特許第5958709号(P5958709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958709
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ブロー成形用金型及びブロー成形容器
(51)【国際特許分類】
   B29C 49/48 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   B29C49/48
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-6681(P2013-6681)
(22)【出願日】2013年1月17日
(65)【公開番号】特開2014-136391(P2014-136391A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】長井 澄雄
(72)【発明者】
【氏名】山下 巧
【審査官】 深草 祐一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−042626(JP,A)
【文献】 特開昭61−037416(JP,A)
【文献】 特開2011−073365(JP,A)
【文献】 特開2010−214815(JP,A)
【文献】 特開平09−123257(JP,A)
【文献】 特開平06−285964(JP,A)
【文献】 特開平04−312832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 49/00−51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体表記部を形成するための微小凹部が形成されるブロー成形用金型であって、
少なくとも前記微小凹部が形成される領域が多孔質金属により形成され、当該多孔質金属の表面に前記微小凹部が形成されており、微小凹部の開口縁に角部を有することを特徴とするブロー成形用金型。
【請求項2】
前記微小凹部の深さが0.2mm以下であることを特徴とする請求項1記載のブロー成形用金型。
【請求項3】
前記微小凹部が断面円弧状であり、円弧の接線と金型表面とがなす角度が30°以上、85°以下であることを特徴とする請求項1または2記載のブロー成形用金型。
【請求項4】
前記多孔質金属が多孔質アルミニウムであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のブロー成形用金型。
【請求項5】
前記多孔質金属は、平均径が20μm以下の微孔構造を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のブロー成形用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体表記部を微小凸部として形成し得るブロー成形用金型及びそれを用いて成形されたブロー成形容器に関するものであり、特に、鮮明な立体表記部を形成し得るブロー成形金型及びブロー成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂等よりなるプラスチック容器は、耐湿性が高く、比較的軟質で透明性や成形性に優れることから、各種食品や飲料、薬液等の容器として広く用いられている。そして、その成形方法としては、効率的に容器を成形することができ製造コストの点でも有利なことから、ブロー成形が主流となっている。
【0003】
ところで、この種のブロー成形容器では、微小凸部の形成により文字や図形等の立体表記を行うことがある。この時、成形に用いるブロー成形金型には、前記微小凸部に対応して微小凹部を設け、成形時にこの凹部内に樹脂材料が入り込むことで微小凸部が形成され、前記立体表記が実現される。
【0004】
この場合、如何にして立体表記を鮮明に形成するかが大きな課題となる。例えば、前述のブロー成形では、成形時にパリソンと金型の間に空気が残留することがあり、特に前記立体表記部のような微小凹部には空気が残留し易い。パリソンと金型の間に空気が残留すると、金型の微小凹部の容器表面への転写が不十分になり、立体表記部が鮮明にならない。
【0005】
