特許第5958698号(P5958698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958698
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】自動変速機の変速制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20160719BHJP
   F16H 61/10 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/10
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-138631(P2012-138631)
(22)【出願日】2012年6月20日
(65)【公開番号】特開2014-1823(P2014-1823A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】303002158
【氏名又は名称】三菱ふそうトラック・バス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】小関 哲郎
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−500645(JP,A)
【文献】 特開平04−272571(JP,A)
【文献】 特開平07−063257(JP,A)
【文献】 特開2006−336715(JP,A)
【文献】 特開2002−227995(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12、61/16−61/24、
61/66−61/70、63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された自動変速機のシフトアップ及びシフトダウンを自動に行うことが可能な自動変速機の変速制御装置において、
前記車両が登坂路走行中に、平坦路走行時よりもシフトアップし難くなるようにシフトアップを制限するシフトアップ制限制御手段と、
前記車両の走行位置と地図情報に基づき前記車両の進路上にある登坂頂上を検出し、当該車両から登坂頂上までの距離と当該車両の走行状態に基づいて登坂頂上に到達するまでの登坂頂上到達時間を算出する登坂頂上到達時間算出手段と、
前記登坂頂上到達時間が所定時間以内となったときに前記シフトアップ制限制御手段によるシフトアップの制限を解除するシフトアップ制限解除手段と、
を備え、前記所定時間は前記自動変速機のシフトアップの開始から完了に至るまでの時間に対応することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記シフトアップ制限解除手段は、少なくとも、アクセル開度が所定開度以上であり、且つシフトアップ後のエンジン回転数が所定回転数以上である場合に、前記シフトアップ制限制御手段によるシフトアップの制限を解除することを特徴とする請求項1記載の自動変速機の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機の変速制御装置に係り、詳しくは登坂路の頂上にていち早く適切にシフトアップを実行するための変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では乗用車のみならずトラックやバスなどの大型車両においても、運転者のアクセル操作量や車速などに応じて変速段を自動的に切り換える自動変速機が普及している。この種の自動変速機の形式としては、例えばトルクコンバータに遊星歯車機構を組み合わせた自動変速機やベルト式などの無段変速機(いわゆるCVT:Continuously Variable Transmission)の他に、従来からの機械式の手動変速機をベースとして変速操作及び変速に伴うクラッチ操作をアクチュエータにより自動化した自動変速機(いわゆるAMT:Automated Manual Transmission)が存在する。
【0003】
一般に自動変速機を備えた車両では、走行中に所定のシフトマップに基づきアクセル開度や車速から目標変速段を算出し、この目標変速段を達成すべく適宜クラッチを断接操作しながら変速機の変速段を切り換えている。例えば車両が平坦路から登坂路に至ると、車速の低下に応じてシフトマップから低速ギヤ側の目標変速段が算出され、その目標変速段に基づくシフトダウンにより登坂路で要求される車両駆動力(トルク)が確保される。
【0004】
