(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炭素繊維および結着材を含む多孔質の炭素シートであって、表面の深さ分布を測定して、一方の表面の測定面積における深さが20μm以下の部分の面積の割合を表層面積率Xとし、他方の表面の測定面積における深さが20μm以下の部分の面積の割合を表層面積率Yとした場合に、前記表層面積率Xが前記表層面積率Yに比べて大きく、その差が3%以上12%以下であることを特徴とする炭素シート。
表層面積率Xである表面を面X1とし、表層面積率Yである表面を面Y1としたとき、前記面X1の表面粗さが前記面Y1の表面粗さよりも小さく、その差が1μm以上4μm以下である、請求項1または2記載の炭素シート。
炭素シートが撥水材を含み、一方の表面に最も近い50%平均フッ素強度を有する面から、他方の表面に最も近い50%平均フッ素強度を有する面までの区間において、前記区間を炭素シートの面直方向に3等分して得られる層について、一方の表面に近い層と他方の表面に近い層のうち、層の平均フッ素強度がより大きい層を層A、より小さい層を層Bとし、前記層Aと前記層Bの間の層を層Cとすると、層の平均フッ素強度が、層A、層B、層Cの順に小さくなる、請求項1〜4のいずれかに記載の炭素シート。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の炭素シートの第一の実施形態は、炭素繊維および結着材を含む多孔質の炭素シートであって、表面の深さ分布を測定して、一方の表面の測定面積における深さが20μm以下の部分の面積の割合を表層面積率Xとし、他方の表面の測定面積における深さが20μm以下の部分の面積の割合を表層面積率Yとした場合に、前記の表層面積率Xが前記の表層面積率Yに比べて大きく、その差が3%〜12%である炭素シートである。
【0029】
本発明において、「表面の測定面積における深さが20μm以下の部分の面積」とは、表面の深さ分布を測定し、その最表面から当該最表面側に近い深さを有する部分(最表面側に近い浅い部分)の面積を累積していき、測定範囲全体中におけるその累積面積が2%となるまでの深さを求め、その深さを基準として、その基準から20μmの深さまでの部分の面積の和を求め、当該面積を「表面の測定面積における深さが20μm以下の部分の面積」とした。そして、測定面積中に占める「表面の測定面積における深さが20μm以下の部分の面積」の比率を、表層面積率とする。
【0030】
よって表層面積率とは、表面の深さ分布を測定し、その最表面から当該最表面側に近い深さを有する部分(最表面側に近い浅い部分)の面積率を累積していき、測定範囲全体中におけるその累積面積率が2%となるまでの深さを求め、その深さを基準として、その基準から20μmの深さまでの部分を累積した面積率を意味する。そして本発明においては、一方の表面における表層面積率と他方の表面における表層面積率とが異なる点が特徴である。
【0031】
図1に深さ分布を測定した際の、深さに対するその深さを有する部分の占める面積の割合(面積率)のプロファイルの模式図を示す。深さの面積率プロファイル(1)は、測定範囲全体中のその深さを有する部分の面積の占める割合(面積率)であり、全測定面積率(4)は測定範囲の深さ全領域における面積率の合計であり100%となる。そして、最表面に近い浅い部分の面積率を累積していき、累積面積率が2%となる部分を、除外面積率(2)とする。この除外面積率(2)に含まれる一番右端の点(深さ)を、累積面積率が2%となる深さ(5)と定義し、この点を深さの基準(0μm)として、その基準(0μm)から20μmの深さまでの面直方向の範囲に位置する部分の面積率を累積して、当該累積した面積率を表層面積率(3)と定義する。
【0032】
本発明の炭素シートの第二の実施形態は、炭素繊維および結着材を含む多孔質の炭素シートであって、炭素繊維と結着材による表面の被覆率の大きい側の表面を面X2とし、炭素繊維と結着材による表面の被覆率の小さい側の表面を面Y2としたとき、前記面X2と前記面Y2の前記被覆率の差が5%以上20%以下である炭素シートである。
【0033】
本発明の炭素シートの好ましい態様は、炭素シートが撥水材を含み、一方の表面に最も近い50%平均フッ素強度を有する面から、他方の表面に最も近い50%平均フッ素強度を有する面までの区間において、前記区間を前記炭素シートの面直方向に3等分して得られる層について、一方の表面に近い層と他方の表面に近い層のうち、層の平均フッ素強度がより大きい層を層A、より小さい層を層Bとし、層Aと層Bの間の層を層Cとすると、層の平均フッ素強度が、層A、層B、層Cの順に小さくなる。
【0034】
ここで50%平均フッ素強度とは、炭素シートの一方の表面から他方の表面に向かう、炭素シートの面直方向の直線に沿って測定したフッ素強度の平均値の50%の値をいう。また、「一方の表面に最も近い50%平均フッ素強度を有する面」とは、上述の測定における炭素シートの面直方向の直線上の一方の表面に最も近い50%平均フッ素強度を示す点の集合を含み、炭素シートの表面と略平行の、仮想の面を表し、炭素シート内で実際に連続面になっていることを要しない。「層の平均フッ素強度が、層A、層B、層Cの順に小さくなる」とは、各層の平均フッ素強度が層A>層B>層Cの関係であることをいう。
【0035】
以下、本発明における炭素シートおよびガス拡散電極基材の構成を、図面を用いて説明する。
図2は、本発明の炭素シートの第一の実施形態および第二の実施形態、並びに本発明の炭素シートの好ましい態様を例示説明するための模式断面図である。
【0036】
図2において、表面の深さ分布の測定によって、一方の表面(面X1または面X2(7))から面直方向に累積面積率が2%となる深さ(基準深さ)(9)が決まる。この累積面積率2%となる深さ(基準深さ)(9)を基準として、この基準深さから20μmの深さ(10)を求めることができる。同様に、反対の表面でも累積面積率が2%となる深さ(基準深さ)(9)を求めて、その基準深さから20μmの深さ(10)を求めることができる。
【0037】
次に本発明の好ましい態様においては、一方の表面(面X1または面X2(7))に最も近い50%平均フッ素強度を有する面(面AA(12))から、他方の表面(面Y1または面Y2(8))に最も近い50%平均フッ素強度を有する面(面BB(13))までの区間(17)において、前記区間を前記炭素シートの面直方向に3等分して得られる層について、一方の表面(面X1または面X2(7))に近い層と他方の表面(面Y1または面Y2(8))に近い層のうち、層の平均フッ素強度が最も大きい層を層A(14)、他方の表面(面Y1または面Y2(8))に近く層の平均フッ素強度が層A(14)よりも小さい層を層B(16)、層A(14)と層B(16)の間の層を層C(15)とすると、層の平均フッ素強度が、層A(14)、層B(16)、層C(15)の順に小さくなっていることが好ましい。
【0038】
このように、本発明の炭素シート(6)の好ましい態様は、層A(14)、層B(16)、層C(15)、および50%平均フッ素強度未満の層(10)で構成されている。本発明ではこの面X1または面X2(7)にマイクロポーラス層を設けることでガス拡散電極基材を得ることができる。
【0039】
本発明の炭素シートの第三の実施形態は、炭素繊維および結着材を含む多孔質の炭素シートであって、1〜100μmの範囲に径を有する細孔の容積の和を100%としたときに、50〜100μmの範囲に径を有する細孔の容積の和が17〜50%であり、嵩密度(ρb)と真密度(ρt)から算出される空隙率((ρt−ρb)/ρt)が75〜87%である、炭素シートである。
【0040】
[炭素シート]
本発明の炭素シートは、後述する炭素繊維を含む多孔体の作製、樹脂組成物の含浸、必要に応じて行われる貼り合わせと熱処理、炭化および必要に応じて撥水加工する工程により作製することができる。本発明の炭素シートは、炭素繊維及び結着材を含む多孔質のものをいい、必要に応じて撥水加工することもできる。
【0041】
また本発明において結着材とは、炭素シート中の炭素繊維以外の成分を表す。そのため結着材には、炭素繊維同士を結合させる役割を果たす材料である樹脂組成物の炭化物が含まれる。また、本発明の炭素シートに撥水材を用いた場合には、撥水材は結着材に含まれる。
【0042】
そして本発明の炭素シートは、多孔質であることが重要である。炭素シートが多孔質であることにより、優れたガス拡散性と排水性を両立することができる。炭素シートを多孔質とするためには、炭素シートを製造するために用いる材料として多孔体を用いることが好ましい。
【0043】
<炭素繊維を含む多孔体の作製>
多孔質の炭素シートを製造するために用いる多孔体について説明する。本発明の多孔質の炭素シートは、セパレータから供給されるガスを触媒へと拡散するための高いガス拡散性と、電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性、および発生した電流を取り出すための高い導電性を有することが好ましい。このため多孔質の炭素シートを得るためには、導電性を有する多孔体を用いることが好ましい。より具体的には、多孔質の炭素シートを得るために用いる多孔体は、例えば、炭素繊維抄紙体、炭素繊維織物およびフェルトタイプの炭素繊維不織布などの炭素繊維を含む多孔体を用いることが好ましい態様である。中でも、多孔体を多孔質の炭素シートとした際に、電解質膜の面直方向の寸法変化を吸収する特性、すなわち「ばね性」に優れていることから炭素繊維抄紙体を多孔体として用いることが好ましい。以下、炭素繊維抄紙体を代表例として説明する。
【0044】
本発明において、炭素繊維抄紙体を結着材で結合してなる基材は、後述するように、炭素繊維抄紙体に樹脂を含浸し炭化することによっても得ることができる。
【0045】
本発明の炭素シートおよびそれを得るために用いる多孔体中の炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系およびレーヨン系などの炭素繊維が挙げられる。中でも、機械強度に優れていることから、PAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0046】
