特許第5958806号(P5958806)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5958806超音波診断装置および血流量推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958806
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】超音波診断装置および血流量推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   A61B8/06
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-116544(P2012-116544)
(22)【出願日】2012年5月22日
(65)【公開番号】特開2013-240517(P2013-240517A)
(43)【公開日】2013年12月5日
【審査請求日】2015年5月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名 :東北大学グローバルCOEプログラム 新世紀世界の成長焦点に築くナノ医工学拠点(Tohoku University Global COE Programme Global Nano−Biomedical Engineering Education and Research Network Centre) 刊行物名 :5th East Asian Pacific Student Workshop on Nano−Biomedical Engineering 発行年月日:平成23(2011)年12月12日 集会名:5th East Asian Pacific Student Workshop on Nano−Biomedical Engineering 開 催 日:平成23(2011)年12月12日〜14日 発行者名 :一般社団法人 日本機械学会 刊行物名 :第24回バイオエンジニアリング講演会 講演論文集(CD−ROM) 発行年月日:平成24(2012)年1月6日 集 会 名:第24回バイオエンジニアリング講演会 開 催 日:平成24(2012)年1月7日〜8日 発行者名 :社団法人 日本超音波医学会 刊行物名 :超音波医学 第39号 増刊号 「日本超音波医学会 第85回学術集会プログラム・講演抄録集」 発行年月日:平成24年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】早瀬 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】船本 健一
(72)【発明者】
【氏名】門脇 弘子
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4269623(JP,B2)
【文献】 特開2009−039240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管の分岐部の血流量を推定する超音波診断装置であって、
前記分岐部の上流側の血管および前記分岐部の下流側の少なくとも一つの分岐血管に対して、超音波信号を送信し、そのエコーを受信する超音波計測手段と、
前記超音波計測手段で受信した各エコーに基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の形状情報と血流速度情報とを求める計測処理手段と、
前記計測処理手段で求めた各形状情報と各血流速度情報とに基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求めるシミュレーション手段と、
前記シミュレーション手段で得られた前記血流速度分布と前記圧力分布とを表示する表示手段とを有し、
前記シミュレーション手段は、
境界条件として前記上流側の血管に流入する血流量および血流速度分布形状と、前記下流側の分岐血管から流出する血流量および自由流出境界条件による血流速度分布形状とを与えて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求め、それらから前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度情報を求める数値計算手段と、
前記数値計算手段で求められた各血流速度情報と前記計測処理手段で取得した各血流速度情報との誤差が小さくなるよう、前記数値計算手段を1回または複数回繰り返して前記境界条件を調整する境界条件調整手段とを有し、
前記境界条件調整手段で得られた前記境界条件に基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求めるよう構成されていることを
