特許第5958980号(P5958980)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958980
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20160719BHJP
   G01J 3/36 20060101ALI20160719BHJP
   G01J 3/02 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   H01L31/10 A
   G01J3/36
   G01J3/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-21334(P2015-21334)
(22)【出願日】2015年2月5日
(62)【分割の表示】特願2013-519484(P2013-519484)の分割
【原出願日】2012年6月4日
(65)【公開番号】特開2015-122527(P2015-122527A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2015年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2011-127273(P2011-127273)
(32)【優先日】2011年6月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須川 成利
(72)【発明者】
【氏名】黒田 理人
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5692880(JP,B2)
【文献】 特開平03−091967(JP,A)
【文献】 特開平06−350125(JP,A)
【文献】 特開平02−020073(JP,A)
【文献】 特開昭50−134394(JP,A)
【文献】 特開2002−255700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/10−31/119、27/14−27/148
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトダイオードに光照射して該フォトダイオード内に発生する光電荷に応じて
該フォトダイオードから出力される信号に基いて信号処理する信号処理方法において、
前記フォトダイオードとして、
シリコンからなる半導体層と、
該半導体層と接触する絶縁体層と、
を有し;
前記半導体層内には、
第1導電領域と、
前記半導体層と前記絶縁体層との界面から前記第1導電領域との間に、前記第1導電領域の極性と反対の極性を有する第2導電領域と、
が設けてあり;
前記第2導電領域は、その空乏化しない領域の厚さが、前記界面の凹凸の大きさより厚く、
且つ、前記半導体層中に入射する200-320nmの紫外光の光強度が、前記半導体層の該紫外光の入射側最表面における光強度に対して1/e倍となる
前記紫外光の侵入長より薄くされている層構造を備えている;
フォトダイオードを使用し、
前記フォトダイオードを少なくとも1つ備えた画素を複数有し該複数の画素が1次元若しくは2次元に配列されているフォトダイオードアレイと、
各画素からの信号を所定手順で読み出す走査手段と、を備えた信号処理装置によって、該フォトダイオードから出力される信号に基いて信号処理することを特徴とする信号処理方法。
【請求項2】
前記信号は画像信号である請求項に記載の信号処理方法。
【請求項3】
前記フォトダイオードアレイに入射される光は分光手段によって予め分光されている請求項に記載の信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光と近赤外光に加えて紫外光を受光することを目的としたフォトダイオード、フォトダイオードアレイ、及びそれらの製造方法と、それらを用いた分光光度計、固体撮像装置、イメージセンサ等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図1は、本発明を比較説明するフォトダイオードの部分断面図を示す。図示されたフォトダイオードは、シリコンからなる半導体層(図示せず)内に、光電荷の蓄積を行うp型領域1と、半導体層に接触する絶縁体層5と、半導体層と絶縁体層5の界面からp型領域の間に形成されたn型領域2と、を有している。n型領域2は、p型領域1と接触して、空乏層を形成する領域と、絶縁体層5に接触して空乏化していない領域9とを有している。空乏化していない領域9の絶縁体層5との界面は、凹凸11を有し、半導体層と絶縁体層の界面に平行する方向の長さ1μmの領域における界面の凹凸11は、図3に示す界面の原子間力顕微鏡像及び凹凸のプロファイルで確認される通り、約1nmである。n型領域2の空乏化していない領域9の厚さ10は、界面の準位に起因するキャリア生成電流による暗電流を抑制するために厚く、例えば100nmとなるように形成されている。
