特許第5959118号(P5959118)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959118
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】医療用組織マーカー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/04 20060101AFI20160719BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20160719BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20160719BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20160719BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   A61K49/04 A
   A61K49/00 Z
   A61K49/04 K
   A61K47/24
   A61K9/10
   A61K9/107
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-520507(P2013-520507)
(86)(22)【出願日】2012年5月31日
(86)【国際出願番号】JP2012064235
(87)【国際公開番号】WO2012173003
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2015年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-130901(P2011-130901)
(32)【優先日】2011年6月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人 千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121658
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 昌義
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】畑山 博哉
(72)【発明者】
【氏名】藤浪 眞紀
(72)【発明者】
【氏名】豊田 太郎
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−266295(JP,A)
【文献】 特開2005−263647(JP,A)
【文献】 特開2005−220045(JP,A)
【文献】 特開昭63−233915(JP,A)
【文献】 東女医大誌,Vol.60, No.12 (1990),p.999-1010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/04
A61K 9/10
A61K 9/107
A61K 47/24
A61K 49/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質及び近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクル前記リン脂質及びX線造影剤が複合して形成されたエマルションを含み乳化剤によって前記ベシクルと前記エマルションを親水性溶媒に内包させカプセルが複数凝集したクラスターを有する医療用組織マーカー。
【請求項2】
前記X線造影剤は、ヨード化ケシ油エチルエステルを含む請求項1記載の医療用組織マーカー。
【請求項3】
前記リン脂質は、レシチン及びフォスファチジルコリンの少なくともいずれかである請求項1記載の医療用組織マーカー。
【請求項4】
前記親水性溶媒は、水と食用増粘剤を含む、請求項1記載の医療用組織マーカー。
【請求項5】
第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素、X線造影剤及びリン脂質を加えて攪拌し、
疎水性溶媒に、前記第一の親水性溶媒、乳化剤を加えて懸濁液を形成し、
前記懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する、医療用組織マーカーの製造方法。
【請求項6】
前記疎水性溶媒に、前記第一の親水性溶媒、乳化剤を加えて懸濁液を形成する際、X線造影剤も加える請求項5記載の医療用組織マーカーの製造方法。
【請求項7】
前記X線造影剤は、ヨード化ケシ油エチルエステルを含む請求項5記載の医療用組織マーカーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用組織マーカー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内視鏡を用いた手術が発展し、診断・治療の手法として多く利用されるようになってきている。上記手術において、組織マーカーは極めて有用である。組織マーカーとは、診断・治療するために必要な部位にマーキングを施すものであり、マーキングを施すことで診断・治療するための部位を簡便に特定することができるようになる。
【0003】
公知の組織マーカーに関する技術としては、例えば、インドシアニングリーンに関する技術が、例えば下記非特許文献1乃至6、特許文献1及び2(以下これらを「文献」という。)に記載されている。下記文献には、インドシアニングリーンとゼラチンとを混合して作製した組織マーカーを用い、内視鏡カメラによって可視領域の吸収を観察したことが開示されている。
【0004】
X線造影剤を組織マーカーとして用いる技術としては、例えば、ヨード化ケシ油エチルエステルに関する技術が、下記非特許文献7に記載されている。下記文献には、ヨード化ケシ油エチルエステルとリン脂質とを混合して作製した組織マーカーの安定性が、リン脂質を用いない場合に比べて向上したことが開示されている。
【0005】
また、下記特許文献3には、リン脂質と近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクルを親水性溶媒に内包させ、乳化剤により複数のカプセルを形成、凝集させたベシクルクラスターを有する医療用組織マーカーが開示されている。
【0006】
【非特許文献1】草野満夫編著,ICG 蛍光Navigation Surgeryのすべて,インターメディカ,2008.
【非特許文献2】S.Yoneyaet al,Investigative Ophtalmolgyand Visual Science1998;39:1286−1290.
【非特許文献3】S.Itoet al,Endoscopy 2001;33:849−853
【非特許文献4】R.Ashidaet al,Endoscopy 2006;38:190−192.
【非特許文献5】S.Taokaet al,Digestive Endoscopy1999;11:321−326.
【非特許文献6】J.V.Frangioni,CurrentOpinion inChemical Biology 2003;7:626−634.
【非特許文献7】安康晴博、Lecithin配合lipiodol emulsionを用いた肝動脈化学塞栓療法の基礎的研究、東京女子医大誌、1990;60:999−1010.
