特許第5958827号(P5958827)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958827
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】樹脂組成物、プリプレグ、および積層板
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20160719BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20160719BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20160719BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20160719BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20160719BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   C08L63/00 C
   C08J5/24CFC
   C08K3/00
   C08K3/24
   C08K3/22
   H05K1/03 610L
【請求項の数】13
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-553749(P2012-553749)
(86)(22)【出願日】2012年1月18日
(86)【国際出願番号】JP2012050957
(87)【国際公開番号】WO2012099162
(87)【国際公開日】20120726
【審査請求日】2014年10月29日
(31)【優先権主張番号】特願2011-9929(P2011-9929)
(32)【優先日】2011年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 禎啓
(72)【発明者】
【氏名】小柏 尊明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博史
(72)【発明者】
【氏名】宮平 哲郎
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−316564(JP,A)
【文献】 特開2002−194119(JP,A)
【文献】 特開2004−059643(JP,A)
【文献】 特開2007−045984(JP,A)
【文献】 特開2009−024056(JP,A)
【文献】 特開2009−035728(JP,A)
【文献】 特開2008−214602(JP,A)
【文献】 特開2010−248473(JP,A)
【文献】 特開2008−031344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00−63/10
C08K 3/00−3/40
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非担持型モリブデン化合物(A)と、
エポキシ樹脂(B)と、
硬化剤(C)と、
平均粒子径(D50)が0.2〜5μmである無機充填材(D)と
を含んでなり、該無機充填材(D)のモース硬度が3.5以上であり、かつ該無機充填材(D)の含有量が、樹脂固形成分の合計100質量部に対し、40〜600質量部であり、
前記非担持型モリブデン化合物(A)が、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸、三酸化モリブデン、及びモリブデン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種であり、
前記非担持型モリブデン化合物(A)の含有量が、樹脂固形成分の合計100質量部に対し、0.2〜30質量部である、樹脂組成物。
【請求項2】
プリント配線板用プリプレグに用いられる、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記硬化剤(C)が、シアン酸エステル化合物またはフェノール樹脂である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記シアン酸エステル化合物が、式(1):
【化1】
(式中、R11は水素原子またはメチル基を示し、qは1以上の整数を示す。)
で表されるシアン酸エステル化合物である、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記フェノール樹脂が、式(2):
【化2】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、nは1以上の整数を示す。)
で表されるフェノール樹脂である、請求項3又は4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂(B)が式(3):
【化3】
(式中、Ar1およびAr2はそれぞれ同一にまたは異なって、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基の単環あるいは多環の芳香族炭化水素が置換基になったアリール基を示し、RxおよびRyはそれぞれ
同一にまたは異なって、水素原子またはアルキル基、アリール基を示す。mは1〜5の整数を示し、nは1〜50の整数を示す。また、Gはグリシジル基を示す。)
で表されるエポキシ樹脂である請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂(B)が式(4):
【化4】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、Ar3およびAr4はそれぞれ同一にまたは異なってナフチレン基又はフェニレン基であり、両基はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基又はフェニレン基を置換基として有してもよい。R2はそれぞれ独立的に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は下記一般式(5)で表せるアラルキル基を表し、
m及びnはそれぞれ0〜4の整数であって、かつm又はnの何れか一方は1以上であり、R3は水素原子、下記一般式(5)で表せるアラルキル基又は下記一般式(6)で表せるエポキシ基含有芳香族炭化水素基を表す。上記一般式(4)においてナフタレン構造部位への結合位置は該ナフタレン構造部位を構成する2つのベンゼン環の何れであってもよい。)
【化5】
