特許第5958895号(P5958895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

<>
  • 特許5958895-高周波磁界検出装置 図000007
  • 特許5958895-高周波磁界検出装置 図000008
  • 特許5958895-高周波磁界検出装置 図000009
  • 特許5958895-高周波磁界検出装置 図000010
  • 特許5958895-高周波磁界検出装置 図000011
  • 特許5958895-高周波磁界検出装置 図000012
  • 特許5958895-高周波磁界検出装置 図000013
  • 特許5958895-高周波磁界検出装置 図000014
  • 特許5958895-高周波磁界検出装置 図000015
  • 特許5958895-高周波磁界検出装置 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958895
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】高周波磁界検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/50 20100101AFI20160719BHJP
【FI】
   G01Q60/50
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-83425(P2012-83425)
(22)【出願日】2012年3月31日
(65)【公開番号】特開2013-213708(P2013-213708A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2015年3月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発」委託研究、産業再生法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 恭
(72)【発明者】
【氏名】山口 正洋
(72)【発明者】
【氏名】島田 寛
【審査官】 後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−266317(JP,A)
【文献】 特開2005−274495(JP,A)
【文献】 特開2011−163999(JP,A)
【文献】 米国特許第05619139(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 60/50−60/56
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気力顕微鏡と、
上記磁気力顕微鏡の測定対象物に第1の高周波信号を印加する手段と、
上記測定対象物に近接して設置されたコイルと、
上記コイルに上記第1の高周波数信号と周波数の異なる第2の高周波信号を印加する手段と、
を有し、
上記測定対象物に、上記第1の高周波信号と、上記第2の高周波数信号と、該第1及び第2の高周波信号の差周波数であるビート信号が印加されることを特徴とする、高周波磁界検出装置。
【請求項2】
前記磁気力顕微鏡は、前記測定対象物を載せるステージと、該測定対象物が発生する電界または磁界もしくはその双方による力を受けて位置が変化する磁気力顕微鏡の探針と、上記探針の位置変化を検出する検出部と、上記探針を前記測定対象物に所定の間隔を保って走査するための位置制御部と、上記探針と測定対象物との相対位置及び探針が電界または磁界もしくはその双方による力を受けて変位する変位量を関係付け、上記探針の位置変位量の一次元もしくは二次元の走査情報を得る手段と、を有することを特徴とする、請求項1に記載の高周波磁界検出装置。
【請求項3】
前記測定対象物と前記探針の双方に、直流磁場を印加する手段を有していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高周波磁界検出装置。
【請求項4】
