(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記切削工具の先端の曲率半径R1、すくい面と逃げ面で挟まれる角の曲率半径R2、2つの逃げ面で挟まれる角の曲率半径R3に対して、前記多結晶体の平均粒径が0.01×R1以上かつ0.01×R2以上かつ0.01×R3以上である請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の切削工具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
鉄系材料だけでなく、石英等の硬脆材料や金型等を光学部品レベルの高精度で加工するには、現状のダイヤモンドでは難しく、窒化ホウ素からなる高精度の工具が求められている。また、工具の刃先先端が鋭いだけでなく、すくい面と逃げ面で挟まれた角(かど)および2つの逃げ面で囲まれた角(かど)も鋭い工具を効率よく作製することが望まれている。
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、高精度の切削加工を実現する工具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、超精密加工用の切削工具において、従来の単結晶ダイヤモンドや金属結合材を含まないダイヤモンド多結晶体、または実質的に高圧相窒化ホウ素のみからなる多結晶体であって、切削工具の刃先先端の曲率半径をR1とし、切削工具の高圧相硬質粒子の焼結粒子の平均粒径をD
50とし、最大粒径をDmaxとしたとき、曲率半径R1、平均粒径D
50、及び最大粒径Dmaxが次の関係を満たす多結晶体を用いることにより、超精密加工用の切削工具が長期間安定した加工を得られることを見出した。
D
50 ≦1.2×R1
Dmax ≦2.0×R1
図10は曲率半径Rと平均粒径D
50、及び最大粒径Dmaxの関係を示す図である。
【0013】
また、本発明者らは、切削工具の刃先が集束イオンビームにより形成された面であり、逃げ面をすくい面に近い側の逃げ面Aと、該逃げ面Aに隣接する、すくい面からから遠い側の逃げ面Bに分割し、逃げ面Bをすくい面側から逃げ側に向けた集束イオンビームで加工した後、逃げ面Aを逃げ側からすくい面側に向けた集束イオンビームで加工することによって本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は以下に記載する通りの超精密加工用の切削工具である。
なお、特許請求の範囲に記載の発明は、以下に記載の発明の構成に限定を加えたものである。
(1)非ダイヤモンド型炭素物質および/または窒化ホウ素を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加無しに直接的に、ホウ素、炭素、および窒素からなる群より選ばれる1種類以上の元素からなる高圧相硬質粒子に変換焼結された多結晶体を切刃とした切削工具であって、
前記切削工具の刃先先端の曲率半径R1に対して、前記多結晶体を構成する焼結粒子の平均粒径が1.2×R1以下、最大粒径が2×R1以下であることを特徴とする切削工具。
(2)前記切削工具のすくい面と逃げ面で挟まれる角の曲率半径R2に対して、前記多結晶体を構成する焼結粒子の平均粒径が1.2×R2以下、最大粒径が2×R2以下であることを特徴とする上記(1)に記載の切削工具。
(3)前記切削工具の2つの逃げ面で挟まれる角の曲率半径R3に対して、前記多結晶体を構成する焼結粒子の平均粒径が1.2×R3以下、最大粒径が2×R3以下であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の切削工具。
(4)前記切削工具の刃先先端の曲率半径R1が50nm以下で、前記多結晶体を構成する焼結粒子の平均粒径が60nm以下、最大粒径が100nm以下であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の切削工具。
(5)前記切削工具のすくい面と逃げ面で挟まれる角の曲率半径R2が50nm以下で、前記多結晶体を構成する焼結粒子の平均粒径が60nm以下、最大粒径が100nm以下であることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかに記載の切削工具。
(6)前記切削工具の2つの逃げ面で挟まれる角の曲率半径R3が50nm以下で、前記多結晶体を構成する焼結粒子の平均粒径が60nm以下、最大粒径が100nm以下であることを特徴とする上記(3)〜(5)のいずれかに記載の切削工具。
(7)前記切削工具の刃先が集束イオンビームにより形成された面であり、逃げ面がすくい面に近い側の逃げ面Aと、該逃げ面Aに隣接する、すくい面から遠い側の逃げ面Bとからなることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の切削工具。
(8)前記逃げ面Aのすくい面との境界と、逃げ面Bとの境界との間の距離が3μm以下であることを特徴とする上記(7)に記載の切削工具。
(9)前記逃げ面Bをすくい面側から逃げ側に向けた集束イオンビームで加工した後、前記逃げ面Aを逃げ側からすくい面側に向けた集束イオンビームで加工して得られたことを特徴とする上記(7)又は(8)に記載の切削工具。
(10)前記多結晶体が導電性を持つことを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載の切削工具。
