(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱可塑性樹脂を母材とするロアー部材とアッパー部材が、マイクロ波によって発熱する誘電発熱体によって溶融し、加圧することで前記ロアー部材とアッパー部材が溶着するマイクロ波誘電加熱接合体において、
前記ロアー部材と前記アッパー部材の溶着前の溶着部位を、前記加圧方向に移動する凹凸組み合わせ構造とし、
前記ロアー部材の嵌合凹部には、前記嵌合凹部の底面に形成した凹形状の嵌合凹部内空部を有し、
また、前記アッパー部材の突出部には、前記突出部の先端面から前記突出部内部に向かって形成した凹形状の突出内空部を有し、
前記突出部と嵌合凹部は、加圧方向に対して前記突出部の先端面と前記嵌合凹部の底面が接した状態で嵌合し、前記突出内空部と前記嵌合凹部内空部によって閉鎖空間が形成され、前記閉鎖空間内に収容された前記誘電発熱体の発熱により前記ロアー部材と前記アッパー部材が溶融され、
また、前記誘導発熱体にはPTC特性を有する材料が用いられることを特徴とするマイクロ波誘電加熱接合体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、特許文献1は、抵抗発熱体をリング状に2等分されるようにケースの上下にセットした後、前記抵抗発熱体に直接電圧を印加して発熱させ、接合面全周を溶着させる技術である。ここでは、電極を前記抵抗発熱体に直接当てるため、前記抵抗発熱体は一体に形成したリング状とはなっていない。そのため、電極を当てる部分に予め孔をあけておくか、前記抵抗発熱体の端部を外へ出しておく必要がある。また、前記抵抗発熱体は一体に形成したリング状となっていないために、一般的に考えて、溶着後の気密性を確保できていないと推定される。勿論、前記抵抗発熱体の電極のために形成した孔を後から樹脂で埋める方法もあるが、それで十分な気密性を得るには、作業が煩雑となり、生産性が良くない。
【0007】
また、ケース内部の上下を複数箇所同時に溶着させる場合には、そもそも電極の接続ができないことから、溶着することができない。それでも電極を接続するとなると、ケースが孔だらけとなり、気密性以前の問題となる。よって、箱の外周のみであれば接合可能だが、箱の内部や多層構造体には使用できない技術である。
そして、特許文献2には、マイクロ波吸収部材を用いて溶着部材を溶着する技術を開示している。この特許文献2の発熱体の断面は円形であり、下に位置する樹脂は発熱体がきれいに嵌るような半円形状で、上に位置する樹脂は平面とし、発熱体を潰しながら、溶着している。この断面形状では上下樹脂が溶け合うことができず、気密性は確保できないと推定される。更に、発熱体が外側へ溢れ出ることから、マイクロ波を吸収させて溶着することには展開できない。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を解消すべくなされたもので、外形や大きさ、溶着位置によって溶着状態が左右されることがなく、信頼性の高い均一な溶着ができ、シール性に富むマイクロ波誘電加熱接合体の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明のマイクロ波誘電加熱接合体は、熱可塑性樹脂を母材とするロアー部材とアッパー部材が、マイクロ波によって発熱する誘電発熱体によって溶融し、加圧することで前記ロアー部材とアッパー部材が溶着するマイクロ波誘電加熱接合体において
、凹凸組み合わせ構造内に前記誘電発熱体が収容され、前記ロアー部材とアッパー部材の溶着前の溶着部位が、前記加圧方向に対し接した位置の凹凸組み合わせ構造内にあり、前記ロアー部材とアッパー部材間には、前記加圧方向に加圧のための加圧距離を設定したものである。
ここで、上記加圧のための加圧距離は、ロアー部材とアッパー部材間に設けられ、前記誘電発熱体
が凹凸組み合わせ構造内に収容された状態で加圧方向に圧縮される距離を意味する。
【0010】
また、前記凹凸組み合わせ構造には前記誘電発熱体を収容する凹部が設けられているものである。
