(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ラクターゼは、ラクトースをグルコース及びガラクトースに分解する酵素である。牛乳等の乳原料を使用した乳製品中にはラクトースが存在する。多くのヒトの小腸にはラクターゼが存在するため、乳製品中のラクトースは小腸でグルコースとガラクトースに分解される。しかし、ラクターゼが十分に作用しない一部のヒトにおいては、ラクトースが十分に分解されず、下痢や消化不良の症状が生じる。このような症状を防ぐために、ラクターゼはラクトースを予め分解した乳製品を製造するために広く使用されている。
【0003】
現在の技術水準において、化学的にラクターゼを合成することは極めて困難であるため、乳製品の製造に使用されるラクターゼは、酵母やカビ、細菌等の微生物を用いて生産される。しかしながら、当該微生物はラクターゼ以外の物質も生産するため、ラクターゼ溶液にはラクターゼ以外の物質も含むことが通常である。
【0004】
ここで、酵素は一般に、熱やpH変化などに対する安定性が低いうえ、共存する物質の影響を受けやすいという欠点がある。特に、酵素を含有する形態が水を含む系であったり、水溶液である場合、保存中にも活性が徐々に低下する問題点がある。酵素の失活は、一般には熱運動による構造変化に基づく変性失活が考えられる。またラクターゼ以外の物質として、タンパク質分解酵素が含まれる場合、更に酵素相互の分解(自己消化)による失活も起こる。これらの問題解決のため、種々の安定化剤を添加したり、冷蔵保存するなどの対策が取られている。
【0005】
たとえば、防腐剤の作用による失活を低減するために、グリセロールキナーゼ溶液に糖類を入れる技術が存在する(特許文献1)。また、プロテアーゼ溶液の安定化のために多糖類を添加することが提案されている(特許文献2)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ラクターゼ溶液の保存安定性を図る手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特許文献1及び2に係る技術に基づき、ラクターゼ溶液への糖類の添加を試みた。しかし、単に糖類を添加することによっては、ラクターゼ溶液の十分な保存安定性を図ることが出来ない旨の知見を得た。本発明者らは、当該糖類の量を特定量に限定し、且つ、還元糖量を所定値以下とすることで、ラクターゼ溶液の保存安定性を図ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
したがって、本発明によれば、
[1] ラクターゼ溶液であって、
前記ラクターゼ溶液の全質量を基準として、糖類を0.1g/kg〜100g/kg含有し、
前記ラクターゼ溶液の還元糖量が2.0mg/g以下である
ことを特徴とするラクターゼ溶液;
[2] 50℃で7日間放置後の残存活性が60%以上である、[1]に記載のラクターゼ溶液;
[3] 前記糖類の重量平均分子量が500〜2,000,000である、[1]又は[2]に記載のラクターゼ溶液;
[4] ラクターゼの活性が、10〜100,000NLU/gである、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のラクターゼ溶液;
[5] ラクターゼ溶液が安定剤を含有する、[1]〜[4]のいずれか1項に記載のラクターゼ溶液;
[6] [1]〜[5]のいずれか1項記載のラクターゼ溶液を添加することにより得られた乳;
[7] [1]〜[5]のいずれか1項記載のラクターゼ溶液又は請求項6記載の乳を少なくとも一原料として得られた乳製品
が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ラクターゼの酵素としての保存安定性が改善される。それにより、ラクターゼの製造と乳への添加との間にタイムラグがあるような場合であっても、乳への添加時に、高いラクターゼ活性を維持することができる。微生物を用いてラクターゼを生産する場合、上記のようにラクターゼを含む溶液にはラクターゼ以外の物質も含むことが通常である。当該溶液からラクターゼ以外の物質(例えば、互いに性質の異なるタンパク質やペプチド、種々の低分子量物質)を除去するには様々な精製工程が必要となる。本発明によれば、上記溶液に含まれる還元糖量を指標とすることで、上記精製工程の省略あるいは短時間化を図ることができるようになるため、ラクターゼの精製工程の効率化に寄与することができる。本発明は、保存安定性に優れ、且つ経済性に優れたラクターゼ溶液を提供することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るラクターゼ溶液は、ラクターゼとともに、糖類を、還元性を示す糖末端のラクターゼ活性への影響を最小限にする程度に含み、安定剤等の添加剤を任意で含有する。以下、(1)ラクターゼ溶液の構成成分、(2)ラクターゼ溶液の組成、(3)ラクターゼ溶液の性質(特に還元糖量)、(4)ラクターゼ溶液の製造方法、(5)ラクターゼ溶液の使用方法・用途、の順で説明する。