(11)前記切削工具の先端の曲率半径R1、すくい面と逃げ面で挟まれる角の曲率半径R2、2つの逃げ面で挟まれる角の曲率半径R3に対して、前記多結晶体の平均粒径が0.01×R1以上かつ0.01×R2以上かつ0.01×R3以上であることを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれかに記載の切削工具。
(12)前記多結晶体が、非ダイヤモンド型炭素物質を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加無しに直接的にダイヤモンドに変換焼結された、実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドであることを特徴とする上記(1)〜(11)のいずれかに記載の切削工具。
(13)前記多結晶体が、低圧相窒化ホウ素を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加無しに直接的に高圧相窒化ホウ素に変換焼結された、実質的に高圧相窒化ホウ素のみからなる多結晶窒化ホウ素であり、前記高圧相窒化ホウ素が立方晶窒化ホウ素および/またはウルツ鉱型窒化ホウ素であることを特徴とする上記(1)〜(11)のいずれかに記載の切削工具。
(14)前記切削工具がVバイト、フライカット、マイクログルーブのいずれかであることを特徴とする上記(1)〜(13)のいずれかに記載のダイヤモンド切削工具。
(15)非ダイヤモンド型炭素物質および/または窒化ホウ素を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加無しに直接的に、ホウ素、炭素、および窒素からなる群より選ばれる1種類以上の元素からなる高圧相硬質粒子に変換焼結された多結晶体を切刃とした切削工具の製造方法であって、
前記多結晶体をレーザーでチップ状にカットする工程と、
前記多結晶体チップをシャンクに接合する工程と、
前記多結晶体チップを研磨することにより、すくい面と逃げ面を作る工程と、
すくい面と逃げ面を集束イオンビームにより加工する工程とを含むことを特徴とする切削工具の製造方法。
(16)非ダイヤモンド型炭素物質および/または窒化ホウ素を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加無しに直接的に、ホウ素、炭素、および窒素からなる群より選ばれる1種類以上の元素からなる高圧相硬質粒子に変換焼結された多結晶体を切刃とした切削工具の製造方法であって、
前記多結晶体をレーザーでチップ状にカットする工程と、
前記多結晶体チップをシャンクに接合する工程と、
前記多結晶体チップを研磨することにより、すくい面と逃げ面を作る工程と、
前記多結晶体チップにマスクを形成する工程と、
ドライエッチングによりすくい面と逃げ面を作る工程と、
すくい面と逃げ面を集束イオンビームにより加工する工程とを含むことを特徴とする切削工具の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の超精密加工用の切削工具によれば、従来の単結晶ダイヤモンド、cBN焼結体を用いた超精密工具や、金属結合材を含むダイヤモンド焼結体および気相合成ダイヤモンドを用いた切削工具に比べて長期間高精度で安定した加工を得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る切削工具は、非ダイヤモンド型炭素物質および/または窒化ホウ素を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加なしに直接的に、ホウ素、炭素、および窒素からなる群より選ばれる1種類以上の元素からなる高圧相硬質粒子に変換焼結された多結晶体を切れ刃とするものである。そして、前記切削工具の刃先先端の曲率半径R1に対して、前記多結晶体を構成する焼結粒子の平均粒径が1.2×R1以下、最大粒径が2×R1以下であることを特徴とする。ここで述べる、ホウ素、炭素、および窒素からなる群より選ばれる1種類以上の元素からなる高圧相硬質粒子とは、ダイヤモンド、もしくは立方晶窒化ホウ素および/またはウルツ鉱型窒化ホウ素、もしくはダイヤモンド構造を持つBC
2Nのことである。
【0018】
本発明の超精密加工用の切削工具においては、前記多結晶体は、非ダイヤモンド型炭素物質を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加無しに直接的にダイヤモンドに変換焼結された、実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶ダイヤモンドであるか、あるいは、前記多結晶体が、低圧相窒化ホウ素を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加無しに直接的に高圧相窒化ホウ素に変換焼結された、実質的に高圧相窒化ホウ素のみからなる多結晶窒化ホウ素であることが好ましい。また、前記高圧相窒化ホウ素は、立方晶窒化ホウ素および/またはウルツ鉱型窒化ホウ素であることが好ましい。
【0019】
以下においては、ダイヤモンドを切刃に備えた切削工具、及び、窒化ホウ素を切刃に備えた切削工具を中心に本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定される物ではなく、ダイヤモンド構造を持つBC