(式中、R4及びR5はそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し、Ar5はフェニレン基、1〜3の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で核置換されたフェニレン基若しくはナフチレン基又は1〜3の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で核置換されたナフチレン基を表す。oは平均で0.1〜4である。)
【化6】
(式中、R6は水素原子又はメチル基を表し、Ar6はそれぞれ独立的にナフチレン基又は炭素原子数1〜4のアルキル基、アラルキル基若しくはフェニレン基を置換基として有するナフチレン基を表し、pは1又は2の整数である。)
で表されるエポキシ樹脂である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
マレイミド化合物及び/またはBT樹脂をさらに含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記エポキシ樹脂(B)の配合量が、前記エポキシ樹脂(B)と前記硬化剤(C)の合計100質量部に対し、5〜60質量部である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
モース硬度が3.5未満の無機充填材の含有量が、前記非担持型モリブデン化合物(A)100質量部に対し、100質量部以下である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の樹脂組成物を、基材に含浸または塗布してなる、プリプレグ。
【請求項12】
請求項11に記載のプリプレグを積層成形してなる、積層板。
【請求項13】
請求項11に記載のプリプレグと、金属箔とを積層成形してなる、金属箔張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関し、より詳細には、プリント配線板用プリプレグに用いられる樹脂組成物に関する。さらに、本発明は、その樹脂組成物を用いて作製されるプリント配線板用プリプレグ、ならびに該プリプレグを用いた積層板および金属箔張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や通信機、パーソナルコンピューター等に広く用いられている半導体の高集積化・高機能化・高密度実装化はますます加速しており、以前にもまして半導体プラスチックパッケージ用積層板に対する熱膨張率、ドリル加工性、耐熱性および難燃性への要求が高まっている。
【0003】
特に近年では積層板の面方向の熱膨張率低減が強く求められている。これは半導体素子と半導体プラスチックパッケージ用プリント配線板の熱膨張率の差が大きく、熱衝撃が加わったときに熱膨張率差により半導体プラスチックパッケージに反りが発生し、半導体素子と半導体プラスチックパッケージ用プリント配線板間や、半導体プラスチックパッケージと実装されるプリント配線板間で接続不良が生じるためである。
【0004】
耐熱性および難燃性を満足しつつ熱膨張率を低下させるためには、樹脂組成物中の無機充填材の充填量を増加させるという手法がある(例えば特許文献1および2参照。)。しかし、この手法では硬化物が硬く脆くなり、ドリルビットの摩耗が早く、ドリルビットの折損や孔位置精度の低下によりドリルビットの交換の頻度が増えるという問題があった。
【0005】
他の手法としては、モース硬度の高い無機充填材を充填させる方法がある。例えば、無機充填材としてベーマイトやシリカを配合する手法が知られている。しかし、これらの手法は熱膨張率を低下させることには効果があるが、硬い無機充填材のためドリルの摩耗が激しく、ドリル加工性が悪化するという欠点があった。
【0006】
一方、ベーマイトやシリカよりもモース硬度の低い無機充填材として水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムを配合すると(例えば特許文献3および4参照。)、ベーマイトやシリカを単独で用いた場合よりもドリル加工性は優れているものの、これで得られる面方向の熱膨張率は充分ではなく、加熱時に放出される結晶水の影響で、耐熱性が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−059643公報
【特許文献2】特開2009−120702公報
【特許文献3】特開2009−074036公報
【特許文献4】特開2009−279770公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、面方向の熱膨張率が低く、ドリル加工性に優れ、さらに耐熱性・難燃性に優れたプリント配線板用プリプレグに用いられる樹脂組成物、該樹脂組成物を用いて作製されるプリント配線板用プリプレグ、ならびに該プリプレグを用いた積層板および金属箔張積層板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、モリブデン化合物(A)と、エポキシ樹脂(B)と、硬化剤(C)と、無機充填材(D)とを含んでなる樹脂組成物において、無機充填材のモース硬度が3.5以上であり、かつ無機充填材の含有量が樹脂固形成分の合計100質量部に対し40〜600質量部である樹脂組成物を用いることで、上記課題をすべて満足する積層板が得られることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
非担持型モリブデン化合物(A)と、
エポキシ樹脂(B)と、
硬化剤(C)と、
平均粒子径(D50)が0.2〜5μmである無機充填材(D)と
を含んでなり、該無機充填材(D)のモース硬度が3.5以上であり、かつ該無機充填材(D)の含有量が、樹脂固形成分の合計100質量部に対し、40〜600質量部であり、
前記非担持型モリブデン化合物(A)が、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸、三酸化モリブデン、及びモリブデン酸アンモニウムから選ばれる少なくとも一種であり、
前記非担持型モリブデン化合物(A)の含有量が、樹脂固形成分の合計100質量部に対し、0.2〜30質量部である、樹脂組成物。
〔2〕
プリント配線板用プリプレグに用いられる、〔1〕に記載の樹脂組成物。
〔3〕
前記硬化剤(C)が、シアン酸エステル化合物またはフェノール樹脂である、〔1〕又は〔2〕に記載の樹脂組成物。
〔4〕
前記シアン酸エステル化合物が、式(1):
【化1】
(式中、R11は水素原子またはメチル基を示し、qは1以上の整数を示す。)
で表されるシアン酸エステル化合物である、〔3〕に記載の樹脂組成物。
〔5〕
前記フェノール樹脂が、式(2):
