【実施例】
【0037】
<実施例>
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明がかかる実施例に限定されるものではない。なお、本発明の典型例の一つである光触媒フィルターを得るための研究開発過程の概要を述べることで、実施例の説明とする。
<1.実験方法>
1.1 光触媒フィルターの作製方法
酸化チタンによるシリカ繊維フィルターの修飾(すなわち、光触媒フィルターの作製)は以下の方法により行った。
1.1.1 CVD法による光触媒フィルターの合成方法
図1は、本実施例の光触媒フィルター作製装置の構成概要を示す説明図である。ガラス製の反応容器を恒温槽内中に設置し、上部にN
2キャリアガス予熱部およびオルトチタン酸テトラエチル(以下、「TEOT」)を加熱気化するための気化室を備えた構成とした。
【0038】
ADVANTEC(登録商標)製シリカ繊維フィルター(QR−100)を75mm×75mmに裁断して基材に用いた。シリカ繊維は、水分や表面の汚れを取り除くために、500℃で2h焼成して使用した。このシリカ繊維を1,3−ブタンジオール(以下、「13BD」)に浸して13BDを吸収させた後、ガラス製反応容器内に設置した。さらに、ガラス製反応容器を恒温槽内に設置し、気化室との間をテフロン(登録商標)チューブで接続した。
【0039】
恒温槽および気化室を180℃に加熱し、窒素ガスを50ml/minの流速で流通させた。その後、気化室に0.3mlのTEOTをシリンジで注入した。TEOTは気化室内で気化し窒素ガスとともに恒温槽内の反応槽へ導かれ、シリカ繊維フィルター表面の13BDと接触し、酸化チタン前駆体であるチタンジオレートを生じる。反応後、ガラス製反応容器内からシリカ繊維フィルターを取り出し、空気中で150℃で乾燥後、空気中で500℃2h熱処理することによって、酸化チタン修飾シリカ繊維フィルターを得た。
【0040】
1.1.2 ゾルゲル法による酸化チタン粉末の合成(SGP法)
13BD10mlに対してTEOT1mlを加え、30分間室温で撹拌した。ついで、得られた酸化チタン前駆体を含む溶液を150℃で24h乾燥した後、500℃で2h焼成して粉末試料を得た。このようにして得られた粉末試料(以下、本法を「SGP法」)0.1gを、75mm×75mmのシリカ繊維フィルター(QR−100)上に分散させて光触媒活性の評価に供した。
【0041】
1.1.3 ゾル−ゲル法による光触媒フィルター(SGF法)の作製
13BD10mlに対してTEOT1mlを加え、30分間室温で撹拌した。この溶液5gを75mm×75mmのシリカ繊維フィルターに吸収させた後、150℃で2h乾燥し、500℃で2h焼成した(以下、本法を「SGF法」)。
【0042】
1.2 酸化チタンの評価
1.2.1 光触媒活性の評価
1.2.1.1 アセトアルデヒド分解による光触媒活性の評価
図2は、本実施例の光触媒活性測定装置の構成概要を示す説明図である。図示するように、20dm
3のガラス製デシケーター内に75mm×75mmの酸化チタン修飾シリカ繊維フィルターを設置した。評価の手順は、デシケーター内に試料を設置後、紫外線(東芝製ブラックライト、FL4BLB、ピーク波長352nm、紫外線強度4mW/cm
2)を30分間照射した。ついで、空気でデシケーター内を置換した後、温度25℃、湿度13g/m
3に調整した。デシケーターにアセトアルデヒドを20ppm注入して、吸着平衡に達した後、紫外線を照射して濃度の経時変化をINNOVA Air Tech Instruments社製光音響マルチガスモニター1314型で分析した。アセトアルデヒドの分解は一次反応であることから、濃度変化より速度定数を算出した。
【0043】
1.2.1.2 アセトアルデヒド連続分解試験
