特許第5958652号(P5958652)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5958652面疲労強度に優れる軟窒化高周波焼入れ鋼部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958652
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】面疲労強度に優れる軟窒化高周波焼入れ鋼部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20160719BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20160719BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20160719BHJP
   C21D 1/10 20060101ALN20160719BHJP
   C21D 9/32 20060101ALN20160719BHJP
【FI】
   C22C38/00 301N
   C22C38/38
   C22C38/60
   !C21D1/10 U
   !C21D9/32 A
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-519560(P2015-519560)
(86)(22)【出願日】2013年5月30日
(86)【国際出願番号】JP2013065063
(87)【国際公開番号】WO2014192117
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2015年9月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(72)【発明者】
【氏名】小山 達也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5026625(JP,B2)
【文献】 特許第4800444(JP,B2)
【文献】 特許第4560141(JP,B2)
【文献】 特開2011−208250(JP,A)
【文献】 特開2007−077411(JP,A)
【文献】 特開平06−172961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 1/06、 1/10
C21D 9/00− 9/44、 9/50
C23C 8/00− 8/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の化学組成が、質量%で、
C :0.30〜0.80%、
Si:0.02〜2.5%、
Mn:0.35〜2.0%、
Al:0.001〜2.0%、
Cr:0.01〜3.0%、
S :0.040%以下、
N :0.0030〜0.02%
を含有し、
O :0.005%以下、
P :0.025%以下
にそれぞれ制限し、残部がFeおよび不純物であり、
表面から0.2mm深さまでの固溶N濃度が0.05〜1.50%であり、
有効硬化層深さtが0.5mm以上で、かつ、破損危険部位の半径又は肉厚の半分をr(mm)とするとき、t/r≦0.35である鋼部品であって、
上記鋼部品を300℃で焼戻したときの焼戻し後の表面から0.2mm深さまでのビッカース硬さがHv600以上となることを特徴とする面疲労強度に優れる軟窒化高周波焼入れ鋼部品。
【請求項2】
母材の化学組成のFeの一部に代えて、質量%で、Nb:0.3%以下、Ti:0.3%以下、V:1.0%以下、Ni:3.0%以下、Cu:3.0%以下、Co:3.0%以下、Mo:1.0%以下、W:0.5%以下、B:0.005%以下、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、Zr:0.05%以下、Te:0.1%以下、Pb:0.5%以下、REM:0.005%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の面疲労強度に優れる軟窒化高周波焼入れ鋼部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟窒化高周波焼入れ鋼部品に関し、特に自動車等の動力伝達部品用に適用される高い面疲労強度を有する歯車、無段変速機、等速ジョイント、ハブ等に用いられる軟窒化高周波焼入れ鋼部品に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば自動変速機の歯車や無段変速機のシーブ、等速ジョイント、ハブなどの動力伝達部品等の鋼部品は、高い面疲労強度が要求される。一般に上記の部品には素材にJIS SCr420、SCM420等のCが0.2%前後の肌焼鋼を用い、肌焼鋼に浸炭焼入れ処理を施して部品の表層にCが0.8%前後のマルテンサイト組織の硬化層を形成して面疲労強度を高めて使用される。