ここで、凹凸組み合わせ構造とは、ロアー部材またはアッパー部材の一方を凹部または凸部とするものであり、対応するアッパー部材またはロアー部材が逆に凸部または凹部とするものである。そして、凹凸組み合わせ構造には、誘電発熱体を収容する凹部が凹凸組み合わせ構造の凹部または凸部の一方に、または、凹部と凸部の双方に設けられる構造もある。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明のマイクロ波誘電加熱接合体は、熱可塑性樹脂を母材とするロアー部材とアッパー部材が、マイクロ波によって発熱する誘電発熱体によって溶融し、加圧することで前記ロアー部材とアッパー部材が溶着するマイクロ波誘電加熱接合体において
、凹凸組み合わせ構造内に前記誘電発熱体が収容され、前記ロアー部材とアッパー部材の溶着前の溶着部位が、前記加圧方向に対し接した位置の凹凸組み合わせ構造内にあり、前記ロアー部材とアッパー部材間には、前記加圧方向に加圧のための加圧距離を有している。
このように、溶着させるロアー部材とアッパー部材の溶着前の溶着部位が凹凸組み合わせ構造であるため、ロアー部材とアッパー部材の溶着部位はこの凹凸組み合わせ構造によって溶着位置が定ま
り、凹凸組み合わせ構造は加圧方向に対し接合した状態で加圧されるため、溶着後のロアー部材とアッパー部材間は確実なシール性が確保できる。そして、このときの加圧は、ロアー部材とアッパー部材間の加圧距離によって確実な加圧が保障される。
また、誘電発熱体
が凹凸組み合わせ構造内の溶着部位に収容されているため、溶着部位の所定の位置に配する事ができ、この誘電発熱体によって溶着部位が効率よく溶融し、均一な溶着が可能となる。
【0012】
更に、前記凹凸組み合わせ構造に前記誘電発熱体を収容する凹部が設けられている。このため、前記誘電発熱体によって、ロアー部材とアッパー部材の溶着部位が加圧方向に対し接合した状態で確実に凹凸部の溶着部位を溶融させることができ、より確実なシール性の確保が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、実施の形態において、図示の同一記号及び同一符号は、同一または相当する機能部分であるから、ここではその重複する説明を省略する。
【0015】
[実施の形態]
まず、本発明の
図2に示す成型体1のロアー部材5及びアッパー部材4の母材としては、一般の熱可塑性樹脂が使用できる。例えば、エンジニアリング・プラスチック、スーパー・エンジニアリング・プラスチックを用いることができる。具体的には、ポリアミド(ナイロン、芳香族ポリアミド等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン等がある。そして、スーパーエンプラとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアレート、液晶ポリマー、ポリアミドイミド等が使用できる。
【0016】
ここで、本発明の実施の形態の成型体1としては、金属、熱硬化性樹脂からの代替として選択されている融点が約280℃の高い耐熱性及び優れた耐薬品性と難燃剤を何ら添加せずに自己消火性を実現する高機能樹脂材料として知られているポリフェニレンサルファイド(以下、単に、『PPS』という)樹脂を選択した。また、機械強度、耐熱性、耐薬品性、難燃性を維持しながら、耐衝撃性とウエルド強度を高める材料であることからもこの材料を特定したものである。
【0017】
次に、本発明の実施の形態で使用する誘電発熱体2としては、接合される成型体1である母材となる熱可塑性樹脂を溶融可能とするために、発熱体10をバインダー20で固めて所定の形状に形成したものである。
【0018】
本発明の実施の形態で使用する発熱体10としては、接合される成型体の母材となる熱可塑性樹脂を溶融させる特定の温度以上に昇温する物質であればよい。発熱体10の材料としては、例えば、鉄、クロム、ニッケル、鉄−クロム合金、鉄−ニッケル合金、ニッケル−クロム合金、及びSUS等を用いることができる。このとき、マイクロ波の照射エネルギの変化は、前記誘電発熱体の温度を変化させ放出する放射及び/または伝熱する熱エネルギに変化される。