【特許文献1】特開2007−262062号公報
【特許文献2】特開2008−69107号公報
【特許文献3】特開2010−266295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記非特許文献1乃至6、特許文献1及び2に記載の技術は、マーキングした組織部位の大雑把な把握には有用であるものの、切除すべき最低限の組織範囲を正確に決める指標として用いることは容易でない。具体的に説明すると、上記文献に記載の技術では、内視鏡により臓器内側の組織及び当該組織にマーキングされたマーカーを直接観察することができるものの、可視領域の光を殆ど通さない臓器の外側からの観察で臓器内側のマーキング位置を確認し、必要な部分のみを切除しようとする場合等に困難性がある。また、ICGを単にゼラチンと混合して使用しただけでは、体内組織内における血管を通じて早期に拡散してしまい、マーキングした位置の特定が困難になってしまう。
【0008】
これら課題は、マーカーとしての機能において改善の余地があることを意味する。すなわち、生体透過率が高い近赤外領域の蛍光が弱く可視光の吸収に大きく依存したマーカーでは、臓器内側からマーキングしたとしても外側から発見することが困難であり、また、マーカーがすぐに拡散してしまうと、マーキング箇所が拡散して広くなる結果、体内組織を必要以上切除しなければならず、患者に対する負担が大きくなってしまう。
【0009】
一方で、上記特許文献3に記載の技術によると上記課題を解決することができる。しかしながら、上記特許文献3に記載の技術ではマーキングした位置の臓器全体の中での位置の把握が容易ではなく、例えばX線CTを用いた画像診断による臓器全体の中でのマーキング位置の把握が容易となれば、手術前の術前シミュレーションや術中のナビゲーションにもつなげることができると期待される。
【0010】
また上記非特許文献7に記載の技術は、難水溶性のヨード化ケシ油エチルエステルをリン脂質で保護することで、ヨード化ケシ油エチルエステルの水中での分散性をよくすると同時に、生体滞留性を向上させるといった利点がある。しかしながら、この分散液は流動性が高いために、臓器へマーキングすると定着性が低く、マーキング箇所から染み出すといった課題が残る。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題を鑑み、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能であって、かつ、マーキングした位置の臓器全体の中での位置の把握が容易となる医療用組織マーカー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の一観点に係る医療用組織マーカーは、リン脂質及び近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクルと、リン脂質及びX線造影剤が複合して形成されたエマルションとを含み、ベシクルとエマルションを親水性溶媒に内包させ、乳化剤により複数のカプセルを形成、凝集させたクラスターを有する。
【0013】
また、本発明の他の一の手段に係る医療用組織マーカーの製造方法は、第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素、X線造影剤及びリン脂質を加えて攪拌し、疎水性溶媒に、第一の親水性溶媒、乳化剤を加えて懸濁液を形成し、懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する。
【発明の効果】
【0014】
以上、本発明により、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能であって、かつ、マーキングした位置の臓器全体の中での位置の把握が容易となる医療用組織マーカー及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係るクラスターのイメージ図である。
図2】実施形態に係るベシクルのイメージ図である。
図3】実施形態に係るエマルションのイメージ図である。
図4】実施形態に係るクラスターの製造方法の工程の概略を示す図である。
図5】実施形態に係るクラスターの製造方法の工程を示す図である。
図6】実施形態に係るクラスターのイメージ図である。
図7】実施例に係るクラスターの明視野顕微鏡像を示す図である。
図8】実施例に係るクラスターの蛍光顕微鏡像を示す図である。
図9】実施例に係るクラスターの明視野顕微鏡像(27時間後)を示す図である。
図10】実施例に係るクラスターの蛍光顕微鏡像(27時間後)を示す図である。
図11】実施例に係るクラスターのX線造影の結果を示す図である。
図12】実施例に係るクラスターを注入した場合のブタの胃内壁側の写真図である。
図13】実施例に係るクラスターを注入した場合のブタの胃外側の写真図である。
図14】実施例に係るクラスターを注入した場合のブタの胃外側の蛍光像である。
図15】比較としてICG水溶液を注入した場合のブタの胃外側の蛍光像である。
図16】実施例に係るクラスターを注入した場合(24時間後)のブタの胃外側の蛍光観察の結果を示す図である。
図17】実施例に係るクラスターの注入量を50μLとした場合における蛍光像である。
図18】実施例に係るクラスターの注入量を100μLとした場合における蛍光像である。
図19】実施例に係るクラスターの注入量を200μLとした場合における蛍光像である。
図20】実施例に係るクラスターの注入量を300μLとした場合における蛍光像である。
図21】実施例に係るクラスターを注入した後(32時間後)、ブタの胃を取り出して蛍光観察を行った結果を示す図である。
図22】実施例に係るクラスターを注入した後(32時間後)、ブタの胃を取り出してCT撮像を行った結果を示す図である。
図23】ICG濃度及び卵黄レシチンの濃度を変化させた場合の蛍光強度の変化を示す図である。
図24】実施例2において作製したベシクルを分散液の状態でCT撮影を行った場合のX線像を示す図である。
図25】実施例3において作製したクラスターをブタの胃粘膜下層に局注した結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ限定されるものでない。
