特許第5958861号(P5958861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エイブル株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人東京女子医科大学の特許一覧

<>
  • 特許5958861-培養装置 図000002
  • 特許5958861-培養装置 図000003
  • 特許5958861-培養装置 図000004
  • 特許5958861-培養装置 図000005
  • 特許5958861-培養装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958861
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   C12M3/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-6975(P2013-6975)
(22)【出願日】2013年1月18日
(65)【公開番号】特開2014-135940(P2014-135940A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年10月13日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度〜平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、内閣府最先端研究開発支援プログラムの研究課題「再生医療産業化に向けたシステムインテグレーション―臓器ファクトリーの創生―」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591101490
【氏名又は名称】エイブル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(74)【代理人】
【識別番号】100118083
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 孝美
(72)【発明者】
【氏名】和田 昌憲
(72)【発明者】
【氏名】松浦 勝久
(72)【発明者】
【氏名】清水 達也
(72)【発明者】
【氏名】岡野 光夫
【審査官】 松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−534335(JP,A)
【文献】 特表2002−510996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
G01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバーを介して、培養液の所定の特性を計測するための計測手段が取り外し可能に培養槽に接続される培養装置であって、
前記培養槽は、全体として略円筒形状を有しており、
前記培養槽は、前記培養槽の側壁から半径方向外方へ延びる、全体として円筒形状のポートを備え、前記ポートは、該ポートの長手方向軸線が前記略円筒形状の培養槽の中心軸線に対して垂直になるように配設されており、
前記培養装置は、前記計測器の前記光ファイバーを着脱可能に受け入れる光ファイバー受け入れ部を有する、前記ポートに嵌合可能なセンサコネクタであって、前記センサコネクタは、円筒形状の先端側部と基端側部との2区画を有する全体として円筒形状を有しており、前記先端側部は、外側の外筒部と、前記外筒部より内側に配置される内筒部とを有する、センサコネクタを備え、
前記ポートは、前記培養槽の側壁側の内側端部と、前記内側端部とは反対側の外側端部と、前記センサコネクタを受け入れる通路を画成する内周面とを有し、前記ポートの前記外側端部に隣接する部分には、半径方向外側に向かって突出するねじ条が形成されており、前記ポートの内周面は、前記外側端部から前記内側端部に向かって先細りするように形成されており、
前記センサコネクタの前記内筒部の外周面は、該内筒部の先端に向かって先細りするように形成されており、
前記センサコネクタの前記外筒部の内周面には、前記ポートのねじ条とねじ係合可能な、ねじ条が形成されており、