【0019】
ここで、本発明の実施の形態で使用する誘電発熱体2には溶着時の成型体と同じ熱可塑性樹脂の母材を配してもよい。成型体1の母材と同種の熱可塑性樹脂を用いることで、誘電発熱体2と母材とが接合しやすくなる。
また、発熱体10には、PTC特性を有する材料を用いることもできる。PTC特性とは温度の上昇に伴って抵抗が上昇する正の温度係数を有する特性を指し、このPTC特性を有することによって発熱体10は昇温と共に抵抗が上昇するため、マイクロ波の照射によって発熱体10が昇温しても、温度が高くなると昇温し難くなり所望の温度で停止することが可能となる。このようなPTC特性は、特定のフェライト材料や、PTCサーミスタ等が有している。このような材料を発熱体10として用いることで特定の所望温度まで昇温させて、所望の溶着温度を維持できる誘電発熱体2が得られる。
本発明を実施する場合の誘電発熱体2としては、何れを使用してもよい。ここで、誘電発熱体2の発熱体10は、所望の特性を得るために1種類または2種類以上を組み合わせて使用することが
できる。
【0020】
本発明の実施形態に使用する発熱体10は、上述したような物質を所定の形状で使用するが、粉末または粒子状等の固体である場合、所望の形状に形成することが困難である。このため、本発明の実施の形態で使用する誘電発熱体2は、発熱体10を所望の形状に形成可能とするために、熱硬化性樹脂をバインダー20として添加している。ここでバインダー20に熱硬化性樹脂を選定している理由は、熱硬化性樹脂は硬化後加熱によって溶融することがないようにするためである。これによって溶着時に誘電発熱体2が昇温しても硬化後は形状保持ができ、誘電発熱体2による溶融の効果を一定にすることができる。
このように、誘電発熱体2は、熱可塑性樹脂を溶融させる特定の温度以上に昇温する物質、即ち、発熱体10をバインダー20によって所定の形状に形成したものである。
なお、誘電発熱体2は形状を形成した後に、予め熱硬化性樹脂を硬化させるか否かは、誘電発熱体2の配置状態と、この誘電発熱体2による溶着状態によって適宜選択できる。
そして、バインダー20としては、エポキシ樹脂(EP)、フェノール樹脂(PF)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂、UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、アルキド樹脂、ポリウレタン(PUR)、熱硬化性ポリイミド(PI)、ジリアルフタレート樹脂(PDAP)等の使用が可能である。
更に、このバインダー20としての熱硬化性樹脂は、固形タイプ、液状タイプが使用できるが、液状タイプを使用すると、誘電発熱体2中に発熱体10を均一に配しやすくなり形状形成も容易となる。
【0021】
次に、本実施の形態の誘電発熱体2についてさらに説明する。
本実施の形態においては、フェライト粉(JFEケミカル(株)、Ni−Znフェライト仮焼粉)からなる発熱体10に液状エポキシ樹脂((株)サンライズ、耐熱エポキシ樹脂)のバインダー20をフェライト粉84重量%とエポキシ樹脂16重量%の配合割合で混合して所定形状の型を用いて圧縮成形することで所定形状の誘電発熱体2を形成した。本実施の形態では、
図1に示したように断面が長方形の円環状の形状に形成した。液状エポキシ樹脂を使用した理由は、接着性に優れて発熱体10とバインダー20との結合力が良好となるためである。
【0022】
母材であるPPS樹脂の成型体1は、
図2(a)に示すように、アッパー部材4とロアー部材5から構成されており、ロアー部材5に凹形状の嵌合凹部5aを設け、アッパー部材4に凸形状の突出部4aを設けて、凹凸嵌合する形状、即ち、凹凸組み合わせ構造としている。アッパー部材4の突出部4aは、ロアー部材5の嵌合凹部5aとの嵌め合いにより、その間隔を0.1〜0.5mm程度小さい巾に設定し、嵌合凹部5aへの突出部4aの挿入を容易にしている。
【0023】
