(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記分解温度が、熱重量・示差熱同時測定によって得られたTG曲線の重量減少開始温度P1における接線L1と重量減少終了温度P2における接線L2との交点Rの温度TRであることを特徴とする、請求項1〜4何れか記載の高耐熱性フタロシアニン顔料。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(フタロシアニン:種及び結晶型)
本願発明におけるフタロシアニン原料は、その種類について特に限定されない。フタロシアニンの代表例として、
図4に無金属フタロシアニンの分子構造を示す。また、
図4における分子構造の中心に位置する2個の水素原子が周期表上の他の元素や原子団(単数または複数並びに単独または複数種)で置換された構造のフタロシアニン顔料であっても良い。中心に位置する元素や原子団としては特に限定されない。例えば、H、Cu、Zn、Ti、TiO、Co、Li、Be、Na、Ma、Al、Si、K、Ca、Sc、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Ga、Ge、As、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Ro、Pd、Os、Ir、Pt、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ba、La、Hf、Ta、W、Re、Au、Hg、Tl、Pb、Ac、Th、Pa、Npなどが挙げられる。また、分子構造の一部が他の官能基に置き換わったフタロシアニン誘導体でも良いし、新規に合成されたフタロシアニンであっても良い。また、上記のフタロシアニン原料はそれぞれ単独で使用しても良く、また、複数以上の混合物であっても実施できる。さらに、上記フタロシアニンの結晶型は、特に限定されない。また複数の結晶型の混合物であっても実施できる。
【0019】
(高耐熱性の定義1)
本発明に係る高耐熱性フタロシアニンは、フタロシアニン原料を溶媒に溶解したフタロシアニン溶液とフタロシアニン析出溶媒とを混合して析出させたフタロシアニンであり、析出させたフタロシアニンの分解温度が、上記フタロシアニン原料の分解温度よりも10℃以上高いことを特徴とする。
例えば、フタロシアニン原料が銅フタロシアニンの場合、上記析出させたフタロシアニンの分解温度が、銅フタロシアニンの分解温度よりも高く、望ましくは440℃以上、より望ましくは450℃以上のものであり、また、フタロシアニン原料が臭素化塩素化亜鉛フタロシアニンの場合、上記析出させたフタロシアニンの分解温度が、臭素化塩素化亜鉛フタロシアニンの分解温度よりも高く、望ましくは515℃以上、より望ましくは525℃以上のものである。
【0020】
また、本発明に係る高耐熱性フタロシアニンは、2種以上のフタロシアニン原料を溶媒に溶解したフタロシアニン溶液とフタロシアニン析出溶媒とを混合して析出させたフタロシアニンであってもよい。
上記析出させたフタロシアニンの分解温度は、2種以上のフタロシアニン原料それぞれを溶媒に溶解した2種以上のフタロシアニン溶液それぞれとフタロシアニン析出溶媒とを混合して析出させた2種以上のフタロシアニンの混合物の分解温度より10℃以上高いことを特徴とする。2種以上のフタロシアニンの混合物の混合割合は、上記フタロシアニン溶液における2種以上のフタロシアニン原料の溶解比(モル比)とする。
【0021】
また、本発明に係る高耐熱性フタロシアニンのうち、2種以上のフタロシアニン原料を溶媒に溶解したフタロシアニン溶液とフタロシアニン析出溶媒とを混合して析出させたフタロシアニンは、上記2種以上のフタロシアニン原料の固溶体を形成している。フタロシアニンの固溶体化に関する分析方法は特に限定されないが、顕微分析が好ましい。特に、微小領域における元素の分布状態や、その元素の重量比またはモル比を分析できる分析手法が好ましい。例えば、透過型電子顕微鏡観察下でのエネルギー分散型X線分光分析(TEM−EDS)または走査型電子顕微鏡観察下でのエネルギー分散型X線分光分析(SEM−EDS)、高分解能TEM(HRTEM)、高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法(HAADF−STEM)、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いた元素マッピング、走査透過型電子顕微鏡観察下でのエネルギー分散型X線分光分析(STEM−EDS)などが挙げられる。
【0022】
(高耐熱性の定義2:TG・DTA測定方法、及び分解温度の定義)
本発明に係る高耐熱性フタロシアニンの分解温度を以下の様に定義する。
図5に、本発明に係る高耐熱性フタロシアニン(実施例5)の、熱重量・示差熱同時測定(以下、TG・DTA測定とする)による結果を示す。本発明に係る高耐熱性フタロシアニンの分解温度は、
図5に示すTG曲線における重量減少開始温度P1及び重量減少終了温度P2を読み取り、TG曲線のP1における接線L1と、P2における接線L2との交点Rの位置する温度TRである(
図5では464.4℃)。また、P1及びP2については、TG曲線の微分曲線(DTG曲線)より読み取っても良い。本発明においては、上記TG・DTA測定をセイコーインスツル製のTG・DTA−6300を用いて行うことが好ましく、また測定条件を、大気雰囲気下での測定とし、昇温速度を毎分5℃、参照サンプルにαアルミナを用いて、サンプル重量を10mg±0.5mgとすることが好ましい。
【0023】
(40℃から分解温度までの重量減少率)
本発明に係る高耐熱性フタロシアニンは、上記TG・DTA測定における40℃から重量減少開始温度P1までの重量減少率が、上記フタロシアニン原料の、上記TG・DTA測定における40℃から重量減少開始温度P1までの重量減少率よりも低いことを特徴とする。また、本発明に係る高耐熱性フタロシアニンのうち、2種以上のフタロシアニン原料を溶解したフタロシアニン溶液とフタロシアニン析出溶媒とを混合して析出させたフタロシアニンは、上記TG・DTA測定における40℃から重量減少開始温度P1までの重量減少率が、上記2種以上のフタロシアニン原料それぞれを溶媒に溶解した2種以上のフタロシアニン溶液それぞれとフタロシアニン析出溶媒とを混合して析出させた2種以上のフタロシアニンの混合物の、上記TG・DTA測定における40℃から重量減少開始温度P1までの重量減少率よりも低いことを特徴とする。この場合、2種以上のフタロシアニンの混合物の混合割合は、フタロシアニン溶液における2種以上のフタロシアニン原料の溶解比(モル比)とする。