【0003】
しかしながら、浸炭焼入れ処理は950℃前後の高温でのオーステナイト域において、5〜10時間、場合によっては10時間以上の処理となるため、結晶粒粗大化による熱処理変形(焼入れ歪)が大きくなることがある。このため、高い精度が要求される部品の場合には、浸炭焼入れの後、研削やホーニング等の仕上げ加工を施さなければならない。
【0004】
近年、自動車エンジン等の低騒音化の要求が高まっていることから、浸炭焼入れ処理に比べて熱歪が小さい表面硬化処理である高周波焼入れや軟窒化が注目されている。
【0005】
高周波焼入れは表層部の必要な部分のみ短時間加熱でオーステナイト化して焼入れするので焼入れ歪が小さく、高周波焼入れによれば、精度良く表面硬化部品を得ることができる。しかし、高周波焼入れのみで浸炭焼入れ材と同等の強度を得るとすれば、0.8%を超えるC含有量を有する鋼材が必要となる。その結果、母材の硬さが上昇し、被削性の著しい劣化が生じる。したがって、むやみに鋼中のC含有量を増加することはできず、高周波焼入れのみで面疲労強度を向上させるには限界がある。
【0006】
軟窒化処理はA1変態点以下の温度域で表面硬化層を得る処理であり、また浸炭焼入れ処理に比べて、処理時間が2〜4時間程度と短い。そのため、低歪が要求される鋼部品への軟窒化の適用は多い。しかしながら、軟窒化処理だけで得られる硬化層深さは小さいため、高い面圧が加わるトランスミッション歯車等には適用することが困難である。
【0007】
最近では、高周波焼入れと軟窒化処理の欠点を補い、より優れた機械的性質、特に面疲労強度を得る手法として、軟窒化後に高周波焼入れを施すことが試みられている。
【0008】
特許文献1〜3には、軟窒化処理と高周波焼入れとを組合せることにより、面疲労強度を向上させた機械構造用鋼が開示されている。特許文献1〜3に記載の技術は、高周波焼入れ温度が950℃未満であるので、軟窒化処理で表層に析出した窒化物が十分に固溶せず、窒素(N)の多くが窒化物として存在し、表層の固溶N濃度が低い。その結果、圧縮残留応力が低いため、十分に高い面疲労強度を得ることができない。
【0009】
特許文献4では、高周波焼入れと窒化処理を組み合わせることによる機械的強度に優れた鋼部品の製造方法が提案されている。特許文献4の製造方法で得られた鋼部品の表層硬度は高い。しかしながら、表層の全N濃度、すなわち窒化物のN濃度と固溶N濃度の合計は低く、かつV等の窒化物形成元素が多量に存在し、また、表層の全N濃度のうちの固溶N濃度は低いので、表層の高温硬さは低い。そのため、稼動中に高温となる歯車等の表層において十分な焼戻し軟化抵抗を発揮することが出来ず、高い面疲労強度を得ることができていない。
【0010】
特許文献5でも、高周波焼入れと窒化処理を組み合わせることで優れた機械的性質を得る技術が提案されている。特許文献5に記載の技術は、表面から0.05mm深さの窒素濃度が高いことを特徴としている。しかしながら、面疲労破壊は表面起点破壊であるが、破壊の深さは0.05mmの数倍の深さにまで達する。したがって、表面から0.05mm深さの硬度が高いだけでは高い面疲労強度を得ることはできない。
【0011】
特許文献6でも、高周波焼入れと窒化処理を組み合わせることによる機械的強度に優れた鋼部品の製造方法が提案されている。特許文献6に記載の技術は、部品の大きさに対する有効硬化層が深く、高周波加熱によってオーステナイト化する領域の占める深さが深い。そのため、表面近傍の圧縮残留応力が小さく、さらに焼入れ歪が大きくなり、部品特性として好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第2010/082685号
【特許文献2】特開2011−208250号公報
【特許文献3】国際公開第2010/070958号
【特許文献4】特開平6−172961号公報
【特許文献5】特開2007−77411号公報
【特許文献6】特開平7−90364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記の実情を鑑み、従来の軟窒化高周波焼入れ鋼部品では得られない、焼戻し軟化抵抗に優れ、高い表面近傍の圧縮残留応力を示して面疲労強度に優れる軟窒化高周波焼入れ鋼部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
