(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
最初に、
図1〜
図5及び表1を参照して、本発明の実施形態に係る注入工法の手順を説明する。
図1において、地山2の法面3に構造物4(例えば、コンクリートを吹き付けて形成された壁面)が築造されている。構造物4の背部(地山2側:
図1では右側)には空隙1(構造物4の背部空隙)が発生している。空隙1は、構造物4と地山2(法面3)の間に存在する空間であって、法面3に概略平行に延在する空洞である。
背部空隙1が存在すると、構造物4の安定性に悪影響を及ぼす。そのため、注入工法により、背部空隙1に固化材を注入(充填)することが行われる。
図1では背部空隙1の間隔(構造物4と地山2(或いは法面3)の間の距離)が、符号Dで示されている。しかし、当該間隔Dは、背部空隙1の上下方向全域において一定であるとは限らない。また、地山2(或いは法面3)の傾斜角は、符号θで示されている。
【0017】
図5における第1の工程S1では、
図1に示す背部空隙1に固化材を注入(充填)している。ここで、固化材は背部空隙1の全領域に注入(充填)される訳ではない。背部空隙1の下方の所定範囲にのみ、注入(充填)される。固化材が注入(充填)される「所定範囲」は、注入(充填)された固化材の液圧で構造物4が破壊しない様に設定される。
所定範囲に固化材が注入(充填)された状態が
図2で示されている。
図2において、注入(充填)された固化材の液圧は符号Pwで示されており、固化材が注入(充填)される「所定範囲」の高さ寸法をH1、固化材(充填材)Mkの単位体積当たりの重量(比重)をγとすれば、背部空隙1の底部1bにおける液圧Pwは、
Pw=γ・H1 なる式で表現される。
【0018】
図5の第2の工程S2では、背部空隙1に固化材が所定量だけ注入(充填)されたか否か判断する。固化材が背部空隙1に所定量だけ注入(充填)されていなければ(第2の工程S2がNO)、所定量の固化材が背部空隙1に注入(充填)されるまで注入(充填)作業を続行する。
固化材が背部空隙1に所定量だけ注入(充填)されたならば(第2の工程S2がYES:
図2で示す状態)、第3の工程S3に進む。
図示の実施形態では、背部空隙1への固化材の注入(充填)は、2層に分けて行なわれている。そして
図2では、1層目(第1リフトL1)の固化材が注入(充填)された状態が示されている。
【0019】
図5における第3の工程S3では、背部空隙1に注入(充填)された固化材が非流動化(固化材が流動状態から非流動状態に変化)したか否かを判断する。
固化材が未だ非流動化していなければ(第3の工程S3がNO)、固化材が非流動化するまで待機する(第3の工程S3がNOのループ)。
固化材が非流動化したならば(第3の工程S3がYES)、第4の工程S4に進む。
【0020】
ここで、固化材が非流動状態になったか否かは、固化材の貫入抵抗値が0.01N/mm
2であるか否かにより判断される。或いは、内径80mmのスランプコーンを用いて計測されたフロー値が80mmになったか否かで判断される。もちろん、固化材の貫入抵抗値が0.01N/mm
2になったことと、内径80mmのスランプコーンを用いて計測されたフロー値が80mmになったことの、双方を充足することを条件としても良い。
施工に際しては、例えば、使用される固化材を製造してから貫入抵抗値が0.01N/mm
2になるまでの時間を予め計測し、或いは、使用される固化材を製造してから内径80mmのスランプコーンを用いて計測されたフロー値が80mmとなるまでの時間を予め計測する。そして、施工において、水、セメントを混合攪拌して固化材を製造してから、当該計測された時間が経過したか否かにより、「固化材が非流動状態になったか否か」を判断する。
【0021】
図5の第4の工程S4では、固化材が注入(充填)された領域よりも上方の領域に固化材を注入(充填)する必要があるか否かを判断する。
上述した様に、図示の実施形態では、背部空隙1への固化材の注入(充填)は、
図2〜
図4で示すように、複数層(2層)に分けて行なわれる。すなわち、
図2で示す工程では1層目(第1リフトL1)に固化材が注入(充填)されており、
図3で示す工程では2層目(第2リフトL2)に固化材が注入(充填)される。
図2、
図3における高さ方向寸法H1は、1層目(第1リフトL1)の規定の高さである。そして、背部空隙1の底部1bにおける液圧Pwは、上述した通り、式 Pw=γ・H1(ただし、γは固化材の比重) で表される。