前記測定対象物は、トランジスタ、ダイオードなどの能動素子、コンデンサ、インダクタ、配線などの受動素子、電源回路、電子回路、集積回路、LSIチップ、VLSIチップあるいはこれらの組み合わせからなり、高周波を印加することで高周波電磁界を誘起する測定対象物であることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の高周波磁界検出装置。
【請求項5】
前記探針の表面が、軟質磁性体薄膜、硬質磁性体薄膜及び軟質磁性体薄膜、硬質磁性体薄膜の何れかで被覆されていることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の高周波磁界検出装置。
【請求項6】
さらに、前記探針と前記測定対象物との双方に交番磁界を印加する手段を有していることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の高周波磁界検出装置。
【請求項7】
前記ビート信号の周波数は、前記探針の機械的共振周波数であることを特徴とする、請求項1に記載の高周波磁界検出装置。
【請求項8】
前記探針に被覆する磁性体薄膜は、Fe−Co、Ni−Fe、Ni−Co、Co−Zr−Nb、フェライト及びCo−Cr−Ptの何れかであることを特徴とする、請求項5に記載の高周波磁界検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間分解能がサブミクロン以下の高周波磁界検出装置に関し、さらに詳しくは、高周波信号を印加した測定対象物が発生する高周波磁界の高周波磁界検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会の発展と共にコンピュータ及び情報通信に用いられる大規模集積回路は、絶え間ない微細化と高速化が進んでおり、IC内部での電磁干渉による誤動作など性能が劣化する問題が深刻となっている。また携帯電話器の高周波集積回路(Radio Frequency Integrated Circuit:RFIC)においてもチップの小型化・高周波化による電磁干渉による性能劣化の問題が顕在化している。これらの問題を解決するには、回路上における高周波電磁ノイズの発生源、混入先、伝搬経路を明確にする必要がある。そのためには測定対象の高周波電磁界の2次元分布を十分な空間分解能で取得する必要があるが、高周波集積回路の一層の微細化により、今やサブミクロン以下の空間分解能が求められている。
【0003】
既存の高周波磁界ノイズ測定法は、コイル型磁気プローブ(空間分解能10μm、周波数帯域:7GHz)(非特許文献1参照)や、磁気光学プローブ(空間分解能10μm、周波数帯域:2.5GHz)(非特許文献2参照)が知られているが、現在求められる集積回路の空間分解能に対してはいずれも不十分であり、新たな方法の開発が求められている。
【0004】
また、磁気力顕微鏡を用いて、高分解能2次元磁場測定を行なう手法が開発されている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法は高密度磁気記録媒体の記録情報を見ることに主眼が置かれており、高周波帯域で発生する電磁界の測定は行われていない。
【0005】
これに対して、発明者らは磁気力顕微鏡(MFM)を用いて、高周波を印加したコプレーナウェーブガイド(CPW)から発生する近傍電磁界を測定することに成功し、様々な改良を加えてきた(非特許文献3〜5参照)。
しかしながら、これらの方法ではCPWから発生する近傍電磁界を十分な空間分解能で測定することは出来たが、望まれる高周波帯域までは測定できず、高周波電磁界測定法としては未だ十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−069133号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N. Ando 他、J. Magn., Soc. Jpn., 30,429, (2006)
【非特許文献2】N. Adachi他、IEEE Trans. Mang. 46,6,1986(2010)
【非特許文献3】遠藤恭 他、マグネティクス研究会、MAG-10-207 (2010)
【非特許文献4】遠藤恭 他、J. Appl., Phy., 109, 07D326(2011)