【0003】
図1に示すフォトダイオードのように、n型領域の空乏化していない領域9の厚さ10が200nmと紫外光の侵入長12よりも厚い場合には、n型領域2の空乏化していない領域9内において、光電荷をp型領域1へドリフト輸送する電界が小さく、紫外光によって生成された光電荷がn型領域に効率よく移動しないため、再結合により光電荷が消失してしまう。よって、紫外光に対する感度が低くなっていた。
【0004】
また、図2に示すフォトダイオードのようにn型領域2の空乏化していない領域9の厚さ10を平均的に紫外光の侵入長12より薄くすると、局所的に界面の凹凸11よりも薄くなる部分が出現している。このようなn型領域2の空乏化していない領域9の厚さ10が界面の凹凸11よりも薄い局所的な部分においては、界面準位による電荷の生成・再結合が頻繁に起こるため、暗電流が高く、また、光電荷の再結合による消失によって、光の波長200-1100nmの光のうち、特に侵入長の短い光の波長200-320nmの紫外光に対する感度が低くなっていた。
【0005】
また、紫外光の長期間にわたる照射によって生成される界面準位や、絶縁体層5中の固定電荷による局所的なn型領域2の空乏化により、暗電流の増加や紫外光に対する感度の変動が起こり、紫外光の照射に対する暗電流、感度の安定性が低かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであり、紫外光帯域の光を高感度に検出可能なフォトダイオード、フォトダイオードアレイ及びそれらの製造方法と、フォトダイオードを用いた分光光度計、固体撮像素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明のフォトダイオードは、シリコンからなる半導体層内に第1導電領域と、前記半導体層と接触する絶縁体層と、前記半導体層と前記絶縁体層との界面から第1導電領域との間に、第1導電領域と反対の極性を有する第2導電領域とを有し、第2導電領域の空乏化しない領域の厚さが、前記半導体層と前記絶縁体層との界面に平行する方向の長さ1μmの領域における界面の凹凸より厚く、且つ、前記半導体層中に入射する200-320nmの紫外光の光強度がシリコンの最表面における光強度から1/e倍となる、紫外光の侵入長より薄くなっている。
【0008】
本発明のフォトダイオードは、さらに、第1導電領域に対して第2導電領域とは反対側において、第1導電領域と接触する第1導電領域と反対の極性を有する第3導電領域を有している。
【0009】
本発明のフォトダイオードの前記界面の凹凸は、好適には、半導体層の面方位における原子間の最小の段差である。
【0010】
本発明のフォトダイオードの第2導電領域は、主な不純物がAs, P, Sbのいずれかである。
【0011】
また、本発明のフォトダイオードの第2導電領域は、主な不純物がB, Gaのいずれかであってもよい。
【0012】
また、上記の目的を達成するため、本発明のフォトダイオードの製造方法は、シリコンからなる半導体層内に第1導電領域を形成し、前記半導体層と接触する絶縁体層を形成し、前記半導体層と前記絶縁体層との界面から第1導電領域との間に、第1導電領域と反対の極性を有する第2導電領域を形成するフォトダイオードの製造方法であり、製造工程中に、少なくとも1回以上、前記半導体層表面の凹凸を、前記半導体層の面方位における原子間の最小の段差にする平坦化工程が行われる。前記平坦化工程は、前記半導体層表面の自然酸化膜を除去した後に、800℃以上のAr, H2, Ar/H2のいずれかの雰囲気中で熱処理する工程を含んでもよい。
【0013】