一方、登坂路での変速制御に着目した技術として、特許文献1に開示されたものがある。当該特許文献1の技術は、平坦路走行用のシフトマップの他に降坂路走行用及び登坂路走行用のシフトマップを備えている。当該登坂路走行用シフトマップにおいては、3速からのシフトダウン線を高スロットル側に、シフトアップ線を高車速側に移行することで3速の領域が拡げられている。さらには、勾配が大きいときには、シフトダウン線を大気圧が低いほど低スロットル側に移行することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−88091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
登坂路の走行においては、上記特許文献1に記載の技術のようにシフトマップを変更する等して、登坂路を登るのに十分な高トルクが得られる低い変速段を維持するよう、シフトアップし難くしている。
しかしながら、登坂路から平坦路又は降坂路に至るまで、即ち登坂路の頂上に至るまで、このようにシフトアップを制限していると、高トルク走行の必要がない登坂路頂上付近においても高トルクで高エンジン回転数の走行が維持され、平坦路又は降坂路に入った後にシフトアップの制限を解除してシフトアップを開始していると、無駄に燃料を消費して燃費を悪化させてしまうという問題がある。
【0007】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、登坂路頂上付近における高エンジン回転数での走行頻度を低減し、燃費を向上させることのできる自動変速機の変速制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1の自動変速機の変速制御装置では、車両に搭載された自動変速機のシフトアップ及びシフトダウンを自動に行うことが可能な自動変速機の変速制御装置において、前記車両が登坂路走行中に、平坦路走行時よりもシフトアップし難くなるようにシフトアップを制限するシフトアップ制限制御手段と、前記車両の走行位置と地図情報に基づき前記車両の進路上にある登坂頂上を検出し、当該車両から登坂頂上までの距離と当該車両の走行状態に基づいて登坂頂上に到達するまでの登坂頂上到達時間を算出する登坂頂上到達時間算出手段と、前記登坂頂上到達時間が所定時間以内となったときに前記シフトアップ制限制御手段によるシフトアップの制限を解除するシフトアップ制限解除手段と、を備え、前記所定時間は前記自動変速機のシフトアップの開始から
完了に至るまでの時間に対応することを特徴としている。
【0009】
請求項2の自動変速機の変速制御装置では、請求項1において、前記シフトアップ制限解除手段は、少なくとも、アクセル開度が所定開度以上であり、且つシフトアップ後のエンジン回転数が所定回転数以上である場合に、前記シフトアップ制限制御手段によるシフトアップの制限を解除することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記手段を用いる本発明の請求項1の自動変速機の変速制御装置によれば、車両が登坂路を走行する際にはシフトアップを制限することで、高トルクでの運転を維持し、安定的に登坂路を走行することができる。一方で、自車両の走行位置と地図情報に基づき登坂頂上を検出して、当該登坂頂上に到達するまでの登坂頂上到達時間を算出し、この登坂頂上到達時間が所定時間以内となった登坂頂上手前の地点でシフトアップの制限を解除する。
【0011】
このように、登坂頂上に到達する前にシフトアップの制限を解除することで、車両が登坂頂上に到達した時点ではシフトアップを完了することが可能となる。従って、登坂頂上以降の平坦路又は降坂路に突入した時点から比較的低いエンジン回転数での走行をすることができる。
このことから、登坂頂上付近における高エンジン回転数での走行頻度を減少させることができ、燃費を向上させることができる。
【0012】
さらに、シフトアップの制限を解除するタイミングである所定時間を自動変速機のシフトアップの開始から完了に至るまでの時間に対応させる。これにより、車両が登坂頂上付近に到達した時点、即ち平坦路又は降坂路に突入した時点で確実にシフトアップを完了することができる。
【0013】
