特許第5958823号(P5958823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958823
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ガラス板積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/08 20060101AFI20160719BHJP
   C03B 33/07 20060101ALI20160719BHJP
   C03C 27/06 20060101ALI20160719BHJP
   C03B 25/02 20060101ALI20160719BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20160719BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20160719BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20160719BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20160719BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   C03B33/08
   C03B33/07
   C03C27/06 101J
   C03B25/02
   B23K26/38 Z
   B23K26/00 G
   H05B33/14 A
   H05B33/04
   H05B33/10
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-249305(P2012-249305)
(22)【出願日】2012年11月13日
(65)【公開番号】特開2014-97905(P2014-97905A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】藤居 孝英
(72)【発明者】
【氏名】稲山 尚利
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−37685(JP,A)
【文献】 特開2005−281126(JP,A)
【文献】 特開平7−68395(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/097908(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/00−33/14
B23K 26/00−26/70
DWPI(Thomson Innovation)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚のガラス板を積層一体化してなるガラス板積層体の製造方法であって、
前記複数枚のガラス板を、切断予定線を含む表面同士を面接触させて積層して面接触部を形成すると共に、その面接触部の表面粗さRaを2.0nm以下とした状態で、前記面接触部に含まれる前記切断予定線に沿ってレーザ溶断し、
前記レーザ溶断時の熱により、前記面接触部の溶断端面を湾曲面に加工すると共に、密封することを特徴とするガラス板積層体の製造方法。
【請求項2】
前記レーザ溶断に用いるレーザよりも、エネルギー密度の低いレーザを照射することにより、前記溶断端面近傍を徐冷することを特徴とする請求項1に記載のガラス板積層体の製造方法。
【請求項3】
前記複数枚のガラス板相互間に機能性部材を収容し、前記機能性部材の周囲に前記面接触部を形成した後、前記レーザ溶断を施すことを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス板積層体の製造方法。
【請求項4】
前記レーザ溶断の前に、前記面接触部を圧着することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス板積層体の製造方法。
【請求項5】
前記面接触部を減圧雰囲気下で形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス板積層体の製造方法。
【請求項6】
前記複数枚のガラス板が、3枚以上のガラス板で構成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス板積層体の製造方法。
【請求項7】
前記複数枚のガラス板の総厚が、0.5mm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス板積層体の製造方法。
【請求項8】
複数枚のガラス板を積層一体化してなるガラス板積層体であって、
前記ガラス板積層体の外周部が湾曲面からなる火造り面で形成されると共に、前記外周部近傍に前記複数枚のガラス板の相互間が密封された密封部が形成されており、
前記密封部が、前記外周部側から順に、ガラス面同士が剥離不能に直接一体化された第1接合部と、表面粗さRaが2.0nm以下のガラス面同士が剥離可能に直接密着された第2接合部とを含むことを特徴とするガラス板積層体。
【請求項9】
前記第1接合部が、軟化点以上の温度で接合した溶着部と、軟化点以下の温度で接合した準溶着部とを含むことを特徴とする請求項8に記載のガラス板積層体。
【請求項10】
前記外周部が、単一円弧からなる火造り面で形成されていることを特徴とする請求項8又は9に記載のガラス板積層体。
【請求項11】
前記複数枚のガラス板相互間に機能性部材が収容され、その周囲が前記密封部によって囲繞されていることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載のガラス板積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚のガラス板を積層一体化してなるガラス板積層体の改良技術に関し、特に内部に素子を収容してなるガラスパッケージとして利用されるガラス板積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、有機発光ダイオード(OLED)等の素子を、ガラス板の間に収容したガラスパッケージが広く利用されるに至っている。この理由は、ガラスパッケージを構成するガラス板積層体が、ガラス板に由来する高いガスバリヤ性を有するためである。すなわち、OLED等の素子が周囲環境の酸素や水分に晒されると劣化し易いため、ガラス板で素子を密封している。