特に、臭素化塩素化亜鉛フタロシアニンまたは臭素化塩素化亜鉛フタロシアニンとそれ以外との固溶体からなるフタロシアニンにおいて、上記TG・DTA測定における40℃から重量減少開始温度P1までの重量減少は、塩素または臭素の脱離によるものであると考えられる。これらのフタロシアニンをカラーフィルターに用いると、高温処理の際に脱離した塩素や臭素は、カラーフィルターやそれを敷設された表示装置、またはそれらの配線などを腐食する原因となるなどの問題が考えられる。そのため、本発明のように40℃から重量減少開始温度P1までの重量減少率が低いフタロシアニンは、そのような問題を解決、回避できる可能性がある。
【0024】
(粒子径)
本発明に係る高耐熱性フタロシアニンの粒子径は特に限定されない。顔料を微細化した場合、特に、粉砕法を用いて顔料を微細化した場合には、顔料粒子の耐熱性は劣ると考えられている。上記粉砕法には、例えばビーズミルやジェットミル、ロールミルなどを用いた粉砕方法が挙げられる。しかし本発明においては、その一次粒子径が100nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは25nm以下のフタロシアニン微粒子であり、かつ、その分解温度は、原料として用いたフタロシアニン、つまりフタロシアニン原料の分解温度よりも高い高耐熱性フタロシアニンである。
【0025】
本発明に係る高耐熱性フタロシアニンのうち、2種以上のフタロシアニン原料を溶媒に溶解したフタロシアニン溶液とフタロシアニン析出溶媒とを混合して析出させたフタロシアニンにおいて、上記フタロシアニン析出溶媒と混合された上記フタロシアニン溶液における2種以上のフタロシアニン原料の比に対する、析出させたフタロシアニンの一次粒子中における2種以上のフタロシアニンの固溶比が精度25%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である事が好ましい。精度25%を超える場合には、各々のフタロシアニンについて色調が異なるだけでなく、化学的性質からその溶媒または分散剤との相互作用性、または分散性にも悪影響を与える可能性がある。
【0026】
上記フタロシアニン析出溶媒と混合された上記フタロシアニン溶液における2種以上のフタロシアニン原料の比に対する、析出させたフタロシアニンの一次粒子中における2種以上のフタロシアニンの固溶比の精度の求め方は、一次粒子について異なるフタロシアニンの固溶比(成分比/濃度比/モル比)を求めることが可能であれば特に限定されないが、観測条件25万倍以上、好ましくは50万倍以上、より好ましくは100万倍以上の、透過型電子顕微鏡観察下でのエネルギー分散型X線分光分析(TEM−EDS)を用いて求めることが好ましい。一例としてこの場合には、フタロシアニン析出溶媒と混合された上記フタロシアニン溶液における2種以上のフタロシアニン原料の比(モル比)に対する、25万倍以上のTEM観察によって確認された、好ましくは一次粒子についてのEDS分析より算出された固溶比(成分比/濃度比/モル比)より求める事ができる。その他、TEM−EDS分析以外の方法としては、特に限定されないが、STEM−EDS分析や固体NMRなどが挙げられる。また、上記析出させたフタロシアニンについてICP発光分光分析によって求められた固溶比に対するTEM−EDS分析によって求められた固溶比が精度20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内である事が好ましい。上記ICP発光分光分析は、上記析出させたフタロシアニンの集合体、言い換えると上記析出させたフタロシアニンの粉体や分散液に含まれる上記析出させたフタロシアニンの固溶比の分析を目的とするものである。ICP発光分光分析以外の分析方法としては、TG-DTAやDSCなどの熱分析、IRやNMR(溶液)、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーやイオンクロマトグラフィー、XPSやSIMS、TOF−SIMSなどが挙げられる。
【0027】
(高耐熱性フタロシアニンの製造方法)
本発明に係る高耐熱性フタロシアニンの製造方法としては、後述する本願出願人による、特許文献3に記載された原理の装置を用いてフタロシアニンを製造することによって、実施できる。
【0028】
本発明に係る高耐熱性フタロシアニンの製造方法の一例として、フタロシアニン原料を溶媒に溶解したフタロシアニン溶液を含む流体と、フタロシアニン析出溶媒を含む流体とを混合してフタロシアニンを析出させてフタロシアニン微粒子を製造する方法において、上記の各流体を、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面の間にて、上記流体を薄膜流体として混合するものであり、当該薄膜流体中においてフタロシアニン微粒子を析出させることを特徴とするフタロシアニン微粒子の製造方法を用いることができる。以下にこの製造方法について説明する。しかし、この製造方法はほんの一例であって、本発明はこの製造方法に限定されない。
【0029】
以下、図面を用いて上記装置の実施の形態について説明する。
【0030】
図1〜
図3に示す流体処理装置は、特許文献5に記載の装置と同様であり、接近・離反可能な少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する処理用部における処理用面の間で被処理物を処理するものであって、被処理流動体のうちの第1の被処理流動体である第1流体を処理用面間に導入し、前記第1流体を導入した流路とは独立し、処理用面間に通じる開口部を備えた別の流路から被処理流動体のうちの第2の被処理流動体である第2流体を処理用面間に導入して処理用面間で上記第1流体と第2流体を混合・攪拌して処理を行う装置である。なお、
図1においてUは上方を、Sは下方をそれぞれ示しているが、本発明において上下前後左右は相対的な位置関係を示すに止まり、絶対的な位置を特定するものではない。
図2(A)、
図3(B)においてRは回転方向を示している。
図3(B)においてCは遠心力方向(半径方向)を示している。
【0031】
この装置は、被処理流動体として少なくとも2種類の流体を用いるものであり、そのうちで少なくとも1種類の流体については被処理物を少なくとも1種類含むものであり、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面を備え、これらの処理用面の間で上記の各流体を合流させて薄膜流体とするものであり、当該薄膜流体中において上記の被処理物を処理する装置である。この装置は、上述のとおり、複数の被処理流動体を処理することができるが、単一の被処理流動体を処理することもできる。
