(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スイッチング素子と、前記スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを備え、前記スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するコンバータであって、
前記リアクトルは、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のリアクトルであるコンバータ。
入力電圧を変換するコンバータと、前記コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを備え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するための電力変換装置であって、
前記コンバータは、請求項5に記載のコンバータである電力変換装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のリアクトルには、磁性コアのギャップの位置(即ち、比透磁率が低くなっている位置)で磁束が漏れ易いという問題があった。特許文献1のリアクトルでは、ギャップをコイル内に配置しているため、漏れ磁束がリアクトルの外部に設置される機器に悪影響を及ぼすことはないものの、漏れ磁束がコイルを透過することによるエネルギー損失(銅損)が生じる。これに対して、磁性コアにおけるコイルから露出する部分にギャップを形成すれば、リアクトルの外部に磁束が漏れ、その漏れ磁束が外部機器に悪影響を及ぼす恐れがある。この問題は、リアクトルの外周を非磁性金属などのケースで覆うことで解決できるが、その場合、ケースの分だけ大型化・高重量化するという新たな課題が生じる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的の一つは、磁気飽和し難く、かつ漏れ磁束が生じ難い構成を備えるリアクトルを提供することにある。また、本発明の別の目的は、このリアクトルを備えるコンバータ、及びこのコンバータを備える電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明リアクトルは、コイルと、コイル内に挿通されて閉磁路を形成する環状の磁性コアとを備える。この本発明リアクトルでは、磁性コアが、比透磁率が異なる第一コア部と第二コア部とが交互に並ぶ環状コア部、および環状コア部の全周を覆う被覆コア部、を備える。そして、本発明リアクトルでは、第一コア部、第二コア部、および被覆コア部の比透磁率をそれぞれμ
H、μ
L、及びμ
Cとしたとき、各コア部の比透磁率がμ
H>μ
L、およびμ
H>μ
Cを満たすことを特徴とする。
【0008】
上記本発明リアクトルを動作させたとき、コイル内に挿通される環状の磁性コアの形状に沿った環状の磁束の通り道が形成される。この磁束の主たる通り道である磁性コアの環状コア部は、磁気特性の異なる第一コア部と第二コア部とで構成されており、環状コア部全体の比透磁率を容易に調整することができる。そのため、磁気飽和し難い磁性コア(環状コア部)を備えるリアクトルとすることができるので、本発明リアクトルは、大電流での使用に耐え得るリアクトルとなる。
【0009】
また、上記構成のように、環状コア部の外周を被覆コア部で覆うことで、被覆コア部よりも外側に磁束が漏れることを効果的に抑制でき、磁性コアの外側にあるコイルを磁束が透過することを抑制できる。そのため、本発明リアクトルでは、コイルを磁束が透過することによるエネルギー損失が生じ難い。
【0010】
さらに、被覆コア部の比透磁率を、環状コア部の第一コア部の比透磁率よりも低くすることで、より磁気飽和し難い磁性コアとすることができる。仮に、本発明リアクトルの構成と異なり、被覆コア部の比透磁率を、第一コア部の比透磁率と同じかそれ以上とした場合、磁束と直交する磁性コアの横断面のうち、第一コア部が配置される部分の横断面は、被覆コア部も含めて高比透磁率の材料のみで構成されることになるため、その部分で磁気飽和し易くなる。これに対して、本発明リアクトルの磁性コアでは、磁束と直交する磁性コアのいずれの横断面も、高比透磁率の材料のみで構成されることはなく、磁気飽和し難い。