2N等、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加なしに直接的に、ホウ素、炭素、および窒素からなる群より選ばれる1種類以上の元素からなる高圧相硬質粒子に変換焼結された多結晶体を切刃に備えた切削工具も同様にして製造することができ、また同様の効果を得ることができる。
【0020】
まず、本発明にかかる切削工具のうち、ダイヤモンド工具を構成するダイヤモンド多結晶体について以下に詳述する。
本発明の切削工具の材料である、コバルト等の金属結合材を含まない実質的にダイヤモンド単相(純度99%以上)のダイヤモンド多結晶体は、原料の黒鉛(グラファイト)やグラッシーカーボン、アモルファスカーボンなどの非ダイヤモンド型炭素を超高圧高温下(温度1800〜2600℃、圧力12〜25GPa)で、触媒や溶媒なしに直接的にダイヤモンドに変換させ、同時に焼結させることによって得ることが出来る。このようにして得られた多結晶ダイヤモンドからなるダイヤモンド工具には単結晶を用いたダイヤモンド工具に見られるような偏磨耗は起こらない。
【0021】
高純度グラファイトを出発物質として、12GPa以上、2200℃以上の超高圧高温下における間接加熱による直接変換焼結により、緻密で高純度な多結晶ダイヤモンドを得る方法は例えば下記の文献に開示されている。
非特許文献3:SEIテクニカルレビュー165(2004)68
特許文献 9 :特開2007−22888号公報
特許文献10:特許4275896号公報
【0022】
上記の各文献に記載の方法で得られるダイヤモンドを用いてダイヤモンド工具を製作してその加工性を調べると、非特許文献3に記載のものは平均粒径の約10倍程度の異常成長粒があるためか、また特許文献6に記載のものは添加した粗い原料から変換した粗粒ダイヤモンドを含むためか、まずその大きな粒子部分で磨耗が極端に進行することが分かった。この場合、被削材にスジ傷が入るなど目的の加工が得られないと言う問題点があった。また特に目的の刃先の曲率半径を大きく超える粒子があると、長期間切削している間に刃先形状が変化し、超精密加工には耐えられない性能であった。
そこで、多結晶ダイヤモンドを構成するダイヤモンド焼結粒子の粒径分布を刃先の曲率半径に応じて制御することが必要であることがわかった。粒径分布を制御したダイヤモンド工具を作製すると、極端に磨耗する粒子は無くなり、長期間安定した目的の加工を得ることが出来た。
【0023】
上記の問題は、ダイヤモンド工具の材料として、焼結粒子の平均粒径D
50と最大粒径Dmaxを刃先の曲率半径R1に応じて制御すれば解決できることが分かった。
すなわち、切削工具の刃先先端の曲率半径R1に対して、D
50≦1.2×R1、かつ、Dmax≦2×R1としたダイヤモンドの多結晶体を用いることである。
また、切削工具のすくい面と逃げ面で挟まれる角の曲率半径R2に対して、D
50≦1.2×R2、かつDmax≦2×R2とした多結晶体を用いることが好ましい。
また、切削工具の2つの逃げ面で挟まれる角の曲率半径R3に対して、D
50≦1.2×R3かつDmax≦2×R3とした多結晶体を用いることが好ましい。
好ましくは、切削工具の刃先先端、すくい面と逃げ面で挟まれる角、および2つの逃げ面で挟まれる角の曲率半径は全て50nm以下で、D
50≦60nm、Dmax≦100nmであることが超精密加工をする上で望ましい。
なお、本発明におけるR1、R2及びR3が工具のどの部分についてのものかについては
図11に示した。
図11に示すようにR3は、逃げ面が、第1逃げ面A(1XA)、第1逃げ面B(1XB)、第2逃げ面(2X)と3段に分かれている場合には、第1逃げ面A(1XA)と第2逃げ面(2X)の間の第1逃げ面B(1XB)同士に挟まれた角の曲率半径をいう。また、逃げ面が第1逃げ面、第2逃げ面と2段に分かれている場合には、すくい面に近い側の第1逃げ面同士に挟まれた角の曲率半径をR3とする。R2はすくい面(Y)と、逃げ面(X)(
図11中では第1逃げ面A(1XA))とに挟まれた角の曲率半径をいう。R1は工具の先端の刃先の曲率半径をいう。
【0024】
本発明の切削工具において、多結晶ダイヤモンドはダイヤモンド粒子内よりも粒子間の結合の方が強いという特徴がある。工具の刃先部分が単一のダイヤモンド粒子であれば、粒子内で劈開の発生等により欠損が生じるが、上記の粒径の範囲であれば粒子間ネットワークが必ず刃先に含まれるため、耐欠損性の高い工具を得ることができる。
また多結晶ダイヤモンドの平均粒径は、刃先の曲率半径R1、R2、R3に対し、D
50≧0.01×R1かつD
50≧0.01×R2かつD
50≧0.01×R3であることが望ましい。これ未満の粒径ではsp3結合を維持した多結晶ダイヤモンドの合成は実用上困難であり、実際にはsp2結合を含んでしまうため、耐磨耗性および耐欠損性が低下してくることが分かった。
【0025】
次に上記の微細な粒径の多結晶ダイヤモンドを超精密に加工する場合、従来の単結晶工具を加工するように研磨しても、微細な欠けが発生し、直線刃を出しにくいという問題があった。また、直線刃ができたとしても、研磨によってミクロな亀裂や歪みなどの加工ダメージが多結晶ダイヤモンドの組織内に導入されるため、工具寿命が短くなる問題もあった。そこで研磨で粗加工を行った後は、集束イオンビームで加工することで鋭利な刃先がダメージなしに形成されると期待される。しかし既に述べた通り、従来の方法ではすくい面と逃げ面で挟まれる角、あるいはおよび2つの逃げ面で挟まれる角など、どこかの稜線が鋭利にならなかった。
【0026】
本発明者らは次の加工により従来にない超精密加工用の切削工具を作製した。