【0013】
≪ラクターゼ溶液の構成成分≫
<ラクターゼ>
(原料生物の種類)
ラクターゼは、微生物を含む、非常に広範囲の生物から単離されている。ラクターゼを産生する酵母やカビ、細菌等の微生物の種類は特に制限されない。ラクターゼを産生する微生物としては、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、アスペルギルス属(Aspergillus)、バチルス属(Bacillus)、ペニシリウム属(Penicillium)に属する微生物が挙げられる。このうちクルイベロマイセス属に属する微生物がより好ましい。クルイベロマイセス属に属する微生物のうち、クルイベロマイセス・フラジリス(K. fragillis)、クルイベロマイセス・ラクティス(K. lactis)、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(K.marxianus)が好ましく、クルイベロマイセス・ラクティスがより好ましい。アスペルギルス(Aspergillus)属の微生物は、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)又はアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)が例示され、ペニシリウム(Penicillium)属の微生物はペニシリウム・マルチカラー(Penicillium multicolor)が例示される。
【0014】
(ラクターゼの至適pH)
本発明において使用するラクターゼは、中性ラクターゼ又は酸性ラクターゼである。中性ラクターゼと酸性ラクターゼは混合して使用してもよい。中性ラクターゼは、活性の至適pHが中性領域であり、且つ、酸性領域で失活する性質を有するものであって、活性状態において乳糖を分解できるものが好ましい。中性ラクターゼ活性の至適pHは6.0〜7.5であり、失活pH4.0〜6.0であるのがより好ましい。酸性ラクターゼは、活性の至適pHが酸性領域であって、活性状態において乳糖を分解できるものであることが好ましい。酸性ラクターゼ活性の至適pHは3.0〜5.9である。
【0015】
<糖類>
糖類には、単糖類、オリゴ糖類及び多糖類の全てが含まれる。糖類を構成する糖の種類は1つであってもよいし、2つ以上であっても良い。糖類は、直鎖構造、側鎖構造及び環構造を有することができる。1つの糖類が、これら複数の構造を有していてもよい。糖類を構成する糖の結合方式は限定されない。
【0016】
(還元糖)
糖類が還元糖を多く含む場合、ラクターゼ溶液の保存安定性を大きく低下させる。ここで還元糖とは、ある1分子の糖を構成する一末端の官能基が還元性を有するものをいう。全ての単糖類は還元糖であり、一部のオリゴ糖類及び一部の多糖類も還元糖に含まれる。例えば、糖類が直鎖多糖類である場合、その糖の末端は、0、1又は2つの還元性を示す官能基を有する。糖の末端が、1又は2つの還元性を示す官能基である糖類は還元糖である。糖類が側鎖構造を有する場合、その構造上、還元性を示す官能基は直鎖多糖類より増えやすい。上記の還元糖の定義から、ラクターゼ溶液が含む糖類として重合度が大きい多糖類を使用することが好ましい。
【0017】
糖類に含まれる還元糖量は、後述するDNS法によって測定した値を意味する。ラクターゼ溶液に含まれる還元糖量は2.0mg/g以下であることが必要である。好ましくは0.5mg/g以下、より好ましくは0.1mg/g%以下である。ラクターゼ溶液に含まれる還元糖量が増えるにつれて、ラクターゼ溶液の保存安定性が低下する傾向を示す。
【0018】
<多糖類>
本発明において「多糖類」とは、単糖が7個以上結合した糖質をいう。例えば、澱粉、セルロース、デキストリン、シクロデキストリン、プルラン、デキストラン、アラビノキシラン、キチン、キトサン、ペクチン、イヌリン、ガラクタン、マンナン(ガラクトマンナン、グルコマンナン等)、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、等が挙げられるが、飲食品として利用可能な糖質であれば特段制限は無い。これらは、単一又は二種以上を混合しているものであってもよい。
