特許第5958810号(P5958810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958810
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】造塊鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 7/00 20060101AFI20160719BHJP
   B22D 7/06 20060101ALI20160719BHJP
   B22D 37/00 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   B22D7/00 J
   B22D7/06 G
   B22D37/00 B
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-155101(P2012-155101)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-14851(P2014-14851A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】久村 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】畠中 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】高尾 豊
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 芳紀
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−029434(JP,A)
【文献】 特開平07−124699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 7/00−9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋底面の注湯口にこれを開閉する弁体を設け、注湯口から湯道を経て造塊鋳型底面の注入口から当該造塊鋳型内へ溶湯を供給するようにした下注ぎ式の造塊鋳造方法において、鋳込み初期工程には前記弁体を全開し、続くボトム絞り工程では前記弁体を所定開度まで閉鎖し、その後の本体鋳込み工程では、前記造塊鋳型内の溶湯の臨界表面流速が臨界速度内に収まるような湯上り速度を維持するように前記弁体を開閉制御し、本体鋳込み工程後の押湯工程では湯上り速度を、本体鋳込み工程における湯上り速度よりも小さい速度に維持するように前記弁体を開閉制御するようにし、前記造塊鋳型が複数設けられるとともに、これら造塊鋳型内の溶湯が押湯開始の湯面レベルおよび満注の湯面レベルに至ったか否かを検出する単一の湯面検知センサが設けられ、湯面検知センサは移動駆動手段によって三次元空間内を移動可能に保持されて、各造塊鋳型の直上位置へ移動させられるようになっている造塊鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は造塊鋳造方法に関し、特に、取鍋から湯道を経て造塊鋳型内に下方から溶湯を注入する場合に、鋳型内で生成される鋼塊の欠陥を少なくできる造塊鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
取鍋内の溶湯を、湯道を経て造塊鋳型の底面に設けた注入口から鋳型内に注入する、いわゆる下注ぎ鋳造は、上注ぎ鋳造に比してガスや異物の混入による欠陥の生じにくい造塊鋳造方法として知られている。
【0003】
なお、特許文献1には、連続鋳造において、タンディッシュ内の溶鋼重量を測定して、溶鋼重量の増加率が所定の値を維持するように取鍋からタンディッシュへの溶鋼注入量を制御するようにした制御装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−50203
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記下注ぎ鋳造において、溶湯の注入は従来、現場作業員の経験による手動操作で行っているが、製造される鋼塊に介在物欠陥や表面ワレ等の欠陥を生じることが問題になっており、その解決が要請されていた。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、下注ぎ鋳造における介在物欠陥や表面ワレ等の欠陥発生を効果的に防止できる造塊鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