【化2】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、nは1以上の整数を示す。)
で表されるフェノール樹脂である、〔3〕又は〔4〕に記載の樹脂組成物。
〔6〕
前記エポキシ樹脂(B)が式(3):
【化3】
(式中、Ar1およびAr2はそれぞれ同一にまたは異なって、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基の単環あるいは多環の芳香族炭化水素が置換基になったアリール基を示し、RxおよびRyはそれぞれ
同一にまたは異なって、水素原子またはアルキル基、アリール基を示す。mは1〜5の整数を示し、nは1〜50の整数を示す。また、Gはグリシジル基を示す。)
で表されるエポキシ樹脂である〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔7〕
前記エポキシ樹脂(B)が式(4):
【化4】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、Ar3およびAr4はそれぞれ同一にまたは異なってナフチレン基又はフェニレン基であり、両基はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基又はフェニレン基を置換基として有してもよい。R2はそれぞれ独立的に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は下記一般式(5)で表せるアラルキル基を表し、
m及びnはそれぞれ0〜4の整数であって、かつm又はnの何れか一方は1以上であり、R3は水素原子、下記一般式(5)で表せるアラルキル基又は下記一般式(6)で表せるエポキシ基含有芳香族炭化水素基を表す。上記一般式(4)においてナフタレン構造部位への結合位置は該ナフタレン構造部位を構成する2つのベンゼン環の何れであってもよい。)
【化5】
(式中、R4及びR5はそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し、Ar5はフェニレン基、1〜3の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で核置換されたフェニレン基若しくはナフチレン基又は1〜3の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で核置換されたナフチレン基を表す。oは平均で0.1〜4である。)
【化6】
(式中、R6は水素原子又はメチル基を表し、Ar6はそれぞれ独立的にナフチレン基又は炭素原子数1〜4のアルキル基、アラルキル基若しくはフェニレン基を置換基として有するナフチレン基を表し、pは1又は2の整数である。)
で表されるエポキシ樹脂である、〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔8〕
マレイミド化合物及び/またはBT樹脂をさらに含んでなる、〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔9〕
前記エポキシ樹脂(B)の配合量が、前記エポキシ樹脂(B)と前記硬化剤(C)の合計100質量部に対し、5〜60質量部である、〔1〕〜〔8〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔10〕
モース硬度が3.5未満の無機充填材の含有量が、前記非担持型モリブデン化合物(A)100質量部に対し、100質量部以下である、〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
〔11〕
〔1〕〜〔10〕のいずれか一項に記載の樹脂組成物を、基材に含浸または塗布してなる、プリプレグ。
〔12〕
〔11〕に記載のプリプレグを積層成形してなる、積層板。
〔13〕
〔11〕に記載のプリプレグと、金属箔とを積層成形してなる、金属箔張積層板。
【発明の効果】
【0014】
本発明による樹脂組成物を用いて作製されるプリプレグから得られる積層板は、面方向の熱膨張率が低く、ドリル加工性に優れ、高い耐熱性および難燃性を有することから、様々な特性が要求される半導体パッケージ用の材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
樹脂組成物
本発明による樹脂組成物は、モリブデン化合物(A)と、エポキシ樹脂(B)と、硬化剤(C)と、無機充填材(D)とを含んでなり、無機充填材(D)のモース硬度が3.5以上であり、かつ無機充填材(D)の含有量が樹脂固形成分の合計100質量部に対し40〜600質量部である。ここで、樹脂固形成分とはエポキシ樹脂(B)、硬化剤(C)を指し、樹脂組成物にマレイミド化合物および/またはBT樹脂が含まれる場合はそれらも含んだものをいう。本発明による樹脂組成物は、プリント配線板用プリプレグの作製に好適に用いられる。以下、樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0016】
モリブデン化合物(A)
本発明で使用されるモリブデン化合物(A)はモリブデン酸、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸カリウム、三酸化モリブデン等のモリブデン化合物が挙げられる。モリブデン化合物(A)を配合することにより、本発明による樹脂組成物を用いて作製されるプリプレグから得られる積層板の難燃性が良好となる。
【0017】
本発明におけるモリブデン化合物(A)は、配合時の形態は特に限定されないが、無機充填材からなるコア材に被覆されたものではなく、単独(非担持型)で用いることが好ましい。コア材として従来用いられていたモース硬度が3.5未満の無機充填材を用いないことで、本発明による樹脂組成物を用いて作製されるプリプレグから得られた積層板の耐熱性がより良好となる。したがって、本発明による樹脂組成物に含まれるモース硬度が3.5未満の無機充填材の含有量は、モリブデン化合物(A)100質量部に対し、100質量部以下であることが好ましい。さらに、本発明による樹脂組成物は、モース硬度が3.5未満の無機充填材を実質的に含まないことがより好ましい。なお、モース硬度が3.5未満の無機充填材としては、タルク(モース硬度1)、石膏(モース硬度2)、水酸化マグネシウム(モース硬度2.5)、方解石(モース硬度3)、および水酸化アルミニウム(モース硬度3)等が挙げられる。
【0018】
本発明におけるモリブデン化合物(A)の配合量は、樹脂固形成分の合計100質量部に対し、0.2〜30質量部程度であることが難燃性および耐熱性の観点から好ましく、特に1〜10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0019】