【0019】
多糖類には不溶性、難溶性、可溶性のものがある。不溶性、難溶性の多糖類は、ラクターゼ溶液について膜等の担体を用いて濾過あるいは除菌等をする場合、目詰まりの問題を生じやすい。多糖類としては可溶性のものを使用することが好ましい。可溶性の多糖類とは、25℃における水100gに対する溶解度が1.5g以上のものをいう。具体的には、水に1.5質量%の多糖類を添加し穏やかに24時間撹拌後、その溶液の吸光度(OD600nm)が添加前と比べて0.01以上上昇しない多糖類のことである。
【0020】
(ポリデキストロース)
本発明に好適に用いられるポリデキストロースは、グルコースを主原料としてソルビトールとクエン酸の存在下で、縮重合することにより製造され、粉末で水溶性の難消化性多糖類であり、食品素材として広く使用されているものである。例えば、市販のポリデキストロースやポリデキストロースの改良品である「ライテス」(商品名、デュポン社製)等が挙げられる。
【0021】
(プルラン)
本発明に好適に用いることのできるプルランは、澱粉を原料とし、黒酵母の一種であるAureobasidium pullulansを培養して得られた、マルトトリオースが規則正しくα−1,6結合した天然多糖類で、無味無臭の白色粉末である。
【0022】
これらのうち、最も好適な多糖類は、プルラン、ポリデキストロースであり、ポリデキストロースの中でも「ライテス」、特に「ライテスウルトラ」が、その還元糖量の少なさから好ましい。
【0023】
<添加物>
(安定化剤)
ラクターゼ溶液には、安定化剤を含有させることができる。安定化剤を含有させることによって、ラクターゼ溶液のラクターゼ活性を長期にわたって維持することができる。
【0024】
安定化剤として具体的には、ソルビトール、グリセロール、グリセロールトリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、トリエタノールアミン、グリコール、ジグリコール、トリエチレングリコール、グリコールであって分子量が1000未満であるものを挙げることができる。安定化剤は単独で又は複数を混合してラクターゼ溶液に含有させることができる。
【0025】
(任意成分)
本発明のラクターゼ溶液は、必要に応じ、その他の各種成分を含有していてもよい。具体例としては、ラクターゼの安定化に寄与する金属塩類、アスコルビン酸、又は緩衝作用を有する無機塩類等を挙げることができる。
【0026】
≪ラクターゼ溶液の組成≫
<糖類>
糖類の含有量は、ラクターゼ溶液の全質量を基準として、0.1g/kg〜100g/kg含有する。好ましくは0.5g/kg〜50g/kg、より好ましくは1.0g/kg〜10g/kgである。糖類の含有量を下限値未満にする場合は精製工程の負荷が大きくなり、経済性に優れたラクターゼ溶液を提供できない。糖類の含有量が上限値超になると、ラクターゼ溶液の保存安定性が低下しやすくなる。糖類の種類にもよるが、ラクターゼ溶液の粘性が高くなることで取扱性に問題が生じやすくなるため、経済性に優れたラクターゼ溶液を提供できない場合が生じる。
【0027】
<任意成分>
ラクターゼ溶液に含有させるその他の任意成分の量は、適宜設定すればよい。
【0028】
<添加物>
(安定化剤)
ラクターゼ溶液に含有させる安定化剤の量は、10質量%〜90質量%であることが好ましく、20質量%〜80質量%であることがより好ましく、30質量%〜70質量%であることが更に好ましく、40質量%〜60質量%であることが特に好ましい。安定化剤の量が下限値以上であると、ラクターゼ溶液のラクターゼ活性を長期にわたって維持することが容易になる。安定化剤の量が上限値超であると、ラクターゼ溶液の粘度が増すことから、濾過の時間が長くなり、作業性が低下する。
【0029】
≪ラクターゼ溶液の性質≫
<ラクターゼ活性>
本発明のラクターゼ溶液は、10〜100,000NLU/gのラクターゼ活性を有することが望ましい。「NLU」はNeutral Lactase Unitである。活性の測定方法は、例えば、以下のとおりである。基質o−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド(ONPG)を、o−ニトロフェニル及びガラクトースにする加水分解によって測定される。反応は、炭酸ナトリウムの添加によって終了する。形成されたo−ニトロフェニルは、アルカリ媒体中で黄色になり、吸光度の変化が酵素活性(NLU/gで表される)を測定するのに使用される。この手順は、米国食品化学物質規格集(FCC; Food Chemical Codex)第4版、1996年7月1日、第801〜802頁/ラクターゼ(中性)(β-ガラクトシダーゼ)活性で、公表されている。
