特許第5958999号(P5958999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人金沢大学の特許一覧 ▶ パルステック工業株式会社の特許一覧

特許5958999軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置
<>
  • 特許5958999-軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置 図000003
  • 特許5958999-軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置 図000004
  • 特許5958999-軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置 図000005
  • 特許5958999-軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置 図000006
  • 特許5958999-軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置 図000007
  • 特許5958999-軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置 図000008
  • 特許5958999-軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5958999
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/205 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   G01N23/205 310
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-150642(P2012-150642)
(22)【出願日】2012年7月4日
(65)【公開番号】特開2014-13188(P2014-13188A)
(43)【公開日】2014年1月23日
【審査請求日】2015年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000112004
【氏名又は名称】パルステック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 工
(72)【発明者】
【氏名】八木田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】丸山 洋一
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−069684(JP,A)
【文献】 特開2011−027550(JP,A)
【文献】 特開2005−241308(JP,A)
【文献】 小熊 規泰,「軸受の残存疲労寿命予測 第1報:X線回折法の適用」,KOYO Engineering Journal,2002年 4月,No. 161,p. 26-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/205
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査軸受部品の疲労部にX線を照射するステップと、
前記疲労部にて回折した環状の回折X線を検出するステップと、
検出された前記環状の回折X線に基づいて前記被検査軸受部品の使用条件を推定するステップとを備え
前記被検査軸受部品の使用条件を推定するステップは、
前記環状の回折X線を検出する工程において検出された前記環状の回折X線に基づいて、前記疲労部の垂直応力および、前記疲労部のせん断応力、残留オーステナイト量、前記環状の回折X線の中心角と強度との関係、および前記環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅を含む使用条件要素を導出するステップと、
導出された前記使用条件要素の少なくとも1つに基づいて、前記被検査軸受部品の使用条件を算出するステップとを含み、
前記使用条件を推定するステップでは、予め調査された軸受部品の疲労部の垂直応力および、せん断応力、残留オーステナイト量、環状の回折X線の中心角と強度との関係、および環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅の少なくともいずれか1つと、軸受部品の疲労部に与えられた応力の負荷回数、軸受部品の疲労部に与えられた荷重および軸受部品の疲労部における油膜パラメータとの関係に基づいて、前記被検査軸受部品の前記疲労部に与えられた応力の負荷回数、前記疲労部に与えられた荷重および前記疲労部における油膜パラメータが算出される、軸受部品の検査方法。