【0022】
図5の第4の工程S4において、例えば、
図2で示す状態の場合には、未だ、2層目(第2リフトL2)が注入(充填)されていない。係る場合には、固化材が注入(充填)された領域(1層目:第1リフトL1)よりも上方の領域(2層目:第2リフトL2)に固化材を注入(充填)する必要があると判断して(第4の工程S4がYES)、第1の工程S1まで戻り、第1の工程S1以降を、2層目(第2リフトL2)の固化材注入(充填)について繰り返す。そして、2層目(第2リフトL2)の固化材注入(充填)が完了した状態が、
図3で示されている。
一方、
図3で示す状態では、2層目(第2リフトL2)の固化材注入(充填)も終了しており、図示の実施形態では2層目(第2リフトL2)よりも上方には固化材を注入(充填)する必要がない。そのため、固化材が注入(充填)された領域(2層目:第2リフトL2)よりも上方の領域には固化材を注入(充填)する必要がないと判断して(第4の工程S4がNO)、
図5における第5の工程S5に進む。
【0023】
図5の第5の工程S5においては、背部空隙1の固化材が注入(充填)された領域とは別の領域に移動して、当該別の領域に固化材を注入(充填)するか否かを判断する。
背部空隙1の別の領域において固化材を注入(充填)する必要があれば(第1の工程S5がYES)、第1の工程S1まで戻り、第1の工程S1以降を、当該別の領域について再び繰り返す。
背部空隙1について、固化材を注入(充填)するべき領域が存在しなくなれば、別の注入(充填)箇所に固化材を注入(充填)する必要はないと判断して、作業を終了する。
【0024】
図4は、1層目(第1リフトL1)に注入(充填)された固化材が非流動化しておらず、流体状である段階で、2層目(第2リフトL2)に固化材を注入(充填)した状態を示している。
図4では、背部空隙1の底部1bにおける固化材の液圧Pwは、
Pw=γ・H1+γ・H2=γ(H1+H2)
となり、高い圧力となる。そのため、構造物4の底部1bに対応する領域が破壊してしまう恐れが存在する。
【0025】
それに対して、
図3で示す状態、すなわち、1層目(第1リフトL1)に注入(充填)された固化材が非流動化した後、2層目(第2リフトL2)に固化材を注入(充填)した場合には、液圧Pwの分布が
図4で示す状態とは異なっている。
すなわち、
図3における液圧Pwの分布は、第1回の注入(充填)(第1リフトL1)と第2回の注入(充填)(第2リフトL2)との境界で最大(Pwmx=γ・H1)となり、境界よりも下方(第1リフトL1)の底部1bに近い領域ほど、液圧が低下している。そして、
図3では、前記境界よりも寸法H3だけ下方の位置では、液圧Pwはゼロとなる)。
換言すれば、
図4では下方ほど液圧Pwは昇圧しているが、
図3では、第1リフトL1と第2リフトL2の境界よりも下方の領域(第1リフトL1)では、下方に行くほど液圧Pwが低下している。
【0026】
図3において、第1リフトL1と第2リフトL2の境界よりも下方の領域(第1リフトL1)で、下方に行くほど液圧Pwが低下する理由は、非流動状態の固化材(第1リフトL1における固化材)は周囲から摩擦抵抗を受け、この摩擦抵抗が鉛直方向下方に作用する液圧Pwに抵抗して、液圧Pwを打ち消しているためである、と推定される。
【0027】
図3において、第1回の注入(充填)(1リフトL1)と第2回の注入(充填)(2リフトL2)との境界から、液圧Pwが存在しなくなる位置(Pw=0となる位置)までの垂直方向距離をH3とした場合に、以下の手順で当該垂直方向距離H3を計算することができる。
第2リフトL2に固化材を注入(充填)することにより、第1リフトL1上面に直接生じる荷重Wは、空洞1の幅方向寸法Dが一定であると仮定すれば、
W=γ・H2・D ・・・(式1) と表される。
図3において、距離H3の領域に存在する固化材(充填材)Mkと構造物4、地山2との摩擦抵抗Fは、
F=f・2(H3/sinθ)・・・(式2) と表される。
ここでθは、法面3の勾配(傾斜角度)である。
W=Fとすると、式1、式2より、
H3=(γ・H2・D・sinθ)/2f ・・・(式3)
この式(3)により、H3が求められる。
【0028】
D(空洞幅)=10cm、θ(法面勾配)=60°、γ=15.68kN/m
3(密度1.6g/cm
3)と仮定した場合において、式3に基づいて、寸法H3に対するH2の値を算出した結果を、表1に示す。
なお、摩擦抵抗については、VP管(塩化ビニル管)による載荷モデル試験の値を用いた。