まず、すくい面(Y)および逃げ面(X)を粗加工する(
図1)。次の高精度の刃先を作製するための工程では、従来の方法では
図4に示すように先の粗加工面を第2逃げ面(2X)とし、仕上研磨によって第1逃げ面(1X)を加工していた。それに対し、本発明ではまず2つの逃げ面で挟まれる角R3を鋭利にするために、集束イオンビームをすくい面(Y)から逃げ面(X)側に向けて高精度加工を行う(
図2)。この加工によりすくい面(Y)と逃げ面(X)に挟まれた角の曲率半径R2および刃先先端の曲率半径R1はやや丸みを帯びた形状になる。そこで最後に集束イオンビームを逃げ側(X)からすくい面(Y)に向けて高精度加工を行う(
図3)。ここで先のFIB加工した面は逃げ面B(1XB)、最後のFIB加工した面は逃げ面A(1XA)となる。以上の加工により、曲率半径R1,R2,R3全てが従来の加工法で得られなかった高精度の工具を得ることができる。なお、ここで述べるR3は特に2つの逃げ面B(1XB)で挟まれる角を意味する。
好ましくは、上記逃げ面A(1XA)のすくい面(Y)との境界と、逃げ面B(1XB)との境界との間の距離(L)は3μm以下であることが望ましい。3μmを超える距離となる場合、2つの逃げ面で挟まれる角R3などに丸みが生じ、高精度の工具を得ることができない。
【0027】
本発明の切削工具で用いる多結晶ダイヤモンドは導電性を有していても良い。これにより、先に述べた逃げ面の粗加工などを従来の研磨だけでなく、より安価な放電加工も用いることができる。また超精密加工では工具と被削材との接触の判定が困難であったが、導電性を持たせることにより電気的なセンサーにより正確な接触を判定することができる。上記の導電性を持たせるには、ホウ素、リン、水素等をドーピングすることができる。また、金属等の導電膜を表面にコーティングしても良い。
【0028】
また本発明者らはすくい面や逃げ面の加工で研磨を行った場合、研磨によって微細な亀裂等が多結晶ダイヤモンド中に発生し、工具の強度を低下させることを見出した。このため、すくい面や逃げ面の粗加工を研磨で行った後、反応性イオンエッチング等のドライエッチングによりすくい面や逃げ面を作る工程を入れることで、耐欠損性の良い工具が作れることがわかった。ドライエッチングを行わない場合は、集束イオンビームでの加工量を多くし、少なくとも5μm以上多結晶ダイヤモンドを研磨面から削ることが望ましい。
【0029】
これらの製造方法をまとめると、
非ダイヤモンド型炭素物質を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加無しに直接的にダイヤモンドに変換焼結する工程と
ダイヤモンドをレーザーでチップ状にカットする工程と、
ダイヤモンドチップをシャンクに接合する工程と、
ダイヤモンドチップを研磨することにより、すくい面と逃げ面を作る工程と、
ダイヤモンドチップにマスクを形成する工程と、
ドライエッチングによりすくい面や逃げ面を作る工程と、
すくい面と逃げ面の境界部を集束イオンビームにより加工する工程により、本発明の多結晶ダイヤモンド切削工具を得ることができる。
これらの超精密工具はVバイト、フライカット、マイクログルーブのいずれの種類に対しても適用可能である。
【0030】
続いて、本発明に係る切削工具のうち、窒化ホウ素工具を構成する窒化ホウ素多結晶体について以下に詳述する。
本発明の切削工具の材料である、コバルト等の金属結合材を含まない実質的に窒化ホウ素単相(純度99%以上)の高圧相窒化ホウ素多結晶体は、原料の低圧相窒化ホウ素(六方晶窒化ホウ素、hBN)を超高圧高温下(温度1100〜2600℃、圧力12〜25GPa)で、触媒や溶媒なしに直接的に高圧相窒化ホウ素に変換させ、同時に焼結させることによって得ることが出来る。ここで述べる高圧相窒化ホウ素とは、立方晶窒化ホウ素(cBN)および圧縮型六方晶窒化ホウ素(ウルツ鉱型窒化ホウ素、wBN)のことである。このようにして得られた高圧相窒化ホウ素多結晶体からなる窒化ホウ素工具は粒径が小さく、欠損や偏磨耗が起こらない。
【0031】
低圧相窒化ホウ素を出発物質として、9GPa以上、1700℃以上1900℃以下の超高圧高温下における間接加熱による直接変換焼結により、緻密で高純度な立方晶窒化ホウ素を得る方法は上記特許文献6や下記非特許文献4に開示されている。
非特許文献4:機械と工具2010年3月号80ページ
【0032】
上記の各文献に記載の方法で得られる立方晶窒化ホウ素を用いて窒化ホウ素工具を製作してその加工性を調べると、特許文献6に記載のものは非特許文献4の
図1で見られるように200nmを超える異常成長粒があるためか、まずその大きな粒子部分で磨耗が極端に進行することが分かった。この場合、被削材にスジ傷が入るなど目的の加工が得られないと言う問題点があった。また特に目的の刃先の曲率半径を大きく超える粒子があると、長期間切削している間に刃先形状が変化し、超精密加工には耐えられない性能であった。
そこで、多結晶窒化ホウ素を構成する窒化ホウ素焼結粒子の粒径分布を刃先の曲率半径に応じて制御することが必要であることがわかった。粒径分布を制御した高圧相窒化ホウ素工具を作製すると、極端に磨耗する粒子は無くなり、長期間安定した目的の加工を得ることが出来た。
【0033】
上記の問題は、高圧相窒化ホウ素工具の材料として、焼結粒子の平均粒径D
50と最大粒径Dmaxを刃先の曲率半径R1に応じて制御すれば解決できることが分かった。
すなわち、切削工具の刃先先端の曲率半径R1に対して、D