【請求項2】
前記被検査軸受部品の使用条件を推定するステップにおいて算出された前記被検査軸受部品の使用条件に基づいて、前記被検査軸受部品の余寿命を評価するステップをさらに含む、請求項1に記載の軸受部品の検査方法。
【請求項3】
前記使用条件を推定するステップでは、前記被検査軸受部品の前記疲労部に与えられた応力の負荷回数、前記被検査軸受部品の前記疲労部に与えられた荷重および前記被検査軸受部品の前記疲労部における油膜パラメータのそれぞれは、予め調査された軸受部品の疲労部の垂直応力および、疲労部のせん断応力、残留オーステナイト量、環状の回折X線の中心角と強度との関係、および環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅のそれぞれと、軸受部品の疲労部に与えられた応力の負荷回数、軸受部品の疲労部に与えられた荷重および軸受部品の疲労部における油膜パラメータのすべてとの関係が考慮されるように、統計的に算出される、請求項1または2に記載の軸受部品の検査方法。
【請求項4】
被検査軸受部品の疲労部に対してX線を照射する照射部と、
前記疲労部において回折した環状のX線を検出する検出器と、
前記検出器に接続され、前記検出器において検出された前記環状のX線に基づいて前記被検査軸受部品の使用条件を算出する演算部とを備え
前記演算部では、
前記検出器において検出された前記環状の回折X線に基づいて、前記疲労部の垂直応力および、前記疲労部のせん断応力、残留オーステナイト量、前記環状の回折X線の中心角と強度との関係、および前記環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅を含む使用条件要素を導出するステップと、
導出された前記使用条件要素の少なくとも1つに基づいて、前記被検査軸受部品の使用条件を算出するステップとが実施され、
前記演算部では、予め調査された軸受部品の疲労部の垂直応力および、疲労部のせん断応力、残留オーステナイト量、環状の回折X線の中心角と強度との関係、および環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅の少なくともいずれか1つと、軸受部品の疲労部に与えられた応力の負荷回数、軸受部品の疲労部に与えられた荷重および軸受部品の疲労部における油膜パラメータとの関係に基づいて、前記被検査軸受部品の前記疲労部に与えられた応力の負荷回数、前記疲労部に与えられた荷重および前記疲労部における油膜パラメータが算出され、
前記演算部では、算出された前記被検査軸受部品の使用条件に基づいて、前記被検査軸受部品の余寿命を評価するステップがさらに実施される、軸受部品の検査装置。
【請求項5】
持ち運び可能となっている、請求項に記載の軸受部品の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置に関し、より特定的には、軸受部品の高精度な検査を可能とする軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の寿命は、軸受に負荷される荷重、潤滑条件、軸受部品を構成する材料などに依存することが知られている。そして、転がり軸受の寿命は、上記荷重、潤滑条件、材料などを考慮して作成された寿命計算式を用いて算出することができる(たとえば、非特許文献1参照)。この計算式は、転がり軸受をある条件で使用する際にどのくらいの期間使用できるかを見積もるため、あるいは、要求される時間中に転がり軸受が破損しないためにはどのような条件で転がり軸受を使用すればよいかを見積もるために使用されている。
【0003】
一般に、転がり軸受は寿命計算式に基づいて設定した使用条件で使用される。したがって、通常の条件で転がり軸受が使用されるかぎり、転がり軸受の寿命が問題になることはない。しかしながら、転がり軸受の寿命が市場で問題となる状況がしばしば生じる。これは、実際の転がり軸受の使用条件が、予定された条件と異なっていることが一因であると考えられる。このような状況に対応するため、実際に使用された転がり軸受を分析し、その余寿命を推定する方法が提案されている(たとえば、非特許文献2参照)。この方法は、X線回折を利用した応力測定結果(応力、半価幅、残留オーステナイト量)が、転がり軸受の転動時間(運転時間)と関係を有していることを利用した方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】岡本純三著、「ころがり軸受・ころ軸受の動的負荷容量−Lundberg-Palmgren理論の詳解−」、千葉大学工学部機械工学科機械要素講座、1988年