【0030】
表1によれば、非流動化した固化材の強度がP=0.01N/mm
2の状態において、仮に第2リフトを1mの高さまで注入(充填)したとしても、構造物4の背部空隙1において液圧Pwが作用するのは、第1リフトL1から24cmの範囲(第1リフトL1の上部24cmの範囲)であり、問題なく(構造物4を破壊することなく)固化材を注入(充填)ができると考えられる。
なお、表1の計算では、摩擦抵抗としてVP管の値を用いているが、実際の構造物4や地山3との摩擦抵抗は、これよりも大きいと考えられる。すなわち、表1の計算では、実際の施工よりも摩擦抵抗を小さく計算しており、いわゆる「安全側」の計算である。
【0031】
表1で示す様に、H3はH2に比較して遥かに小さいので、構造物4の最下方部分(底部1bに相当する部分)には、注入(充填)された固化材による液圧は存在しないことが理解される。
そして、図示の実施形態に係る注入工法によれば、構造物4の背部空隙1に固化材を注入(充填)しても、構造物4の下部に過大な液圧が作用してしまうことが無いことも理解される。
【0032】
ここで、固化材が非流動化するまでの時間は、非流動化剤及び減水剤の種類、添加方法、温度条件によって変化する。従って、図示の実施形態に係る注入工法を施工するに際して、固化材が非流動化するまでの時間は、施工現場の条件に対応して、非流動化剤及び/又は減水剤の種類と添加量を適宜調節することにより、自在に変化させることが出来る。
非流動化剤としては、例えば、カルシウムアルミネート系の急硬剤を用いることが可能である。そして減水剤としては、ナフタレンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを主成分とする減水剤(例えば、花王株式会社販売の商品名「マイティ150R」)を用いることが可能である。
【0033】
[実験例1]
実験例1は、非流動化した固化材の上方に、流動状態にある固化材を注入(充填)しても、非流動化した固化材が注入(充填)された領域には液圧が作用しないことを確認する実験である。
図6は、実験例1で用いられた実験装置10を示している。
図6において、実験装置10は筐体として構成されており、裏面板11と、対向する1対の側板12と、底板13と、表面板14と、下方開閉板15とを備えている。側板12と底板13を除くその他の部材は、アクリル板である。
【0034】
裏面板11、対向する1対の側板12、表面板14は、隣接する辺が接合されており、上端部は、上方に向かって開口しており、当該開口は符号18で示されている。
図6では、表面板14の高さ方向寸法と、下方開閉板15の高さ方向寸法とは概略等しく設定されている。そして、表面板14の下端と下方開閉板15の上端は、1対の蝶番16で接続されており、下方開閉板15が回動して、矢印Rで示すように開閉可能となっている。
下方開閉板15が閉じた状態では、下方開閉板15の下端面は底板13と面一となる。
【0035】
実験例1で使用された固化材を表2に示す。
表2
【0036】
使用材料は表2で示す通り、普通ポルトランドセメント(記号C)、水(記号W)、非流動化剤(記号G)、減水剤(記号SP)の4種類である。ここで、非流動化剤は、カルシウムアルミネート系の急硬剤を用いた。
種々の試験の結果、表1における材料を下記表3の割合で配合して作成した固化材によって試験を行なった。
【0038】
表3において、W/CはセメントCに対する水道水Wの質量割合を示し、G/CはセメントCに対する非流動化剤Gの質量割合を示し、SP/CはセメントCに対する減水剤の質量割合を示している。
【0039】
実験例1において、先ず、
図6の実験装置10における下方開閉板15を図示しないロック機構によって閉じたままにして、開口部18から実験装置10の下方の領域(下方開閉板15の領域)と、それよりも所定範囲(
図3における高さH3に対応する範囲)だけ上方の領域(表面板14における領域)に、表3で示した配合の固化材を注入(充填)した。そして、固化材が非流動化した後に、下方開閉板15を回動して開放状態にして、新たに調整した固化材を開口部18から実験装置10内に注入(充填)した。
固化材が非流動化したか否かについては、予め、固化材を製造した後、内径80mmのスランプコーンを用いて計測したフロー値が80mmとなる経過時間を計測し、固化材を製造した後、当該経過時間が経過した時に、「固化材が非流動化した」と判断した。
実験例1で用いられた固化材では、固化材を製造した後、内径80mmのスランプコーンを用いて計測したフロー値が80mmとなる経過時間と、固化材の製造後に貫入抵抗値が0.01N/mm