エポキシ樹脂(B)
本発明において使用されるエポキシ樹脂(B)は近年の環境問題への関心の高まりから非ハロゲン系エポキシ樹脂が好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、3官能フェノール型エポキシ樹脂、4官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン、グリシジルエステル、およびブタジエンなどの2重結合をエポキシ化した化合物、ならびに水酸基含有シリコーン樹脂類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる化合物等が挙げられる。その中でも得られた積層板の難燃性や耐熱性を向上させる観点から、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂およびフェノールノボラック型エポキシ樹脂の少なくとも1種が好ましく、難燃性をより向上させる観点から、下記式(1)で表されるアラルキルノボラック型エポキシ樹脂がより好ましい。具体的には、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂やポリオキシルナフチレン型エポキシ樹脂等が好適に用いられる。特に、下記式(2)で表されるフェノールフェニルアラルキル型エポキシ樹脂が好ましい。また、熱膨張率の観点からは下記式(3)で表されるナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂を用いることが好ましく、その中でも特に下記式(3)の構造が、下記式(6)又は下記式(7)で表される場合が好ましい。下記式(3)で表されるエポキシ樹脂の製品例としてはDIC株式会社製、EXA−7311が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は目的に応じて1種もしくは2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0020】
【化1】
(式中、ArおよびArはそれぞれ同一にまたは異なって、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等の単環あるいは多環の芳香族炭化水素が置換基になったアリール基を示し、RおよびRはそれぞれ同一にまたは異なって、水素原子またはアルキル基、アリール基を示す。mは1〜5の整数を示し、nは1〜50の整数を示す。また、Gはグリシジル基を示す。)
【0021】
【化2】
(式中、nは1以上の整数を示す。)
【0022】
【化3】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、ArおよびArはそれぞれ同一にまたは異なってナフチレン基又はフェニレン基であり、両基はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基又はフェニレン基を置換基として有してもよい。Rはそれぞれ独立的に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は下記式(4)で表せるアラルキル基を表し、m及びnはそれぞれ0〜4の整数であって、かつm又はnの何れか一方は1以上であり、Rは水素原子、下記一般式(4)で表せるアラルキル基又は下記一般式(5)で表せるエポキシ基含有芳香族炭化水素基を表す。上記一般式(3)においてナフタレン構造部位への結合位置は該ナフタレン構造部位を構成する2つのベンゼン環の何れであってもよい。)
【0023】
【化4】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し、Arはフェニレン基、1〜3の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で核置換されたフェニレン基若しくはナフチレン基又は1〜3の水素原子が炭素数1〜4のアルキル基で核置換されたナフチレン基を表す。oは平均で0.1〜4である。)
【0024】
【化5】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Arはそれぞれ独立的にナフチレン基又は炭素原子数1〜4のアルキル基、アラルキル基若しくはフェニレン基を置換基として有するナフチレン基を表し、pは1又は2の整数である。)
【0025】
【化6】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rはそれぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基又は上記式(4)で表せるアラルキル基を表す。)
【0026】
【化7】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、R10はそれぞれ独立的に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、又は上記式(4)で表せるアラルキル基を表す。)
【0027】
エポキシ樹脂(B)の配合量は樹脂固形成分の合計100質量部に対し、5〜60質量部程度であることが好ましく、特に10〜40質量部の範囲で使用することが好ましい。5質量部以上で目的とする硬化物が得られ、60質量部以下で良好な耐熱性を得ることができるからである。
【0028】
硬化剤(C)
本発明において使用される硬化剤(C)は、一般的なエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤であれば特に限定されないが、耐熱性に優れ、特に誘電率、誘電正接などの電気特性に優れるシアン酸エステル化合物、または低吸水性、高耐熱性に優れるフェノール樹脂を使用することが好ましい。
【0029】
前記シアン酸エステル化合物としては一般に公知のシアン酸エステル化合物を使用することができる。例えば、下記式(8)で表されるナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物、1,3−ジシアナトベンゼン、1,4−ジシアナトベンゼン、1,3,5−トリシアナトベンゼン、ビス(3,5−ジメチル4−シアナトフェニル)メタン、1,3−ジシアナトナフタレン、1,4−ジシアナトナフタレン、1,6−ジシアナトナフタレン、1,8−ジシアナトナフタレン、2,6−ジシアナトナフタレン、2、7−ジシアナトナフタレン、1,3,6−トリシアナトナフタレン、4、4’−ジシアナトビフェニル、ビス(4−シアナトフェニル)メタン、2,2’−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、ビス(4−シアナトフェニル)エーテル、ビス(4−シアナトフェニル)チオエーテル、ビス(4−シアナトフェニル)スルホン、2、2’−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、ビス(3、5−ジメチル、4−シアナトフェニル)メタン、フェノールノボラック型シアン酸エステル化合物等が挙げられ、この中でも難燃性を高める観点から下記式(8)で表されるナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物を特に好適に使用することができる。