動力伝達部品は、使用時の発熱により300℃前後まで稼働面の温度が上昇する。したがって、鋼部品の面疲労強度向上には、稼動面の高温強度維持のために焼戻し軟化抵抗を向上させることが有効である。さらに、鋼部品の面疲労強度向上には、表面近傍の圧縮残留応力を高くすることが有効である。また、鋼部品の精度向上には、焼入れ歪の低減が有効である。
本発明者らは、軟窒化処理と高周波焼入れの組合せによる鋼部品の表面硬化処理について種々の検討を行い、以下の知見を得た。
【0015】
a)鋼部品の稼働面の焼戻し軟化抵抗を向上させるには、鋼部品の表層の固溶N濃度を高めることが有効である。通常測定されるN濃度は、マルテンサイト中に固溶しているNと、鋼中の窒化物のNの合計量である。本発明者らは、高周波加熱時の最高温度を変化させて表層の固溶Nと窒化物の割合を変化させることによって、300℃で焼戻した際の表層の固溶N濃度が硬さに与える影響を調査した結果、マルテンサイト中の固溶N濃度を増加させることが焼戻し軟化抵抗の向上に有効であることを確認した。
【0016】
b)表面近傍の圧縮残留応力を高くするには、表層の固溶N濃度を高め、かつ有効硬化層深さを比較的浅めにすることが有効である。すなわち、表層の固溶N濃度を高くすると、高周波焼入れ時のマルテンサイト変態による膨張量が大きくなるので、表面近傍の圧縮残留応力を高くすることができる。また、部品の大きさに対して有効硬化層深さを浅くすることでも表面近傍の圧縮残留応力を高くすることができる。これらを組み合わせることで、表面近傍の圧縮残留応力を高くすることができる。さらに、部品の大きさに対して有効硬化層深さを浅くすることは、焼入れ歪の低減にも寄与する。これは、焼入れ歪がオーステナイトのマルテンサイト変態に起因して現れるためである。
【0017】
表層の固溶N濃度を高くするためには、高周波加熱時の到達温度を高くする必要がある。しかしながら、単に高周波加熱時の到達温度を上げると、有効硬化層深さが深くなりすぎ、表面近傍の圧縮残留応力が低くなる。従来技術でも900℃以上の高周波加熱を行った例があるが、有効硬化層深さが深くなり、圧縮残留応力を十分に高くすることができなかった。
【0018】
本発明らは、上記の問題を解決するために、高周波加熱の条件を鋭意検討し、本発明を完成した。その要旨は下記のとおりである。
【0019】
(1)母材の化学組成が、質量%で、C:0.30〜0.80%、Si:0.02〜2.5%、Mn:0.35〜2.0%、Al:0.001〜2.0%、Cr:0.01〜3.0%、S:0.040%以下、N:0.0030〜0.02%を含有し、O:0.005%以下、P:0.025%以下にそれぞれ制限し、残部がFeおよび不純物であり、表面から0.2mm深さまでの固溶N濃度が0.05〜1.50%であり、有効硬化層深さtが0.5mm以上で、かつ、破損危険部位の半径又は肉厚の半分をr(mm)とするとき、t/r≦0.35である鋼部品であって、上記鋼部品を300℃で焼戻したときの焼戻し後の表面から0.2mm深さまでのビッカース硬さがHv600以上となることを特徴とする面疲労強度に優れる軟窒化高周波焼入れ鋼部品。
【0020】
(2)母材の化学組成のFeの一部に代えて、質量%で、Nb:0.3%以下、Ti:0.3%以下、V:1.0%以下、Ni:3.0%以下、Cu:3.0%以下、Co:3.0%以下、Mo:1.0%以下、W:0.5%以下、B:0.005%以下、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、Zr:0.05%以下、Te:0.1%以下、Pb:0.5%以下、REM:0.005%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)の面疲労強度に優れる軟窒化高周波焼入れ鋼部品。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来の軟窒化高周波焼入れ鋼部品では得られない、高い表面近傍の圧縮残留応力を示し、面疲労強度に優れる、歯車、無段変速機、等速ジョイント、ハブ等の動力伝達部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】破損危険部位を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らが表層の焼戻し軟化抵抗および表面近傍の圧縮残留応力に及ぼす影響を調査した結果、表層の固溶N濃度を高め、有効硬化層深さを浅めに制御することで、面疲労強度に優れることが判明した。
【0024】
まず、本発明の母材の化学組成の規定理由を説明する。ここで、化学組成の%は質量%を表す。
【0025】
C:0.30〜0.80%