【0011】
本発明リアクトルの一形態として、第一コア部の比透磁率は15〜500、第一コア部に比べて低比透磁率の第二コア部および前記被覆コア部の比透磁率は5〜15、磁性コア全体の比透磁率は10〜50、であることが好ましい。
【0012】
なお、本明細書における上記コア部の比透磁率は、次のようにして求めたものとする。まず、各コア部と同じ材料で構成した複合材料を加工し、外径34mm、内径20mm、厚さ5mmのリング状試験片を作製する。このリング状試験片に、一次側300巻き、二次側20巻きの巻線を施し、試験片についてのB−H初磁化曲線を、H=0〜100エルステッド(Oe)の範囲で測定する。測定には、例えば、理研電子株式会社製BHカーブトレーサ「BHS−40S10K」を用いることができる。得られたB−H初磁化曲線の勾配(B/H)の最大値が試験片の比透磁率であり、その比透磁率を上記コア部の比透磁率と見做す。因みに、後段でコア部の飽和磁束密度について記載しているが、その飽和磁束密度は、上記試験片に対して電磁石で10000(Oe)の磁界を印加し、十分に磁気飽和させたときの試験片の磁束密度である。
【0013】
上記構成を備えるリアクトルは、100A以上の大電流で使用しても磁気飽和し難く、例えば、車載用のリアクトルとして好適に利用することができる。
【0014】
本発明リアクトルの一形態として、第一コア部は、圧粉成形体で形成されており、第二コア部、および被覆コア部は、磁性粉末混合樹脂で一体に形成されていることが好ましい。
【0015】
ギャップレスに形成される本発明リアクトルにおいて、磁性コアを構成する各コア部は、圧粉成形体もしくは磁性粉末混合樹脂で形成される。高比透磁率の第一コア部は、圧粉成形体もしくは磁性粉末混合樹脂のいずれでも良いが、『第一コア部の比透磁率>他のコア部の比透磁率』を満たす必要がある。ここで、圧粉成形体と磁性粉末混合樹脂の比透磁率の大小関係は、含まれる磁性成分の含有量を反映して、圧粉成形体>磁性粉末混合樹脂となるので、上記構成のように第一コア部を圧粉成形体、その他のコア部を磁性粉末混合樹脂とすれば、『第一コア部の比透磁率>他のコア部の比透磁率』の関係を確実に満たすことができる。このように、第一コア部を圧粉成形体、その他のコア部を磁性粉末混合樹脂とすれば、磁気飽和し難い磁性コアとすることができる。
【0016】
さらに、上記構成では、第二コア部と被覆コア部とが磁性粉末混合樹脂で一体に形成されているため、磁性コアの作製が容易である。具体的には、磁性コアの全体形状を決める金型内に所定数の第一コア部を離隔した状態で配置し、磁性粉末混合樹脂を金型内に充填するだけで、磁性コアを作製することができる。
【0017】
本発明リアクトルの一形態として、磁性コアの環状コア部が円環状に形成されており、コイルが磁性コアの外周面全体にわたって配置されている形態を挙げることができる。
【0018】
上記構成の具体例としては、後述する実施形態1を挙げることができる(
図1を参照)。この構成であれば、コイルのターン間に殆ど隙間を設けることなく、磁性コアの外周全体にわたってコイルを配置できる。そのため、小型でありながら磁気特性に優れるリアクトルとすることができる。
【0019】
本発明リアクトルの一形態として、磁性コアの環状コア部が、四つの柱状部と、各柱状部を繋ぐ四つの角部と、を備える形態を挙げることができる。その場合、コイルを四つの柱状部の外周面に配置し、上記柱状部を第二コア部とする。
【0020】
上記構成の具体例としては、後述する実施形態2,3を挙げることができる(
図2,3を参照)。この構成であれば、リアクトルの組立作業性を向上させることができる。例えば、環状の磁性コアを用意してから、その磁性コアに巻線を巻き付けてコイルを形成する場合、柱状部は湾曲せず真っ直ぐに伸びているため、柱状部に巻線を巻き付け易い。巻線を巻き付けない角部の分だけ作業空間に余裕があることも、柱状部に巻線を巻き付け易い要因の一つである。一方、コイルを形成してから、そのコイルに磁性コアを組み付ける場合、コイルが四つの部分に分かれ、各部分の間が離隔しているため、その離隔した部分から磁性コアを挿入し易い。なお、後者の場合、磁性コアは複数の分割片を組み合わせて構成される。