2となる経過時間とが等しいことが、発明者等の実験により確認されている。
【0040】
実験例1において、下方開閉板15の領域及び当該領域よりも所定範囲だけ上方の前記領域の固化材が非流動化した後、下方開閉板15が開放されている状態で新たに製造した固化材を注入(充填)しても、開放された領域から固化材が押し出されることはなかった。
このことは、下方開閉板15の領域、すなわち非流動化した固化材が注入(充填)されている領域には、固化材の液圧が作用していないことを意味している。
そして、非流動化した固化材が注入(充填)された領域であれば、その上方に新たに固化材を注入(充填)しても液圧が作用しないので、図示の実施形態に係る注入工法を用いれば、構造物4(
図1〜
図4参照)が、液圧により破壊してしまう恐れがないことが証明された。
【0041】
一方、実験例1における比較実験として、下方開閉板15の領域及び当該領域よりも所定範囲だけ上方の前記領域に注入(充填)された固化材が非流動化する以前の段階(フロー値が80mmとなる以前の段階、或いは、貫入値が0.01N/mm
2となる以前の段階)で、下方開閉板15を開放した状態にて、新たに調整した固化材を開口部18から注入(充填)した。
この場合には、下方開閉板15を開放した箇所から、固化材が流れ出た。
従って、下方開閉板15が位置する領域に注入(充填)された固化材が非流動化する以前の段階で、開口部18から新たに固化材を注入(充填)すると、固化材の液圧が作用してしまうことが確認できた。
【0042】
非流動化した固化材は、(表面板14における領域であって)下方開閉板15よりも所定範囲(
図3における高さH3に対応する範囲)だけ上方の領域から摩擦抵抗を受け、当該摩擦抵抗が、非流動化した固化材及び新たに注入(充填)された固化材の合計質量に起因する液圧(鉛直方向下方に作用する液圧:下方開閉板15における領域に作用する液圧)に対して、十分な抵抗力となり、当該液圧(鉛直方向下方に作用する液圧)を打ち消したものと推定される。
これに対して、非流動化していない固化材については、上述した摩擦力が十分に作用せず、固化材による液圧を打ち消すには不十分であるため、開放した下方開閉板15を開放した箇所から固化材が流れ出てしまったものと推定する。
【0043】
[実験例2]
次に、固化材が非流動化した後、どの程度の貫入抵抗値であれば、非流動化した固化材の上方に、新たな固化材を注入(充填)することが出来るか(どの程度のリフト高さまで打ち継ぐことが出来るか)について、実験を行った(載荷モデル実験)。
なお、実験例2で使用された固化材は、実験例1で使用された固化材と同一である。
【0044】
図7は、実験例2(載荷モデル実験)で用いられた実験装置20を示している。
図7において、実験装置20は、樹脂パイプ(例えば塩化ビニル管:VP管)21と、T字状ジョイント管22と、2個の雄ねじアダプタ23と、2個のキャップ24を備えている。
T字状ジョイント管22には3箇所の開口部221、222、223が形成されている。図示されていないが、開口部221、222、223近傍領域の内周面には管接続用の雌ねじが形成されている。
実験装置20において、開口部222を特に「吐出口」と表示する。
【0045】
明示されていないが、VP管21の一端(
図7における下端)には雄ねじが形成され、当該雄ねじは、T字状ジョイント管22に形成された雌ねじに螺合する。そして、2個のキャップ24は、各々が開口部222、223の開放端に嵌合されている。
実験例2を行うに際しては、実験装置20は、
図7において開口部223のキャップ24(
図7参照)を設けた側が、
図8で示す様に、台座30によって実験現場の床面40に設置された状態で実施される。
【0046】
図7において、T字状ジョイント管22の左方に向いた開口部(吐出口)222の雌ねじと、下方に向いた開口部223の雌ねじには、アダプタ23の雄ねじが螺合している。そして、アダプタ23の内周側は滑らかな面(素管のまま)となっている。ここで、アダプタ23を開口部222、223の雌ねじに螺合させないと、開口部222、223の雌ねじの凹凸が管内に露出することになり、固化材の流動を妨げてしまう。そのため、アダプタ23を開口部222、223に螺合させて、管内の面粗度を素管と同一の状態として、正確な実験データを得る様にしている。
【0047】
実験例2の実験手順を模式的に示している
図8において、