50≦1.2×R1、かつDmax≦2×R1とした多結晶体を用いることである。
また、切削工具のすくい面と逃げ面で挟まれる角の曲率半径R2に対して、D
50≦1.2×R2以下かつDmax≦2×R2以下とした多結晶体を用いることが好ましい。
また、切削工具の2つの逃げ面で挟まれる角の曲率半径R3に対して、D
50≦1.2×R3かつDmax≦2×R3とした多結晶体を用いることが好ましい。
好ましくは、切削工具の刃先先端、すくい面と逃げ面で挟まれる角、および2つの逃げ面で挟まれる角の曲率半径は全て50nm以下で、d≦60nm、D≦100nmであることが超精密加工をする上で望ましい。
なお、本発明の、窒化ホウ素を切刃に備えた切削工具におけるR1、R2及びR3は、ダイヤモンドを切刃に備えた切削工具において説明したものと同じであり、
図11に示す通りである。
【0034】
本発明の高圧相窒化ホウ素多結晶体は窒化ホウ素粒子内と粒子間の結合が同程度に強いという特徴がある。工具の刃先部分が単一の窒化ホウ素粒子であれば、粒子内で劈開の発生等により欠損が生じるが、上記の粒径の範囲であれば粒子間ネットワークが必ず刃先に含まれ、劈開しても粒子界面で欠損が停止するため、耐欠損性の高い工具を得ることができる。
また高圧相窒化ホウ素多結晶体を構成する窒化ホウ素焼結粒子の平均粒径D
50は、曲率半径R1、R2、R3に対し、D
50≧0.01×R1かつD
50≧0.01×R2かつD
50≧0.01×R3が望ましい。これ以下の粒径でsp3結合を維持した高圧相窒化ホウ素多結晶体の合成は実用上困難であり、実際にはsp2結合を含んでしまうため、耐磨耗性および耐欠損性が低下してくることが分かった。
【0035】
次に上記の微細な粒径の高圧相窒化ホウ素多結晶体を超精密に加工する場合、従来の窒化ホウ素工具を加工するように研磨しても、微細な欠けが発生し、直線刃を出しにくいという問題があった。また、直線刃ができたとしても、研磨によってミクロな亀裂や歪みなどの加工ダメージが高圧相窒化ホウ素多結晶体の組織内に導入されるため、工具寿命が短くなる問題もあった。そこで研磨で粗加工を行った後は、集束イオンビームで加工することで先鋭な刃先がダメージなしに形成されると期待される。しかし既に述べた通り、従来の方法ではすくい面と逃げ面で挟まれる角、あるいはおよび2つの逃げ面で挟まれる角など、どこかの稜線が鋭利にならなかった。
【0036】
このため、本発明者らは種々の検討を重ねた結果、窒化ホウ素を切刃に備えた切削工具においても、前述のダイヤモンドを切刃に備えた切削工具の場合と同様に加工することにより、従来にない超精密加工用の切削工具を作製できることを見出した。すなわち、
図1〜
図3を用いて説明した前記の加工方法により、本発明の切削工具を作製することができる。
【0037】
本発明の工具で用いる窒化ホウ素多結晶体は導電性を有していても良い。これにより、電気的なセンサーで工具と被削材との接触を正確に判定することができる。上記の導電性を持たせるには、表面に金属などの導電性材料を薄く蒸着することができる。
これらの超精密工具はVバイト、フライカット、マイクログルーブのいずれの種類に対しても適用可能である。
【0038】
本発明の窒化ホウ素切削工具は、低圧相窒化ホウ素を出発物質として、超高圧高温下で焼結助剤や触媒の添加無しに直接的に高圧相窒化ホウ素に変換焼結された、実質的に高圧相窒化ホウ素のみからなる多結晶窒化ホウ素を加工することによって得ることができる。
加工方法としては例えば次の二つの加工方法を挙げることができる。
<加工方法A>
以下の各工程を順に行う方法
(1)多結晶窒化ホウ素をレーザーでチップ状にカットする工程
(2)窒化ホウ素チップをシャンクに接合する工程
(3)窒化ホウ素チップを研磨することによりすくい面と逃げ面とを作る工程
(4)すくい面と逃げ面の境界部を集束イオンビームにより加工する工程
<加工方法B>
以下の各工程を順に行う方法
(1)窒化ホウ素をレーザーでチップ状にカットする工程
(2)窒化ホウ素チップをシャンクに接合する工程
(3)窒化ホウ素チップを研磨によりすくい面と逃げ面を作る工程
(4)窒化ホウ素チップにマスクを形成する工程
(5)ドライエッチングによりすくい面や逃げ面を作る工程
(6)すくい面と逃げ面の境界部を集束イオンビームにより加工する工程
【0039】
続いて、本発明にかかる切削工具のうち、BC
2N工具を構成するBC
2N多結晶体について以下に詳述する。
本発明の切削工具の材料である、コバルト等の金属結合材を含まない実質的にBC
2N単相(純度99%以上)のBC
2N多結晶体は、原料の低圧相BC
2N(グラファイト状BC
2N)などの非ダイヤモンド型BC
2Nを超高圧高温下(温度1800〜2600℃、圧力12〜25GPa)で、触媒や溶媒なしに直接的に高圧相BC
2N(ダイヤモンド構造)に変換させ、同時に焼結させることによって得ることが出来る。このようにして得られた多結晶BC
2NからなるBC
2N工具には単結晶を用いたBC
2N工具に見られるような偏磨耗は起こらない。
なお、グラファイト状BC
2Nはこの他に、ホウ酸の窒化と、サッカロースの炭化を溶融尿素中で炭化させるなどして合成しても良いし、BCl
3ガスとアセトニトリルをモル比1:1で反応管に導入して、高周波誘導加熱により昇温したカーボン上にグラファイト状BC
2N膜を蒸着しても良い。
【0040】
上記のようなBC
2N工具の材料として、焼結粒子の平均粒径D
50と最大粒径Dmaxを刃先の曲率半径R1に応じて制御することにより本発明の切削工具とすることができる。すなわち、切削工具の刃先先端の曲率半径R1に対して、D