前記センサコネクタの前記内筒部の先端は先端壁部により閉じられており、前記先端壁部は前記センサコネクタの中心軸線に対して垂直であり、前記先端壁部の外側面には、前記光ファイバーを介して照射された光により培養液の所定の特性に対応した蛍光を発光する蛍光物質を含む蛍光プローブが固着されており、
前記センサコネクタの、前記内筒部及び前記外筒部より前記培養槽から遠い部分に、光ファイバーを前記センサコネクタ内に保持するためのストッパが設けられる
ことを特徴とする、培養装置。
【請求項2】
前記センサコネクタの前記内筒部の長さは、前記センサコネクタを前記ポートに取り付けたときに前記内筒部の前記先端壁部が前記培養槽の前記側壁の内面と面一となる長さである、請求項1に記載の培養装置。
【請求項3】
前記センサコネクタの先端壁部の外側面に固着される蛍光プローブはパッチ形状である請求項1又は2に記載の培養装置。
【請求項4】
前記ポートは雌ルアーコネクタとして形成され、前記センサコネクタは雄ルアーコネクタとして形成されている、請求項1〜3に記載の培養装置。
【請求項5】
前記請求項1〜4のいずれか1項に記載の培養装置と、前記培養装置の前記蛍光プローブに光ファイバーを介して光を照射し、蛍光プローブにより発光された蛍光を受け取るための受発光部を有する計測手段とを備える、培養装置システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養装置、及びその培養装置を含む培養装置システムに関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞は生体のあらゆる組織・臓器の細胞へと分化し得ることから、近年、研究開発が盛んに行われている。これらの多能性幹細胞は、細胞治療の新たな細胞供給源となり得ることから、臨床応用への期待が高まっている。しかし、多能性幹細胞はあらゆる組織の細胞への分化能を有しているがため、未分化な状態を維持しつつ、大量に増幅培養させることが難しく、従来の培養法とは異なる培養法が必要である。多能性幹細胞の未分化状態を維持しつつ増幅培養させる方法として、胚様体(embryoid body:EB)と呼ばれる細胞凝集塊を形成させて培養する方法が知られている。これは、脊椎動物が受精後、卵割を繰り返して形成する胚を模倣するよう、細胞の塊を形成させる培養方法である。胚様体を形成させることにより、胚の発生を模倣し、各種の成長因子等を添加することで任意の細胞へと分化誘導することが可能となる。
【0003】
ES細胞やiPS細胞を分化誘導するには、胚様体形成の過程を経る必要がある。胚様体の形成には様々な手法がある。例えば、低接着性の培養皿を用いる方法や、ハンギングドロップ法と呼ばれる培養皿の蓋に細胞を含む培養液を付着させる方法や、浮遊撹拌培養する方法などが挙げられる。浮遊撹拌による3次元培養は、工程の制御が可能で、且つ、スケールアップに適している。一方、特にヒト由来のES/iPS細胞は、シェアストレスに対して非常に敏感であるため、浮遊撹拌培養において低シェアストレスの撹拌手段が求められる。そのために、例えば、撹拌翼の翼面積を小さくする、撹拌時の翼の先端速度を抑える、などの手段がとられる。胚様体形成では、ES細胞やiPS細胞は未分化性を維持しながら胚様体内で増殖し、胚様体の比重が増すので、このような手段を画一的に採用すると、不均一な培養になり目的とする細胞を高収率で得られない。その主な原因として、培養槽内の液流が不均一な箇所に胚様体が凝集し、さらに比重が増すことにより浮遊撹拌自体が成り立たなくなることが挙げられる。
【0004】
また、粒径があまりにも大きくなった胚様体は、胚様体内部の細胞が虚血(低栄養、低酸素)状態に陥り細胞死を助長するし、培地中に添加した分化誘導因子の内部への均一な到達(拡散)にも支障を来す。不均一な粒径の細胞凝集塊が形成された場合には、任意の細胞へ分化させるに際し、添加する栄養、酸素、分化誘導因子等が細胞凝集塊内部に浸透させることができず、細胞生育と分化誘導を阻害してしまう。
【0005】