【0003】
ところで、この種のガラスパッケージは、2枚のガラス板の間に素子を収容し、その素子の周囲をフリットによって密封して製作されるのが通例である。詳細には、例えば、特許文献1には、2枚のガラス板の間に素子を収容した状態で、レーザによりフリットを加熱・溶融し、密封構造とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−524419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フリットを用いて密封構造を形成する場合、ガラス以外にもフリットを別途用意する必要があることから、製造コストの高騰を招く。加えて、ガラス板の熱膨張係数と、フリットの熱膨張係数とが大きく異なると、両者の熱膨張差により密封部が容易に破損し得る。したがって、フリットの熱膨張係数を調整するために添加剤を配合する必要が生じ、製造コストの更なる高騰に繋がる。
【0006】
また、近年では、ガラス板の薄板化が推進されているのが実情であり、ガラス板の端面の縁部が鋭角であると、ガラス板が破損し易く、密封部の気密性が容易に失われるという問題がある。そこで、ガラス板の端面に面取り加工などを施すことが考えられるが、ガラス板を所定サイズに切断した後に、各辺に面取り加工を施そうとすれば、結果的に更なる製造コストの高騰は避けられない。また、ガラス板が薄板であれば、機械的な面取り加工を施すこと自体が困難になるという問題もある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑み、製造コストの低廉化を図りつつ、内部空間の気密性を確実に確保し得るガラス板積層体を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために創案された本発明は、複数枚のガラス板を積層一体化してなるガラス板積層体の製造方法であって、前記複数枚のガラス板を、切断予定線を含む表面同士を面接触させて積層して面接触部を形成すると共に、その面接触部の表面粗さRaを2.0nm以下とした状態で、前記面接触部に含まれる前記切断予定線に沿ってレーザ溶断し、前記レーザ溶断時の熱により、前記面接触部の溶断端面を湾曲面に加工すると共に、密封することに特徴づけられる。ここで、切断予定線を含む表面同士を面接触させて積層する態様としては、複数枚のガラス板の切断予定線に対応する表面の一部領域のみを面接触させて積層した場合と、複数枚のガラス板の全表面同士を面接触させて積層した場合とが含まれる。また、全てのガラス板は同じサイズである必要はなく、例えば、面接触部のみにガラス面が存在するスペーサの役割を果たすガラス板(例えば、額縁状のガラス板)が含まれていてもよい。更に、「表面粗さRa」は、JIS B0601:2001に準拠した方法で測定した値を指す(以下、同様)。
【0009】
このような構成によれば、複数枚のガラス板は、その切断予定線を含む表面同士を面接触させた状態で積層される。この積層状態において、複数のガラス板の面接触部の表面粗さRaが2.0nm以下に設定されていることから、面接触部は剥離可能ではあるが接着剤等を要することなく密着される。この密着力は、対向するガラス表面分子間のファンデルワールス力、あるいは空気中の水分吸着により形成されたシラノール基間の水素結合に起因して発生しているものと考えられる。そして、このように密着固定された面接触部をレーザ溶断すると、レーザ溶断時の熱によって面接触部が完全に密封される。この際、面接触部のうち、レーザ溶断時の熱の影響を受けた領域には、軟化点以上の温度で接合する部分(以下では「溶着部」という場合がある。)に加え、軟化点以下の温度で接合する部分(なお、以下では「準溶着部」という場合がある。)も形成される。そのため、面接触部の密封が促進される。ここで、準溶着部が生じる理由は、対向するガラス表面で水素結合を形成しているシラノール基間で脱水反応が生じ、より強固な共有結合となるためと考えられる。
【0010】
また、レーザ溶断すると、ガラス板を溶かしながら切断するため、ガラス板の溶断端面を湾曲面に加工することができる。そのため、事後的に面取り加工を別途施さなくても、端面強度を十分に確保することができる。
【0011】
上記の構成において、前記レーザ溶断に用いるレーザ(溶断用レーザ)よりも、エネルギー密度の低いレーザ(徐冷用レーザ)を照射することにより、前記溶断端面近傍を徐冷することが好ましい。
【0012】
このようにすれば、徐冷用レーザの照射によって溶断端面近傍の歪みが除去されるため、ガラス板積層体の反り等の変形や、歪による破損を防止することができる。また、この際、徐冷用レーザの照射によって、溶断端面近傍の面接触部も加熱されるため、面接触部に脱水反応が生じる領域が広がると考えられる。その結果、軟化点以下の温度で接合した準溶着部がより広範囲に亘って形成された密封態様となり、より高い気密性を確保することが可能となる。
【0013】
上記の構成において、前記複数枚のガラス板相互間に機能性部材を収容し、前記機能性部材の周囲に前記面接触部を形成した後、前記レーザ溶断を施すようにしてもよい。ここで、機能性部材とは、例えば蛍光体、液晶、有機EL、ITO膜、太陽電池、Liイオン電池、反射防止膜など、所定の機能を発揮し得る材料又は素子をいう。
【0014】
このようにすれば、レーザ溶断前に熱を加えることなく、面接触部によって機能性部材の周囲を仮密封することができる。そして、この状態で、面接触部をレーザ溶断すれば、既に述べたように、面接触部のガラスが溶けて、機能性部材の周囲を完全に密封することができる。加えて、バーナー等でガラス板を加熱する場合に比して、レーザ溶断では、ガラス板の加熱範囲がレーザを照射する狭い範囲に限られるため、機能性部材が熱によって劣化することも防止できる。
【0015】
上記の構成において、前記レーザ溶断の前に、前記面接触部を圧着することが好ましい。
【0016】
このようにすれば、レーザ溶断前の面接触部の密着力が、更に強固になることから、レーザ溶断による密封精度がより一層向上する。
【0017】
この場合、前記面接触部を、減圧雰囲気下で形成してもよい。
【0018】
