特許第5958898号(P5958898)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5958898脳血流の撮像におけるMRI装置の作動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958898
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】脳血流の撮像におけるMRI装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   A61B5/05 382
   A61B5/05 383
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-132134(P2012-132134)
(22)【出願日】2012年6月11日
(65)【公開番号】特開2013-255586(P2013-255586A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】507148456
【氏名又は名称】学校法人 岩手医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真理
(72)【発明者】
【氏名】工藤 與亮
【審査官】 原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−266501(JP,A)
【文献】 特開2007−313303(JP,A)
【文献】 特開平10−007592(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像シーケンスとしてBalanced SSFP法を用い、被験者の脳血流におけるO−17水に由来する信号値を得るステップと、
前記信号値を得るステップを複数回繰り返し、信号値の時間変化を得るステップと、
予め得られた信号値とO−17水濃度値との関係に基づき、前記信号値の時間変化からO−17水の時間濃度曲線を得るステップと、
前記時間濃度曲線から脳血流量(CBF)求めるステップと、
撮像マトリクスの各位置について求めた前記脳血流量(CBF)の値を統合して、脳血流量(CBF)マップを画像として作成するステップと、を含み、
フリップ角FAを30°〜90°とする脳血流の撮像におけるMRI装置の作動方法。
【請求項2】
撮像シーケンスとしてBalanced SSFP法を用い、被験者の脳血流におけるO−17水に由来する信号値を得るステップと、
前記信号値を得るステップを複数回繰り返し、信号値の時間変化を得るステップと、
予め得られた信号値とO−17水濃度値との関係に基づき、前記信号値の時間変化からO−17水の時間濃度曲線を得るステップと、
前記時間濃度曲線から脳血液量(CBV)を求めるステップと、
撮像マトリクスの各位置について求めた前記脳血液量(CBV)の値を統合して、脳血液量(CBV)のマップを画像として作成するステップと、を含み、
フリップ角FAを30°〜90°とする脳血流の撮像におけるMRI装置の作動方法。
【請求項3】
撮像マトリクスを、64〜512×48〜512とする請求項1又は2に記載のMRI装置の作動方法。
【請求項4】
繰り返し時間TRを2.0ms〜20.0msとし、且つエコー時間TEを1.0ms〜10.0msとる請求項1〜3のいずれかに記載のMRI装置の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳血流の撮像におけるMRI装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は脳血管の閉塞や破綻により脳組織が死滅する病気であり、日本人の死因の第3位を占めている。特に高齢化社会では後遺症やリハビリ、介護等が大きな社会問題となっているが、適切な予防や急性期治療には正確な脳血流検査が必要である。
【0003】
脳血流検査には様々な方法があるが、非侵襲的で患者負担が少なく、定量性に優れ、広く一般臨床で簡便に使用可能な手法は存在しない。核医学検査であるPETやSPECTは放射線被曝があり、検査時間も長く、空間解像度も低い。PETは定量性に優れ、脳血流検査のスタンダードであるが、使用できる施設は限られている。一方、CT・MRI灌流画像は多くの施設で短時間に撮像・解析が行えるため簡便な手法として臨床応用されているが、ガドリニウム(Gd)キレート等の造影剤の静脈内投与が必須であり、造影剤アレルギーによる心肺停止等、造影剤副作用のリスクや腎機能障害等に対する制約が生じる。また、造影剤は血管内トレーサであり、PET等の拡散性トレーサとは挙動が異なる。さらに、CT灌流画像では放射線被曝や撮影範囲が狭い、MRI灌流画像では定量性が低い等の欠点がある。造影剤を使用しない方法として、MRIには血液をRFでラベルするASL(arterial spin labeling)法もあるが、ラベル持続時間や通過時間の問題があり、やはり十分な定量性は期待できない。