【非特許文献5】遠藤恭 他、Proceedings ECC 2011, 203-206 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電子機器の発展に伴うICチップなどの小型化や動作周波数の高速化に伴う、IC内部の電磁干渉問題を解決するため、ICチップ上の高周波近傍磁界を非接触で測定する方法の開発が望まれる。しかしながら、背景技術で記載したように、空間分解能と、高周波特性を同時に満たした先行技術はこれまで存在しない。磁気力顕微鏡に、適切な装置を追加することで、空間分解能と、高周波特性に対する要求を同時に満たす技術が望まれる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、サブミクロンの空間分解能を持ち、ギガヘルツ帯域の高周波近傍磁界の測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の高周波磁界検出装置は、磁気力顕微鏡と、磁気力顕微鏡の測定対象物に第1の高周波信号を印加する手段と、測定対象物に近接して設置されたコイルと、コイルに第1の高周波数信号と周波数の異なる第2の高周波信号を印加する手段と、を有し、測定対象物に、第1の高周波信号と第2の高周波数信号と、第1及び第2の高周波信号の差周波数であるビート信号が印加されることを特徴とする。
【0011】
上記構成において、磁気力顕微鏡は、好ましくは、測定対象物を載せるステージと、該測定対象物が発生する電界または磁界もしくはその双方による力を受けて、位置が変化する磁気力顕微鏡の探針と、探針の位置変化を検出する検出部と、探針を測定対象物に所定の間隔を保って走査するための位置制御部と、探針と測定対象物との相対位置及び探針が電界または磁界もしくはその双方による力を受けて変位する変位量を関係付け、探針の位置変位量の一次元もしくは二次元の走査情報を得る手段と、を有する。
【0012】
本発明の高周波磁界検出装置によれば、通常の磁気力顕微鏡(MFM)の測定対象物である電子回路等に、所定の周波数を有する高周波電流を印加し、一定の強度及び周波数を持つ高周波磁界を発生させる。また電子回路などの測定対象物上の所定の高さにコイルを設置し、搬送波周波数とわずかに異なる周波数の高周波電流をコイルに印加し、一定の強度及び周波数を持つ高周波磁界を発生させる。測定対象物が発生する高周波磁界と、コイルが発生する高周波磁界とは、周波数が僅かにずれるため、両者を重畳すると二つの高周波磁界の成分を含んだ磁界のビート(うなり)信号が現れる。このビート信号の周波数とチップ表面に磁性コートを行った磁気力顕微鏡用探針の共振周波数を同じ値に近づけることで、磁気力顕微鏡による高周波磁界の検出をより高い感度で行うことが可能である。
【0013】
上記構成において、好ましくは、測定対象物と前記探針の双方に、直流磁場を印加する手段を有している。
上記構成によれば、永久磁石または直流電流を流した電磁石により磁気力顕微鏡用探針に直流磁場を印加した場合と、直流磁場を印加しない場合の情報を演算処理することで、測定した電磁界分布から、電界分布と磁界分布とを分離できる。
【0014】
上記構成において、測定対象物は、好ましくは、トランジスタ、ダイオードなどの能動素子、コンデンサやインダクタ、配線などの受動素子、電源回路、電子回路、集積回路、LSIチップ、VLSIチップあるいはこれらの組み合わせからなり、高周波を印加することで高周波電磁界を誘起する測定物である。
探針の表面は、軟質磁性体薄膜、硬質磁性体薄膜及び軟質磁性体薄膜、硬質磁性体薄膜、の何れかで被覆されている。磁気力顕微鏡用探針にコートする磁性体薄膜は、好ましくは、Fe−Co、Ni−Fe、Ni−Co、Co−Zr−Nb、フェライト及びCo−Cr−Ptの何れかである。
さらに、探針と測定対象物との双方に磁界を印加する手段としては、電磁石により交番磁界を印加するものが好ましい。