【非特許文献2】対馬全之ら、ベアリングエンジニア、49(1984)25−34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この方法は、特定の転動条件における応力測定結果と転動時間との関係を利用しているため、その条件に近い条件で使用された転がり軸受にしか適用できないという問題があった。
【0006】
任意の転動条件での転がり軸受の余寿命を推定するためには、転がり軸受の使用条件を何らかの手段で推定し、その条件でどのくらいの期間使用されたか(負荷回数)を推定する方法が必要になる。潤滑油の汚染(異物混入)等の外乱因子がない場合、転がり軸受の寿命を支配する主要因は、荷重および油膜パラメータである。したがって、余寿命を推定するためには、これら2つの条件に負荷回数を加えたの3条件を推定する必要がある。従来のX線回折でも、応力、半価幅、残留オーステナイト量の3つの分析結果が得られる。しかしながら、これらの分析結果に基づいて、転がり軸受の使用条件(負荷回数、荷重および油膜パラメータ)を高精度に推定することは困難であるという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、転がり軸受の使用条件を高精度に推定することが可能な軸受部品の検査方法および検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従った軸受部品の検査方法は、被検査軸受部品の疲労部にX線を照射するステップと、疲労部にて回折した環状の回折X線を検出するステップと、検出されれた環状の回折X線に基づいて被検査軸受部品の使用条件を推定するステップとを備えている。
【0009】
X線を所定の入射角で軸受部品に入射させた場合、軸受部品を形成する鋼がランダムな方位を有する多数の結晶からなる多結晶体である限り、円錐面を構成するようにX線が回折する。そのようにX線が回折しても、従来のX線回折を利用した軸受部品の応力の分析では、上記円錐面を構成する回折X線のうち、一の方向に対応する回折X線のみを検出器にて検出する。そして、入射角を変更して再度同様に回折X線を検出し、これらに基づいて軸受部品の表面における応力を算出する。このように従来のX線回折を利用した分析方法では、円錐面を構成する回折X線のうち、一の方向に対応する回折X線のみを検出し、分析を行なう。そのため、一回の測定で得られる情報量が限られ、軸受部品の使用条件を精度よく推定するためには極めて多数回の測定が必要となる。そのため、従来のX線回折法を利用して軸受部品の使用条件を精度よく推定することは、実質的に不可能であるといえる。
【0010】
これに対し、本発明の軸受部品の検査方法では、上記円錐面を構成する回折X線のすべてに交差する位置に平面状の検出部を有する検出器を配置し、この検出器が検出部を含む平面と上記円錐面とが交差して形成される環状の領域に対応する環状の回折X線(X線回折環)を検出する。このX線回折環には、上記円錐面を構成する全ての回折X線の情報が含まれている。そのため、一回の測定で得られる情報量が上記従来の方法に比べて著しく多くなる。その結果、軸受部品の使用条件を精度よく推定することが可能となる。このように、本発明の軸受部品の検査方法によれば、転がり軸受の使用条件を高精度に推定することができる。
【0011】
上記軸受部品の検査方法においては、上記被検査軸受部品の使用条件を推定するステップは、環状の回折X線を検出する工程において検出された環状の回折X線に基づいて、疲労部の垂直応力、疲労部のせん断応力、環状の回折X線の中心角と強度との関係、および環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅を含む使用条件要素を導出するステップと、導出された使用条件要素の少なくともいずれか1つに基づいて、被検査軸受部品の使用条件を算出するステップとを含んでいてもよい。
【0012】
疲労部の垂直応力、疲労部のせん断応力、回折X線の中心角と強度との関係、および環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅と転がり軸受の使用条件には強い相関があるので、導出したこれら使用条件要素に基づいて使用条件を算出することにより、転がり軸受の使用条件をより高精度に推定することができる。
【0013】
上記軸受部品の検査方法においては、被検査軸受部品の使用条件を推定するステップにおいて算出された被検査軸受部品の使用条件に基づいて、被検査軸受部品の余寿命を評価するステップをさらに含んでいてもよい。
【0014】
これにより、転がり軸受の使用者にとって重要な、軸受を交換すべき時期に関する情報を得ることができる。
【0015】
上記軸受部品の検査方法においては、上記使用条件要素は、疲労部の残留オーステナイト量をさらに含んでいてもよい。疲労部の残留オーステナイト量と転がり軸受の使用条件にも強い相関があるので、残留オーステナイト量に基づいて転がり軸受の使用条件を算出すれば、転がり軸受の使用条件を一層高精度に推定することができる。