請求項の自動変速機の変速制御装置によれば、少なくとも、アクセル開度が所定開度以上であり、且つシフトアップ後のエンジン回転数が所定回転数以上である場合に、シフトアップの制限を解除することとする。これにより、登坂頂上に至る前のシフトアップ実行時にエンジンが停止したり、車両が失速して運転者のフィーリングを悪化させることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態における自動変速機の変速制御装置が適用された駆動系を示す概略構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る自動変速機の変速制御装置のECUが実行する登坂路から登坂頂上に至るまでの変速制御ルーチンを示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係る自動変速機の変速制御装置のECUによる変速制御実行時の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した自動変速機の変速制御装置の一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の自動変速機の自動変速制御装置が適用されたトラックの駆動系を示す全体構成図であり、以下同図に基づき本実施形態の構成について説明する。
【0016】
車両には走行用動力源としてディーゼルエンジン(以下、エンジンという)1が搭載されている。エンジン1の出力軸1aにはクラッチ装置2を介して自動変速機(以下、単に変速機という)3の入力軸3aが接続され、クラッチ装置2の接続時にエンジン1の回転が変速機3に伝達されるようになっている。当該変速機3は、例えば前進6段及び後退1段を備えた手動式変速機をベースとしたものであり、以下に述べるように、その変速操作及び変速に伴うクラッチ装置2の断接操作を自動化した、いわゆるAMTである。
【0017】
クラッチ装置2は、フライホイール4にクラッチ板5をプレッシャスプリング6により圧接させて接続される一方、フライホイール4からクラッチ板5を離間させることにより切断される摩擦式クラッチとして構成されている。クラッチ板5にはアウタレバー7を介してエアシリンダ8が連結され、エアシリンダ8には電磁弁9が介装されたエア通路10を介して圧縮エアを充填したエアタンク11が接続されている。
【0018】
電磁弁9の開弁時にはエアタンク11からエア通路10を介してエアシリンダ8に圧縮エアが供給され、エアシリンダ8が作動してアウタレバー7を介してクラッチ板5をフライホイール4から離間させ、これによりクラッチ装置2が接続状態から切断状態に切り換えられる。一方、電磁弁9が閉弁すると、圧縮エアの供給中止によりエアシリンダ8が作動しなくなることから、クラッチ板5はプレッシャスプリング6によりフライホイール4に圧接され、これによりクラッチ装置2は切断状態から接続状態に切り換えられる。このように電磁弁9の開閉に応じてエアシリンダ8が作動して、クラッチ装置2を自動的に断接操作可能になっている。
【0019】
変速機3には変速段を切り換えるためのギヤシフトユニット14が設けられ、図示はしないがギヤシフトユニット14は、変速機3内の各変速段に対応するシフトフォークを作動させる複数のエアシリンダ、及び各エアシリンダを作動させる複数の電磁弁を内蔵している。ギヤシフトユニット14はエア通路12を介して上記したエアタンク11と接続されており、各電磁弁の開閉に応じてエアタンク11からの圧縮エアが対応するエアシリンダに供給され、そのエアシリンダが作動して対応するシフトフォークを切換操作すると、切換操作に応じて変速機3の変速段が切り換えられる。このようにギヤシフトユニット14の電磁弁の開閉に応じてエアシリンダが作動して、変速機3を自動的に変速操作可能になっている。
【0020】
車両内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAMなど)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタなどを備えたECU(制御ユニット)21が設置されており、エンジン1、クラッチ装置2、変速機3の総合的な制御を行う。
ECU21の入力側には、エンジン1の回転数(回転速度)を検出するエンジン回転数センサ22、運転席に設けられたチェンジレバー13の切換位置を検出するレバー位置センサ23、アクセルペダル24の操作量を検出するアクセルセンサ25、変速機3の出力軸3bに設けられて出力軸回転速度(車速と相関する)を検出する車速センサ26、フットブレーキ27の操作を検出するブレーキスイッチ28、及びナビゲーションユニット29などのセンサ類が接続されている。
【0021】
ナビゲーションユニット29は、GPS(Global Positioning System)アンテナ30を介して人工衛星からGPS信号を受信する一方、内蔵している記憶装置に予め標高を含めた地図情報が記憶されており、これらのGPS情報及び地図情報をECU21が任意に読出し可能になっている。
また、ECU21の出力側には、上記したクラッチ装置2の電磁弁9、ギヤシフトユニット14の各電磁弁などが接続されると共に、図示はしないが、エンジン1の燃料噴射弁などが接続されている。なお、このように単一のECU21で総合的に制御することなく、例えばECU21とは別にエンジン制御専用のECUを備えるようにしてもよい。