【0032】
この流体処理装置は、対向する第1及び第2の、2つの処理用部10,20を備え、少なくとも一方の処理用部が回転する。両処理用部10,20の対向する面が、夫々処理用面となる。第1処理用部10は第1処理用面1を備え、第2処理用部20は第2処理用面2を備える。
【0033】
両処理用面1,2は、被処理流動体の流路に接続され、被処理流動体の流路の一部を構成する。この両処理用面1,2間の間隔は、適宜変更して実施することができるが、通常は、1mm以下、例えば0.1μmから50μm程度の微小間隔に調整される。これによって、この両処理用面1,2間を通過する被処理流動体は、両処理用面1,2によって強制された強制薄膜流体となる。
【0034】
この装置を用いて複数の被処理流動体を処理する場合、この装置は、第1の被処理流動体の流路に接続され、当該第1被処理流動体の流路の一部を形成すると共に、第1被処理流動体とは別の、第2被処理流動体の流路の一部を形成する。そして、この装置は、両流路を合流させて、処理用面1,2間において、両被処理流動体を混合し、反応させるなどの流体の処理を行なう。なお、ここで「処理」とは、被処理物が反応する形態に限らず、反応を伴わずに混合・分散のみがなされる形態も含む。
【0035】
具体的に説明すると、上記の第1処理用部10を保持する第1ホルダ11と、第2処理用部20を保持する第2ホルダ21と、接面圧付与機構と、回転駆動機構と、第1導入部d1と、第2導入部d2と、流体圧付与機構pとを備える。
【0036】
図2(A)へ示す通り、この実施の形態において、第1処理用部10は、環状体であり、より詳しくはリング状のディスクである。また、第2処理用部20もリング状のディスクである。第1、第2処理用部10、20の材質は、金属、カーボンの他、セラミックや焼結金属、耐磨耗鋼、サファイア、その他金属に硬化処理を施したものや、硬質材をライニングやコーティング、メッキなどを施工したものを採用することができる。この実施の形態において、両処理用部10,20は、互いに対向する第1、第2の処理用面1、2の少なくとも一部が鏡面研磨されている。
この鏡面研磨の面粗度は、特に限定されないが、好ましくはRa0.01〜1.0μm、より好ましくはRa0.03〜0.3μmとする。
【0037】
少なくとも一方のホルダは、電動機などの回転駆動機構(図示せず)にて、他方のホルダに対して相対的に回転することができる。
図1の50は、回転駆動機構の回転軸を示しており、この例では、この回転軸50に取り付けられた第1ホルダ11が回転し、この第1ホルダ11に支持された第1処理用部10が第2処理用部20に対して回転する。もちろん、第2処理用部20を回転させるようにしてもよく、双方を回転させるようにしてもよい。また、この例では、第1、第2ホルダ11、21を固定しておき、この第1、第2ホルダ11、21に対して第1、第2処理用部10、20が回転するようにしてもよい。
【0038】
第1処理用部10と第2処理用部20とは、少なくとも何れか一方が、少なくとも何れか他方に、接近・離反可能となっており、両処理用面1,2は、接近・離反できる。
【0039】
この実施の形態では、第1処理用部10に対して、第2処理用部20が接近・離反するもので、第2ホルダ21に設けられた収容部41に、第2処理用部20が出没可能に収容されている。但し、これとは、逆に、第1処理用部10が、第2処理用部20に対して接近・離反するものであってもよく、両処理用部10,20が互いに接近・離反するものであってもよい。
【0040】
この収容部41は、第2処理用部20の、主として処理用面2側と反対側の部位を収容する凹部であり、平面視において、円を呈する、即ち環状に形成された、溝である。この収容部41は、第2処理用部20を回転させ得る十分なクリアランスを持って、第2処理用部20を収容する。なお、第2処理用部20は軸方向に平行移動のみが可能なように配置してもよいが、上記クリアランスを大きくすることにより、第2処理用部20は、収容部41に対して、処理用部20の中心線を、上記収容部41の軸方向と平行の関係を崩すように傾斜して変位できるようにしてもよく、さらに、第2処理用部20の中心線と収容部41の中心線とが半径方向にずれるように変位できるようにしてもよい。
このように、3次元的に変位可能に保持するフローティング機構によって、第2処理用部20を保持することが望ましい。
【0041】
上記の被処理流動体は、各種のポンプや位置エネルギーなどによって構成される流体圧付与機構pによって圧力が付与された状態で、第1導入部d1と、第2導入部d2から両処理用面1、2間に導入される。この実施の形態において、第1導入部d1は、環状の第2ホルダ21の中央に設けられた通路であり、その一端が、環状の両処理用部10、20の内側から、両処理用面1、2間に導入される。第2導入部d2は、第1の被処理流動体と反応させる第2の被処理流動体を処理用面1,2へ供給する。この実施の形態において、第2導入部d2は、第2処理用部20の内部に設けられた通路であり、その一端が、第2処理用面2にて開口する。流体圧付与機構pにより加圧された第1の被処理流動体は、第1導入部d1から、両処理用部10,20の内側の空間に導入され、第1処理用面1と第2処理用面2との間を通り、両処理用部10,20の外側に通り抜けようとする。これらの処理用面1,2間において、第2導入部d2から流体圧付与機構pにより加圧された第2の被処理流動体が供給され、第1の被処理流動体と合流し、混合、攪拌、乳化、分散、反応、晶出、晶析、析出などの種々の流体処理がなされ、両処理用面1,2から、両処理用部10,20の外側に排出される。なお、減圧ポンプにより両処理用部10,20の外側の環境を負圧にすることもできる。
【0042】
上記の接面圧付与機構は、第1処理用面1と第2処理用面2とを接近させる方向に作用させる力を、処理用部に付与する。この実施の形態では、接面圧付与機構は、第2ホルダ21に設けられ、第2処理用部20を第1処理用部10に向けて付勢する。
【0043】
前記の接面圧付与機構は、第1処理用部10の第1処理用面1と第2処理用部20の第2処理用面2とが接近する方向に押す力(以下、接面圧力という)を発生させるための機構である。この接面圧力と、流体圧力などの両処理用面1、2間を離反させる力との均衡によって、nm単位ないしμm単位の微小な膜厚を有する薄膜流体を発生させる。言い換えれば、上記力の均衡によって、両処理用面1、2間の間隔を所定の微小間隔に保つ。
【0044】