50≦1.2×R1、かつDmax≦2×R1とした多結晶体を用いる。
また、切削工具のすくい面と逃げ面で挟まれる角の曲率半径R2に対して、D
50≦1.2×R2以下かつDmax≦2×R2以下とした多結晶体を用いることが好ましい。
また、切削工具の2つの逃げ面で挟まれる角の曲率半径R3に対して、D
50≦1.2×R3かつDmax≦2×R3とした多結晶体を用いることが好ましい。
切削工具の刃先先端、すくい面と逃げ面で挟まれる角、および2つの逃げ面で挟まれる角の曲率半径は全て50nm以下で、d≦60nm、D≦100nmであることが超精密加工をする上で望ましい。
なお、本発明の、BC
2N多結晶体を切刃に備えた切削工具におけるR1、R2及びR3は、ダイヤモンドを切刃に備えた切削工具において説明したものと同じであり、
図11に示す通りである。
【0041】
BC
2N多結晶体を切刃に備えた切削工具においても、前述のダイヤモンドを切刃に備えた切削工具の場合と同様に加工することにより、従来にない超精密加工用の切削工具を作製できる。すなわち、
図1〜
図3を用いて説明した前記の加工方法により、本発明の切削工具を作製することができる。
【0042】
また、本発明の工具で用いるBC
2N多結晶体は導電性を有していても良い。これにより、電気的なセンサーで工具と被削材との接触を正確に判定することができる。上記の導電性を持たせるには、表面に金属などの導電性材料を薄く蒸着することができる。
これらの超精密工具はVバイト、フライカット、マイクログルーブのいずれの種類に対しても適用可能である。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例及び比較例を挙げることによってより詳細に説明するが、これらの実施例は例示的なものであり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
まず、測定・評価方法について説明する。
【0044】
<平均粒径>
本発明の実施例では原料の非ダイヤモンド型炭素として黒鉛焼成体を用いた。また、原料の低圧相(六方晶)窒化ホウ素粒子及び高圧相窒化ホウ素多結晶体
本発明においては原料の黒鉛焼成体中のグラファイト粒子、ダイヤモンド多結晶体中のダイヤモンド焼結粒子、低圧相(六方晶)窒化ホウ素粒子、及び高圧相窒化ホウ素多結晶体中の窒化ホウ素焼結粒子の平均粒径(D
50)及び最大粒径(Dmax)は走査型電子顕微鏡により倍率10〜50万倍で写真撮影像を元にして画像解析を実施することで得た。
以下にその詳細方法を示す。
まず、試料表面を仕上げ研磨もしくはCP加工し、該試料を走査型電子顕微鏡で撮影した撮影像を元に焼結体を構成する結晶粒の粒径分布を測定する。具体的には、画像解析ソフト(例えば、Scion Corporation社製、ScionImage)を用いて、個々の粒子を抽出し、抽出した粒子を2値化処理して各粒子の面積(S)を算出する。そして、各粒子の粒径(D)を、同じ面積を有する円の直径(D=2√(S/π))として算出する。
次に、上記で得られた粒径分布をデータ解析ソフト(例えば、OriginLab社製Origin、Parametric Technology社製Mathchad等)によって処理し、D
50粒径、最大粒径Dmaxを算出する。
以下に記載する実施例、比較例では走査型電子顕微鏡として日本電子製JSM−7600Fを用いた。
【0045】
[実施例1]
粒径0.1〜10μm、純度99.9%以上のグラファイトをMo製カプセルに入れ、ベルト型高圧発生装置を用いて、10GPa、2100℃で30分間処理し、多結晶ダイヤモンドを形成した。この試料の粒径を電子顕微鏡により観察した。平均粒径と最大粒径は表1のようになった。
【0046】
これにレーザーカットおよび研磨によって粗加工してチップ形状を作り、シャンクにロウ付けを行った。次に粗研磨によってVバイトのすくい面および逃げ面を形成した。
次に
図5のようにすくい面(Y)側から逃げ面(X)側にビームが向くように工具をステージに設置し、集束イオンビーム装置に導入した。これにVバイトの両側に対してイオン電流1000pA以下で逃げ面B(1XB)を形成した。工具を傾けて2つの逃げ面に挟まれた角を観察した。曲率半径R3を表1に記載した。
【0047】
次に工具を取り出して、
図6のように逃げ面(X)側からすくい面(Y)側にビームが向くように工具をステージに設置し、集束イオンビーム装置に導入した。これにVバイトの両側に対してイオン電流500pA以下で逃げ面A(1XA)を形成した。刃先曲率半径R1、すくい面(Y)と逃げ面(1XA)に挟まれた角の曲率半径R2、逃げ面A(1XA)のすくい面(Y)との境界と、逃げ面B(1XB)との境界との間の距離Lを表1に示す。
以上の加工により、
図7に示すような先端90度のVバイトが完成した。同様の方法で
図8に示すような先端40度やそれ以下の先鋭Vバイトも加工することができる。
【0048】
次に工具を超精密ナノ加工機に設置し、WC-Co-Niを主体とした被削材に溝入れ加工を行った。送り速度10mm/min、切込み量を300μm、切削長1000mmとした。切削結果を表1にまとめる。
【0049】
[実施例2]
実施例1より粒径の小さいナノ多結晶ダイヤモンドを使用した以外は、実施例1と同様にしてVバイトを作製した。
【0050】
[実施例3]
ホウ素ドープした導電性ナノ多結晶ダイヤモンドを使用した以外は、実施例1と同様にしてVバイトを作製した。
【0051】