【0021】
また、上記構成では、コイルが配置される柱状部を低比透磁率の第二コア部としている。これは、言い換えればコイルが配置されない角部を高比透磁率の第一コア部とすることである。このように角部を高比透磁率とすることで、角部の位置で磁束が漏れることを抑制できる。
【0022】
本発明のリアクトルは、コンバータの構成部品に好適に利用することができる。本発明のコンバータは、スイッチング素子と、スイッチング素子の動作を制御する駆動回路と、スイッチング動作を平滑にするリアクトルとを備え、スイッチング素子の動作により、入力電圧を変換するものである。そして、リアクトルが上記した本発明のリアクトルであることを特徴とする。
【0023】
また、本発明のコンバータは、電力変換装置の構成部品に好適に利用することができる。本発明の電力変換装置は、入力電圧を変換するコンバータと、コンバータに接続されて、直流と交流とを相互に変換するインバータとを備え、このインバータで変換された電力により負荷を駆動するためのものである。そして、コンバータが上記した本発明のコンバータであることを特徴とする。
【0024】
本発明のコンバータ及び電力変換装置は、大電流での使用に耐え得る本発明のリアクトルを備えることで、車載部品などに好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明リアクトルは、磁気飽和し難く、かつ漏れ磁束が生じ難い。また、本発明のコンバータ及び電力変換装置は、大電流での使用に耐え得る本発明のリアクトルを備えるため、車載部品などに好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0028】
<実施形態1>
図1に示す本実施形態のリアクトルαは、コイル2と、このコイル2内部に挿通されて閉磁路を形成する環状の磁性コア3と、を備える。磁性コア3は、
図1(B)に示すように、一つの環状に形成されている。この本発明リアクトルαの最も特徴とするところは、〔1〕磁性コア3が、第一コア部31と第二コア部32とが交互に並ぶ環状コア部30、およびその環状コア部30の全周を覆う被覆コア部33を備えること、〔2〕第一コア部31の比透磁率μ
Hが、第二コア部32の比透磁率μ
L、および被覆コア部33の比透磁率μ
Cに比べて高いこと(μ
H>μ
L,μ
H>μ
C)、にある。以下、このリアクトルαの各構成を詳細に説明する。
【0029】
≪コイル≫
本実施形態のコイル2は、
図1(A)に示すように、螺旋状に巻回される一連長の巻線(単数の巻線でも良いし、複数本の巻線を繋げたものであっても良い)からなり、その全体形状が中空の円環状になっている。コイル2のその中空部分に後述する磁性コア3が挿通されている(言い換えれば、磁性コア3の外周面全体を覆うようにコイル2が配置されている)。
【0030】
上記巻線は、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体の外周に、絶縁性材料(代表的にはポリアミドイミドといったエナメル材料)からなる絶縁被覆を備える被覆線が好適である。導体は、断面形状が長方形状である平角線、円形状である丸線、多角形状である異形線など、種々の形状のものを利用できる。本実施形態では丸線を使用している。
【0031】
コイル2を形成する巻線の端部2a,2bは両方とも、ターン部分から紙面上方に引き延ばされている。端部2a,2bでは、丸線の絶縁被覆が剥がされ、露出した導体に銅やアルミニウムなどの導電性材料からなる端子部材(図示せず)が取り付けられる。この端子部材を介して、コイル2に電力が供給される。
【0032】
≪磁性コア≫
磁性コア3は、
図1(B)に示すように、円環状に形成された環状コア部30
と、その外周面全体を覆う被覆コア部33と、で構成され、その全体に亘って実質的にギャップが設けられていないギャップレス構造体である。
【0033】
磁性コア3の断面(環形状に直交する断面)は、本実施形態では円形であるが、これに限定されるわけではない。例えば、断面は、楕円形でも良いし、矩形を含む多角形でも良い。