このようにすれば、ガラス板の積層時に積層体内部に気体等の異物が介在し、気泡が形成された場合でも、常圧下あるいは加圧下といった環境下での使用時には、異物及び気泡が相対的に加圧され、気泡の大きさが小さくなる。そのため、仮に気泡が形成された場合であっても、気泡による種々の影響を低減することができる。
【0019】
上記の構成において、前記複数枚のガラス板が、3枚以上のガラス板で構成されていてもよい。
【0020】
上記の構成において、前記複数枚のガラス板の総厚が、0.5mm以下であることが好ましい。
【0021】
上記課題を解決するために創案された本発明は、複数枚のガラス板を積層一体化してなるガラス板積層体であって、前記ガラス板積層体の外周部が湾曲面からなる火造り面で形成されると共に、前記外周部近傍に前記複数枚のガラス板の相互間が密封された密封部が形成されており、前記密封部が、前記外周部側から順に、ガラス面同士が剥離不能に直接一体化された第1接合部と、表面粗さRaが2.0nm以下のガラス面同士が剥離可能に直接密着された第2接合部とを含むことに特徴づけられる。ここで、「直接」とは、ガラス面の相互間に接着剤等の他部材が介在しないことを意味する。
【0022】
すなわち、既に説明した製造方法で製造されたガラス板積層体は、このような特有の構成を有する。
【0023】
上記の構成において、前記第1接合部が、軟化点以上の温度で接合した溶着部と、軟化点以下の温度で接合した準溶着部とを含むことが好ましい。
【0024】
このようにすれば、第1接合部の範囲が拡大されるため、ガラス板積層体の気密性をより向上させることができる。
【0025】
上記の構成において、前記外周部が、単一円弧からなる火造り面で形成されていることが好ましい。
【0026】
このようにすれば、ガラス板積層体の外周部の破損強度が向上し、ハンドリング等が容易になる。また、外観形状も美しくなるため、製品価値の向上にも繋がることが期待できる。
【0027】
上記の構成において、前記複数枚のガラス板相互間に機能性部材が収容され、その周囲が前記密封部によって囲繞されていてもよい。
【発明の効果】
【0028】
以上のように本発明によれば、積層状態にある各ガラス板相互間の隙間の密封作業と、各ガラス板の端面の面取り加工とを一挙同時に行うことができる。したがって、製造コストの低廉化を図りつつ、内部空間の気密性を確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1実施形態に係るガラス板積層体を示す断面図である。
図2図1のガラス板積層体の密封部を拡大して示す断面図である。
図3】第1実施形態に係るガラス板積層体の変形例を示す一部拡大断面図である。
図4】第1実施形態に係るガラス板積層体の製造手順を説明するための図である。
図5】第1実施形態に係るガラス板積層体の製造手順を説明するための図である。
図6】第1実施形態のレーザ溶断に用いるレーザ溶断装置を示す断面図である。
図7】第1実施形態のレーザ溶断に用いるレーザ溶断装置を示す平面図である。
図8】(a)〜(d)は、第1実施形態のレーザ溶断の実況図である。
図9】第1実施形態のレーザ溶断の変形例を示す断面図である。
図10】第1実施形態のレーザ溶断の変形例を示す断面図である。
図11】(a)は、本発明の第2実施形態に係るガラス板積層体の製造方法を説明するための正面図であって、(b)は、その平面図である。
図12図11の徐冷用レーザの照射状態を示す斜視図である。
図13図11の徐冷用レーザの照射状態を示す斜視図である。
図14】(a)は、図11の徐冷用レーザとして平行ビームを用いた場合の照射状態を説明するための概念図であり、(b)は、その徐冷用レーザとして集光ビームを用い、その集光ビームをデフォーカス照射した場合の照射状態を説明するための概念図である
図15】(a)は、図11の溶断用レーザと徐冷用レーザのそれぞれの照射領域の位置関係を説明するための図であり、(b)は、その位置関係の好ましい範囲を説明するための図である。
図16】(a)〜(b)は、図11の溶断用レーザと徐冷用レーザの照射態様の変形例を示す図である。
図17】本発明の第3実施形態に係るガラス板積層体の製造方法を説明するための平面図である。
図18】第3実施形態に係るガラス板積層体の製造方法の変形例を説明するための平面図である。
図19】本発明の第4実施形態に係るガラス板積層体の製造手順を説明するための斜視図である。
図20】第4実施形態に係るガラス板積層体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0031】
(1)第1実施形態
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るガラス板積層体1は、複数枚(図示例では2枚)のガラス板2,3を積層一体化し、その内部に機能性部材4を気密状態で収容したものである。
【0032】
詳細には、ガラス板積層体1の外周部5は、湾曲面からなる火造り面で形成されている。この実施形態では、外周部5は、滑らかに連続する略単一円弧からなる湾曲面で構成されている。
【0033】
ガラス板積層体1の外周部5の近傍には、複数枚のガラス板2,3の相互間が密封された密封部6が形成されている。この密封部6は、ガラス板積層体1の全周に形成されている。なお、ガラス板積層体1を平面視した場合の形状は、一般的には四隅が面取りされた四角形であるが、例えば、三角形やその他の多角形、円形などであってもよい。なお、このような形状の自由度が高い理由は、後述するように、ガラス板積層体1の外周部5を、レーザ溶断により形成しているためである。
【0034】
図2に示すように、密封部6は、外周部5側から順に、ガラス面同士が剥離不能に直接一体化された第1接合部7と、表面粗さRaが2.0nm以下のガラス面同士が剥離可能に直接密着された第2接合部8とから構成されている。なお、第2接合部8では、ガラス板2,3同士に密着力が作用しているため容易ではないが、互いに剥離することができる。
【0035】
第1接合部7は、外周部5側から順に、軟化点(例えば、700〜1000℃)以上の温度で接合した溶着部7aと、軟化点以下の温度で接合した準溶着部7bとを含む。すなわち、第1接合部7(溶着部7aと準溶着部7b)は、熱的な影響を受けることにより、強固に接合している。なお、この実施形態では、溶着部7aと準溶着部7bでは、ガラス板2,3間の界面が確認できない。もちろん、準溶着部7bが、ガラス板2,3間に界面を有していてもよい。
【0036】