特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記血管は分岐部で2つに分岐しており、
前記境界条件調整手段は、以下の式に基づいて、前記下流側の分岐血管から流出する血流量を調整することを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【数1】
ここで、u:分岐血管の下流端の計算格子点での血流速、ue−1:分岐血管の下流端の1つ上流側での血流速、β:緩和係数、r:分流比(q/qの目標値)、q:分岐部の上流側の血管の血流量、q:分岐血管の血流量、q:分岐部の下流側のもう一方の血管の血流量である。
【請求項3】
前記境界条件調整手段は、前記上流側の血管に対して最適化手法を適用することにより、前記上流側の血管に流入する血流量を求め、前記下流側の分岐血管に対して最適化手法を適用することにより、前記下流側の分岐血管に流入する血流量の割合を示す分流比を求め、求められた分流比に基づいて前記下流側の分岐血管から流出する血流量を求めることを特徴とする請求項1または2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
血管の分岐部の血流量を推定する血流量推定プログラムであって、
コンピュータを、
前記分岐部の上流側の血管および前記分岐部の下流側の少なくとも一つの分岐血管に対して送信した超音波信号のエコーに基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の形状情報と血流速度情報とを求める計測処理手段、
前記計測処理手段で求めた各形状情報と各血流速度情報とに基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求めるシミュレーション手段、
前記シミュレーション手段で得られた前記血流速度分布と前記圧力分布とを表示する表示手段として機能させ、
前記シミュレーション手段は、
境界条件として前記上流側の血管に流入する血流量および血流速度分布形状と、前記下流側の分岐血管から流出する血流量および自由流出境界条件による血流速度分布形状とを与えて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求め、それらから前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度情報を求める数値計算手段と、
前記数値計算手段で求められた各血流速度情報と前記計測処理手段で取得した各血流速度情報との誤差が小さくなるよう、前記数値計算手段を1回または複数回繰り返して前記境界条件を調整する境界条件調整手段とを有し、
前記境界条件調整手段で得られた前記境界条件に基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求めるよう構成されていることを
特徴とする血流量推定プログラム。
【請求項5】
前記血管は分岐部で2つに分岐しており、
前記境界条件調整手段は、以下の式に基づいて、前記下流側の分岐血管から流出する血流量を調整することを特徴とする請求項4記載の血流量推定プログラム。
【数2】
ここで、u:分岐血管の下流端の計算格子点での血流速、ue−1:分岐血管の下流端の1つ上流側での血流速、β:緩和係数、r:分流比(q/qの目標値)、q:分岐部の上流側の血管の血流量、q:分岐血管の血流量、q:分岐部の下流側のもう一方の血管の血流量である。
【請求項6】
前記境界条件調整手段は、前記上流側の血管に対して最適化手法を適用することにより、前記上流側の血管に流入する血流量を求め、前記下流側の分岐血管に対して最適化手法を適用することにより、前記下流側の分岐血管に流入する血流量の割合を示す分流比を求め、求められた分流比に基づいて前記下流側の分岐血管から流出する血流量を求めることを特徴とする請求項4または5記載の血流量推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管の分岐部の血流量を推定する超音波診断装置および血流量推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
循環器系疾患は、生体内の血液の循環を担う心臓と血管に関わる疾患であり、現代の日本人の死因の約3割を占めている。このような循環器系疾患の機序の解明とより高度な診療を確立するために、生体内の血流場を正確かつ詳細に把握することが重要であると考えられる。特に、頸動脈の分岐部は動脈硬化の好発部位であるため、分岐部の血流量の正確な計測が実現できれば、動脈硬化の進展や狭窄などの病変の存在を正確に評価することができると考えられる。そこで、従来、非侵襲で生体内の血流場の情報を得るために、頸動脈の分岐部等で、超音波診断装置による計測が行われている。