また、本発明のフォトダイオードの製造方法は、前記半導体層と前記絶縁体層との界面を、前記絶縁体層形成前の前記半導体層表面の凹凸が前記半導体層の面方位における原子間の最小の段差である場合に、形成した界面の凹凸が前記半導体層の面方位における原子間の最小の段差であるような酸化、酸窒化または窒化方法によって前記絶縁体層を形成する製造方法が用いられる。この酸化、酸窒化または窒化方法は、前記半導体層の表面を、前記半導体層の面方位の違いに成膜速度が依存しない等方的な酸化、酸窒化または窒化、たとえばラジカル酸素および/またはラジカル窒素による酸化、酸窒化または窒化であってもよい。
【0014】
また、上記の目的を達成するため、本発明のフォトダイオードアレイは、シリコンからなる半導体内に第1導電領域と、前記半導体層と接触する絶縁体層と、前記半導体層と前記絶縁体層との界面から第1導電領域との間に、第1導電領域と反対の極性を有する第2導電領域とを有し、第2導電領域の空乏化していない領域の厚さが、前記半導体層と前記絶縁体層との界面に平行する方向の長さ1μmの領域における界面の凹凸より厚く、且つ、前記半導体層中に入射する200-320nmの紫外光の光強度がシリコンの最表面における光強度から1/e倍となる、紫外光の侵入長より薄くなるように構成されたフォトダイオードを含む。さらに、当該フォトダイオードは、第1導電領域に対して第2導電領域とは反対側において、第1導電領域と接触する第1導電領域と反対の極性を有する第3導電領域を有してもよく、前記界面の凹凸は、半導体層の面方位における原子間の最小の段差であることが好ましい。この場合、フォトダイオードの第2導電領域は、好適には、主な不純物がAs, P, Sbのいずれかであるか、または主な不純物がB, Gaのいずれかを含んでいる。
【0015】
更に、フォトダイオードアレイは、上記したフォトダイオードと、前記フォトダイオードで生成および蓄積した光電荷を転送する転送トランジスタと、を有する画素がアレイ状に複数個集積されており、各画素の信号を順番に選択して読み出すための走査回路を有しており、光の波長200-1100nmのいずれかの光を受光する。
【0016】
また、上記の目的を達成するため、本発明の分光光度計は、シリコンからなる半導体内に第1導電領域と、前記半導体層と接触する絶縁体層と、前記半導体層と前記絶縁体層との界面から第1導電領域との間に、第1導電領域と反対の極性を有する第2導電領域とを有し、第2導電領域の空乏化していない領域の厚さが、前記半導体層と前記絶縁体層との界面に平行する方向の長さ1μmの領域における界面の凹凸より厚く、且つ、前記半導体層中に入射する200-320nmの紫外光の光強度がシリコンの最表面における光強度から1/e倍となる、紫外光の侵入長より薄くなるように構成されたフォトダイオードを含むフォトダイオードアレイを有している。この場合、フォトダイオードは、第1導電領域に対して第2導電領域とは反対側において、第1導電領域と接触する第1導電領域と反対の極性を有する第3導電領域を有してもよく、前記界面の凹凸は、好適には、半導体層の面方位における原子間の最小の段差であることが好ましい。フォトダイオードの第2導電領域は、好適には、主な不純物がAs, P, Sbのいずれかであるか、または主な不純物がB, Gaのいずれかを含んでいる。本発明に係る分光光度計は、フォトダイオードと、前記フォトダイオードで生成及び蓄積した光電荷を転送する転送トランジスタと、を有する画素がアレイ状に複数個集積されているダイオードアレイと、光の波長200-1100nmの光を発光する光源と、光源から発光した光を測定対象物へ集光する第1レンズと、測定対象物から出た光を集光する第2レンズと、回折格子とプリズムのいずれかと、を有しており、光の波長200-1100nmの光を分光計測する。
【0017】
また、上記の目的を達成するため、本発明の固体撮像装置は、シリコンからなる半導体内に第1導電領域と、前記半導体層と接触する絶縁体層と、前記半導体層と前記絶縁体層との界面から第1導電領域との間に、第1導電領域と反対の極性を有する第2導電領域とを有し、第2導電領域の空乏化していない領域の厚さが、前記半導体層と前記絶縁体層との界面に平行する方向の長さ1μmの領域における界面の凹凸より厚く、且つ、前記半導体層中に入射する200-320nmの紫外光の光強度がシリコンの最表面における光強度から1/e倍となる、紫外光の侵入長より薄くなるように構成されたフォトダイオードを含む。フォトダイオードは、さらに、第1導電領域に対して第2導電領域とは反対側において、第1導電領域と接触する第1導電領域と反対の極性を有する第3導電領域を有してもよく、前記界面の凹凸は、半導体層の面方位における原子間の最小の段差であることが好ましい。固体撮像装置を構成する各フォトダイオードの第2導電領域は、好適には、主な不純物がAs, P, Sbのいずれかであるか、または主な不純物がB, Gaのいずれかである。
