特許第5959112号(P5959112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959112
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20160719BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20160719BHJP
   B41J 2/205 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   B41J2/165
   B41J2/01 403
   B41J2/205
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-199231(P2013-199231)
(22)【出願日】2013年9月26日
(65)【公開番号】特開2015-63092(P2015-63092A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2015年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085501
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 静夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128842
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 温
(74)【代理人】
【識別番号】100134821
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 信行
(72)【発明者】
【氏名】染手 隆志
(72)【発明者】
【氏名】古川 徳昭
【審査官】 下村 輝秋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−146894(JP,A)
【文献】 特開2010−184363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体上にインクを吐出する複数のノズルと、該複数のノズルに連通し、内部にインクを収容可能な複数の加圧室と、該複数の加圧室に対応して配置され、前記各加圧室内のインクに圧力をかけて前記各ノズルからインクを吐出させる複数の圧電素子と、を有する記録ヘッドと、
前記圧電素子の駆動電圧の駆動波形として、前記ノズルからのインク吐出回数に応じて設定された2以上のインク吐出用駆動波形と、インク吐出は行わずに前記ノズル内のメニスカスを揺動させるメニスカス揺動用駆動波形とを有する複数の駆動波形を発生させる駆動パルス発生部を含み、印字対象となる画像データを構成する画素の階調に応じて定まる量のインク吐出を前記各ノズルに対して実行させるヘッド駆動部と、
印字対象となる画像データを構成する各画素を多値階調で示した印字データを生成する画像処理部と、該画像処理部で生成された印字データを構成する各画素について、当該各画素の階調に対応した駆動波形選択データを生成するデータ加工部と、を有する制御部と、
を備え、
前記ヘッド駆動部および前記制御部の少なくとも一方には、何れの駆動波形を前記圧電素子に印加するか、或いは何れの駆動波形も前記圧電素子に印加しないかを前記各ノズルについて選択するセレクターが設けられており、
前記セレクターは、
1つの画像データ内で1画素または2画素にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する少なくとも1画素目の駆動波形としてその画素の階調よりも上の階調または最大階調に対応した前記インク吐出用駆動波形を選択し、
1つの画像データ内で3画素以上にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する画素の駆動波形としてその画素の階調に対応した前記インク吐出用駆動波形を選択し、
1つの画像データ内で1つの画素にもインクを吐出しないノズルに対して、何れの駆動波形も選択しないことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記セレクターは、1つの画像データ内で2画素にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する2画素目の駆動波形としてその画素の階調よりも上の階調または最大階調に対応した前記インク吐出用駆動波形を選択することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記駆動パルス発生部で発生させる前記インク吐出用駆動波形の数が3以上であるとき、前記セレクターは、1つの画像データ内で1画素または2画素にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する少なくとも1画素目の駆動波形としてその画素の階調よりも1階調上に対応した前記インク吐出用駆動波形を選択することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記セレクターは、1つの画像データ内で1画素または2画素にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する画素の駆動波形選択データが最大階調に対応した駆動波形選択データであるときは最大階調に対応した前記インク吐出用駆動波形を選択することを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記メニスカス揺動用駆動波形は、前記インク吐出用駆動波形よりも狭いパルス幅を有し、且つ高い周波数を有するパルスが連続して複数回繰り返されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
連続印字中の記録媒体間で、前記メニスカス揺動用駆動波形の駆動電圧を、次の記録媒体上に少なくとも1画素以上にインクを吐出する全ての前記圧電素子に印加することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記セレクターは、