そこで、このような不都合を解消することを目的に、エアベントを金型に形成し、立体表記部を鮮明なものとすることが、本件出願人によって提案されている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載されるブロー成形用金型は、分割金型とパリソンとの間の空気を除去するためのエアベントを設けることで、前記空気の残留を解消しようというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−73365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載のブロー成形用金型を用いても、立体表記の鮮明化や容器の薄肉化への対応において、必ずしも十分とは言えないのが実情である。例えば、エアベントを設けることで、ある程度はパリソンと金型の間の空気を抜くことはできるが、凹部の角部等に空気が残存することを完全に防ぐことができず、形成される立体表記部は鮮明さに欠けるものとなるおそれがある。立体表記部を鮮明に転写するためには、金型に形成される凹部の深さを深くすれば良いものと考えられるが、凹部を深くすると、樹脂が引き伸ばされて局所的に薄くなり、得られる容器の衝撃強度が大きく低下するという問題が生ずるおそれがある。
【0008】
また、エアベントの設置は、微小凹部の数カ所に限られ、あまり多く形成することは金型構成上現実的ではない。したがって、空気を排除することができるのは、エアベント近傍位置に限られ、図形や文字等の立体表記部全体を鮮明化することは難しい。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題を解決することを目的として提案されたものであり、立体表記部全体を鮮明化することができ、容器を薄肉化した場合にも衝撃強度を低下することのないブロー成形用金型を提供することを目的とし、さらには、ブロー成形容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するために、本発明のブロー成形用金型は、立体表記部を形成するための微小凹部が形成されるブロー成形用金型であって、少なくとも前記微小凹部が形成される領域が多孔質金属により形成され、当該多孔質金属の表面に前記微小凹部が形成されており、微小凹部の開口縁に角部を有することを特徴とする。また、本発明のブロー成形容器は、前記ブロー成形用金型により成形されたブロー成形容器であり、所定の箇所に微小凸部として形成された立体表記部を有することを特徴とする。
【0011】
ブロー成形用金型において、立体表記部を形成するための微小凹部が形成される領域を多孔質金属により形成すれば、立体表記部全体で微小凹部内に残存する空気が排除される。また、結果的に、微小凹部の深さが浅くても立体表記部が鮮明化されることになり、微小凹部を深くする必要がないので、樹脂が引き伸ばされて局所的に薄くなることもない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、立体表記部全体を鮮明化することができ、樹脂が局所的に薄くなることによる衝撃強度の低下を解消し得るブロー成形用金型を提供することが可能である。また、本発明によれば、鮮明な立体表記部を有し、衝撃強度に優れたブロー成形容器を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ブロー成形の一態様を示す概略断面図である。
図2図1のA−A線位置におけるブロー成形用金型の概略断面図である。
図3】微小凹部の形状を説明する図であり、(a)は鮮明な立体表記部の形成が可能な微小凹部の形状例を示し、(b)は鮮明な立体表記部の形成が難しい微小凹部の形状例を示す。
図4】成形されるブロー成形容器の一例を示す正面図である。
図5】(a)は図4のX−X線における断面図であり、(b)は図4のY−Y線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用したブロー成形用金型、及びそれを用いて成形されるブロー成形容器の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は、ブロー成形の一態様を示すものである。ブロー成形では、ヘッド1から筒状に形成されたパリソン2を供給し、これを一対のブロー成形用金型3,4内に挟み込み、その内側に吹き込んだ気体の圧力でブロー成形用金型3,4の内面にパリソン2を押しつけて中空の容器を形成する。
【0016】
ここで、成形される容器の表面に微小凸部からなる立体表記部を設ける場合、例えば立体表記部に対応するブロー成形用金型3の内面に微小凹部6を設けておく必要がある。本実施形態においては、図1及び図2に示すように、ブロー成形用金型3の微小凹部形成領域に凹部を形成し、ここに多孔質金属からなる入れ駒5を嵌め合わせている。これにより、ブロー成形用金型3の立体表記部形成面は、多孔質金属により形成されることになる。
【0017】
前述のように、ブロー成形用金型3の立体表記部形成面を多孔質金属により形成することで、鮮明な立体表記部の形成が可能である。
【0018】