【0034】
上記磁性コア3は、繋ぎ目のない一つの部材であっても良いし、複数の分割片(例えば、二つの半円弧状の分割片)を接着剤などで繋ぎ合わせたものであっても良い。磁性コア3が一つの部材である場合、接着剤などを介した繋ぎ目がないため、磁性コア3全体の比透磁率を厳密に調整することが容易である。その反面、磁性コア3の外周にコイル2を配置するときに、磁性コア3の外周に巻線を巻き付ける手間がかかる。一方、磁性コア3が複数の分割片からなる場合、接着剤などを介した繋ぎ目ができるものの、予め巻線を巻回して形成されたコイル2の内部に、後から磁性コア3を挿入できるため、組立作業性に優れる。
【0035】
[環状コア部]
環状コア部30は、比透磁率の異なる第一コア部31と第二コア部32とが交互に並ぶことで構成される磁性体である。両コア部31,32の数は特に限定されないが、両コア部31,32の数を多くすると、磁性コア3全体の比透磁率の微調整を行ない易い。また、コア部31,32の数を多くすると、環状コア部30全体の放熱性が均一になり易い。なお、コア部31の数とコア部32の数とは必ずしも一致している必要はない。
【0036】
第一コア部31の比透磁率μ
Hと、第二コア部の比透磁率μ
Lの大小関係は、既に述べたように、μ
H>μ
Lである。特に、μ
Hは15〜500、μ
Lは5〜15とすることが好ましい。これらコア部31,32の比透磁率をどのように調節するかは後述する。
【0037】
[被覆コア部]
被覆コア部33は、環状コア部30の外周を覆う薄皮状の磁性体である。被覆コア部33によって、被覆コア部33よりも外側に磁束が漏れることを抑制することができる。
【0038】
また、被覆コア部33の比透磁率μ
Cは、上記第一コア部31の比透磁率μ
Hよりも小さければ良い。好ましくは、μ
Cは5〜15とする。このように、被覆コア部33の比透磁率μ
C<第一コア部31のμ
Hとすることで、被覆コア部33の比透磁率μ
C≧第一コア部31のμ
Hとするよりも、磁性コア3を磁気飽和し難くできる。これは、磁束と直交する磁性コア3のいずれの横断面も、高比透磁率の材料のみで構成されることがないからである。例えば、第一コア部31が配置される部分における磁束と直交する磁性コア3の横断面では、内周側に高比透磁率の第一コア部31が配置され、その全周を低比透磁率の被覆コア部33が覆っている。そのため、当該部分で磁気飽和が生じ難い。また、第二コア部32が配置される部分における磁束と直交する磁性コア3の横断面では、内周側も外周側も低比透磁率であるため、磁気飽和し難い。
【0039】
被覆コア部33の比透磁率μ
Cと、上記第二コア部32の比透磁率μ
Lの大小関係は特に限定されない。但し、被覆コア部33よりも外部に磁束がもれないようにするという観点からすれば、μ
C≧μ
Lとすることが好ましく、より好ましくは、μ
C>μ
Lである。
【0040】
被覆コア部33の厚さは、1〜20mmとすることが好ましい。被覆コア部33の厚さを1mm以上とすることで、第一コア部31と被覆コア部33で構成される部分の磁気飽和を抑制することができる。加えて、磁性成分が多い第一コア部31が錆びることを抑制できる。また、被覆コア部33の厚さを20mm以下とすることで、第一コア部31と被覆コア部33で構成される部分の飽和磁束密度を高くすることができる。より好ましい被覆コア部33の厚さは1〜10mmである。
【0041】
[各コア部の構成材質]
各コア部31,32,33は、圧粉成形体もしくは磁性粉末混合樹脂のいずれかで構成することができる。
【0042】
(圧粉成形体)
まず、圧粉成形体について説明する。圧粉成形体は、代表的には、表面に絶縁被膜を有する磁性粉末を加圧成形した後、適宜熱処理を施すことで製造することができる。圧粉成形体の材料には、鉄基材料や希土類金属などの軟磁性材料からなる粒子の表面に絶縁被覆を備える被覆粉末やフェライト粉末に、熱可塑性樹脂などの樹脂や高級脂肪酸などの添加剤(上記熱処理によって消失、又は絶縁物に変化するもの)を加えた混合材料を用いることが挙げられる。上記製造方法によって、軟磁性粒子の周囲が絶縁被覆(例えば、リン酸化合物、珪素化合物、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、硼素化合物など)で覆われ、当該粒子間に絶縁物が介在する圧粉成形体が得られる。絶縁被覆を備える圧粉成形体は、絶縁性に優れ、渦電流損を低減することができる。軟磁性材料をフェライトとする場合、絶縁被覆を備えていなくても、絶縁性に優れる。
