が傾斜した状態で吊上げられる位置が好ましく、擁壁Aの傾倒角度以下の傾斜角度で吊上げられる位置であることがより好ましく、擁壁Aの傾倒角度と同じ角度で吊上げられる位置であることがさらに好ましい。
【0059】
そして、
図5に示されるように、挿入孔40は、擁壁ブロック背面1bの下端位置よりも擁壁ブロック前面1fの下端位置に近い位置に配置されている。別言すれば、挿入孔40は、擁壁ブロック10の重心Sの位置よりも、擁壁ブロック前面1f側の位置に配置されている。上述したように、挿入孔40は、設置された擁壁ブロック10の支持構造として用いられるものであるところ、このような挿入孔40の配置は、支持部材の挿入作業性(上段擁壁ブロック設置作業性)や設置された上段擁壁ブロックの支持安定性などの点で好ましい。
より具体的に説明すると、挿入孔40の位置は、擁壁ブロックの前面の位置よりも背面側であり、挿入孔周辺の擁壁ブロック10の強度の観点からすれば、擁壁ブロック前面1fと挿入孔40との間の離間距離D1が擁壁ブロック10の材料として用いられている砕石の平均粒径の3倍の距離以上であることがより好ましい。さらに、挿入孔40の位置(挿入孔40の中心の位置)は、下面1dの前面1f側の端縁位置よりも、当該端縁位置と中間位置1cとの中間の位置に近い位置であることが好ましい。また、具体的な数値を示すとすれば、挿入孔40の位置は、擁壁ブロック10の前面1fからの距離が50mm以上になるように配置することができ、100mm以上になるように配置することができる。
また、支持部材60の支持部62は、下段擁壁ブロック10aに取り付けれた状態で、その上に積み重ねられた上段擁壁ブロック10bの挿入孔40の内面に接して、当該上段擁壁ブロック10bを設置状態に維持することができる長さである。例えば、支持部62の長さは、50mm以上にすることができ、200mm以下にすることができる。
【0060】
また、傾斜擁壁構築用の擁壁ブロック10では、支持部62の延在方向(設置用具装着部30のねじ込み軸31aの方向)や挿入孔40の延在方向(中心軸40aの延在方向)が重要である。種々の方向が考えられるが、本実施形態では、
図5に示されるような向きである。つまり、設置用具装着部30のねじ込み軸31aの方向および挿入孔40の中心軸40aの方向は、いずれも、擁壁ブロック10の上面1uと直交する方向であり、擁壁ブロック10の前面1f及び側面1sと平行である。埋め込みナットおよび挿入孔40は、擁壁ブロック支持構造として用いられるものであるところ、このような構成は、支持部材の設置作業性、擁壁ブロック支持安定性など点で好ましい。
【0061】
また、本実施形態の擁壁ブロック10において、設置用具装着部30に取り付けられた支持部材60は、支持部62の先端62tが鉛直面Yよりも前側に位置する長さが好ましい。ここで鉛直面Yとは、擁壁構築時に所定の設置位置に傾斜状態で設置された擁壁ブロック10の上面1uの背面側の端縁(背面の上端縁)に接する横方向に延びる面であって、背面側の端縁(背面の上端縁)の位置から鉛直上方に延びる面のことである(
図6参照)。支持部先端位置が鉛直面Yよりも後側(法面側)に位置する長さであると、設置しようとしている擁壁ブロック10を後側(後背面側)に移動させる距離が大きくなり、擁壁ブロック設置作業性が低下する。さらに言えば、上記鉛直面Yと平行で中間位置1gを通る第2の鉛直面よりも前側に位置する長さが好ましい。このような長さは、擁壁構築時の作業性により優れている。
【0062】
また、本出願に係る発明は、上記実施形態で説明した構成に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変されたものが含まれる。