【0018】
本発明にかかる固体撮像装置は、上記したフォトダイオードと、前記フォトダイオードで生成および蓄積した光電荷を転送する転送トランジスタと、を有する画素が2次元にアレイ状に複数個集積されており、光の波長200-1100nmの光を受け撮像する。
【0019】
また、上記の目的を達成するため、本発明のフォトダイオードアレイは、前記フォトダイオードを有する画素がアレイ状に複数個集積されていて、
各画素の信号を順番に選択して読み出すための走査回路または電荷信号転送回路を
有しており、光の波長200-1100nmのいずれかの光を受光する。
【0020】
また、上記の目的を達成するため、本発明の分光光度計は、前記フォトダイオードアレイと、光の波長200-1100nmの少なくとも一部の光を発光する光源と、光源から発光した光を測定対象物へ集光する第1レンズと、測定対象物から出た光を集光する第2レンズと、回折格子またはプリズムのいずれかと、
を有しており、光の波長200-1100nmの少なくとも一部の光を分光計測する。
【0021】
また、上記の目的を達成するため、本発明の固体撮像装置は、前記フォトダイオードを有する画素が2次元にアレイ状に複数個集積されていて、
各画素の信号を順番に選択して読み出すための走査回路または電荷信号転送回路を有しており、光の波長200-1100nmの光を受け撮像する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、埋め込み型フォトダイオードの表面の導電領域の空乏化していない領域を、半導体層と絶縁体層との界面に平行する方向の長さ1μmの領域における界面の凹凸より厚く、且つ、前記半導体層中に入射する200-320nmの紫外光の光強度がシリコンの最表面における光強度から1/e倍となる、紫外光の侵入長より薄くなっているため、界面準位による電荷の生成・再結合が起こる頻度を抑制し、暗電流を低く保ったまま、光電荷をドリフト輸送するための電界を界面から紫外光の侵入長より薄い領域においても形成され、紫外光帯域の光によって生成された電荷を効率よく電荷蓄積層へ移動させることが出来るため、紫外光に対する高い感度が得られる。
【0023】
また、紫外光の長期間の照射による界面準位や絶縁体層中の電荷が増加したとしても、表面の導電領域の局所的な空乏化を抑制することが出来るため、紫外光の照射に対する暗電流、感度の変動を抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】領域2の空乏化しない領域9の厚さ10が、紫外光の侵入長よりも厚く、紫外光に対する感度が低いフォトダイオード構造の断面図である。
図2】領域2の空乏化しない領域9の厚さ10が、平均的には紫外光の侵入長よりも薄く、局所的にシリコンと絶縁体層5との界面における凹凸よりも薄い部分を有する、紫外光に対する感度が低いフォトダイオード構造の断面図である。
図3図1又は2のフォトダイオード構造に用いられる、半導体層と絶縁体層との界面に平行する方向の長さ1μmの領域における界面の凹凸が約1nmである、半導体層と絶縁体層との界面の原子間力顕微鏡像と凹凸のプロファイルを示す図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るフォトダイオードの断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係るフォトダイオードの断面図である。
図6】本発明の図4及び図5の点線で囲まれた区画の拡大図である。
図7】本発明の第1及び第2実施形態に係る半導体層と絶縁体層との界面の原子間力顕微鏡像と凹凸のプロファイルを示す図である。
図8】本発明の第3実施形態に係るフォトダイオードアレイの概略平面図である。
図9】本発明の第4実施形態に係る分光光度計の概略図である。
図10】本発明の第5実施形態に係る固体撮像素子の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の固体撮像装置の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