【0003】
従来の超音波診断装置による計測では、血管の形状や血流の1方向成分であるドプラ速度を得ることができるが、その情報に基づく血流量や、血管の分岐部での分流比の計測は精度が悪かった。すなわち、従来の超音波診断装置による計測では、得られるドプラ速度を血管軸方向に射影することにより血流速度を推定するが、血管軸方向に対する超音波ビームの入射角度が大きいほど換算過程において生じる誤差が大きくなるという問題があった。また、血管内の血流が複雑な速度分布を有する場合には、計測点の設定により血流量の情報が変わるため、信用性に難点があるという問題もあった。
【0004】
そこで、本発明者等は、血流量や分流比の測定精度を高めるために、超音波計測と数値シミュレーション(例えば、非特許文献1参照)とを融合した超音波計測融合シミュレーション(Ultrasonic−Measurement−Integrated simulation)を開発している(例えば、特許文献1、2、または、非特許文献2参照)。
【0005】
さらに、本発明者等は、開発した超音波計測融合シミュレーションを利用して、頸動脈血流の臨床データを用いて2次元血流解析を行い、血管病態と血行力学パラメータとの間に相関が存在することを示している(例えば、非特許文献3参照)。また、血管の分岐部に関して、単純形状の分岐管モデルの定常流に対して超音波計測融合シミュレーションを行い、下流端の抵抗値を調整パラメータとした分岐部の流量推定を行っている(例えば、非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4269623号公報
【特許文献2】特開2011−62358号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】早瀬敏幸、「有限体積法(SIMPLER法)」、油圧と空気圧、1995年、Vol.26、No.4、p.407-413
【非特許文献2】船本健一、早瀬敏幸、「医療計測と数値シミュレーションを融合した血管内血流の解析」、可視化情報、2009年7月、Vol.29、No.114、p.20-26
【非特許文献3】T. Kato, et al., “Evaluation of WallShear Stress on Carotid Artery with Ultrasonic-Measurement-IntegratedSimulation”, Proc. 7th ICFD, 2010年11月, p.542-543
【非特許文献4】船本健一他、「超音波計測融合シミュレーションによる分岐血管の流量推定」、超音波医学(日本超音波医学会第83回学術集会プログラム・講演抄録集)、2010年5月、Vol. 37、Supplement、S309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献4に記載のように、単純形状の分岐管モデルの定常流に対しては、下流端の抵抗値を調整パラメータとして超音波計測融合シミュレーションを行うことにより、分岐部の流量を正確に推定することができる。しかしながら、頸動脈等の実際の血管の分岐部では、血管が複雑な形状を有しており、また心臓の拍動の影響で血流が非定常流になっている。このため、血流の速度分布に偏りが生じ、時間と共に血流量および分流比が変化するため、非特許文献4の方法では、血流量および分流比を正確に推定するのが非常に困難であるという課題があった。
【0009】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、血管の分岐部の非定常流について、血流量および分流比を正確に推定することができる超音波診断装置および血流量推定プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る超音波診断装置は、血管の分岐部の血流量を推定する超音波診断装置であって、前記分岐部の上流側の血管および前記分岐部の下流側の少なくとも一つの分岐血管に対して、超音波信号を送信し、そのエコーを受信する超音波計測手段と、前記超音波計測手段で受信した各エコーに基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の形状情報と血流速度情報とを求める計測処理手段と、前記計測処理手段で求めた各形状情報と各血流速度情報とに基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求めるシミュレーション手段と、前記シミュレーション手段で得られた前記血流速度分布と前記圧力分布とを表示する表示手段とを有し、前記シミュレーション手段は、境界条件として前記上流側の血管に流入する血流量および血流速度分布形状と、前記下流側の分岐血管から流出する血流量および自由流出境界条件による血流速度分布形状とを与えて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求め、それらから前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度情報を求める数値計算手段と、前記数値計算手段で求められた各血流速度情報と前記計測処理手段で取得した各血流速度情報との誤差が小さくなるよう、前記数値計算手段を1回または複数回繰り返して前記境界条件を調整する境界条件調整手段とを有し、前記境界条件調整手段で得られた前記境界条件に基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求めるよう構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る血流量推定プログラムは、血管の分岐部の血流量を推定する血流量推定プログラムであって、コンピュータを、前記分岐部の上流側の血管および前記分岐部の下流側の少なくとも一つの分岐血管に対して送信した超音波信号のエコーに基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の形状情報と血流速度情報とを求める計測処理手段、前記計測処理手段で求めた各形状情報と各血流速度情報とに基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求めるシミュレーション手段、前記シミュレーション手段で得られた前記血流速度分布と前記圧力分布とを表示する表示手段として機能させ、前記シミュレーション手段は、境界条件として前記上流側の血管に流入する血流量および血流速度分布形状と、前記下流側の分岐血管から流出する血流量および自由流出境界条件による血流速度分布形状とを与えて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求め、それらから前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度情報を求める数値計算手段と、前記数値計算手段で求められた各血流速度情報と前記計測処理手段で取得した各血流速度情報との誤差が小さくなるよう、前記数値計算手段を1回または複数回繰り返して前記境界条件を調整する境界条件調整手段とを有し、前記境界条件調整手段で得られた前記境界条件に基づいて、前記上流側の血管および前記下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求めるよう構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る超音波診断装置および血流量推定プログラムは、境界条件調整手段により、数値計算手段で求められた各血流速度情報と計測処理手段で取得した各血流速度情報との誤差が小さくなるよう、境界条件である下流側の分岐血管から流出する血流量および自由流出境界条件による血流速度分布形状を調整することにより、非定常流であっても、血管の分岐部の血流量および分流比を正確に推定することができる。このため、分岐部を有する頸動脈等の血管の動脈硬化や狭窄、その下流側に位置する血管の狭窄や出血といった循環器系疾患の診断において、疾患の重症度に対する高度な診断が可能となる。
【0013】
本発明に係る超音波診断装置および血流量推定プログラムは、分岐部の上流側の血管および分岐部の下流側の少なくとも一つの分岐血管に対して、超音波信号のエコーを計測し、そのデータに基づいて計測処理手段により血管形状を求め、数値計算手段により、血管形状に対して計算格子を生成して、超音波計測融合シミュレーションを行うよう構成されていることが好ましい。このとき、血流速度情報として、エコー計測で得られるドプラ速度を使用し、超音波計測融合シミュレーションとして、特許文献1および非特許文献2に記載の方法に従って行われることが好ましい。すなわち、(1)式の非圧縮性ナビエ・ストークス方程式と、(2)式の圧力方程式とに基づいて、SIMPLER法などの数値シミュレーション手法を利用して流れ場の速度ベクトルや圧力を求める。また、このとき、ドプラ速度の誤差に比例する(3)式のフィードバック力f(ベクトル)を与えて計算を行う。
【0014】
【数3】
ここで、ρ:密度、u:速度ベクトル、t:時間、μ:粘度、p:圧力、K:フィードバックゲイン、V:計算によるドプラ速度、V:計測によるドプラ速度、U:代表速度、L:代表長さ、b:超音波ビーム方向の単位ベクトル、である。
【0015】