本発明の炭素シートおよびそれを得るために用いる多孔体中の炭素繊維は、単繊維の平均直径が3〜20μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは5〜10μmの範囲内である。単繊維の平均直径が3μm以上であると、細孔径が大きくなり排水性が向上し、フラッディングを抑制することができる。一方、単繊維の平均直径が20μm以下であると、水蒸気拡散が小さくなる結果、80℃以上の比較的高い温度で作動させる場合、電解質膜が乾燥し、プロトン伝導性が低下する結果、発電性能が低下する問題(以下、ドライアップと記載)を抑制することができる。
【0047】
ここで、炭素繊維における単繊維の平均直径は、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、炭素繊維を1000倍に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の単繊維を選んでその直径を計測し、その平均値を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800あるいはその同等品を用いることができる。
【0048】
本発明で用いられる炭素繊維は、単繊維の平均長さが3〜20mmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは5〜15mmの範囲内である。平均長さが3mm以上であると、炭素シートが機械強度、導電性および熱伝導性が優れたものとなる。一方、単繊維の平均長さが20mm以下であると、抄紙の際の炭素繊維の分散性に優れ、均質な炭素シートが得られる。このような単繊維の平均長さを有する炭素繊維は、連続した炭素繊維を所望の長さにカットする方法などにより得られる。
【0049】
ここで、炭素繊維の単繊維の平均長さは、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、炭素繊維を50倍に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の単繊維を選び、その長さを計測し、その平均値を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800あるいはその同等品を用いることができる。
【0050】
炭素繊維における単繊維の平均直径や平均長さは、通常、原料となる炭素繊維についてその炭素繊維を直接観察して測定されるが、炭素シートを観察して測定することもできる。
【0051】
炭素シートを得るために用いる多孔体の一態様である、抄紙により形成された炭素繊維抄紙体は、炭素シートとした際に面内の導電性と熱伝導性を等方的に保つという目的で、炭素繊維が二次元平面内にランダムに分散したシート状であることが好ましい。炭素繊維抄紙体を得る際の炭素繊維の抄紙は、一回のみ行なっても、複数回積層して行なうこともできる。本発明では、生産性が向上するだけでなく、高発電性能を得やすい厚さの薄い炭素シートを安定的に製作するためには一回で抄紙を行うことが望ましい。
【0052】
炭素繊維の単繊維の平均直径は、炭素シートの一方の表面から求めた炭素繊維の単繊維の平均直径と、他方の表面から求めた炭素繊維の単繊維の平均直径について、その比率が0.5以上1以下であることが好ましい。なお、平均直径が同じ場合は比率が1であり、平均直径が異なる場合は、比率は、「小さい平均直径/大きい平均直径」とする。また、一方の面から求めた炭素繊維の単繊維の平均長さと、他方の表面から求めた炭素繊維の単繊維の平均長さについて、その差が0mm以上10mm以下であることが好ましい。これにより、繊維を分散させる場合に均一に分散することができ、抄紙を行った際に密度や厚さのばらつきを低減することができる。このため、本発明の炭素シートを含むガス拡散電極基材を用いた燃料電池では触媒層とガス拡散電極基材の密着性が良好となり、発電性能が良好となる。なお、本発明では単繊維の平均直径が1μm未満の繊維については結着材とみなす。
【0053】
本発明において、炭素繊維抄紙体は、炭素繊維の目付が10〜50g/m
2の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは15〜35g/m
2の範囲内であり、さらに好ましくは20〜30g/m
2の範囲内である。炭素繊維抄紙体における炭素繊維の目付が10g/m
2以上であると、炭素繊維抄紙体から得られる炭素シートが機械強度の優れたものとなる。また、炭素繊維抄紙体における炭素繊維の目付が50g/m
2以下であると、炭素繊維抄紙体から得られる炭素シートが面内方向のガス拡散性と排水性の優れたものとなる。抄紙体を複数枚貼り合わせることで炭素繊維抄紙体とする場合は、貼り合わせ後の炭素繊維抄紙体の炭素繊維の目付が上記の範囲内にあることが好ましい。
【0054】
ここで、炭素シートにおける炭素繊維の目付は、10cm四方に切り取った炭素繊維抄紙体を、窒素雰囲気下、温度450℃の電気炉内に15分間保持し、有機物を除去して得た残瑳の質量を、炭素繊維抄紙体の面積(0.01m
2)で除して求めることができる。
【0055】
<樹脂組成物の含浸>
本発明の炭素シートを得る際においては、炭素繊維抄紙体などの炭素繊維を含む多孔体などに結着材となる樹脂組成物が含浸される。
【0056】
本発明において、炭素シート中の結着材は、炭素シート中の炭素繊維以外の成分を指し、主に炭素繊維同士を結着させる役割を果たす。炭素繊維同士を結着させる役割を果たす材料として、多孔体に含浸される樹脂組成物またはその炭化物が挙げられる。なお以下においては、炭素繊維を含む多孔体に、結着材となる樹脂組成物を含浸したものを「予備含浸体」と記載することがある。
【0057】
炭素繊維を含む多孔体に、結着材となる樹脂組成物を含浸する方法としては、溶媒を添加した樹脂組成物に多孔体を浸漬する方法、溶媒を添加した樹脂組成物を多孔体に塗布する方法、および樹脂組成物からなる層を剥離用フィルム上に形成し、前記樹脂組成物からなる層を多孔体に転写する方法などが用いられる。中でも、生産性が優れることから、溶媒を添加した樹脂組成物に多孔体を浸漬する方法が特に好ましく用いられる。予備含浸体の全体に樹脂組成物を付着させることにより、得られる炭素シートの全体に結着材を付着させることができるので、炭素シートの強度をさらに向上することができる。
【0058】
本発明の炭素シートの第一の実施形態または第二の実施形態においては、炭素シートの一方の表面の表層面積率または被覆率に対して、他方の表面の表層面積率または被覆率が異なる(詳細は後述する。)。これは、炭素シートにおいて結着材となる樹脂組成物を多孔体に含浸させる際に、樹脂組成物の付着量を一方の表面に多く分布させることにより得ることができる。すなわち炭素シートにおいて、結着材の量を一方の表面に多く分布させることにより得ることができる。より詳しくは、炭素繊維を含む抄紙体などの多孔体に、樹脂組成物を浸漬等により全体に均一に含浸させた後、乾燥前に片面から過剰に付着している樹脂組成物を除去することにより、得られる炭素シートの一方の表面と他方の表面との表層面積率または被覆率を異なる値に制御することができる。
【0059】
一例としては、炭素繊維抄紙体を、樹脂組成物を含んだ溶液に浸漬させ予備含浸体を得た後、乾燥させる前に一方の表面から樹脂組成物を含んだ溶液を吸い取ることにより、あるいは炭素繊維抄紙体の一方の表面のみに絞りロールを押し当てることにより、炭素繊維抄紙体の一方の表面(炭素シートとなった際に後述する面Y1または面Y2になる側の表面)の近傍の樹脂組成物の付着量を、他方の表面(炭素シートとなった際に後述する面X1または面X2になる側の表面)の近傍の樹脂組成物の付着量に対して減らすことができる。この方法によれば、炭素繊維抄紙体の全体に樹脂組成物を付着させることができるので、結果として得られる炭素シートの全体に結着材が存在することとなり、機械強度も保つことができる。
【0060】
また、他の一例としては、炭素繊維抄紙体を、樹脂組成物を含んだ溶液に浸漬させて予備含浸体を得た後、該炭素繊維抄紙体の一方の表面にのみ追加で樹脂組成物をスプレーやグラビアロールなどで塗布することによっても、炭素シートの一方の表面と他方の表面との表層面積率または被覆率を異なる値に制御することができる。また、炭素繊維抄紙体を、樹脂組成物を含んだ溶液に浸漬させた後の乾燥時に、樹脂組成物にかかる重力や片面からの熱風乾燥によって樹脂組成物を片面に多く付着させることによっても、炭素シートの一方の表面と他方の表面との表層面積率または被覆率を異なる値に制御することができる。
【0061】
また、2枚の炭素繊維抄紙体を、お互いの面Y1または面Y2となる面を合わせて重ねた状態で樹脂組成物を含む溶液に浸漬させ、2枚の炭素繊維抄紙体を重ねたまま乾燥させ、乾燥後に剥離することにより、面Y1または面Y2側に付着する結着材を面X1または面X2側に比べ少なくすることもできる。
【0062】
本発明の炭素シートの第三の実施形態は、第一の実施形態および第二の実施形態と同様、炭素繊維抄紙体の一方の表面のみに追加で樹脂組成物を塗布する方法によって作成することができる。また、炭素繊維抄紙体の少なくとも片面に400℃以上の高温で消失する粒子を含んだ樹脂組成物を含浸し、後述する炭化工程において粒子を消失させることにより、炭素シート内部に形成される細孔の大きさを制御することもできる。この際、消失する粒子を片面のみから含浸させてもよく、また、パターン状に塗布することによって大きな細孔を有する部分を不均一に形成することもできる。
【0063】
本発明において、予備含浸体を作製する際に用いる樹脂組成物は、樹脂成分に溶媒などを必要に応じて添加したものである。ここで、樹脂成分とは、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などの樹脂を含み、さらに、必要に応じて炭素粉末や界面活性剤などの添加物を含むものである。
【0064】