1.2.1.1に述べた光触媒活性測定装置のデシケーター内に、直径4.5cmの濾過フォルダを設置して光触媒フィルターを固定した。濾過フォルダにエアーポンプを取り付け、通気速度5cm/sでデシケーター内の空気を循環させた。アセトアルデヒド分解による光触媒活性評価の手順は1.2.1.1と同じであるが、濃度が1ppm以下になったところで再度アセトアルデヒドを加え、繰り返し分解反応を行った。
【0044】
1.2.2 粉末X線回折(XRD)測定
酸化チタンおよびその前駆体の結晶構造を決定するために、X線回折装置として、リガク製X線回折装置ULTIMAIII型を用いた。X線源には、CuKα線を使用し、20kV、40mAの管電圧で測定した。
【0045】
1.2.3 走査型電子顕微鏡(SEM)による観察
日立製作所製走査型電子顕微鏡S−4800型を用いて、酸化チタンの表面形状を観察した。
【0046】
1.2.4 圧力損失評価方法
酸化チタン修飾シリカ繊維フィルターを裁断して、円形のフィルターとした。これをステンレス製のろ過フォルダ(面積15.9cm
2)に固定し、真空ポンプを用いて通気速度5cm/sで吸引し、デジタルマノメーターを用いて圧力損失を求めた。
【0047】
<2. 結果と考察>
2.1 光触媒フィルターの表面構造
図3は、CVD法によって合成した光触媒フィルターのSEM像の写真である。75mm×75mmのシリカ繊維フィルターに酸化チタンとして2.0mg担持した試料では、シリカ繊維表面において、粒子析出と球状粒子の付着を確認することができた。これらの粒子について、エネルギー分散型X線分析(EDX)によって元素分析を行った。
【0048】
図4aは、CVD法で合成した光触媒フィルターのSEM像の写真である。また、
図4bcはCVD法で合成した光触媒フィルターのEDXスペクトルである((b)シリカ繊維表面のEDXスペクトル、(c)球状粒子のEDXスペクトル)。元素分析の結果、シリカ繊維表面に付着している球状粒子からは(c)に示すとおり、Tiが明確に検出された。一方、シリカ繊維表面の平滑な部分について元素分析を行ったところ、(b)に示すとおり、微量ながらTiの存在が確認できた。このことから、シリカ繊維表面に微量の酸化チタンが生成(析出)していることが確認できた。なお球状粒子は、シリカ繊維フィルターに含浸した13BDの一部が加熱によって気化し、シリカ繊維フィルターの上方でTEOTと接触して球状粒子を生成し、これがフィルター上に堆積したものと考えられる。
【0049】
2.2 光触媒フィルターの結晶構造
図5は、光触媒フィルターのXRDパターンを示すグラフであり、TEOTの気化室への注入量を変えて酸化チタン担持量を変化させた光触媒フィルターのXRDパターンである。CVD1、2、3はそれぞれ、酸化チタン担持量が3.9mg、6.2mg、26.4mgである。いずれの試料においても、2θ=25.4°付近にアナターゼ型酸化チタンのピークが観察された。なお、2θ=22°付近のブロードなピークは、シリカ繊維に由来するハローパターンである。一方、比較に用いたDegussa製P−25は、アナターゼ型とルチル型が混合した状態であった。以上の結果から、CVD法でシリカ繊維表面に形成した酸化チタンは、アナターゼ型酸化チタンであることが確認できた。
【0050】
図6abは、酸化チタン前駆体のXRDパターンを示すグラフであり((a)150℃乾燥、(b)500℃焼成試料)、CVD法、SGP法ならびにSGF法で調製した試料について、それぞれ150℃で乾燥した試料と500℃焼成後の試料についてXRD測定を行った結果を示したものである。図中、(a)に示した150℃乾燥の試料では、いずれの調製方法でも、TEOTと13BDから生成するチタンジオレートに特有な2θ=10.1°と8.4°が認められた。また、これらの試料を500℃焼成した試料(b)ではいずれも、アナターゼ型酸化チタンの生成が確認できた。以上の結果から、CVD法で調製した場合にもゾル−ゲル法と同様に、チタンジオレートの生成と熱分解によってアナターゼ型酸化チタンが生成することが明らかとなった。
【0051】
2.3 光触媒活性評価