【0030】
【化8】
(式中、R11は水素原子またはメチル基を示し、qは1以上の整数を示す。)
【0031】
前記フェノール樹脂としては、1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有する樹脂であれば特に限定されない。例えば、下記式(9)で表されるナフトールアラルキル型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、Xylok型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ポリビニルフェノール類、ナフトールアラルキル型フェノール樹脂、ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、アミノトリアジンノボラック型フェノール樹脂などが例示される。これらは単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。この中でも、吸水性や耐熱性の観点から下記式(9)で表されるナフトールアラルキル型フェノール樹脂を好適に用いることができる。
【0032】
【化9】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を示し、nは1以上の整数を示す。)
【0033】
フェノール樹脂を配合する場合は、フェノール樹脂の水酸基数とエポキシ樹脂のグリシジル基数の数の比が0.7〜2.5で配合することが好ましい。フェノール樹脂の水酸基数とエポキシ樹脂のグリシジル基数の数の比は、ガラス転移温度の低下を防止する観点から0.7以上であることが好ましく、難燃性の低下を防止する観点から2.5以下であることが好ましい。
【0034】
硬化剤(C)の配合量は、特に限定されないが、樹脂固形成分の合計100質量部に対し、耐熱性の観点から、5〜90質量部であることが好ましく、10〜60質量部であることがより好ましい。
【0035】
無機充填材(D)
本発明における無機充填材(D)としては、得られた積層板の熱膨張率を下げる効果が高いモース硬度が3.5以上のものであり、プリント配線板用樹脂組成物に通常用いられる無機充填材であれば特に限定しないが、例えば、ベーマイト(モース硬度3.5)、炭酸カルシウム(モース硬度3.5)、炭酸マグネシウム(モース硬度6)、窒化アルミ(モース硬度7)、シリカ(モース硬度7)、焼成タルク(モース硬度7.5)、アルミナ(モース硬度9)などが挙げられる。モース硬度は、鉱物の硬度比較の標準とする10個の鉱物で順次、試料の表面をひっかいて測定され、番号はそれぞれの物質の硬度数で、値が大きいものほど硬い。
【0036】
無機充填材(D)の平均粒子径(D50)は特に限定されないが、分散性を考慮すると平均粒子径(D50)が0.2〜5μmであることが好ましい。ここでD50とはメジアン径(メディアン径)であり、測定した粉体の粒度分布を2つに分けたときの大きい側の粒子の個数と小さい側の粒子の個数が等量となる径である。一般的には湿式レーザー回折・散乱法により測定される。
【0037】
無機充填材(D)の配合量は、樹脂固形成分の総量100質量部に対して、40〜600質量部が熱膨張率および成形性の観点から好ましく、さらに、80〜150質量部の範囲が好ましい。これらの無機充填材(D)は、1種もしくは2種以上を適宜混合して使用することが可能である。また、モリブデン化合物(A)は無機充填材(D)に含まれないものとする。
【0038】
他の成分
無機充填材(D)に関して、シランカップリング剤や湿潤分散剤を併用することも可能である。シランカップリング剤または湿潤分散剤を配合することによって無機充填材の分散性を向上させることができる。これらのシランカップリング剤としては、一般に無機物の表面処理に使用されているシランカップリング剤であれば、特に限定されるものではない。具体例としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン系、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのビニルシラン系、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などのカチオニックシラン系、フェニルシラン系などが挙げられ、1種もしくは2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。また湿潤分散剤とは、塗料用に使用されている分散安定剤であれば、特に限定されるものではない。例えばビッグケミー・ジャパン(株)製のDisperbyk−110、Disperbyk−111、Disperbyk−180、Disperbyk161、BYK−W996、W9010、W903等の湿潤分散剤が挙げられる。
【0039】
本発明による樹脂組成物は、BT樹脂(ビスマレイミド・トリアジン樹脂)をさらに含んでもよい。BT樹脂としては、マレイミド化合物とシアン酸エステル化合物を主成分とし、プレポリマー化させたものであれば特に限定されない。例えば、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(CX、三菱瓦斯化学株式会社製)と、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミジフェニル)メタン(BMI−70:ケイ・アイ化成株式会社製)とを加熱熔融し、重合反応させたもの、ノボラック型シアン酸エステル樹脂(プリマセットPT−30、ロンザジャパン(株)製、シアネート当量:124g/eq.)と、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミジフェニル)メタン(BMI−70:ケイ・アイ化成株式会社製)とを加熱熔融し、プレポリマー化させた後、メチルエチルケトンに溶解させたものが挙げられる。
【0040】