ビート信号の周波数は、好ましくは、探針の機械的共振周波数である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高周波磁界検出装置によれば、携帯電話器の高周波集積回路(RFIC)などの微小電子回路に、高周波を印加した場合に発生する高周波電磁界を、サブミクロン・レベルの空間分解能で、測定対象物に接触することなく測定することが可能となる。本発明の装置構成を既存の磁気力顕微鏡に追加することで、電子回路上で発生する電磁界の2次元マップを簡単に得ることができ、回路設計に有用な情報を与えることができる。さらに、磁界成分のみを分離して2次元マップとすることができる。これにより高周波集積回路において、電磁ノイズの発生源、混入先、伝搬経路などを明確化でき、電磁干渉問題の解決に繋げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の高周波磁界検出装置を示すブロック図である。
図2】本発明の高周波磁界検出装置における測定対象物が発する磁界とビート発生用コイルが発する磁界と、それらを合成した磁界のZ軸成分を示す図である。
図3】測定対象物の発生する磁界と、ビート発生用コイルが発する磁界の強度をそれぞれ数値的に仮定し、両者を合成した磁界の時間変化の計算例1を示す図であり、(A)はビート発生用コイルが磁気力顕微鏡の探針の真上にある場合(180°)、(B)は両者の位置がずれている場合(135°)を示す。
図4】測定対象物の発生する磁界と、ビート発生用コイルが発する磁界の強度をそれぞれ数値的に仮定し、両者を合成した磁界の時間変化の計算例2を示す図であり、(A)はビート発生用コイルが探針の真上にある場合(180°)、(B)は両者の位置がずれている場合(135°)を示す。
図5】測定対象物の発生する磁界と、ビート発生用コイルが発する磁界の強度をそれぞれ数値的に仮定し、両者を合成した磁界の時間変化の計算例3を示す図であり、(A)はビート発生用コイルが探針の真上にある場合(180°)、(B)は両者の位置がずれている場合(135°)を示す。
図6】測定対象物の発生する磁界と、ビート発生用コイルが発する磁界の強度をそれぞれ数値的に仮定し、両者を合成した磁界の時間変化の計算例4を示す図であり、(A)はビート発生用コイルが探針の真上にある場合(180°)、(B)は両者の位置がずれている場合(135°)を示す。
図7】本発明の高周波磁界検出装置において、測定対象物に高周波信号を印加した際に発生する磁界の代わりに、ダミーコイルに高周波信号を印加して高周波磁界を発生し、ビート発生用コイルが発生する磁界と合わせてビート信号を発生させ、本発明の動作確認を行うための高周波磁界検出装置の変形例のブロック図である。
図8】実施例1の磁気力顕微鏡用の探針の変位量を示す図である。
図9】実施例2の磁気力顕微鏡用の探針のビート信号の磁界による振動強度の周波数依存性である。
図10】比較例の磁気力顕微鏡用の探針の変位量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の高周波磁界検出装置1を示すブロック図である。図1に示すように、本発明の高周波磁界検出装置1は、磁気力顕微鏡2と、磁気力顕微鏡2の測定対象物4に第1の高周波信号3Aを印加する第1の高周波発振器3と、測定対象物4に近接して設置されたコイル5と、コイル5に上記第1の高周波数信号3Aとは周波数の異なる第2の高周波信号6Aを印加する第2の高周波発振器6と、から構成されている。第1の高周波信号3Aと第2の高周波数信号6Aとのビート信号による電界または磁界もしくは電界と磁界の両方が測定対象物4に印加される。コイル5は、ビート発生用コイルとも呼ぶ。
【0018】
磁気力顕微鏡2は、測定対象物4を載せるステージ22と、測定対象物4が発生する電界または磁界もしくはその双方による力を受けて、位置が変化する磁気力顕微鏡2用の探針24と、探針24を保持するカンチレバー25と、探針24の位置変化を検出する検出部30と、探針24を、測定対象物4表面に所定の間隔を保って走査するための位置制御部26と、探針24と測定対象物4との相対位置と、探針24が電界または磁界もしくはその双方による力を受けて変位する変位量とを関係付け、探針24の位置変位量の一次元もしくは二次元の走査情報を得る手段35とから構成されている。検出部30は、光位置検出器29と、検出回路31と、ロックインアンプ33とから構成されている。一次元もしくは二次元の走査情報を得る手段は、後述する制御用コンピュータ35で構成される。
【0019】