液流の観点からの培養方法としては、従来、撹拌軸に対して一定の傾斜角度で取り付けられた複数枚の翼からなる撹拌翼を用いて撹拌軸に対して鉛直な流れを作り出す方法(軸流培養)や、培養槽底面に対して垂直に立てた数枚の大型パドルや先端が太くなったバルブ形状の撹拌軸を回転することにより水平方向(上からみるとドーナツ状)の流れをつくる方法(層流培養)などが一般的であった。軸流培養は、培養槽内全体を低回転で均一にかき回すために、多枚数の撹拌翼が必要となり、回転によるシェアストレスが増大する恐れがある。また、構造上軸直下に淀みが出来やすく、細胞の増殖に伴って比重が増した細胞凝集塊(胚様体など)が沈殿して均一な粒径の細胞凝集塊が得難いという問題もある。層流培養は、乱流を起こさない程度の回転速度に設定すれば極低シェアストレスの撹拌を実現しやすいが、ドーナツ状の液流の中心部は淀みが出来やすいという問題がある。
【0006】
そこで、本願出願人は、細胞培養に際し、低シェアストレスで、かつ、培養槽内の液流の淀みのない、特に、底部中心近傍に淀みのない層流培養を可能とし、もって均一な粒径の細胞凝集塊(胚様体など)の集団を、簡便に、且つ、再現性良く得ることが可能な細胞培養装置を開発した(特願2012−131597号)。
【0007】
上述したような細胞培養装置によれば、培養槽内の液を均一化することが可能となる。一方で、培養装置においては、最適な培養状態を保つために培養槽内の培養液中の溶存酸素(DO)、pH、温度、溶存炭酸ガス等の特性を計測するための計測器(計測手段)が備えられている。従来、培養槽内の培養液中の、上記したような特性の計測のために、例えば、溶存酸素の場合ではガルバニ電池式あるいはポーラログラフ式、pHの場合ではガラス複合電極等の棒状のセンサを直接培養槽内に挿入すること等が行われている。かかる手法に使用される従来の計測器には、例えば米国ハミルトン社から販売されている、電極式等の棒状のセンサで培養槽挿入型のものが知られている。
【0008】
しかしながら、培養液量が数10mL乃至100mL程度の小容量の培養液中でヒトのiPS細胞等を培養するためには、このような従来の手法では、液量に対する各種センサによる排除体積(すなわち、センサが培養液中に没する部分の体積)が大きすぎるため、培養槽内における均一な撹拌を妨げてしまう虞がある。したがって、培養槽内における均一撹拌を実現するためには、培養槽および撹拌翼の形状の工夫だけでなく、各種センサを均一撹拌の妨げにならない程度にまで小型化することが必要である。
【0009】
センサの小型化のためには、従来型の棒状のセンサの設計を見直すこと、光学式計測方法を導入すること等が考えられるが、センサ等の挿入による排除体積を最小にするためには後者の手法が望ましい。かかるセンサとしては、例えば独国プレセンス社から市販されているパッチ型(スポット)の蛍光プローブ(計測手段の一部、溶存酸素やpHに応じて蛍光特性が変化する性質をもつ発光物質(蛍光物質)が塗布等されたパッチ形状(パッチ型)(例えば、円形等の適宜形状の薄手小片)のもの)と、光ファイバーを介して蛍光プローブへ光を照射し且つ蛍光プローブからの蛍光を受光するための受発光部等を備えた計測器(計測手段の一部)とを別部品としたシステム(センサ)が知られている。このパッチ型の蛍光プローブは、透明なガラス板や樹脂の板、あるいは透明な樹脂フィルム等の表面に発光物質(蛍光物質)塗布する等の手法で構成されており、該蛍光プローブの板面やシート面が培養槽内の培養液中の液面より下に位置するように培養槽内壁に張り付けられている。そして、張り付け面の外側から透明な培養槽壁及び光ファイバーを介して光を照射すると、発光物質が励起して蛍光を発し、この蛍光を光ファイバーを介して培養槽外部に配置される計測器に送り、計測器によって蛍光の強度(位相角)を計測することで、溶存酸素濃度、pH、溶存炭酸ガス等の特性を計測することができるというものである。このシステムによれば、培養槽が透明であり且つ内部に蛍光プローブを張り付けることが可能な構造であれば上述したような従来型の棒状のセンサを培養槽へ挿入して保持するためのノズルまたはコネクタが不要である。
【0010】