例えば、支持部材として、引掛け部などのクレーンとの係合部を有するものを用いることができる。下段擁壁ブロック10aの上に上段擁壁ブロック10bを設置するときに、下段擁壁ブロック10aに取付けられた吊具50が挿入孔40に挿入される位置に設置用具装着部30が形成されているからである。引掛け部(係合部)としては、種々の構成が考えられるが、例えば、支持部材60の支持部62の位置に形成された貫通孔を挙げることができる。貫通孔の貫通する向きとしては、支持部62の延在方向と交差する向き(特に直交する向き)が好ましく、棒状(特に断面円柱形状)の支持部であれば、支持部の中心軸と交差する位置に形成されているものが好ましい。なお、擁壁ブロックの重量が重い場合は、それに応じて支持部の太さを太くする(断面積の大きさを大きくする)ことが好ましい。また、支持部62の先端部に設けられた湾曲形状の引掛け部や突起形状やフランジ形状の引掛け部を挙げることができる。さらには、ねじ込み部などの係合構造を使用することも可能であり、上述したように、種々の構成の使用が考えられる。このような構成があれば、これらの構成を利用してクレーンのワイヤの先端のリングなどの係合部を引掛けなどの方法で係合して擁壁ブロックを吊上げることができ、支持部材を擁壁ブロック吊上げ用の吊具として用いることができる。なお、支持部材の支持部の形状としては、種々の形状が考えられるが、棒状に突出する形状の場合、支持部の延在方向は挿入孔の延在方向と平行の方向であることが好ましく、支持部の断面形状(支持部の外周の断面形状)は円形であることが好ましい。ここでいう断面形状とは、支持部の延在方向に直交する面についての断面形状である。さらに言えば、支持部材の支持部の形状としては、支持部の先端側から見た支持部の形状(外形)が円形であることが好ましい。
また、別言すれば、挿入孔40に挿入可能な形状の支持部を備えた吊具を用いても良いということができる。この場合、吊具は、取付け部に取付けられ状態で擁壁ブロック上面から突出する突出支持部を有するものである。そして、挿入工程では、下段擁壁ブロックに取り付けられた吊具の突出支持部を上段擁壁ブロックの下面部に形成されている挿入孔に挿入することになる。つまり、この場合は、吊具の突出支持部は支持部材の支持部でもあるので、吊具の突出支持部を支持部材の支持部として用いることになる。
【0063】
ところで、支持部材として、引掛け部などのクレーンとの係合部を有するものを用いれば、吊具を取付けたとき、支持部材を取り付けたことになる。
つまり、上述した吊具取付け工程は支持部材取付け工程を兼ねることになり、上述の説明では別途行うことになっている支持部材取付け工程は不要である。また、吊具の取付けによって支持部材が取り付けられたことになるので、吊具取外し工程も不要である。
このように、支持部材としても用いられる吊具(吊具として用いられる支持部材)を用いれば、擁壁構築の際、吊具の取外し工程および支持部材取付け工程が不要であり、より容易且つ迅速に擁壁を構築することができる。
なお、このような場合に用いる支持部材としては、例えば、上述した円筒形状の支持部62を有する支持部材60の支持部62に、支持部62の延在方向と直交する方向に延びる貫通孔が形成されたものを用いることが好ましい。そして、重量の重い擁壁ブロック用の支持部材としては、支持部材の支持部62の外形が雄ねじ部61の外形よりも大きい(太い)ものが好ましい。
【解決手段】下段擁壁ブロック10a上に上段擁壁ブロック10bを設置して構成される傾斜擁壁Aの構築に用いられる擁壁ブロックであり、擁壁ブロック上面に取付け可能な支持部材と、擁壁ブロック下面の挿入孔とを備え、支持部材は上面に取付け時、上面から突出する支持部を備え、挿入孔は下段擁壁ブロック10a上に上段擁壁ブロック10bを設置するときに下段擁壁ブロック10aの支持部材の支持部が挿入される位置に形成されており、下段擁壁ブロック10aの支持部材は、下段擁壁ブロック10a上に設置された上段擁壁ブロック10bの挿入孔に挿入されて上段擁壁ブロック10bの設置状態を維持する。