本発明に係る超音波診断装置および血流量推定プログラムで、表示手段は、シミュレーション手段で求められた各時刻における血流速度分布や圧力分布だけでなく、それらに基づいて求められる各血管に流れる血流量や分流比、超音波信号のエコー計測結果などを表示可能であることが好ましい。また、表示手段は、それらの計測結果等を数値としてだけでなく、より理解しやすいようにグラフまたは画像化して表示可能であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る超音波診断装置および血流量推定プログラムで、前記血管は分岐部で2つに分岐しており、前記境界条件調整手段は、以下の式に基づいて、前記下流側の分岐血管から流出する血流量を調整することが好ましい。特に、下流側の分岐血管から流出する血流の速度分布形状を、自由流出境界条件を適用して下流端境界の直前の速度分布形状に等しいとして決定したうえで、血流量を調整することが好ましい。この場合、血管の分岐部の非定常流について、血流量および分流比をより正確に推定することができる。
【0017】
【数4】
ここで、u:分岐血管の下流端の計算格子点での血流速、ue−1:分岐血管の下流端の1つ上流側での血流速、β:緩和係数、r:分流比(q/qの目標値)、q:分岐部の上流側の血管の血流量、q:分岐血管の血流量、q:分岐部の下流側のもう一方の血管の血流量である。
【0018】
また、本発明に係る超音波診断装置および血流量推定プログラムで、前記境界条件調整手段は、前記上流側の血管に対して最適化手法を適用することにより、前記上流側の血管に流入する血流量を求め、前記下流側の分岐血管に対して最適化手法を適用することにより、前記下流側の分岐血管に流入する血流量の割合を示す分流比を求め、求められた分流比に基づいて前記下流側の分岐血管から流出する血流量を求めることが好ましい。
【0019】
この場合、最適化手法は、計測値と計算値との誤差を最小化するよう、上流側の血管に流入する血流量や、下流側の分岐血管に流入する血流量の割合を示す分流比を求められるものであれば、黄金分割法や不動点反復法など、いかなる手法であってもよい。特に、数値計算手段で求められた各ドプラ速度と計測処理手段で取得した各ドプラ速度との誤差が小さくなるよう、上流側の血管に対しては、最適化手法として(5)式の黄金分割法により血流量qを求め、下流側の分岐血管に対しては、最適化手法として(6)式の不動点反復法により分流比rを求めることが好ましい。
【0020】
【数5】
ここで、N:上流側の血管における計算格子点の数、N:下流側の分岐血管における計算格子点の数、α:緩和係数、である。
【0021】
なお、本発明に係る超音波診断装置および血流量推定プログラムで、血管の分岐部は、2つに限らず3つ以上に分岐していてもよい。3つ以上に分岐している場合、2つに分岐する分岐部が連続的に連なっているものとして、それぞれの分岐部に対して、本発明に係る超音波診断装置および血流量推定プログラムを適用してもよい。本発明に係る超音波診断装置または血流量推定プログラムを実行する方法として、本発明に係る超音波診断方法または血流量推定方法が構成されていてもよい。また、本発明に係る血流量推定プログラムは、CD−ROMやDVD−ROM、ハードディスクなどのコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、血管の分岐部の非定常流について、血流量および分流比を正確に推定することができる超音波診断装置および血流量推定プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態の超音波診断装置を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態の血流量推定プログラムのフローチャートである。
図3】本発明の実施の形態の超音波診断装置および血流量推定プログラムによる計算結果を示す血流速度の分布図である。
図4】本発明の実施の形態の超音波診断装置および血流量推定プログラムによる計算結果の(a)血管の上流端の平均流速の時間変化を示すグラフ、(b)分流比の値の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図4は、本発明の実施の形態の超音波診断装置および血流量推定プログラムを示している。
図1に示すように、超音波診断装置10は、2つの分岐血管に分岐する血管の分岐部の血流量を推定する超音波診断装置10であって、超音波計測手段11と計測処理手段12とシミュレーション手段13と表示手段14とを有している。
【0025】
超音波計測手段11は、被測定者の皮膚に直接当てるプローブ11aを有し、プローブ11aから超音波信号を送信し、そのエコーをプローブ11aで受信するよう構成されている。超音波計測手段11は、分岐部の上流側の血管および分岐部の下流側の一つの分岐血管に対して、超音波エコーを計測可能になっている。
【0026】