例えば、立体表記部に対応してブロー成形用金型3には微小凹部6を形成し、この微小凹部6内にパリソン2が入り込むことにより、立体表記部が微小凸部として形成されるが、微小凹部形成領域が孔の無い緻密な金属材料で形成されていると、エア抜きが不十分となって、微小凹部6内に残留エアが滞留する。残存エアは熱によって膨張し、パリソン2を引き伸ばし、パリソン2に薄肉部が形成されてしまう。また、パリソン2の微小凹部6への入り込みが不十分で、転写不良となり、立体表記部は不鮮明なものとなる。
【0019】
これに対して、微小凹部形成領域を多孔質金属で形成すると、微小凹部6の形成面に多孔質金属の微小な孔が臨む形となり、これらの微小な孔からエアが速やかに引き抜かれる。その結果、微小凹部6内にパリソン2が入り込み、微小凹部6の内面に密着することで微小凹部6の形状がパリソン2に確実に転写される。これにより、鮮明な立体表記部の形成が可能となる。
【0020】
なお、前記微小凹部6内のエア抜きは、エアベントの設置によっても実現可能であるが、エアが排除されるのはエアベントの近傍のみであり、エアベントから離れた位置では十分なエア抜きを行うことは難しい。また、エアベントを設置した場合、エアベント形状が立体表記部に転写されてしまうおそれもある。
【0021】
ブロー成形用金型に用いる多孔質金属としては、微細な連続気泡を有する多孔質の金属材料であれば、金属の種類等は問わないが、熱伝導性等、様々な特性の点で多孔質アルミニウム(いわゆるポーラスアルミ)が最適である。また、多孔質金属の微細孔のサイズも任意であるが、平均径が20μm以下である微孔構造を有することが好ましい。孔のサイズが微細であると、より鮮明に立体表記部を形成することができ、成形中の金型の割れを抑制することもできる。多孔質金属の気孔率も任意であるが、前記作用効果に鑑みると、5%〜20%であることが好ましく、15%〜16%であることがより好ましい。
【0022】
さらに、図1図2に示す実施形態では、多孔質金属を入れ駒5の形態でブロー成形用金型3に嵌め込んでいるが、ブロー成形用金型3全体を多孔質金属により形成することも可能である。ただし、多孔質アルミニウム等の多孔質金属は、強度が低いという問題があるので、入れ駒5の形態で設置する方が好ましい。
【0023】
エア抜きを確実にするために、例えば多孔質金属からなる入れ駒5の背面にエアベント等を設置しても良いが、前記微小凹部6の内容積が非常に小さいため、エアベント等を設置しなくとも、多孔質金属自体が有する空間により十分に吸収可能である。
【0024】
微小凹部形成領域を多孔質金属で形成することで、鮮明な立体表記部の形成が可能になり、特に、微小凹部6の深さが浅くても、鮮明な立体表記部の形成が可能である。微小凹部6の深さが深いと、微小凹部6内にパリソン2が入り込む際に、パリソン2が大きく引き延ばされることになり、耐衝撃性が大きく低下し、成形された容器に割れが発生するおそれがある。したがって、微小凹部6の深さは0.2mm以下とする必要がある。微小凹部6は、ある程度の深さは必要であり、したがって微小凹部6の深さの最適値は、0.05mm〜0.2mmである。
【0025】
以上のように、ブロー成形用金型の微小凹凸形成領域を多孔質金属で形成し、微小凹部の深さを0.2mm以下とすることで、鮮明な立体表記部の形成が可能で、しかも耐衝撃性に優れた容器の成形が可能である。
【0026】
この時、微小凹部6の形状も転写性に影響を与え、立体表記部の鮮明さに影響を与える。微小凹部6の形状としては、角部を有する形状であることが好ましく、これにより立体表記部の鮮明さが増す。以下、微小凹部6の形状について説明する。
【0027】
図3は、微小凹部6を模式的に示すものである。本発明のブロー成形用金型においては、図3(a)に示すように、微小凹部6の開口縁に角部を有することが好ましい。一般に、金型に微小凹部を形成する際には、エンドミルと称される切削工具を使用する。エンドミルの先端は、球面形状となっており、これを用いて形成される溝(凹部)の形状は断面円弧状となる。この断面円弧状の微小凹部6において、図3(a)に示すように、円弧の接線を引いた時に、接線sと金型表面hとが0°を越える所定の角度αをなせば、前記角部を有すると言える。
【0028】
図3(b)に示すように、微小凹部6の開口縁が角部を有さず、なだらかな形状となっていると、接線sと金型表面hとが一致(前記角度αが0°)する。このような形状であると、成形される微小凸部の輪郭が不明瞭となり、鮮明な立体表記部の形成は望めない。好ましくは、前記接線sと金型表面hとがなす角度αが30°以上である。より鮮明な立体表記を求めるのであれば、角度αは50°以上であることが更に好ましい。尚、角度αが大きいほどパリソンに剪断力が大きく働くため、割れ防止の観点からは角度αを小さくすることが好ましく、85°以下とすることが好ましい。所定の角度αの微小凹部によって微小凸部を形成した場合、成形される微小凸部は、対応する角度で立ち上がる。ただし、立ち上がる起点は、金型の角が完全に転写されるとは限らず、微小なR形状(円弧形状)が形成される場合もある。