前記樹脂組成物に含まれる樹脂成分の炭化収率は40質量%以上であることが好ましい。炭化収率が40質量%以上であると、炭素シートが機械特性、導電性および熱伝導性に優れたものとなりやすい。樹脂組成物に含まれる樹脂成分の炭化収率には特に上限はないが、通常60質量%程度である。
【0065】
前記樹脂組成物中の樹脂成分を構成する樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂およびフラン樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられる。中でも、炭化収率が高いことから、フェノール樹脂が好ましく用いられる。
【0066】
また、前記樹脂組成物中の樹脂成分として、必要に応じて添加される添加物としては、炭素シートの機械特性、導電性および熱伝導性を向上させる目的で、炭素粉末を用いることができる。ここで、炭素粉末としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ランプブラックおよびサーマルブラックなどのカーボンブラック、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛および薄片グラファイトなどのグラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のミルドファイバーなどを用いることができる。
【0067】
前記樹脂組成物は、前述の樹脂成分をそのまま使用することもできるし、必要に応じて、炭素繊維抄紙体などの多孔体への含浸性を高める目的で、各種溶媒を含むことができる。ここで、溶媒としては、メタノール、エタノールおよびイソプロピルアルコールなどを用いることができる。
【0068】
前記樹脂組成物は、25℃、0.1MPaの状態で液状であることが好ましい。樹脂組成物が液状であると炭素繊維抄紙体などの多孔体への含浸性が優れ、得られる炭素シートが機械特性、導電性および熱伝導性に優れたものとなる。
【0069】
含浸する際には、予備含浸体中の炭素繊維100質量部に対して、樹脂成分が30〜400質量部となるように前記樹脂組成物を含浸することが好ましく、50〜300質量部となるように含浸することがより好ましい。予備含浸体中の炭素繊維100質量部に対する、樹脂成分の含浸量が30質量部以上、より好ましくは50質量部以上であると、炭素シートが機械特性、導電性および熱伝導性の優れたものとなる。一方、予備含浸体中の炭素繊維100質量部に対する、樹脂成分の含浸量が400質量部以下、より好ましくは300質量部以下であると、炭素シートが面内方向のガス拡散性と面直方向のガス拡散性の優れたものとなる。
<貼り合わせと熱処理>
本発明においては、炭素繊維抄紙体などの多孔体に樹脂組成物を含浸した予備含浸体を形成した後、炭化を行うに先立って、予備含浸体を貼り合わせたり予備含浸体に熱処理を行うことができる。
【0070】
本発明において、炭素シートを所定の厚さにする目的で、予備含浸体を複数枚貼り合わせることができる。この場合、同一の性状を有する予備含浸体を複数枚貼り合わせることもできるし、異なる性状を有する予備含浸体を複数枚貼り合わせることもできる。具体的には、炭素繊維径や炭素繊維長、予備含浸体を得る際に用いる炭素繊維抄紙体などの多孔体の炭素繊維の目付、および樹脂成分の含浸量などが異なる複数の予備含浸体を貼り合わせることもできる。
【0071】
一方、貼り合わせることにより面直方向に不連続な面が形成されることになり、内部隔離が生じることがあるので、本発明では炭素繊維抄紙体などの多孔体を貼り合わせずに一枚のみで用い、これに熱処理を行なうことが望ましい。
【0072】
また、予備含浸体中の樹脂組成物を増粘および部分的に架橋する目的で、予備含浸体を熱処理することができる。熱処理する方法としては、熱風を吹き付ける方法、プレス装置などの熱板にはさんで加熱する方法、および連続ベルトに挟んで加熱する方法などを用いることができる。
【0073】
<炭化>
本発明において、炭素繊維抄紙体などの多孔体に樹脂組成物を含浸して予備含浸体とした後、樹脂成分を炭化するために、不活性雰囲気下で焼成を行なう。この焼成は、バッチ式の加熱炉を用いることもできるし、連続式の加熱炉を用いることもできる。また、不活性雰囲気は、炉内に窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを流すことにより得ることができる。
【0074】
本発明において、焼成の最高温度は1300〜3000℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1700〜3000℃の範囲内であり、さらに好ましくは1900〜3000℃の範囲内である。最高温度が1300℃以上であると、予備含浸体中の樹脂成分の炭化が進み、炭素シートが導電性と熱伝導性に優れたものとなる。一方、最高温度が3000℃以下であると、加熱炉の運転コストが低くなる。
【0075】
本発明において、炭素繊維抄紙体などの多孔体に樹脂組成物を含浸した後、炭化したものを、「炭素繊維焼成体」と記載することがある。すなわち炭素シートとは、炭素繊維焼成体を意味し、撥水加工がされる前の炭素繊維焼成体も、撥水加工がされた後の炭素繊維焼成体も、いずれも炭素シートに該当する。
【0076】
<撥水加工>
本発明において、排水性を向上させる目的で、炭素繊維焼成体に撥水加工を施すことが好ましい態様である。つまり本発明の炭素シートは、撥水材を含むことが好ましい。撥水加工は、炭素繊維焼成体に撥水材を塗布し熱処理することにより行なうことができる。なお、撥水材を用いて撥水加工した場合、前記撥水材は結着材として炭素シートに含まれる。
ここで、撥水材としては、耐腐食性が優れることから、フッ素系のポリマーを用いることが好ましい。フッ素系のポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、およびテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが挙げられる。
【0077】
本発明の炭素シートの第一の実施形態または第二の実施形態は、前記の面Y1または面Y2における水の滑落角が40度以下であることが好ましい。本発明の炭素シートの面X1側または面X2側にマイクロポーラス層を形成することにより、本発明のガス拡散電極基材とすることができる。このガス拡散電極基材を燃料電池として用いる場合、炭素シートの面Y1または面Y2がセパレータ側となるが、面Y1または面Y2の水の滑落角を40度以下とすることにより、炭素シートからセパレータへの良好な排水性を得ることができる。ここで面Y1または面Y2における水の滑落角とは、炭素シートの面Y1または面Y2の側から測定して得られる滑落角を意味する。面Y1または面Y2における滑落角は低いほど好ましく、1度で最も良好な排水性を得ることができる。
【0078】
面Y1または面Y2の水の滑落角を40度以下に制御する方法としては、撥水加工をする方法を挙げることができる。撥水加工工程における熱処理の際に、撥水材が溶融して低粘度になるため、撥水材を炭素シート内の炭素繊維の表面に均一に付着させることができ、水の滑落角を40度以下とすることができ、炭素シートの撥水性を向上させることができる。
【0079】
同様に、本発明の炭素シートの第三の実施形態においても、炭素シートの一方の面の水の滑落角が40度以下であることが好ましく、その面がマイクロポーラス層を形成する面の反対面であることが好ましい。
【0080】
一方、焼成された炭素シートの表面に撥水材を薄く付着させることにより、セパレータとの導電性を良好にすることができる。撥水材を薄く付着させるために、撥水加工において使用する撥水材の融点を200℃以上320℃以下とすることが好ましい。これを満たす撥水材の種類としては、FEPまたはPFAが挙げられる。撥水材の融点が320℃以下であることで、撥水加工工程における熱処理の際に、撥水材が溶融しやすく、撥水材が炭素シート内の炭素繊維表面に均一に拡がり、撥水性の高い炭素シートを得ることができ、耐フラッディング性を向上することが可能となる。また、撥水材の融点が200℃以上であることで、撥水加工工程における熱処理の際に、撥水材が熱分解しにくく、撥水性の高い炭素シートを得ることができる。これらの材料を用いることにより、本発明の構造を持つ炭素シートの排水性を格段に大きくすることができ、撥水加工された炭素シート内部での水の蓄積を低減できるために、ガスの拡散性も大きく改善することができる。
【0081】
撥水材の付着量は、炭素繊維焼成体100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜40質量部である。撥水材の付着量が1質量部以上であると、炭素シートが排水性に優れたものとなる。一方、付着量が50質量部以下であると、炭素シートが導電性の優れたものとなる。
【0082】
本発明において、炭素繊維焼成体は「炭素シート」に当たる。上述のとおり、炭素繊維焼成体は、必要に応じて、撥水加工が施されるが、本発明では、撥水加工が施された炭素繊維焼成体も「炭素シート」に当たるものとする。撥水加工が施されない炭素繊維焼成体は、当然に「炭素シート」に当たる。
【0083】
[炭素シートの特徴]
以上のような工程により得られた本発明の炭素シートの特徴について、次に説明する。
本発明において、炭素シートの密度は0.20〜0.40g/cm
3の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.22〜0.35g/cm
3の範囲内であり、さらに好ましくは0.24〜0.30g/cm
3の範囲内である。密度が0.20g/cm
3以上であると、水蒸気拡散性が小さく、ドライアップを抑制することができる。また、炭素シートの機械強度が向上し、電解質膜と触媒層を十分に支えることができる。加えて、導電性が高く発電性能が向上する。一方、密度が0.40g/cm
3以下であると、排水性が向上し、フラッディングを抑制することができる。
【0084】