図1に示す実施の形態において、接面圧付与機構は、上記の収容部41と第2処理用部20との間に配位される。具体的には、第2処理用部20を第1処理用部10に近づく方向に付勢するスプリング43と、空気や油などの付勢用流体を導入する付勢用流体導入部44とにて構成され、スプリング43と上記付勢用流体の流体圧力とによって、上記の接面圧力を付与する。このスプリング43と上記付勢用流体の流体圧力とは、いずれか一方が付与されるものであればよく、磁力や重力などの他の力であってもよい。この接面圧付与機構の付勢に抗して、流体圧付与機構pにより加圧された被処理流動体の圧力や粘性などによって生じる離反力によって、第2処理用部20は、第1処理用部10から遠ざかり、両処理用面間に微小な間隔を開ける。このように、この接面圧力と離反力とのバランスによって、第1処理用面1と第2処理用面2とは、μm単位の精度で設定され、両処理用面1,2間の微小間隔の設定がなされる。上記離反力としては、被処理流動体の流体圧や粘性と、処理用部の回転による遠心力と、付勢用流体導入部44に負圧を掛けた場合の当該負圧、スプリング43を引っ張りスプリングとした場合のバネの力などを挙げることができる。この接面圧付与機構は、第2処理用部20ではなく、第1処理用部10に設けてもよく、双方に設けてもよい。
【0045】
上記の離反力について、具体的に説明すると、第2処理用部20は、上記の第2処理用面2と共に、第2処理用面2の内側(即ち、第1処理用面1と第2処理用面2との間への被処理流動体の進入口側)に位置して当該第2処理用面2に隣接する離反用調整面23を備える。この例では、離反用調整面23は、傾斜面として実施されているが、水平面であってもよい。被処理流動体の圧力が、離反用調整面23に作用して、第2処理用部20を第1処理用部10から離反させる方向への力を発生させる。従って、離反力を発生させるための受圧面は、第2処理用面2と離反用調整面23とになる。
【0046】
さらに、この
図1の例では、第2処理用部20に近接用調整面24が形成されている。この近接用調整面24は、離反用調整面23と軸方向において反対側の面(
図1においては上方の面)であり、被処理流動体の圧力が作用して、第2処理用部20を第1処理用部10に接近させる方向への力を発生させる。
【0047】
なお、第2処理用面2及び離反用調整面23に作用する被処理流動体の圧力、即ち流体圧は、メカニカルシールにおけるオープニングフォースを構成する力として理解される。処理用面1,2の接近・離反の方向、即ち第2処理用部20の出没方向(
図1においては軸方向)と直交する仮想平面上に投影した近接用調整面24の投影面積A1と、当該仮想平面上に投影した第2処理用部20の第2処理用面2及び離反用調整面23との投影面積の合計面積A2との、面積比A1/A2は、バランス比Kと呼ばれ、上記オープニングフォースの調整に重要である。このオープニングフォースについては、上記バランスライン、即ち近接用調整面24の面積A1を変更することで、被処理流動体の圧力、即ち流体圧により調整できる。
【0048】
摺動面の実面圧P、即ち、接面圧力のうち流体圧によるものは次式で計算される。
P=P1×(K−k)+Ps
【0049】
ここでP1は、被処理流動体の圧力即ち流体圧を示し、Kは上記のバランス比を示し、kはオープニングフォース係数を示し、Psはスプリング及び背圧力を示す。
【0050】
このバランスラインの調整により摺動面の実面圧Pを調整することで処理用面1,2間を所望の微小隙間量にし、被処理流動体による流動体膜を形成させ、生成物などの処理された被処理物を微細とし、また、均一な反応処理を行うのである。
なお、図示は省略するが、近接用調整面24を離反用調整面23よりも広い面積を持ったものとして実施することも可能である。
【0051】
被処理流動体は、上記の微小な隙間を保持する両処理用面1,2によって強制された薄膜流体となり、環状の両処理用面1、2の外側に移動しようとする。ところが、第1処理用部10は回転しているので、混合された被処理流動体は、環状の両処理用面1,2の内側から外側へ直線的に移動するのではなく、環状の半径方向への移動ベクトルと周方向への移動ベクトルとの合成ベクトルが被処理流動体に作用して、内側から外側へ略渦巻き状に移動する。
【0052】
尚、回転軸50は、鉛直に配置されたものに限定するものではなく、水平方向に配位されたものであってもよく、傾斜して配位されたものであってよい。被処理流動体は両処理用面1,2間の微細な間隔にて処理がなされるものであり、実質的に重力の影響を排除できるからである。また、この接面圧付与機構は、前述の第2処理用部20を変位可能に保持するフローティング機構と併用することによって、微振動や回転アライメントの緩衝機構としても機能する。
【0053】
第1、第2処理用部10、20は、その少なくともいずれか一方を、冷却或いは加熱して、その温度を調整するようにしてもよく、
図1では、第1、第2処理用部10、20に温調機構(温度調整機構)J1,J2を設けた例を図示している。また、導入される被処理流動体を冷却或いは加熱して、その温度を調整するようにしてもよい。これらの温度は、処理された被処理物の析出のために用いることもでき、また、第1、第2処理用面1、2間における被処理流動体にベナール対流若しくはマランゴニ対流を発生させるために設定してもよい。
【0054】
図2に示すように、第1処理用部10の第1処理用面1には、第1処理用部10の中心側から外側に向けて、即ち径方向について伸びる溝状の凹部13を形成して実施してもよい。この凹部13の平面形状は、
図2(B)へ示すように、第1処理用面1上をカーブして或いは渦巻き状に伸びるものや、図示はしないが、真っ直ぐ外方向に伸びるもの、L字状などに屈曲あるいは湾曲するもの、連続したもの、断続するもの、枝分かれするものであってもよい。また、この凹部13は、第2処理用面2に形成するものとしても実施可能であり、第1及び第2の処理用面1,2の双方に形成するものとしても実施可能である。この様な凹部13を形成することによりマイクロポンプ効果を得ることができ、被処理流動体を第1及び第2の処理用面1,2間に吸引することができる効果がある。
【0055】
この凹部13の基端は第1処理用部10の内周に達することが望ましい。この凹部13の先端は、第1処理用面1の外周面側に向けて伸びるもので、その深さ(横断面積)は、基端から先端に向かうにつれて、漸次減少するものとしている。
この凹部13の先端と第1処理用面1の外周面との間には、凹部13のない平坦面16が設けられている。
【0056】
前述の第2導入部d2の開口部d20を第2処理用面2に設ける場合は、対向する上記第1処理用面1の平坦面16と対向する位置に設けることが好ましい。
【0057】