図8「A」の手順では、実験装置20に所定の高さ(充填高さHk)まで、固化材(充填材)Mkを注入(充填)する。
所定時間が経過した後、
図8「B」で示すように、吐出口222のキャップ24を外し、固化材(充填材)Mkの上面に、ピストン50を介しておもり60を載置する。
そして
図8の「C」で示すように、固化材(充填材)Mkの上面及びピストン50が下降して、吐出口222から固化材(充填材)Mkが吐出されるまで、順次おもり60を追加して載せる。
これにより、吐出口222から固化材(充填材)Mkが吐出した時点のおもりの重さを固化材(充填材)Mkの降伏荷重とし、その時点での固化材(充填材)Mkの貫入抵抗値及びフロー値との比較によって、どの程度のフロー値もしくは貫入抵抗値であれば、どの程度の高さまで固化材(充填材)を打ち継ぐことができるのかを判断することが出来る。
【0048】
表4は、実験例2の実験データの種類(試験ケース)を示している。
表4
【0049】
表4によれば、減水剤添加量は0%、0.5%、1.0%、1.5%の4種類である。そして、材料を練混ぜて固化材を製造してから、実験装置20に注入(充填)する(載荷する)までの時間については、減水剤添加量の各変数に対して5種類となっている。
さらに固化材(充填材)の打設高さは、25cm、50cmの2種類となっており、合計40種類の実験を行なっている。
なお、実験例2では、載荷試験だけではなく、貫入抵抗試験と、φ80mmシリンダーコーンを用いてフロー値を計測する試験(フロー試験)も行い、載荷荷重とフロー値と貫入抵抗値の関係についても調べた。
【0050】
図9及び
図10に実験例2の実験結果を示す。
図9は、載荷荷重と貫入抵抗値の関係を示している。なお、載荷荷重100Kg以上のデータについては、作業の安全を考慮して、材料が降伏する前に試験を中止しており、その様なデータについても、
図9のプロットに含まれている。
図10は、
図9のプロットで示すデータの中から、試験を途中で中止した場合のデータや、他のデータと特異的に大きく値が異なるデータを省略し、さらに載荷荷重との関係ではなく、載荷応力との関係を示す特性図である。
特に
図10を参照すれば、基本的に打設高さが同じであれば、載荷応力と貫入抵抗値は、概略、比例関係にあることが分かる。また、同程度の貫入抵抗値であれば、打設高さが高いほど大きな載荷応力に耐えられることが分かる。
【0051】
ここで、打設高さ50cmと打設高さ25cmの載荷応力の差は、そのまま実験装置20(
図7参照)におけるVP管21の25cm分の摩擦抵抗と考えることができる。
図10に示す載荷応力と貫入抵抗値の関係から、打設高25cmおよび50cmのデータについて、それぞれ最小自乗法によって近似すると、下記の式が得られる。
S
25=3.3697P-0.0122・・・(式4)
S
50=5.9662P-0.0094・・・(式5)
ここで、S
25は打設高25cmにおける載荷応力(N/mm
2)、S
50は打設高50cmにおける載荷応力(N/mm
2)、Pは貫入抵抗値(N/mm
2)である。
【0052】
上述した内容により、打設高さ50cmと打設高さ25cmの載荷応力の差(記号「S
50−25」)は、次式6のようになる。
S
50−25=2.5966P+0.0028・・・(式6)
試験装置20のVP管21の内径(D)は100mmである。
打設高さ50cmと打設高さ25cmの載荷応力の差は、そのまま実験装置20(
図7参照)におけるVP管21の25cm分の摩擦抵抗と考えることができるので、VP管21と固化材(充填材)Mkとの摩擦抵抗(f)は下式のように表される。
f=S
50−25×(VP管21の単位長さ当たりの堆積)/(VP管21の25cm当りの管内の周面積)
ここで、VP管21の25cm当りの管内の周面積は、
100×3.14×250=78500mm
2
なので、VP管21と固化材(充填材)Mkとの摩擦抵抗(f)は、
f=S
50−25×50
2×3.14÷78500
=0.25966P+0.00028(N/mm
2)
となる。
【0053】
[実験例3]
次に実験例3で、φ80mmシリンダーコーンを用いたフロー試験で計測されたフロー値と、貫入抵抗値の関係或いは特性を求めた。
図11は、実験例3で用いられた実験装置であって、貫入抵抗値を計測する実験装置を示している。
図11に示す実験装置は、固化材(前記表2、表3を用いて説明した材料)を入れる容器31と、電子ばかり32と、貫入針33を備えている。