1つの画像データ内で1画素または2画素にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する少なくとも1画素目の駆動波形としてその画素の前記駆動波形選択データの階調よりも上の階調または最大階調に対応した前記インク吐出用駆動波形を選択し、
1つの画像データ内で3画素以上にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する画素の駆動波形としてその画素の前記駆動波形選択データの階調に対応した前記インク吐出用駆動波形を選択することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記データ加工部は、
1つの画像データ内で1画素または2画素にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する少なくとも1画素目の駆動波形選択データを、その画素の階調よりも上の階調または最大階調の駆動波形選択データに変更するとともに、
1つの画像データ内で3画素以上にインクを吐出するノズル、および1つの画像データ内で1つの画素にもインクを吐出しないノズルについては、駆動波形選択データを変更せず、
前記セレクターは、各ノズルに対して、前記駆動波形選択データに基づいて、前記インク吐出用駆動波形を選択し、あるいは何れの駆動波形も選択しないことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファクシミリ、複写機、プリンター等の記録装置において、用紙等の記録媒体にインクを吐出することによって記録を行うインクジェット記録装置に関するものであり、特にインクを吐出する記録ヘッドの回復に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ファクシミリ、複写機、プリンター等の記録装置は、紙、布、OHP用シート等の記録媒体に画像を記録するように構成されているが、記録を行う方式により、インクジェット式、ワイヤードット式、サーマル式等に分類することができる。また、インクジェット記録方式はさらに、記録ヘッドが記録媒体上を走査しながら記録を行うシリアル型と、装置本体に固定された記録ヘッドにより記録を行うラインヘッド型に分類することができる。
【0003】
このようなインクジェット記録装置では、印字待機時や連続印字中の紙間における各吐出ノズル、或いは、印字中に使用されない吐出ノズル等の、ノズル面にキャップが装着されておらず、且つ非吐出の状態の吐出ノズルにおいて、ノズル内のインクから水分が蒸発してインクの増粘が発生する。その結果、その後にインクを吐出しようとした時に、印字が乱れたり不吐出が発生したりするという問題点があった。
【0004】
特に、記録ヘッドが固定されたラインヘッド型の記録方式においては、記録ヘッドの各ノズルは画像1ライン中の特定の画素(ドット)に対応しているため、左右の余白部分の画素に対応するノズル等、1枚の画像を印字する中で一度もインクを吐出しないノズルが存在する。このようなノズルも、その後に画像データが切り替わってドット形成を行う場合があり、その場合には安定してインクを吐出できるようにしなければならない。
【0005】
一般に、記録ヘッドのインク吐出面に開口が設けられた吐出ノズル内のインクの乾燥やノズルの目詰まりを防止するために、ノズルからインクを強制吐出(パージ)した後、インク吐出面に付着したインクの拭き取り(ワイプ)を行って記録ヘッドの回復処理を行う構成になっている。しかし、上記の手順では、印字に用いられずに廃棄されるインクが多くなり、インクが無駄に消費されてしまう。また、インクを吐出しなかったノズルのみでなく、インクを吐出した直後のノズルにおいてもインクの強制吐出が行われるため効率的ではなかった。
【0006】
一方、インクジェット記録装置の記録ヘッドとして、圧電インクジェットヘッドが広く用いられている。圧電インクジェットヘッドは、圧電素子が発生する力を加圧室内のインクに圧力として伝達し、この圧力によるノズル内のインクメニスカスの揺動を利用してインク滴を発生させるものである。
【0007】
そこで、ノズルからインクを吐出しない程度にノズル内のインクメニスカスを振動させてノズルの目詰まりを防止する方法が提案されており、例えば特許文献1には、全てのノズルに対してメニスカス揺動を行う方法が開示されている。また、特許文献2には、或る用紙内(ページ内)印字が予定されている画素データの印字に使用される各ノズルのメニスカスのみを揺動させ、印字に使用されない各ノズルのメニスカスを静止状態に保持する画像形成装置が開示されている。
【0008】
なお、メニスカス揺動を行うと、ノズル内のインクが攪拌され、水分の蒸発によりメニスカス近傍で増粘したインクがノズルの奥に拡散され、増粘していないインクがメニスカス近傍に移動してくる。ここで、増粘していないインクは水分量が低下している増粘インクに比べて水分の蒸発速度が速いため、メニスカス近傍におけるインクの増粘が進行し易くなる。
【0009】
このように、用紙1枚分の画像データ中で一度もドット形成を行わないノズルに対してメニスカス揺動を行うと、逆にノズル内でのインクの増粘が促進され、インクの吐出性が徐々に悪化してしまう。そのため、次の用紙に印字する画像データに切り替わった後に、前の用紙でドット形成を行わなかったノズルを用いてドット形成を行う場合、インク滴の吐出不良が発生するおそれがあった。したがって、特許文献2のように、用紙内で印字(インクの吐出)が予定されているノズルのみを紙間においてメニスカス揺動させることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平09−141882号公報
【特許文献2】特開2010−184363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2のように構成しても、インク詰まりが発生し、画像不良が発生する場合があるという問題点がある。特に、インク詰まりは、インク吐出量が少ない場合に発生しやすい。