第2接合部8は、接着剤等を介することなく、平滑なガラス面の表面性状に由来する密着力のみで接合している。この密着力は、ファンデルワールス力あるいは水素結合に起因して発生しているものと考えられる。すなわち、第2接合部8は、熱的な影響を受けず、接合状態を維持している。なお、この実施形態では、第2接合部8では、ガラス板2,3間の界面が確認できる。ここで、第2接合部8におけるガラス面の表面粗さRaは、1.0nm以下であることが好ましく、0.5nm以下(特に0.2nm以下)であることがより好ましい。
【0037】
ここで、フリットなどを使用した場合、密封部が外周部周辺から3〜5mm程度の領域に形成されるのが一般的あるが、本実施形態の密封部6は、例えば、外周部5から幅0.05〜1mm程度の領域に形成することも可能である。もちろん、密封部6の領域の大きさは、後述する溶断用レーザや徐冷用レーザの照射熱を調整することにより、適宜変更できる。
【0038】
ガラス板2,3の板厚は、例えば0.2mm以下である。このように薄板の場合には、ガラス板2,3に適度な可撓性を付与できることから、図1に示したように、内部に機能性部材4を収容した状態で、ガラス板2,3の端部同士を互いに厚み方向中央側に引き寄せるように変形させて密封することができる。なお、図1では、ガラス板2,3の変形量を誇張して図示している。
【0039】
機能性部材4としては、例えば、有機EL照明や有機ELディスプレイ等に用いられる発光層などが挙げられる。もちろん、ガラス板積層体1は、機能性部材4を適宜省略したり、機能性部材4の代わりに樹脂フィルムなどを介在させてもよい。後者の場合には、例えば、携帯電話などの電子機器のカバーガラスなどとして利用できる。また、ガラス板2,3の相互間に、機能性部材4などの他部材を介在させなくてもよい。
【0040】
ここで、ガラス板積層体1の外周部5の形状は、略単一円弧からなる湾曲面以外にも、例えば、図3(a)〜(b)に示すような湾曲面形状であってもよい。すなわち、同図(a)に示すように、複数(図例では2つ)の山部5aが谷部5bを介して滑らかに連続する形状であってもよい。また、同図(b)に示すように、外周部5の一部がその途中で屈曲して、他の部位より突出した突出部5cを有する形状であってもよい。
【0041】
次に、以上のような構成を備えたガラス板積層体1の製造方法を説明する。なお、以下では、説明の便宜上、機能性部材4の図示を省略している部分もある。
【0042】
まず、図4に示すように、表面粗さRaが2.0nm以下の2枚のガラス板2,3を用意する。このガラス板2,3は、例えば、オーバーフローダウンドロー法などによって成形することができる。そして、一方のガラス板3の表面に機能性部材4を形成又は配置し、その機能性部材4を覆うように他方のガラス板2を被せる。この状態で、機能性部材4の外側に食み出した2枚のガラス板2,3のガラス面同士を直接面接触させて密着させ、機能性部材4の周囲に面接触部9を形成する。なお、ガラス板2,3の表面粗さRaは、表裏面全体で2.0nm以下であっても勿論よいが、面接触部9を構成するガラス面のみが2.0nm以下であってもよい。
【0043】
更に、この実施形態では、ガラス板2,3を一対のローラ10で挟持しながら押圧し、面接触部9を圧着する。なお、減圧雰囲気下で面接触部9を形成するようにしてもよく、ローラ10等を用いずにガラス板2(3)の自重で面接触部9を形成してもよい。減圧処理は、低温真空蒸着や低温スパッタリング等で、ガラス板2,3の表面にAR膜などの機能膜を形成する場合には、その処理に利用する真空槽の内部で蒸着等の処理の一環として行ってもよい。もちろん、真空槽の内部の減圧雰囲気下で、ローラ10等により押圧してもよい。
【0044】
次に、図5に示すように、レーザ溶断装置11から面接触部9にレーザ(例えば、CO2レーザ)Lを照射し、面接触部9の外周部側の一部領域をレーザ溶断により切除する。このレーザ溶断は、ガラス板2,3の全周に亘って行われる。なお、この際、機能性部材4及びその近傍の温度が300℃以下になるように、レーザLを照射することが好ましい。
【0045】
このように面接触部9をレーザ溶断すると、発生する熱により、面接触部9が完全に密封される。その結果、図2に示したように、製造されたガラス板積層体1には、その外周部に沿って密封部6が形成される。この際、密封部6は、特殊な密着状態にある面接触部9をレーザ溶断して形成されることから、面接触部9に由来する特徴的な密封状態を示すことになる。すなわち、この場合、ガラス面同士を軟化点以下の温度でも剥離不能に接合させることができることから、例えば、第1接合部7が、軟化点以上の温度で接合した溶着部7aと、軟化点以下の温度で接合した準溶着部7bとを含む。
【0046】
また、レーザ溶断すると、ガラス板積層体1の外周部(溶断端面)5は湾曲面からなる火造り面となる。そのため、面取り加工を別途施さなくても、端面強度を十分に確保できる。ここで、ガラス板積層体1の外周部5を略単一円弧からなる火造り面とするためには、ガラス板の厚みや、レーザ溶断速度などの加工条件を適宜調整するとよい。
【0047】
次に、上記のレーザ溶断に用いられるレーザ溶断装置の一例を説明する。図6及び図7に示すように、レーザ溶断装置11は、2枚のガラス板2,3が重ねた状態で載置される加工台15と、上方のガラス板2の表面に向かってレーザLを照射するレーザ照射器12と、レーザLの加熱により溶融した溶融ガラスMを飛散させるアシストガスA2を噴射するアシストガス噴射ノズル13と、ガラス板2,3のうち上方に位置するガラス板2の表面に沿って整形ガスA3を噴射する整形ガス噴射ノズル14とを備えている。なお、以下では、説明の便宜上、ガラス板2を「上方のガラス板」、ガラス板3を「下方のガラス板」という場合があるが、ガラス板2,3の面の向きは上下方向に限定されるものではない。また、ガラス板2,3を製品部G1と、非製品部G2に分けているが、製品部G1が上述のガラス板積層体1となる。
【0048】
レーザ照射器12は、定位置に設置されると共に、円筒状の基端部と、すり鉢状の先端部とで構成されている。基端部の内周壁には、図示省略のレーザ発振器から発せられたレーザLを集光し、上方のガラス板2の表面に向かって照射するレンズ16が取付けられている。また、先端部には、レーザLの照射方向に沿って噴射されるガスA1を、レーザ照射器12の内部に導入するガス導入管12aが連結されると共に、レーザL及びガスA1を照射・噴射するための照噴射口12bが形成されている。
【0049】