Cは、鋼の強度を得るために重要な元素である。特に、高周波焼入れの前組織としてのフェライト分率を低減し、高周波加熱した場合に速やかに鋼の表層をオーステナイト単相とすることで、高周波焼入れ時の硬化能を向上させるために必要である。Cの含有量が0.30%未満では、フェライト分率が高く、高周波焼入れにより十分硬化させることができない。Cの含有量が0.80%を超えると鋼部品製作時の被削性や鍛造性を著しく害し、さらに高周波焼入れ時に焼割れの発生する可能性が大きくなる。したがって、Cの含有量は、0.30〜0.80%とした。Cの含有量は、0.40〜0.60%が好ましい。
【0026】
Si:0.02〜2.5%
Siは表層の焼戻し軟化抵抗を向上させることにより、面疲労強度を向上させる効果がある。その効果を得るには、Siの含有量を0.02%以上とする必要がある。Siの含有量が2.5%を超えると鍛造時の脱炭が著しくなる。したがって、Si含有量は、0.02〜2.5%とした。Si含有量は、0.20〜0.80%が好ましい。
【0027】
Mn:0.35〜2.0%
Mnは、焼入れ性を向上し、表層の焼戻し軟化抵抗高めることにより面疲労を向上させるのに有効な元素である。また、高周波焼入れの前組織としてのフェライト分率を低下させ、高周波焼入れ時の硬化能を向上させるのに有効である。その効果を得るには、Mnの含有量を0.35%以上とする必要がある。Mnの含有量が2.0%を超えると、鋼材製造時に硬くなりすぎて棒鋼を切断する場合に支障が生じる。さらに、Mnは製鋼時の凝固段階でデンドライト樹間に偏析しやすく、局部的に硬化して鋼材を脆くする場合がある。したがって、Mn含有量は、0.35〜2.0%とした。Mn含有量は、0.50〜1.5%が好ましい。
【0028】
Al:0.001〜2.0%
Alは、軟窒化時に窒化物を形成し、表層の全N濃度を増加させ、高周波焼入れ時に一部またはすべての窒化物が溶体化することで表層の固溶N濃度を増加させる元素である。また、高周波焼入れ時に溶体化しない窒化物が存在しても、鋼中に分散するため、高周波焼入処理時のオーステナイト組織の細粒化に有効に働く効果がある。また、被削性向上にも有効な元素である。そのため、Alの含有量は0.001%以上とする必要がある。Alの含有量が2.0%を超えると、析出物が粗大化して鋼を脆化させる。したがって、Al含有量は、0.001〜2.0%とした。Al含有量は、0.020〜0.10%が好ましい。
【0029】
Cr:0.01〜3.0%
Crは、Alと同様の効果を持つ元素である。すなわち、Crは、軟窒化時に窒化物を形成し、表層の全N濃度を増加させ、高周波焼入れ時に一部またはすべての窒化物が溶体化することで表層の固溶N濃度を増加させる元素である。また、高周波焼入れ時に溶体化しない窒化物が存在しても、鋼中に分散するため、高周波焼入処理時のオーステナイト組織の細粒化に有効に働く効果がある。その効果を得るには、Crの含有量を0.01%以上とする必要がある。Crの含有量が3.0%を超えると、被削性が悪化する。したがって、Cr含有量は、0.01〜3.0%とした。Cr含有量は、0.05%以上、1.0%未満が好ましい。
【0030】
S:0.040%以下
Sは、不純物元素である。また積極的に含有させると、被削性の向上に有効な元素である。Sの含有量が0.040%を超えると、鍛造性が著しく低下する。したがって、S含有量は、0.040%以下とした。S含有量は、0.001〜0.015%が好ましい。
【0031】
N:0.003〜0.02%
Nは、各種窒化物を形成して芯部のオーステナイト組織の粗粒化防止に有効に働く。その効果を得るには、Nの含有量を0.003%以上とする必要がある。Nの含有量が0.02%を超えると、本来、軟窒化時に全N濃度を増加させる作用を有するAlやCr等の合金元素が凝固時に粗大な窒化物を形成し、粗大な窒化物は高周波焼入れ時に溶体化しないため、実質高周波焼入れ後の固溶N濃度が低くなる。したがって、N含有量は、0.003〜0.02%とした。N含有量は、0.004〜0.012%未満が好ましい。
【0032】
O(酸素)とPは、不純物であるが、本発明においては特に制限する必要がある。
【0033】
O:0.005%以下
Oは、AlやSiO等の酸化物系介在物として鋼中に存在するが、Oが多いと該酸化物が大型化し、これを起点として動力伝達部品の破損に至る。そのため、Oの含有量は0.005%以下に制限する必要がある。Oの含有量は少ないほど好ましいので、0.002%以下が望ましく、さらに、高寿命を指向する場合は0.0015%以下が望ましい。
【0034】
P:0.025%以下
Pは、粒界に偏析して靭性を低下させるので極力低減する必要があり、0.025%以下に制限する。
【0035】
母材の残部は、Feおよび不純物である。不純物とは、鋼の原材料および製造環境から混入するものをいう。
【0036】
次に、任意に含有することが可能な化学組成の規定理由について説明する。
【0037】
[鋼材強化元素]