この開口部d20は、第1処理用面1の凹部13からよりも下流側(この例では外側)に設けることが望ましい。特に、マイクロポンプ効果によって導入される際の流れ方向が処理用面間で形成されるスパイラル状で層流の流れ方向に変換される点よりも外径側の平坦面16に対向する位置に設置することが望ましい。具体的には、
図2(B)において、第1処理用面1に設けられた凹部13の最も外側の位置から、径方向への距離nを、約0.5mm以上とするのが好ましい。特に、流体中から微粒子を析出させる場合には、層流条件下にて複数の被処理流動体の混合と、微粒子の析出が行なわれることが望ましい。開口部d20の形状は、
図2(B)や
図3(B)に示すように円形状であってもよく、図示しないが、リング状ディスクである処理用面2の中央の開口を取り巻く同心円状の円環形状であってもよい。また、開口部を円環形状とした場合、その円環形状の開口部は連続していてもよいし、不連続であってもよい。
【0058】
この第2導入部d2は方向性を持たせることができる。例えば、
図3(A)に示すように、上記の第2処理用面2の開口部d20からの導入方向が、第2処理用面2に対して所定の仰角(θ1)で傾斜している。この仰角(θ1)は、0度を超えて90度未満に設定されており、さらに反応速度が速い反応の場合には1度以上45度以下で設置されるのが好ましい。
【0059】
また、
図3(B)に示すように、上記の第2処理用面2の開口部d20からの導入方向が、上記の第2処理用面2に沿う平面において、方向性を有するものである。この第2流体の導入方向は、処理用面の半径方向の成分にあっては中心から遠ざかる外方向であって、且つ、回転する処理用面間における流体の回転方向に対しての成分にあっては順方向である。言い換えると、開口部d20を通る半径方向であって外方向の線分を基準線gとして、この基準線gから回転方向Rへの所定の角度(θ2)を有するものである。この角度(θ2)についても、0度を超えて90度未満に設定されることが好ましい。
【0060】
この角度(θ2)は、流体の種類、反応速度、粘度、処理用面の回転速度などの種々の条件に応じて、変更して実施することができる。また、第2導入部d2に方向性を全く持たせないこともできる。
【0061】
上記の被処理流動体の種類とその流路の数は、
図1の例では、2つとしたが、1つであってもよく、3つ以上であってもよい。
図1の例では、第2導入部d2から処理用面1,2間に第2流体を導入したが、この導入部は、第1処理用部10に設けてもよく、双方に設けてもよい。また、一種類の被処理流動体に対して、複数の導入部を用意してもよい。また、各処理用部に設けられる導入用の開口部は、その形状や大きさや数は特に制限はなく適宜変更して実施し得る。また、上記第1及び第2の処理用面間1、2の直前或いはさらに上流側に導入用の開口部を設けてもよい。
【0062】
なお、処理用面1,2間にて上記処理を行う事が出来れば良いので、上記とは逆に、第1導入部d1より第2流体を導入し、第2導入部d2より第1流体を導入するものであっても良い。つまり、各流体における第1、第2という表現は、複数存在する流体の第n番目であるという、識別のための意味合いを持つに過ぎないものであり、第3以上の流体も存在し得る。
【0063】
上記装置においては、析出・沈殿または結晶化のような処理が、
図1に示すように、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面1、2の間で強制的に均一混合しながら起こる。処理された被処理物の粒子径や単分散度は処理用部10、20の回転数や流速、処理用面1,2間の距離や、被処理流動体の原料濃度、または被処理流動体の溶媒種等を適宜調整することにより、制御することができる。
【0064】
以下、上記の装置を用いて行う高耐熱性フタロシアニン微粒子の製造方法の具体的な態様について説明する。
【0065】
上記の装置において、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する処理用面1,2の間に形成される薄膜流体中で、被処理流動体として、フタロシアニン溶液と、フタロシアニン析出溶媒とを混合させ、高耐熱性フタロシアニンを析出させる。
【0066】
上記の高耐熱性フタロシアニンの析出反応は、本願の
図1に示す装置の、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面1,2間で強制的に均一混合しながら起こる。
【0067】
まず、一つの流路である第1導入部d1より、第1流体としてフタロシアニン析出溶媒を、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面1,2間に導入して、この処理用面間に第1流体から構成された薄膜流体である第1流体膜を作る。
【0068】
次いで別流路である第2導入部d2より、第2流体としてフタロシアニン溶液を、上記処理用面1,2間に作られた第1流体膜に直接導入する。
【0069】
上記のように、被処理流動体の供給圧と回転する処理用面の間にかかる圧力との圧力バランスによって距離を固定された処理用面1,2間にて、第1流体と第2流体とが混合され、高耐熱性フタロシアニン微粒子の析出反応を行う事が出来る。
【0070】
第1流体と第2流体の組み合わせとしては、特に限定されないが、フタロシアニン原料を溶媒に溶解したフタロシアニン溶液を含む流体と、フタロシアニン析出溶媒を含む流体であれば実施できる。フタロシアニン析出溶媒とは、フタロシアニン原料を溶解した溶媒よりもフタロシアニン原料に対する溶解度の低い、貧溶媒と成り得る溶媒とする。
【0071】
本発明に係わる高耐熱性フタロシアニンのうち、2種以上のフタロシアニン原料を溶解したフタロシアニン溶液とフタロシアニン析出溶媒とを混合して析出させたフタロシアニン微粒子における固溶比は、処理用面1,2間に導入するフタロシアニン溶液における、異なる2種以上のフタロシアニン原料について導入する割合(比、例えば重量比、またはモル比)を変化させる事で容易に制御することができる。処理用面1,2間に導入するフタロシアニン溶液における、異なる2種類以上のフタロシアニン原料の導入割合を変化させる方法としては、フタロシアニン溶液の処理用面1,2間への導入速度及び/またはフタロシアニン溶液のフタロシアニン原料濃度を変化させることが挙げられる。
例えば、2種以上のフタロシアニン原料を溶媒に溶解して調製したフタロシアニン溶液を処理用面1,2間に導入する場合、処理用面1,2間へのフタロシアニン溶液の導入速度を一定として、フタロシアニン溶液のフタロシアニン原料濃度を変化させてもよく、処理用面1,2間へ導入されるフタロシアニン溶液のフタロシアニン原料濃度を一定として、そのフタロシアニン溶液の導入速度を変化させてもよい。処理用面1,2間へのフタロシアニン溶液の導入速度とフタロシアニン溶液のフタロシアニン原料濃度の両者を変化させてもよい。