【0004】
このような状況下、MRI測定のプローブとして、酸素の非放射性同位体(安定同位体)である17Oを用いることが提案されている。17Oは自然界に0.037%しか存在しないが、17O標識水分子(H17O、以下、「O−17水」という)は交叉緩和(J結合)に基づくT2短縮効果を持つため、十分な濃度であればMRIで信号変化を捉えることが可能である。また、O−17水は安定同位体であるため放射線被曝がなく、水であるためアレルギー反応もない。本発明者らは、ビーグル犬を用いて3テスラMRIによる基礎実験を行い、独自の解析プログラムを用いて10%濃度O−17水の静脈内投与下の脳脊髄液における水分子動態を可視化することに世界で初めて成功した。また、独自に考案した高コントラスト撮像法を用いることで、脳血流量に対応した脳実質の信号変化を捉えることにも初めて成功した。
【0005】
また、(特許文献1)には、生体組織中の膜タンパク質の水輸送機能の解析用薬剤であって、該解析用薬剤中の17O水分子又は18O水分子の一方もしくは両方の存在量が、天然水における存在量よりも多いことを特徴とする水輸送機能の解析用薬剤が開示されている。
【0006】
さらに、(特許文献2)には、有効成分がH17Oである生体認容性のある水溶液であり、該水溶液のT2緩和度が0.1s−1atom%−1以上であることを特徴とする核磁気共鳴画像診断剤が開示されている。
【0007】
しかし、MRIによる脳血流量検査にO−17水を利用することは未だなされていない。上記(特許文献2)では、脳血流検査への応用について示唆されているが、撮像に用いるシーケンスに関してはスピンエコー法T2強調法や各種T1ρ強調法等が選択され得る旨が脳血流検査に限らず一般的な検査方法として述べられているのみであり、実際に脳血流検査を実施し得る撮像シーケンスや撮像条件は何ら開示されていない。O−17水をMRIによる脳血流検査に用いる試みは国内外ともに存在せず、低侵襲性と定量性を両立可能な新機軸の脳血流量検査として極めて有望と考えられるが、脳血流測定に用いるには時間分解能の高い撮像法が必要であり、開発は容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−239566号公報
【特許文献2】特開2003−102698号公報(請求項11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記従来の状況に鑑み、O−17水を利用した、脳血流の撮像における時間分解能の高いMRI装置の作動方法を提供することを目的とする。また、O−17水の血管内濃度が低い場合であっても、信号変化を観察可能なMRI装置の作動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、O−17水を投与した被験者の撮像を行う際に、「Balanced SSFP法」と呼ばれる撮像シーケンスを採用し、さらに、その方法を脳血流測定用にチューニングし、空間分解能を低くして時間分解能を高めることによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
【0011】
(1)撮像シーケンスとしてBalanced SSFP法を用い、被験者の脳血流におけるO−17水に由来する信号値を得るステップと、
前記信号値を得るステップを複数回繰り返し、信号値の時間変化を得るステップと、
予め得られた信号値とO−17水濃度値との関係に基づき、前記信号値の時間変化からO−17水の時間濃度曲線を得るステップと、
前記時間濃度曲線から脳血流量(CBF)及び/又は脳血液量(CBV)を求めるステップと、
撮像マトリクスの各位置について求めた前記脳血流量(CBF)及び/又は脳血液量(CBV)を統合して、脳血流量(CBF)及び/又は脳血液量(CBV)のマップを作成するステップと、を含む脳血流の撮像におけるMRI装置の作動方法。
(2)撮像マトリクスを、64〜512×48〜512とする上記(1)に記載のMRI装置の作動方法。