この中でも、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物を含むBT樹脂は樹脂骨格が剛直構造であるため、耐熱性を維持できるとともに、反応阻害要因を低減させて硬化性を高め、吸水性、耐熱性に優れるという特性から好適に使用できる。BT樹脂の原料であるシアン酸エステル化合物は1種もしくは2種以上を適宜混合して使用することが可能である。
【0041】
本発明による樹脂組成物は、マレイミド化合物をさらに含んでもよい。マレイミド化合物は耐熱性を向上させる効果がある。本発明に用いるマレイミド化合物は1分子中に1個以上のマレイミド基を有する化合物であれば、特に限定されるものではない。その具体例としては、N−フェニルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス{4−(4−マレイミドフェノキシ)−フェニル}プロパン、ビス(3,5−ジメチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5−ジエチル−4−マレイミドフェニル)メタン、ポリフェニルメタンマレイミド、これらマレイミド化合物のプレポリマー、もしくはマレイミド化合物とアミン化合物のプレポリマーなどが挙げられ、1種もしくは2種以上を適宜混合して使用することも可能である。より好適なものとしては、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、2,2−ビス{4−(4−マレイミドフェノキシ)−フェニル}プロパン、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミドフェニル)メタンが挙げられる。
【0042】
マレイミド化合物の使用量としては、樹脂固形成分の合計100質量部に対し、3〜50質量部程度であることが好ましい。さらに5〜30質量部の範囲であれば高い耐熱性が得られ低吸水性となる。
【0043】
本発明による樹脂組成物は、シリコーンパウダーをさらに含んでもよい。シリコーンパウダーは燃焼時間を遅らせ、難燃効果を高める難燃助剤としての作用がある。また、シリコーンパウダーはドリル加工性を高める効果もある。シリコーンパウダーとしては、シロキサン結合が三次元網目状に架橋したポリメチルシルセスキオキサンを微粉末化したもの、ビニル基含有ジメチルポリシロキサンとメチルハイドロジェンポリシロキサンの付加重合物を微粉末化したもの、ビニル基含有ジメチルポリシロキサンとメチルハイドロジェンポリシロキサンの付加重合物による微粉末の表面にシロキサン結合が三次元網目状に架橋したポリメチルシルセスキオキサンを被覆させたもの、無機担持体表面にシロキサン結合が三次元網目状に架橋したポリメチルシルセスキオキサンを被服させたもの等を例示することができる。シリコーンパウダーの平均粒子径(D50)は特に限定されないが、分散性を考慮すると平均粒子径(D50)が1〜15μmであることが好ましい。
【0044】
シリコーンパウダーの配合量は特に限定されないが、樹脂固形成分の合計配合量100質量部に対し、1質量部以上30質量部以下が好ましく、2質量部以上20質量部以下が特に好ましい。ドリル加工性を向上させる観点から1質量部以上であることが好ましく、成形性や分散性の低下を防ぐ観点から30質量部以下が好ましい。
【0045】
本発明による樹脂組成物には、必要に応じ、硬化速度を適宜調節するために硬化促進剤を併用することも可能である。これらは、エポキシ樹脂やシアン酸エステル化合物やフェノール樹脂の硬化促進剤として一般に使用されるものであれば、特に限定されるものではない。これらの具体例としては、銅、亜鉛、コバルト、ニッケル等の有機金属塩類、イミダゾール類及びその誘導体、第3級アミン等が挙げられ、1種もしくは2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0046】
本発明による樹脂組成物には、所期の特性が損なわれない範囲において、他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及びそのオリゴマー、エラストマー類などの種々の高分子化合物、他の難燃性の化合物、添加剤などの併用も可能である。これらは一般に使用されているものであれば、特に限定されるものではない。例えば、難燃性の化合物では、メラミンやベンゾグアナミンなどの窒素含有化合物、オキサジン環含有化合物などが挙げられる。添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、光増感剤、染料、顔料、増粘剤、滑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、光沢剤、重合禁止剤等、所望に応じて適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0047】
本発明による樹脂組成物の製造方法はモリブデン化合物(A)、エポキシ樹脂(B)、硬化剤(C)と無機充填材(D)を組み合わせて樹脂組成物が得られるのであれば、特に限定されない。例えばエポキシ樹脂(B)にモリブデン化合物(A)、無機充填材(D)を配合し、ホモミキサー等で分散させ、そこへ硬化剤(C)を配合する方法などが挙げられる。さらに、粘度を下げ、ハンドリング性を向上させると共にガラスクロスとの含浸性を高めるために有機溶媒を添加することが望ましい。
【0048】
プリプレグ
本発明によるプリプレグは、上記の樹脂組成物を基材に含浸または塗布してなるものである。本発明によるプリプレグを製造する際において使用される基材には、各種プリント配線板材料に用いられている公知のものを使用することが出来る。例えば、Eガラス、Dガラス、Sガラス、NEガラス、Tガラス、Qガラス、球状ガラス等のガラス繊維、あるいはガラス以外の無機繊維、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルなどの有機繊維が挙げられ、目的とする用途や性能により適宜選択できる。形状としては織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマット、サーフェシングマットなどが挙げられる。厚みについては、特に制限はされないが、通常は0.01〜0.3mm程度を使用する。これらの基材の中でも面方向の膨張率とドリル加工性のバランスから、特にEガラスのガラス繊維を使用することが好ましい。
【0049】
本発明によるプリプレグの製造方法はモリブデン化合物(A)とエポキシ樹脂(B)と硬化剤(C)と無機充填剤(D)とを含んでなる樹脂組成物と、基材とを組み合わせたプリプレグが得られるものであれば、特に限定されない。例えば、上記の樹脂組成物と有機溶剤からなる樹脂ワニスを基材に含浸または塗布させた後、100〜200℃の乾燥機中で、1〜60分加熱させる方法などにより半硬化させ、プリプレグを製造する方法などが挙げられる。基材に対する樹脂組成物の付着量は、プリプレグの樹脂量(無機充填材を含む)で20〜90重量%の範囲が好ましい。