図7は、CVD法によって調製した光触媒のアセトアルデヒド分解性能を示すグラフである。すなわち、CVD法によって調製した光触媒フィルターの紫外線照射下におけるアセトアルデヒド分解試験の結果を示したものであり、試料は酸化チタン6.2mg担持の光触媒フィルターである。20ppmのアセトアルデヒドを20dm
3のデシケーターに注入し、紫外線ランプを点灯して、濃度変化および二酸化炭素濃度の測定を行った。その結果、アセトアルデヒドは紫外線照射開始直後から急激に濃度低下しており、およそ30分で1ppm以下まで低下した。また、アセトアルデヒドの分解によって二酸化炭素が約40ppm増加していることから、アセトアルデヒドの酸化反応が進行していることが確認できた。アセトアルデヒドの分解は一次反応で進行することから、触媒活性の指標をアセトアルデヒド分解の速度定数で示した。
【0052】
2.4 CVD法による光触媒フィルターの活性発現条件の最適化
2.4.1 気化室へのTEOT注入量と光触媒活性
気化室に注入するTEOTの量を変化させてシリカ繊維(75mm×75mm)上の酸化チタン担持量を変化させた。このとき、気化室の温度は180℃、恒温槽温度180℃、窒素ガス流量は50ml/minとして、調製した。表1に、TEOT量を変化させた際の担持量とアセトアルデヒドの分解速度定数を示した。その結果、TEOT量0.7mlまでは、TEOT量に比例してシリカ繊維上に担持される酸化チタン量が増加する結果となった。また、アセトアルデヒドの分解速度定数は、酸化チタン担持量2mg程度のときに最大となり、それ以上の担持量では、担持量の増加による光触媒活性の増加(速度定数の増大)は認められなかった。
【0053】
【表1】
【0054】
2.4.2 光触媒活性に及ぼす窒素ガス流量の影響
プレヒーターを通じて反応器に注入する窒素ガスの量を変化させて、光触媒活性の変化を検討した。このとき、TEOT注入量は0.3ml、気化室の温度は180℃、恒温槽温度180℃、窒素ガス流量は50〜200ml/minで調製した。表2に示すように、窒素ガス流速の上昇とともに酸化チタン担持量およびアセトアルデヒド分解速度定数は低下しており、TEOTを13BDと接触させるためには、キャリアーガスである窒素の流速は低い方が良いことが明らかとなった。
【0055】
【表2】
【0056】
2.4.3 光触媒活性に及ぼす恒温槽温度の影響
TEOT注入量0.3ml、気化室の温度180℃、窒素ガス流量は50ml/minで、恒温槽の温度を130〜180℃で変化させて光触媒活性の変化を測定した。表3にその結果を示す。気化室で気化したTEOTは、窒素キャリアーガスとともに恒温槽中の反応容器へと導かれる。したがって、恒温槽の温度は反応容器の温度とほぼ等しい。恒温槽温度が150℃のとき、酸化チタンの担持量は3.4mgと最大となった。しかし光触媒活性は、180℃で調製した試料が最も高活性であった。
【0057】
【表3】
【0058】
2.4.4 光触媒活性に及ぼす気化室温度の影響
TEOT注入量は0.3ml、窒素ガス流量は50ml/minで、恒温槽温度180℃の条件で気化室温度を変化させて、光触媒活性の変化を測定した。表4に示すように、気化室温度が150℃以下では、シリカ繊維表面への酸化チタンの担持はほとんど認められず、光触媒活性も非常に低い結果となった。一方、150℃を超えた温度では、180℃が最も高い光触媒活性を示した。
【0059】
【表4】
【0060】
2.4.5 最適条件における光触媒の調製
2.4.1から2.4.4の結果より、
図1のような光触媒フィルター作製装置を用いた場合、気化室温度180℃、恒温槽温度180℃、窒素ガス流量100ml/minが、最も高活性な光触媒を調製する条件であることが明らかとなった。そこで、かかる条件を用いて、TEOT注入量を変化させ、光触媒活性と担持量の関係を検討した。
【0061】
図8は、TEOT注入量と酸化チタン担持量の関係を示すグラフである。図示するように、およそTEOT量に比例して酸化チタン担持量が増加することが確認できた。