また、将来的な臨床応用が期待されているヒトiPS細胞の培養等においては、培養槽のシングルユース化(1回限りの使用)が必須となるが、シングルユースタイプの樹脂性培養槽は、培養槽の内壁面に予め蛍光プローブが張り付けられた状態で使用に供される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述したようなパッチ型の蛍光プローブを用いる場合、使用者は培養槽の使用に際し蛍光ブローブを培養槽内に張り付けるか、あるいはあらかじめ蛍光ブローブが張り付けてある培養槽を使用する。いずれの場合でも張り付けた蛍光ブローブと光ファイバーの先端の位置関係が計測精度に影響するので、蛍光プローブを貼り付けた面の外側で、培養槽壁及び光ファイバーを介して蛍光を確実に受けるために光ファイバーの先端を蛍光プローブに対して適切な位置且つ適切な角度で配置しなければならない。すなわち、蛍光プローブの貼り付け面と光ファイバーの先端との距離は数mm以内で且つ培養槽外壁面での光の乱反射を防ぐために光ファイバーの先端面は培養槽外壁面に常に密着させるようにして装着するための治具を用意しなければならない。
【0012】
一方、このような単純な蛍光プローブは単回使用の使い捨てが可能であり、同じく使い捨ての培養槽と組み合わせて滅菌済状態で提供することにより、使用者の培養準備に要する時間を大幅に短縮することができる。ところが、蛍光ブローブには作製されてから初期の蛍光特性を維持できる期限、いわゆる使用期限が定められているため、蛍光ブローブがあらかじめ張り付けられた培養槽の使用期限は、蛍光プローブの使用期限に制約されてしまうという問題点がある。また、培養槽の使用中に蛍光ブローブのみを交換することは不可能である。
【0013】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、センサによる培養槽内の排除体積を最小限とするとともに、蛍光プロ−ブの交換が極めて容易であること、そして、蛍光プロ−ブと、該蛍光プロ−ブへ光を照射し且つ蛍光プロ−ブからの蛍光を受光する光ファイバーの先端との相対的な位置決めを容易に行うことができる培養装置、及び該培養装置を含む培養装置システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、光ファイバーを介して、培養液の所定の特性を計測するための計測手段が取り外し可能に培養槽に接続される培養装置を提供する。この培養装置において、培養槽は、全体として略円筒形状を有しており、培養槽は、前記培養槽の側壁から半径方向外方へ延びる、全体として円筒形状のポートを備え、前記ポートは、該ポートの長手方向軸線が前記略円筒形状の培養槽の中心軸線に対して垂直になるように配設されており、前記培養装置は、計測手段の前記光ファイバーを着脱可能に受け入れる光ファイバー受け入れ部を有する、ポートに嵌合可能なセンサコネクタであって、円筒形状の先端側部と基端側部との2区画を有する全体として円筒形状を有しており、先端側部が外側の外筒部と前記外筒部より内側に配置される内筒部とを有する、センサコネクタを備えている。培養槽のポートは、培養槽の側壁側の内側端部と、内側端部とは反対側の外側端部と、センサコネクタを受け入れる通路を画成する内周面とを有し、ポートの外側端部に隣接する部分には、半径方向外側に向かって突出するねじ条が形成されており、ポートの内周面は、外側端部から内側端部に向かって先細りするように形成されており、センサコネクタの内筒部の外周面は、該内筒部の先端に向かって先細りするように形成されている。センサコネクタの外筒部の内周面には、ポートのねじ条とねじ係合可能なねじ条が形成されており、センサコネクタの内筒部の先端は先端壁部により閉じられている。先端壁部はセンサコネクタの中心軸線に対して垂直であり、先端壁部の外側面には、光ファイバーを介して照射された光により培養液の所定の特性に対応した蛍光を発光する蛍光物質を含む蛍光プローブが固着されており、前記センサコネクタの、前記内筒部及び前記外筒部より前記培養槽から遠い部分に、光ファイバーを前記センサコネクタ内に保持するためのストッパが設けられる。
【0015】
センサコネクタの前記内筒部の長さは、前記センサコネクタを前記ポートに取り付けたときに前記内筒部の前記先端壁部が前記培養槽の前記側壁の内面と面一となる長さとすることが好ましい。
【0016】
前記センサコネクタの先端壁部の外側面に固着される蛍光プローブはパッチ形状(パッチ型)であることが好ましい。
【0017】
ポートを雌ルアーコネクタとして形成し、前記センサコネクタを雄ルアーコネクタとして形成してもよい。
【0018】
また、上述したような培養装置と、該培養装置の前記蛍光プローブに光ファイバーを介して光を照射し、該蛍光プローブより発光された蛍光を受け取るための受発光部を有する計測手段とを備える、培養装置システムを構成することも可能である。