【0017】
(実施形態1)
(医療用組織マーカー)
本実施形態に係る医療用組織マーカーは、リン脂質と近赤外蛍光色素が複合して形成されたベシクルと、リン脂質とX線造影剤とが複合して形成されたエマルションを親水性溶媒に内包させ、乳化剤により複数のカプセルを形成、凝集させたクラスター(以下「クラスター」という。)を有する。図1は、本実施形態に係る医療用組織マーカーにおけるクラスター1のイメージ図であり、図2は、クラスター1に含まれるベシクル2のイメージ図であり、図3は、クラスター1に含まれるエマルション3のイメージ図である。
【0018】
まず図2で示すように、本実施形態に係るベシクル2は、リン脂質21と、近赤外蛍光色素22と、を有して形成されている。ここでベシクルとは、リン脂質が分子間力により自己集合することで形成される袋状の二分子膜をいう。そして近赤外蛍光色素22は、リン脂質21と複合化され、ベシクルの構成要素となっている。ここで「複合」とは、主に疎水性相互作用の分子間相互作用によってベシクルと複合体を形成する状態もしくは、ベシクルの内部に溶解している状態を意味する。近赤外蛍光色素22をリン脂質21に複合させることで、本実施形態に係るベシクルは近赤外蛍光色素22を安定化させ、近赤外領域において蛍光を安定的に発することができるようになる。
【0019】
なお本実施形態においてリン脂質21は、ベシクルを形成することができるものである限りにおいて限定されるわけではないが、例えばレシチン、フォスファチジルコリン及びこれらのうちの二以上の混合物を用いることができる。なおレシチンとしては、限定されるわけではないが、卵黄レシチン、大豆レシチン又はこれらの混合物を例示することができるが、体内における蛍光強度の関係から、リン脂質は卵黄レシチンが好適である。
【0020】
またフォスファチジルコリンの場合、上記の要求を満たす限りにおいて限定されるわけではないが、例えば1−パルミトイル−2−オレオイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−ステアリル−2−オレオイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−リノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1−ステアリル−2−リノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジオレオイル−3−sn−フォスファチジルコリン、1,2−ジパルミトイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジステアリル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン、1,2−ジリノレイル−3−sn−グリセロフォスファチジルコリン及びこれらのうちの二以上の混合物を用いることができる。
【0021】
また本実施形態において、近赤外蛍光色素22は、インドシアニングリーンやブリリアントグリーンやインジゴカルミンそのものを含み、その誘導体を含む。近赤外蛍光色素とは、インドシアニングリーンやブリリアントグリーンやインジゴカルミンの主要な骨格及び機能を維持しつつその一部を他の官能基等で置換した化合物をいう。なお、インドシアニングリーンは下記式(1)で示され、ブリリアントグリーンは下記式(2)で示され、インジゴカルミンは下記式(3)で示される。
【化1】
【化2】

【化3】
【0022】
本実施形態におけるベシクル2の大きさとしては、特に限定されないが、一般に10nm以上100μm以下となっていることが好ましく、より好ましくは100nm以上10μm以下である。
【0023】
本実施形態のベシクル2において、含まれるリン脂質21及び近赤外蛍光色素22の量は、適宜調整可能であり限定されるわけではないが、例えば、リン脂質であるレシチンの重量を1とすると、近赤外蛍光色素であるインドシアニングリーンは、1×10−4以上1×10−3以下であることが好ましく、4×10−3以上6×10−3以下であることがより好ましい。1×10−4以上1×10−3以下とすることで、臓器内部のマーキングされた組織部分を臓器外部からより容易に認識することができるといった利点があり、4×10−3以上6×10−3以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0024】
また図3で示すように、本実施形態に係るエマルション3は、リン脂質31と、X線造影剤32と、を有して形成されている。ここでエマルション3とは、リン脂質31が分子間力により自己集合することで形成される分子膜をいう。そしてX線造影剤32は、リン脂質31と複合化され、エマルションの構成要素となっている。なおここで「複合」とは、主に疎水性相互作用の分子間相互作用によってリン脂質と複合体を形成する状態もしくは、エマルションの内部に溶解している状態を意味する。X線造影剤32をリン脂質31に複合させることで、本実施形態に係るエマルションはX線造影剤32を安定化させ、X線CT造影を好適に行うことができるようになる。
【0025】
なお本実施形態においてリン脂質31は、上記ベシクルにおけるリン脂質21と同様である。
【0026】
また本実施形態において、X線造影剤32は、限定されるわけではないが、ヨード化ケシ油エチルエステル及びその誘導体、ヨードベンゼン及びその誘導体、またはバリウム塩であることが好ましい。ヨード化ケシ油エチルエステルは、ケシ油脂肪酸をヨード化及びエステル化することで得られる化合物であり、例えば下記式(4)で表すことができる。なお、限定されるわけではないが、ヨード化ケシ油エチルエステル及びその誘導体、ヨードベンゼン及びその誘導体、またはバリウム塩又はこれらの混合物を例示することができるが、臓器におけるX線吸収率の関係から、X線造影剤はヨード化ケシ油エチルエステルが好適である。
【化4】
【0027】
本実施形態におけるエマルション3の大きさとしては、特に限定されないが、一般に10nm以上100μm以下となっていることが好ましく、より好ましくは100nm以上10μm以下である。