【0012】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、ノズルからのインク吐出を安定して行うことが可能なインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体上にインクを吐出する複数のノズルと、該複数のノズルに連通し、内部にインクを収容可能な複数の加圧室と、該複数の加圧室に対応して配置され、各加圧室内のインクに圧力をかけて各ノズルからインクを吐出させる複数の圧電素子と、を有する記録ヘッドと、圧電素子の駆動電圧の駆動波形として、ノズルからのインク吐出回数に応じて設定された2以上のインク吐出用駆動波形と、インク吐出は行わずにノズル内のメニスカスを揺動させるメニスカス揺動用駆動波形とを有する複数の駆動波形を発生させる駆動パルス発生部を含み、印字対象となる画像データを構成する画素の階調に応じて定まる量のインク吐出を各ノズルに対して実行させるヘッド駆動部と、印字対象となる画像データを構成する各画素を多値階調で示した印字データを生成する画像処理部と、該画像処理部で生成された印字データを構成する各画素について、当該各画素の階調に対応した駆動波形選択データを生成するデータ加工部と、を有する制御部と、を備え、ヘッド駆動部および制御部の少なくとも一方には、何れの駆動波形を圧電素子に印加するか、或いは何れの駆動波形も圧電素子に印加しないかを各ノズルについて選択するセレクターが設けられており、セレクターは、1つの画像データ内で1画素または2画素にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する少なくとも1画素目の駆動波形としてその画素の階調よりも上の階調または最大階調に対応したインク吐出用駆動波形を選択し、1つの画像データ内で3画素以上にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する画素の駆動波形としてその画素の階調に対応したインク吐出用駆動波形を選択し、1つの画像データ内で1つの画素にもインクを吐出しないノズルに対して、何れの駆動波形も選択しない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、セレクターは、1つの画像データ内で1画素または2画素にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する少なくとも1画素目の駆動波形としてその画素の階調よりも上の階調または最大階調に対応したインク吐出用駆動波形を選択する。これにより、1画素目でのインク吐出量を通常時よりも増加させ又は最大吐出量にすることができるので、インク吐出量が少なくなるのを抑制して、インク詰まりの発生を抑制することができる。このため、ノズルからのインク吐出を安定して行うことができ、画像不良の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のインクジェット記録装置100の概略構造を模式的に示す側面図
図2図1に示すインクジェット記録装置100の第1搬送ユニット5及び記録部9を上方からみた平面図
図3】本発明のインクジェット記録装置100に用いられる制御経路の一例を示すブロック図
図4】記録ヘッド17の要部構成を示す断面拡大図
図5】インク吐出用駆動波形である第1駆動波形(1)を示す波形図
図6】インク吐出用駆動波形である第2駆動波形(2)を示す波形図
図7】インク吐出用駆動波形である第3駆動波形(3)を示す波形図
図8】メニスカス揺動用駆動波形である第4駆動波形(4)を示す波形図
図9】第1駆動波形(1)が選択されたときの圧電素子31に印加される駆動電圧とノズル18内のインクの流速とを示すグラフ
図10】第2駆動波形(2)が選択されたときの圧電素子31に印加される駆動電圧とノズル18内のインクの流速とを示すグラフ
図11】第3駆動波形(3)が選択されたときの圧電素子31に印加される駆動電圧とノズル18内のインクの流速とを示すグラフ
図12】第4駆動波形(4)が選択されたときの圧電素子31に印加される駆動電圧とノズル18内のインクの流速とを示すグラフ
図13】本発明のインクジェット記録装置100における記録ヘッド17のインク吐出動作のシーケンスを示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、本発明の一実施形態のインクジェット記録装置100の左側部には用紙P(記録媒体)を収容する給紙トレイ2が設けられており、この給紙トレイ2の一端部には収容された用紙Pを、最上位の用紙Pから順に一枚ずつ後述する第1搬送ユニット5へと搬送給紙するための給紙ローラー3と、給紙ローラー3に圧接され従動回転する従動ローラー4とが設けられている。
【0018】
用紙搬送方向(矢印X方向)に対し給紙ローラー3及び従動ローラー4の下流側(図1の右側)には、第1搬送ユニット5及び記録部9が配置されている。第1搬送ユニット5は、用紙搬送方向に対し下流側に配置された第1駆動ローラー6と、上流側に配置された第1従動ローラー7と、第1駆動ローラー6及び第1従動ローラー7に掛け渡された第1搬送ベルト8とを含む構成であり、第1駆動ローラー6が時計回り方向に回転駆動されることにより、第1搬送ベルト8に保持された用紙Pが矢印X方向に搬送される。
【0019】
ここで、用紙搬送方向の下流側に第1駆動ローラー6を配置したことにより、第1搬送ベルト8の搬送面(図1の上側面)は第1駆動ローラー6に引っ張られるようになるため、第1搬送ベルト8の搬送面のテンションを高めることができ、安定した用紙Pの搬送が可能となる。なお、第1搬送ベルト8には誘電体樹脂製のシートが用いられ、主として継ぎ目を有しない(シームレス)ベルトが用いられる。
【0020】
記録部9は、ヘッドハウジング10と、ヘッドハウジング10に保持されたラインヘッド11C、11M、11Y、及び11Kを備えている。これらのラインヘッド11C〜11Kは、第1搬送ベルト8の搬送面に対して所定の間隔(例えば1mm)が形成されるような高さに支持され、図2に示すように、用紙搬送方向と直交する用紙幅方向(図2の上下方向)に沿って複数(ここでは3個)の記録ヘッド17a〜17cが千鳥状に配列されている。ラインヘッド11C〜11Kは、搬送される用紙Pの幅以上の記録領域を有しており、第1搬送ベルト8上を搬送される用紙Pに対して、印字位置に対応したノズル18からインクを吐出できるようになっている。