第1実施形態
本発明の第1実施形態に係るフォトダイオードの断面図を図4に、図4の点線で囲まれた区画を示すフォトダイオードの断面図の拡大図を図6に、半導体層と絶縁体層5との界面の原子間力顕微鏡像と凹凸のプロファイルを図7に示す。
【0027】
ここでは、Cz法によって製造された(100)面シリコンウェハ100を用いる。このシリコンウェハはn型で不純物濃度が1x1015cm-3である。シリコンウェハの極性はp型でもよく、またシリコンウェハの表面付近はエピタキシャル成長によって形成されていてもよい。また、シリコンウェハの面方位は(100)面に限らない。
【0028】
まず、好適にはシリコンウェハ表面の凹凸を、シリコン(100)面における最小の段差にするための表面平坦化を行う。ここでは、表面の自然酸化膜を希フッ酸薬液によって除去した後に、大気圧下の高清浄なAr雰囲気中において熱処理を行い、シリコン表面の平坦化を行う。ここでの熱処理条件は、900℃で1時間の熱処理を行う。平坦化に用いる熱処理中の雰囲気は、H2もしくはAr/H2であってもよく、また、熱処理中の圧力は、大気圧よりも低圧としてもよい。この平坦化によって、シリコンウェハ100表面は、原子レベルで平坦化される。
【0029】
また、ここでの平坦化処理の一部としては、1000℃以上の水分酸化を用いて100nm以上の酸化膜を形成した後に、形成した酸化膜を剥離する方法を用いても良い。
【0030】
また、ここでの平坦化処理の一部としては、光が遮断され、薬液の溶存酸素濃度が1ppb以下の環境下において、希フッ酸薬液にシリコンウェハを浸漬する方法を用いてもよい。
【0031】
その後、絶縁体層5を形成する。この際、好適には、絶縁体層5を形成前のシリコンの凹凸がその面方位における原子間の最小の段差である場合に、形成したシリコンと絶縁体層5の界面の凹凸が、シリコンの面方位における原子間の最小の段差であるような酸化、酸窒化または窒化方法によって形成する。ここでは、マイクロ波励起高密度プラズマ装置を用いた酸化方法を用いて酸化膜を形成する。ここでは、形成した絶縁体層5の膜厚は7nmである。方法としては、酸素ラジカルを酸化種としたシリコンの面方位に成膜速度が依存しない等方的な酸化方法によってもよい。酸素ラジカルによって絶縁体層5を形成した場合、原子レベルで平坦化されたシリコンウェハ100表面はそのまま維持され、シリコンウェハ100と絶縁体層5との界面は、原子レベルで平坦化されていることが確認された。
【0032】
その後、図4に示すp型領域1を形成する。ここでは、絶縁体層5上から、Bをイオン注入し、1000℃の熱処理によって不純物を活性化させる。ここでのBのイオン注入条件としては、エネルギー15keV、ドーズ3.4x1012cm-2である。
【0033】
次に、n型領域2を形成する。ここでは注入エネルギー10keV、ドーズ3.4x1013cm-2でAsをイオン注入して形成する。形成後のn型領域2における空乏化しない領域(即ち、非空乏領域)9の厚さ10を、図6に示すように、界面の凹凸11よりも厚く、且つ、紫外光の侵入長12よりも薄くする。ここで、紫外光の侵入長12は、入射光の強度が1/eになるまで、光が進む距離によって定まる。このため、n型領域2における空乏化しない領域9の厚さ10は、入射する200-320nmの紫外光の光強度が、シリコンウェハ100の最表面における光強度の1/e倍となる厚さよりも薄くなるように設定される。
【0034】
このように、n型領域2の厚さを薄くすると共に、n型領域2の主な不純物の濃度プロファイルを、界面で一番高く、シリコン中の深さ方向が大きくなるほど小さくなるように形成することが好ましい。そのため、イオン注入後のn型領域2の主な不純物の濃度プロファイルの最大値となる場所が、前記絶縁体層5中に形成されるように、絶縁体層5の厚さとn型領域2を形成するためのイオン注入工程の注入エネルギーを調整してもよい。この実施形態では、n型領域2の厚さを25nmにした。
【0035】
また、イオン注入後のn型領域2の主な不純物の濃度プロファイルの最大値となる場所がシリコンウェハ100中に形成されていても、イオン注入後にシリコンをさらに酸化し、結果的に不純物の濃度プロファイルの最大値となる場所が絶縁体層5中に形成されるようにしてもよい。
【0036】