【0028】
本実施形態のエマルション3において、含まれるリン脂質31及びX線造影剤32の量は、適宜調整可能であり限定されるわけではないが、例えば、リン脂質であるレシチンの重量を1とすると、X線造影剤であるヨード化ケシ油エチルエステルは、1×10−1以上1×10以下であることが好ましく、2×10−1以上2×10以下であることがより好ましい。1×10−1以上1×10以下とすることで、ヨード化ケシ油エチルエステルのエマルションの表面をリン脂質の膜で十分に保護できるといった利点があり、2×10−1以上2×10以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0029】
また図1で示すように、本実施形態に係るクラスター1は、親水性溶媒4が内包されたカプセル5を、乳化剤により複数形成、凝集させものとなっている。なお親水性溶媒4には、上記ベシクル2及びエマルション3の少なくともいずれかが内包されている。
【0030】
親水性溶媒4は、ベシクル3、エマルション3を安定的に内包するために用いるものであり、この限りにおいて限定されるわけではないが、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液及びこれらのうち二以上の混合物であることが好ましい。なお、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液の場合、pH6.5以上8以下であることが好ましい。
【0031】
また親水性溶媒4には、体内組織のマーキングされた位置で長時間安定して留まることが可能となるよう、食用増粘剤を加えておくことが好ましい。食用増粘剤の種類としては、限定されるわけではないが、例えばゼラチン、寒天、フィブリノーゲン、糖類及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0032】
ゼラチンの場合、限定されるわけではないが、コラーゲンI型、コラーゲンII型、コラーゲンIII型、コラーゲンV型及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0033】
寒天の場合、限定されるわけではないが、分子量が数千〜数万のアガロース、アガロペクチン及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0034】
フィブリノーゲンの場合、限定されるわけではないが、濃度5mg/mL〜50mg/mLのフィブリノーゲンを主成分とし、塩化カルシウム、プロトロンビン及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0035】
糖類の場合、限定されるわけではないが、例えばグルコース、スクロース、マントース、ガラクトース、アラビノース、リブロース、フルクトース、ルトース、マンノース、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0036】
また、食用増粘剤を添加する量としては、限定されるわけではないが、カプセルに含まれる親水性溶媒の重量を1とすると、1×10−3以上10以下であることが好ましく、1×10−1以上1以下とすることがより好ましい。1×10−3以上とすることで親水性溶媒3の粘度を向上することができるといった効果があり、1×10−1以上とすることでこの効果がより顕著となる。また10以下とすることで親水性溶媒3の流動性低下を抑制できるといった効果があり、1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0037】
また、本実施形態において、親水性溶媒に加える近赤外蛍光色素、X線造影剤及びリン脂質の重量の比(ベシクル、エマルションの重量の比)は、医療用組織マーカーとして十分な蛍光強度を確保することができ、十分にX線造影を行うことができる限りにおいて限定されるわけではないが、100:1以上1:100以下、より好ましくは10:1以上1:1以下の範囲である。100:1以上とすることで蛍光強度とX線吸収率がバックグラウンドである臓器のそれより高めることができるといった効果があり、10:1以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、1:100以下とすることで蛍光に対するX線吸収による干渉抑制する効果があり、1:1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0038】
また、本実施形態において、親水性溶媒に加える近赤外蛍光色素、X線造影剤及びリン脂質の合計の重量(ベシクル、エマルションの重量)は、医療用組織マーカーとして十分な蛍光強度を確保することができ、十分にX線造影を行うことができる限りにおいて限定されるわけではないが、親水性溶媒の重量(食用増粘剤等を含む場合はそれを含む重量)を1とした場合に、1×10−4以上1×10−1以下、より好ましくは1×10−3以上1×10−2以下の範囲である。1×10−4以上とすることでマーカーの蛍光強度やX線吸収率を向上することができるといった効果があり、1×10−3以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、1×10−1以下とすることで親水性溶媒中でベシクルやエマルションではなくラメラ相に変化することを抑制する効果があり、1×10−2以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0039】
また、本実施形態において、乳化剤は、親水性溶媒を内包するカプセルの壁部を形成すると共に、これらをクラスターとして凝集させるために用いられるものである。そして本実施形態における乳化剤は、カプセルの壁部を形成するだけでなくクラスター全体を覆う表皮をも形成することができ、複数のカプセルを凝集、結合させることができる。本実施形態に係る乳化剤としては、限定されるわけではないが、例えばポリグリセリルポリリシノレート、ポリグリセリルポリリシノレート誘導体、グリセリン脂肪酸エステル誘導体およびこれらのうち二以上の混合物を用いることができる。