ここで誘電発熱体2は、
図2(b)に示したようにロアー部材5とアッパー部材4の凹凸組み合わせ構造に設けた凹部に配置される。更に詳細には、アッパー部材4には凸形状の突出部4aが設けられ、ロアー部材5には凹形状の嵌合凹部5aが設けられている。そして、アッパー部材4の凸形状の突出部4aがロアー部材5の凹形状の嵌合凹部5aに挿入されている。つまりロアー部材5とアッパー部材4の溶着部位には、凹凸嵌合形状の凹凸組み合わせ構造が形成されている。
更に、アッパー部材4の突出部4aには先端面4cから突出部4a内部に向かって凹形状の突出内空部4bを有し、ロアー部材5の嵌合凹部5aには、その凹部の底面5cからさらに凹形状の嵌合凹部内空部5bを有している。そして突出部4aと嵌合凹部5aは、加圧方向(
図2(b)の上下方向)に対しては先端面4cと底面5cが接した状態で嵌合する形状に形成されている。このとき、突出内空部4bと嵌合凹部内空部5bによって閉鎖空間が形成され、この閉鎖空間内に誘電発熱体2が収容される。このように溶着部位の既定の位置に設けた閉鎖空間内に誘電発熱体2を配することで、溶着部位に所望の溶融状態が容易に得ることができ、溶着精度が向上する。
【0024】
次に本実施の形態における溶着について説明する。
図2(a)に示したように、ロアー部材5の嵌合凹部内空部5bに誘電発熱体2を配置した後、アッパー部材4をロアー部材5の嵌合凹部5aにアッパー部材4の突出部4aを挿入し、嵌合凹部5aに突出部4aを嵌合させる。このとき突出部4aには突出内空部4bが設けられていて、この突出内空部4bと嵌合凹部内空部5bによって誘電発熱体2を収容できる閉鎖空間が形成されるように設定されている。このため、誘電発熱体2は
図2(b)のように、この突出内空部4bと嵌合凹部内空部5bによって形成された閉鎖空間内に収まっている。このように誘電発熱体2は、アッパー部材4とロアー部材5とを溶着する溶着部位となる突出部4aと嵌合凹部5a内の所定の位置に精度良く配置されることになる。なお、誘電発熱体2を収容する閉鎖空間を本実施の形態ではアッパー部材4とロアー部材5とによって形成しているが、アッパー部材4またはロアー部材5だけで形成することもできる。
【0025】
また、突出部4aと嵌合凹部5aが嵌合すると、突出部4aの先端面4cは嵌合凹部5aの底面5cと接するように設定されている。このとき、突出部4aの先端面4cと嵌合凹部5aの底面5cとが接してもアッパー部材4とロアー部材5との間には隙間6が生じるようになっている。そして、アッパー部材4とロアー部材5間に、間隙6を減ずる方向に加圧すると(以下、アッパー部材4とロアー部材5間の間隙6を減ずる方向を「加圧方向」と呼ぶ。)、上記の突出部4aの先端面4cと嵌合凹部5aの底面5cとの接合面に圧力が加わることになる。つまり、アッパー部材4の突出部4bを除いた加圧方向下面4dと、ロアー部材5の嵌合凹部5bを除いた加圧方向上面5d間には間隙6が生じる設定となっていて、この間隙6が加圧距離であり、この加圧距離、つまり隙間6を調整することで溶融樹脂量の調整が可能となる。
【0026】
このような、溶着部位としての突出部4aと嵌合凹部5a内に誘電発熱体2が収容され、突出部4aの先端面4cと嵌合凹部5aの底面5cが接した状態でマイクロ波を照射すると、マイクロ波の照射により誘電発熱体2は特定の温度まで昇温し、PTC特性を有するフェライト材料等が発熱体10として使用されている場合には、当該昇温が自ら停止するまで昇温する。このとき、誘電発熱体2の発熱によって誘電発熱体2の周囲にあるアッパー部材4及びロアー部材5の溶着部位の樹脂が加熱され溶融状態となる。この際誘電発熱体2は、予め既定された閉鎖空間内に配置されていることから、溶着部位の溶融状態を自在に制御できる。
【0027】
そして、この状態で加圧されると、