このような密度を有する炭素シートは、後述する炭素シートの製法において説明するように、炭素繊維の目付、炭素繊維に対する樹脂成分の配合量、および、炭素シートの厚さを制御することにより得られる。ここで、炭素シートの密度は、電子天秤を用いて秤量した炭素シートの目付(単位面積当たりの質量)を、面圧0.15MPaで加圧した際の炭素シートの厚みで除して求めることができる。
【0085】
本発明においては、従来の技術のように複数枚の予備含浸体を積層することは必ずしも必要ではない。このため、本発明では、炭素シートの厚さを小さくすることが容易である。
また、本発明の炭素シートの厚さは50〜230μmであることが好ましく、70〜180μmであることがより好ましく、90〜130μmであることがさらに好ましい。炭素シートの厚さが230μm以下、より好ましくは180μm以下、さらに好ましくは130μm以下であることにより、ガスの拡散性が大きくなりやすく、また生成水も排出されやすくなる。さらに、燃料電池全体としてサイズも小さくしやすくなる。一方、炭素シートの厚さが50μm以上、より好ましくは70μm以上、さらに好ましくは90μm以上であることにより、炭素シート内部の面内方向のガス拡散が効率よく行われ、発電性能が向上しやすくなる。
【0086】
なお、本発明の炭素シートの厚さは、以下の方法で求める。すなわち、炭素シートおよびガス拡散電極基材を平滑な定盤にのせ、圧力0.15MPaをかけた状態での測定物がある場合からない場合の高さの差を測定する。異なる部位にて10箇所サンプリングを行い、高さの差の測定値を平均したものを厚さとする。
【0087】
上述したように、本発明の炭素シートの第一の実施形態においては、一方の表面についての表層面積率と、他方の表面についての表層面積率とが異なることが好ましい態様である。
【0088】
表層面積率は、形状解析レーザー顕微鏡によって、炭素シートの表面の深さ分布を得ることにより求められる。まず、無作為に選ばれた炭素シートを、それぞれ5mm角の範囲を浮きが無いよう定盤に固定し、レーザー顕微鏡を用いて無作為に選ばれた部分の表面の深さ分布を測定する。
【0089】
そして得られるデータに対して平面自動傾斜補正を行った後、表面の深さ分布を算出する。そして
図1に示した深さに対するその深さを有する部分の面積の占める割合(面積率)のプロファイルを作成する。そして最表面に近い浅い部分の面積率を累積していき、この累積面積率が2%となる部分を除外面積率とする。さらに累積面積率が2%となった深さを基準として、この基準となる深さから20μmの深さまでの累積面積率を求める。そしてこのようにして得られる累積面積率が、表層面積率である。なお表層面積率は、このようにして10点求めた値の平均値とする。
【0090】
表層面積率は、物理的には、表層に存在する物質の面積率を表し、炭素繊維や結着材が表面の比較的浅い部分に多く存在すると表層面積率は大きくなる。この表層面積率は、予備含浸体を作製する際に表面近傍に多く樹脂組成物を付着させることで炭素シートの表面近傍に結着材を多く付着させることによって制御できる。
【0091】
測定にはレーザー顕微鏡(キーエンス社VK-X100)を用い、対物レンズとして10倍を用いる。縦に5行、横に4列測定を行い、結果の画像を連結することで5mm角の範囲の表面の深さ分布データを得ることができる。
【0092】
燃料電池においては、70℃未満の比較的低い温度中で、かつ高電流密度領域において作動させる場合、大量に生成する液体の水でガス拡散電極基材が閉塞し、ガスの供給が不足する結果、発電性能が低下する、いわゆるフラッディングの抑制が課題となっている。
【0093】
本発明の炭素シートの第一の実施形態では、表層面積率Xに対して表層面積率Yを小さくすることで、炭素シート内の液体の水は表層面積率の大きい面X1側から開口の大きな表層面積率Yの小さい面Y1側に移動することにより、液体の水を効率良く炭素シートからセパレータに排水することができる。これにより、排水性が向上するだけでなく、炭素シート内部が水で閉塞されることがなくなり、ガス拡散性も向上する。このため、多量の液体の水が発生する高電流密度領域での発電でもフラッディングを抑制することができる。
【0094】
このように、炭素シートの両面の表層面積率に一定の差があることが望ましく、面X1と面Y1における表層面積率の差は3%以上あることが好ましい。一方、表層面積率に差が大きすぎると、結着材分布の偏りが過大になり、機械強度が不足しやすくなる。このため、表層面積率の差は12%以下であることが好ましい。さらに効率的な排水性とガス拡散性のバランスを考慮すると4.0%以上9.6%以下が好ましく、4.7%以上7.0%以下がより好ましい。
【0095】
また、面X1においては、表層面積率により水蒸気の拡散を制御するため、表層面積率Xは13%以上であることが好ましく、燃料ガスや酸化ガスの拡散を確保するために17%以下であることが好ましい。さらに機械強度とのバランスを考慮すると14.8%以上16.0%以下が好ましい。
【0096】
また、面Y1においては、機械強度を保つために、表層面積率Yは9%以上であることが好ましく、一方、液体の水を効果的に排出するため、表層面積率Yは13%以下であることが好ましい。ガス拡散性を考慮すると、9.1%以上10.3%以下がより好ましい。
【0097】
また、表層面積率Xである表面を面X1として、表層面積率Yである表面を面Y1としたとき、面X1の表面粗さが面Y1の表面粗さよりも小さいことが好ましい。面X1の表面粗さが面Y1の表面粗さよりも小さいと、フィラー含有塗液の炭素シート内部へのしみこみが低減され、ガス拡散電極基材のガス拡散性を高くすることができる。面X1と面Y1において表面粗さに一定の差があることが望ましく、その差は1μm以上4μm以下であることが好ましい。なお、面X1の表面粗さとは、炭素シートの面X1側から測定した表面粗さを意味し、面Y1の表面粗さとは、炭素シートの面Y1側から測定した表面粗さを意味する。同様に、本発明の炭素シートの第二の実施形態または第三の実施形態においても、一方の面と他方の面において表面粗さに一定の差があることが望ましく、その差は1μm以上4μm以下であることが好ましい。
【0098】
ここで、面X1の表面粗さは16μm以下とすることが好ましく、11μm以上16μm以下がより好ましく、13μ以上15μm以下がさらに好ましい。一方、面Y1の表面粗さは12μm以上20μm以下とすることが好ましく、14μ以上19μm以下とすることがさらに好ましい。炭素シートの面X1の表面粗さを16μm以下として、面Y1の表面粗さを12μm以上20μm以下にすることで、フィラー含有塗液の炭素シート内部へのしみこみが低減され、ガス拡散電極基材のガス拡散性を高くすることができる。また、表面粗さが小さいマイクロポーラス層を得ることができるようになる。同様に、本発明の炭素シートの第二の実施形態または第三の実施形態においても、表面粗さがより小さい面の表面粗さは16μm以下とすることが好ましく、11μm以上16μm以下がより好ましく、13μ以上15μm以下がさらに好ましい。一方、表面粗さがより大きい面の表面粗さは12μm以上20μm以下とすることが好ましく、14μ以上19μm以下とすることがさらに好ましい。
【0099】
本発明の炭素シートの第二の実施形態においては、上述した面X2および面Y2の一方の表面についての炭素繊維と結着材とによる表面の被覆率と、他方の表面についての炭素繊維と結着材とによる表面の被覆率とが異なることが重要である。
【0100】
被覆率は、表面全体(空隙部分と炭素繊維及び結着材が存在する部分を合わせた全体)における炭素繊維と結着材によって表面が覆われた部分の割合により表される。この被覆率は、炭素シートの表面を走査型電子顕微鏡により観察した画像を数値処理して求めることができる。つまり、表面の空隙部分と炭素繊維および結着材の存在する部分とを分離して、その面積比率で得ることができる。
【0101】
まず、走査型電子顕微鏡(日立製作所製S4800)を用いて、炭素シートの表面を50倍に拡大し、明暗のコントラストを付属の自動調整機能で行い画像撮影をする。次に、画像処理プログラムである「J−trim」を用いて、得られた画像を輝度で明るさの最大と最小で256段階にて区切り、最小から70段階の部分を閾値として二値化を行なう。全体の面積のうち、二値化された明るい側の面積が占める割合を被覆率[%]とする。本発明の炭素シートの第二の実施形態において、被覆率が大きい側の表面を面X2とし、小さい側の表面を面Y2とする。
【0102】
本発明の炭素シートの第二の実施形態では、面X2の被覆率に対して面Y2の被覆率を小さくすることで、炭素シート内の液体の水は被覆率の大きい面X側から開口の大きな被覆率の小さい面Y2側に移動することにより、液体の水を効率良く炭素シートからセパレータに排水することができる。これにより、排水性が向上するだけでなく、炭素シート内部が水で閉塞されることがなくなり、ガス拡散性も向上する。このため、多量の液体の水が発生する高電流密度領域での発電でもフラッディングを抑制することができる。このように、被覆率の構造を積極的に活用するためには、炭素シートの両面の被覆率に一定の差があることが望ましく、面X2と面Y2における被覆率の差は5%以上あることが重要である。一方、被覆率に差が大きすぎると、層内の結着材分布の偏りが過大になり、機械強度が不足しやすくなる。このため、被覆率の差は20%以下であることが重要である。さらに、効率的な排水性とガス拡散性のバランスを考慮すると6.5%以上15.0%以下が好ましく、7.5%以上12.0%以下がより好ましい。
【0103】
また、面X2においては、被覆率により水蒸気の拡散を制御するため、面X2の被覆率は70%以上であることが好ましく、燃料ガスや酸素ガス拡散を確保するために90%以下であることが好ましい。また効率的な排水性とガス拡散性のバランスを考慮すると75.0%以上81.4%以下が好ましい。
【0104】
また、面Y2においては、結着により強度を保つために、面Y2の被覆率は50%以上であることが好ましく、一方、液体の水を効果的に排出するため、被覆率は75%以下であることが好ましい。また効率的な排水性とガス拡散性のバランスを考慮すると68.0%以上75.0%以下が好ましい。