ここで、固化材の非流動化した時点における貫入抵抗値は、コンクリートの始発、終結における貫入抵抗値と比較すると、非常に小さな値である。そのため、非流動化した固化材について、凝結試験に用いる貫入抵抗試験装置をそのまま用いて実験を行った場合には、計測精度の点で非常に困難である。そのため、
図11で示す実験装置では、精度が高く、微小な差も読み取れる電子ばかり32を有している。
【0054】
具体的な測定方法としては、先ず、固化材を入れた容器31を電子ばかり32に載置して、ゼロ調整を行なった。
そして、貫入針33を、10秒間かけて材料の上面から2.5cm下方に貫入し、貫入時の最大荷重を電子ばかり32により計測した。(
図11参照)。
さらに、下記算定式(式7)により、貫入抵抗値(N/mm
2)を計算した。
貫入抵抗値(N/mm
2)=P×g/(D
2×3.14/4)・・・(式7)
式7において、Pは電子ばかり32から読み取った貫入時の最大荷重(kg)、Dは貫入針の先端の直径(mm)、gは重力加速度(m/s
2)である。
【0055】
実験例3では、φ80mmシリンダーコーンを用いたフロー試験も行い、フロー値を求めた。そして、
図11の実験装置で求めた貫入抵抗値と、フロー試験により求めたフロー値との関係について検討した。
なお、実験例3では、減水剤(SP)の添加量を変化させた4種類の固化材(減水剤の添加量が0%、0.5%、1.0%、1.5%)を用いて行なった。
【0056】
図12にフロー値の経時変化を示し、
図13に貫入抵抗値の経時変化を示している。
図12、
図13より、フロー値が80mmになった後の段階では、非流動化した固化材の強度は、貫入抵抗値で表現できることが分かった。
図14では、フロー値と貫入抵抗値との関係が示されている。
図14によれば、減水剤添加量によらず、基本的に貫入抵抗値が0.01N/mm
2以上になると、フロー値が80mm(固化材が自立する状態)となることが判明した。
実験例3では、「固化材が非流動化した」というのは、固化材が自立した状態であるフロー値80mmとするのが妥当である。そして、
図14で示すフロー値と貫入抵抗値の関係(特性)より、「フロー値80mm」は、「貫入抵抗値0.01N/mm
2」に対応することが確認された。
【0057】
[実験例4]
次に、固化材のフロー値と、固化材が浸透可能なスリット幅寸法との関係について実験を行い、以って、固化材の流動性について検討した。
亀裂モデル実験で用いる実験装置40の正面及び側面を示す
図15において、1対の側部フレーム(溝型鋼)41が下部ベース(図示を省略)に固着されており、フレーム41、41には、半透明のアクリル板42及び樹脂板43が取り付けられている。実験装置40の上端40uは開口している。
実験装置40の高さ方向寸法Hは、図示の例では700mmであり、側部フレーム(溝型鋼)41におけるフランジ内法間の寸法Bは、図示の例では56mmとなっている。実験装置40の全幅寸法は、試料の数に対応して、適宜設定される。
【0058】
図15において、実験装置40下端近傍の前面の幅方向には、スリット幅の異なるスリット(スリットの長さは共通で100mm)s1〜s5が、均等間隔に5箇所形成されている。
スリットs1〜s5の幅は、スリットs1が0.2mm、スリットs2が0.5mm、スリットs3が1.0mm、スリットs4が2.0mm、スリットs5が3.0mmである。
ここで実験装置40は、可塑性グラウトの品質規格試験であるNEXCOの「覆工背面空洞注入材の適用性確認試験方法(案)」における非漏出性試験方法を参考に、室内で実施可能な大きさで、且つ亀裂(スリット)幅を小さく設定した実験装置である。
【0059】
実験例4では、実験装置40の上方開口部40uより固化材(充填材)を投入し、各スリットs1〜s5における固化材(充填材)の浸透長さを測定し、固化材(充填材)のフロー値と浸透長さとの関係を検討した。
試料としては、減水剤を添加しない固化材(充填材)のみを使用した。
固化材(充填材)を製造した後の経過時間は定めずに、固化材(充填材)製造直後のフロー値300mm程度の固化材(充填材)(試料)、フロー値200mm程度の固化材(充填材)(試料)、フロー値150mm程度の固化材(充填材)(試料)、フロー値100mm程度の固化材(充填材)(試料)を用いて、それぞれのフロー値におけるスリットs1〜s5への浸透長さを測定した。
【0060】
図16に、実験例4の結果を示す。