【0062】
図9は、酸化チタン担持量と光触媒活性(アセトアルデヒド分解速度定数)の関係を示すグラフである。図示するように、担持量6mg付近で最高の活性を示しており、以降は担持量が増加しても光触媒活性の増大は認められなかった。
【0063】
図10は、光触媒フィルターのシリカ繊維上の球状酸化チタン粒子のSEM像の写真であり、酸化チタン担持量は20mgである。図示するように、酸化チタン担持量が増加した場合、シリカ繊維の表面には球状粒子が多数確認された。これは、TEOTと13BDが、シリカ繊維表面ではなくシリカ繊維上方の空間で接触することによって球状粒子が生成し、シリカ繊維上に堆積したためと考えられる。
【0064】
したがって、担持量が6mg以下と非常に少ない場合には、シリカ繊維表面におけるTEOTと13BDの直接反応によって、
図6abのXRD図にみられるようなジオレートを経由して、極めて高活性な酸化チタンが生成しているものと考えられる。また酸化チタン担持量が多い場合は、上述したように気相で反応した球状粒子が多数シリカ繊維上に堆積していると考えられる。球状粒子は、シリカ繊維上で直接生成した酸化チタンに比べて光触媒活性がやや低く、その結果、酸化チタン担持量が増大しているにも関わらず光触媒活性はさほど高くならなかったものと考えられる。
【0065】
図11は、さまざまな条件で調製した酸化チタンの光触媒活性を示すグラフである。CVD法により酸化チタンを担持した光触媒フィルター、SGF法により酸化チタンを担持した光触媒フィルター、SGP法による酸化チタン粉末を分散させたフィルター、およびDegussa(登録商標)製P−25を分散させたフィルターを試料とし、これらについて、酸化チタン担持量とアセトアルデヒド分解速度定数で示した光触媒活性の関係を示したものである。なお、フィルターには56.3cm
2のシリカ繊維フィルターを用いた。
【0066】
CVD法では、10mg以下という極めて少量の酸化チタンで分解速度定数0.1min
−1付近の試料が得られており、CVD法による酸化チタンは極めて少量で高い光触媒活性を示すことが明らかとなった。また、CVD法と同様の原料を溶液中で混合してシリカ繊維フィルターに塗布するという手順を用いるSGF法も、CVD法と同様に非常に高い光触媒活性を示した。しかしながらSGF法では、10mg以下低担持量の場合、CVD法に比べると低い光触媒活性であった。これは、SGF法の原料溶液においては13BD中にチタンジオレートの結晶が分散した状態となっており、そのために、特に低担持量の場合にはシリカ繊維表面上での担持の均一性ないしは粒子の担持密度が低くなったことが考えられる。したがってSGF法を用いる場合は、CVD法以上の担持量とすることが望ましいと考えられた。
【0067】
一方、粉末試料をシリカ繊維フィルター上に分散させた試料では、P−25、SGP法ともに、酸化チタン担持量に比例して光触媒活性の向上が認められた。しかし、CVD法の試料のように分解速度定数が0.1min
−1に達するには100mg程度の大量の酸化チタンの担持が必要である。これらと比較しても、CVD法で得られる酸化チタンは、極めて少量で高い光触媒活性を発揮することが確認された。
【0068】
2.4.6 光触媒フィルターの反射UV−Vis.スペクトル
CVD法で調製した酸化チタン担持量3.9mgの光触媒フィルターと、P−25について、反射UV−Vis.測定を行った。
図12は、それぞれの反射UV−Vis.スペクトルを示すグラフである。図示するように、CVD法の試料はわずかながら吸収端がP−25よりもブルーシフトしていた。しかし、75mm×75mmのフィルターに対して3.9mgという微量の担持にも関わらず、明確な紫外線吸収を示した。したがって、CVD法で調製した酸化チタンは紫外線照射によって十分励起され、光触媒機能性を発現可能なものであることが、確認できた。
【0069】