【0021】
各ラインヘッド11C〜11Kを構成する記録ヘッド17a〜17cには、それぞれインクタンク(図示せず)に貯留されている4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)のインクがラインヘッド11C〜11Kの色毎に供給される。なお、記録ヘッド17a〜17cは、圧電素子31(図3参照)の変形による圧力をノズル18内のインクに伝達してメニスカスを揺動させ、インク滴を発生させる圧電インクジェットヘッドを用いている。
【0022】
各記録ヘッド17a〜17cは、外部コンピューター等から受信した画像データに応じて、第1搬送ベルト8の搬送面に吸着保持されて搬送される用紙Pに向かってノズル18からインクを吐出する。これにより、第1搬送ベルト8上の用紙Pにはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクが重ね合わされたカラー画像が形成される。
【0023】
また、記録ヘッド17a〜17cの乾燥や目詰まりによるインクの吐出不良を防止するために、長期間停止後の印字開始時は全ての記録ヘッド17a〜17cのノズル18から、また印字動作の合間にはインク吐出量が規定値以下の記録ヘッド17a〜17cのノズル18から、ノズル内の粘度が高くなったインクを吐出するパージを実行して、次の印字動作に備える。
【0024】
用紙搬送方向に対し第1搬送ユニット5の下流側(図1の右側)には第2搬送ユニット12が配置されている。第2搬送ユニット12は、用紙搬送方向に対し下流側に配置された第2駆動ローラー13と、上流側に配置された第2従動ローラー14と、第2駆動ローラー13及び第2従動ローラー14に掛け渡された第2搬送ベルト15とを含む構成であり、第2駆動ローラー13が時計回り方向に回転駆動されることにより、第2搬送ベルト15に保持された用紙Pが矢印X方向に搬送される。
【0025】
記録部9にてインク画像が記録された用紙Pは第2搬送ユニット12へと送られ、第2搬送ユニット12を通過する間に用紙P表面に吐出されたインクが乾燥される。また、第2搬送ユニット12の下方にはメンテナンスユニット19が配置されている。メンテナンスユニット19は、上述したパージを実行する際に記録部9の下方に移動し、記録ヘッド17のノズル18から吐出されたインクを拭き取り、拭き取られたインクを回収する。
【0026】
また、用紙搬送方向に対し第2搬送ユニット12の下流側には、画像が記録された用紙Pを装置本体外へと排出する排出ローラー対16が設けられており、排出ローラー対16の下流側には、装置本体外へと排出された用紙Pが積載される排出トレイ(図示せず)が設けられている。
【0027】
続いて、本発明のインクジェット記録装置100における記録部9の駆動制御について説明する。なお、インクジェット記録装置100を使用する上で装置各部の様々な制御がなされるため、インクジェット記録装置100全体の制御経路は複雑なものとなる。そこで、ここでは制御経路のうち、本発明の実施に必要となる部分を重点的に説明する。また、記録ヘッド17a〜17cはa〜cの符号を省略して記載している。
【0028】
図3に示すように、インクジェット記録装置100は、主に画像処理に関する制御を行う制御部20を備えている。制御部20は、印字対象となる画像データを構成する各画素を多値階調で示した印字データ(i)を生成する画像処理部21と、印字データ(i)を構成する各画素について、当該各画素に対応したインク吐出を行う各ノズル18のそれぞれの圧電素子31に対して後述する第1駆動波形(1)〜第4駆動波形(4)のいずれの駆動電圧を印加するか、或いはいずれの駆動電圧も印加しないかを示す駆動波形選択データ(ii)を生成するデータ加工部23とを備える。
【0029】
記録部9は、各色のラインヘッド11C〜11K(図2参照)を構成する記録ヘッド17、及び記録ヘッド17を駆動するヘッド駆動部25を備えている。ヘッド駆動部25は、印字対象となる画像データを構成する1つの画素につき当該画素の階調に応じて定まる1回以上のインク吐出を記録ヘッド17に行わせて、用紙上に当該画素の記録を行う。
【0030】
ヘッド駆動部25は、後述する第1駆動波形(1)、第2駆動波形(2)、第3駆動波形(3)、及び第4駆動波形(4)を発生させる駆動パルス発生部27と、データ加工部23から送信された駆動波形選択データ(ii)を格納する格納部29と、格納部29に格納されている駆動波形選択データ(ii)に基づいて第1駆動波形(1)〜第4駆動波形(4)のいずれかを選択し、選択した駆動波形の駆動電圧を記録ヘッド17の圧電素子31に印加するか、或いはいずれの駆動波形も選択せず、記録ヘッド17の圧電素子31の駆動電圧を一定に保持する動作を行うセレクター30と、を備える。
【0031】
記録ヘッド17は図2に示すようなラインヘッド型であり、図4に示すように、用紙に対向する吐出面33を有する。吐出面33には、ノズル18の開口部である微小径を有する吐出口18aが、吐出面33の長手方向(主走査方向)において少なくとも印字領域の最大幅に亘って複数設けられている。
【0032】
また、図4に示すように、記録ヘッド17は、吐出面33の吐出口18a以外の部分を覆う撥水膜33aと、吐出口18aに対して1つずつ設けられた加圧室35と、インクを貯留するインクタンク(図示せず)から複数の加圧室35にインクを供給する共通流路37とを備える。加圧室35と共通流路37とは供給孔39で連通されており、この供給孔39を介して共通流路37から加圧室35にインクが供給される。ノズル18は加圧室35内から吐出口18aまで連続している。加圧室35の壁のうち吐出面33と逆側の壁は振動板40で構成されている。振動板40は複数の加圧室35に亘って連続して形成されており、振動板40には同様に複数の加圧室35に亘って連続して形成された共通電極41が積層されている。共通電極41上には、加圧室35毎に別個の圧電素子31が設けられており、共通電極41と共に圧電素子31を挟むように、加圧室35毎に別個の個別電極43が設けられる。