図16によれば、製造直後のフロー値295mmの固化材(充填材)(試料)では、0.5mmのスリットに対しては10cm以上浸透し、フロー値が小さくなるにつれて、スリットを浸透した距離は短くなる傾向がある。そして、フロー値115mmの固化材(充填材)(試料)では、3mmのスリットに対しても8cmしか浸透しないという結果が得られた。
ここで、浸透長さが長いことは固化材(充填材)が浸透し易いことを意味しており、浸透長さが短いことは固化材(充填材)が浸透し難いことを意味している。
実験例4から、フロー値が大きいほど固化材(充填材)は浸透し易く、フロー値が小さいほど固化材(充填材)は浸透し難くなることが確認された。
【0061】
[実験例5]
次に、減水剤を添加することにより、固化材(充填材)を調整してから非流動化するまでの時間にどの様な影響を及ぼすかを実験した。
実験例5では、固化材(充填材)の材料として、表5で示す様に、普通ポルトランドセメント(C)、水(W:水道水)、非流動化剤(G:急結材、急硬剤)を用いた。
また、実験例5では、非流動化剤としては、カルシウムアルミネート系の急硬剤を採用した。
そして減水剤として、ナフタレンスルホン酸・ホルマリン縮合物ソーダを主成分とする減水剤(例えば、花王株式会社販売の商品名「マイティ150R」)を用いた。
【0063】
実験は、室温、水温共に20℃の条件で行なった。
試験項目としては、フレッシュ性状における生比重測定と、フロー試験と、材料温度測定の3つとした。これら3つの試験項目に対する試験方法及びその実施配合を表6に示す。
なお、上記3つの試験項目において使用したミキサはホバート型モルタルミキサで、容量は20リットル(ボウル全容積)、回転数は変速付きの4速で400rpm、攪拌羽根はホイッパーであった。
【0065】
実験例5における固化材(充填材)の配合は、既往の試験結果により、20℃の環境において比較的早い時間で非流動化する配合を、高強度タイプ、低強度タイプからそれぞれ一つ配合選定した。
選定された配合を表7に示す。
表7
【0066】
実験例5では、表7で示す2種の配合の固化材(充填材)について、減水剤の添加量を変化させて、フロー値、非流動化するまでの時間等を計測した。
ここで、固化材(充填材)の製造の手順としては、ミキサによる高速攪拌前に、ミキサに水、減水剤、セメント、非流動化剤を投入する、いわゆる「先添加」の手順を採用した。
実験例5の実験結果を、
図17(高強度タイプ「W/C=80%」のフロー値の時間特性)及び
図18(低強度タイプ「W/C=150%」のフロー値の時間特性)で示す。
【0067】
図17及び
図18から明らかな様に、(高強度タイプ「W/C=80%」、低強度タイプ「W/C=150%」の何れの場合においても)、減水剤の添加量を増加するに連れて、非流動化するまでの時間が遅くなる。
実験例5により、減水剤の添加量を増加すれば非流動化するまでの時間が長くなり、減水剤の添加量を減少すれば非流動化するまでの時間が短くなることが確認された。そして、減水剤の添加量を調整することにより、非流動化するまでの時間を施工条件に合致させることが可能であることが明らかになった。
【0068】
[実験例6]
次に、固化材(充填材)製造の際に、減水剤を投入する順序を変えることにより、固化材(充填材)を製造してから非流動化するまでの時間に変化があるか否かを実験した。
なお、実験例6で用いられた固化材(充填材)については、減水剤投入順序に関する部分を除き、実験例5と同様である。
【0069】
実験例6では、材料の練混ぜ方法として、減水剤をミキサにより高速攪拌する以前の段階で投入する方法(先添加)と、ミキサにより水、セメント、非流動化剤を高速攪拌した後に減水剤を投入する方法(後添加)の2種類の方法で実験を行なった。
実験例6では、「先添加」では、
ミキサに水、減水剤、セメント、非流動化剤の順で材料を投入し、
ミキサで30秒間高速攪拌し、
ミキサのボウルにこびりついた材料を「へら」でそぎ落とし、
ミキサで30秒間高速攪拌する、 という手順で行なった。
一方、「後添加」では、
ミキサに水、セメント、非流動化剤の順で材料を投入し、
ミキサで30秒間高速攪拌し、
ミキサのボウルにこびりついた材料を「へら」でそぎ落とし、
ミキサに減水剤を投入し、
ミキサで30秒間高速攪拌する、 という手順で行なった。
【0070】
実験例6における固化材の配合を表8に示す。
表8
【0071】
実験例6では、表8で示す配合の固化材について、「先添加」、「後添加」で練混ぜを行って製造し、フロー値の経時変化を比較した。
実験例6の結果(フロー値の経時変化)を、
図19(先添加)、
図20(後添加)に示す。