また、この際、n型領域2の主な不純物がAs, P, Sbのいずれかになるように、注入イオン種としてはAs, P, Sbもしくはそれらいずれかの元素のクラスターイオンやそれらいずれかの元素のフッ化物イオンもしくは水素化物イオンを用いてもよい。
【0037】
その後、図4に示すように、絶縁体層5上に絶縁膜層6を形成する。ここでは、絶縁膜層6は化学気相成長法によって形成された200nmの酸化膜層である。この絶縁膜層6は、光の透過率を向上させるために、酸化膜層の他に、バンドギャップの広いAl2O3, Si3N4, MgF2, MgO, Y2O3などの材料を用いてもよく、またこれらの材料の組み合わせによる積層構造を用いてもよい。
【0038】
その後、コンタクトホールを開口するために、絶縁膜層6及び絶縁体層5の一部をエッチングする。
【0039】
続いて、エッチングした領域に、p型領域4を形成する。ここでは、BF2を注入種として用いた注入エネルギー10keV、ドーズ2x1015cm-2の条件でイオン注入を行う。
【0040】
その後、注入した不純物を活性化させる。ここでは、ランプ型熱処理によって最高到達温度は950℃で行う。好ましくは、熱処理中に起こる不純物の拡散によるイオン注入後の不純物濃度プロファイルからの変動を抑制するために熱処理は欠陥密度を低く抑制できるような最高到達温度において短時間で行う。
【0041】
その後、コンタクトホール部のシリコンの自然酸化膜を剥離後、金属膜を成膜しパターニングして電極7を形成する。ここでは、金属層は蒸着法によって形成したAlを用いる。
【0042】
更に、シリコンの裏面の自然酸化膜を剥離後、Alをウェハ裏面に蒸着し、図4に示すように、アルミニウム電極8を形成する。
【0043】
図4及び6に示された本実施形態では、領域2がn型である場合について説明したが、シリコンウェハの極性及び領域1、2の極性をそれぞれ逆にしたフォトダイオードを形成してもよい。この際、領域2の主な不純物がB, Gaのいずれかになるように、注入イオン種をB, Gaもしくはそれらいずれかの元素のクラスターイオンやそれらいずれかの元素のフッ化物イオンあるいは水素化物イオンを用いてもよい。
【0044】
本実施形態では、表面の自然酸化膜を希フッ酸薬液によって除去した後に、大気圧下の高清浄なAr雰囲気中において熱処理を行い、シリコン表面の凹凸がシリコン(100)面の原子間の最小の段差となる平坦化工程と、このような平坦性が形成されたシリコンと絶縁体層との界面において維持できる絶縁体層形成手法を用いているため、図7に示される通り、本実施形態に係るフォトダイオードのシリコンウェハ100と絶縁体層5の界面に平行する方向の長さ1μmの領域における界面の凹凸は、シリコン(100)面の原子間の最小の段差である0.14nmとなっている。ここで、シリコンのある面方位における原子間の最小の段差とは、その面方位に水平な複数の原子から構成される原子面と原子面との最小の距離のことを意味し、原子間力顕微鏡や走査型トンネル顕微鏡、透過型電子顕微鏡で観測されるシリコンの凹凸のプロファイルにおいて、原子面と原子面との複数の高低差の平均値として観測される。
【0045】
本実施形態では、厚さ25nmのn型領域2の空乏化していない領域9(図6)の厚さ10は5nmであり、界面の凹凸11より厚く、シリコンに入射する200-320nmの紫外光の光強度がシリコンの最表面における光強度から1/e倍となる、紫外光の侵入長12より薄い。このため、暗電流を増加させることなく、紫外光に対する感度が高い特性が得られる。
【0046】
また、図6に示すように、領域2において空乏化されない領域9は、全領域に亘って界面の凹凸よりも下部にあり、局所的にも界面の凹凸よりも薄くなっていない。このため、空乏領域がn領域2に局所的に形成された場合のように、紫外光の長期間の照射によって生成される絶縁体層5や絶縁膜層6中の固定電荷に起因する暗電流が流れることはなく、この結果、紫外光の長期間照射に対する暗電流と感度の安定性が高い。
【0047】
即ち、本発明のように、領域2における空乏化しない領域(非空乏領域)9の厚さ10を紫外光の侵入長12及び界面の凹凸に応じて制御できるのは、領域2と絶縁体層5の界面を原子レベルで平坦化したことによるものである。
【0048】
第2実施形態
本発明の第2実施形態に係るフォトダイオードの断面図を図5に、図5の点線で囲まれた区画を示すフォトダイオードの断面図の拡大図を図6に、半導体層と絶縁体層5との界面の原子間力顕微鏡象と凹凸のプロファイルを図7に示す。