図2(c)に示すように、溶融状態となった樹脂は、閉鎖空間内の誘電発熱体2が占有する部分以外の残存空間や、突出部4aの側面4eと嵌合凹部5aの側面5eによって形成される隙間空間に流入し、誘電発熱体2の周囲に樹脂の溶融によって一体化した溶融接着接合部45が形成し、この溶融接着接合部45によってアッパー部材4とロアー部材5は溶着接合する。ここで溶融接着接合部45では閉鎖空間内と隙間空間内、及び突出部4aの先端面4cと嵌合凹部5aの底面5cでの溶融部で溶着接合が可能となるため溶着時の接合面積が広く設定できる。このため、この溶融接着接合部45によって良好な接合力得られる。また、溶着前から先端面4cと底面5cが接し、一体に溶着されているからシール性も優れる。このとき加圧距離を適宜設定すると
図2(c)のように溶融樹脂が隙間空間内から溢れ出さずにアッパー部材4とロアー部材5が密着した接合体が得られ、意匠性に優れた接合体となる。
【0028】
閉鎖空間と誘電発熱体2の関係について更に説明する。
閉鎖空間は誘電発熱体2を収容可能とするために誘電発熱体2の容積より大きな容積を要する。このため、閉鎖空間の短手方向(
図2(b)左右方向)の加圧方向に対する平行断面は、誘電発熱体2のそれより大きい値となるように形成されている。本実施の形態では閉鎖空間がアッパー部材4とロアー部材5の双方に形成されているため、アッパー部材4の突出内空部4bの平行断面とロアー部材5の嵌合凹部内空部5bの平行断面の和が誘電発熱体2の平行断面より大きくなっている。そして、閉鎖空間の加圧方向に対する長さ(高さ)と誘電発熱体2の加圧方向に対する長さ(高さ)は略同じとなっている。このため閉鎖空間は誘電発熱体2の加圧方向に交叉する方向の両面側に隙間空間を有する。
【0029】
上述したように、本実施の形態では閉鎖空間、即ち、突出内空部4bと嵌合凹部内空部5bがアッパー部材4とロアー部材5の双方に形成されているが、ロアー部材5の嵌合凹部内空部5bの加圧方向に対する長さ、言い換えれば、嵌合凹部内空部5bの深さは、アッパー部材4の突出内空部4bの加圧方向に対する長さ、言い換えれば、突出内空部4bの深さより大きくしている。これにより、誘電発熱体2の加圧方向に対する長さの半分以上を嵌合凹部内空部5b内に収容できる。これは、誘電発熱体2をロアー部材5の嵌合凹部内空部5b内に配置した後、アッパー部材4の突出内空部4bを嵌合凹部内空部5b内に挿入して嵌合させるとき、誘電発熱体2の位置ずれが抑制され、アッパー部材4とロアー部材5の確実な嵌め合いが容易に行えるからである。
【0030】
このように、本実施の形態の溶着は、ロアー部材5とアッパー部材4の溶着部位である突出部4aの突出内空部4bと嵌合凹部5aの嵌合凹部内空部5bで形成された閉鎖空間内に配置された誘電発熱体2にマイクロ波を照射することで、誘電発熱体2は、マイクロ波で供給された電気エネルギを熱源に変換し、その周囲のロアー部材5とアッパー部材4に熱を与えることで、ロアー部材5とアッパー部材4が溶融する。このとき、ロアー部材5とアッパー部材4間の隙間6を減ずる方向に外力が付与されるため、溶融した熱可塑性樹脂が閉鎖空間内の残存空間及び突出部4aと嵌合凹部5a間の隙間空間に流動しながら結合し、誘電発熱体2の周囲に所定距離範囲の溶融接着接合部45が形成できるものである。ここで、所定距離範囲の溶融接着接合部45は、誘電発熱体2の周囲に位置し、アッパー部材4及びロアー部材5の溶融部分を示すものである。ここで隙間6、即ち、加圧距離は、残存空間及び隙間空間の大きさによって適宜設定する必要がある。つまり、溶融した熱可塑性樹脂が残存空間を充填することができ、隙間空間から溢れ出さない範囲内に収める必要がある。
【0031】
以上説明してきたように、上記実施の形態のマイクロ波誘電加熱接合体は、マイクロ波の照射により、接合される成型体1の母材となる熱可塑性樹脂を溶融させる温度以上に昇温させる発熱体10を熱硬化性樹脂のバインダー20で結合した誘電発熱体2を収容する閉鎖空間を成型体1のロアー部材5とアッパー部材4の凹凸組み合わせ構造内に具備する。そして、ロアー部材5とアッパー部材4の凹凸組み合わせ構造の溶着部位が加圧方向に