【0029】
前述のブロー成形用金型を用いて成形される容器の一例を図4に示す。本例の容器11は、容器胴部12の上端に口部を有するものであり、マヨネーズやケチャップ等が充填される可撓性容器である。この容器11の胴部12には、容器11の外縁形状より内側に陥没面13を有し、この陥没面13にメーカー名やロゴマーク等の立体表記部が形成されている。
【0030】
前記容器胴部12(立体表記部が形成されていない部分)の平均厚さは、0.4mm〜0.5mm程度であり、軽量化する場合には、厚さ0.4mm以下とすることもある。立体表記部の厚さは、立体表記部が形成されていない前記容器胴部12の厚さよりも薄くなる傾向にある。特に、立体表記部の微小凸部を形成するための金型の微小凹部の幅が、容器胴部の平均厚さよりも小さい場合(例えば、0.4mm以下)の場合、微小凸部にて肉厚が薄くなりやすい傾向にある。
【0031】
本例の容器11の場合、前記陥没面13に幾何学的な模様が立体表記部として形成されており、また、当該立体表記部は、図5(a)に示すような断面形状を有し線状の微小凸部14により輪郭が形成される幾何学模様と、図5(b)に示すような断面形状を有し所定の面積の凸部15として形成される幾何学模様とから構成されている。
【0032】
特に、前記微小凸部14の形成の際に、微小凹部6の形成領域が多孔質金属で形成されたブロー成形用金型を用いれば、良好な転写性で鮮明な幾何学模様が立体表記部として形成される。また、微小凸部14の形成によって容器11に薄肉部が形成されることもなく、厚さの薄い立体表記部で割れが発生することもない。
【0033】
以上、本発明を適用した実施形態についてを説明してきたが、本発明が前述の実施形態に限られるものでないことは言うまでもなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、多様な変更または改良を加えることが可能である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を具体的な実験結果に基づいて説明する。
【0035】
ブロー成形用金型による相違
ポリエチレン系樹脂を内層及び外層に用い、ブロー成形により多層プラスチック容器を成形した。成形した多層プラスチック容器は、容量が500mlであり、容器胴部における平均厚さが0.4mm以下である。
【0036】
前記多層プラスチック容器を、立体表記部の形成面を多孔質アルミニウムで形成した金型(微小凹部の深さ0.15mm)(実施例1)、通常のアルミニウムで形成した金型(微小凹部の深さ0.15mm)(比較例1)、通常のアルミニウムで形成した金型(微小凹部の深さ0.3mm)(比較例2)、通常のアルミニウムで形成しエアベントを設けた金型(微小凹部の深さ0.15mm)(比較例3)を用いて成形し、得られた容器の立体表記部の鮮明さ、耐落下強度を評価した。なお、微小凹部の幅は0.4mm以下とした。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
この表からも明らかな通り、実施例1のように、立体表記部の形成面を多孔質アルミニウムで形成することで、鮮明な立体表記が可能となり、十分な強度も確保されている。これに対して、通常のアルミニウムを用いた比較例1では、立体表記の鮮明さに欠けるものであった。立体表記を鮮明なものとするために微小凹部の深さを深くした比較例2では、耐落下強度が不足し、立体表記部において割れが発生した。エアベントを設けた比較例3では、ある程度の鮮明さは確保できたが、エアベントから離れた位置の立体表記部において、輪郭が若干不明瞭となっていた。
【0039】
微小凹部の深さに関する検討
立体表記部の形成面を多孔質アルミニウムで形成した金型の微小凹部の深さを0.05mm〜0.4mmとし、容器胴部における平均厚さが0.4mm以下の多層プラスチック容器の成形を行った。得られた容器の立体表記部の鮮明さ、耐落下強度を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
微小凹部の深さが0.2mmを越えると、耐落下強度の低下が見られた。
【符号の説明】
【0042】
1 ヘッド
2 パリソン
3,4 ブロー成形用金型
5 入れ駒
6 微小凹部
11 容器
12 胴部
13 陥没部
14 微小凸部
15 凸部
図1
図2
図3
図4
図5