(3)繰り返し時間TRを2.0ms〜20.0msとし、且つエコー時間TEを1.0ms〜10.0msとし、フリップ角FAを30°〜90°とする上記(1)又は(2)に記載のMRI装置の作動方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によって、高い時間分解能での脳血流検査が可能となり、1回当たりの撮像時間が短く、且つ十分な信号変化を得ることができる。また、O−17水の血管内濃度が、静脈内投与により低い濃度となる場合であっても、信号変化を十分に捉えることができる。さらに、17Oの共鳴周波数を用いたMRI撮像では特殊なハードウェアが必要であるが、本発明では一般に普及しているMRI装置を用いて、プロトンの共鳴周波数での撮像が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】MRI測定により得られた信号値とO−17水濃度値との関係を示すグラフである。
図2】撮像マトリクスの一つの位置におけるO−17水の時間濃度曲線を示すグラフである。
図3】時間濃度曲線における最大濃度(脳血液量CBVを反映する)のマップである。
図4】時間濃度曲線におけるカーブ下面積(脳血液量CBVを反映する)のマップである。
図5】時間濃度曲線における最大傾斜(脳血流量CBFを反映する)のマップである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るMRI装置の作動方法は、撮像シーケンスとしてBalanced SSFP法を用い、被験者の脳血流におけるO−17水に由来する信号値を得るステップと、その信号値を得るステップを複数回繰り返し、信号値の時間変化を得るステップと、予め得られた信号値とO−17水濃度値との関係に基づき、信号値の時間変化からO−17水の時間濃度曲線を得るステップと、その時間濃度曲線から脳血流量(CBF)及び/又は脳血液量(CBV)を求めるステップと、を含むことを特徴とする。
【0015】
O−17水は、天然の状態よりも高濃度のH17Oを含有する水である。H17Oの濃度は特に限定されるものではないが、高濃度である方が好ましく、例えば10重量%以上であることが好ましい。このようなO−17水は、適宜方法を用いて製造することができ、一例として、予め17Oを含む原料酸素を低温蒸留することにより17Oを濃縮した後、濃縮物に水素を添加してこれらを反応させることにより得ることができる(特開2000−218134号公報を参照)。
【0016】
被験者に投与するO−17水には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含有させても良い。具体的には、ブドウ糖、塩化ナトリウム、塩化カリウム、D−ソルビトール、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ソルビン酸、パラヒドロキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸、クロロブタノール等の防腐剤、アスコルビン酸、α−トコフェノール、亜硫酸塩、アスコルビン酸等の抗酸化剤、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩等の緩衝剤、マンニトール等の高張液等を挙げることができる。その他の成分の含有量は、O−17水中、合計して10重量%未満とすることが好ましい。O−17水の組成の具体例として、例えば、H17Oを10〜50重量%含有し、さらに0.1〜0.2mol/lのナトリウムイオンを加え、pHを4.5〜8.0に調製したO−17水が挙げられる。
【0017】
O−17水は、安定同位体であるため被爆がなく、水であるためアレルギー反応もない。このO−17水は、種々の方法により被験者に投与することができるが、血中濃度を簡便且つ速やかに上昇させるためには、静脈内投与することが好ましい。静脈内投与の場合、17Oの血管内濃度は通常低くなるが、本発明によれば十分な信号変化を検出可能である。具体的には、例えば、インジェクターにより肘静脈から注入することができる。インジェクターにより静注されたO−17水は、心臓、肺を経由して、脳動脈へ流れ込む。そして、脳動脈から、脳組織内の毛細血管を経て、脳静脈へと流れ出ていく。O−17水の投与量は、適宜設定することができ、例えば、成人一人当たり10ml〜100mlのO−17水を、3ml/秒以上の速度で急速大量投与することができる。
【0018】