【0040】
また、本実施形態において、カプセル形成のために加えられる乳化剤の重量は、限定されるわけではないが、例えば親水性溶媒(近赤外蛍光色素、X線造影剤及びリン脂質の合計の重量を含み、食用増粘剤等を含む場合はそれを含む)の量を1とした場合、1×10−3以上1以下であることが好ましく、より好ましくは1×10−2以上1×10−1以下である。1×10−3以上とすることで親水性溶媒のカプセルを安定に乳化剤がつくることができるといった効果があり、1×10−2以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1以下とすることで乳化剤と疎水性溶媒と第一親水性溶媒とがゲル層を形成する反応を抑制するといった効果があり、1×10−1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0041】
なお本実施形態において、クラスターの粒径としては、医療用組織マーカーとしての機能を保持することができる限りにおいて限定されないが例えば50μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは100μm以上250μm以下である。50μm以上とすることでマーカーが生体内で分解されにくくマーカーからの蛍光強度を向上することができ、100μm以上とすることでこの効果がより顕著となる。また500μm以下とすることで内視鏡を通じて注射する針が詰まることを抑制することができ、250μm以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0042】
また本実施形態において、1つのクラスター内におけるカプセルの数は、組織マーカーとしての機能を維持することができる限りにおいて限定されないが例えば1個以上10個以下であることが好ましく、より好ましくは10個以上10個以下である。1個以上とすることでマーカーからの蛍光強度を向上するといった効果があり、10個以上とすることでこの効果がより顕著となる。また10個以下とすることでカプセルの強度の向上とマーカーが安定化するといった効果があり、10個以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0043】
また、本実施形態における医療用組織マーカーは、クラスターを保持するために、例えば疎水性溶媒を用い、この疎水性溶媒にクラスターを保持させることが好ましい。このようにすることで、カプセルを複数形成して凝集させることができるようになるといった効果がある。またもちろん、上記溶媒のほか、医療用組織マーカーの機能を安定又は増強させるために他の要素、例えば疎水性高分子等を加え架橋することができる。
【0044】
以上、本実施形態に係る医療用組織マーカーにより、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能であって、かつ、マーキングした位置の臓器全体の中での位置の把握が容易となる。
【0045】
より具体的に説明すると、本実施形態に係る医療用組織マーカーは、近赤外蛍光色素がベシクルに結合しているため近赤外の蛍光を強く安定に発することが可能となるとともに、X線造影剤がエマルションを形成しているため、X線造影が可能となる。しかも、ベシクル、エマルション双方を親水性溶媒に内包しそのカプセルを含んでクラスターとして形成するため、臓器へ打ち込んで生体内の組織液に接してもカプセルどうしが解離しにくく、長期にわたって局所的に留まるといった利点があり、更にクラスターのカプセルに食用増粘剤を用いるため、局所的に長期に留まるだけの強度をもちつつ、内視鏡の流路を経て臓器へ注射される柔軟性を有するといった利点がある。
【0046】
(クラスターの製造方法)
ここで、上記医療用組織マーカーの製造方法(以下「本製造方法」という。)の一例について、詳細に説明する。図4は、本製造方法の概略を示す図である。
【0047】
本図で示すように、本製造方法は、(1)第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素、X線造影剤及びリン脂質を加えて攪拌し、(2)疎水性溶媒に、上記第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成し、(3)懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離することを特徴とする。
【0048】
(1)第一の親水性溶媒に近赤外蛍光色素、X線造影剤及びリン脂質を加えて攪拌する工程によると、近赤外蛍光色素が複合したリン脂質を含むベシクル、X線造影剤が複合したリン脂質を含むエマルションを形成することができるようになる。本実施形態ではこの作業を一度に行うことができ、撹拌するための大型装置は不要であるといった利点がある。もちろん、ベシクルを形成する工程、エマルションを形成する工程を別々に行い、その溶液を混合させて一つの溶液としてもよい。その場合、ベシクルを形成する工程、エマルションを形成する工程は、リン脂質を加えて撹拌する工程に限定されるものではなく、有機溶媒や超臨界流体を用いてリン脂質と混合した後に減圧処理によって溶媒を除去する工程、リン脂質を加えて超音波処理やフィルター処理を施す工程としてもよい。しかし、無有機溶媒による生体親和性の向上と、リン脂質の安定性の観点から、リン脂質を加えて撹拌する工程が好ましい。
【0049】
この工程において、第一の親水性溶媒は、上記カプセルの内部に存在する親水性溶媒と同一のものを採用することがカプセル4を容易に形成する観点から好ましい。すなわち水、生理食塩水、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液及びこれらのうち二以上の混合物であることが好ましい。
【0050】
また、第一の親水性溶媒には、食用増粘剤を含ませることも好ましい。含ませる食用増粘剤は、上記の通り、ゼラチン、寒天、フィブリノーゲン、糖類及びこれらのうちの二以上の混合物を挙げることができる。
【0051】