【0033】
ヘッド駆動部25の駆動パルス発生部27で生成された駆動パルスが個別電極43に印加されることで、各圧電素子31は個別に駆動される。この駆動による圧電素子31の変形が振動板40に伝達され、振動板40の変形によって加圧室35が圧縮される。その結果、加圧室35内のインクに圧力が加わり、ノズル18を通ったインクが吐出口18aからインク滴となって用紙上に吐出される。なお、インク滴が吐出されない間も、ノズル18内にはインクが入っており、ノズル18内でインクはメニスカス面Mを形成している。
【0034】
第1駆動波形(1)〜第3駆動波形(3)は、印字対象となる画像データを構成する画素の階調(ノズル18のインク吐出回数)毎に予め定められた通常のインク吐出時に用いられるインク吐出用駆動波形である。第1駆動波形(1)は、1画素に対してヘッド駆動部25が記録ヘッド17のノズル18によりインク吐出を1回行わせる階調値1の駆動波形選択データ(ii)に対応する駆動波形であり、図5に示すように、駆動電源の電圧値(V0)からパルス幅T1の間、駆動電源の電圧値よりも低い所定値(V1)になって駆動電源の電圧値(V0)に戻るものが用意されている。このような第1駆動波形(1)が圧電素子31に印加されると、図9に示すように、ノズル18内のインクの流速は1回10m/sを超えるため、吐出口18aからインク滴が1回吐出される。なお、図9図12では、駆動電圧(Volt)を細線で表示し、インクの流速(Vn)を太線で表示している。
【0035】
第2駆動波形(2)は、1画素に対してヘッド駆動部25が記録ヘッド17のノズル18によりインク吐出を2回行わせる階調値2の駆動波形選択データ(ii)に対応する駆動波形であり、図6に示すように、駆動電源の電圧値(V0)からパルス幅T1の間、駆動電源の電圧値よりも低い所定値(V1)になって駆動電源の電圧値(V0)に戻る第1駆動波形(1)のパルスを2回繰り返すものが用意されている。このような第2駆動波形(2)が圧電素子31に印加されると、図10に示すように、ノズル18内のインクの流速は2回10m/sを超えるため、吐出口18aからインク滴が2回吐出される。
【0036】
第3駆動波形(3)は、1画素に対してヘッド駆動部25が記録ヘッド17のノズル18によりインク吐出を3回行わせる階調値3の駆動波形選択データ(ii)に対応する駆動波形であり、図7に示すように、駆動電源の電圧値(V0)からパルス幅T1の間、駆動電源の電圧値よりも低い所定値(V1)になって駆動電源の電圧値(V0)に戻る第1駆動波形(1)のパルスを3回繰り返すものが用意されている。このような第3駆動波形(3)が圧電素子31に印加されると、図11に示すように、ノズル18内のインクの流速は3回10m/sを超えるため、吐出口18aからインク滴が3回吐出される。
【0037】
一方、第4駆動波形(4)は、ノズル18内のインク滴を吐出させずにメニスカスMを揺動させることが可能となるように予め定められたメニスカス揺動用駆動波形であって、第1駆動波形(1)〜第3駆動波形(3)とは異なる波形からなる。第4駆動波形(4)は、図8に示すように、インクを吐出する駆動波形(図5図7参照)よりも狭いパルス幅T2を有し、インクを吐出する駆動波形よりも高い周波数を有するパルスを連続して複数回繰り返すものが用意されている。
【0038】
この第4駆動波形(4)は、例えば駆動電源の電圧値(V0)からパルス幅T2(記録ヘッド17の固有振動周期の3/4時間)の間、駆動電源の電圧値よりも低い所定値(V1)にした後、パルス幅T3(記録ヘッド17の固有振動周期の1/10〜1/13時間)の間、駆動電源の電圧値(V0)に戻り、パルス幅T4(記録ヘッド17の固有振動周期の1/20〜1/26時間)の間、駆動電源の電圧値よりも低い所定値(V1)にすることを3回繰り返し、駆動電源の電圧値(V0)に戻るものである。このような第4駆動波形(4)が圧電素子31に印加されると、図12に示すように、ノズル18内のインクの流速は10m/sを超えず、メニスカス面Mは揺動するもののインク滴は吐出されない。
【0039】
第4駆動波形(4)を用いたメニスカス面Mの揺動は、ドット形成直前のノズル18に加えて、連続印字の用紙間において、次の用紙で少なくとも1回以上インクを吐出する全てのノズル18に対しても行うことが好ましい。そして、用紙間に行うメニスカス面Mの揺動回数(圧電素子31に印加される第4駆動波形(4)のパルス数)は、ノズル18内のインク液成分の不均一化による吐出口18a近傍のインク液の増粘化が進行しても、メニスカス揺動によってノズル18内のインク液が再攪拌されてインク詰まりが発生しない程度の回数とする必要があり、100回以上が好ましい。
【0040】
なお、ドット形成直前のノズル18のメニスカス面Mを大きく揺動させると、飛翔速度の遅い微小なインク滴が形成され、画像上でチリとして認識されることがある。そこで、第4駆動波形(4)のパルス幅T2を記録ヘッド17の固有振動周期よりも狭くすることにより、メニスカス面Mの揺動による微小なインク滴の発生を防止することができる。
【0041】
次に、本発明のインクジェット記録装置100における記録ヘッド17のインク吐出制御について詳細に説明する。本発明においては、1つ(1ページ分)の画像データ内で1画素または2画素だけインクを吐出するノズル18に対して、インクを吐出する少なくとも1画素目において、各画素を多値階調で示した印字データ(i)に基づいてデータ加工部23で生成された駆動波形選択データ(ii)を、吐出量(吐出回数)の多い駆動波形選択データ(ii)に変更する。
【0042】
前述したように、インクの非吐出が続いたノズル18では、インクの増粘が進行し、特に先頭吐出画素(インクを吐出する1画素目)でインク詰まりが発生し得るという不具合があった。そこで、インクを吐出する少なくとも1画素目(本実施形態では、1画素目および2画素目)に対応する駆動波形選択データ(ii)を、予め吐出量(吐出回数)の多い駆動波形選択データ(ii)に変更してインクの吐出量を増加させることで、確実にインクを吐出させてドットを形成する。
【0043】