Nb:0.3%以下
Nbは、Alと同様の効果を持つ元素である。すなわち、Nbは、軟窒化時に窒化物を形成し、表層の全N濃度を増加させ、高周波焼入れ時に一部またはすべての窒化物が溶体化することで表層の固溶N濃度を増加させる元素である。また、高周波焼入れ時に溶体化しない窒化物が存在しても、鋼中に分散するため、高周波焼入処理時のオーステナイト組織の細粒化に有効に働く効果がある。また、被削性向上にも有効な元素である。しかし、0.3%を超えて含有してもその効果は飽和して経済性を損ねる。したがって、含有する場合のNbの含有量を0.3%以下とした。前記効果を安定して得るためには、Nbの含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
【0038】
Ti:0.3%以下
Tiは、Alと同様の効果を持つ元素である。すなわち、Tiは、軟窒化時に窒化物を形成し、表層の全N濃度を増加させ、高周波焼入れ時に一部またはすべての窒化物が溶体化することで表層の固溶N濃度を増加させる元素である。また、高周波焼入れ時に溶体化しない窒化物が存在しても、鋼中に分散するため、高周波焼入処理時のオーステナイト組織の細粒化に有効に働く効果がある。しかし、Tiの含有量が0.3%を超えると析出物が粗大化して鋼を脆化させる。したがって、含有する場合のTiの含有量を0.3%以下とした。前記効果を安定して得るためには、Tiの含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
【0039】
V:1.0%以下
Vは、Alと同様の効果を持つ元素である。すなわち、Vは、軟窒化時に窒化物を形成し、表層の全N濃度を増加させ、高周波焼入れ時に一部またはすべての窒化物が溶体化することで表層の固溶N濃度を増加させる元素である。また、高周波焼入れ時に溶体化しない窒化物が存在しても、鋼中に分散するため、高周波焼入処理時のオーステナイト組織の細粒化に有効に働く効果がある。しかし、1.0%を超えて含有してもその効果は飽和して経済性を損ねる。したがって、含有する場合のVの含有量を1.0%以下とした。前記効果を安定して得るためには、Vの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
【0040】
W:0.5%以下
Wは、Alと同様の効果を持つ元素である。すなわち、Wは、軟窒化時に窒化物を形成し、表層の全N濃度を増加させ、高周波焼入れ時に一部またはすべての窒化物が溶体化することで表層の固溶N濃度を増加させる元素である。また、高周波焼入れ時に溶体化しない窒化物が存在しても、鋼中に分散するため、高周波焼入処理時のオーステナイト組織の細粒化に有効に働く効果がある。また、高周波焼入れの前組織としてのフェライト分率を低下させ、高周波焼入れ時の硬化能を向上させる。Wの含有量が0.5%を超えると切削性が悪化し、さらには効果が飽和して経済性が損なわれる。したがって、含有する場合のWの含有量を0.5%以下とした。前記効果を安定して得るためには、Wの含有量を0.03%以上とすることが好ましい。
【0041】
[焼入れ性向上元素]
Ni:3.0%以下
Niは、焼入れ性を高め、靭性をさらに向上させる。Niの含有量が3.0%を超えると、切削性が悪化する。したがって、含有する場合のNiの含有量を3.0%以下とした。前記効果を安定して得るためには、Niの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
【0042】
Cu:3.0%以下
Cuは、フェライトを強化し、焼入れ性向上、耐食性向上にも有効である。3.0%を超えて含有しても、機械的性質の点では効果が飽和する。したがって、含有する場合のCuの含有量を3.0%以下とした。前記効果を安定して得るためには、Cuの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。Cuは、熱間延性を低下させ、圧延時の疵の原因となりやすいので、Niと同時に含有することが好ましい。
【0043】
Co:3.0%以下
Coは、焼入性の向上に寄与する。3.0%を超えてもその効果は飽和する。したがって、含有する場合のCoの含有量を3.0%以下とした。前記効果を安定して得るためには、Coの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
【0044】
Mo:1.0%以下
Moは、表層の焼戻し軟化抵抗を向上させることにより、面圧疲労強度を向上させる効果に加えて、硬化層を強靭化して曲げ疲労強度を向上させる効果もある。1.0%を超えて含有してもその効果は飽和して経済性を損ねる。したがって、含有する場合のMoの含有量を1.0%以下とした。前記効果を安定して得るためには、Moの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