また、第一の親水性溶媒の量に対する近赤外蛍光色素、X線造影剤及びリン脂質の量は、限定されるわけではないが、カプセル内に存在する親水性溶媒における近赤外蛍光色素、X線造影剤及びリン脂質との重量関係と同様の範囲とすることが好ましい。すなわち、例えば、第一の親水性溶媒の重量(食用増粘剤等を含む場合はそれを含む重量)を1とした場合に、1×10−4以上1×10−1以下、より好ましくは1×10−3以上1×10−2以下の範囲である。1×10−4以上とすることでマーカーからの蛍光強度を向上することができ、かつ、十分にX線造影を行うことができるといった効果があり、1×10−3以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、1×10−1以下とすることで親水性溶媒中でベシクルやエマルションではなくラメラ相に変化することと抑制する効果があり、1×10−2以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0052】
また、この工程を行なう温度は、ベシクル及びエマルションを形成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、4℃以上80℃以下であることが好ましく、室温程度で行なうことが簡便でありより好ましい。またこの工程において、第一の親水性溶媒を攪拌する時間も、ベシクル、エマルションを形成することができる限りにおいて限定されるわけではないが、5分以上1時間以内であることが好ましく、より好ましくは10分以上30分以下である。
【0053】
(2)疎水性溶媒に、第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成する工程によると、ベシクル、エマルションを内包させた第一の親水性溶媒の周囲に乳化剤を取り囲ませ、疎水性溶媒中にカプセル状のエマルションを多数形成させることができる。
【0054】
本工程おいて、疎水性溶媒は、4℃以上80℃以下でカプセル状のエマルションができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばケロシン、ヘキサン、デカン、ドデカン、ヘプタン、スクアレン、スクアラン、流動パラフィン、ミネラルオイル及びこれらのうち二以上の混合物を用いることができる。
【0055】
また、本実施形態において疎水性溶媒の重量は、限定されるわけではないが、第一の親水性溶媒の重量を1とした場合、1以上100以下であることが好ましく、より好ましくは5以上10以下である。1以上とすることでカプセル状のエマルションがゲル相へ転移してしまうことを抑制することができ、5以上とすることでこの効果がより顕著となる。一方、100以下とすることでカプセル状のエマルションの粒径を安定に保持してクラスターとすることができるといった効果があり、10以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0056】
なお本工程において乳化剤は、上記記載したものを採用することができる。
【0057】
またこの工程において、加える第一の親水性溶媒の量としては、限定されることなく適宜調整可能であるが、例えば疎水性溶媒の重量を1とした場合、1×10−3以上1以下であることが好ましく、より好ましくは1×10−2以上1×10−1以下である。1×10−3以上とすることでクラスターあたりのカプセルの数を増加させマーカーの蛍光強度を向上できるといった効果があり、1×10−2以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1以下とすることで親水性溶媒と疎水性溶媒との相分離を抑制するといった効果があり、10−1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0058】
またこの工程において、加える乳化剤の量としては、限定されることなく適宜調整可能であるが、例えば加える第一の親水性溶媒の量を1とした場合、1×10−3以上1以下であることが好ましく、より好ましくは1×10−2以上1×10−1以下である。1×10−3以上とすることで親水性溶媒のカプセルを安定に乳化剤がつくることができるといった効果があり、1×10−2以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1以下とすることで乳化剤と疎水性溶媒と第一親水性溶媒とがゲル層を形成する反応を抑制するといった効果があり、1×10−1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0059】
本実施形態において、(3)懸濁液と第二の親水性溶媒とを用いて遠心分離する工程は、疎水性溶媒層と親水性溶媒層を相分離させて配置し、疎水性溶媒中に存在するカプセル状のエマルションを遠心分離を用いて親水性溶媒側に沈降させていく方法であり、このイメージを図5に示しておく。この結果、疎水性溶媒層と親水性溶媒層との間の界面の乳化剤がカプセルからクラスターを形成させることができる。
【0060】
第二の親水性溶媒は、遠心分離するために用いられるものであり、この限りにおいて限定されるわけではないが、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液、TRIS塩酸緩衝液、HEPES緩衝液及びこれらのうち二以上の混合物を好適に用いることができる。
【0061】
なお、第二の溶媒の量としては、限定されるわけではないが、例えば懸濁液の重量を1とした場合、1以上1000以下であることが好ましく、より好ましくは10以上100以下である。1以上とすることで疎水性溶媒層と親水性溶媒層との相分離を安定化させることができるといった効果があり、10以上とすることでこの効果がより顕著となる。また、1000以下とすることでマーカーの粘度が減少することを抑制することができるといった効果があり、100以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0062】
そしてこの結果、上記した医療用組織マーカーを構成することができる。
【0063】
(実施形態2)
(医療用組織マーカー)
本実施形態に係る医療用組織マーカーは、上記実施形態1とほぼ同じであるが、疎水性溶媒に、第一の親水性溶媒、乳化剤を加えて懸濁液を形成する際、疎水性溶媒にX線造影剤を加えている点が実施形態1と異なる。異なる点について以下説明する。