測定対象物4は、例えば高周波帯で用いられる電子回路からなる。磁性コートを施した探針24は測定対象物4の表面に近接して設置され、カンチレバー25の図示しない動作制御部によって、測定対象4の表面上を所定の間隔を取りながら2次元的に走査する。磁気力顕微鏡2では、探針24を支えるカンチレバー25に、レーザ装置27から発するレーザ光27Aを照射し、カンチレバー25からのレーザ反射光28を光位置検出器29で読み取り、光てこ信号29Aとして検出回路31で処理し、信号32としてロックインアンプ33に送る。この方法は、磁気力顕微鏡2では光てこ法として知られており、高感度にカンチレバー25の振動を読み取ることができる。
ここで、「光てこ法」とは、磁気力顕微鏡用の探針24の動きを検出する方法として一般に用いられる手法である。「光てこ法」では、探針24が磁気力で動く変位を、磁気力顕微鏡用の探針24に照射したレーザ光27の探針24による反射光のビーム位置変化として測定する。
【0020】
カンチレバー25の振動を検出する方法は光てこ法に限らない。カンチレバー25の振動を検出する他の方法を以下に示す。
(1)カンチレバー25にピエゾ抵抗素子を並列に接続し、カンチレバー25の振動に伴うピエゾ素子の抵抗値の変化で検出する方法。
(2)カンチレバー25に近接して電極を設け、この電極とカンチレバー25との間に生じる静電容量を利用する方法。これは、カンチレバー25の振動を静電容量の変化で測定することができる。
(3)ファブリーペロー干渉計を利用する方法。
【0021】
測定対象物4は、ピエゾ素子駆動型ステージ22に載せられており、位置制御部26としてのステージコントローラで精密に位置制御がなされる。磁気力顕微鏡用の探針24と測定対象物4との位置関係は位置情報26Aとして制御用コンピュータ35で対応づけられ、電磁界場による磁気力顕微鏡用の探針24の振動変化の2次元マップが得られる。
【0022】
(ビート信号の検出)
次に、ビート信号の検出について説明する。
測定対象物4には、第1の高周波発振器3から出力した高周波信号3Aを印加し、ビート発生用コイル5には、第2の高周波発振器6から出力した高周波信号6Aを印加する。ここで、第1の高周波発振器3から出力する第1の高周波信号3Aの周波数と、第2の高周波発振器6から出力する第2の高周波信号6Aの周波数とを、僅かにずらせることで、二つの高周波信号3A、6Aの重畳によるビート信号を発生するように選択する。
【0023】
第1の高周波発振器3の高周波信号3Aと、第2の高周波発振器6の高周波信号6Aとを、周波数ミキサー41で混合することで、ビート信号、つまり差周波の参照信号23を発生させる。これをロックインアンプ33に導き、光てこ信号29Aと同期させ高感度の検出を行うことができる。
【0024】
測定対象物4は、高周波で動作するトランジスタ、ダイオードなどの電気素子や半導体レーザなど能動素子、コンデンサ、インダクタ、配線などの受動素子、電源回路、集積回路や、これらの組み合わせなど、高周波で動作させるときに、高周波電磁界を発生するものすべてが対象となるが、ここでは一例として、コプレーナウェーブガイド(Coplanar Waveguide、以下CPWと呼ぶ。)を用いた。ストリップ回路、マイクロストリップ回路などマイクロ波で動作させるものであれば、CPWに限らないことは言うまでも無い。
【0025】
着磁用コイル46は、直流磁界発生用電源47から直流の供給を受け、直流磁界を発生し、磁気力顕微鏡の探針24の表面にコートしてある磁性材料を着磁するために使用する。着磁用コイル46は、直流磁界発生用電源47から直流の供給を受け直流磁界を印加した状態もしくは直流磁界を発生しない状態とで、測定対象物4が高周波入力により発生する高周波電磁界を光てこ法等で検出して、高周波電界と高周波磁界を分離することができる。直流磁界が無い状態で測定した場合、磁気力顕微鏡の探針24は高周波電界と高周波磁界の両方の力を受けるが、直流磁界を印加した場合は、高周波電界のみの寄与分を測定できる。
従って、前者の直流磁界が無い状態の信号から、後者の直流磁界を印加した状態の信号を減算処理することで、高周波磁界のみの寄与分を測定できる。
【0026】