【0045】
B:0.005%以下
Bは、焼入性の向上に寄与する。0.005%を超えてもその効果は飽和する。したがって、含有する場合のBの含有量を0.005%以下とした。前記効果を安定して得るためには、Bの含有量を0.0006%以上とすることが好ましい。
【0046】
[切削性向上元素]
部品作成時に切削性も求められる場合には、Ca、Mg、Zr、Te、Pb、REMから選択される1種以上を含有する。
【0047】
Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、Zr:0.05%以下、Te:0.1%以下、Pb:0.5%以下、REM:0.005%以下
これらの元素は、MnSの延伸を抑制すること、または脆化相として存在することにより、切削性を向上させる。これらの効果を与えるためには、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、Zr:0.05%以下、Te:0.1%以下、Pb:0.5%以下及びREM:0.005%以下から選択される少なくとも1種以上を含有させる。REMとは、希土類元素である。各元素で上限値を超えて含有させてもその効果は飽和して経済性を損なう。したがって、含有する場合のCa、Mg、Zr、Te、Pb、及びREMの含有量を、それぞれ、0.01%以下、0.01%以下、0.05%以下、0.1%以下、0.5%以下、及び0.005%以下とした。前記効果を安定して得るためには、含有する場合のCa、Mg、Zr、Te、Pb、及びREMの含有量を、0.0005%以上とすることが好ましい。
【0048】
次に、表面から0.2mm深さまでの固溶N濃度と、300℃で焼戻しした後の表面から0.2mm深さまでのビッカース硬さについて説明する。以下、表面から0.2mm深さまでの固溶N濃度を、「表層の固溶N濃度」いう。また、300℃で焼戻しした後の表面から0.2mm深さまでのビッカース硬さを「表層の300℃焼戻し硬さ」という。
【0049】
表層の固溶N濃度とは、鋼中の全N量から、AlN、NbN、TiN及びVN等の窒化物に含まれるN量を引いた値である。表層の固溶N量は、不活性ガス融解−熱伝導度法により全N量を測定するとともに、非水溶媒電解液による定電位電解腐食法のSPEED法及び0.1μmのフィルターにより電解抽出した残渣をインドフェノール吸光度法により窒化物中N量を測定し、下記数式(2)により算出する。
(固溶N量)=(全N量)−(窒化物中N量) … (2)
【0050】
表面から0.2mm深さまでの領域を測定するには、測定試料として0.2mmまで切削加工した際の切り屑を使用する。ただし、切削加工時の発熱による温度上昇の影響を抑えるため、切り屑はテンパーカラーが見られない必要がある。
【0051】
本発明者らは、軟窒化条件、高周波焼入れ条件及び鋼材の化学組成を変化させ、高周波焼入れ後の表層の固溶N濃度を変化させ、300℃で60分焼戻しした後の表層の300℃焼戻し硬さを調べた。その結果、表層の固溶N濃度が0.05%以上1.5%以下の範囲において、表層の固溶N濃度が高いほど表層の300℃焼戻し硬さが向上することが確認された。
【0052】
マルテンサイト中に固溶するNは、Cと同様に、置換型固溶原子として結晶内に存在することで、固溶強化、転位強化に寄与し、強度を向上させる。300℃で焼戻しを行うと、固溶Cは炭化物を析出し、マルテンサイト中の固溶C濃度が低下することで鋼の強度が低下する。一方、Nは固溶状態を維持するので、300℃で焼戻しを行っても鋼は高い強度を維持する。そのため、浸炭焼入れのみ、高周波焼入れのみを施した部品に比べ、軟窒化と高周波焼入れを施した部品の方が、300℃焼戻し硬さが高い。
【0053】
表層の固溶N濃度が0.05%未満の場合、表層の300℃焼戻し硬さの向上は小さく、面疲労強度は低い。十分に高い表層の300℃焼戻し硬さを得るには、0.10%以上が好ましい。表層の固溶N濃度が1.5%を超えると、冷却時のマルテンサイト変態開始温度が低下し、高周波焼入れ後の残留オーステナイトが高くなる。その結果、表層の固溶N濃度の増加により、焼入れ後の表層の硬さ、及び表層の300℃焼戻し硬さが向上する以上に硬さが低下する。そのため、逆に面疲労強度が低下する。
【0054】
表層の300℃焼戻し硬さを600以上とするのは、表層の300℃焼戻し硬さが600以上となる深さが表面から0.2mmより浅い場合、負荷される面圧に鋼部品が耐えることができず、疲労破壊するためである。
【0055】
次に、有効硬化層深さについて説明する。
【0056】
有効硬化層深さtは、JIS G0559で規定される。本発明の鋼部品においては、有効硬化層深さtは0.5mm以上であり、かつ下記[1]式を満足する。