その他、フタロシアニン溶液を処理用面1,2間に導入する直前もしくは、フタロシアニン析出溶媒と混合する直前にて希釈してフフタロシアニン溶液のフタロシアニン原料濃度を変化させるなどの方法が挙げられる。
また、処理用面1,2間にフタロシアニン溶液を導入する方法としては、上記のように2種以上のフタロシアニン原料を、溶媒に溶解させたフタロシアニン溶液を処理用面1,2間に導入しても良いし、他の実施の形態としては、2種以上のフタロシアニン原料をそれぞれ溶媒に溶解させた第1フタロシアニン溶液、第2フタロシアニン溶液等の複数のフタロシアニン原料を溶解した溶液を調製し、処理用面1,2間に導入する手前で目的の固溶比となるように混合して2種以上のフタロシアニン原料を溶解したフタロシアニン溶液を調製してから、処理用面1,2間に導入しても良い。
【0072】
なお、処理用面1,2間にて上記反応を行う事が出来れば良いので、上記とは逆に、第1導入部d1より第2流体を導入し、第2導入部d2より第1流体を導入するものであっても良い。つまり、各流体における第1、第2という表現は、複数存在する流体の第n番目であるという、識別のための意味合いを持つに過ぎないものであり、第3以上の流体も存在し得る。
【0073】
前述のように、第1導入部d1、第2導入部d2以外に第3導入部d3を処理装置に設けることもできるが、この場合にあっては、例えば各導入部から、第1流体、第2流体、第3流体をそれぞれ別々に処理装置に導入することが可能である。そうすると、各流体の濃度や圧力を個々に管理することができ、析出反応及び析出されたフタロシアニン微粒子の粒子径の安定化をより精密に制御することができる。なお、各導入部へ導入する被処理流動体(第1流体〜第3流体)の組み合わせは、任意に設定できる。第4以上の導入部を設けた場合も同様であって、このように処理装置へ導入する流体を細分化できる。
さらに、上記第1、第2流体等の被処理流動体の温度を制御したり、上記第1流体と第2流体等との温度差(即ち、供給する各被処理流動体の温度差)を制御することもできる。供給する各被処理流動体の温度や温度差を制御するために、各被処理流動体の温度(処理装置、より詳しくは、処理用面1,2間に導入される直前の温度)を測定し、処理用面1,2間に導入される各被処理流動体の加熱又は冷却を行う機構を付加して実施することも可能である。
【0074】
フタロシアニン原料を溶解するための溶媒としては、特に限定されないが、例えば酸性水溶液の場合は硫酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、燐酸、発煙硫酸、発煙硝酸などを用いる事ができる。特に表面処理された銅フタロシアニン微粒子を作製する場合には、発煙硫酸や発煙硝酸などを用いる事が好ましい。その他、1−メチル−2−ピロリジノン、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリジノン、ε−カプロラクタム、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N、N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドのようなアミド系溶媒やジメチルスルホキシド、ピリジン、又はこれらの混合物等を用いる事ができる。またその他、種々の有機溶媒にアルカリ又は酸の物質を加えた溶液にフタロシアニン原料を溶解したものをフタロシアニン溶液としても実施できる。前記有機溶媒に加えられるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなどが挙げられる。酸としては、上記と同様に硫酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、燐酸などを挙げる事ができる。
【0075】
フタロシアニン析出溶媒としては、上記フタロシアニン原料を溶解した溶媒よりも、フタロシアニン原料に対する溶解度の低い溶媒を用いて実施できる。例えば、水、アルコール化合物溶媒、アミド化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、二硫化炭素、脂肪族化合物溶媒、ニトリル化合物溶媒、スルホキシド化合物溶媒、ハロゲン化合物溶媒、エステル化合物溶媒、ピリジン化合物溶媒、イオン性液体溶媒、カルボン酸化合物溶媒、スルホン酸化合物溶媒、スルホラン系化合物溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は単独で使用しても良く、これら2種以上の混合溶媒を用いても実施できる。
【0076】
上記の溶媒についてさらに詳しく説明すると、水としては、水道水やイオン交換水、純水や超純水、RO水などが挙げられ、アルコール化合物溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノールなどが挙げられ、さらにn−ブタノールなどの直鎖アルコール、2−ブタノール、tert−ブタノール等の分枝状アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等の多価アルコールや、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。ケトン化合物溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。エーテル化合物溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。芳香族化合物溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンが挙げられる。脂肪族化合物溶媒としては、例えば、ヘキサンなどが挙げられる。ニトリル化合物溶媒としては、例えば、アセトニトリルなどが挙げられる。スルホキシド化合物溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキド、ヘキサメチレンスルホキシド、スルホランなどが挙げられる。ハロゲン化合物溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、ヨードホルムなどが挙げられる。エステル化合物溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、2−(1−メトキシ)プロピルアセテートなどが挙げられる。イオン性液体としては、例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムとPF6−(ヘキサフルオロリン酸イオン)との塩などが挙げられる。アミド化合物溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリジノン、ε−カプロラクタム、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。カルボン酸化合物としては、例えば、2,2−ジクロロプロピオン酸、スクアリン酸などが挙げられる。スルホン酸化合物としては、例えば、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、クロロスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられる。