図19、
図20ともセメントに対する水の比率(W/C=80%)、セメントに対する非流動化剤の比率(G/C=30%)は同じであり(表8参照)、減水剤添加量(SP/C)のパラメータ(0%、1.5%、3.0%)も同じである。
図19、
図20で明らかなように、「後添加」の方が、少量の減水剤添加量によって非流動化するまでの時間の調整ができることが判明した。ここで、減水剤の添加量は少なくした方が経済的である。
【0072】
実験例6により、水、セメント、非流動化剤(急硬剤、急結剤)をミキサで攪拌した後、減水剤を投入して攪拌する製造手順(「後添加」)が、水、減水剤、セメント、非流動化剤を同時にミキサで攪拌する製造手順(「先添加」)に比較して、少量の減水剤添加量で非流動化するまでの時間を変化させることが出来ることが確認された。
そのため、施工現場においては、水、セメント、非流動化剤(急硬剤、急結剤)をミキサで攪拌した後、減水剤を投入してミキサで攪拌する製造手順(「後添加」)が好適であることが、実験例6により明らかになった。
【0073】
[実験例7]
実験例7では、温度条件がフロー値の変化特性に与える影響について実験した。
実験例7で用いられた固化材の材料は、実験例5と同様である。
実施形態に係る注入工法で使用する固化材(充填材)は、セメント系の材料を含有しており、温度条件(外気温、練混ぜ水温)によって、性状に大きく違いが出ると考えられる。
実験例7では、温度条件(外気温、練混ぜ水温)を変化させた場合の性状(フロー値の経時変化)について調べた。
【0074】
実験例7で用いられる固化材(充填材)の配合を表9に示す。
表9
【0075】
表9において、セメントに対する水の比率(W/C=80%)、セメントに対する非流動化剤の比率(G/C=30%)は、表8と同様であるが、減水剤添加量SP/Cのパラメータが0%から3.0%の間で7通り設定されている。
実験例7では、変数(パラメータ)として、外気温で3種類(5℃、20℃、30℃)、練混ぜ水温で5種類(5℃、25℃、35℃、20℃、30℃)、減水剤添加量で7種類(0%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%)、設定している。
係る変数(パラメータ)について、表10で示す。
【0077】
実験例7の結果、すなわち、温度条件(外気温、練混ぜ水温)を変化させた場合のフロー値の経時変化(各温度条件におけるフロー値の経時変化)を、
図21〜
図25に示す。
図21は、減水剤を0%とし、外気温度及び練混ぜ水温が同じ場合(何れも5℃、20℃、30℃)のフロー値の経時変化を示している。
図21から、外気温度及び練混ぜ水温が低くなるほど、非流動化するまでの時間は長くなり、5℃では120分経過しても非流動化していないことが確認された。
【0078】
図22は、外気温を5℃、減水剤添加量を0%に固定し、練混ぜ水温を変化させた場合のフロー値の経時変化を示している。
図22より、外気温が低温(5℃)であっても、練混ぜ水温を高くすれば、非流動化するまでの時間は短くなり、練混ぜ水温を30℃(パラメータC)にすれば、60分以内(30分)で固化材(充填材)が非流動化することが判明した。
【0079】
図23は、外気温5℃、水温35℃を固定して、減水剤添加量を(0%から2.0%まで5段階に)変化させた場合のフロー値の経時変化を示している。
図23より、減水剤の添加量を増すにつれて非流動化するまでの時間が長くなることが分かった。
図23から判明した内容は、実験例5の実験結果と一致する。
【0080】
図24及び
図25は、それぞれ外気温20℃及び30℃で、練混ぜ水温を外気温と同一温度に場合において、減水剤添加量を変化させた場合のフロー値の経時変化を示している。
図24、
図25から、外気温20℃、30℃ともに、減水剤の添加量を増やすことで、非流動化するまでの時間が長くなることが分かった。但し、外気温30℃の方が、非流動化するまでの時間を長くするために、より多くの減水剤を添加する必要があることも確認できた。
【0081】
実験例7により、外気温と固化材(充填材)製造に用いられる水の温度(練混ぜ水温)が、フロー値に影響を及ぼすことが確認された。
従って、固化材(充填材)が非流動化するまでの時間を施工条件に合致する様に製造するには、外気温、練混ぜ水温の何れをも考慮するべきであることが明らかになった。
【0082】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。