【0049】
領域1、2、4、5、6、7は第1実施形態における同一参照番号で示された領域とそれぞれ同じである。
【0050】
領域1の形成の前に、第2実施形態は、p型のシリコンウェハ100’を用いる点、及び、当該p型のシリコンウェハ100’にn型領域3を形成する点で、第1実施形態と異なっている。図示されたn型領域3は、Pを250 keV、ドーズ1.5x1012cm-2の条件でイオン注入を行ってn型領域3を形成している。尚、n型領域3とp型領域1とを形成する順番は前後してもよい。
【0051】
本実施形態では、n型領域2を介してn型領域3に接続する電極108は電極7と等価な方法を用いて形成する。
【0052】
本実施形態に係るフォトダイオードは、紫外光に対する感度と、紫外光の長期間の照射に対する暗電流と感度の安定性において、第1実施形態と同様の効果を有している。
【0053】
また、本実施形態では、領域2と領域3とがそれぞれ領域1と形成するPN接合によって出来る空乏層の広がりにより、フォトダイオードを動作させる電圧範囲内において、p型領域1を完全に空乏化させることが出来るので、p型領域1に蓄積された光電荷の完全転送を実現できるため、光電荷を効果的に転送できる。
【0054】
また、本実施形態では、シリコンウェハ100’の極性は前述したように、p型である。このため、シリコンウェハ100’の電位を制御することで、フォトダイオードからオーバーフローした電荷を排出することが出来る。その目的のためには制御用の電極101をウェハ100’の底面に設ける。しかしながら、シリコンウェハの極性はn型でもよい。
【0055】
また、本実施形態では、領域2がn型である形態について説明したが、シリコンウェハ100’の極性及び領域1、2の極性をそれぞれ逆にしたフォトダイオードを形成してもよい。
【0056】
第3実施形態
本実施例に係るフォトダイオードアレイの概略平面図を図8に示す。
【0057】
図示されたフォトダイオードアレイは、第1あるいは第2実施形態で説明したフォトダイオードを少なくとも1つ以上有する画素13をアレイ状に配列した構成を備えている。ここでは、フォトダイオードの領域2はn型であるものとし、各画素にはフォトダイオードのいずれか一部と接続するpチャネルの転送トランジスタが形成されているものとする。
【0058】
尚、画素13間のピッチはここでは20μmであり、画素数は1024個である。
【0059】
また、図示されているように、それぞれの画素の信号を順番に読み出す走査回路としてシフトレジスタ14が設けられている。
【0060】
本実施形態では、光電荷としてホールを読み出す形態について記載しているが、領域2がp型のフォトダイオードを形成し、nチャネルの転送トランジスタを形成し、光電荷として電子を読み出す形態でもよい。
【0061】
本実施形態に係るフォトダイオードアレイは、各画素の光電荷の生成及び蓄積を行うフォトダイオード部が第1及び2実施形態で説明した特徴を有しているため、いずれの画素においても、暗電流を増加させることなく、紫外光を含めた光の波長200-1100nmの光に対する感度が高い特性が得られると共に、各画素に入射する光による信号をそれぞれ読み出すことが出来る。
【0062】
また、紫外光の長期間の照射によって生成される酸化膜中の固定電荷によって、局所的に領域2が空乏化していない領域が界面の凹凸よりも薄くなる場所が形成されないため、いずれの画素においても、紫外光の長期間照射に対する暗電流と感度の安定性が高い。
【0063】
第4実施形態
本発明の第4実施形態に係る分光光度計の概略図を図9に示されている。
【0064】
図示された分光光度計は、光源15、第1レンズ16、第2レンズ17、回折格子18、及び、フォトダイオードアレイ19によって構成され、測定対象物20を測定するために使用される。具体的に説明すると、ここでは、光源15として、タングステンランプと重水素ランプからなる光の波長200-1100nmの光を発光する光源が用いられているが、光源としては光の波長200-320nmの紫外光帯域の光を発光する光源でもよい。
【0065】
第1レンズ16は、光源15から発光する光を測定対象物20に集光する位置に配置されており、測定対象物20を透過した光は、第2レンズ17を介して回折格子18に集光される。
【0066】