介在物欠陥や表面ワレ等の欠陥発生は鋳込み中の造塊パウダーの膜切れや巻き込み、あるいは不定速鋳込みが主原因である。そこで、本第1発明では、取鍋底面の注湯口(11)にこれを開閉する弁体(21)を設け、注湯口(11)から湯道(32)を経て造塊鋳型(4)底面の注入口(41)から当該造塊鋳型(4)内へ溶湯を供給するようにした下注ぎ式の造塊鋳造方法において、鋳込み初期工程(I)には前記弁体(21)を全開し、続くボトム絞り工程(II)では前記弁体(21)を所定開度まで閉鎖し、その後の本体鋳込み工程(III)では、前記造塊鋳型(4)内の溶湯の臨界表面流速が臨界速度内に収まるような湯上り速度を維持するように前記弁体(21)を開閉制御し、本体鋳込み工程(III)後の押湯工程(IV)では湯上り速度を、本体鋳込み工程(III)における湯上り速度よりも小さい速度に維持するように前記弁体(21)を開閉制御するようにし、前記造塊鋳型(4)が複数設けられるとともに、これら造塊鋳型(4)内の溶湯(M)が押湯開始の湯面レベルおよび満注の湯面レベルに至ったか否かを検出する単一の湯面検知センサ(6)が設けられ、湯面検知センサ(6)は移動駆動手段(D)によって三次元空間内を移動可能に保持されて、各造塊鋳型(4)の直上位置へ移動させられるようになっている。
【0008】
本第1発明においては、初期工程で湯道における湯詰りが防止される。そして、続くボトム絞り工程でボトム噴流が抑制され、さらに本体鋳込み工程では溶湯の表面流速が抑えられて造塊パウダーの膜切れや巻き込み等が防止される。そして、本体鋳込み工程及び押湯工程では湯上り速度が一定速度に制御される。このような工程が行われることによって、鋳造される鋼塊の介在物欠陥や表面ワレ、鋼塊トップ部の偏析やパイプ欠陥等の発生が効果的に防止される。また、複数の造塊鋳型内の湯面レベルを単一の湯面検知センサで検出することができる。
【0011】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明の造塊鋳造方法によれば、介在物欠陥や表面ワレ等の欠陥発生を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明方法を実施する造塊装置の全体構成を示す部分断面側面図である。
図2】湯面検知センサを移動させる移動駆動手段を付設した造塊装置の概略側面図である。
図3】湯面検知センサを移動させる移動駆動手段を付設した造塊装置の概略平面図である。
図4】湯上り速度と溶湯の表面流速の関係を示す図である。
図5】制御装置で制御される鋳込み速度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
図1には本発明方法を実施する造塊装置の構成を示す。図1において、取鍋1には底面に注湯口11が設けられ、当該注湯口11は弁体としてのスライドノズル21によって開閉されるようになっている。注湯口11の直下には、定盤3上に立設された注入管31の上端が開口しており、注入管31の下端は定盤3内に形成された湯道32に連通している。
【0015】
湯道32は分岐して複数形成されており(図1にはそのうちの一つを示す)、各湯道32の先端は定盤3上に設置された各造塊鋳型4の底面に開口する注入口41に連通している。取鍋1内の溶湯Mは、注湯口11のスライドノズル21を開放することによって注入管31から湯道32を経て各造塊鋳型4底面の注入口41に至り、下方から造塊鋳型4内に注入される(下注ぎ)。
【0016】
取鍋1にはその重量を検出するロードセル51が付設されて、その出力信号が制御装置5に入力している。制御装置5では上記出力信号から取鍋1内の残湯量変化が測定されて、これに基づいて各造塊鋳型4における鋳込み速度が算出される。上記スライドノズル21には駆動シリンダ22が連結されており、当該駆動シリンダ22を介して上記制御装置5の出力信号によってスライドノズル21が開閉作動させられる。スライドノズル21の開度は開度検出センサ23によって制御装置5へフィードバックされている。
【0017】
造塊鋳型4の上方には湯面検知センサ6が位置させられており、当該湯面検知センサ6によって造塊鋳型4内の溶湯Mの湯面レベルが検出され、その検出信号に基づいて制御装置5にて上記溶湯Mが押湯や満注のレベルに至ったか否かが判定される。湯面検知センサ6は複数の造塊鋳型4によって共用されている。より詳細には、湯面センサ6としては例えば渦流距離センサが使用され、湯面センサ6は図2に示すように移動駆動手段Dを構成する走行台車7から下方へ垂下させられた上下動可能なプッシュプルチェーン71の下端に保持されている。