【0022】
そして、例えばECU21は、エンジン回転数センサ22により検出されたエンジン回転数及びアクセルセンサ25により検出されたアクセル操作量に基づき、図示しないマップからエンジン1の各気筒への燃料噴射量を算出すると共に、エンジン回転数及び燃料噴射量に基づき図示しないマップから燃料噴射時期を算出する。そして、これらの算出値に基づき各気筒の燃料噴射弁を駆動制御しながらエンジン1を運転する。
【0023】
また、ECU21は、レバー位置センサ23によりチェンジレバー13のDレンジへの切換が検出されているときには自動変速モードを実行し、アクセル操作量及び車速センサ26により検出された車速に基づき、図示しないシフトマップから目標変速段を算出する。そして、クラッチ装置2の電磁弁9を開閉してエアシリンダ8によりクラッチ装置2を断接操作させながら、ギヤシフトユニット14の所定の電磁弁を開閉してエアシリンダにより対応するシフトフォークを切換操作して変速段を目標変速段に切り換え、これにより常に適切な変速段をもって車両を走行させる。
【0024】
例えば、ECU21は、車両が登坂路を走行しているときには、平坦路走行中よりもシフトアップし難くなるようシフトアップの制限を行う。具体的には、当該シフトアップ制限は、アクセル操作量及び車速が上述のシフトマップに基づくとするとシフトアップ線を超える場合であっても、シフトアップせずに、その時点で選択されている変速段を維持する(シフトアップ制限制御手段)。
【0025】
また、ECU21は、車両(自車両)の走行位置と地図情報に基づき車両の進路上にある登坂頂上を検出し、車両から登坂頂上までの距離と車両の走行状態から登坂頂上に到達するまでの時間を算出する(登坂頂上到達時間算出手段)。そして、登坂頂上付近にてシフトアップが完了できるよう、登坂頂上到達時間が所定時間T以内となったときにシフトアップの制限を解除する(シフトアップ制限解除手段)。
【0026】
詳しくは、図2を参照すると、当該ECU21が行う登坂路から登坂頂上に至るまでの変速制御ルーチンがフローチャートにより示されており、以下同フローチャートに沿って、登坂路から登坂頂上に至るまでの変速制御について説明する。
図2に示すステップS1において、ECU21は車両が登坂路を走行中であるか否かを判別する。これは、ECU21がナビゲーションユニット29からGPS情報及び車両周辺の地図情報を逐次読み出し、地図上での車両の現在位置を特定した上で、現在車両が走行中の道路が登り勾配を有する登坂路であるか否かを判別することで行う。当該判別結果が真(Yes)である場合、即ち車両が登坂路を走行している場合には、次のステップS2に進む。
【0027】
ステップS2において、ECU21は、登坂頂上到達時間を算出する。具体的には、ECU21はナビゲーションユニット29から読み出したGPS情報と地図情報に基づき、車両の進路上にある登坂頂上、即ち登坂路から平坦路又は降坂路に移る地点を検出する。そして、車両から登坂頂上までの距離と、現在の車速及び加速度等の車両の走行状態に基づき、車両が登坂頂上に到達する登坂頂上到達時間を算出する。ECU21は、当該登坂頂上到達時間を算出した後、ステップS3に進む。
【0028】
ステップS3において、ECU21は、上記ステップS2において算出した登坂頂上到達時間が予め定められた所定時間T以内であるか否かを判別する。当該所定時間Tは、例えばシフトアップの開始から完了に至るまでの時間、即ち変速に要する時間に対応するものとする。当該判別結果が偽(No)である場合、即ち登坂頂上到達時間が所定時間Tより大で、登坂頂上に到達するまでに未だ時間がある場合には、ステップS4に進む。
【0029】
ステップS4において、ECU21は、上述したように車両の走行状態がシフトアップ線を超える場合でも現在選択されている変速段を維持することでシフトアップを制限し、当該ルーチンをリターンする。従って、当該ECU21は、登坂頂上到達時間が所定時間T以内に至るまでの登坂路走行中にはシフトアップの制限を維持する。
【0030】
一方、登坂頂上到達時間が所定時間T以内となったときには、ECU21は、上記ステップS3の判別結果が真(Yes)となり、ステップS5に進む。
ステップS5では、ECU21は車両の走行状態がシフトアップ可能条件を満たしているか否かを判別する。