計測処理手段12およびシミュレーション手段13は、コンピュータから成っている。計測処理手段12は、超音波計測手段11に接続され、超音波計測手段11で計測したエコーを受信するようになっている。計測処理手段12は、そのエコーに基づいて、形状情報として血管の形状を求め、血流速度情報としてドプラ速度を求めるよう構成されている。これにより、計測処理手段12は、超音波計測手段11により計測を行った分岐部の上流側の血管および分岐部の下流側の一つの分岐血管に対してそれぞれ、血管の形状とドプラ速度とを求めるようになっている。
【0027】
シミュレーション手段13は、計測処理手段12で求めた血管の形状とドプラ速度とに基づいて、それぞれ上流側の血管および下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求めるよう構成されている。シミュレーション手段13は、計測処理手段12で求めた血管の形状に対して計算格子を生成して、超音波計測融合シミュレーションを行うようになっている。シミュレーション手段13は、数値計算手段15と境界条件調整手段16とを有している。
【0028】
数値計算手段15は、境界条件として上流側の血管に流入する血流量qおよび血流速度分布形状と、下流側の分岐血管から流出する血流量および自由流出境界条件による血流速度分布形状とを与え、(1)〜(3)式を利用してSIMPLER法により、上流側の血管および下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とをそれぞれ求めるようになっている。さらに、数値計算手段15は、それらの計算結果から、上流側の血管および下流側の分岐血管のドプラ速度を求めるようになっている。
【0029】
境界条件調整手段16は、数値計算手段15で求められた各ドプラ速度と、計測処理手段12で取得した各ドプラ速度との誤差が小さくなるよう、境界条件を調整するようになっている。このとき、上流側の血管に対して(5)式の黄金分割法を適用し、境界条件である上流側の血管に流入する血流量qを求めるようになっている。また、下流側の分岐血管に対して(6)式の不動点反復法を適用し、下流側の分岐血管に流入する血流量の割合を示す分流比rを求め、求められた分流比rに基づいて(4)式により、境界条件である下流側の分岐血管下流端の計算格子点での血流速uを求めるようになっている。このとき、下流側の分岐血管から流出する血流速uの分布形状を、自由流出境界条件を適用して下流端境界の直前の速度分布形状に等しいとして決定したうえで、血流速uの大きさを分流比rに応じて求めるようになっている。このようにして、境界条件調整手段16は、境界条件を調整しながら、血流量qおよび分流比rが所定の範囲内に収束するまで、数値計算手段15を1回または複数回繰り返すよう構成されている。
【0030】
さらに、シミュレーション手段13は、境界条件調整手段16で得られた境界条件に基づいて、最終的な上流側の血管および下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求めるよう構成されている。
【0031】
表示手段14は、モニタおよびプリンタから成り、シミュレーション手段13で求められた各時刻における血流速度分布や圧力分布を、数値やグラフ、画像で表示可能になっている。また、表示手段14は、血流速度分布や圧力分布に基づいて求められる各血管に流れる血流量や分流比、計測処理手段12で得られた超音波信号のエコー計測結果なども、数値やグラフ、画像で表示可能になっている。
【0032】
本発明の実施の形態の血流量推定プログラムは、超音波診断装置10のコンピュータに内蔵されている。本発明の実施の形態の血流量推定プログラムは、図2に示すフローに従って、血管の分岐部の血流量を推定するようになっている。すなわち、まず、超音波計測手段11で計測された、分岐部の上流側の血管および分岐部の下流側の一つの分岐血管からの超音波信号のエコーに基づいて、計測処理手段12により、上流側の血管および下流側の分岐血管の血管形状とドプラ速度とを求める。次に、計測処理手段12で求めた血管の形状に対して計算格子を生成して、超音波計測融合シミュレーションを行う。
【0033】
超音波計測融合シミュレーションでは、まず、境界条件として上流側の血管に流入する血流量qおよび血流速度分布形状を与え、計測処理手段12で求めた上流側の血管の各血管形状と各ドプラ速度とに基づいて、数値計算手段15により、上流側の血管の血流速度分布と圧力分布とを求める(ステップ21)。このとき、求められる血流速度および圧力が、所定の範囲に収束するよう、SIMPLER法により繰り返し計算を行う(ステップ22)。さらに、求められた血流速度分布から、上流側の血管のドプラ速度を求める。
【0034】
求められたそのドプラ速度と計測処理手段12で取得したドプラ速度との誤差が小さくなるよう、境界条件調整手段16により、黄金分割法を適用して上流側の血管に流入する血流量qを更新し、境界条件を調整する(ステップ23)。このようにして境界条件を調整しながら、血流量qが所定の範囲内に収束するまで、数値計算手段15を1回または複数回繰り返す(ステップ24)。