【0018】
走行台車7は図3に示すように、平行なサブレール72上に載置されてこれに沿って移動可能となっており、サブレール72は、取鍋1の一方の側に配置された複数の造塊鋳型4の両側を平行に延びるガイドレール73に、これに沿って移動可能に支持されている。これにより、湯面センサ6は取鍋1の一方の側の鋳型配置領域をカバーする三次元空間内を自在に移動できる。
【0019】
本実施形態では、図3に示すように、定盤3上に10個の造塊鋳型4が配置されており、これらは各5個が左右対称に位置している。なお、各造塊鋳型4へ至る湯道32(図1)は、各鋳型4内の湯面が満注レベルまで上昇した際に、当該鋳型4に連通する部分で適宜遮断できるようになっている。
【0020】
造塊工程が開始されると、制御装置5によって最初の造塊鋳型4の直上へ走行台車7が位置させられ、湯面検知センサ6が造塊鋳型4内の湯面検出が可能な所定位置まで下降させられて、湯面高さの測定が行なわれる。測定が終わると湯面検知センサ6は上昇させられ、走行台車7は次の造塊鋳型4の直上位置へ移動させられる。そして湯面検知センサ6が湯面検出可能な所定位置まで下降させられて、湯面高さの測定がなされる。
【0021】
このようにして、走行台車7の移動可能範囲内にある5つの造塊鋳型4について、異なる湯面高さのグループ毎に、そのうち任意の一つの鋳型4の湯面高さ測定が順次繰り返される。そして、押湯や満注の、所定の湯面レベルになったことが検出されると溶湯が補充供給され、あるいは当該鋳型4に至る湯道32が遮断されて溶湯の供給が停止される。ここで、走行台車7の移動可能範囲内の、図3の右半部の造塊鋳型4の湯面レベルのみを測定しているが、左半部の対称位置にある同形の鋳型4も通常は同じ湯面レベルになるから、右半部の各鋳型4への押湯や、満注により溶湯供給を遮断する際には左半部の対応する造塊鋳型4へも同様の操作を行う。
【0022】
ところで、造塊パウダーの膜切れや巻き込みが生じる原因は、造塊鋳型4内の溶湯Mの表面流速が過大になることにある。そして、この表面流速は造塊鋳型4内の湯上り速度に比例している。そこで、図4に示すように、これを越えると造塊パウダーの膜切れや巻き込みが生じる臨界表面流速に対応する臨界湯上り速度以下に湯上り速度を抑えれば、上記膜切れ等に起因する介在物欠陥や表面ワレ等の欠陥発生を防止することができる。なお、湯上り速度は結局鋳込み速度と一対一に対応しており、湯上り速度を管理することは鋳込み速度を管理することになる。
【0023】
図5には造塊工程において制御装置5で実施されるスライドノズル21の開放制御による鋳込み速度の経時変化を示す。造塊工程の初期工程Iでは、湯道32での湯詰りを防止するためにスライドノズル21を全開にする。したがって、この間は実質的に鋳込み速度の制御は行われず、全開にしたスライドノズル21から注入される溶湯量に応じた鋳込み速度となる。
【0024】
初期工程Iに続くボトム絞り工程IIでは、スライドノズル21の開度を全開の例えば40%〜80%、好ましくは50%〜70%にして、造塊鋳型4の注入口41からのボトム噴流を抑制する。この場合も、実質的に鋳込み速度の制御は行われず、所定の開度にしたスライドノズル21から注入される溶湯量に応じた鋳込み速度となる。なお、スライドノズル21の開度を40%よりも小さくすると湯詰まりを生じるおそれがあり、また、上記開度を80%より大きくすると増塊パウダーの膜切れや巻き込み等を生じるおそれがある。
【0025】
ボトム絞り工程IIに続く本体鋳込み工程IIIでは、臨界湯上り速度以下の湯上り速度、すなわち鋳込み速度になるようにスライドノズル21の開度を制御する。これにより、鋳造される鋼塊本体に介在物欠陥や表面ワレ等の欠陥を生じることが避けられる。
【0026】
本体鋳込み工程IIIに続く押湯鋳込み工程IVでは、満注に至るまで、鋳込み速度を本体鋳込み工程IIIにおける鋳込み速度の10〜60%、好ましくは30%程度にするようにスライドノズル21の開度を制御する。これによって鋳造される鋼塊トップ部の偏析やパイプ欠陥の発生が防止される。
【符号の説明】
【0027】
1…取鍋、11…注湯口、21…スライドノズル(弁体)、3…定盤、32…湯道、4…造塊鋳型、41…注入口、5…制御装置、6…湯面検知センサ、7…移動台車、D…移動駆動手段、I…初期工程、II…ボトム絞り工程、III…本体鋳込み工程、IV…押湯工程。
図1
図2
図3
図4
図5