【0057】
t/r≦0.35 … [1]
ただし、t:有効硬化層深さ(mm)、r:破損危険部位の半径又は肉厚の半分(mm)
【0058】
破損危険部位の半径又は肉厚の半分であるrは、有効硬化層深さと部品の大きさを相対化するために用いた指標である。破損危険部位とは設計上の危険断面のことであり、シャフトのような軸状部品では最小直径部や応力集中が最大となる断面部の半径(断面が円形の場合)又は肉厚の半分(断面が方形の場合)である。歯車部品では、図1に矢印で示した部分が破損危険部位(疲労破損部)1であり、2rが肉厚2である。
【0059】
高周波加熱時のオーステナイト化する領域の割合、すなわち部品の大きさに対する有効硬化層深さの比を小さくすることで、表面近傍の圧縮残留応力を増加させ、かつ焼入れ歪を低減することができる。
【0060】
有効硬化層が深くなると、表面近傍の圧縮残留応力が低下するだけでなく、焼割れが発生する原因となるので、[1]式の上限を0.35とする。たとえば、ローラーピッチング疲労試験で用いる大ローラー試験片では、半径65mmに対して、有効硬化層深さを40mmとした場合、高周波焼入れ時に表面に焼割れが発生する。表面近傍の圧縮残留応力をより高くするには、0.3以下が好ましい。
【0061】
[1]式の下限を定めるべき理由は、部品の大きさに依存しない。よって、下限は[1]式の下限としてではなく、有効硬化層深さを0.5mm以上とすることで定める。有効硬化層深さが浅くなると、芯部においても高いせん断応力が発生し、硬化層と芯部の間でき裂が発生、進展することでスポーリングが発生する。有効硬化層深さは、安全をみて、0.75mm以上とすることが好ましい。
【0062】
軟窒化処理温度は、温度が低いほど処理時間が長くなるので、500℃以上とする。一方、軟窒化処理温度がA点を超えると熱処理ひずみが大きくなるので、鋼材のA点未満とする。
【0063】
軟窒化処理後の冷却は、放冷、空冷、ガス冷却、油冷等いずれの方法で行ってもよい。
【0064】
軟窒化処理としては、ガス雰囲気、塩浴、電場中いずれの雰囲気下でのN侵入方法も適用することができる。なお、軟窒化処理のみならず、窒化処理(Cの侵入を伴わずにNを侵入させる処理)、酸窒化処理(窒化処理+酸化処理)を適用してもよい。
【0065】
高周波焼入れを施す際の加熱方法は、表層の固溶N濃度を考慮して決定する必要がある。表層の固溶N濃度が0.05〜1.5%を実現できる高周波加熱温度は、950℃以上である。高周波加熱温度が高いほど表層の固溶N濃度が増加するが、高温にしすぎると結晶粒が粗大化し、歪により部品精度が低下するので、高周波加熱温度は1200℃以下とする。より好ましい高周波加熱温度は950〜1050℃であり、さらに好ましくは、960〜980℃である。
【0066】
高周波加熱の周波数が低すぎると、狙いの加熱温度と硬化層深さと有効硬化層深さが両立できない。周波数が高すぎると、装置の性能上工業的に実現が困難になる。高周波加熱の周波数は、100〜300kHzとする。
【0067】
有効硬化層深さは、部品の大きさに依存する。有効硬化層深さが0.5mm以上で、かつ[1]式を満たすよう適宜調整するには、主に加熱時間を調整する。たとえば、ローラーピッチング疲労試験に用いる小ローラーの半径13mmの場合、周波数を200KHzで高周波加熱温度を950℃とすると加熱時間が25秒のとき有効硬化層深さが4.55mmを超え、[1]式から外れるため、20秒以下にする。一方、同じ条件で加熱時間が0.7秒を下回ると有効硬化層深さが0.5mm以下となるため、0.7秒以上にする。
【0068】
高周波焼入れ後に、ショットピーニング等の機械的な表面硬化処理を施してもよい。
【0069】
軟窒化、高周波加熱及び焼入れは複数回実施してもよい。
【実施例】
【0070】
次に、本発明の実施例について説明する。実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一例であり、本発明は、この一例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0071】
表1に示す化学組成を有する各鋼材に、1250℃に加熱後、熱間で鍛造を行って室温まで放冷した後に再加熱し、850℃で1時間焼準を施した。その後、機械加工により、ローラーピッチング疲労試験片用に直径が26mm、幅28mmの円筒部を有する小ローラー試験片と、直径130mm、幅18mmの大ローラー試験片を製作した。さらに、直径が26mm、長さ100mmの硬さ、残留応力測定試験片を作製した。
【0072】
【表1】
【0073】