【0035】
次に、境界条件として下流側の分岐血管から流出する血流量および自由流出境界条件による血流速度分布形状を与え、計測処理手段12で求めた下流側の分岐血管の各血管形状と各ドプラ速度とに基づいて、数値計算手段15により、下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求める(ステップ25)。このとき、求められる血流速度および圧力が、所定の範囲に収束するよう、SIMPLER法により繰り返し計算を行う(ステップ26)。さらに、求められた血流速度分布から、下流側の分岐血管のドプラ速度を求める。
【0036】
求められたそのドプラ速度と計測処理手段12で取得したドプラ速度との誤差が小さくなるよう、境界条件調整手段16により、不動点反復法を適用して下流側の分岐血管に流入する血流量の割合を示す分流比rを求め、求められた分流比rに基づいて(4)式により、境界条件である下流側の分岐血管下流端の計算格子点での血流速uを更新し、境界条件を調整する(ステップ27)。このようにして境界条件を調整しながら、分流比rが所定の範囲内に収束するまで、数値計算手段15を1回または複数回繰り返す(ステップ28)。最終的に求められた境界条件に基づいて、最終的な上流側の血管および下流側の分岐血管の血流速度分布と圧力分布とを求め、表示手段14によりその結果を表示する。
【0037】
本発明の実施の形態の超音波診断装置10および血流量推定プログラムは、境界条件調整手段16により、数値計算手段15で求められた各血流速度情報と計測処理手段12で取得した各血流速度情報との誤差が小さくなるよう、境界条件である下流側の分岐血管から流出する血流速度を調整することにより、非定常流であっても、血管の分岐部の血流量および分流比を正確に推定することができる。このため、分岐部を有する頸動脈等の血管の動脈硬化や狭窄、その下流側に位置する血管の狭窄や出血といった循環器系疾患の診断において、疾患の重症度に対する高度な診断が可能となる。
【0038】
なお、血管の分岐部が3つ以上に分岐している場合、2つに分岐する分岐部が連続的に連なっているものとして、それぞれの分岐部に対して、本発明の実施の形態の超音波診断装置10および血流量推定プログラムを適用することができる。本発明の実施の形態の超音波診断装置10または血流量推定プログラムを実行する方法として、本発明の実施の形態の超音波診断方法または血流量推定方法が構成されていてもよい。また、本発明の実施の形態の血流量推定プログラムは、CD−ROMやDVD−ROM、ハードディスクなどのコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。
【実施例1】
【0039】
本発明の実施の形態の超音波診断装置10および血流量推定プログラムの有効性を示すため、数値実験を行った。まず、基準解として、表1に示す条件で血管の分岐部の血流モデルを計算した。表1に示すように、基準解では、上流側の血管の上流端の速度分布形状を放物分布とし、時間的には正弦的な振動成分と定常速度成分との和で表されるものと仮定した。また、分流比を0.5として、数値計算を行った。この基準解を実際の血流と仮定し、本発明の実施の形態の超音波診断装置10および血流量推定プログラムにより、血管の分岐部の血流量および分流比の推定を行った。
【0040】
【表1】
【0041】
本発明の実施の形態の超音波診断装置10および血流量推定プログラムでは、表1に示すように、上流側の血管の上流端の速度分布形状を一様流と仮定し、血流量および分流比を未知として計算を行った。その計算領域および計算結果を、図3に示す。図3中のAの領域が上流側の血管に設定した血流量を推定するために計測結果と計算結果とを比較する領域、Bの領域が下流側の分岐血管に設定した分流比を推定するために計測結果と計算結果とを比較する領域である。また、このときの上流側の血管の上流端の平均流速uaveおよび分流比rの値の時間変化を、図4に示す。
【0042】
図4に示すように、超音波計測融合シミュレーションにおけるフィードバックゲインをK=200としたときに、平均流速および分流比ともに基準解に収束していることが確認された。このことから、本発明の実施の形態の超音波診断装置10および血流量推定プログラムは、(3)式のフィードバックを組み入れることにより、非定常流であっても、血管の分岐部の血流量および分流比を正確に推定することができるといえる。
【符号の説明】
【0043】
10 超音波診断装置
11 超音波計測手段
11a プローブ
12 計測処理手段
13 シミュレーション手段
14 表示手段
15 数値計算手段
16 境界条件調整手段
図1
図2
図4
図3