アシストガス噴射ノズル13は、レーザ照射器12と同様に定位置に設置されると共に、上方のガラス板2の表面に対して傾斜した姿勢で設置されている。その形状は、円筒状に形成されており、図示省略のガス圧縮装置(例えば、エアコンプレッサー)で圧縮されたアシストガスA2が、その内部を通過し、レーザLの照射部Cに向かって噴射されるように構成されている。
【0050】
整形ガス噴射ノズル14は、レーザ照射器12、及びアシストガス噴射ノズル13と同様に定位置に設置されると共に、上方のガラス板2の表面と平行な姿勢で、且つガラス板2の面方向に延びる切断予定線CLと直交する向きに設置されている。その横断面、及び先端に形成された噴射口14aは、略矩形に形成されており、噴射口14aは、切断予定線CLに沿う方向に幅広となっている。そして、図示省略のガス圧縮装置で圧縮された整形ガスA3が、その内部を通過し、噴射口14aから上方のガラス板2の表面と平行に噴射される構成となっている。また、この整形ガスA3は、切断後の両ガラス板2,3のうち、製品部G1となる側から非製品部G2となる側に向かって噴射される。なお、切断予定線CLは、ガラス板を平面視した場合に、始端と終端が連続する閉路(例えば、円形や、矩形)で構成されていることが好ましい。
【0051】
加工台15は、切断予定線CLを挟んで一対が平行に設置される。また、両加工台15は、ガラス板2,3が載置された状態で、図7に示すT方向(切断予定線CLに平行な方向)に同期して移動することが可能な構成となっている。
【0052】
以上から、レーザ溶断装置11は、ガラス板2,3を載置した加工台15のT方向への移動に伴って、レーザ照射器12が切断予定線CLに沿って上方のガラス板2の表面に対し連続的にレーザLを照射する。そして、レーザLの照射部Cで溶融した溶融ガラスMをアシストガス噴射ノズル13から噴射されたアシストガスA2が吹き飛ばし、飛散させることで除去する。その後、溶融ガラスMの除去に伴ってガラス板2,3に順次に形成された溶断端部Gaを、整形ガス噴射ノズル14から噴射された整形ガスA3が、上方のガラス板2の表面に沿い且つ切断の進行方向と直交して通過するように構成されている。また、溶融ガラスMを除去する際に飛散したドロスのレンズ16への付着を、レーザ照射器12から噴射されたガスA1の圧力により防止する。
【0053】
ここで、ガスA1、アシストガスA2、整形ガスA3の噴射圧力は、各々、ガスA1:0.0〜0.02MPa、アシストガスA2:0.00〜0.25MPa、整形ガスA3:0.01〜1.00MPaであることが好ましい。また、整形ガス噴射ノズル14に形成された噴射口14aと切断予定線CLとの離間距離は、1〜30mmであることが好ましく、1〜10mmであることがより好ましい。さらに、アシストガスA2の噴射方向と上方のガラス板2の表面とがなす角は、25〜60°であることが好ましい。
【0054】
上記のレーザ溶断装置11を用いたガラス板のレーザ溶断方法の作用について添付の図面を参照して説明する。なお、この作用について説明するための図面では、切断後の両ガラス板のうち、非製品部となる側のガラス板の図示を省略している。
【0055】
図8(a)に示すように、レーザLの照射部Cで溶融した溶融ガラスMをアシストガスA2の圧力で吹き飛ばし除去すると、これに伴って、ガラス板2,3には、順次に溶断端部Gaが形成される。このとき、レーザLの出力が高い場合などには、溶融した溶融ガラスMの量が過多となる。
【0056】
このため、図8(a)に二点鎖線で示すように、溶融ガラスMが表面張力の作用によって丸まろうとし、溶断端部Gaの表面Gaa、及び裏面Gabが出っ張った状態(この状態をダマともいう。)に形成されようとする。しかしながら、表面Gaaに形成されようとする出っ張りには、図8(b)に示すように、整形ガスA3の圧力により、出っ張りをガラス板2(製品部G1)の面方向に押し出す力Fが作用する。
【0057】
加えて、溶断端部Gaの表面Gaa側は、表面Gaa側を整形ガスA3が通過していることにより、裏面Gab側と比較して気圧が低い状態下に置かれる。そのため、図8(c)に示すように、裏面Gabに形成されようとする出っ張りを、気圧の高い裏面Gab側から気圧の低い表面Gaa側へと押し込む力Pが作用する。この二つの力F,Pにより、溶断端部Gaの表裏面Gaa,Gabの双方が平坦化され、図8(d)に示すように、出っ張りの形成が阻止される。
【0058】
また、これらの作用が発現する際、整形ガスA3が、上方のガラス板2の表面と平行に噴射されていることにより、噴射された整形ガスA3の流速が、整形ガスA3と上方のガラス板2との衝突によって減速してしまうような事態の発生を可及的に防止できる。加えて、溶断端部Gaを通過する整形ガスA3の流速が速い程、表面Gaa側に形成されようとする出っ張りに作用する整形ガスA3の圧力、及び表面Gaa側と裏面Gab側との気圧差が大きくなる。このため、溶断端部Gaの表面Gaaに形成されようとする出っ張りを面方向に押し出す作用と、裏面Gabに形成されようとする出っ張りを裏面Gab側から表面Gaa側へと押し込む作用とが、良好に発現する。
【0059】
さらに、整形ガス噴射ノズル14に形成された噴射口14aが、上方のガラス板2の表面に沿う方向に幅広となっていることで、噴射された整形ガスA3が、噴射口14aの形状に倣って溶断端部Gaの広範囲に亘って広がっていく。このため、より安定的に溶断端部Gaにおける出っ張りの形成を阻止することが可能となる。
【0060】
また、レーザLの照射部Cに向かってアシストガスA2を噴射していることで、照射部Cで溶融した溶融ガラスMをアシストガスA2の圧力によって飛散させ、除去することが可能となるため、溶融ガラスMの除去をより素早く、円滑に実施することができる。
【0061】
これらの結果、ダマの形成等、溶融ガラスMの量が過多となったことに起因して、溶断端部Gaの形状が不良に形成されることを回避できる。加えて、噴射された整形ガスA3が上方のガラス板2の表面に沿って溶断端部Gaを通過していることで、溶断端部Gaが整形ガスA3により、表面Gaa側から裏面Gab側へと強く押圧されることも防止される。このため、整形ガスA3によって溶断端部Gaにダレが形成されることもなくなる。
【0062】
さらに、アシストガスA2の圧力により、溶断端部Gaにダレが形成される恐れも下記のように的確に排除される。すなわち、アシストガスA2の圧力により、溶断端部Gaにダレが形成されようとしても、このダレにも、既に述べた出っ張りを裏面Gab側から表面Gaa側へと押し込む力Pが作用する。そのため、ダレの形成が的確に回避される。なお、ここで、ダレとは、溶断端部Gaが他の部位と比較して下方に垂下った状態に形成されてしまう状態をいう。