[比較例1〜7]
比較例として、単結晶ダイヤモンドを用いた例、粒径の異なる多結晶ダイヤモンドを用いた例、工具加工法が異なる例を表1に記載した。
【0052】
表1に示すように、比較例ではどれも加工中の欠損あるいは耐磨耗性不足による溝形状の不良が発生した。特に比較例7では集束イオンビームを使わずに加工したが、加工中の欠損が多発し、R1,R2,R3全て先鋭な工具の作製は不可能だった。R1についてのみ先鋭な加工に成功したが、集束イオンビームを使って加工した工具に比べて早い段階で工具の破損が発生した。また、すくい面と逃げ面で挟まれる稜線にも研磨のダメージによる欠損が多発し、加工の初期から面粗さの大きな溝となった。一方、本発明の超精密加工用の切削工具では欠損することなく全長で曲率半径100nm以下の溝を加工することが出来た。
【0053】
【表1】
【0054】
[実施例4]
粒径0.1〜10μm、純度99.9%以上のグラファイトをMo製カプセルに入れ、ベルト型高圧発生装置を用いて、10GPa、2100℃で30分間処理し、多結晶ダイヤモンドを形成した。この試料の粒径を電子顕微鏡により観察した。平均粒径は30nmと最大粒径90nmとなった。
これにレーザーカットおよび研磨によって粗加工してチップ形状を作り、シャンクにロウ付けを行った。次に粗研磨によって
図9に示すような溝入れバイトのすくい面(Y)および第2逃げ面(2X)を形成した。
【0055】
次に
図5のようにすくい面(Y)側から逃げ面(X)側にビームが向くように工具をステージに設置し、集束イオンビーム装置に導入した。これに溝入れバイトの側面L,Rに対してイオン電流1000pA以下で逃げ面B(1XB)を形成し、最後に溝入れバイトブの先端面Tの逃げ面B(1XB)を形成した。側面Rと先端面Tの2つの逃げ面に挟まれた角の曲率半径R3R、側面Lと先端面Tの2つの逃げ面に挟まれた角の曲率半径R3Lは表2のようになった。
【0056】
次に工具を取り出して、
図6のように逃げ面(X)側からすくい面(Y)側にビームが向くように工具をステージに設置し、集束イオンビーム装置に導入した。これに溝入れバイトの側面L,Rに対してイオン電流500pA以下で逃げ面A(1XA)を形成し、最後に溝入れバイトの先端面Tの逃げ面A(1XA)を形成し、溝入れバイトを完成させた。側面Rと先端面Tで作る刃先曲率半径R1R、側面Lと先端面Tで作る刃先曲率半径R1L、すくい面と側面R,側面L,先端面Tの逃げ面に挟まれた角の曲率半径R2R、R2L、R2T、逃げ面Aの端のすくい面からの距離LR、LL、LTは表2に示す。
【0057】
次に工具を超精密ナノ加工機に設置し、WC-Co-Niを主体とした被削材に溝入れ加工を行った。送り速度10mm/min、切込み量を200μm、切削長1000mmとした。本発明の超精密加工用の切削工具では欠損することなく全長で曲率半径100nm以下の溝を加工することが出来た。
【0058】
【表2】
【0059】
[実施例5]
粒径0.1〜10μm、純度99.9%以上の六方晶窒化ホウ素をMo製カプセルに入れ、ベルト型高圧発生装置を用いて、13GPa、1650℃で30分間処理し、高圧相窒化ホウ素多結晶体を形成した。結晶構造はX線回折により判定し、試料の粒径は電子顕微鏡により観察した。平均粒径と最大粒径は表3のようになった。
【0060】
これにレーザーカットおよび研磨によって粗加工してチップ形状を作り、シャンクにロウ付けを行った。次に粗研磨によってVバイトのすくい面および逃げ面を形成した。
次に
図5のようにすくい面(Y)側から逃げ面(X)側にビームが向くように工具をステージに設置し、集束イオンビーム装置に導入した。これにVバイトの両側に対してイオン電流1000pA以下で逃げ面B(1XB)を形成した。工具を傾けて2つの逃げ面に挟まれた角を観察した。曲率半径R3を表3に記載した。
【0061】
次に工具を取り出して、
図6のように逃げ面(X)側からすくい面(Y)側にビームが向くように工具をステージに設置し、集束イオンビーム装置に導入した。これにVバイトの両側に対してイオン電流500pA以下で逃げ面A(1XA)を形成した。刃先曲率半径R1、すくい面(Y)と逃げ面(1XA)に挟まれた角の曲率半径R2、逃げ面A(1XA)のすくい面(Y)との境界と、逃げ面B(1XB)との境界との間の距離Lを表3に示す。
以上の加工により、
図7に示すような先端90度のVバイトが完成した。同様の方法で
図8に示すような先端40度やそれ以下の先鋭Vバイトも加工することができる。
【0062】
次に工具を超精密ナノ加工機に設置し、ステンレス鋼(SUS304)に溝入れ加工を行った。送り速度2m/min、切込み量を5μm、切削長300mmとした。切削結果を表3にまとめる。
【0063】
[実施例6]
高圧相窒化ホウ素に立方晶だけでなく、一部ウルツ鉱型が含まれ、粒径が細かい点以外は実施例5と同様にしてVバイトを作製した。
【0064】
[実施例7]
実施例5と粒径が異なる以外は、実施例5と同様にしてVバイトを作製した。
【0065】
[比較例9〜14]
比較例として、単結晶ダイヤモンドを用いた例、多結晶ダイヤモンドを用いた例、粒径の異なる高圧相窒化ホウ素を用いた例、工具加工法が異なる例を表3に記載した。
【0066】