2.5 光触媒フィルターの圧力損失
表5に、さまざまな方法で調製した光触媒を担持したフィルターについて圧力損失を測定した結果を示した。ここで圧力損失は、酸化チタン担体であるシリカ繊維フィルターを基準に、酸化チタン担持による圧力損失の増加分をΔPとして表した。CVD法で調製した光触媒フィルターでは、酸化チタン担持量が少ないことから圧力損失の増加はわずかであった。また、大量担持が容易なSGF法においても、低担持量の場合には、ΔPは小さな値となった。一方、粉末試料を担持したP−25やSGP法では、酸化チタン担持による圧力損失の増加が顕著であった。以上の結果より、CVD法で調製した光触媒フィルターは極めて少量で高い光触媒活性を示すばかりでなく、酸化チタン担持によって圧力損失の上昇がほとんど起こらないことが明らかとなった。
【0070】
【表5】
【0071】
2.6 光触媒フィルターの連続反応
CVD法による光触媒フィルターは、低圧力損失、高光触媒活性を示すことが明らかになった。そこで、酸化チタン担持量2mgの試料を用いてアセトアルデヒドの連続分解試験を行った。測定は、1.2.1.1で示した装置内に直径45mmのフォルダを設置して光触媒フィルターを固定した。フォルダにエアーポンプを取り付け、通気速度5cm/sでデシケーター内の空気を循環流通させた。
【0072】
図13は、光触媒フィルターを用いたアセトアルデヒドの連続分解試験の結果を示すグラフであり、20ppmのアセトアルデヒドを分解する実験を4回繰り返した結果を示す。本分解試験において用いた光触媒フィルターの面積は15.9cm
2であることから、通常使用している光触媒フィルター(56.3cm
2)に比べておよそ1/4の紫外線照射面積である。そのため、アセトアルデヒド分解には長時間を要するものの、1ppm以下の低濃度までアセトアルデヒドを分解する能力をもつ。また、繰り返しの分解試験で、1回目の反応がやや高い分解速度を示したが、2回目以降もほぼ同じ分解速度を維持しており、被処理ガスをフィルターを通じて分解させる場合であっても十分に高い光触媒活性を維持できることが確認できた。
【0073】
2.7 光触媒活性に及ぼす溶媒の影響
表6に、光触媒フィルターの調製の際に使用した溶媒が及ぼす光触媒活性への影響について検討した結果を示す。光触媒の調製は、気化室温度180℃、恒温槽温度180℃、窒素ガス流量100ml/minで、それぞれの溶媒を75mm×75mmのシリカ繊維フィルターに含浸させ、TEOT注入量0.4mlとして調製した。なお、光触媒活性はアセトアルデヒド分解速度定数で示した。
【0074】
【表6】
【0075】
光触媒活性評価の結果、ジオール類の中でも、1,2−および1,3−位にOH基を有するジオールが高い活性を示した。特に1,3−プロパンジオールや1,3−ブタンジオールは高い光触媒活性を示した。光触媒活性の高いジオールとTEOTから生成するジオレートはいずれも、XRD測定において2θ=10°付近の低角度側に回折パターンを有しており、安定なチタンジオレートが生成している。これが500℃焼成の過程で急激に分解し、通常とは異なる化学状態の酸化チタンが生成したものと考えられた。
【0076】
一方、1,4−、あるいは1,5−位にOH基を有するジオールでは、OH基間の距離が大き過ぎて、TEOTのTiと安定な配位結合を形成することができないものと考えられた。また、アルコールにおいても、Tiに対して単座配位であることからジオレートの結合安定性が低く、ほとんど活性を示さなかった。水はTEOTの加水分解を進めるが、酸化チタンの担持と光触媒活性発現には寄与しないと認められた。また、溶媒を用いない系では、ほとんど活性を示さない酸化チタンが生成した。このように、光触媒フィルターの調製においてTEOTと接触させる溶媒の種類の選択は極めて重要であり、1,3−ブタンジオールや1,3−プロパンジオールが最も適していることが明らかとなった。
【0077】
2.8 酸化チタン担体の影響