【0064】
図6は、本実施形態に係る医療用組織マーカーにおけるクラスター1のイメージ図である。本図で示すとおり、本実施形態に係る医療用組織マーカーは、カプセル5の外側にもX線造影剤を含んでいることを特徴とする。このようにすることでより多くのX線造影剤を含ませることができ、しかもクラスター1のより外側に近い位置にX線造影剤を含ませることが可能となり、感度の向上を図ることができる。
【0065】
(クラスターの製造方法)
ここで本実施形態に係る医療用組織マーカーの製造方法について説明する。本実施形態におけるクラスターの製造方法も、ほぼ実施形態1と同様であるが、上記実施形態の(2)疎水性溶媒に、上記第一の親水性溶媒と乳化剤を加えて懸濁液を形成する工程が少し異なる。具体的には、疎水性溶媒に第一の親水性溶媒、乳化剤を加えて懸濁液を形成する際、X線造影剤も加えておく点が実施形態1と異なる。
【0066】
この段階で加えるX線造影剤については、上記実施形態1と同様である。X線造影剤の濃度については、特に限定されるわけではないが、例えば加える第一の親水性溶媒の量を1とした場合、0.01以上10以下であることが好ましく、より好ましくは0.1以上1以下である。0.01以上とすることでX線造影の感度が高くなるといった効果があり、0.1以上とすることでその効果がより顕著となる。また、10以下とすることでクラスター作製時の自重による沈降を抑制する効果があり、1以下とすることでこの効果がより顕著となる。
【0067】
以上、本実施形態に係る医療用組織マーカーにより、臓器内側にマーキングしたものでも臓器外側から位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能であって、かつ、マーキングした位置の臓器全体の中での位置の把握が容易となる。特に、本実施形態に係るマーカーによると、カプセル外部にもX線造影剤を含ませることができ、より感度が向上する。
【実施例】
【0068】
ここで上記医療用組織マーカーについて具体的に作成し、本発明の効果を確認した。以下具体的に説明する。
【0069】
(実施例1)
本実施例では、第一の親水性溶媒としてTRIS塩酸緩衝液を、近赤外蛍光色素としてインドシアニングリーン(以下「ICG」という。)を、X線造影剤として、ヨード化ケシ油エチルエステル(以下「LPG」という。)を、リン脂質として卵黄レシチンを、採用した。なお、この場合における増粘剤として、スクロースを採用した。
【0070】
まず、室温下において、ガラス管に、50mM、pH7.8となるようTRIS緩衝液を1mL準備し、そこにICG3.2×10−2mM、LPD20mM、卵黄レシチン30mMとなるよう加え、攪拌し、ベシクル及びエマルションを形成した。
【0071】
次に、疎水性溶媒であるスクアレン15mLに、乳化剤であるポリグリセリルポリリシノレート(PGPR)を15w/w%溶解させ、そこへ上記作成したベシクル及びエマルションを含む溶液1mLを加え、PGPRによるエマルション(PGPRエマルション)を含む懸濁液を作成した。なお本実施例では、疎水性溶媒にもLPG4mMを加え、PGPRエマルション中又はその周辺にLPGを多く存在させた。
【0072】
そして、更に、第二の親水性溶液として、50mM、pH7.7のTRIS緩衝溶液5mLを準備し、増粘剤としてグルコースを用い、この第二の親水性溶液に、上記PGPRエマルションを含む懸濁液10mLを上部から加え、油相(スクアレン相)と水相(TRIS緩衝溶液相)とを接触させた状態、室温下で、3500rpmを30分間回転させ、PGPRのクラスターを形成させた。
【0073】
図7は、この結果得られたPGPRクラスターの明視野顕微鏡像であり、図8は、蛍光顕微鏡像である。この結果、クラスターであることが確認できるとともに、蛍光をも発することができていることを確認した。また図9は、この結果得られたPGPRクラスターの作成後27時間後における明視野顕微鏡像であり、図10は、同時間経過後の蛍光顕微鏡像である。この結果、1日以上の長時間経過した後であっても、形状及び性能が安定して存在していることが確認できた。
【0074】
作成したこのクラスターに対し、分散液の状態でCT撮影を行いX線造影を行なった結果を図11に示しておく。この結果、本クラスターのX線吸収度(CT値)は、胃壁のそれよりも十分に大きな値であることが確認でき、胃壁に打ち込まれてもコントラストが強く表れることが確認できた。
【0075】
次に、作成したこのクラスターを、生体組織に注入し、その効果を確認した。具体的には、ブタの胃の内壁粘膜下層を投与対象組織とし、ここに上記作製したクラスターを含む分散液を300μL、腫瘍に見立てたクリップの周囲に4箇所局部注射で投与した。図12はこの場合における胃内壁側の写真図を、図13は、胃の外側の写真図である。
【0076】
また、図14は、胃外側から観察した際の蛍光像を示す。図中左側は局注直後の蛍光像を、図中右側は、約6時間後の蛍光像を示す。本図によると、6時間経過後でも、4箇所を明確に区別することができ、十分注射位置近傍にクラスターをとどまらせることができていることを確認した。なお、比較として、ICG水溶液を同様の位置に局部注射した際の同様の図を図15に示しておく。この場合では、注射後6時間後はもちろん、直後においても、位置が不明瞭となっていることが確認できる。
【0077】
またここで、局注後24時間経過後の安定性についても、改めて確認した。ここでは上記と同様、胃の内壁粘膜下層を投与対象組織とし、ここに上記作製したクラスターを含む分散液を300μL、腫瘍に見立てたクリップの周囲に2箇所局注した。局注後、24時間経過させ、麻酔から覚醒した後のブタに対して、腹腔鏡により外側から蛍光観察を行なった。この結果を図16に示す。生体組織内においても十分蛍光を観察することができた。
【0078】
またここで、注射量についても確認した。本実施例に係るクラスターの濃度の場合、100μL以上あれば、位置を確認することができ、好ましくは200μL以上、より好ましくは300μL以上であると考えられる。図17乃至図20に、局注量を変えた場合における蛍光像を示しておく。図17は50μLの場合を、図18は100μLの場合を、図19は200μLの場合を、図20は300μLの場合をそれぞれ示す。