対抗した形状であり、更に、ロアー部材5とアッパー部材4間には加圧距離を有した構成となっている。このような構成のマイクロ波誘電加熱接合体にマイクロ波を照射すると、誘電発熱体2はマイクロ波で供給された電気エネルギを、その熱源に代え、マイクロ波エネルギに準じて昇温し、放射熱または熱伝導エネルギを周囲のロアー部材5とアッパー部材4に伝え、それらロアー部材5とアッパー部材4間の加圧力を受けながらロアー部材5とアッパー部材4が溶融し、かつ、前記加圧力により一体に接合する。このとき外力が付与されることで溶融した熱可塑性樹脂が流動しながら結合し、誘電発熱体2の周囲に形成された所定距離範囲の溶融接着接合部45で接合する。
【0032】
また、上記実施の形態のマイクロ波誘電加熱接合体は、マイクロ波の照射により、昇温する発熱体10をバインダー20により結合した誘電発熱体2を、母材となるロアー部材5に形成した嵌合凹部内空部5bに入れる工程と、嵌合凹部5aにアッパー部材4の突出部4aを嵌合する工程と、ロアー部材5とアッパー部材4にマイクロ波を照射して誘電発熱体2を昇温させて溶着部位の熱可塑性樹脂を溶融状態にするとともに、ロアー部材5とアッパー部材4間に、ロアー部材5とアッパー部材4間の隙間6を減ずるような外力を付与する工程を通じ、これらの工程による溶着部位の溶融化と加圧によって、閉鎖空間内の残存空間及び突出部4aと嵌合凹部5a間の隙間空間に溶融状態の溶融樹脂を流動させてロアー部材5とアッパー部材4の溶着部位に溶融接着接合部45を接合する接合方法の発明として捉えることができる。
【0033】
[他の実施の形態]
次に、本実施の形態の変形例について検討する。
図3は突出部4aの先端面4cから内部側に形成した凹部である突出内空部4bに関する変形例である。
図3(a)、(b)、(c)、(d)、(e)は、突出部4aの先端面4cから突出部4aの内部側に凹形状の突出内空部4bが形成されているが、突出内空部4bの凹みが内部に向かって空間が狭くなる窪みとなっており、誘電発熱体2は、突出内空部4bの凹部内面と、その一部が接触した形態となっている。ここで、
図3(a)、(b)、(e)は突出内空部4bの凹部の断面が台形形状、
図3(c)は断面が三角形状、
図3(d)は断面が円形状となっている。このような形状にすることで、誘電発熱体2の上面2aは、突出内空部4bの凹部内面の2箇所と接することができ、誘電発熱体2を閉鎖空間内の所定の位置に配することができる。この際突出内空部4bの断面が対称形状とすることが好ましい。対称形状とすることで、誘電発熱体2を閉鎖空間内の中央部に配することができる。また、
図3(g)は、突出内空部4bの凹部断面を台形状のテーパー形状とし、更に、嵌合凹部内空部5bの凹部もテーパー形状としている。このようにアッパー部材4及びロアー部材5の双方をテーパー形状とすることで、誘電発熱体2は所定の位置に容易に配置することができる。
【0034】
また、
図3(b)、(e)、(f)は突出部4aが、その突出方向の巾が先端程狭くなる形状となっている。つまり容積が小さくなる形状である。ここで
図3(b)は突出部4aの全範囲に亙って次第に、
図3(e)と(f)は突出部4aの先端部分が狭くなっている。更に、
図3(e)は、先端部分の全範囲に亙って次第に狭くなっているのに対し、
図3(f)の先端の巾は一定の狭さを有している。これらのように突出部4aの先端部を狭くすることで嵌合凹部5aとの嵌合が容易となる。ここで、突出部4aの先端部を狭くする代わりに嵌合凹部内空部5bの凹部の開口部(入り口)を広くしても同様の効果が得られる。
【0035】
更に、突出部4aの形状は、
図4(a)に示したように、突出部4aの突出方向の先端面4cにスリット41が形成されている。スリット41の形成によって突出部4aは熱可塑性樹脂が溶融しやすくなり、スリット41には突出部4aや嵌合凹部5aの溶融した熱可塑性樹脂が流入することで、均一化が促進されて接合強度に優れた溶融接着接合部45が得られやすくなる。この際、嵌合凹部5aの底面5cにも
図4(a)や