本実施例において、CVD法による酸化チタンの合成には通常、ADVANTEC(登録商標)製QR−100シリカ繊維フィルターを基材として使用しているが、ここでは、さまざまな基材に対してCVD法により酸化チタンの担持を行い、光触媒活性の評価を行った。試料の調製条件は、気化室温度180℃、恒温槽温度180℃、窒素ガス流量100ml/minで、TEOTの量を変化させて評価を行った。基材には、三菱樹脂株式会社アルミナ繊維MAFTEC(登録商標)(厚さ6mm)、アルミナクロス(東京硝子器械 型式AP1111 厚さ0.68mm)、セラミックスペーパー(東京硝子器械 厚さ0.25mm)、およびADVANTEC(登録商標)製GA55ガラス濾紙を使用した。これらの基材を用いてCVD法で酸化チタンを担持した時の光触媒活性を表7に示す。いずれの基材も光触媒フィルターに使用可能であることが確認された。ホウケイ酸ガラス製のガラス濾紙は、熱処理によってナトリウム等が酸化チタン層にマイグレーションするため、光触媒活性が低下することが知られている。しかし、本発明のCVD法によれば、シリカ繊維フィルターを用いた場合と同様に高い光触媒活性を示した。また、その他の担体ではシリカ繊維フィルターやガラス濾紙を基材に用いた場合に比べて低い光触媒活性であった。
【0078】
【表7】
【0079】
<本発明における酸化物の担持量について>
上述のとおり本発明の酸化物担持体製造方法において、生成される酸化物の量は、担体の圧力損失増大がほとんど発生しない程度のごく微量としつつ、かつ十分に高い光触媒活性を得ることができる。
【0080】
上記実施例で用いたシリカ繊維フィルターのサイズは75mm×75mm×0.38mm(縦×横×厚さ)であり、これに酸化物(酸化チタン)が担持された状態の酸化物担持体全体の重量は、平均0.48g程度であった。
図9にも示したとおり本実施例では、光触媒活性は、酸化物担持量およそ10mgをピークとして飽和している。つまり、本発明における最も望ましい担持量は10mg程度であり、これは重量比率では、酸化物担持体において約2wt%に相当する(根拠:0.01/0.48×100=2.08wt%)。また体積比率では、約5×10
−3g/cm
3の担持量に相当する(根拠:0.01/(7.5×7.5×0.038)=4.68×10
−3g/cm
3)。
【0081】
一方、特にCVD法では、光触媒活性の発現は1mg程度の担持量でも十分に認められている。5mg以上であれば、なお良好である。他方、圧力損失の増大をたとえば20Pa以下とするには、担持量20mg以下とすることが望ましく、さらには15mg以下とすることがより望ましい。これらの数値から、それぞれの重量比率、体積比率は次のようになる。
担持量1mgの場合
0.001/0.48×100=0.21wt%
0.001/(7.5×7.5×0.038)=4.68×10
−4g/cm
3
担持量5mgの場合
0.005/0.48×100=1.05wt%
0.005/(7.5×7.5×0.038)=2.34×10
−3g/cm
3
担持量15mgの場合
0.015/0.48×100=3.15wt%
0.015/(7.5×7.5×0.038)=7.02×10
−3g/cm
3
担持量20mgの場合
0.02/0.48×100=4.16wt%
0.02/(7.5×7.5×0.038)=9.36×10
−3g/cm
3
【0082】
以上のことから、本発明において推奨される酸化物担持量については、次のようにまとめられる。
A)重量比率
0.2wt%以上4.2wt%以下が望ましく、1.0wt%以上3.2wt%以下とすることがより望ましい。さらには、2wt%程度とすることがより望ましい。
B)体積比率
4.5×10
−4g/cm
3以上9.5×10
−3g/cm
3以下が望ましく、2.3×10
−3g/cm
3以上7.0×10
−3g/cm
3以下とすることがより望ましい。さらには、5×10
−3g/cm
3程度とすることがより望ましい。