【0050】
有機溶剤は樹脂組成物の粘度を下げ、ハンドリング性を向上させると共にガラスクロスとの含浸性を高めるために用いられる。有機溶剤としてはエポキシ樹脂(B)、硬化剤(C)が溶解するものであれば、特に限定されるものではない。具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド類等が挙げられる。
【0051】
積層板
本発明の積層板は、上述のプリプレグを用いて積層成形したものである。具体的には前述のプリプレグを1枚あるいは複数枚以上を重ね、所望によりその片面もしくは両面に、銅やアルミニウムなどの金属箔を配置した構成で、積層成形することにより製造する。使用する金属箔は、プリント配線板材料に用いられるものであれば、特に限定されない。成形条件としては、通常のプリント配線板用積層板および多層板の手法が適用できる。例えば、多段プレス、多段真空プレス、連続成形、オートクレーブ成形機などを使用し、温度は100〜300℃、圧力は2〜100kgf/cm、加熱時間は0.05〜5時間の範囲が一般的である。また、本発明のプリプレグと、別途作製した内層用の配線板を組み合わせ、積層成形することにより、多層板とすることも可能である。以下に合成例、実施例、比較例を示し、本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0052】
合成例1
α−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物の合成
温度計、撹拌器、滴下漏斗及び還流冷却器を取りつけた反応器を予めブラインにより0〜5℃に冷却しておき、そこへ塩化シアン7.47g(0.122mol)、35%塩酸9.75g(0.0935mol)、水76ml、及び塩化メチレン44mlを仕込んだ。この反応器内の温度を−5〜+5℃、pHを1以下を保ちながら、撹拌下、α−ナフトールアラルキル(上記式(6)(式中のRは全て水素原子)、SN485、水酸基当量:214g/eq.軟化点:86℃、新日鐵化学(株)製)20g(0.0935mol)、及びトリエチルアミン14.16g(0.14mol)を塩化メチレン92mlに溶解した溶液を滴下漏斗により1時間かけて滴下し、滴下終了後、更にトリエチルアミン4.72g(0.047mol)を15分間かけて滴下した。
【0053】
滴下終了後、同温度で15分間撹拌後、反応液を分液し、有機層を分取した。得られた有機層を水100mlで2回洗浄した後、エバポレーターにより減圧下で塩化メチレンを留去し、最終的に80℃で1時間濃縮乾固させて、α−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物23.5gを得た。
【0054】
得られたシアン酸エステル化合物を、液体クロマトグラフィー及びIRスペクトルにより分析したところ、原料ピークは検出されなかった。また、13C−NMR及び1H−NMRにより、構造を同定した。水酸基からシアネート基への転化率は、99%以上であった。
【0055】
合成例2
BT樹脂(BT2610)の合成
2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(CX、三菱瓦斯化学株式会社製)40質量部と、ビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミジフェニル)メタン(BMI−70、ケイ・アイ化成株式会社製)60質量部とを150℃で熔融し、攪拌しながら混合樹脂がコーンプレート粘度計で1.2Pa・sとなるまで反応させた後、これをメチルエチルケトンに溶解させ、BT樹脂を得た。
【0056】
実施例1
ナフトールアラルキル型フェノール樹脂(SN−495、新日鐵化学(株)製、水酸基当量:236g/eq.)45質量部と、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC−3000−FH、エポキシ当量:320g/eq.、日本化薬(株)製)55質量部と、ベーマイト(APYRAL AOH60、Nabaltec製)(モース硬度3.5)150質量部と、湿潤分散剤(BYK−W903、ビッグケミージャパン(株)製)5質量部と、モリブデン酸亜鉛(日本無機化学工業(株)製)10質量部と、イミダゾール(2E4MZ、四国化成工業(株)製)0.03質量部とを混合してワニスを得た。このワニスをメチルエチルケトンで希釈し、厚さ0.1mmのEガラス織布に含浸塗工し、160℃で4分間加熱乾燥して、樹脂含有量50重量%のプリプレグを得た。
【0057】
金属箔張積層板の作成
得られたプリプレグを、それぞれ4枚重ねて12μm厚の電解銅箔(3EC−III、三井金属鉱業(株)製)を上下に配置し、圧力30kgf/cm2、温度220℃で120分間の積層成型を行い、絶縁層厚さ0.4mmの金属箔張積層板を得た。
【0058】
実施例2
モリブデン酸亜鉛(日本無機化学工業(株)製)を1質量部に減量した以外は実施例1と同様に行った。
【0059】
実施例3
モリブデン酸亜鉛(日本無機化学工業(株)製)10質量部の代わりにモリブデン酸(日本無機化学工業(株)製)10質量部を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0060】
実施例4
モリブデン酸亜鉛(日本無機化学工業(株)製)10質量部の代わりに三酸化モリブデン(日本無機化学工業(株)製)10質量部を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0061】
実施例5
モリブデン酸亜鉛(日本無機化学工業(株)製)10質量部の代わりにTF−2000(モリブデン酸アンモニウム、日本無機化学工業(株)製)10質量部を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0062】
実施例6
ナフトールアラルキル型フェノール樹脂(SN−495、新日鐵化学(株)製、水酸基当量:236g/eq.)45質量部の代わりに合成例1で作成したα−ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物(シアネート当量:261g/eq.)45質量部を用い、イミダゾール(2E4MZ、四国化成工業(株)製)0.03質量部の代わりにオクチル酸亜鉛0.01質量部用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0063】
実施例7
フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC−3000−FH、エポキシ当量:320g/eq.、日本化薬(株)製)55質量部の代わりにポリオキシルナフチレン型エポキシ樹脂(EXA−7311、エポキシ当量:277g/eq.)55量部を用いた以外は実施例1と同様に行った。