回折格子18から離れた位置に、第3実施形態で説明したフォトダイオードアレイ19が配置されている。図示されたフォトダイオードアレイ19は、波長200-1100nmの光が回折によって2cmの幅に回折する位置に配置され、波長200-1100nmの光に対し、約1nmの波長分解能を有している。
【0067】
また、本実施形態では、各画素の光電荷の生成及び蓄積を行うフォトダイオードアレイ19が第1及び2実施形態で説明した特徴を有するため、暗電流を増加させることなく、紫外光を含めた光の波長200-1100nmの光に対する感度が高い特性が得られる。また、紫外光の長期間の照射によって生成される酸化膜中の固定電荷によって、局所的に領域2が空乏化していない領域が界面の凹凸よりも薄くなる場所が形成されないため、紫外光の長期間照射に対する暗電流と感度の安定性が高い。
【0068】
また、本実施形態では、基本的な構成を持つ分光光度計を示したが、構成が異なっていても、光検出部に第3実施形態で説明したフォトダイオードアレイ19を用いれば、説明した効果が得られる。
【0069】
第5実施形態
本発明の第5実施形態に係る固体撮像素子の概略平面図を図10に示す。
【0070】
図示された固体撮像素子は、第1あるいは第2実施形態で説明したフォトダイオードを少なくとも1つ以上有する画素13を2次元にアレイ状に配列した構成を備えている。ここでは、フォトダイオードの領域2はn型であるものとして説明するが、フォトダイオードの領域2はp型でもよい。
【0071】
固体撮像素子を構成する各画素は、フォトダイオードのいずれか一部と接続する転送トランジスタ、転送された光電荷を電圧に変換するためのフローティングディフュージョン、フローティングディフュージョンによって電圧に変換された信号を増幅するソースフォロワトランジスタ、フローティングディフュージョン、及びフォトダイオードの電圧をリセットするためのリセットトランジスタ、及び、画素を選択するための選択スイッチトランジスタによって形成されている。また、それぞれの画素の信号を順番に読み出す走査回路として、図10に示すように、水平シフトレジスタ21と垂直シフトレジスタ22が画素配列領域周辺に配置されている。
【0072】
本実施形態では、CMOSイメージセンサの形態について記載しているが、CCDイメージセンサの形態であってもよい。
【0073】
本実施形態においても、各画素の光電荷の生成及び蓄積を行うフォトダイオード部が第1または第2実施形態で説明した特徴を有するため、いずれの画素においても、暗電流を増加させることなく、紫外光を含めた光の波長200-1100nmの光に対する感度が高い特性が得られると共に、2次元にアレイ状に配置された各画素に入射する光による信号をそれぞれ読み出すことが出来、撮像が可能である。
【0074】
また、紫外光の長期間の照射によって生成される酸化膜中の固定電荷によって、局所的に領域2が空乏化していない領域が界面の凹凸よりも薄くなる場所が形成されないため、いずれの画素においても、紫外光の長期間照射に対する暗電流と感度の安定性が高い。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、フォトダイオード、フォトダイオードアレイ、及びフォトダイオードの製造方法、また、フォトダイオードアレイを用いた分光光度計及び固体撮像装置に適用でき、更に、ステッパやスキャナで用いる紫外光や高速液体クロマトグラフ用紫外光の強度を観測するための紫外光強度計、ICP 発光分光分析装置、ラマン分光測定装置、in vivo 光イメージング装置、高速度ビデオカメラなど、紫外光を含む光の高感度センシングが望まれている光センサに適応できる。
【符号の説明】
【0076】
1…p型領域
2…n型領域
3…n型領域
4…p型領域
5…絶縁体層
6…絶縁膜層
7…p型領域用Al電極
8…n型領域用Al電極
9…n型領域で空乏化していない領域
10…n型領域で空乏化していない領域の厚さ
11…シリコンと絶縁体層との界面の凹凸
12…シリコン中の紫外光の侵入長
13…画素
14…シフトレジスタ
15…光源
16…第1レンズ
17…第2レンズ
18…回折格子
19…フォトダイオードアレイ
20…測定対象物
21…水平シフトレジスタ
22…垂直シフトレジスタ
100、100’…シリコンウェハ
101…制御用電極
108…電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図8
図9
図10
図7