【0043】
使用する磁性粉末の平均粒径は、1μm以上1000μm以下、特に10μm以上500μm以下とすることが好ましい。磁性粉末は、粒径が異なる複数種の粉末が混合されたものでも良い。微細な粉末と粗大な粉末とを混合した磁性粉末を圧粉成形体の材料に用いた場合、飽和磁束密度が高く、低損失なリアクトルが得られ易い。なお、圧粉成形体における磁性粉末と材料に用いた粉末とは、その大きさが実質的に同じである(維持されている)。
【0044】
圧粉成形体における磁性粉末(磁性成分)の含有量は、圧粉成形体を100%とするとき、体積割合では70体積%以上とすることが望ましく、80体積%以上とすることがさらに望ましい。圧粉成形体における磁性粉末の含有量の調整は、例えば、磁性粒子の表面に形成される絶縁被覆の厚さや、圧粉成形体の作製時に磁性粉末に加えられる樹脂や添加剤の量によって調節できる。
【0045】
上記磁性粉末の含有量から分かるように、圧粉成形体において絶縁成分に比べて磁性成分が圧倒的に多いため、圧粉成形体は高比透磁率でかつ高飽和磁束密度の磁性部材とすることができる。この圧粉成形体の比透磁率は50〜500、飽和磁束密度は1.0〜2.0T、熱伝導率は10〜30W/m・K程度とすることが望ましい。
【0046】
圧粉成形体の磁気特性は、磁性粉末の含有量を変化させることで調整できる。もちろん、磁性粉末の材質を変更することでも圧粉成形体の磁気特性を調整できる。その他、加圧成形時の成形圧力を調整することでも、圧粉成形体の磁気特性(特に、飽和磁束密度)を変化させることができる。その場合、成形圧力を高くすることで、飽和磁束密度が高い圧粉成形体が得られる。
【0047】
(磁性粉末混合樹脂)
磁性粉末混合樹脂は、代表的には、バインダとなる樹脂に磁性粉末を混合したものである。磁性粉末には、圧粉成形体に利用する磁性粉末と同様のものを利用できる。特に、絶縁被覆を備える被覆粉末を用いることで、磁性粉末混合樹脂における渦電流損を効果的に低減することができる。一方、バインダとなる樹脂には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。その他、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂、常温硬化性樹脂、或いは低温硬化性樹脂を用いてもよい。
【0048】
磁性粉末混合樹脂でコア部を形成する場合、代表的には、射出成形、トランスファー成形、MIM(Metal Injection Molding)、注型成形、磁性粉末と粉末状の固形樹脂とを用いたプレス成形などを利用することができる。射出成形の場合は、磁性粉末と樹脂との混合材料を所定の圧力をかけて成形型に充填して成形した後、上記樹脂を硬化させることで磁性粉末混合樹脂を得ることができる。トランスファー成形やMIMの場合も、上記混合材料を成形型に充填して成形を行う。注型成形の場合は、上記混合材料を、圧力をかけることなく成形型に注入して成形・硬化させることで磁性粉末混合樹脂を得ることができる。
【0049】
磁性粉末混合樹脂における磁性粉末の平均粒径も、圧粉成形体に用いる磁性粉末と同様に、1μm以上1000μm以下、特に10μm以上500μm以下とすることが好ましい。また、磁性粉末は、粒径が異なる複数種の粉末が混合されたものでも良い。平均粒径が上記範囲を満たす磁性粉末を材料に用いると、流動性が高く、射出成形などを利用して磁性粉末混合樹脂を生産性良く製造できる。
【0050】
その他、磁性粉末混合樹脂には、磁性粉末及び樹脂に加えて、アルミナやシリカなどのセラミックスといった非磁性材料からなる粉末(フィラー)が含有されていても良い。フィラーは、放熱性の向上、磁性粉末の偏在の抑制(均一的な分散)に寄与する。また、フィラーが微粒であり、磁性粒子間に介在することで、フィラーの含有による磁性粉末の割合の低下を抑制できる。フィラーの含有量は、磁性粉末混合樹脂を100質量%とするとき、0.2質量%以上20質量%以下、更に0.3質量%以上15質量%以下、特に0.5質量%以上10質量%以下であると、上記効果を十分に得られる。