【0079】
次に、ブタの胃を取り出し、上記と同様の量(300μL)で同様に4箇所局注した後、32時間経過した後、LEDによる蛍光観察を行なった。この結果を図21に示す。なお図中右側は、本実施例に係るクラスターを含む分散液を局注した場合の蛍光画像であり、図中左側は、ICG水溶液を同様に4箇所局注した場合の蛍光画像である。この結果、本実施例の場合は、32時間経過しても4箇所の局注の位置を確認することができる一方で、ICG水溶液の場合は胃全体に広がり、局注位置を確認することは困難であった。
【0080】
また、この場合において胃のCT撮影を行い、3次元画像を作成した。図22に、CT撮影による3次元を示しておく。この結果、上記蛍光観察を行なったと同じ位置に、造影部位があることを確認することができた。
【0081】
以上、本実施例により、蛍光だけでなく、CT撮像を行なうことが可能であることが確認でき、臓器外側からでも位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能であって、かつ、マーキングした位置の臓器全体の中での位置の把握が容易となる医療用組織マーカー及びその製造方法を提供できることを確認した。
【0082】
なお、本実施例ではICGの濃度を3.2×10−2mMの例を示しているが、ICGの濃度を適宜調整することは当然に可能である。図23(a)は、ベシクルに配合させたICG濃度を変化させた場合(卵黄レシチン30mM)におけるその蛍光強度の変化を、図23(b)は、ベシクルに配合させた卵黄レシチンの濃度を変化させた場合(ICG水溶液の濃度3.2×10−2mM)における蛍光強度の変化をそれぞれ示しておく。この結果、ICG濃度は3.2×10−1mM以上1.6×10−1mMの範囲であることが好ましいことが確認でき、卵黄レシチンの濃度としては、5mM以上40mM以下であることが好ましいことが確認できた。
【0083】
(実施例2)
本実施例では、第一の親水性溶媒にだけLPGをいれた以外は上記実施例1と同様の材料、方法を用いて医療用組織マーカーを作製した。以下異なる点を中心に説明する。
【0084】
まず、室温下において、ガラス管に、50mM、pH7.8となるようTRIS緩衝液を1mL準備し、そこにICG3.2×10−2mM、LPD20mM、卵黄レシチン30mMとなるよう加え、攪拌し、ベシクル及びエマルションを形成した。
【0085】
次に、疎水性溶媒であるスクアレン15mLに、乳化剤であるポリグリセリルポリリシノレート(PGPR)を15 w/w%溶解させ、そこへ上記作成したベシクル及びエマルションを含む溶液1mLを加え、PGPRによるエマルション(PGPRエマルション)を含む懸濁液を作成した。なお本実施例では、疎水性溶媒にはLPGを加えていない。
【0086】
そして、更に、第二の親水性溶液として、50mM、pH7.7のTRIS緩衝溶液5mLを準備し、増粘剤としてグルコースを用い、この第二の親水性溶液に、上記PGPRエマルションを含む懸濁液10mLを上部から加え、油相(スクアレン相)と水相(TRIS緩衝溶液相)とを接触させた状態、室温下で、3500rpmを30分間回転させ、PGPRクラスターを形成させた。
【0087】
次に、作成したこのクラスターに対し、分散液の状態でCT撮影を行いX線像影を行なったこの結果を図24に示しておく。この結果、本クラスターにおいても、X線吸収度(CT値)は、胃壁のそれよりも十分に大きな値であることが確認でき、十分に効果を奏することが確認できた。
【0088】
(実施例3)
本実施例では、ICGの誘導体である下記式(5)で示されるICG−8を用いた医療用組織マーカーを以下の手順で作製した。まず、室温下において、ガラス管に、50mM、pH7.8となるようTRIS緩衝液を1mL準備し、そこにICG−8 3.2×10−2mM、LPD40mg/mL、卵黄レシチン30mMとなるよう加え、攪拌し、ベシクル及びエマルションを形成した。
【化5】
【0089】
次に、疎水性溶媒であるスクアレン15mLに、乳化剤であるポリグリセリルポリリシノレート(PGPR)を15w/w%とLPDを160mg/mL溶解させ、そこへ上記作成したベシクル及びエマルションを含む溶液1mLを加え、PGPRによるエマルション(PGPRエマルション)を含む懸濁液を作成した。
【0090】
そして、更に、第二の親水性溶液として、50mM、pH7.7のTRIS緩衝溶液5mLを準備し、増粘剤としてグルコースを用い、この第二の親水性溶液に、上記PGPRエマルションとLPDを含む懸濁液10mLを上部から加え、油相(スクアレン相)と水相(TRIS緩衝溶液相)とを接触させた状態、室温下で、3500rpmで30分間回転させ、PGPRクラスターを形成させた。
【0091】
次に、作成したこのクラスターに対し、消化管内視鏡を用いて、全身麻酔下の家畜ブタの胃粘膜下層に、半径1cmとなる円周上の4カ所を設定して本医療用マーカーを各300μLずつ局注(A)した結果を図25に示しておく。投与直後に撮影したX線CTの3次元再構成画像では、局注点4箇所を明瞭に識別可能であった(B)。投与18時間後の蛍光腹腔鏡でも、同様に4カ所の局注点が認識可能であった(C)。参照実験として投与したICG水溶液では、広く滲みが見られ、局注点を個別に認識することは不可能であった(D)。
【0092】
以上、本実施例により、蛍光だけでなく、CT撮像を行なうことが可能であることが確認でき、臓器内側に投与したものでも臓器外側から位置の認識が可能であり、長時間局所的に留まることが可能であって、かつ、マーキングした位置の臓器全体の中での位置の把握が容易となる医療用組織マーカー及びその製造方法を提供できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、医療用組織マーカー及びその製造方法として産業上の利用可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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