【0016】
上記軸受部品の検査方法においては、上記使用条件を推定するステップでは、予め調査された軸受部品の疲労部の垂直応力、疲労部のせん断応力、残留オーステナイト量、環状の回折X線の中心角と強度との関係、および環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅の少なくともいずれか1つと、軸受部品の疲労部に与えられた応力の負荷回数、軸受部品の疲労部に与えられた荷重および軸受部品の疲労部における油膜パラメータとの関係に基づいて、被検査軸受部品の疲労部に与えられた応力の負荷回数、疲労部に与えられた荷重および疲労部における油膜パラメータが算出されてもよい。
【0017】
このように、使用条件要素と実際の使用条件(負荷回数、荷重および油膜パラメータ)との関係を予め調査しておき、被検査軸受部品を分析することにより得られた使用条件要素から使用条件を導出することにより、転がり軸受の使用条件を高精度に推定することができる。
【0018】
上記軸受部品の検査方法においては、上記使用条件を推定するステップでは、被検査軸受部品の疲労部に与えられた応力の負荷回数、被検査軸受部品の疲労部に与えられた荷重および被検査軸受部品の疲労部における油膜パラメータのそれぞれは、予め調査された軸受部品の疲労部の垂直応力、疲労部のせん断応力、残留オーステナイト量、環状の回折X線の中心角と強度との関係、および環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅のそれぞれと、軸受部品の疲労部に与えられた応力の負荷回数、軸受部品の疲労部に与えられた荷重および軸受部品の疲労部における油膜パラメータのすべてとの関係が考慮されるように、統計的に算出されてもよい。
【0019】
このように、各使用条件を、1つの使用条件要素との関係で決定するのではなく、複数の使用条件要素との関係で最も尤もらしい値として算出することにより、転がり軸受の使用条件を一層高精度に推定することができる。
【0020】
本発明に従った軸受部品の検査装置は、被検査軸受部品の疲労部に対してX線を照射する照射部と、疲労部において回折した環状のX線を検出する検出器と、検出器に接続され、検出器において検出された環状のX線に基づいて被検査軸受部品の使用条件を算出する演算部とを備えている。演算部では、検出器において検出された環状の回折X線に基づいて、疲労部の垂直応力および、疲労部のせん断応力、残留オーステナイト量、環状の回折X線の中心角と強度との関係、および環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅を含む使用条件要素を導出するステップと、導出された使用条件要素の少なくとも1つに基づいて、被検査軸受部品の使用条件を算出するステップとが実施される。演算部では、予め調査された軸受部品の疲労部の垂直応力および、疲労部のせん断応力、残留オーステナイト量、環状の回折X線の中心角と強度との関係、および環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅の少なくともいずれか1つと、軸受部品の疲労部に与えられた応力の負荷回数、軸受部品の疲労部に与えられた荷重および軸受部品の疲労部における油膜パラメータとの関係に基づいて、被検査軸受部品の疲労部に与えられた応力の負荷回数、当該疲労部に与えられた荷重および当該疲労部における油膜パラメータが算出される。演算部では、算出された被検査軸受部品の使用条件に基づいて、被検査軸受部品の余寿命を評価するステップがさらに実施される。
【0021】
このような構造を有することにより、本発明の軸受部品の検査装置によれば、上記本発明の軸受部品の検査方法を容易に実施することができる。
【0022】
上記軸受部品の検査装置は、持ち運び可能となっていることが好ましい。これにより、軸受部品が使用されている場所、あるいはその近くにおいて、容易に検査を実施することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上の説明から明らかなように、本発明の軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置によれば、転がり軸受の使用条件を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】軸受部品の検査装置の構成を示す概略図である。
図2】軸受部品の検査装置の他の構成を示す概略図である。
図3】軸受部品の検査方法の手順を概略的に示すフローチャートである。
図4】予め調査された軸受部品の疲労部における応力と負荷回数との関係の一例を示す図である。