【0077】
さらに、フタロシアニン溶液を含む流体もしくはフタロシアニン析出溶媒を含む流体、またはその両方に、ブロック共重合体や高分子ポリマー、界面活性剤などの分散剤を含んでもよい。また、上記の分散剤はフタロシアニン溶液を含む流体ともフタロシアニン析出溶媒を含む流体とも異なる第3の流体に含まれていてもよい。
【0078】
界面活性剤及び分散剤としては顔料の分散用途に用いられる様々な市販品を使用できる。特に限定されないが、例えばドデシル硫酸ナトリウムやまたはネオゲンR−K(第一工業製薬製)のようなドデシルベンゼンスルホン酸系や、ソルスパース20000 、ソルスパース24000 、ソルスパース26000 、ソルスパース27000 、ソルスパース28000 、ソルスパース41090 (以上、アビシア社製)、ディスパービック160 、ディスパービック161 、ディスパービック162 、ディスパービック163、ディスパービック166 、ディスパービック170 、ディスパービック180 、ディスパービック181 、ディスパービック182 、ディスパービック183 、ディスパービック184 、ディスパービック190 、ディスパービック191 、ディスパービック192 、ディスパービック2000 、ディスパービック2001 (以上、ビックケミー社製)、ポリマー100 、ポリマー120 、ポリマー150 、ポリマー400 、ポリマー401 、ポリマー402 、ポリマー403 、ポリマー450 、ポリマー451 、ポリマー452 、ポリマー4 53 、EFKA −46 、EFKA −47、EFKA −48 、EFKA −49 、EFKA−1501 、EFKA −1502、EFKA −4540 、EFKA −4550 (以上、EF KA ケミカル社製)、フローレンDOPA −158 、フローレンDOPA −22 、フローレンDOPA −17 、フローレンG −700 、フローレンTG −720W 、フローレン−730W 、フローレン−740W 、フローレン−745W 、(以上、共栄社化学社製)、アジスパーPA111 、アジスパーPB711 、アジスパーPB811 、アジスパーPB821 、アジスパーPW911 (以上、味の素社製)、ジョンクリル678 、ジョンクリル679 、ジョンクリル62 (以上、ジョンソンポリマー社製)、アクアロンKH-10、ハイテノールNF-13(以上、第一工業製薬製)等を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
本発明に係る高耐熱性フタロシアニンは、フタロシアニン原料を溶解したフタロシアニン溶液とフタロシアニン析出溶媒とを混合して析出させたフタロシアニンであり、析出させたフタロシアニンの分解温度が、上記フタロシアニン原料の分解温度よりも10℃以上高く、高耐熱性を有することが分かった。
【0080】
(用途)
本発明に係る高耐熱性フタロシアニンは、塗料、インクジェット用インク、熱転写用インク、トナー、着色樹脂、カラーフィルター、触媒、有機光伝導体のような電荷発生材料や半導体材料、太陽電池用途など様々な用途に利用可能である。
【実施例】
【0081】
以下本発明について、本願出願人による、特許文献3に記載されたものと同原理である装置を用いて、高耐熱性フタロシアニンを製造した実施例を示す。しかし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0082】
図1に示す、接近・離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して回転する処理用面1、2の間にできる、薄膜流体中で均一に攪拌・混合する装置を用いて、銅フタロシアニン(以下、Cu−Pc)及び/または臭素化塩素化亜鉛フタロシアニン(以下、Zn−Pc)を溶媒に溶解させたフタロシアニン溶液を薄膜流体中でフタロシアニン析出溶媒と合流させ、薄膜流体中で均一混合させて、フタロシアニン微粒子を析出させる。
【0083】
尚、以下の実施例において、「中央から」というのは、前述した、
図1に示す処理装置の「第1導入部d1から」という意味であり、第1流体は、前述の第1被処理流動体を指し、第2流体は、上述した、
図1に示す処理装置の第2導入部d2から導入される、前述の第2被処理流動体を指す。
【0084】
表1に示す所定量のフタロシアニン原料、Cu−PcとZn−Pcを蓋付きの容器に量り取り、そこへ発煙硫酸と濃硫酸の混合溶液 (5 wt% SO
3−95wt% H
2SO
4)を加え、蓋をした後5分間スターラーにて攪拌溶解させて、フタロシアニン溶液を作製した。
中央から第1流体のフタロシアニン析出溶媒として、純水を、供給圧力/背面圧=0.3MPaG/0.02MPaGで処理用面1,2間に送液し、上記のフタロシアニン溶液を第2流体として上記処理用面1,2間に導入した。第1流体と第2流体とを薄膜流体中で混合し、フタロシアニン微粒子を析出させた。第1流体と第2流体の送液温度は、第1流体と第2流体のそれぞれの温度を処理装置導入直前(より詳しくは、処理用面1,2間に導入される直前)にて測定した。実験条件について表1に示す。実施例1から実施例5の順にCu−Pcの割合が多くなる。実施例1及び実施例5については,Zn−PcまたはCu−Pc単独のフタロシアニン微粒子を作製した。また、
図6,7におけるNo.1,2,3,4,5はそれぞれ実施例1,2,3,4,5に対応する。
【0085】
【表1】
【0086】