【発明の効果】
【0019】
以上の構成を備えた本発明によれば、先端壁部に蛍光プローブを貼り付けたセンサコネクタを培養槽のポートに取り付けたとき、センサコネクタの先端壁部の培養槽内壁面に対する位置が個人差なく常に実質的に画一となる構造であるため、蛍光プローブの培養槽内に対する排除体積を実質的になくすことが可能となる。
【0020】
また、センサコネクタの先端壁部と反対側に配置された光ファイバの導入口からセンサコネクタの内筒部の内部に光ファイバを突き当たるまで挿入したときの光ファイバの先端部は、センサコネクタの先端壁部の内壁面に正確に配置され、センサコネクタに設けられたストッパがセンサコネクタの先端部に貼り付けた蛍光プローブに対する光ファイバの先端部の位置を固定的に保持することが可能となる。
【0021】
更に、蛍光プローブをセンサコネクタごと培養槽から取り外し可能にしたことにより、蛍光プローブと培養槽とをそれぞれ個別に提供することを可能とし、使用期限が大きく異なる構成要素を個別に在庫管理することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のセンサコネクタが適用される培養槽の全体(蓋部の図示は省略)を示す外観斜視図である。
図2図2の(A)は図1に示した培養槽(蓋部の図示は省略)の縦断面図であり、(B)は正面図であり、(C)は上面図である。
図3図2に示した培養槽に撹拌手段、及びセンサコネクタを設けた状態の培養装置を示す縦断面図である。
図4】本発明のセンサコネクタの正面図(A)及び断面図(B)である。
図5】センサコネクタに蛍光プローブを固着させ、光ファイバーを取り付けた状態を示す断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ、以下に説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係るセンサコネクタが適用される培養装置1の培養槽10(蓋部は不図示)を示す図である。また、図2(A)は図1に示した培養槽の縦断面図であり、(B)は正面図であり、(C)は上面図である。図3は、図2に示した培養槽に撹拌手段、及びセンサコネクタを取り付けた状態の培養装置を示す縦断面図である。
【0025】
本発明の培養装置1は、光ファイバーを介して培養液の所定の特性、例えば、溶存酸素、pH、温度、溶存炭酸ガス等を計測するための蛍光プローブ(計測手段の一部)、この蛍光プローブに光を照射し、蛍光プローブが発光した蛍光を受光する受発光部に連結される光バイバー(計測手段の一部)等が、取り外し可能(着脱自在)に培養槽10に接続されたものである。
【0026】
培養槽10は全体的に略円筒形状を有しており、培養槽10内には、培養槽10の底面17の中央から上下方向に立設され且つ培養槽10の底面に固着される支柱(撹拌軸)20と、支柱20に回転可能に取り付けられた撹拌手段30とが設けられる。支柱20は、その中心軸線14が培養槽10の中心軸線と同軸となるように配置される。
【0027】
支柱20は、培養槽10内の底面17への固定部が下方向に拡径する円錐状に形成された円錐状部分22を有しており、培養液の回転による底部中心近傍の液流の淀みは、その部分が円錐状部分22で占められていることから生じる余地もなく、従って、細胞増殖に伴って比重が増大した細胞凝集塊の沈殿はない。支柱20は、培養槽10に固着されるのではなく、成形時に一体的に形成されてもよい。支柱20の上部分24には、撹拌手段30が回転可能に取り付けられる。支柱20において、円錐部分22の上部から上部分24までの部分の太さ等については特に制限はされないが、支柱20の強度を確保する観点から、下部を太くして上方向に徐々に縮径とするのが好ましい。
【0028】
培養槽10は、その側壁11から半径方向外方へ突出するポート12を備える。ポート12は、その長手方向軸線13が培養槽10内の支柱20の中心を通る中心軸線14に対して垂直となるように、培養槽10の下方部分に設けられている。ポート12の内側端部12aは培養槽10の内壁面(側壁11の内壁面)と面一となるようになされている。また、ポート12の外側端部12bには2条のねじ条12cが設けられている。ポート12は、後述するセンサコネクタと嵌合(螺合)する雌ルアーコネクタとして構成されてもよい。ポート12の内周面12dは基端側(図2(A)における左側)に向かって先細りするテーパー形状に形成される。なお、ポート12のねじ条12c以外の外周面は、内周面12dと同様にしてテーパー形状に形成してもよく、同径に形成してもよい。