図5】予め調査されたある中心角に対応する回折X線の半価幅と負荷回数との関係の一例を示す図である。
図6】予め調査されたある中心角に対応する回折X線の強度と負荷回数との関係の一例を示す図である。
図7】負荷回数の導出手順を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0026】
本発明の一実施の形態における軸受部品の検査装置1は、図1に示すように被検査軸受部品90に対してX線を照射する照射部11と、被検査軸受部品90において回折した環状のX線を検出する検出器12と、検出器12に接続され、検出器12において検出された環状のX線に基づいて被検査軸受部品90の使用条件を算出する演算部13と、演算部13に接続され、演算部13における演算結果を表示する表示部14とを備えている。
【0027】
照射部11は、被検査軸受部品90に対向させることが可能なように設置されたX線管球を含んでいる。検出器12は、照射部から照射したX線を通過させる中心部に形成された孔12Bと被検査軸受部品90に対向させることが可能な平面状の検出部12Aを含んでいる。演算部13は、予め記憶部(図示しない)に記憶されたデータベースと、検出器12において検出された環状のX線のデータとに基づき、被検査軸受部品90の使用条件を算出する。算出された被検査軸受部品90の使用条件は、表示部14に表示される。
【0028】
また、検査装置1は、持ち運び可能となっていてもよい。ここで、「持ち運び可能」な検査装置とは、検査装置1を一定の場所に据え付け、被検査軸受部品90をその場所に運んで検査を実施する必要があるものではなく、検査装置1を移動させることが可能であって、検査装置1を被検査軸受部品90が使用されている場所あるいはその近傍まで運搬し、検査を実施することが可能であるものを意味する。検査装置1を移動可能なものとするためには、検査装置1を軽量かつコンパクトに構成する必要がある。検出器12の検出部12AにX線CCDを採用することにより、照射部11のX線管球および検出器12を筐体内に設け、演算部13および表示部14を小型のコンピュータ装置(パーソナルコンピュータ等)として設ければ、検査装置1全体をコンパクト化することができる。また、検査装置1全体をコンパクト化することで、照射部11のX線管球および検出器12を被検査軸受部品90に近づけることができる。その結果、X線管球の出力を小さくすることができるため、管球の冷却を水冷から空冷に変更することも可能となり、検査装置1のさらなるコンパクト化および軽量化を達成することができる。
【0029】
また、上記図1に示す検査装置1における検出部12Aに代えて、図2に示すようにテーブル12C上に設置されるイメージングプレート12Bを採用した検査装置2を使用することもできる。図2を参照して、検査装置2は、X線の照射および回折X線の受光を行なう第1装置21と、回折X線の像の読み出し、使用条件の算出、および算出結果の表示を行なう第2装置22とを含んでいる。第1装置21は、上記図1の検査装置1の照射部11および検出器12と基本的には同様の構造を有しているが、検査装置1の検出器12に代えて、テーブル12Cと、テーブル12C上に被検査軸受部品90に対向するように着脱自在に設置されるイメージングプレート12Bとを含んでいる。一方、第2装置22は、イメージングプレート12Bを着脱可能に保持するテーブル123と、テーブル123に接続され、テーブル123を回転させる第1モータ121と、第1モータ121に接続され、第1モータ121を二次元的に移動させる(たとえばXY方向に移動させる)第2モータとを備えている。この第1モータ121および第2モータ122により、テーブル123に保持されたイメージングプレート12Bは、回転および二次元的に移動することが可能となっている。さらに、第2装置22は、テーブル123に保持されたイメージングプレート12Bに対してレーザを照射し、イメージングプレート12Bからの反射光を受光するレーザ照射装置124と、レーザ照射装置124、第1モータ121および第2モータ122に接続され、これらからの信号に基づいて環状の回折X線のデータを算出する計算回路125とを含んでいる。上記第1モータ121、第2モータ122、テーブル123、レーザ照射装置124および計算回路125は、イメージングプレート12Bから環状の回折X線のデータを読み出す読み出し部120を構成する。また、読み出し部120、メージングプレート12Bおよびテーブル12Cは、X線の検出器として機能する。
【0030】
また、第2装置22は、読み出し部120の計算回路125に接続された演算部13と、演算部に接続された表示部14とをさらに含んでいる。演算部13および表示部14は、上記検査装置1と同様の構成を有している。検査装置2は、上述のように第1装置21および第2装置22を含んでおり、第1装置21および第2装置22をまとめて、あるいは第1装置21および第2装置22をそれぞれ持ち運び可能となっていてもよい。