具体的には、1つ(1ページ分)の画像データ内で1画素または2画素だけインクを吐出するノズル18に対して、インクを吐出する1画素目および2画素目に対応する駆動波形選択データ(ii)の階調値を、1つ上の階調値に変更する。例えば、吐出画素に対応する駆動波形選択データ(ii)が階調値1である場合、一つ上の階調値2に変更する。その結果、本来であれば階調値1に対応する第1駆動波形(1)が選択され、インク滴が1回吐出されるところ、階調値2に対応する第2駆動波形(2)が選択されるため、インク吐出量を増加させることができる(インク吐出量が最小になるのを防止できる)ので、インク詰まりの発生を抑制することができる。
【0044】
ここで、インク吐出用の駆動波形の数が3以上ある場合(4階調以上の場合)は、吐出画素の駆動波形選択データ(ii)の階調値を1つ上の階調値へのみ移行させ、2以上高い階調値へは移行させないことが好ましい。これは、ノズル18のメニスカス面Mにおける水分の蒸発の程度はインクジェット記録装置100の使用環境(温湿度)によって異なるため、階調値を2以上高くするとインク吐出量が通常時から大幅に増加してしまい、画像パターンによっては、均一であるはずの数画素のラインが濃淡のあるラインとして認識されてしまうからである。
【0045】
また、最大階調(本実施形態では階調値3)の駆動波形選択データ(ii)は変更しないものとする。最大階調では、元々複数回のインク吐出を行う駆動波形が選択されるため、仮に1回目にインク詰まりが発生したとしても2回目または3回目にインク詰まりが解消される可能性が高いためである。なお、最大階調に対応する駆動波形よりも吐出回数の多い駆動波形を予め用意しておき、最大階調の駆動波形選択データ(ii)も1階調上の駆動波形選択データ(ii)に変更するようにしても良い。
【0046】
次に、必要に応じて図1図4を参照しながら、図13のステップに沿って本実施形態のインクジェット記録装置100を用いて画像を記録する際のインク吐出動作について説明する。
【0047】
パーソナルコンピューターのプリンタードライバー等から印字命令が入力されると、まず、制御部20内の画像処理部21において入力された画像データに基づく印字データ(i)が生成される(ステップS1)。次に、印字データ(i)がデータ加工部23に送信され、印字データ(i)を構成する各画素について、当該各画素に対応したインク吐出を行う各ノズル18のインク吐出回数を示す駆動波形選択データ(ii)を生成する(ステップS2)。
【0048】
本実施形態では、記録ヘッド17は階調値0、1、2、3の4階調のドット形成が可能である。データ加工部23において256階調の印字データ(i)を4階調の駆動波形選択データ(ii)に変換した後、格納部29に送信して格納する(ステップS3)。
【0049】
その後、画像データのNライン目の駆動波形選択データ(ii)に対応する駆動波形を決定する。先ず、各ノズル18について、1つ(1ページ分)の画像データ内で1画素または2画素だけにインクを吐出するか否かが判断される(ステップS4)。
【0050】
ステップS4において、1つ(1ページ分)の画像データ内で0画素(インク吐出なし)または3画素以上にインクを吐出すると判断された場合、ステップS5に進む。そして、1つの画像データ内で3画素以上にインクを吐出するノズル18に対しては、インクを吐出する画素の駆動波形としてその画素の階調に対応したインク吐出用駆動波形が選択される。例えば、格納部29に格納されたNライン目の画素のうち階調値1〜3である画素には、それぞれ対応する第1駆動波形(1)〜第3駆動波形(3)が選択される。階調値0である画素はドット形成が行われないため、何れの駆動波形も選択されない。また、1つ(1ページ分)の画像データ内で1つの画素にもインクを吐出しないノズル18に対しては、何れの駆動波形も選択されない。
【0051】
ステップS4において、1つ(1ページ分)の画像データ内で1画素または2画素だけインクを吐出すると判断された場合、ステップS6に進む。そして、Nライン目の画素がインクを吐出する画素(1画素目または2画素目)であるか否かが判断される。
【0052】
ステップS6において、インクを吐出する画素(1画素目または2画素目)ではないと判断された場合、ステップS5に進む。この画素は、階調値0でインクが吐出されないので、何れの駆動波形も選択されない。
【0053】
ステップS6において、インクを吐出する画素(1画素目または2画素目)であると判断された場合、ステップS7に進む。Nライン目に当該ノズル18でドット形成が行われるため、格納部29に格納されたN−1ライン目の画素の駆動波形として、インク吐出は行わずにメニスカス揺動のみを行う第4駆動波形(4)が選択される(ステップS7)。次に、Nライン目の画素の駆動波形選択データ(ii)の階調値が最大階調(ここでは階調値3)であるか否かが判断される(ステップS8)。最大階調でない場合は、駆動波形として1つ上の階調の駆動波形が選択される(ステップS9)。例えば、階調値1である場合は階調値2の第2駆動波形(2)が選択され、階調値2である場合は階調値3に対応する第3駆動波形(3)が選択される。
【0054】
一方、ステップS8においてNライン目の画素の駆動波形選択データ(ii)の階調値が最大階調(階調値3)である場合(ステップS8でYES)は、ステップS5に進み、最大階調(ここでは階調値3)に応じた駆動波形が選択される。
【0055】
そして、上記の判断が全てのラインに対して行われたか否かが判断され(ステップS10)、未判断のラインが残っている場合は、次のラインに対してステップS6〜ステップS10の手順を繰り返す。
【0056】
本実施形態では、上記のように、セレクター30は、1つ(1ページ分)の画像データ内で1画素または2画素だけにインクを吐出するノズル18に対して、インクを吐出する少なくとも1画素目の駆動波形としてその画素の階調よりも上の階調または最大階調に対応したインク吐出用駆動波形を選択する。これにより、1画素目でのインク吐出量を通常時よりも増加させ又は最大吐出量にすることができるので、インク吐出量が少なくなるのを抑制して、インク詰まりの発生を抑制することができる。このため、ノズル18からのインク吐出を安定して行うことができ、画像不良の発生を抑制することができる。
【0057】