【0105】
本発明の炭素シートは、撥水材を含み、前述の層A、B、Cについて、層の平均フッ素強度が層A、層B、層Cの順に小さくなることが好ましい。
【0106】
層Cの平均フッ素強度が層Aの平均フッ素強度より小さいため、発電により発生する生成水が層Aから層Cへ速やかに移動する。また、層Bの平均フッ素強度が層Cより大きいため、生成水が層Bのセパレータリブ部に接する部分に溜まりにくくなり、フラッディングが抑制される。また、セパレータ流路内を流れる生成水が炭素シートに戻りにくくなる。このように平均フッ素強度を層A、層B、層Cの順に小さくなることようにフッ素強度配置することにより、層A>層C>層Bである場合と比較して、耐フラッディング性を向上することが可能となる。
【0107】
このような耐フラッディング性を向上させるための層の平均フッ素強度は、好ましくは層Bの平均フッ素強度を1としたときに、層Aの平均フッ素強度が1.30〜9.00の範囲内であり、層Cの平均フッ素強度が0.10〜0.90の範囲内である。
【0108】
また、層Cの平均フッ素強度は、層Bの平均フッ素強度を1としたときに、0.30〜0.80であることがより好ましく、0.50〜0.70であることがさらに好ましい。層Bの平均フッ素強度を1としたときの、層Cの平均フッ素強度が0.90以下、より好ましくは0.80以下、さらに好ましくは0.70以下であることにより、生成水の排水性が顕著に向上しやすくなり、発電性能が向上しやすくなる。また、層Bの平均フッ素強度に対する層Cの平均フッ素強度が0.10以上、より好ましくは0.30以上、さらに好ましくは0.50以上であることにより、層Cが一定以上の撥水性を有するようになり、生成水が層Cに溜まりにくくなり、フラッディングが抑制される。
【0109】
また、層Aの平均フッ素強度は、層Bの平均フッ素強度を1としたときに、1.40〜8.00であることがより好ましく、1.50〜7.00であることがさらに好ましい。層Bの平均フッ素強度に対する層Aの平均フッ素強度が1.30以上、より好ましくは1.40以上、さらに好ましくは1.50以上であることにより、生成水が層Aから層B側に排出されやすくなる。また、層Bの平均フッ素強度を1としたときの、層Aの平均フッ素強度が9.00以下、より好ましくは8.00以下、さらに好ましくは7.00以下であることにより、層Bが一定以上の撥水性を有するようになり、生成水が層Bのセパレータリブ部に接する部分に溜まりにくくなり、フラッディングが抑制される。
【0110】
層の平均フッ素強度を層A、層B、層Cの順に小さくした本発明の炭素シートは、炭素シートを構成する炭素繊維の繊維径、密度および結着材の分布を面直方向で制御することによって得られるが、結着材の分布を制御することがより好ましい態様である。
【0111】
炭素シートのフッ素強度は走査型電子顕微鏡(SEM)−エネルギー分散形X線分析(EDX)装置を用いて測定することができる。なお、撥水加工された炭素シートが入手できない等の場合は、ガス拡散電極基材中の炭素シート、あるいは膜電極接合体中の炭素シートの厚さ方向の断面観察用サンプルを用い、フッ素強度を求めることができる。
【0112】
燃料電池においては、70℃未満の比較的低い温度中で、かつ高電流密度領域において作動させる場合、大量に生成する液体の水でガス拡散電極基材が閉塞し、ガスの供給が不足する結果、発電性能が低下する、いわゆるフラッディングの抑制が課題となっている。
【0113】
本発明の炭素シートの第一の実施形態または第二の実施形態は、1〜100μmの範囲に径を有する細孔の容積の和を100%としたときに、50〜100μmの範囲に径を有する細孔の容積の和が17〜50%であり、嵩密度(ρb)と真密度(ρt)から算出される空隙率((ρt−ρb)/ρt)が75〜87%であることが好ましい。また、本発明の炭素シートの第一の実施形態または第二の実施形態は、1〜100μmの細孔の径の範囲で、最大の容積を有する細孔の径(ピーク径)が30〜50μmの範囲内にあることがより好ましい。ここで、1〜100μmの範囲に径を有する細孔の容積の和を100%としたときの、50〜100μmの範囲に径を有する細孔の容積の和を、以下、径50〜100μmの細孔容積割合と記載する場合がある。本発明の炭素シートの第一の実施形態または第二の実施形態における径50〜100μmの細孔容積割合、空隙率、およびピーク径のより好適な範囲等については、後述の第三の実施形態について記載された好適な範囲等と同様である。
【0114】
本発明の炭素シートの第三の実施形態は、炭素繊維および結着材を含む多孔質の炭素シートであって、1〜100μmの範囲に径を有する細孔の容積の和を100%としたときに、50〜100μmの範囲に径を有する細孔の容積の和が17〜50%であり、嵩密度(ρb)と真密度(ρt)から算出される空隙率((ρt−ρb)/ρt)が75〜87%であることを特徴とする炭素シートである。径50〜100μmの細孔容積割合は、25〜35%であることが好ましい。また、空隙率((ρ
t−ρ
b)/ρ
t)は、77〜85%であることが好ましい。
【0115】
50〜100μmの範囲に径を有する細孔は、発電時の水や水蒸気の制御に重要な役割を有している。また、径50〜100μmの細孔容積割合は、地合ムラなどの炭素シートの均一性にも関与する。炭素シートの径50〜100μmの細孔容積割合が17%以上であれば、排水性が向上しフラッディングを抑制することができる。また、炭素シートの径50〜100μmの細孔容積割合が50%以下であれば、水蒸気拡散性が小さく、ドライアップを抑制することができるとともに、抄紙などからなる炭素シートに地合ムラなどがなく均一に作製できるため、引張など機械特性を向上させることができる。
【0116】
さらに炭素シートの空隙率が75%以上であれば、排水性が向上しフラッディングを抑制できる。加えて、炭素シートを柔軟にできるため、工程通過時に炭素シートが折れたり、シワが入ったりといった不具合がなく加工することが容易となる。また、径の小さいロールを用いた工程を採用できるため、加工機の省スペース、低コスト化をすることも容易となる。また、炭素シートの空隙率が87%以下であれば、ドライアップを抑制することができる。加えて、抄紙などからなる炭素シートに地合ムラなどがなく均一に作製できるため、引張など力学強度を向上させることができる。このことから、工程通過時のシート破断なく、安定した加工が容易となる。
【0117】
炭素シートの径50〜100μmの細孔容積割合を17〜50%として、空隙率を75〜87%とすることにより、フラッディングとドライアップが抑制されて低温および高温の発電性能を向上できることに加え、安定した工程通過性を実現することができる。
【0118】
また、本発明の炭素シートの第三の実施形態は、1〜100μmの細孔の径の範囲で、最大の容積を有する細孔の径(ピーク径)が30〜50μmの範囲内にあることが好ましく、35〜45μmの範囲内にあることが更に好ましい。炭素シートのピーク径が30〜50μmの範囲であれば、より効果的にフラッディングやドライアップを抑制することができる。
【0119】
ピーク径を30〜50μmの範囲内に有する炭素シートは、炭素シートの目付と厚さ、炭素繊維に対する結着材の付着量、炭素シートの表裏面の被覆率を制御することにより得られる。
【0120】
ここで、炭素シートの細孔径分布(細孔の径に対する細孔の容積を示した分布)は、水銀圧入法により得られたものである。炭素シートから約12mm×20mm角の試料片を3枚切り出し、精秤の後、重ならないように測定用セルに入れ、減圧下に水銀を注入する。そして、以下に示す条件で測定する。
【0121】
・測定圧力範囲:測定開始時の圧力 6kPa(細孔径400μm)〜測定終了時の圧力 414MPa(細孔径30nm)
・測定セルモード:上記圧力範囲の昇圧過程
・セル容積:5cm
3
・水銀の表面張力:485dyn/cm
・水銀の接触角:130°
測定装置としては、島津製作所製オートポア9520、あるいはその同等品を用いることができる。こうして得られた細孔径分布から、1〜100μmの範囲に径を有する細孔の容積の和と50〜100μmの範囲に径を有する細孔の容積の和を求めて、径50〜100μmの細孔容積割合を算出する。
【0122】
また、1〜100μmの細孔の径の範囲で、最大の容積を有する細孔の径(ピーク径)も、この細孔径分布から求める。
【0123】
また、空隙率は以下の方法にて測定した嵩密度ρ
b(g/cm
3)と真密度ρ
t(g/cm
3)より算出する。まず、嵩密度ρ
bは、面圧0.15MPaで加圧した状態でマイクロメーターを用いて求めた炭素シートの厚さt
b(cm)と、10cm角の正方形に切り取って測定した質量M
b(g/100cm
2)から以下の式により算出される。
【0124】
ρ
b(g/cm
3)=(M
b/t
b)/100
次に、真密度ρ
tは、ピクノメータ法で測定された真の容積V
t(cm
3)と、測定に用いた試料の質量M
t(g)から以下の式より算出される。
【0125】
ρ
b(g/cm
3)=M
t/V
t
真の容積V
t(cm
3)の測定装置としては、Quantachrome製のピクノメータ、MicroUltrapyc 1200e、あるいはその同等品を用いることができる。なお、測定の際、セル容積に対する真の容積V
tが10%以上となるように、試料をセル内に充填する。
【0126】
また、炭素シートの嵩密度ρ
bは0.2〜0.4g/cm
3の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.22〜0.35g/cm
3の範囲内である。嵩密度ρ
bが0.2g/cm
3以上であると、水蒸気拡散性が小さくなり、ドライアップを抑制することができる。また、炭素シートの機械特性が向上し、電解質膜と触媒層を十分に支えることができる。加えて、導電性が高く、高温および低温のいずれにおいても発電性能が向上する。一方、嵩密度ρ
bが0.4g/cm
3以下であると、排水性が向上し、フラッディングを抑制することができる。
【0127】