シフトアップ可能条件とは、シフトアップを実行してもエンジンが停止(いわゆるエンジンストール)したり、車両が失速して運転者のフィーリングを悪化させないための条件である。例えば、運転者の操作として、アクセルセンサ25により検出されるアクセルペダル24の操作量が所定量以上であり、ブレーキスイッチ28によりフットブレーキ27の操作が検出されていないことを条件とする。また、エンジン回転数センサ22により検出される現在のエンジン回転数に基づきシフトアップをした場合のエンジン回転数を推定し、推定したエンジン回転数が所定回転数以上であることを条件とする。さらに、現在自車両が走行している登坂路の勾配が所定勾配以下であることを条件としてもよい。
【0031】
このような条件のうちのいずれかを満たさない場合には、ステップS5の判別結果が偽(No)となり、ECU21は、ステップS4に進み、シフトアップを制限する。一方、上記条件の全てを満たす場合、即ちシフトアップを問題なく行うことができる状態にある場合は、ステップS6に進む。
ステップS6において、ECU21は、このときに実行されているシフトアップの制限を解除して、次のステップS7に進む。
【0032】
登坂路頂上の手前で上記ステップS6にてシフトアップ制限を解除した場合や、平坦路又は降坂路を走行しており上記ステップS1の判別結果が偽(No)であった場合には、ECU21はステップS7において、通常のシフトマップに基づいた変速制御を実行し、当該ルーチンをリターンする。
ECU21は上述のような変速制御を行うものであり、ここで図3を参照すると、ECU21により当該変速制御を実行した場合の説明図が示されており、同図に基づき当該変速制御実行による作用効果について説明する。
【0033】
図3では登坂路から平坦路に至るまでの経緯が示されており、図3のA区間に示すように車両が登坂路を走行している際には、ECU21は図2のステップS1からS4を繰り返すこととなり、シフトアップを制限しながら走行する。これにより、登坂頂上の手前までは低い変速段が維持され、高トルク運転による安定的な登坂路走行を行うことができる。
【0034】
そして、車両の頂上到達時間が所定時間Tとなる登坂頂上手前の距離Lの区間Bに到達すると、ECU21は、ステップS3の判別結果が真(Yes)となり、ステップS5のシフトアップ可能条件を満たしていればステップS6においてシフトアップ制限を解除し、シフトマップに基づいた変速制御に移行する。このときアクセル操作量及び車速が当該シフトマップにおいてシフトアップ線を超えている場合には、直ちにシフトアップが開始される。
【0035】
所定時間Tは、シフトアップの開始から完了に至るまでの時間に対応していることから、当該所定時間Tの時点でシフトアップを開始することで、車両が登坂頂上付近に到達した時点、即ち平坦路の区間Cに突入した時点では確実にシフトアップを完了することができる。これにより、平坦路に突入した時点から平坦路に適した比較的低いエンジン回転数で走行することができる。
【0036】
このことから、登坂頂上付近における高エンジン回転数での走行頻度を減少させることができ、燃費を向上させることができる。
また、シフトアップ可能条件を満たした上でシフトアップ制限の解除を行うことで、シフトアップ実行時にエンジン2が停止したり、車両が失速して運転者のフィーリングが悪化することを防止することができる。
【0037】
以上で本発明に係る自動変速機の変速制御装置の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
例えば上記実施形態では、変速機はAMTであるが、変速機の形式はこれに限られるものではなく、例えばトルクコンバータを用いた自動変速機であっても構わない。
【0038】
また上記実施形態では、登坂路走行時におけるシフトアップの制限を、現在選択されている変速段を維持することで行っているが、シフトアップを制限する方法はこれに限られるものではない。例えば、平坦路走行用の通常のシフトマップよりもシフトアップし難い登坂路走行時用のシフトマップを予め用意しておき、登坂路走行時には当該登坂路用のシフトマップに切り替えることでシフトアップを制限しても構わない。
【0039】
また、上記実施形態では、図3では登坂路から平坦路に至るまでの経緯を例として説明したが、登坂路から降坂路に移行する場合も同様の変速制御を行うことができる。
また、上記実施形態では、ナビゲーションユニット29は内蔵している記憶装置に予め標高を含めた地図情報を記憶しているが、当該構成に限られるものではなく、例えばインターネット等の通信網から地図情報を受信しても構わない。
【符号の説明】
【0040】
1 エンジン
2 クラッチ装置
3 変速機
21 ECU(シフトアップ制限制御手段、登坂頂上到達時間算出手段、シフトアップ制限解除手段)
22 エンジン回転数センサ
23 レバー位置センサ
24 アクセルペダル
25 アクセルセンサ
26 車速センサ
27 フットブレーキ
28 ブレーキスイッチ
29 ナビゲーションユニット
30 GPSアンテナ
図1
図2
図3