【0029】
培養槽10にはまた、ポート12の上方に、培養槽10の側壁11から半径方向外側へ斜め上方へ突出するポート15が設けられ、さらに、培養槽10の、中心軸線14を中心にしてポート15から180度離れ且つポート15より上方の位置に、側壁11から半径方向外側へ斜め上方へ突出するポート16が設けられている。ポート13、15、16は、培養槽10成形時に一体的に形成することができ、あるいは、別体として成形した後にポート13、15、16を培養槽10に固着することができる。
【0030】
培養槽10には培養液が入れられる。従って、培養槽10および支柱20は、培養液成分に不活性で細胞毒性を有さず、且つ、滅菌(除染、除菌又は無菌ともいう。)処理に対して耐性を有する材料で形成されることが好ましく、例えばガラス、合成樹脂、ステンレス鋼などが挙げられる。培養槽10の内容量、形状などは培養液の量に応じて適宜決定される。培養槽10の内容量(全容量)としては特に限定されないが、例えば20ml乃至1000ml等が挙げられる。撹拌と通気の効率の観点から、培養槽10の形状は、所望量の培養液を投入した際に、培養槽内の直径と液深が1:1となり、内容量に対して培養液の所定量が半分程度なるように設計するのが好ましい。
【0031】
撹拌手段30は、培養液に不活性で、且つ、耐性を有する材料で形成されることが好ましく、例えば合成樹脂、ステンレス鋼などが挙げられる。撹拌翼34も、培養液に不活性で、且つ、耐性を有する板材で形成されることが好ましく、例えば薄板状の合成樹脂、ステンレス鋼(例えば1mm厚のSUS316)などが挙げられる。撹拌手段30の撹拌翼34は、その下端にテトラフルオロエチレン等で被覆の磁力体(永久磁石等)36を有している。この磁力体36は、撹拌翼34の先端下部を折り曲げ加工された部分によって固定され保持されることができる。
【0032】
ここで、図3には左右2枚の撹拌翼34が示されているが、本発明はこれに限定されるものではない。撹拌翼34の数については、撹拌手段の回転数にもよるが、支柱20を中心に等間隔に備えるのが、撹拌時における撹拌翼34のバランスから好ましく、例えば2〜4枚が好適である。また、細胞培養時の撹拌手段の回転数については、特に制限されず、低シェアストレス、細胞凝集塊の沈殿の防止等が確保される回転数が適宜選択して採用されが、例えば、10〜80rpmが好ましい。
【0033】
さらに、培養槽10の上方には、該壁面17から外側へ突出するねじ条18が設けられる。これは培養槽10に蓋部(不図示)をねじ固定するためのものである。
【0034】
図4(A)は、本発明のセンサコネクタの正面図であり、図4(B)は図4(A)のX−X線で切断した場合の断面図である。本発明において、センサコネクタは円筒形状の先端側部と基端側部との2区画からなる、全体として円筒形状に形成される。図4において、センサコネクタ40は、ルアーコネクタの雄ルアーコネクタであり、円筒形状の先端側図4における左側部)である大径部Aと基端側部(図4における右側部)である小径部Bとの2区画からなる、全体として段付き円筒形状に形成されている。なお、本発明においては、上記のごとく、段付きであってよく、段なしであっても、勿論よい。
【0035】
センサコネクタ40の先端側部の大径部Aは、外筒部42と、内筒部44とを備えて構成されている。外筒部42と内筒部44は、大径部Aの基端側において内側底面42bにより接続されている。外筒部42は、その内面に、ポート12のねじ条12cと係合するねじ条42aを備えている。内筒部44の外周面44aは、先端側に向かって先細りするテーパー形状に形成されている。なお、内筒部44の内周面44bは、外周面44aと同様にしてテーパー形状に形成してもよく、同径に形成してもよい。内筒部44の外周面44aは、例えば雌ルアーコネクタと同様の機能を奏するポート12の内周面12dに当接する面である。内筒部44の外周面44aが先端側に向かって先細りするテーパー形状であるため、ポート12にセンサコネクタ40を嵌合させると、ポート12の内周面12dと内筒部44の外周面44aとが液密的に当接した状態で固定される。