【0063】
また、ガラス板2,3を切断する際に発生するドロスは、整形ガスA3の噴射先側へと飛散しやすい。そのため、切断後のガラス板2,3のうち、整形ガスA3の噴射元側に位置する製品部G1の溶断端部Gaにはドロスが付着しにくくなり、製品部G1を高品質なものとすることができる。
【0064】
ここで、上記のレーザ溶断装置では、切断の進行方向と、整形ガスがレーザ照射部を通過する方向とが直交する構成となっているが、これらは直交せずに交差するのみであってもよいし、平行であってもよい。すなわち、噴射された整形ガスがガラス板の表面に沿ってレーザ照射部を通過しさえすれば、整形ガスをどのような方向に噴射しても構わない。また、整形ガスは、必ずしもガラス板の表面と平行に噴射する必要はなく、図9に示すように、上方のガラス板2の表面に対して傾斜した方向から噴射してもよい。なお、この場合、整形ガスの噴射方向と上方のガラス板2の表面とがなす角αは、0〜25°であることが好ましい。
【0065】
さらに、上記のレーザ溶断装置においては、整形ガスは、溶断端部の表面側のみをガラス板の表面に沿って通過するように噴射されているが、図10に示すように、溶断端部Gaの表面Gaa側のみではなく、裏面Gab側にも整形ガスA3を噴射してもよい。この場合、裏面Gab側に噴射する整形ガスA3は、表面Gaa側に噴射する整形ガスA3に対して、溶断端部Gaを通過する流速が遅くなるように噴射することが好ましい。このようにすれば、裏面Gab側の気圧が表面Gaa側よりも高い状態が保持されるため、裏面Gabに形成されようとする出っ張りを、裏面Gab側から表面Gaa側に押し込む作用が失われる恐れを排除できる。なお、この裏面Gabを通過するように整形ガスA3を噴射する場合においても、整形ガスA3を下方のガラス板3の裏面に対して傾斜した方向から噴射してもよい。もちろん、整形ガスA3は、下方のガラス板3の溶断端部Gaの裏面Gab側のみ噴射してもよく、この場合でもダマやダレの発生を防止する一定の効果がある。
【0066】
加えて、上記のレーザ溶断装置では、アシストガスの噴射によって溶融ガラスを飛散させて除去する構成となっているが、アシストガスを噴射しなくとも溶融ガラスを除去することが可能である。この場合、ガラス中の水分・揮発性成分、もしくは、ガラス自身が気化・膨張する際のエネルギーが溶融ガラスを除去する駆動力となり、これによって溶融ガラスが飛散し除去される。
【0067】
また、整形ガス噴射ノズルに形成された噴射口の形状は、上記の例では、矩形となっているが、この限りではなく、どのような形状に形成してもよい。しかしながら、噴射口から噴射された整形ガスが溶断端部の広範囲に亘って広がるような形状であることが好ましく、このような形状としては、例えば、ガラス板の表面と平行な方向に長径を有する楕円形等が想定される。
【0068】
さらに、上記の実施形態では、加工台に載置されたガラス板を溶断する態様となっているが、例えば、オーバーフロー法やフロート法により成形された帯状のガラスリボンを連続的に溶断する態様としてもよいし、ガラスリボンをロール状に巻き取ったガラスロールを用いて、ロールtoロール(ガラスロールからガラスリボンを巻き外して所定の加工を施した後、加工後のガラスリボンを再びガラスロールとして巻き取る態様)により溶断を実施する態様としてもよい。
【0069】
(2)第2実施形態
上記の第1実施形態において、ガラス板積層体の製造方法を説明したが、第2実施形態では、ガラス板積層体の溶断端部近傍を徐冷(アニール)する点が、第1実施形態と相違する。
【0070】
すなわち、図11(a),(b)に示すように、第2実施形態に係るレーザ溶断装置21は、溶断用レーザ照射器22と、徐冷用レーザ照射器23と、アシストガス噴射ノズル24とを備えている。なお、図中において、第1実施形態で説明した整形ガス噴射ノズル14は省略している。
【0071】
溶断用レーザ照射器22は、積層された2枚のガラス板2,3に形成される切断予定線CLに溶断用レーザLB1を略鉛直に照射する。この溶断用レーザLB1によって、ガラス板2,3の切断予定線CLの一部に第1照射領域SP1が形成される。この実施形態では、ガラス板2,3を図示しない加工台(例えば、ガラス板2,3を吸着保持する搬送ベルト)によって搬送方向(図中の矢印A方向)に移動させることによって、第1照射領域SP1を切断予定線CLに沿って走査し、積層されたガラス板2,3を連続的にレーザ溶断する。この際、製品部G1となる側の溶断端面Gaと、非製品部G2となる側の溶断端面Gbの間には、溶断隙間Sが形成される。
【0072】
徐冷用レーザ照射器23は、非製品部G2となる側の上方から切断予定線CLに向かって徐冷用レーザLB2を斜めに照射する。この徐冷用レーザLB2によって、ガラス板2,3の切断予定線CLの一部に、徐冷実行部となる第2照射領域SP2が形成される。この第2照射領域SP2は、切断予定線CLに沿って長尺な細長形状(例えば、楕円形状)の領域であって、第2照射領域SP2の寸法は、切断予定線CLに沿う溶断進行方向(図中の矢印B方向)において、溶断用レーザLB1の第1照射領域SP1の寸法よりも大きくなっている。そして、第2照射領域SP2が第1照射領域SP1の溶断進行方向の前後に跨るように、第2照射領域SP2が第1照射領域SP1にオーバーラップしている。すなわち、第1照射領域SP1と第2照射領域SP2が互いに重なり部分を有する状態で、第2照射領域SP2が、第1照射領域SP1の溶断進行方向の前後に食み出している。そのため、第2照射領域SP2でガラス板2,3を加熱すると、第1照射領域SP1の溶断進行方向の前後に連続する領域で、ガラス板2,3が溶断温度(例えば、1300〜3000℃)よりも低い低温(例えば、100〜1000℃)で加熱されることになる。すなわち、第2照射領域SP2のうち、第1照射領域SP1の溶断進行方向の前方側の領域SP2aでガラス板2,3が予備加熱され、第1照射領域SP1の溶断進行方向の後方側の領域SP2bでガラス板2,3が徐冷される。そして、ガラス板2,3を上述のように移動させることによって、第2照射領域SP2が切断予定線CLに沿って走査され、ガラス板2,3に対して溶断の前後で予備加熱と徐冷が連続的に施される。
【0073】