なお、ガス拡散電極基材から炭素シートを分離して、炭素シートの表層面積率や被覆率、径50〜100μmの細孔容積割合、空隙率、ピーク径を測定することも可能である。たとえばガス拡散電極基材を大気中に600℃で30分加熱し、ガス拡散電極基材中のマイクロポーラス層に含まれる樹脂組成物を酸化分解させた後に、エタノール等の溶媒中で超音波処理を行うことでマイクロポーラス層の残渣を除去して炭素シートを取り出すことができる。
【0128】
[ガス拡散電極基材]
次に、本発明のガス拡散電極基材について説明する。
【0129】
本発明のガス拡散電極基材は、上述の炭素シートに、後述のマイクロポーラス層を形成することにより作製することができる。
【0130】
<マイクロポーラス層の形成>
次に、本発明の構成要素の一つであるマイクロポーラス層について説明する。
【0131】
本発明の炭素シートは、一方の表面にマイクロポーラス層を形成することにより、ガス拡散電極基材として用いることができる。そして、本発明のガス拡散電極基材は、炭素シートの第一の実施形態または第二の実施形態を用いる場合は、炭素シートの面X1又は面X2側にマイクロポーラス層を有する。炭素シートの第三の実施形態を用いる場合は、炭素シートのいずれの面にマイクロポーラス層が形成されてもよいが、片面の細孔が小さくなるようにされた方法により作成された炭素シートを用いるときは、細孔が小さい面にマイクロポーラス層を形成することが望ましい。
【0132】
マイクロポーラス層は1回の塗布で形成することもできるが、複数回の塗布で形成することもできる。これにより、表面の欠陥を大幅に低減することができ、耐久性を向上できる。
【0133】
マイクロポーラス層の目付は、10〜35g/m
2の範囲内であることが好ましく、より好ましくは30g/m
2以下であり、さらに好ましくは25g/m
2以下である。また、目付は14g/m
2以上であることがより好ましく、さらに好ましくは16g/m
2以上である。
【0134】
マイクロポーラス層の目付が10g/m
2以上であると、炭素シートの一方の表面をマイクロポーラス層によって覆うことができ、生成水の逆拡散がより促進され、電解質膜の乾燥をより抑制することができる。また、マイクロポーラス層の目付が35g/m
2以下であると、排水性がより向上し、フラッディングをより抑制することができる。
【0135】
本発明において、マイクロポーラス層はフィラーを含むことが好ましい。フィラーとしては、炭素粉末が好ましい。炭素粉末としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ランプブラックおよびサーマルブラックなどのカーボンブラック、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、および薄片グラファイトなどのグラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のミルドファイバーなどが挙げられる。それらの中でもフィラーである炭素粉末としては、カーボンブラックがより好ましく用いられ、不純物が少ないことからアセチレンブラックが最も好ましく用いられる。
【0136】
本発明において、導電性と排水性を向上するという観点から、マイクロポーラス層には線状カーボンと撥水材を含む多孔体を用いることもできる。
【0137】
本発明において、マイクロポーラス層が炭素粉末を含み、当該炭素粉末が線状カーボンであり、その線状カーボンのアスペクト比を30〜5000とすることにより、マイクロポーラス層の前駆体であるフィラー含有塗液の炭素シートへのしみ込みを適度に抑制し、面内方向のガス拡散性と排水性を改善させることができるため、フラッディングを抑制することができ、さらには、炭素シートの表面に十分な厚さを有するマイクロポーラス層が形成され、生成水の逆拡散が促進されるため、ドライアップを抑制することができる。
【0138】
本発明において、排水を促進するとの観点から、マイクロポーラス層には撥水材を含むことが好ましい態様である。中でも、耐腐食性に優れていることから、撥水材としては、フッ素系のポリマーを用いることが好ましい。フッ素系のポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、およびテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが挙げられる。
【0139】
フィラー含有塗液は、水や有機溶媒などの分散媒を含んでも良く、界面活性剤などの分散助剤を含有させることもできる。分散媒としては水が好ましく、分散助剤にはノニオン性の界面活性剤を用いることが好ましい。また、前記したような、各種炭素粉末などのフィラーや撥水材を含有させることもできる。
【0140】
マイクロポーラス層は、炭素シートの片面に、前述のフィラーを含むフィラー含有塗液を塗布することによって形成することができる。
【0141】
フィラー含有塗液の炭素シートへの塗工は、市販されている各種の塗布装置を用いて行なうことができる。塗布方式としては、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、スプレー噴霧、凹版印刷、グラビア印刷、ダイコーター塗布、バー塗布、およびブレード塗布などの塗布方式を使用することができる。上に例示した塗布方法はあくまでも例示であり、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0142】
フィラー含有塗液の炭素シートへの塗布後、80〜180℃の温度で塗液を乾かすことが好ましい。すなわち、塗布物を、80〜180℃の温度に設定した乾燥器に投入し、5〜30分の範囲で乾燥する。乾燥風量は適宜決めることができるが、急激な乾燥は、表面の微小クラックを誘発する場合がある。塗布物を乾燥した後、マッフル炉や焼成炉または高温型の乾燥機に投入し、好ましくは300〜380℃の温度で5〜20分間加熱して撥水材を溶融し、炭素粉末などのフィラー同士のバインダーにしてマイクロポーラス層を形成することが好ましい。
[膜電極接合体]
本発明において、前記したガス拡散電極基材を、両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に接合することにより、膜電極接合体を形成することができる。その際、触媒層側にガス拡散電極基材のマイクロポーラス層を配置することにより、より生成水の逆拡散が起こりやすくなることに加え、触媒層とガス拡散電極基材の接触面積が増大し、接触電気抵抗を低減させることができる。
【0143】
[燃料電池]
本発明の燃料電池は、本発明のガス拡散電極基材を含むものであり、つまり上述の膜電極接合体の両側にセパレータを有するものである。すなわち、上述の膜電極接合体の両側にセパレータを配することにより燃料電池を構成する。通常、このような膜電極接合体の両側にガスケットを介してセパレータで挟んだものを複数個積層することによって固体高分子型燃料電池を構成する。触媒層は、固体高分子電解質と触媒担持炭素を含む層からなる。触媒としては、通常、白金が用いられる。アノード側に一酸化炭素を含む改質ガスが供給される燃料電池にあっては、アノード側の触媒としては白金およびルテニウムを用いることが好ましい。固体高分子電解質は、プロトン伝導性、耐酸化性および耐熱性の高い、パーフルオロスルホン酸系の高分子材料を用いることが好ましい。このような燃料電池ユニットや燃料電池の構成自体は、よく知られているところである。
【実施例】
【0144】
次に、実施例によって、本発明の炭素シートとガス拡散電極基材について具体的に説明する。実施例で用いた材料、炭素シートおよびガス拡散電極基材の作製方法と燃料電池の電池性能評価方法を、次に示した。
【0145】
<炭素シートの作製>
・厚さ220μmの炭素シートの作製
東レ(株)製ポリアクリルニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300(平均炭素繊維径:7μm)を平均長さ12mmにカットし、水中に分散させて湿式抄紙法により連続的に抄紙した。さらに、バインダーとしてポリビニルアルコールの10質量%水溶液を当該抄紙に塗布して乾燥させ、炭素繊維目付が44.0g/m
2の抄紙体を作製した。ポリビニルアルコールの付着量は、炭素繊維抄紙体100質量部に対して22質量部であった。
【0146】
次に、熱硬化性樹脂としてレゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂を1:1の質量比で混合した樹脂組成物と、炭素粉末として鱗片状黒鉛(平均粒径5μm)と、溶媒としてメタノールを用い、熱硬化性樹脂/炭素粉末/溶媒=10質量部/5質量部/85質量部の配合比でこれらを混合し、超音波分散装置を用いて1分間撹拌を行い、均一に分散した樹脂組成物の含浸液を得た。
【0147】
次に、15cm×12.5cmにカットした炭素繊維抄紙体をアルミバットに満たした樹脂組成物に水平に浸漬した後に、水平に配置した2本のロールで挟んで絞った。この際、炭素繊維抄紙体に対する樹脂組成物の付着量は水平に配置した2本のロール間のクリアランスを変えることで調整した。また、2本のうちの一方のロールはドクターブレードで余分な樹脂を取り除くことができる構造を持つ平滑な金属ロールで、他方のロールは凹凸のついたグラビアロールという構成のロールを用いた。炭素繊維抄紙体の一方の表面側を金属ロールで、他方の表面側をグラビアロールで挟み、樹脂組成物の含浸液を絞ることで、炭素繊維抄紙体の一方の表面と他方の表面の樹脂成分の付着量に差を付けた。含浸させた後、100℃の温度で5分間加熱して乾燥させ、予備含浸体を作製した。次に、平板プレスで加圧しながら、180℃の温度で5分間熱処理を行った。加圧の際に平板プレスにスペーサーを配置して、上下プレス面板の間隔を調整した。
【0148】
この予備含浸体を熱処理した基材を、加熱炉において、窒素ガス雰囲気に保たれた最高温度が2400℃の加熱炉に導入し、炭素繊維焼成体からなる、厚さが220μmの炭素シートを得た。
【0149】
・厚さ150μmの炭素シートの作製
炭素繊維の目付を30.0g/m