【0030】
ラクターゼ溶液のラクターゼ活性は、10〜250,000U/mLが好ましく、100〜120,000U/mLがより好ましく、2,500〜60,000U/mLがさらに好ましい。ラクターゼ活性は溶媒の添加や、ラクターゼの濃縮等により調整することができる。
【0031】
ラクターゼ溶液には様々な糖類が含まれ、そのうちの1つが還元糖である。還元糖としては、例えば、培地由来の還元糖、ラクターゼ産生微生物が代謝する糖類に由来する還元糖、ラクターゼ産生微生物が代謝するタンパク質に修飾された還元糖等が含まれる。還元糖量が多くなるほど、ラクターゼ活性を長期にわたって維持することが難しくなることから、還元糖はラクターゼタンパクを分解し、安定化に悪影響を及ぼすものと推測される。
【0032】
<還元糖量測定方法>
糖類に含まれる還元糖量は、以下の方法により測定することができる。測定対象の糖類1.5gを、水(ミリQ水)100mlが入ったフラスコに添加後、マグネチックスターラー(タイテック株式会社)で、200rpmにて撹拌し、完全に溶解させる。各溶液の還元糖量をDNS法(ジニトロサリチル酸法)で定量する。
【0033】
DNS法は、以下の手順で行う。(1)DNS溶液(0.7%−3,5−ジニトロサリチル酸、1.21%−水酸化ナトリウム、0.02%−ロッシェル塩、0.57%−フェノール、0.55%−炭酸水素ナトリウム)0.6mLを試験管に分注し、(2)グルコース標準液(0.1%、0.2%)及び上記で調製した糖類の溶液0.2mlを(1)の試験管に加える。(3)沸騰水浴中で5分間加熱発色させ、(4)水冷(15℃)後、4.2mlのミリQ水を添加し、分光光度計で、波長550nmの吸光度を測定する。グルコースを標準液から糖類溶液の還元糖量をグルコースとして定量する。
【0034】
<ラクターゼ活性の安定性>
ラクターゼ活性を長期間維持しているか否かは、後述するラクターゼ溶液を加熱環境下で一定期間放置すること(加速安定性試験)で判断することができる。 本発明においては、ラクターゼ溶液を50℃の加熱環境下で1週間から2週間放置した後、当該ラクターゼ溶液のラクターゼ活性をFCC法で測定する。
【0035】
<加速安定性試験>
(サンプルの調製方法)
ラクターゼ活性を調整したラクターゼ溶液(糖類及び還元糖量はほぼ0)に、終濃度で1.5質量%となるように測定対象となる糖類を添加し、室温で撹拌し、完全に溶解させる。続いて、複数のろ過工程を経てサンプルを得る。なお、本試験に使用する糖類は、いずれも可溶性の多糖類を使用した。
【0036】
(加速安定性測定)
上記で調製したサンプルを15ml容のチューブに10mlずつ分注し、50℃で保存する。0日間(保存前)、7日間、14日間保存時のラクターゼ活性を測定し、保存前の活性を100としたときの残存するラクターゼ活性を測定する。本発明のラクターゼは、7日間の残存活性が60%以上であり、好ましくは、86%以上である。
【0037】
≪ラクターゼ溶液の製造方法≫
本発明のラクターゼの具体的製造方法は、例えば、(1)酵母の培養を行った後の、細胞壁の破壊を伴うラクターゼの抽出工程と、(2)当該抽出したラクターゼから、培養物由来の夾雑物等を除去するための精製工程と、を含む。本発明のラクターゼ溶液の製造方法は、(3)上記のラクターゼ(直前に調製したものでも市販品でもよい)に、必要に応じて糖類(+必要に応じて他の添加剤)を添加し、糖類及び還元糖量を所定の範囲に調整する工程と、(4)滅菌のためにろ過する工程と、を含む。
【0038】
<微生物の培養と抽出>
ラクターゼを産生する微生物の培養は、例えば乳糖や窒素源を含有する培地中で、pH3〜10の条件下、20〜40℃で24〜180時間行うのが好ましい。得られた培養物からラクターゼ溶液を採取するには、例えば回収した細胞から抽出してもよいし、細胞外に排出されるような変異細胞等を用いてもよく、液体培地中で培養した場合においては培養液そのものを使用してもよい。
【0039】
<精製工程>
微生物培養物からのラクターゼの精製方法としては、例えば、硫安分画やアフィニティクロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー等の方法が挙げられる。微生物培養物には種々の物質が含まれているところ、ラクターゼの活性を高めるには、これらの方法を組み合わせるのが通常である。尚、ラクターゼ溶液は凍結乾燥、噴霧乾燥により粉末化することもできる。