図4(b)のようなスリット51、スリット52を形成することが好ましい。このようなスリット51、スリット52を形成することで、スリット41と同様に、スリットで仕切られた誘電発熱体2の近傍の熱可塑性樹脂が溶融しやすくなり、スリット51、スリット52には突出部4aや嵌合凹部5aの溶融した熱可塑性樹脂が流入することで、より均一化が可能な溶融接着接合部45が得られやすくなる。
【0036】
図4(c)、(d)、(e)は、誘電発熱体2の形状を変化させた変形例である。
図4(c)は、誘電発熱体2の断面形状が長方形でなく菱形とした事例である。
図4(d)は誘電発熱体2の断面を長円とした事例である。
図4(e)は誘電発熱体2の断面を四角台形とした事例である。これら
図4の各事例においては、何れにせよ、誘電発熱体2を中心に、誘電発熱体2の温度上昇に伴う放射及び/または熱伝導によってアッパー部材4及びロアー部材5の溶着部位が溶融することで溶融接着接合部45が形成されて、一体化されたマイクロ波誘電加熱接合体が得られる。
【0037】
このように何れの変形例においても、突出部4aが嵌合凹部5aに挿着され、突出部4aの先端面4cと嵌合凹部5aの底面5cが接し、この際、突出内空部4bと嵌合凹部内空部5bによって形成される閉鎖空間内に誘電発熱体2が収容される構成となっている。そして、誘電発熱体2にマイクロ波が照射されると、誘電発熱体2は成型体1の成形材料である熱可塑性樹脂の溶融温度を越えて昇温する。この昇温によって、突出内空部4b及び嵌合凹部内空部5bの誘電発熱体2に接触していた接触部及びこの接触部近傍は溶融し所定距離範囲の溶融接着接合部45を形成して溶着が行われる。
【0038】
以上説明してきたように、本実施の形態におけるマイクロ波誘電加熱接合体は、アッパー部材4とロアー部材5の成型体1の溶着母材となる熱可塑性樹脂を溶融温度以上に昇温させる発熱体10を熱硬化性樹脂のバインダー20で結合した誘電発熱体2が、アッパー部材4の凸部の突出部4aに設けた突出内空部4bと、アッパー部材4の凸部と凹凸嵌合するロアー部材5の嵌合凹部5aに設けた嵌合凹部内空部5bによって、アッパー部材4とロアー部材5が凹凸嵌合したときに形成される閉鎖空間内に誘電発熱体2が収容される。この際、アッパー部材4の突出部4aの先端面4cと、ロアー部材5の嵌合凹部5aの底面5cが接するが、アッパー部材4とロアー部材5の間には加圧距離としての隙間6が生じる構成となっている。このようなマイクロ波誘電加熱接合体にマイクロ波を照射し、隙間6を減ずる方向に外力を加えることで、誘電発熱体2の周囲の突出部4a及び嵌合凹部5aの溶着部位が溶融して、溶融接着接合部45で一体に接合するものである。
【0039】
このように、誘電発熱体2を収容した溶着部位が、溶着前から接している構成とすることで、溶着後に良好なシール性が得られる。ここで本実施の形態では、誘電発熱体2を収容した溶着部位が、アッパー部材4とロアー部材5で溶着前から接している凹凸組み合わせ構造内に設けられ、更に、アッパー部材4とロアー部材5の間には加圧距離としての隙間6が生じる構造としている。このようにアッパー部材4とロアー部材5の間に加圧距離を設けることで、加圧時の加圧距離である隙間6が減ずるに従って、誘電発熱体2によって溶融した熱可塑性樹脂がアッパー部材4とロアー部材5の接合面で溶着する。この際、溶融した熱可塑性樹脂がアッパー部材4とロアー部材5で形成された閉鎖空間内の残存空間と、アッパー部材4の突出部4aとロアー部材5の嵌合凹部5aとが嵌合したときに生じる隙間空間に流入して、誘電発熱体2の周囲には溶融した熱可塑性樹脂による溶融接着接合部45が形成される。そして、この溶融接着接合部45の大きさは、誘電発熱体2に加わるエネルギ量と、加圧距離によって変化する。言い換えれば、誘電発熱体2に加わるエネルギ量と、加圧距離によって溶着状態を調整することができる。
【0040】
また、発熱体10を熱硬化性樹脂のバインダー20を使用して一体化することで、温度上昇に伴って熱硬化性樹脂が硬化進行する為、熱可塑性樹脂によって一体化した時に生ずる昇温による誘電発熱体2の形状変化に比べて形状の変化を小さく抑制することが可能となり、溶着部位に対する溶融性能を一定の範囲内に保持することができ、所望の溶融状態が得られやすくなる。