2とし、平板プレスでの熱処理において上下プレス面板の間隔を調整したこと以外は、上記した厚さ220μmの炭素シートの作製に記載した方法に従って、厚さが150μmの炭素シートを作製した。
【0150】
・厚さ100μmの炭素シートの作製
炭素繊維の目付を22.0g/m
2とし、平板プレスでの熱処理において上下プレス面板の間隔を調整したこと以外は、上記した厚さ220μmの炭素シートの作製に記載した方法に従って、厚さが100μmの炭素シートを作製した。
【0151】
<撥水加工>
上記にて作製した炭素シートを、撥水材として、PTFE樹脂(“ポリフロン”(登録商標)PTFEディスパージョンD−1E(ダイキン工業(株)製))の水分散液、ないしはFEP樹脂(“ネオフロン”(登録商標)FEPディスパージョンND−110(ダイキン工業(株)製)の水分散液に浸漬することにより、炭素繊維焼成体に撥水材を含浸した。その後、温度が100℃の乾燥機炉内で5分間加熱して乾燥し、撥水加工された炭素シートを作製した。なお、乾燥する際は、炭素シートを垂直に配置し、1分毎に上下方向を変更した。また、撥水材の水分散液は、乾燥後で炭素シート95質量部に対し、撥水材が5質量部付与されるように適切な濃度に希釈して使用した。
【0152】
<ガス拡散電極基材の作製>
[材料]
・炭素粉末A:アセチレンブラック“デンカ ブラック”(登録商標)(電気化学工業(株)製)
・炭素粉末B:線状カーボン:気相成長炭素繊維“VGCF”(登録商標)(昭和電工(株)製) アスペクト比70
・材料C:撥水材 PTFE樹脂(PTFE樹脂を60質量部含む水分散液である“ポリフロン”(登録商標)PTFEディスパージョンD−1E(ダイキン工業(株)製)を使用)
・材料D:界面活性剤“TRITON”(登録商標)X−100(ナカライテスク(株)製)。
【0153】
上記の各材料を分散機を用いて混合し、フィラー含有塗液を作製した。このフィラー含有塗液を、スリットダイコーターを用いて、撥水加工された炭素シートの一方の表面上に面状に塗布した後、120℃の温度で10分間、380℃の温度で10分間加熱した。このようにして、撥水加工された炭素シート上にマイクロポーラス層を形成して、ガス拡散電極基材を作製した。ここで用いたフィラー含有塗液には、炭素粉末、撥水材、界面活性剤および精製水を用い、表に示す、配合量を質量部で記載したフィラー含有塗液の組成となるように調整したものを用いた。表に示した材料C(PTFE樹脂)の配合量は、PTFE樹脂の水分散液の配合量ではなく、PTFE樹脂自体の配合量を表す。
【0154】
<固体高分子型燃料電池の発電性能評価>
白金担持炭素(田中貴金属工業(株)製、白金担持量:50質量%)1.00gと、精製水1.00g、“Nafion”(登録商標)溶液(Aldrich社製“Nafion”(登録商標)5.0質量%)8.00gと、イソプロピルアルコール(ナカライテスク社製)18.00gとを順に加えることにより、触媒液を作製した。
【0155】
次に、5cm×5cmにカットした“ナフロン”(登録商標)PTFEテープ“TOMBO”(登録商標)No.9001(ニチアス(株)製)に、触媒液をスプレーで塗布し、常温で乾燥させ、白金量が0.3mg/cm
2の触媒層付きPTFEシートを作製した。続いて、8cm×8cmにカットした固体高分子電解質膜“Nafion”(登録商標)NRE−211CS(DuPont社製)を、2枚の触媒層付きPTFEシートで挟み、平板プレスで5MPaに加圧しながら130℃の温度で5分間プレスし、固体高分子電解質膜に触媒層を転写した。プレス後、PTFEシートを剥がし、触媒層付き固体高分子電解質膜を作製した。
【0156】
次に、触媒層付き固体高分子電解質膜を、5cm×5cmにカットした2枚のガス拡散電極基材で挟み、平板プレスで3MPaに加圧しながら130℃の温度で5分間プレスし、膜電極接合体を作製した。ガス拡散電極基材は、マイクロポーラス層を有する面が触媒層側と接するように配置した。
【0157】
得られた膜電極接合体を燃料電池評価用単セルに組み込み、電流密度を変化させた際の電圧を測定した。ここで、セパレータとしては、溝幅、溝深さ、リブ幅がいずれも1.0mmの一本流路のサーペンタイン型セパレータを用いた。また、アノード側には無加圧の水素を、カソード側には無加圧の空気を供給し、評価を行った。
【0158】
耐フラッディング性の確認のためには、水素と空気はともに40℃の温度に設定した加湿ポットにより加湿を行った。このときの湿度は、100%であった。また、水素と空気中の酸素の利用率は、それぞれ70mol%、40mol%とした。電流密度1.5A/cm
2の出力電圧を測定し、耐フラッディング性の指標として用いた。次に、耐ドライアップ性の確認のためには、水素と空気はともに80℃の温度に設定した加湿ポットにより加湿を行った。このときの湿度は、42%であった。また、水素と空気中の酸素の利用率はそれぞれ80mol%、67mol%とし、電流密度1.5A/cm
2の出力電圧を測定し、耐ドライアップ性の指標として用いた。
【0159】
<目付の測定>
炭素シートおよびガス拡散電極基材の目付は、10cm四方に切り取ったサンプルの質量を、サンプルの面積(0.01m
2)で除して求めた。
【0160】
<厚さの測定>
炭素シートおよびガス拡散電極基材を平滑な定盤にのせ、圧力0.15MPaをかけた状態での測定物がある場合からない場合の高さの差を測定した。異なる部位にて10箇所サンプリングを行い、高さの差の測定値を平均したものを厚さとした。
【0161】
<炭素繊維の単繊維の平均直径の測定>
炭素繊維の単繊維の平均直径(炭素繊維径)は、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、炭素シートの一方の表面の炭素繊維を1000倍に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の単繊維を選んでその直径を計測し、その平均値とする。また、炭素シートの他方の表面の炭素繊維の単繊維についても同様に求める。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800あるいはその同等品を用いることができる。表に、炭素シートの面X1または面X2と面Y1または面Y2から求めた平均直径を示す。
【0162】
ここで表における「炭素繊維径(面X1/面Y1)」とは、面X1側から求めた炭素繊維の単繊維の平均直径と面Y1側から求めた炭素繊維の単繊維の平均直径とを示している。
【0163】
<撥水材の融点の測定>
本発明において、撥水材の融点は示差走査熱量測定により行った。装置はセイコーインスツル株式会社(SII社)製DSC6220を用いて、窒素中にて昇温速度2℃/分で、30℃から400℃の温度まで変化させ、その際の吸発熱ピークを観察し、150℃以上の温度での吸熱ピークを撥水材の融点とした。
【0164】
<表面粗さの測定>
炭素シートの表面粗さはレーザー顕微鏡を用いて行った。測定装置はVK−X100(キーエンス(株)製)を用いて倍率10の対物レンズにて5mm角の範囲をスキャンして測定し、5mm角での算術平均粗さ(Ra)を求めた。測定箇所10箇所をとり、算術平均粗さの平均を表面粗さとした。ここで、炭素シートの面X1側から測定して得られた結果を面X1の表面粗さとして、炭素シートの面Y1側から測定して得られた結果を面Y1の表面粗さとした。
【0165】
<滑落角の測定>
炭素シートの滑落角は、自動接触角計を用いた滑落法により求めた。装置としては、協和界面科学(株)製の自動接触角計DM−501を用いた。撥水加工された炭素シートの面Yを上側(測定側)にして装置ステージに固定し、イオン交換水10μLの液滴を撥水加工された炭素シートに着滴させ、1秒間待機させた後、装置ステージとともに撥水加工された炭素シートを傾斜させ、液滴が撥水加工された炭素シート表面を滑落し始めたときの装置ステージの傾斜角度を滑落角とした。
【0166】
<フッ素強度の測定>
炭素シートのフッ素強度は、次のようにして求めた。以下、
図3を用いて説明する。まず、炭素シート(6)の一方の表面を面X1または面X2(7)、他方の表面を面Y1または面Y2(8)と仮決めした後、鋭利な刃物により無作為に炭素シート(6)の面直方向断面観察用サンプルを50個作製した。前記50個の炭素シート(6)の断面に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)−エネルギー分散形X線分析(EDX)装置を用いて、炭素シート(6)の面直方向にラインスキャンを行い、フッ素強度(フッ素のシグナル強度)の分布(18)を求めた。フッ素強度の測定は加速電圧7kV、拡大倍率300倍、ライン幅20μmの条件で行った。炭素シート(6)の一方の表面から他方の表面に向かう、炭素シート(6)の面直方向の直線に沿って測定したフッ素強度の平均値(19)の50%の値(20)を求め、仮決めした面X1または面X2(7)に最も近い50%平均フッ素強度を有する面(面AA(12))から、仮決めした面Y1または面Y2(8)に最も近い50%平均フッ素強度を有する面(面BB(13))までの区間(17)において、前記炭素シート(6)を面直方向に3等分して得られる層について、面AA(12)を含む層を層A(14)と仮決めし、面BB(13)を含む層を層B(16)と仮決めし、層A(14)と層B(16)に挟まれる中央の層を層C(15)とした。
【0167】
前記50個の炭素シートそれぞれの層Aにおけるフッ素強度の平均値を算出し、50個の「層Aにおけるフッ素強度の平均値」を得た。得られた50個の「層Aにおけるフッ素強度の平均値」の平均値を層Aの平均フッ素強度とした。層B、層Cについても同様の方法で平均フッ素強度を算出した。仮決めした層A、層Bのうち、平均フッ素強度がより大きい層を層A、より小さい層を層Bとし、炭素シートの層A側の表面を面X1または面X2、層B側の表面を面Y1または面Y2とした。
【0168】
なお、炭素シート単体が入手できない等の理由により、炭素シートにおけるフッ素強度が求められない場合は、ガス拡散電極基材中の炭素シート、あるいは膜電極接合体中の炭素シートの厚さ方向の断面観察用サンプルを用い、上述する方法によりフッ素強度を求めることができる。