【0064】
実施例8
ベーマイト(APYRAL AOH60、Nabaltec製)(モース硬度3.5)150質量部の代わりに球状シリカ(SFP−130MC)(モース硬度7)150質量部を使用し、湿潤分散剤(BYK−W903、ビッグケミージャパン(株)製)5質量部の代わりに湿潤分散剤(Disperbyk161、ビッグケミージャパン(株)製)5質量部使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0065】
実施例9
ベーマイト(APYRAL AOH60、Nabaltec製)(モース硬度3.5)150質量部の代わりに炭酸マグネシウム(Ultracarb1200、Minelco製)(モース硬度3.5)150質量部を使用する以外は、実施例1と同様に行った。
【0066】
参考例10
ベーマイト(APYRAL AOH60、Nabaltec製)(モース硬度3.5)150質量部の代わりにアルミナ(新日鉄マテリアルズ株式会社マイクロン社製)(モース硬度9)600質量部を使用する以外は、実施例1と同様に行った。
【0067】
実施例11
実施例1においてナフトールアラルキル型フェノール樹脂(SN−495、新日鐵化学(株)製、水酸基当量:236g/eq.)5質量部を減量し、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC−3000−FH、エポキシ当量:320g/eq.、日本化薬(株)製)10質量部を減量し、代わりにビス(3−エチル−5−メチル−4−マレイミジフェニル)メタン(BMI−70、ケイ・アイ化成株式会社製)15質量部を使用した以外は、実施例1と同様に行った。
【0068】
実施例12
実施例1において、シリコーンパウダー(KMP−605、信越シリコーン製)10質量部を加えた以外は、実施例1と同様に行った。
【0069】
実施例13
ベーマイト(APYRAL AOH60、Nabaltec製)(モース硬度3.5)を60質量部に減量した以外は実施例1と同様に行った。
【0070】
比較例1
実施例1において、モリブデン酸亜鉛(日本無機化学工業(株)製)を加えなかった以外は、実施例1と同様に行った。
【0071】
比較例2
実施例1において、フェノールビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC−3000−FH、エポキシ当量:320g/eq.、日本化薬(株)製)を加えなかった以外は、実施例1と同様に行ったが、硬化しなかった。
【0072】
比較例3
実施例1において、ナフトールアラルキル型フェノール樹脂(SN−495、新日鐵化学(株)製、水酸基当量:236g/eq.)を加えなかった以外は、実施例1と同様に行ったが、硬化しなかった。
【0073】
比較例4
実施例1において、ベーマイト(APYRAL AOH60、Nabaltec製)(モース硬度3.5)を加えなかった以外は、実施例1と同様に行った。
【0074】
比較例5
ベーマイト(APYRAL AOH60、Nabaltec製)(モース硬度3.5)150質量部の代わりに水酸化マグネシウム(キスマ8SN、協和化学工業製)(モース硬度2.5)150質量部を使用し、モリブデン酸亜鉛(日本無機化学工業(株)製)を加えなかった以外は、実施例1と同様に行った。
【0075】
比較例6
ベーマイト(APYRAL AOH60、Nabaltec製)(モース硬度3.5)150質量部の代わりに水酸化マグネシウム(キスマ8SN、協和化学工業製)(モース硬度2.5)150質量部を使用する以外は、実施例1と同様に行った。
【0076】
比較例7
ベーマイト(APYRAL AOH60、Nabaltec製)(モース硬度3.5)150質量部の代わりに水酸化アルミニウム(CL−303、住友化学製)(モース硬度3)150質量部を使用する以外は、実施例1と同様に行った。
【0077】
比較例8
参考例10において、アルミナ(新日鉄マテリアルズ株式会社マイクロン社製)(モース硬度9)600質量部を800質量部に増量した以外は、参考例10と同様に行った。
【0078】
比較例9
実施例1において、ベーマイト(APYRAL AOH60、Nabaltec製)(モース硬度3.5)150質量部を30質量部に減量した以外は、実施例1と同様に行った。
【0079】
得られた金属箔張積層板を用いて、難燃性、耐熱性、熱膨張率、ドリル加工性の評価を行った。
【0080】
難燃性、熱膨張率は金属箔張積層板をエッチングにより銅箔を除去したのちに、下記方法にて行った。
難燃性:板厚が0.8mmのエッチングした積層板を用いて、UL94垂直燃焼試験法に準拠して評価した。
熱膨張率:熱機械分析装置(TAインスツルメント製)で40℃から340℃まで毎分10℃で昇温し、60℃から120℃での面方向の線膨張係数を測定した。測定方向は積層板のガラスクロスの縦方向(Warp)を測定した。
【0081】
耐熱性評価は、金属箔張積層板を下記方法で行った。
耐熱性:50×50mmのサンプルを、300℃半田に30分間フロートさせて、デラミネーションが発生するまでの時間を測定した。30分経過してもデラミネーションが発生しなかった場合は表に>30minと表した。
【0082】
ドリル加工性評価は、孔位置精度を下記のドリル加工条件で評価した。
加工機:日立ビアメカニクス(株)製 ND−1 V212
重ね数:金属箔張積層板4枚
エントリーシート:三菱瓦斯化学(株)製 LE450
バックアップボード:利昌工業(株)製 PS−1160D
ドリルビット:ユニオンツール(株)製 MD MC 0.18x3.3 L508A)
回転数:160krpm
送り速度:0.8m/min
ヒット数:3000
評価結果を表1、表2に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
比較例1は、実施例1よりも孔位置精度が劣っていた。比較例2は硬化しなかった。比較例3は硬化しなかった。比較例4は、実施例1よりも熱膨張率、難燃性が劣っていた。 比較例5は、実施例1よりも孔位置精度、熱膨張率、耐熱性が劣っていた。 比較例6は、実施例1よりも熱膨張率、耐熱性が劣っていた。 比較例7は、実施例1よりも熱膨張率、耐熱性が劣っていた。 比較例8は、参考例10よりも孔位置精度が劣っていた。 比較例9は、実施例1よりも熱膨張率、難燃性が劣っていた。
【0086】
以上より本発明により得られるプリプレグによる積層板は、耐熱性が高く、熱膨張率が小さく、かつドリル加工性に優れ、ハロゲン系難燃剤とリン化合物を難燃剤として用いることなく高度の難燃性を保持できることを確認した。