比較例ではどれも加工中の欠損あるいは耐磨耗性不足による溝形状の不良が発生した。特に比較例14では集束イオンビームを使わずに加工したが、加工中の欠損が多発し、R1,R2,R3全て先鋭な工具の作製は不可能だった。R1についてのみ先鋭な加工に成功したが、集束イオンビームを使って加工した工具に比べて早い段階で工具の破損が発生した。また、すくい面と逃げ面で挟まれる稜線にも研磨のダメージによる欠損が多発し、加工の初期から面粗さの大きな溝となった。一方、本発明の超精密加工用の切削工具では欠損することなく全長で曲率半径100nm以下の溝を加工することが出来た。
【0067】
【表3】
【0068】
[実施例8]
粒径0.1〜10μm、純度99.9%以上の六方晶窒化ホウ素をMo製カプセルに入れ、ベルト型高圧発生装置を用いて、12GPa、1650℃で30分間処理し、高圧相窒化ホウ素を形成した。この試料の粒径を電子顕微鏡により観察した。平均粒径は30nmと最大粒径90nmとなった。
これにレーザーカットおよび研磨によって粗加工してチップ形状を作り、シャンクにロウ付けを行った。次に粗研磨によって
図9に示すような溝入れバイトのすくい面(Y)および第2逃げ面(2X)を形成した。
【0069】
次に
図5のようにすくい面(Y)側から逃げ面(X)側にビームが向くように工具をステージに設置し、集束イオンビーム装置に導入した。これに溝入れバイトの側面L,Rに対してイオン電流1000pA以下で逃げ面B(1XB)を形成し、最後に溝入れバイトの先端面Tの逃げ面B(1XB)を形成した。側面Rと先端面Tの2つの逃げ面に挟まれた角の曲率半径R3R、側面Lと先端面Tの2つの逃げ面に挟まれた角の曲率半径R3Lは表4のようになった。
【0070】
次に工具を取り出して、
図6のように逃げ側(1XB)からすくい面(Y)側にビームが向くように工具をステージに設置し、集束イオンビーム装置に導入した。これに溝入れバイトの側面L,Rに対してイオン電流500pA以下で逃げ面A(1XA)を形成し、最後に溝入れバイトの先端面Tの逃げ面A(1XA)を形成し、溝入れバイトを完成させた。側面Rと先端面Tで作る刃先曲率半径R1R、側面Lと先端面Tで作る刃先曲率半径R1L、すくい面と側面R,側面L,先端面Tの逃げ面に挟まれた角の曲率半径R2R、R2L、R2T、逃げ面Aの端のすくい面からの距離LR、LL、LTは表4に示す。
【0071】
次に工具を超精密ナノ加工機に設置し、ステンレス鋼(SUS304)に溝入れ加工を行った。送り速度2m/min、切込み量を5μm、切削長300mmとした。本発明の超精密加工用の切削工具では欠損することなく全長で曲率半径100nm以下の溝を加工することが出来た。
【0072】
【表4】
【0073】
[実施例9]
BCl
3ガスとアセトニトリルをモル比1:1で反応管に導入して、高周波誘導加熱により1800℃に昇温したカーボン上にグラファイト状BC
2N膜を蒸着した。次にこれを粉砕して粒径0.1〜10μmにしてMo製カプセルに入れ、ベルト型高圧発生装置を用いて、25GPa、2200℃で30分間処理し、ダイヤモンド状多結晶BC
2Nを形成した。この試料の粒径を電子顕微鏡により観察した。平均粒径と最大粒径は表5のようになった。
【0074】
これにレーザーカットおよび研磨によって粗加工してチップ形状を作り、シャンクにロウ付けを行った。次に粗研磨によってVバイトのすくい面および逃げ面を形成した。
次に
図5のようにすくい面(Y)側から逃げ面(X)側にビームが向くように工具をステージに設置し、集束イオンビーム装置に導入した。これにVバイトの両側に対してイオン電流1000pA以下で逃げ面B(1XB)を形成した。工具を傾けて2つの逃げ面に挟まれた角を観察した。曲率半径R3を表5に記載した。
【0075】
次に工具を取り出して、
図6のように逃げ側(X)からすくい面(Y)側にビームが向くように工具をステージに設置し、集束イオンビーム装置に導入した。これにVバイトの両側に対してイオン電流500pA以下で逃げ面A(1XA)を形成した。刃先曲率半径R1、すくい面(Y)と逃げ面(1XA)に挟まれた角の曲率半径R2、逃げ面A(1XA)のすくい面(Y)との境界と、逃げ面B(1XB)との境界との間の距離Lを表5に示す。
以上の加工により、
図7に示すような先端90度のVバイトが完成した。同様の方法で
図8に示すような先端40度やそれ以下の先鋭Vバイトも加工することができる。
【0076】
次に工具を超精密ナノ加工機に設置し、WC-Co-Niを主体とした被削材に溝入れ加工を行った。送り速度10mm/min、切込み量を300μm、切削長1000mmとした。切削結果を表5にまとめる。
【0077】
[実施例10]
実施例9より粒径の小さいナノ多結晶BC
2Nを使用した以外は、実施例9と同様にしてVバイトを作製した。
【0078】
[実施例11]
ホウ素ドープした導電性ナノ多結晶BC
2Nを使用した以外は、実施例1と同様にしてVバイトを作製した。
【0079】
[比較例15〜21]
比較例として、単結晶ダイヤモンドを用いた例、粒径の異なる多結晶BC
2Nを用いた例、工具加工法が異なる例を表5に記載した。
【0080】
表5に示すように、比較例ではどれも加工中の欠損あるいは耐磨耗性不足による溝形状の不良が発生した。特に比較例21では集束イオンビームを使わずに加工したが、加工中の欠損が多発し、R1,R2,R3全て先鋭な工具の作製は不可能だった。R1についてのみ先鋭な加工に成功したが、集束イオンビームを使って加工した工具に比べて早い段階で工具の破損が発生した。また、すくい面と逃げ面で挟まれる稜線にも研磨のダメージによる欠損が多発し、加工の初期から面粗さの大きな溝となった。一方、本発明の超精密加工用の切削工具では欠損することなく全長で曲率半径100nm以下の溝を加工することが出来た。
【0081】
【表5】