【0169】
また、例えば格子状の内側部分やドット状など、撥水加工が不連続な面状に行われている場合でも、上述の方法では無作為に作製した50個のサンプルの平均を取ることから不連続な部分も含めて平均化されるため、フッ素強度を求めることができる。
【0170】
走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−3500Nを用い、エネルギー分散型X線分析装置としては、(株)堀場製作所EX−370を用いた。
【0171】
(実施例1)
上記の<炭素シートの作製>、<撥水加工>および<ガス拡散電極基材の作製>に記載した方法に従って、表層面積率が表裏で異なる厚さ220μmからなる多孔質の炭素シートを用いたガス拡散電極基材を得た。このガス拡散電極基材の発電性能を評価した結果、耐フラッディング性は出力電圧が0.4V以上、耐ドライアップ性は0.35V以上であり、ともに極めて良好であった。結果を表1に示す。
【0172】
(実施例2)
上記の<炭素シートの作製>、<撥水加工>および<ガス拡散電極基材の作製>に記載した方法に従って、表層面積率が表裏で異なる厚さ150μmからなる多孔質の炭素シートを用いたガス拡散電極基材を得た。このガス拡散電極基材の発電性能を評価した結果、耐フラッディング性は出力電圧が0.4V以上、耐ドライアップ性は0.35V以上であり、ともに極めて良好であった。結果を表1に示す。
【0173】
(実施例3)
上記の<炭素シートの作製>、<撥水加工>および<ガス拡散電極基材の作製>に記載した方法に従って、表層面積率が表裏で異なる厚さ100μmからなる多孔質の炭素シートを用いたガス拡散電極基材を得た。このガス拡散電極基材の発電性能を評価した結果、耐フラッディング性は出力電圧が0.4V以上で極めて良好であり、耐ドライアップ性は0.35Vには及ばないものの0.3V以上であり良好な結果であった。結果を表1に示す。
【0174】
(実施例4)
上記の<炭素シートの作製>、<撥水加工>および<ガス拡散電極基材の作製>に記載した方法に従って、表層面積率が表裏で異なる厚さ150μmからなる多孔質の炭素シートを用いたガス拡散電極基材を得た。この際、面Y1または面Y2に接するロールにドクターブレードを取り付けることで面Y1または面Y2に付着する樹脂組成物を減じることで面Y1または面Y2の結着材を多く取り除くことによって面X1または面X2と面Y1または面Y2での結合樹脂量の差を実施例2に対して大きく変更した。このガス拡散電極基材の発電性能を評価した結果、耐フラッディング性は出力電圧0.45V以上、耐ドライアップ性は0.35V以上であり、ともに極めて良好であった。となり大幅な向上しており、これは表層面積率の差が大きく、排水性が改善したためと考えられる。結果を表1に示す。
【0175】
(実施例5)
上記の<炭素シートの作製>、<撥水加工>および<ガス拡散電極基材の作製>に記載した方法に従って、表1に示す、表層面積率が表裏で異なる厚さ150μmからなる多孔質の炭素シートを用いたガス拡散電極基材を得た。この際、はさむ2本のロール間のクリアランスを実施例2に比べ大きくすることで面Xと面Yともに結着材量を、実施例2に対して多くした。耐フラッディング性は出力電圧が0.4V以上、耐ドライアップ性は0.35V以上であり、ともに極めて良好であった。結果を表1に示す。
【0176】
(実施例6)
上記の<炭素シートの作製>、<撥水加工>および<ガス拡散電極基材の作製>に記載した方法に従って、樹脂組成物量を実施例4に比べ大きくしたこと以外は、実施例4と同様にして作製した。表層面積率が表裏で異なる厚さ150μmからなる多孔質の炭素シートを得て、さらにガス拡散電極基材を得た。耐フラッディング性は出力電圧0.35V以上で良好であった。また、耐ドライアップ性は0.35V以上であり極めて良好であった。結果を表1に示す
(実施例7)
上記の<炭素シートの作製>、<撥水加工>および<ガス拡散電極基材の作製>に記載した方法に従って、炭素シートの撥水加工をテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)に変更したこと以外は、実施例2と同様にして作製した。この結果、表層面積率が表裏で異なる150μmからなる多孔質の炭素シートを得て、さらにガス拡散電極基材を得た。耐フラッディング性は出力電圧0.45V以上、耐ドライアップ性は0.35V以上であり、ともに極めて良好であった。低融点のFEPによる撥水で均一に炭素シートが撥水され、滑落角も25度を示し40度を大きく下回ったことから、大幅な撥水性の向上が確認できた。このため、本発明の表裏の表層面積率の差と撥水性の向上とによる排水性向上での相乗効果で大幅な耐フラッディング性の向上が確認できた。結果を表1に示す。
【0177】
(実施例8)
表2に示す構成にて、マイクロポーラス層を形成するためのフィラー含有塗液の組成が異なること以外は実施例2同様にして炭素シートおよびガス拡散電極基材を得た。このガス拡散電極基材の発電性能を評価した結果、耐フラッディング性は出力電圧0.4Vを大きく上回り、耐ドライアップ性は0.35V以上であり、ともに極めて良好であった。これはマイクロポーラス層に高アスペクト比のフィラーを用いたことで高空隙のマイクロポーラス層となりガスの拡散性が向上したためと考えられる。このことからマイクロポーラス層の高空隙率化によるガス拡散性向上と本発明の排水性向上との相乗効果で大幅な耐フラッディング性の向上が確認できた。結果を表2に示す。
【0178】
(実施例9)
ポリアクリロニトリルの長繊維を200℃の温度で10分間の耐炎化処理を行い、水流交絡処理により不織布を作製し、ロールプレスを行った。2000℃の温度の加熱炉に導入し、厚さ150μmの不織布の炭素繊維焼成体からなる炭素シートを得た。結着材兼撥水材として、固形分として炭素粉末Aと材料CのPTFE樹脂を固形分の質量比1:1となるように分散剤と水に分散させた含浸液を作製した。この含浸液に耐炎化処理不織布を含浸した後、一定のクリアランスをあけて水平に2本配置したロール(2本のうちの一方のロールはドクターブレードを有する平滑な金属ロール、他方のロールは凹凸のついたグラビアロール)に挟んで絞り含浸させ、表裏での付着量を調整した。その後、加熱炉内で380℃の温度で10分間の加熱を行った。その結果、固形分量で5質量%の結着材兼撥水材で結合ざれた撥水加工済み炭素シートを得た。結着材の多い面Xに、上記の<ガス拡散電極基材の作製>に記載した方法に従って、実施例2と同様にして作製した。表2に示す、表層面積率が表裏で異なる厚さ150μmからなる多孔質の炭素シートを用いたガス拡散電極基材を得た。耐フラッディング性は出力電圧が0.4V以上、耐ドライアップ性は0.35V以上でともに極めて良好であった。結果を表2に示す。
【0179】
(比較例1)
上記の<炭素シートの作製>、<撥水加工>および<ガス拡散電極基材の作製>に記載した方法において、樹脂組成物を含浸させた炭素繊維抄紙体を両面から同じ形状のロールで挟み液を絞り、結着材を付着させ撥水加工を行った。それ以外は、実施例2と同様に作製した。その結果、表2に示すとおり、両面とも近い結着材量が付着することによって、表面の表層面積率も5%以下の差の値となった。厚さ150μmからなる多孔質の炭素シートを用いたガス拡散電極基材を得た。耐フラッディング性は出力電圧が0.35Vを下回り、耐ドライアップ性は0.3Vを大きく下回る、いずれも不十分な性能であった。結果を表2に示す。
【0180】
(比較例2)
上記の<炭素シートの作製>、<撥水加工>および<ガス拡散電極基材の作製>に記載した方法において、炭素繊維抄紙体に樹脂組成物を含浸させる際に、片面からグラビア塗布により樹脂組成物を付着させたこと以外は、実施例2と同様に作製した。その結果、表2に示すとおり、表面の表層面積率は13%以上の差となった。厚さ150μmからなる多孔質の炭素シートを用いたガス拡散電極基材を得た。耐フラッディング性は出力電圧が0.35Vを下回り、耐ドライアップ性も0.3Vを大きく下回る、いずれも不十分な性能であった。結果を表2に示す。
【0181】
(比較例3)
上記の<炭素シートの作製>において実施例3と同様の炭素繊維抄紙体に比較例1と同じ方法で樹脂組成物を含浸させ予備含浸体を作製した。一方、平均直径が3μm、平均長さが2mmの炭素繊維を用いて、その他は実施例3と同様の方法で炭素繊維抄紙体を得て、比較例1と同じ方法で樹脂組成物を含浸させ予備含浸体を作製した。これら2枚の予備含浸体を重ねて加熱加圧を行い積層した。その他の方法は実施例3と同じ方法で、厚さ250μmからなる多孔質の炭素シートを得て、さらにガス拡散電極基材を得た。このガス拡散電極基材の発電性能を評価した結果、耐フラッディング性は出力電圧0.35Vを大きく下回り、耐ドライアップ性も0.3Vを大きく下回る、いずれも不十分な性能であった。これは、積層方式を行ったため炭素シートが厚くなり、ガス拡散性と排水性が不足したためである。結果を表2に示す。
【0182】
なお、これ以上の薄い炭素シートを用いてガス拡散電極基材を作製しようと試みたが炭素シートの強度が足りず安定的に作製することができなかった。
【0183】
【表1】
【0184】
【表2】
本発明の目的の一つは、ガス拡散電極基材において、ガス拡散性と排水性を大幅に向上させることにより、耐フラッディング性に優れ、比較的低い温度中で、かつ高電流密度領域において作動させる場合においても、高い発電性能を発現可能であり、さらには、機械特性、導電性および熱伝導性が優れるガス拡散電極基材に好適に用いられる炭素シートを提供することにある。
上記目的を達成するための本発明の炭素シートの実施形態の一つは、炭素繊維および結着材を含む多孔質の炭素シートであって、表面の深さ分布を測定して、一方の表面の測定面積における深さが20μm以下の部分の面積の割合を表層面積率Xとし、他方の表面の測定面積における深さが20μm以下の部分の面積の割合を表層面積率Yとした場合に、前記表層面積率Xが前記表層面積率Yに比べて大きく、その差が3%以上12%以下であることを特徴とする炭素シートである。