図1において、ビート発生用コイル5は、第2の高周波発振器6と電気的に接続される場合と、交番磁界を印加する手段と、に切り換えられるように構成されている。例えば、交番磁界を印加する手段は、交流磁界発生用電源48である。ビート発生用コイル5が交流磁界発生用電源48と接続した場合は、磁気力顕微鏡の探針24の表面にコーティングしてある磁性材料の磁化を交流消磁することができる。
【0027】
さらに、ビート発生用コイル5に、切り換え方式で直流電流を供給できるようにすれば、着磁用コイル46が無い場合でも直流磁界で磁気力顕微鏡の探針24の表面にコーティングしてある磁性材料の再着磁が可能である。
【0028】
ここで、本発明の高周波磁界検出装置1で高感度に測定対象物4の高周波磁界が測定できる原理を説明する。
図2は、本発明の高周波磁界検出装置1における測定対象物4が発する磁界とビート信号発生用コイル5が発する磁界と、それらを合成した磁界のZ軸成分を示す図である。測定対象物4は、例えば微小電子回路である。
最初に主な記号の定義を述べる。
:カンチレバー25直上に装着したビート発生用コイル5から発生する高周波磁界信号
:測定対象物4から発生する高周波磁界信号
:カンチレバー25の直上に装着したビート発生用コイル5から発生する磁界ベクトル
:測定対象物4から発生する磁界のz軸成分
:カンチレバー25直上に装着したビート発生用コイル5から発生する磁界信号の周波数
:測定対象物4から発生する磁界信号の周波数
δ:ビート発生用コイル55の磁界信号と測定対象物4から発生する磁界信号の位相差
θ:Sがz軸となす角度
θ:Sがz軸となす角度
【0029】
周波数が互いに近い二つの高周波信号3A、6Aを測定対象物4に重畳したときに発生するビート信号について、以下に示す式を用いて説明する。
ビート発生用コイル5と測定対象物4から発生する高周波磁界をそれぞれSとSとして、以下の(1)式のように定義する。
【式1】
【0030】
それぞれのz軸成分を考えると、S1zは下記(2)で与えられる。
【式2】
【0031】
z軸方向の合成磁界Hz は、下記(3)式で与えられる。
【式3】
【0032】
式(3)に代入して、下記(4)式が得られる。ここで、角周波数ωと角周波数ωとの差であるΔωを周波数で表したf−fが、ビート信号の周波数である。
【式4】
【0033】
【式5】
【0034】
【0035】
以下で、式(5)を用いて、種々のHとHの組み合わせについて数値計算を行い、ビート信号がどのように現れるかを検討する。条件として測定対象物4側の磁界の向きをz軸に平行とする。これはθ=0°とした場合に相当し、磁気力顕微鏡用の探針24がz軸方向に持つ自由度に対応する。Sがz軸となす角度θについては、θ=180°及び135°の場合を検討した。これはビート発生用コイル5と磁気力顕微鏡の探針24との位置関係で決まる値であり、180°はコイル5が磁気力顕微鏡の探針24の真上にある場合、135°は両者の位置がずれている場合の一例である。
【0036】
図3は、測定対象物4の発生する磁界と、ビート発生用コイル5が発する磁界の強度をそれぞれ数値的に仮定し、両者を合成した磁界の時間変化の計算例1を示す図で、(A)はビート発生用コイル5が磁気力顕微鏡の探針24の真上にある場合(180°)、(B)は両者の位置がずれている場合(135°)を示す。
図3(A)ではカンチレバー25の直上に装着したビート発生用コイル5から発生する磁界ベクトルH=0.10Oe(エルステッド)、測定対象物4から発生する磁界の周波数成分(z成分)H=0.0037Oeとして高周波波形の時間変化を計算したものである。ビート信号はθ=180°及び135°(図3(B))のどちらの場合も、それほど顕著ではない。
【0037】
図4は、測定対象物4の発生する磁界と、ビート発生用コイル5が発する磁界の強度をそれぞれ数値的に仮定し、両者を合成した磁界の時間変化の計算例2を示す。図4(A)ではカンチレバー25の直上に装着したビート発生用コイル5から発生する磁界ベクトルH=0.10Oe、測定対象物4から発生する磁界の周波数成分(z成分)H=0.037Oeとして高周波波形の時間変化を計算したものである。θ=180°(図4(A))及び135°(図4(B))のどちらの場合も、ビート信号が顕著に現れている。
【0038】