【0051】
磁性粉末混合樹脂は、磁性粉末混合樹脂における磁性粉末の含有量は、磁性粉末混合樹脂を100%とするとき、体積割合では20体積%以上70体積%以下とすることが好ましい。磁性粉末が20体積%以上であることで、比透磁率や飽和磁束密度などの磁気特性を確保し易い。磁性粉末が70体積%以下であると、樹脂との混合が行い易く、磁性粉末混合樹脂の製造性に優れる。磁性粉末混合樹脂は、磁性粉末の含有量を調整したり、磁性粉末の材質を変更することで、比透磁率といった磁気特性を変化させることができる。
【0052】
上記磁性粉末の含有量から分かるように、磁性粉末混合樹脂は、圧粉成形体に比べて磁性粉末の含有量が少なく、低比透磁率とすることができる。この磁性粉末混合樹脂の比透磁率は5〜50、飽和磁束密度は0.6〜1.5T、熱伝導率は0.25〜2.5W/m・K程度とすることが望ましい。
【0053】
[各コア部の磁気特性]
実施形態の説明の冒頭に述べたように、環状コア部30に備わる第一コア部31の比透磁率をμ
H、第二コア部32の比透磁率をμ
L、被覆コア部33の比透磁率をμ
Cとしたとき、各コア部の比透磁率がμ
H>μ
L、およびμ
H>μ
Cを満たす。具体的な数値として、μ
H=15〜500、μ
L,μ
C=5〜15、磁性コア3全体の比透磁率=10〜50とすることが好ましい。このような磁気特性の関係を持たすためには、各コア部を次のように構成すると良い。
(1)コア部31=圧粉成形体/その他コア部32,33=圧粉成形体(但し、コア部30よりも低比透磁率)
(2)コア部31=磁性粉末混合樹脂/その他コア部32,33=磁性粉末混合樹脂(但し、コア部30よりも低比透磁率)
(3)コア部31=圧粉成形体/その他コア部32,33=磁性粉末混合樹脂
【0054】
特に、上記(3)の構成とすると、例えば100A以上の大電流での使用でも磁気飽和し難いリアクトルαを作製することができる。圧粉成形体の比透磁率と磁性粉末混合樹脂の比透磁率との差が大きいため、磁性コア3全体の飽和磁束密度を大きくすることができるからである。
【0055】
≪リアクトルの製造方法≫
磁性コア3の説明の冒頭で簡単に触れたように、本発明リアクトルαは、先に円環状の磁性コア3を作製し、その磁性コア3に後から巻線を巻回してコイル2を形成することで作製できる。この場合、磁性コア3に接着剤などを介した繋ぎ目が形成されないため、磁性コア3全体の比透磁率を厳密に調整することが容易である。
【0056】
また、リアクトルαは、巻線を巻回してコイル2を作製してから、そのコイル2内に磁性コア3を挿入することで作製することもできる。当然、後者の場合、磁性コア3は複数の分割片を接着剤などで繋ぎ合わせる形態とする。この場合、コイル2内部に磁性コア3の分割片を挿入するだけで良く、組立作業性に優れる。なお、本発明において接着剤はギャップとは考えない。
【0057】
一方、リアクトルαに備わる磁性コア3は、種々の製造方法により作製することができる。代表して、第一コア部31を圧粉成形体、第二コア部32と被覆コア部33を磁性粉末混合樹脂で構成する場合を以下に説明する。
【0058】
まず、圧粉成形体からなる第一コア部31を複数用意し、それら第一コア部31を所定の間隔を空けて金型内に配置する。その際、金型の内周面と第一コア部31の外周面を離隔部材で離隔しておく。そして、金型内に磁性粉末と樹脂との混合材料を注入して樹脂を硬化させれば、第二コア部32と被覆コア部33を同時に形成することができる(つまり、μ
C=μ
Lとなる)。離隔部材は磁性粉末混合樹脂で構成することが好ましい。この方法であれば、繋ぎ目のない環状の磁性コア3でも、磁性コア3の分割片でも容易に作製することができる。
【0059】
≪本発明リアクトルの効果≫
本発明リアクトルαは、磁気飽和し難く、かつ漏れ磁束が生じ難いリアクトルである。そのため、このリアクトルαは、ケースを必要としない。リアクトルαで漏れ磁束が殆ど生じないのは、コイル2の外周面の位置に磁性コア3が配置されておらず、磁性コア3が完全な一つの閉磁路を形成しているためである。