【0031】
次に、上記検査装置1、2を用いた軸受部品の検査方法について説明する。図2を参照して、まず、被検査軸受部品90を準備し、この被検査軸受部品90の疲労部にX線を照射するステップ(S10)が実施される。このステップ(S10)では、図1、2を参照して、被検査軸受部品90を所定の位置にセットし、照射部11からX線を被検査軸受部品90に対して照射する。このとき、図1、2に示すように、X線は、被検査軸受部品90に対して所定の入射角で入射するように、矢印αに沿って照射される。
【0032】
次に、図3を参照して、X線回折環が検出されるステップ(S20)が実施される。このステップ(S20)では、図1、2に示すように、矢印αに沿って被検査軸受部品90に入射したX線が、円錐面βを構成するように回折し、検出部12Aまたはイメージングプレート12Bに到達する。そして、たとえばX線CCDである検出部12Aにおいては、それぞれの画素が出力するX線の強度に相当する強度の信号により、環状の回折X線(X線回折環)が検出される。
【0033】
また、検査装置2においては、イメージングプレート12BにおいてX線回折環の像が形成されるので、イメージングプレート12Bを読み出し部120にセットして、イメージングプレート12Aにおけるレーザ照射位置(回転角度と移動位置)と反射光の強度に相当する信号とからX線回折環が検出される。
【0034】
より具体的には、イメージングプレート12Bには環状の回折X線の像が形成されるが、そのままでは環状の回折X線を検出することはできない。そのため、イメージングプレート12Bをテーブル12Cから取り外し、読み出し部120のテーブル123にセットする。テーブル123に保持されたイメージングプレート12Bは、第1モータ121および第2モータ122により回転および移動させられつつ、レーザ照射装置124からレーザの照射を受ける。その結果、イメージングプレート12Bからの反射光の強度に相当する信号がレーザ照射装置124から出力される。すなわち、回折X線の像が形成された箇所からはX線の強度に相当する光量の輝尽発光が発生するので、反射光の強度に相当する信号の強度は、回折X線の強度を表している。また、第1モータ121および第2モータ122内のエンコーダから出力される信号から、イメージングプレート12Bの回転位置と移動位置とを検出することができる。よって、レーザ照射装置124が出力する信号と、第1モータ121および第2モータ122内のエンコーダから出力される信号とを計算回路125に入力させてデータ処理することにより、X線CCDの場合と同様に環状の回折X線を検出することができる。
【0035】
なお、読み出し部120をイメージングプレート12Bおよびテーブル12Cと共に1つの筐体内に備え、X線照射によるイメージングプレート12Bへの環状の回折X線像作成と、読み出し部120による環状の回折X線検出(読み出し)とを連続して行うようにしてもよい。
【0036】
次に、図3を参照して、使用条件要素が導出されるステップ(S30)が実施される。このステップ(S30)では、上記ステップ(S20)において検出されたX線回折環から、被検査軸受部品90が使用されてきた条件(使用条件)との関連性を有するデータ、たとえば被検査軸受部品90の疲労部における垂直応力、疲労部のせん断応力、環状の回折X線の中心角と強度との関係、環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅、残留オーステナイト量などのデータ(使用条件要素)が取得される。
【0037】
次に、図3を参照して、使用条件が算出されるステップ(S40)が実施される。このステップ(S40)では、上記ステップ(S30)において取得された使用条件要素に基づいて、被検査軸受部品90の使用条件が算出される。具体的には、たとえば以下のように使用条件を推定することができる。使用条件の推定(算出)は、検出器12に接続された演算部13にて行なわれる(図1、2参照)。
【0038】
本発明者は、使用条件を異ならせた転がり軸受についてX線回折環を調査した結果、垂直応力である圧縮応力、X線回折環の中心角に対する強度分布、および半価幅の分布が、転がり軸受の使用条件によって変化することを見出した。そのため、豊富なデータ量を含むX線回折環から上記使用条件要素のそれぞれと、実際の使用条件(負荷回数、荷重および油膜パラメータ)との関係を予め調査しておけば、被検査軸受部品90について所定の使用条件要素が導出された場合における実際の使用条件を当該関係に基づいて推定することができる。
【0039】