図5は、測定対象物4の発生する磁界と、ビート発生用コイル5が発する磁界の強度をそれぞれ数値的に仮定し、両者を合成した磁界の時間変化の計算例3を示す図である。図5(A)では、カンチレバー25の直上に装着したビート発生用コイル5から発生する磁界ベクトルH=0.10Oe、測定対象物4から発生する磁界の周波数成分(z成分)H=0.37Oeとして高周波波形の時間変化を計算したものである。この条件でもθ=180°(図5(A))及び135°(図5(B))のどちらの場合も、ビート信号が顕著に現れている。
【0039】
図6は、測定対象物4の発生する磁界と、ビート発生用コイル5が発する磁界の強度をそれぞれ数値的に仮定し、両者を合成した磁界の時間変化の計算例4を示す図である。図6(A)ではカンチレバー25の直上に装着したビート発生用コイル5から発生する磁界ベクトルH=0.10Oe、測定対象物4から発生する磁界の周波数成分(z成分)H=3.71Oeとして高周波波形の時間変化を計算したものである。ビート信号はθ=180°(図6(A))及び135°(図6(B))のどちらの場合も、それほど顕著ではない。
【0040】
これらの計算例から明らかなように、測定対象物4から発生する高周波磁界と、カンチレバー25の直上に装着したビート発生用コイル5から発生する高周波磁界とをある条件を満たす強度比で混合すると、二つの高周波の周波数差に相当するビート信号を発生することが明らかとなった。ビート信号の周波数を、磁気力顕微鏡用探針24の機械的共振周波数に近い値を選ぶことで、探針24が追随できないような高周波磁界を高精度で測定することが可能となる。
【0041】
以上、説明を行った本発明の高周波磁界検出装置1の特徴は、確立され市販もされている磁気力顕微鏡装置に、本発明の構成を付加することにより、従来の磁気力顕微鏡装置ではなし得なかった高周波磁界検出が可能となり、高周波集積回路において、電磁ノイズの発生源、混入先、伝搬経路などを明確化でき、電磁干渉問題の解決に繋げることができる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0042】
(探針)
実施例で用いた探針24は、25nm程度の厚みを持つCo−Pt−Cr磁性膜、もしくは、50nm厚のNi−Fe磁性膜を表面にコーティングしたSi探針24(探針24の先端半径R:50〜60nm)を作製した。
得られた磁気力顕微鏡用の探針24の共振周波数fResは20.0〜30.0kHz、ばね定数kは1.3N/m、大気圧下で測定した共振尖鋭度Q値は80.8程度であり、磁化の向きは探針24に垂直方向である。
【0043】
(計測に使用した機器)
高周波発振器3:(Agilent社製、33250A)
高周波発振器6:(Agilent社製、E-8267D)
ロックインアンプ33:(NF回路設計ブロック社製、LI-575)
レーザ装置27:(エーエルティー製赤色レーザダイオード、ALT-9A90、波長=632nm)
光位置検出装置29:(浜松ホトニクス製、s3932)
【0044】
図7は、本発明の高周波磁界検出装置1において、測定対象物4に高周波信号を印加した際に発生する磁界の代わりに、ダミーコイル52に高周波信号を印加して高周波磁界を発生し、ビート発生用コイル5が発生する磁界と合わせてビート信号を発生させ、本発明の動作確認を行うための高周波磁界検出装置1の変形例のブロック図である。
測定対象物4であるCPWの代わりに、ダミーコイル52を測定対象物4の位置に設置し、第1の高周波発振器3から高周波信号3Aをダミーコイル52に印加した。ダミーコイル52から生じる高周波磁界を磁気力顕微鏡用の探針24を用いて高感度で測定できることを以下で示す。図7の高周波磁界検出装置1Aは、CPW4がないので、CPW4を載置するステージ22や位置制御部26は図示していない。
【0045】
ビート発生用コイル5には、10MHzの周波数で、信号強度18dBmの信号を入力し、測定対象物4の代わりのダミーコイル52には、10MHz+20〜25kHzの周波数範囲で、信号強度20.9ddBmの信号を入力した。
【0046】