【0060】
<実施形態2>
実施形態2では、矩形環状の磁性コア5を備えるリアクトルβを
図2に基づいて説明する。
【0061】
図2(B)に示すように、リアクトルβの磁性コア5は、環状コア部50と、その外周面全体を覆う被覆コア部53とを備える。環状コア部50は、互いに直交する四つの柱状部S1〜S4と、これら柱状部S1〜S4を繋ぐ四つの角部C1〜C4とからなる。柱状部S1〜S4は、直方体状の第二コア部52であり、隣接する柱状部同士は互いに直交している。一方、角部C1〜C4は、直角に折れ曲がるブロック状の第一コア部51であり、上面視すれば正方形の一つの角を正方形状に切り欠いた形状となっている。
【0062】
上記環状コア部50の外周面全体を被覆する被覆コア部53は、実施形態1と同様に、環状コア部50の外周面の形状に沿って形成される。この被覆コア部53も、実施形態1と同様に、第二コア部52(つまり、柱状部S1〜S4)と一体に形成されていても良いし、別個に形成されていても良い。
【0063】
一方、
図2(A)に示すように、リアクトルβのコイル4は、第二コア部52である柱状部S1〜S4の外周に配置されている。つまり、コイル4で覆われずに露出している角部C1〜C4は第一コア部51で構成されているため、この角部C1〜C4の位置でリアクトルβ外への漏れ磁束は生じ難い。
【0064】
以上説明したリアクトルβも、磁気飽和し難く、リアクトルβ外部への漏れ磁束が殆どないリアクトルであり、ケースを必要としない。
【0065】
<実施形態3>
実施形態3では、矩形環状の磁性コア7を備えるリアクトルγを
図3に基づいて説明する。このリアクトルγと実施形態2のリアクトルβとの相違点は、磁性コア7の角部C5〜C8の形状と、その形状に沿った被覆コア部73の形状のみであり、両リアクトルγ,βで使用するコイル4は共通である。以下、リアクトルγに備わる磁性コア7を中心に説明する。
【0066】
図3(B)に示すように、リアクトルγの磁性コア7は、環状コア部70と、その外周面全体を覆う被覆コア部73とを備える。環状コア部70は、互いに直交する四つの柱状部S5〜S8と、これら柱状部S5〜S8を繋ぐ四つの角部C5〜C8とからなる。柱状部S5〜S8は、実施形態2のリアクトルβの柱状部S1〜S4と同様に、直方体状の第二コア部72である。一方、角部C5〜C8は、ちょうど実施形態2に示す角部C1〜C4の外周側を角丸めした形状を備える第一コア部71である。つまり、角部C5〜C8を上面視したときの輪郭線のうち、内周側は直交する二辺からなり、外周側は四分の一円弧で構成されている。
【0067】
上記環状コア部70の外周面全体を被覆する被覆コア部73も、環状コア部70の外周面の形状に沿って形成される。もちろん、この被覆コア部73も、第二コア部72(つまり、柱状部S5〜S8)と一体に形成されていても良いし、別個に形成されていても良い。
【0068】
一方、
図3(A)に示すように、リアクトルγのコイル4は、第二コア部72である柱状部S5〜S8の外周に配置されている。つまり、コイル4で覆われずに露出している角部C5〜C8は第一コア部71で構成されているため、この角部C5〜C8の位置でリアクトルβ外への漏れ磁束は生じ難い。
【0069】
以上説明したリアクトルγも、磁気飽和し難く、リアクトルγ外部への漏れ磁束が殆どないリアクトルであり、ケースを必要としない。また、リアクトルγでは、角部C5〜C8の位置で磁性コア7の外周縁が丸みを帯びており、その分だけ磁性コア7の構成材料を少なくすることができる。即ち、リアクトルγを軽量化することができる。磁性コア7において丸みを帯びた形状とするためにカットされた部分にはもともとあまり磁束が通らない部分であるため、磁性コア7の磁気特性が著しく低下することはない。
【0070】
<変形実施形態>
磁性コアの全体形状は、上述した実施形態1〜3の形状に限定されるわけではない。例えば、磁性コアの全体形状は、対向する一対の柱状部と、その柱状部を繋ぐ一対の連結部とを備える概略レーストラック形状であっても良い。その場合、二つの柱状部の位置にコイルを配置すれば良い。なお、連結部は、平面視したときに、円弧状のものや、ドーム形状のものが利用できる。