本発明では、MRI装置の撮像シーケンスとして、Balanced SSFP法を用いる。Balanced SSFP法は、定常状態を利用した高速グラディエント・エコー法の一つである。この撮像シーケンスでは、短い間隔でRFパルスを印加するため、十分な縦磁化の回復が得られず二つの現象が起こる。一つは、各繰り返し時間TR内における縦磁化の減少量と回復量がつり合うことによる定常状態であり、もう一つは、残留する横磁化とRFパルスによるエコー(スピンエコーとスティミュレイトエコー)の形成である。これらの信号は、RFパルスが等間隔に連続する場合に複雑に重なり合う。通常、このエコー信号とFID(自由誘導減衰)を同時に収集することはないが、Balanced SSFP法では、スライス選択用の傾斜磁場や読み取り傾斜磁場においても補正が加えられ、重なり合う信号を同時に収集することになる。したがって、得られる信号は、従来の高速グラディエント・エコー法よりも格段に強く、対象となる血液のT2値を大きく反映したものとなる。Balanced SSFP法には2D撮像と3D撮像があるが、十分な撮像範囲を薄いスライス厚でカバーするためには3D撮像が望ましい。
【0019】
Balanced SSFP法による信号強度は、組織のT1及びT2の比に依存する。したがって、T2/T1が比較的大きな値をとる脳脊髄液は高信号を呈し、見かけ上、T2強調像に類似したコントラストを示すことになる。信号強度には、フリップ角FAも影響し、画質を決める大きな因子になり得るが、血液のT1及びT2値を用いたシミュレーションにより、高いコントラストを得るために必要なフリップ角FAを算出することができる。好ましいフリップ角FAは30°〜90°である。
【0020】
Balanced SSFP法は、従来の条件をそのまま適用すると、1つの撮像に数分を要し、脳血流測定で要求される時間分解能としては不十分である場合がある。その場合は、脳血流測定用に条件の最適化を行うことができる。具体的には、空間分解能を低くして時間分解能を高めるために、撮像マトリクスを小さくする。例えば、64〜512×48〜512まで小さくすることが好ましい。特に好ましくは、64〜128×64〜128である。また、繰り返し時間TR及びエコー時間TEを極限まで低くすることにより、例えば1時相当たり3秒という高い時間分解能を実現することができる。最適なTR及びTEの範囲としては、特に限定されるものではないが、TRを2.0ms〜20.0msとし、TEを1.0ms〜10.0msとすることが好ましい。特に好ましくは、TRが2.0ms〜3.0msであり、TEが1.0ms〜2.0msである。
【0021】
TR及びTEを上記の範囲に設定して撮像を行うと、スポイリング技術を用いないこのシーケンスにおいて、繰り返し時間TR内に生じるオフレゾナンス・スピンの位相のずれが蓄積され続け、位相差による信号の打ち消し合いによって、バンディングアーチファクトと呼ばれる黒い帯を画像上に生じさせる。このバンディングアーチファクトは、ラジオ波(RF波)の位相を変調することで撮像範囲内から移動させることが可能である。例えば、RF波の位相を0°から360°まで変調することで、撮像範囲内の関心領域から任意の場所に移動させることが可能である。
【0022】
上記のように、例えば1時相当たり3秒という高速度での撮像を複数回、連続的に繰り返すことにより、脳血流におけるO−17水に由来する信号値の時間変化が得られる。ここで、予め得られた信号値とO−17水濃度値との相関関係に基づき、信号値をO−17水の濃度に変換し、信号値の時間変化からO−17水の時間濃度曲線を得ることができる。この時間濃度曲線から、撮像マトリクスの各位置(一つの画素)における脳血流量(CBF、mL/100g/min)及び脳血液量(CBV、mL/100g)を求めることができる。具体的には、時間濃度曲線の最大傾斜が脳血流量(CBF)、最大濃度及びカーブ下面積が脳血液量(CBV)に対応する。最大傾斜法に基づくCBF値の算出は、各画素の時間濃度曲線における傾きの最大値を動脈の最大濃度で除することで求められる。CBV値は、各画素の時間濃度曲線における最大濃度を動脈又は静脈の最大濃度で除するか、あるいは各画素の時間濃度曲線におけるカーブ下面積を動脈又は静脈のカーブ下面積で除することで求められる。
【0023】
そして、撮像マトリクスの各画素における時間濃度曲線から得られる最大傾斜、最大濃度及びカーブ下面積の情報を統合して、脳全体の最大傾斜、最大濃度及びカーブ下面積のマップ、すなわち、脳血流量(CBF)及び脳血液量(CBV)のマップを作成することができる。本発明においては、CBF及びCBVのマップの両方を作成しても良いし、いずれか一方を作成しても良い。脳血流量及び脳血液量の値は、カラールックアップテーブルで変換することで色情報に変換して画像化する。画像化する際には脳脊髄液の高濃度画素が目立つため、一定濃度以上の画素をマスクすることで視認しやすいマップを作成する。