今、種々の使用条件で使用された各種の転がり軸受を構成する軸受部品について疲労部の回折X線環を調査した結果、図4図6のような関係(データベース)が得られたとする。図4図6において、縦軸は実際の負荷回数、横軸は、それぞれ当該負荷回数の軸受部品を上記X線回折環を用いて分析した結果得られた応力(圧縮応力)、ある中心角に対応する半価幅、ある中心角に対応するピーク強度である。図中の曲線は、図中のデータ点に基づいて算出された負荷回数と各使用条件要素との関係を示している。
【0040】
すなわち、使用後の転がり軸受を構成する軸受部品(被検査軸受部品90)に上記ステップ(S20)でX線を照射し、ステップ(S40)で検出したX線回折環全体を使って分析すると、図4図6の横軸に対応する分析値が得られるので、この分析値から図4図6に示される関係を用いて最も可能性が高い負荷回数を導出することができる。より具体的には、図7を参照して、たとえばX線回折環から得られた被検査軸受部品90の圧縮応力がxである場合、負荷回数はyであると推定することができる。同様に、圧縮応力あるいは他の使用条件要素と、他の使用条件(荷重、油膜パラメータ)との関係を予め調査しておけば、この関係を用いて、被検査軸受部品90の他の使用条件を導出(推定)することができる。
【0041】
ここで、被検査軸受部品90の圧縮応力がxであった場合、このデータのみから判断すると負荷回数はyである確率が最も高い。しかし、このようにして算出される負荷回数には、分析結果のばらつき、およびその他の使用条件(荷重、油膜パラメータ)に起因したばらつきが含まれる。
【0042】
図7に示すように、負荷回数は、圧縮応力に対してF(y)のような分布を持つ。同様に、負荷回数は、すべての使用条件要素(ある中心角に対応する半価幅、ある中心角に対応するピーク強度など)に対して分布を持つ。そのため、それらの分布関数をすべて掛け合わせ、その掛け合わせた関数がどの負荷回数で最大になるのかを求めれば、最も尤もらしい負荷回数を導出することができる。したがって、負荷回数を導出する際には、予め調査された負荷回数と使用条件要素とのそれぞれの関係に基づいて導出される負荷回数の分布関数をなるべく多く掛け合わせ、最も尤もらしい負荷回数を導出することが好ましい。より具体的には、たとえば予め調査された軸受部品の疲労部の垂直応力、疲労部のせん断応力、残留オーステナイト量、環状の回折X線の中心角と強度との関係、および環状の回折X線の中心角に対応して得られるピークの半価幅のそれぞれと負荷回数との関係に基づいて導出される、全ての負荷回数の分布関数を掛け合わせ、最も尤もらしい負荷回数を統計的に導出することが好ましい。そして、負荷回数だけでなく、荷重および油膜パラメータについても、同様に、最も尤もらしい値を統計的に導出することにより、使用条件を精度よく推定することができる。算出された使用条件は、演算部13に接続された表示部14に表示される。
【0043】
次に、図3を参照して、転がり軸受の余寿命が算出されるステップ(S50)が実施される。このステップ(S50)では、上記ステップ(S40)において導出された使用条件に基づいて、被検査軸受部品90の余寿命が算出される。具体的には、たとえば以下のように余寿命を推定することができる。
【0044】
一般に、転がり軸受の寿命は以下の式(1)にて表される。
【0045】
【数1】
【0046】
したがって、上記ステップ(S40)において導出された使用条件(負荷回数、荷重および油膜パラメータ)を上記式(1)にあてはめることにより、被検査軸受部品90の余寿命が算出される。算出された余寿命は、表示部14に表示される。以上のプロセスにより、本実施の形態における検査装置1を用いた軸受部品の検査方法が完了する。
【0047】
上記本実施の形態における検査装置1、2を用いた軸受部品の検査方法では、一回の測定で得られる情報量が従来の方法に比べて著しく多いX線回折環に基づいて転がり軸受を構成する軌道輪、転動体などの軸受部品の使用条件が算出される。そのため、転がり軸受(軸受部品)の使用条件が精度よく推定される。
【0048】
なお、上記実施の形態においては、使用条件を推定するための統計的手法の一例として最尤推定法について述べたが、これに代えて他の統計的手法、たとえばベイズ法を採用してもよい。
【0049】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置は、高い精度が求められる軸受部品の検査方法および軸受部品の検査装置に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0051】
1,2 検査装置、11 照射部、12 検出器、12A 検出部、12B イメージングプレート、12C テーブル、13 演算部、14 表示部、21 第1装置、22 第2装置、90 被検査軸受部品、120 読み出し部、121 第1モータ、122 第2モータ、123 テーブル、124 レーザ照射装置、125 計算回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7