【0071】
<実施形態4>
上述した本発明に係る実施形態1〜3のリアクトルα〜γは、コイルの通電条件が、例えば、最大電流(直流):100A〜1000A程度、平均電圧:100V〜1000V程度、使用周波数:5kHz〜100kHz程度である用途、代表的にはハイブリッド自動車や電気自動車などの車載用電力変換装置の構成部品に利用できる。
【0072】
例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車といった車両1200は、
図4に示すようにメインバッテリ1210と、メインバッテリ1210に接続される電力変換装置1100と、メインバッテリ1210からの供給電力により駆動して走行に利用されるモータ(負荷)1220とを備える。モータ1220は、代表的には、3相交流モータであり、走行時、車輪1250を駆動し、回生時、発電機として機能する。ハイブリッド自動車の場合、車両1200は、モータ1220に加えてエンジンを備える。なお、
図4では、車両1200の充電箇所としてインレットを示すが、プラグを備える形態であってもよい。
【0073】
電力変換装置1100は、メインバッテリ1210に接続されるコンバータ1110と、コンバータ1110に接続されて、直流と交流との相互変換を行うインバータ1120とを有する。この例に示すコンバータ1110は、車両1200の走行時、200V〜300V程度のメインバッテリ1210の直流電圧(入力電圧)を400V〜700V程度にまで昇圧して、インバータ1120に給電する。また、コンバータ1110は、回生時、モータ1220からインバータ1120を介して出力される直流電圧(入力電圧)をメインバッテリ1210に適合した直流電圧に降圧して、メインバッテリ1210に充電させている。インバータ1120は、車両1200の走行時、コンバータ1110で昇圧された直流を所定の交流に変換してモータ1220に給電し、回生時、モータ1220からの交流出力を直流に変換してコンバータ1110に出力している。
【0074】
コンバータ1110は、
図5に示すように、複数のスイッチング素子1111と、スイッチング素子1111の動作を制御する駆動回路1112と、リアクトルLとを備え、ON/OFFの繰り返し(スイッチング動作)により入力電圧の変換(ここでは昇降圧)を行う。スイッチング素子1111には、FET、IGBTなどのパワーデバイスが利用される。リアクトルLは、回路に流れようとする電流の変化を妨げようとするコイルの性質を利用し、スイッチング動作によって電流が増減しようとしたとき、その変化を滑らかにする機能を有する。このリアクトルLとして、上述した実施形態1〜3のリアクトルα〜γを備える。コイルにおける銅損による損失を低減することが可能な本発明に係るリアクトルα〜γを備えることで、電力変換装置1100やコンバータ1110は、リアクトルの損失が少なく、高効率である。
【0075】
なお、車両1200は、コンバータ1110の他、メインバッテリ1210に接続された給電装置用コンバータ1150や、補機類1240の電力源となるサブバッテリ1230とメインバッテリ1210とに接続され、メインバッテリ1210の高圧を低圧に変換する補機電源用コンバータ1160を備える。コンバータ1110は、代表的には、DC−DC変換を行うが、給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160は、AC−DC変換を行う。給電装置用コンバータ1150の中には、DC−DC変換を行うものもある。給電装置用コンバータ1150や補機電源用コンバータ1160のリアクトルに、上述した実施形態のリアクトルα〜γなどと同様の構成を備え、適宜、大きさや形状などを変更したリアクトルを利用することができる。また、入力電力の変換を行うコンバータであって、昇圧のみを行うコンバータや降圧のみを行うコンバータに、上述した実施形態1や変形実施形態のリアクトルなどを利用することもできる。
【0076】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更して実施することが可能である。