【実施例】
【0024】
次に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
まず、異なる濃度(0.037重量%〜1.566重量%)の9種類のO−17水を調製し、これらのO−17水のファントムの撮像を行った。撮像条件は以下の通りである。測定の結果得られたO−17水濃度と信号強度(対数比)との関係を図1に示す。この回帰直線を利用することにより、信号値からO−17水濃度に変換することができる。
(ファントム撮像条件)
3.0T(GEHC、Sigma Excite HD)
QD head coil
FOV:180×120mm
撮像マトリクス:160×160
スライス厚:3mm
スライス数:40スライス
フリップ角:50°
TR:2.97ms
TE:1.04ms
【0025】
次に、8頭のビーグル犬(メス)について撮像を行った。
月齢:10.6±3.9ヶ月(6〜19ヶ月)
体重:10.5±1.3kg(9.1〜11.9kg)
前投薬:
メデトミジン(10μg/kg)
ミダゾラム(0.3mg/kg)
ブトルファノール(0.2mg/kg)
静脈麻酔:
1%プロポフォール(4〜6mg/kgボーラス投与+1.2mg/kg/h点滴投与)
【0026】
撮像は、Balanced SSFP法に基づき、空間分解能を低くして時間分解能を高めるために、撮像マトリクスを64×60まで落とし、TR及びTEを極限まで低くして行った。3D法にて12スライスの同時撮像を行い、1時相当たり3秒の撮像を120回繰り返し、合計で6分間の撮像を行った。撮像条件を以下にまとめて示す。
(ビーグル犬撮像条件)
MRI
3.0T(GEHC、Sigma Excite HD)
QD head coil
FOV:240×120mm
撮像マトリクス:64×60
スライス厚:8mm
スライス数:12スライス
FA:60°
TR:2.6ms
TE:1.22ms
BW:20.83
スキャン継続時間:3秒×120回(6分)
【0027】
撮像開始から25時相目、約75秒後に10重量%濃度O−17水を静注した。O−17水は、蒸留精製を行い、食塩を0.9w/v%加えて生理食塩水としたものを用いた。投与量は、1.0ml/kgである。一つの画素について得られたO−17水の時間濃度曲線を図2に示す。図2において、(a)の曲線がO−17水の時間濃度曲線を表している。(b)の曲線は画像全体の信号曲線であり、ここでは無視できる。また、(c)の直線はO−17水の自然界の濃度であり、信号安定点である。撮像開始後30秒程度は信号が安定しないことが分かる。なお、O−17水の注入前にもO−17水が存在するように見えるが、誤差の範囲である。
【0028】
得られた時間濃度曲線から、最大濃度、最大傾斜及びカーブ下面積を算出した。最大傾斜が脳血流量(CBF)の半定量値、最大濃度及びカーブ下面積が脳血液量(CBV)の半定量値に対応する。撮像マトリクスの各位置について求めた最大濃度、最大傾斜及びカーブ下面積を統合してマップを作成した。図3〜5は、それぞれ12スライスのうち8スライスを抜粋したものであり、図3が最大濃度のマップであり、脳血液量(CBV)を反映している。また、図4はカーブ下面積のマップであり、脳血液量(CBV)を反映している。さらに、図5は最大傾斜のマップであり、脳血流量(CBF)を反映している。図3〜5に示すように、高い時間分解能で、ビーグル犬の脳血流量(CBF)及び脳血液量(CBV)の情報を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、多くの施設で脳血流検査が簡便に施行可能となり、国内で大きな社会問題となっている脳卒中の予防や治療戦略に大きな役割を果たすことができる。また、本発明により得られる高解像度の脳血流画像により、大脳皮質の小領域や脳幹の小さな神経核の血流変化等を捉えることが可能になり、今まで未知であった脳機能の解明、アルツハイマー病等の認知症、うつ病や統合失調症等の精神疾患等の病態解明や早期発見につながる可能性がある。
【0030】
さらに、現時点では高濃度のO−17水は高価であるが、本発明の脳血流検査としての臨床的意義が実証されれば、精製技術の向上や大量生産プラントの開発等の国内産業振興にもつながることが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5