【0036】
内筒部44は、その長さ、すなわち外筒部42の内側底面42bから内筒部44の先端壁部48の外側面48aまでの長さが、センサコネクタ40を培養槽10のポート12に嵌合させたときに、外側面48aが培養槽10の内壁面と実質的に面一になるような長さとなるように形成される。なお、センサコネクタ40の内筒部44の長さは、後記する蛍光プローブの厚さをも考慮して設計してもよい。このように設計するのは、外側面48aが培養槽10の内壁面より突出しすぎると撹拌翼34の動きを妨げたり、撹拌に乱れが生じて均一な撹拌を妨げてしまう虞があり、また、培養槽の内壁面まで達しないと、培養液の流れに淀みが生じる可能性があるからである。
【0037】
センサコネクタ40の内筒部44内部には、光ファイバー46を挿入するための通路47が形成されており、通路47の先端側(図4における左側)は先端壁部48によって閉じられている。先端壁部48の外側面48aは、センサコネクタ40の中心軸線に対して垂直な方向に延び、この外側面48aには、光の照射により蛍光を発する蛍光プローブ49、例えば、パッチ型蛍光プローブ等が固着される。蛍光プローブの外側面48aへの固着方法については特に制限されないが、例えば、パッチを貼り付ける方法、蛍光物質を外側面48aに直接塗布したり焼付けたりする方法等がある。なお、パッチ型蛍光ブローブは、上記したごとく、パッチ形状のもので、例えば、円形等の適宜形状の薄手小片の蛍光プローブであり、このような形態とすることは取り扱いが容易となるので好ましい。また、蛍光プローブ49として、培養液内の溶存酸素濃度に応答する蛍光を発光する発光物質(蛍光物質)、例えば、金属ポルフィリン錯体等を含む蛍光プローブだけでなく、培養液のpH、温度、溶存炭酸ガス等に応答する発光物質を含む蛍光プローブを固着させたセンサコネクタを用意することも可能であり、従って、多種類のプローブから、使用者が必要に応じて蛍光プローブを選択し、所望の特性の計測を行うことが可能となる。蛍光プローブ49は、パッチ表面に蛍光物質を塗布したものでもよく、パッチ自体に含浸させたものでもよく、先端壁部48の外側面48aに直接塗布したもの等として構成されてもよい。なお、これらの特性を計測する各種蛍光プローブ49としては、公知のものが有効に用いられる。また、例えば、蛍光プローブ49がパッチ型の場合には、その厚さは通常約1mm未満と薄く、透明な接着剤(例えば、シリコン接着剤等)等で先端壁部48の外側面48aに固着される。センサコネクタ40は、光ファイバー46を介して短時間の発光と受光を交互に繰り返す公知の受発光部(不図示)により蛍光プローブ49への光の照射、蛍光プローブ49からの蛍光の受光ができるように、光透過性の材料で形成されることが好ましいが、この目的のためには、センサコネクタ40の少なくとも先端壁部48が光透過性の材料で形成されていればよい。先端壁部48の外側面48aと内側面48bとの間の距離(先端壁部48の厚さ)は、蛍光プローブ49と光ファイバーの先端部との間の距離であり、従って計測される蛍光の強度に影響を与えるため、できるだけ薄く、約1mm未満とすることが好ましい。
【0038】
センサコネクタ40の基端側部の小径部Bは、光ファイバー46を受け入れる光ファイバー受け入れ部として構成されており、その内側の空洞部分には、光ファイバー46が容易に脱落しないように光ファイバー46をセンサコネクタ40内に保持することができるストッパ50が内嵌される。図4に示すように、ストッパ50は、ストッパ50の中心軸線がセンサコネクタ40の中心軸線と同軸となるように配置される。ストッパ50は、光ファイバー46が通る通路51を有し、また、ストッパ50の先端(図4における左側)には、ストッパ50の内方へ向かって且つストッパ50の先端側へ向かって角度をもって延びるリップ部52を備えている。リップ部52の先端は開口しており、その開口部分は挿入される光ファイバー46の外径より小さい内径を有する。小径部Bには複数(図4の例では2つ)の穴43が設けられており、穴43にはストッパ50の外周面上に形成される突起54が挿入され、ストッパ50がセンサコネクタ40から抜けないようにストッパ50を保持する。ストッパ50は、光ファイバー46をリップ部52において容易に移動しないように保持するために、弾性のある材料、例えばゴムにより形成されることが好ましい。