アシストガス噴射ノズル24は、第1照射領域SP1で発生する溶融ガラスMを吹き飛ばすために、第1照射領域SP1に対して上方からアシストガスAGを噴射する。詳細には、この実施形態では、製品部G1側の上方にアシストガス噴射ノズル24が配置されており、第1照射領域SP1に対して斜め下方にアシストガスAGが噴射されるようになっている。なお、アシストガス噴射ノズル24の配置位置は特に限定されるものではなく、例えば、切断予定線CLの真上に配置し、溶断用レーザと共に、ガラス板2,3に対して略垂直にアシストガスAGを噴射するようにしてもよい。また、アシストガス噴射ノズル24をガラス板2,3の下方空間に配置して、下方から溶融ガラスを吹き飛ばすようにしてもよい。これらアシストガスAGは、溶断を効率よく行うためのものであるが省略してもよい。
【0074】
この実施形態では、徐冷用レーザ照射器23は、図12に示すように、溶断未完了部R2の非製品部G2となる側の上方位置に配置されている。この徐冷用レーザ照射器23から出射される徐冷用レーザLB2は、溶断未完了部R2側から溶断完了部R1側に移行するに連れてガラス板2,3に接近するように傾斜している。なお、徐冷用レーザLB2は、溶断完了部R1側から溶断未完了部R2側に移行するに連れてガラス板2,3に接近するように傾斜させてもよい。すなわち、徐冷用レーザLB2は、図中に示すような方位角θと極角φとを有している。ここで、図中のxyzは、直交座標系であり、xはガラス板の搬送方向と平行な軸である。そのため、図13に示すように、ガラス板2,3に投影された第2照射領域SP2は、長円形状になる。この長円形状の長軸の向きは、方位角θの大きさによって変化するが、溶断進行方向の成分を有する。なお、勿論、徐冷用レーザLB2の光軸に直交する断面形状自体を予め長円形状に整形し、その長円の長軸の向きが溶断進行方向に沿うようにしてもよい。レーザの光軸に直交する断面を長円形状に整形する方法としては、例えば、シリンドリカルレンズ等の光学部品や、スリット状の遮光マスクなどを用いることが挙げられる。
【0075】
ここで、徐冷用レーザLB2の方位角θと極角φは、次のような範囲であることが好ましい。すなわち、方位角θは、0≦θ≦πの範囲であることが好ましい。徐冷用レーザLB2として平行ビームを採用した場合は、方位角θについて0≦θ≦π/2及びπ/2≦θ≦πのいずれの範囲においても照射の効果は同等であるが、集光ビームを採用し、デフォーカスで照射した場合には方位角θの適正範囲がある。つまり、集光点よりも下方位置でガラス板2,3にデフォーカス照射した場合には0≦θ≦π/2が適正範囲であり、逆に集光点よりも上方位置でガラス板2,3にデフォーカス照射した場合はπ/2≦θ≦πが適正範囲となる。一方、極角φは、図14(a)に示すように、徐冷用レーザLB2として平行ビームを採用した場合には、次のような範囲を満足することが好ましい。すなわち、極角φは、徐冷用レーザLB2のビーム径をw,積層状態のガラス板2,3の合計厚みをt,照射位置の調整量をdとすると、0<φ<cos−1[(t+w)/{2(s+t+d)}]の範囲を満足することが好ましい。また、極角φは、図14(b)に示すように、徐冷用レーザLB2として集光ビームを採用し、それをデフォーカスして照射した場合には、次のような範囲を満足することが好ましい。すなわち、極角φは、徐冷用レーザLB2が非製品部G2と接した状態での接点でのビーム径をw,集光角をα,ガラス板2,3の厚みをt,照射位置の調整量をdとすると、0<φ<cos−1〔(tcosα+w)/{2(s+t+d)}〕の範囲を満足することが好ましい。換言すれば、極角φは、製品部G1の溶断端面Gaに近接して対向する非製品部G2の溶断端面G近傍に干渉しないような角度範囲に設定することが好ましい。徐冷用レーザLB2の照射位置は、徐冷前の製品部G1の溶断端面Ga近傍に生じている引張応力の位置に応じて調整することが好ましく、その調整量dは、例えば−0.5t≦d≦2.5tの範囲で調整される。
【0076】
なお、徐冷用レーザLB2を、光軸に直交する断面が楕円形状になるように整形しておけば、傾斜角(極角φ)を大きくしなくても、全長の長い第2照射領域SP2を形成することができる。
【0077】
次に、以上のように構成されたレーザ溶断装置21の動作を説明する。
【0078】
まず、図11(a),(b)に示すように、ガラス板2,3を搬送しながら、溶断用レーザ照射器22から溶断用レーザLB1をガラス板2,3に照射する。これにより、ガラス板2,3を溶断する。この溶断用レーザLB1の第1照射領域SP1には、アシストガス噴射ノズル24からアシストガスAGを噴射し、第1照射領域SP1から溶融ガラスMを吹き飛ばす。
【0079】
また、これと同時に、徐冷用レーザ照射器23から徐冷用レーザLB2をガラス板2,3に照射する。この徐冷用レーザLB2の第2照射領域SP2は、溶断用レーザLB1の第1照射領域SP1の溶断進行方向の前後に跨るように、第1照射領域SP1とオーバーラップしている。このオーバーラップにより、第2照射領域SP2のうち、第1照射領域SP1の溶断進行方向の前方側の領域SP2aでは予備加熱が行われ、それよりも溶断進行方向の後方側の領域SP2bでは徐冷が行われる。そのため、溶断の前後で、急激な温度上昇や急激な温度下降による破損、すなわち熱衝撃による破損や、熱的残留歪が発生するという事態を可及的に低減できる。そして、この予備加熱と徐冷の役割を担う第2照射領域SP2が、第1照射領域SP1にオーバーラップしているため、予備加熱・溶断・徐冷の各領域SP2a,SP1,SP2bが、溶断進行方向において簡単且つ確実に連続する。したがって、ガラス板2,3に対してこれら一連の熱処理が連続的に行われ、各熱処理領域SP2a,SP1,SP2bの間で熱エネルギーが不当に失われるという事態を回避することができる。換言すれば、ガラス板2,3に供給した熱エネルギーによって効率よく予備加熱と溶断を実行しながら、熱的残留歪を除去することが可能となる。
【0080】
ここで、図15(a)に示すように、第2照射領域SP2の溶断進行方向と直交する方向の中心位置を通り、溶断進行方向に延びる線をX軸、このX軸と第2照射領域SP2の溶断進行方向の中心位置で直交する線をY軸、第2照射領域SP2のX軸方向寸法を2a2、第2照射領域SP2のY軸方向寸法を2b2、第1照射領域SP1のX軸方向寸法を2a1、第1照射領域SP1のY軸方向寸法を2b1、第1照射領域SP1の中心座標を(x,y)とした場合に、第1照射領域SP1と第2照射領域SP2との間の好ましい関係は次のようになる。
【0081】