処理用面1,2間より吐出されたフタロシアニン微粒子水分散液を遠心分離(KUBOTA製 7780II、23000G、10分)し、上澄みをデカンテーションにて取り除くことで固液分離を行なった。続いてフタロシアニン微粒子の沈殿物に純水を加え、超音波洗浄機(東京理科機器製、AU308CB)を用いて10分間再分散処理した後、再度遠心分離する作業を3回行い、フタロシアニン微粒子の洗浄を行った。洗浄後のフタロシアニン微粒子水ペーストを顔料濃度が0.1wt%になる様に0.05wt%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液に加え、超音波分散機(Hielscher製、UP200S)を用いて分散処理を行なった。この分散液を用いて、後述するTEM及びSTEM−EDS分析試料を作製した。また、洗浄後のフタロシアニン微粒子水ペーストの一部を、60℃、−0.10MPaGにて乾燥させて、フタロシアニン微粒子粉体を作製し、これをICP分析及びTG・DTA分析試料とした。
【0087】
(測定機器)
粒度分布測定には、動的光散乱方式粒度分布測定装置ナノトラックUPA−UT151(日機装製)を使用し、フタロシアニン微粒子の分散粒子径を測定した。測定条件は,粒子屈折率1.81、粒子比重1.0 g/cm
3,測定溶媒が純水、測定時間2分である。
フタロシアニン微粒子の形状観察には、透過型電子顕微鏡(TEM)JEM−2100(JEOL製)を使用し、その一次粒子径を評価した。また、EDS分析においても、エネルギー分散型X線分析装置、JED−2300(JEOL製)を備えた、JEM−2100(JEOL製)を使用し、一次粒子中におけるCuとZnの定量を行った。観察試料は、フタロシアニン微粒子の顔料濃度を0.005wt%に調整したフタロシアニン微粒子分散液をコロジオン膜付Moグリッドに滴下後、真空乾燥させて作製した。観察条件としては、観察倍率を50万倍以上とし、10箇所の平均値を用いた。
走査透過型電子顕微鏡観察下でのエネルギー分散型X線分光分析(STEM−EDS)による、粒子中のCu,Zn及びBrの元素マッピング及び定量には、r−TEM EDS検出器(アメテック社製)を備えたTITAN80−300(FEI製)を用いた。
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)による、粉体試料中に含まれるCu及びZnの定量には、ICP8100(島津製作所製)を用いた。観測波長は、Cu:224.700nm Zn:213.856nmを用いて3回平均値にて評価した。
熱重量と示差熱を同時に測定する示差熱重量分析(TG・DTA)には、TG・DTA−6300(セイコーインスツル製)を使用した。測定条件は大気下、昇温速度を毎分5℃とし、参照サンプルはαアルミナ、サンプル重量は10mg(±0.5mg)用いた。
【0088】
作製したフタロシアニン微粒子のTEM像と粒度分布測定結果を
図6,7に示す。作製されたフタロシアニン微粒子は、その一次粒子径が10から30nm程度の略球状粒子であることを確認した。また、粒度分布測定結果においても、実施例で得られたフタロシアニン微粒子のほとんどが、粒子径100nm以下であることを確認した。
次に、作製したフタロシアニン微粒子の元素分析を行った。
図8に実施例3の条件で作製したフタロシアニン微粒子のSTEM−EDS分析結果を示す。
図8における(a)並びに(b)は高分解能TEM像(HRTEM 像)であり、(a)(b)において四角を施した領域がマッピング領域である。 (c)は臭素(Br)のマッピング像、(d)は銅(Cu)の マッピング像、(e)は亜鉛(Zn)のマッピング像である。上記の分析結果からCu,Zn及びBrが偏析することなく均一に分布していることを確認した。また、実施例2及び実施例4で作製したフタロシアニン微粒子においても実施例3と同様の分布状態であることを観察した。
次に、作製したフタロシアニン微粒子についてICP分析を行った。その結果とSTEM−EDS分析から求めたCu:Zn比率(モル比)を表2に示す。ICP分析とSTEM−EDS分析の結果は,ほぼ一致した。以上より作製したフタロシアニン微粒子は,偏析することなく、固溶体を形成していることが確認された。
さらに、表2に、TEM−EDS分析及びSTEM−EDS分析において求めた、実施例2〜実施例4において作製したフタロシアニン微粒子の一次粒子中におけるCu:Zn比率(モル比)、すなわち固溶比及びその精度を示す。それぞれの結果が、ほぼ一致した値を示した。以上のことから、均一かつ均質な固溶比のフタロシアニン微粒子を作製できることを確認した。また、処理用面1,2間へ導入する2種以上のフタロシアニン原料の割合を変更することによって、フタロシアニン微粒子の固溶比を制御できることを確認した。
【0089】
【表2】
【0090】
図9に、実施例1で作製したZn−Pc単独のフタロシアニン微粒子と、比較例1である、実施例1のフタロシアニン原料であるZn−Pc(Pigment Green 58 DIC製)のTG・DTA測定結果を示す。実施例1で作製した微粒子は,比較例1と比べて分解温度が30℃程度上昇していることを確認した。
実施例1から実施例5で作製したフタロシアニン微粒子について重量減少開始温度P1、40℃からP1までの重量減少率、重量減少終了温度P2、分解温度TRを表3に示す。表3に合わせて示した、比較例1及び比較例5については、対応する実施例に用いたフタロシアニン原料であるZn−Pc及びCu−Pcの各データである。なお、フタロシアニン原料として用いたZn−Pc及びCu−Pcは微粒子であった(Zn−Pcは粒子径30nm程度、Cu−Pcは粒子径100nm程度)。また、比較例2から比較例4については対応する実施例と同等のモル比となるように、実施例1及び実施例5で作製したZn−PcとCu−Pcそれぞれ単独のフタロシアニン微粒子粉体の混合物の各データである。
【0091】
【表3】
【0092】
全ての実施例において、比較例に比べて分解温度が上昇していることがわかった。また、全ての実施例において、熱重量・示差熱同時測定における40℃から重量減少開始温度P1までの重量減少率が3%以下であり、かつ、比較例の重量減少率と比べて低いことがわかった。
以上の結果より、本発明においては、フタロシアニン原料として用いたZn−Pc、Cu−Pcの分解温度よりも高い分解温度を有する、高耐熱性フタロシアニンを提供できた。
また、2種以上のフタロシアニンを固溶体化することによっても、フタロシアニン原料として用いたZn−PcとCu−Pcそれぞれを溶媒に溶解したZn−Pc溶液、Cu−Pc溶液それぞれとフタロシアニン析出溶媒とを混合して析出させたZn−PcとCu−Pcそれぞれ単独のフタロシアニン微粒子の混合物の分解温度よりも高い分解温度を有する、高耐熱性フタロシアニンを提供できた。また、その高耐熱性フタロシアニンは、均一かつ均質な固溶比を備えたものであった。
さらに、得られた高耐熱性フタロシアニンの粒子径が100nm以下の微粒子であっても、その分解温度が高い高耐熱性フタロシアニンを提供できた。