また、上記のように、セレクター30は、1つ(1ページ分)の画像データ内で2画素にインクを吐出するノズル18に対して、インクを吐出する2画素目の駆動波形としてその画素の階調よりも1階調上に対応したインク吐出用駆動波形を選択する。これにより、万が一、1画素目でインク詰まりが発生したとしても、2画素目でインク詰まりが発生するのを抑制することができる。また、ノズル18内の増粘したインクをより多く吐出することができるので、次の用紙以降にそのノズル18でインク詰まりが発生するのを抑制することができる。
【0058】
また、上記のように、セレクター30は、1つの画像データ内で1画素または2画素だけにインクを吐出するノズル18に対して、インクを吐出する少なくとも1画素目の駆動波形としてその画素の階調よりも1階調上に対応したインク吐出用駆動波形を選択する。これにより、インク吐出量が通常時よりも大幅に増加してしまい均一なラインが濃淡のあるラインとして認識されてしまう不具合を防止できる。
【0059】
また、上記のように、セレクター30は、1つの画像データ内で1画素または2画素だけにインクを吐出するノズル18に対して、インクを吐出する画素の駆動波形選択データが最大階調に対応したインク吐出回数を表す駆動波形選択データであるときは最大階調に対応したインク吐出用駆動波形(第3駆動波形(3))を選択する。これにより、不必要に吐出量を増やすことなくインク詰まりの発生を抑制することができる。
【0060】
また、上記のように、インク吐出用駆動波形よりも狭いパルス幅を有し、且つ高い周波数を有するパルスが連続して複数回繰り返されるメニスカス揺動用駆動波形を用いることにより、メニスカスが大きく揺動しないため、飛翔速度の遅い微小なインク滴が形成され、画像上でチリとして認識される不具合を防止できる。
【0061】
また、上記のように、連続印字中の用紙間で、メニスカス揺動用駆動波形の駆動電圧を、次の用紙上に少なくとも1画素以上にインクを吐出する全ての圧電素子31に印加する。これにより、ノズル18の目詰まりやインクの吐出不良を一層効果的に防止することができる。
【0062】
次に、上記した本実施形態の効果を確認するために行った確認実験について説明する。この確認実験は、上記実施形態に対応した実施例1、2と、比較例1、2と、について行った。
【0063】
(実施例1、2および比較例1、2共通)
[顔料分散体の作製]
使用する顔料分散体に関しては、画像品質を高めるために、微粒子且つ数万の分子量を有する樹脂に被覆された顔料分散体が適している。このような樹脂材料としては、酸価150〜300の樹脂が好適であり、スチレンアクリル樹脂等の水溶性樹脂が挙げられる。なお、酸価が低い場合は、顔料の分散性が悪く微粒子化が困難であり、発色・着色力が低くなる。また、酸価が高い場合は、インクの保存安定性が悪くなる。
【0064】
この確認実験では、フタロシアニンブルー等の公知の顔料(15質量%)と、KOHで当量中和した水溶性樹脂(アルカリ可溶性樹脂)(1.5〜6.75質量%)と、オレフィンE1010(0.5質量%)と、水(83〜77.75質量%)と、をこの比率で混合し、メディア型分散器にて混練を行った。
【0065】
分散機としては、湿式分散機(ナノグレンミル:浅田鉄工株式会社製、MSCミル:三井鉱山株式会社製、ダイノーミル:株式会社シンマルエンタープライゼスなど)を用いた。そして、小径ビーズ(直径0.5mm・1.0mmのジルコニアビーズ)を用い、平均粒子径が70〜130nmになるように調整した。なお、ビーズ径を変えることで分散度合いや遊離樹脂量を変化させることが可能であり、より小さい径のビーズを用いれば、微粒子化が可能であるとともに、顔料に対する樹脂の被覆が強くなる。粒度分布測定に関しては、イオン交換水で300倍に希釈した溶液をゼータサイザーナノ(シスメックス株式会社製)等の測定装置を用いて行うことができる。
【0066】
[インクの作製]
そして、得られた顔料分散体(26.6質量%)と、オレフィンE1010(0.5質量%)と、1,3−ブタンジオール(5.0質量%)と、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(5.0質量%)と、2−ピロリドン(5.0質量%)と、グリセリン(15.0質量%)と、イオン交換水(42.9質量%)と、をこの比率で混合撹拌してインクを作製した。なお、得られたインクの粘度は、約6mPa・sであった。
【0067】
(実施例1−1)
作製したインクを記録ヘッド17に充填した。そして、全ノズル18について、パージ(ノズル内の粘度が高くなったインクを吐出)した後、ワイプ(吐出されたインクを拭き取り)した。その後、A3サイズの用紙を搬送し、その用紙の後端部に全ノズル18から1画素だけインクを吐出することを、1時間連続で行った。実施例1−1では、インク吐出量を、階調値2に対応する10plとした。
【0068】
なお、用紙間におけるメニスカスの揺動回数を300回、吐出直前(ドット形成直前)におけるメニスカスの揺動回数を5回とした。また、揺動の頻度を20000回/秒とした。
【0069】
(実施例1−2)
実施例1−2では、用紙の後端部の2画素にインクを吐出することを、1時間連続で行った。実施例1−2のその他の構成は、実施例1−1と同様にした。
【0070】
(比較例1−1)
比較例1−1では、インク吐出量を、階調値1に対応する5.5plとした。比較例1−1のその他の構成は、実施例1−1と同様にした。
【0071】
(比較例1−2)
比較例1−2では、インク吐出量を、階調値1に対応する5.5plとした。比較例1−2のその他の構成は、実施例1−2と同様にした。
【0072】
(実施例2)
作製したインクを記録ヘッド17に充填した。そして、全ノズル18について、パージ・ワイプを行い1時間の非印字時間経過後に、A3サイズの用紙を搬送し、その用紙の後端部に全ノズル18から1画素だけインクを吐出した。実施例2では、インク吐出量を、階調値2に対応する10plとした。実施例2のその他の構成は、実施例1−1と同様にした。
【0073】
(比較例2)
比較例2では、インク吐出量を、階調値1に対応する5.5plとした。比較例2のその他の構成は、実施例2と同様にした。
【0074】