小ローラー及び大ローラーには、実施例30、31を除き、軟窒化処理及び高周波焼入れを施した。軟窒化処理は、軟窒化雰囲気に600℃で所定時間保持した後、Nガスで冷却した。軟窒化処理に用いたガスの組成は、N(0.45Nm/h)+NH(0.5Nm/h)+CO(0.05Nm/h)、軟窒化時間は、実施例1〜25、28、29、32〜34は2時間、実施例26は0.5時間、実施例27は5時間とした。軟窒化処理に引き続いて、表2に示す条件で高周波焼入れを施した。高周波焼入れ時の冷媒は水道水又はポリマー焼入剤を用いた。その後、150℃で60分の焼戻し処理を行い、疲労試験に供した。
【0074】
実施例30は、軟窒化処理は行わず、高周波焼入れのみ実施した。また、実施例31は、上記の条件で軟窒化処理(軟窒化時間は2時間)のみを施し、高周波焼入れは行わなかった。
【0075】
製作した大ローラーと小ローラーを用いて、標準的な面疲労試験であるローラーピッチング疲労試験を行った。ローラーピッチング疲労試験は、小ローラーに面圧をヘルツ応力3500MPaとして大ローラーを押し付けて、接触部での両ローラーの周速方向を同一方向とし、滑り率を−40%(小ローラーよりも大ローラーの方が接触部の周速が40%大きい)として回転させて行った。接触部に供給するギア油の油温は80℃とした。寿命は、小ローラーにおいてピッチングが発生するまでの小ローラーの回転数とした。ピッチング発生の検出は、試験機に備え付けてある振動計が振動を検出した際に両ローラーの回転を停止させて目視確認を行ってピッチング有無を確認することで行った。また試験打ち切り回数を、1000万回(10回)とした。
【0076】
残留応力測定試験片に対しては、小ローラー及び大ローラーと同一条件で、軟窒化処理及び高周波焼入れ、焼戻しを施した。N濃度の測定には、上述の方法を用いた。0.01mm深さまでは電解研磨を行い、X線を用いて0.01mm深さの残留応力を測定した。また、残留応力測定試験片を用い、300℃で60分の焼戻し処理を施し、断面を切断した後、表面から芯部への硬さ分布を、ビッカース硬度計で、0.1mmピッチで測定した。
【0077】
表2に示すように、実施例1〜25は、いずれもローラーピッチング疲労試験で寿命が1000万回(10回)以上であり、優れた面疲労強度(高い疲労試験寿命)を有する良好な結果であった。
【0078】
たとえば実施例1は、表層の固溶N濃度が0.20%であり、表面近傍の圧縮残留応力が433MPaであることから、表層の300℃焼戻し硬さに優れ、高い表面近傍の圧縮残留応力を示すので、ローラーピッチング疲労試験で寿命が1000万回以上であり、良好な面疲労強度が得られている。
【0079】
【表2】
【0080】
実施例26、27は、高周波焼入れ後の表層の固溶N濃度が本発明から外れた実例である。実施例26は、鋼材は実施例1と同じだが、軟窒化処理の時間が短い。そのため、表層の固溶N濃度が0.05%に達しておらず、表層の300℃焼戻し硬さはHv600未満の低い値を示しており、寿命が短い。実施例27は、鋼材は実施例4と同じだが、軟窒化処理の時間が長い。そのため、表層の固溶N濃度が1.5%を超え、残留オーステナイトが多量に存在するので、表層の300℃焼戻し硬さが低く、さらに、焼入れ時の体積変化が小さいことで表面近傍の圧縮残留応力が低下するので、寿命が短い。
【0081】
実施例28、29は、それぞれ、高周波焼入れ後のt/r、有効硬化層深さtが本発明の範囲外である。いずれも疲労試験寿命が1000万回に満たなかった。実施例28は、高周波加熱の周波数が低く、加熱時間が長かった。そのため、鋼材は実施例1と同じだが、試験片形状に対して有効硬化層深さが深く、表面近傍の圧縮残留応力が低下しており、寿命が短い。実施例29は、高周波加熱時間が短かった。そのため、鋼材は実施例3と同じだが、有効硬化層深さが浅く、スポーリングが発生しており、寿命が短い。
【0082】
実施例30は、実施例5と同じ化学組成の鋼材に高周波焼入れのみを施した例である。表層の固溶N濃度がほとんど存在しておらず、表層の300℃焼戻し硬さおよび表面近傍の圧縮残留応力が低下しており、寿命が短い。
【0083】
実施例31は、実施例5と同じ化学組成の鋼材に軟窒化処理のみを施し、高周波焼入れを施さなかった例である。表層の300℃焼戻し硬さが低く、寿命が短い。
【0084】
実施例32は、Cの濃度が本発明の範囲を下回っており、高周波焼入れ後に十分な硬さが得られなかった。そのため、表層の固溶N濃度、t/rは本発明の範囲内であるが、寿命が短い。
【0085】
実施例33は、実施例3と同じ化学組成の鋼材で高周波焼入れの条件を変更して熱処理を施した例である。高周波加熱温度が低く、固溶N濃度が低くなったため、表層の300℃焼戻し硬さが低く、寿命が短い。
【符号の説明】
【0086】
1 破損危険部位(疲労破損部)
2 肉厚(2r)
図1