すなわち、第1照射領域SP1と第2照射領域SP2のスポット径の間の関係は、a1<a2、b1<b2であるが、
50a1≦a2
30b1≦b2 ・・・(1)
であることが好ましい。また、第1照射領域SP1の中心座標(x,y)は、
−a2/4≦x<a2−a1
−b2−b1<y≦b2/2 ・・・(2)
なる関係(図15(b)のA1で示す領域)を満たすことが好ましく、
2/4≦x≦3a2/4
−b2/2≦y≦0 ・・・(3)
なる関係(図15(b)のA2で示す領域)を満たすことがより好ましい。
【0082】
上記の式(1)又は式(2)を満足すれば、第1照射領域SP1と第2照射領域SP2との大小関係や位置関係が最適なものとなり、ガラス板2,3の製品部G1における熱的残留歪の発生を確実に低減できる。また、式(3)を満足すれば、第2照射領域SP2が、非製品部G2側よりも製品部G1側に偏って形成されると共に、第2照射領域SP2の溶断進行方向の中心位置(Y軸の位置)よりも前方側で、第2照射領域SP2に対して第1照射領域SP1がオーバ−ラップする。このようにすれば、ガラス板2,3のうち、製品部G1となる側に対して、優先的に予備加熱処理や徐冷処理を施すことができるので、製品部G1の熱的残留歪をより確実に低減することが可能となる。また、この場合、照射領域SP2のうち、徐冷を行う領域SP2bの溶断進行方向の寸法が、予備加熱を行う領域SP2aの溶断進行方向の寸法よりも長くなる。熱的残留歪は、溶断後に急速に冷却されることにより生じるため、上述のように徐冷を行う領域を長くし、冷却速度を小さくした方が、熱的残留歪を除去する上では好ましい態様となる。
【0083】
ここで、ガラス板2,3の溶断は、溶断用レーザLB1により上方のガラス板2の上面側より溶融が始まり、その溶融により形成される切断溝が下方に貫通することにより完了する。そのため、製品部G1の溶断端面Gaは、上面に近接するほど、溶断時に供給される照射熱の影響を強く受けており、溶断端面Gaの熱的残留歪も上面側が相対的に大きくなっているものと考えられる。したがって、製品部G1の溶断端面Gaの残留歪を除去するには、より溶断端面Gaの上面側に多くの熱を供給して徐冷処理をすることが好ましい。そこで、徐冷用レーザLB2は、図14(a),(b)に示すように、製品部G1の溶断端面Gaの上方部(例えば、上半分の領域)に直接照射することが好ましい。この際、溶断により形成される溶断端面Ga,b間の溶断隙間Sを介して、徐冷対象の溶断端面Gaに対して上方から斜めに徐冷用レーザLB2を照射する。
【0084】
また、溶断用レーザと徐冷用レーザとして、互いに異なる発振器によって発振されたレーザを用いることで、両者の波長を相違させることが好ましい。このようにすれば、溶断用レーザと徐冷用レーザによって時間的に定常的な干渉縞が形成されることがなく、ガラス板に与えるエネルギー分布を十分に制御することが容易となる。
【0085】
なお、上記の実施形態では、第2照射領域SP2が、第1照射領域SP1の搬送方向前後に跨るように、第1照射領域SP1にオーバーラップして形成されている場合を説明したが、図16(a)に示すように、第1照射領域SP1と第2照射領域SP2とは、互いに分離していてもよいし、図16(b)に示すように、互いの外周縁が外接するようにしてもよい。
【0086】
また、徐冷用レーザLB2によって、第2照射領域SP2及びその近傍では、ガラス板2,3が軟化点以下で加熱されるため、溶断用レーザLB1を単独で照射した場合よりも面接触部9の広範囲で脱水反応が生じる。そのため、溶着部7bの形成範囲を広げて、より高い気密性を確保することができる。なお、溶着部7bの形成範囲は、徐冷用レーザLB2等の調整により、適宜変更することができる。
【0087】
(3)第3実施形態
上記の第1〜第2実施形態では、2枚のガラス板を重ねて面接触部を形成した後、その周囲をレーザ溶断して、1枚の製品部(ガラス板積層体)を製造する場合を説明したが、図17に示すように、第3実施形態では、2枚のガラス板2,3を重ねて面接触部を形成した後、複数(図示例では4つ)の略矩形状に画成された切断予定線CLに沿って切り抜き、複数の製品部G1、すなわち、複数のガラス板積層体1を製造する。なお、ガラス板積層体1を多面取りする以外の点は、第1〜2実施形態と共通するので、詳しい説明は省略する。
【0088】
なお、この際、図18に示すように、切断予定線CLの始点S及び終点Eが、製品部G1を画成する領域外に形成されていてもよい。また、始点S及び終点Eは、互いに一致していなくてもよい。
【0089】
(4)第4実施形態
第1〜第3実施形態では、2枚のガラス板を積層する場合を説明したが、図19に示すように、第4実施形態では、1枚のガラス板3の周囲に額縁状にスペーサとなるガラス板31を配置し、その上にもう一枚のガラス板2を積層する。なお、ガラス板31に囲繞されたガラス板3の上に、図示しない機能性部材を形成又は配置する。この場合、ガラス板2,3のそれぞれの表面と、スペーサとなるガラス板31の表面との接触部が、それぞれ面接触部を構成する。そして、この面接触部をレーザ溶断することで、図20に示すように、溶断端面からなる外周部5を含む密封部6を有するガラス板積層体1を製造することができる。なお、レーザ溶断の方法などは、第1〜第2実施形態と共通するので詳しい説明は省略する。
【実施例】
【0090】
本発明の実施例として、下記の表1に示すレーザ溶断及び徐冷の条件で、本発明に係るガラス板積層体を製造できることを確認した。なお、実施例1では、ガラス板の積層枚数を2枚とし、実施例2では、ガラス板の積層枚数を3枚とする。また、ガラス板の板厚は、いずれの実施例も0.1mmとする。
【0091】
【表1】
【符号の説明】
【0092】
1 ガラス板積層体
2,3 ガラス板
4 機能性部材
5 外周部(溶断端面)
6 密封部
7 第1接合部
7a 溶着部
7b 準溶着部
8 第2接合部
9 面接触部
10 ローラ
11 レーザ溶断装置
12 レーザ照射器
13 アシストガス噴射ノズル
14 整形ガス噴射ノズル
15 加工台
16 レンズ
21 レーザ溶断装置
22 溶断用レーザ照射器
23 徐冷用レーザ照射器
24 アシストガス噴射ノズル
31 ガラス板
図1
図2
図3
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図5
図6
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図20