図8は、実施例1の磁気力顕微鏡用の探針24の変位量を示す図である。この図は、ビート発生用コイルとダミーコイル52が発生した高周波磁界のビート信号を、本実施例で作製した磁気力顕微鏡の探針24の磁界による動きとして光てこ信号29Aに置き換えて測定したデータである。縦軸は磁気力顕微鏡用探針24の磁界による動きとして光てこ法で得られる信号強度で、横軸はダミーコイル52を、10MHz+20〜28kHzの周波数範囲でスキャンした場合のビート信号の周波数変化である。探針24の共振周波数に相当するところで、高い出力電圧が得られている。
【実施例2】
【0047】
次に、ダミーコイル52で高周波磁界を発生させる代わりに、CPW4に高周波を印加し、発生した高周波磁界の測定を行った。
先ず、CPW4は、以下の方法で作製した。比誘電率が7.0であるガラス基板4C上に、電子線レジストを塗布し、電子線描画でパターンを形成後に直流マグネトロンスパッタ法で、クロム、銅、クロムをそれぞれ5nm、300nm、5nmの厚さに積層し、リフトオフ法でCPW4のパターンを形成した。
【0048】
探針24と測定対象物4であるCPW4との間隔(リフトハイト)は、500nmとした。第1の高周波発信器3から、100MHzの信号を出力し、CPW4に印加した。ビート発生用コイル5には99.975MHz付近で周波数を掃引し、CPW4上で磁界のビート信号を発生させた。
【0049】
次に、図1の構成において、ビート発生用コイルと測定対象物4の双方に、ビート信号を発生するように互いに周波数をずらせた二つの高周波信号を印加して高周波磁界を発生させた場合の、探針24による変位量を調べた。
図9は、実施例2の磁気力顕微鏡用の探針24のビート信号の磁界による振動強度の周波数依存性である。図9から明らかなように、ビート信号の周波数を変化させて探針24の共振周波数に合わせることで、探針24の振動強度信号が高くなっており、高感度で高周波磁界を検出できることが明らかである。ビート信号の周波数を、探針24の共振周波数に選び、高周波磁界を測定したい回路上を走査することで、高周波磁界の2次元マップが得られる。
【実施例3】
【0050】
測定における装置構成を図1と同じとし、測定対象物4として実施例2と同様のCPW4を用いた。実施例2との違いは、直流磁界発生用コイル46に直流磁界発生用電源47を用いて電流を流し、直流磁界を測定対象物4及び磁気力顕微鏡用探針24に印加した場合の測定(1)と、電流を流さないで、直流磁界を印加しない場合の測定(2)の二通りの振動強度信号を測定したことである。
CPW4に高周波信号を印加すると、高周波電磁界が発生し、高周波電界と高周波磁界を分離するために測定(2)の信号強度から、測定(1)の信号強度を減算処理することで、高周波磁界のみ分離し、CPW4で発生する高周波磁界をμmのオーダーで検出することができた。
【0051】
(比較例)
次に、実施例に対する比較例について説明する。
比較例は、実施例1と比べてビート発生用コイルに第2の高周波信号6Aを入れない点以外は全て前の実施例1と同一条件である。つまり、第2の高周波発振器6を使用しないので、ビート信号が生じない条件とした。この比較例では同一測定条件で、ビート信号が生じない場合の測定装置の感度を評価していることになる。
図10は、比較例の磁気力顕微鏡用探針24の変位量を示す図である。図10から明らかなように、磁気力顕微鏡用の探針24の共振周波数に相当する周波数にもピークは見られず、高感度の高周波磁界測定が出来ていないことが明らかである。
【0052】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0053】
1:高周波磁界検出装置
2:磁気力顕微鏡
3:第1の高周波発振器
3A:第1の高周波信号
4:測定対象物
5:コイル
6:第2の高周波発振器
6A:第2の高周波信号
22:ステージ
23:参照信号
24:探針
25:カンチレバー
26:位置制御部
26A:位置情報
27:レーザ装置
27A:レーザ光
28:レーザ反射光
29:光位置検出器
29A:光てこ信号
30:検出部
31:検出回路
32:信号
33:ロックインアンプ
35:コンピュータ
41:周波数ミキサー
46:着磁用コイル
47:直流磁界発生用電源
48:交流磁界発生用電源
52:ダミーコイル
図2
図8
図9
図10
図1
図3
図4
図5
図6
図7