そして、実施例1、2および比較例1、2について、用紙に印字されたドットを比較した。その結果を以下の表1、2に示す。なお、問題なく印字ができたものを○、印字できたがインク詰まりが発生してドットサイズが小さかったものを△、印字できなかったものを×として表示している。
【0075】
【表1】
【0076】
表1を参照して、1つ(1ページ分)の画像データ内で1画素または2画素だけしかインクを吐出しないノズル18に関しては、1つの画素に対するインク吐出量が少ない(階調値1に対応する5.5pl)場合、インク詰まりが発生し、1つの画素に対するインク吐出量が多い(階調値2に対応する10pl)場合、インク詰まりが発生しないことが確認できた。
【0077】
【表2】
【0078】
また、表2を参照して、1時間に1画素だけしかインクを吐出しないノズル18に関しては、1つの画素に対するインク吐出量が少ない(階調値1に対応する5.5pl)場合、インク詰まりが発生し、1つの画素に対するインク吐出量が多い(階調値2に対応する10pl)場合、インク詰まりが発生しないことが確認できた。
【0079】
以上のように、連続ページや単ページの印字において、非吐出や低印字率の区間が長く続いた後のノズル18でドットを形成しようとしたときでも、インク吐出量を多くすることによって、インクを安定して吐出することができることが確認できた。
【0080】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0081】
例えば、上記実施形態では、データ加工部23で生成する駆動波形選択データ(ii)を階調値0〜3の4階調としたが、これに限らず、0、1の2階調や0、1、2の3階調としても良いし、5階調以上としても良い。その場合、駆動パルス発生部27で発生する駆動波形の種類も駆動波形選択データ(ii)に対応して設定される。
【0082】
また、記録ヘッド17のノズル18の個数やノズル間隔等はインクジェット記録装置100の仕様に応じて適宜設定することができる。また、各ラインヘッド11C〜11Kにつき記録ヘッド17の数量も特に限定されるものではなく、例えば各ラインヘッド11C〜11Kにつき記録ヘッド17を1つ配置することもできるし、4個以上配置することもできる。
【0083】
また、上記実施形態では、1つ(1ページ分)の画像データ内で1画素または2画素だけにインクを吐出するノズル18に対して、インクを吐出する1画素目および2画素目の駆動波形として各画素の階調よりも上の階調または最大階調に対応したインク吐出用駆動波形を選択するように構成したが、本発明はこれに限らない。インクを吐出する1画素目だけについて、その画素の階調よりも上の階調または最大階調に対応したインク吐出用駆動波形を選択し、インクを吐出する2画素目については、その画素の階調に対応したインク吐出用駆動波形を選択してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、1つ(1ページ分)の画像データ内で1画素または2画素だけにインクを吐出するノズル18に対して、インクを吐出する画素の駆動波形として各画素の階調よりも1階調上に対応したインク吐出用駆動波形を選択するように構成したが、本発明はこれに限らず、各画素の階調よりも2階調(または2階調以上)上に対応したインク吐出用駆動波形を選択してもよい。ただし、インク吐出量が通常時よりも大幅に増加してしまい均一なラインが濃淡のあるラインとして認識されてしまう不具合が生じる可能性があるので、各画素の階調よりも1階調上に対応したインク吐出用駆動波形を選択することが好ましい。
【0085】
また、上記実施形態では、データ加工部23において256階調の印字データ(i)を4階調の駆動波形選択データ(ii)に変換した後、格納部29に送信して格納し、その後の制御をヘッド駆動部25にて行った例について示したが、本発明はこれに限らない。印字データ(i)を駆動波形選択データ(ii)に変換した後の制御(ステップS4〜S10)を、データ加工部23にて行ってもよい。また、印字データ(i)を駆動波形選択データ(ii)に変換した後、所定の画素について選択される駆動波形を変更することまでをデータ加工部23において行い、変更後のデータを格納部29に送信して、その後の制御をヘッド駆動部25にて行ってもよい。このとき、例えば、セレクター30は、制御部20に設けられていてもよいし、ヘッド駆動部25と制御部20とに設けられていてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、データ加工部が、画素の階調に対応したインク吐出回数を表す駆動波形選択データを生成する例について示したが、本発明はこれに限らず、データ加工部は、画素の階調に対応したインク吐出量またはインク吐出速度を表す駆動波形選択データを生成してもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、1つの画像データ内で1画素または2画素にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する少なくとも1画素目の駆動波形としてその画素の階調よりも上の階調または最大階調に対応した前記インク吐出用駆動波形を選択するために、セレクターが、その画素の駆動波形選択データの階調よりも上の階調または最大階調に対応したインク吐出用駆動波形を選択した例について示したが、本発明はこれに限らない。データ加工部が、1つの画像データ内で1画素または2画素にインクを吐出するノズルに対して、インクを吐出する少なくとも1画素目の駆動波形選択データを、その画素の階調よりも上の階調または最大階調の駆動波形選択データに変更するとともに、セレクターが、駆動波形選択データに基づいて、インク吐出用駆動波形を選択し、あるいは何れの駆動波形も選択しないように構成してもよい。
【符号の説明】
【0088】
17、17a〜17c 記録ヘッド
18 ノズル
20 制御部
21 画像処理部
23 データ加工部
25 ヘッド駆動部
27 駆動パルス発生部
30 セレクター
31 圧電素子
35 加圧室
100 インクジェット記録装置
P 用紙(記録媒体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13