【0039】
また、センサコネクタ40の外面には、センサコネクタ40をポート12へ嵌合させるときに使用者がセンサコネクタを容易に回転させることができるようにする翼部45が複数(図4の例では2つ)設けられる。
【0040】
センサコネクタ40の材料については、前記のごとく、少なくとも先端壁部48が光透過性、且つ自家蛍光を有しない材料で形成されていれば特に制限されないが、例えば、合成樹脂(例示:、ポリカーボネート、ポリスチレン)等が好適なものとして挙げられる。
【0041】
図3に示したように、上記構成を有するセンサコネクタ40を回転させて、センサコネクタ40の最も深い位置で培養槽10のポート12が取り付けられたとき、センサコネクタ40およびポート12は、センサコネクタ40の中心軸線とポート12の中心軸線とが同軸となるように互いに対して位置決めされる。このとき、センサコネクタ40の先端壁部48の外側面48aが培養槽10の内壁面と実質的に面一になる。従って、撹拌翼34の動きを妨げたり、培養液内の淀みを生じたりすることを抑制することが可能となる。そして、センサコネクタ40とポート12の上述したようなテーパー形状により、面と面とが互いに摩擦係合し、センサコネクタ40が培養槽10の内壁面から飛び出たり引っ込んだりしないように位置が固定される。位置が固定された状態では、上述したように蛍光プローブ49がセンサコネクタ40の中心軸線に対して垂直に形成されていることから、光ファイバー46も蛍光プローブ49に対して垂直となるように位置決めされている。従って、蛍光プローブ49と光ファイバー46との互いに対する位置及び角度関係を適切な状態とすることが容易となり、光ファイバー46及び蛍光プローブ49を培養槽10へ取り付ける際の作業も、従来と比較して非常に簡便なものとなる。また、センサコネクタ40に光ファイバー46を、該光ファイバー46の先端がセンサコネクタ40の通路47の底面(先端壁部48の内側面48b)に突き当たるまで挿入することにより、蛍光プローブ49と光ファイバー46の先端との距離は正確に保持され、再現性(すなわち、両者の距離や角度が常に適切に位置決めされること)が良好となる。また、上記テーパー形状により、センサコネクタ40はポート12に液密的に固定されるので、培養液のポート12からの漏出は防止される。
【0042】
なお、ポート12は、様々な寸法・形状の容器に取り付けることができ、例えば様々な容積の培養槽に共通のルアーテーパを有するポート12を備えることにより、同一のセンサコネクタ40を使用することができるので、大幅なコストダウンを図ることが可能となる。
【0043】
また、既存の培養槽においては、培養液を培養槽の外部で循環するラインに共通の、ポート12と同様のルアーテーパーを有するポートを設けたフローセルを設けることにより、本発明のセンサコネクタ40を使用することが可能となる。
【0044】
さらに、上述したポート12と同様のルアーテーパーを公知の培養用バッグの適宜位置に取り付け、同様にしてセンサーコネクタ40を使用することもできる。
【0045】
さらにまた、上記したように、培養液内の溶存酸素濃度に応答する蛍光を発光する蛍光物質を含む蛍光プローブだけでなく、培養液のpH等に応答する蛍光物質を含む蛍光プローブを固着させたセンサコネクタを用意することも可能であり、従って、多種類の蛍光プローブから、使用者が必要に応じて蛍光プローブを選択し、所望の特性の計測を行うことが可能となる。勿論、上述した実施形態のようにポート12の個数は1つに限定されるものではなく、計測したい特性の数に応じて複数のポート12を設けるようにしてもよいことはいうまでもない。
【0046】
なお、本発明の培養装置は、使い捨てとすることもできる。
【符号の説明】
【0047】
10 培養槽
11 側壁
12 ポート
12a 内側端部
12b 外側端部
12c ねじ条
12d 内周面
40 センサコネクタ
A 大径部
B 小径部
42 外筒部
42a ねじ条
43 穴
44 内筒部
44a 外周面
44b 内周面
46 光バイバー
48 先端壁部
48a 外側面
48b 内側面
49 蛍光プローブ
50 ストッパ
51 通路
52 リップ部
54 突起
図1
図2
図3
図4
図5