【0040】
≪ラクターゼ溶液の使用方法・用途≫
本発明のラクターゼ溶液は、各種乳製品に広く使用できる。乳製品としては、牛乳等の乳飲料、発酵乳、アイスクリーム、ミルクジャム等が挙げられる。
【0041】
「乳飲料」は、ヨーグルトなどの発酵乳の原料となるものである。乳飲料には、殺菌前のものも、殺菌後のものも含まれる。ラクターゼ含有組成物は法令に従い、殺菌前又は殺菌後に添加することができる。乳飲料の具体的な原料として、水、生乳、殺菌処理した乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルク、バター、クリーム、ホエータンパク質濃縮物(WPC)、ホエータンパク質単離物(WPI)、α(アルファ)−La、β(ベータ)−Lgなどがあげられる。あらかじめ温めたゼラチンなどを適宜添加しても良い。原料乳は、公知であり、公知の方法に従って調製すれば良い。本発明における乳飲料の原料としては、牛乳を含むことが好ましい。乳飲料の原料は、牛乳100%からなるものを使用してもよい。
【0042】
「発酵乳」とは,ヨーグルト,乳等省令で定義される「発酵乳」、「乳製品乳酸菌飲料」、及び「乳酸菌飲料」の何れであっても良い。一般に、プレーンヨーグルトは、容器に原料を充填させ、その後に発酵させること(後発酵)により製造される。一方、ソフトヨーグルトやドリンクヨーグルトは、発酵させた発酵乳を微粒化処理や均質化処理した後に、容器に充填させること(前発酵)により製造される。本発明のラクターゼ溶液は、後発酵及び前発酵のいずれにも使用することができる。発酵乳の原料としては、牛乳を含むことが好ましい。発酵乳の原料は、牛乳100%からなるものを使用してもよい。
【0043】
さらに、本発明のラクターゼ溶液の具体的な利用形態として、ロングライフミルクの製造において用いられる。ロングライフミルクは、長期保存牛乳のことで、製造工程は滅菌工程と連続式無菌包装工程からなっており、一般的には、135〜150℃数秒間の超高温短時間滅菌法で処理され、あらかじめ過酸化水素で滅菌した紙容器を無菌包装できる工程で充填される。
【0044】
<ラクターゼの用途とそのpHプロファイル>
また、ラクターゼの用途を考える場合には、中性ラクターゼであるか、又は酸性ラクターゼであるかにより大きく2つに大別される。これは、用途におけるpHプロファイルに依るものである。中性pHの用途では、通常、中性ラクターゼが好ましく、酸性ラクターゼは、酸性範囲の用途により適しているといえる。
【実施例】
【0045】
本発明を実施例及び比較例により、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
<参考例1:還元糖を含まないラクターゼ溶液の調製>
還元糖の影響を調べるために、下記のようにして還元糖を含まないラクターゼ溶液を調製した。コーン・スティープ・リカー7%、ラクトース2%を含有する液体培地を加圧殺菌後(殺菌後のpH5.5)、Kluyveromyces lactisNo.013−2(ATCC 8585株)を植菌し、30℃にて24時間、12000L/minの通気で培養した。培養終了後冷却しながら4時間放置後、タンク上部から上澄液を除き、タンク底部に凝集沈降した菌体1500kgを得た。次いでここに得られた菌体のうち1500gを水道水で洗浄後、トルエン80mlを加え混和後、1500mlの0.05Mリン酸緩衝液(pH7.0)を加え撹拌均一化し、密栓を施して30℃、15時間放置し自己消化せしめた。
【0047】
この消化液を遠心分離して得た上清2500mlに等容の冷アセトンを加え一夜放置した。生じた沈殿を遠心分離にて集め600mlの水道水に溶かし、酵素溶液を得た。この濃縮前酵素溶液600mlを4℃に冷却しながら、硫酸アンモニウム粉末を60分間かけて少しずつ添加し、50%飽和水溶液を得た。当該水溶液を80時間4℃で放置(静置)しラクターゼを沈殿させた後、濾過によって固液分離し、固体状のラクターゼを回収した。当該ラクターゼを600mlの水道水に再溶解させた後、限外濃縮を行った。脱塩されたラクターゼに脱塩水を添加し、pHを7.5に中和した後、硫安を最終濃度1Mに添加したものを脱塩後サンプルとした。
【0048】
20mlの脱塩後サンプルを、直径16mm、長さ10cm、直線流速150cm/hで、20mlのHiPrepフェニル16/10カラムに適用した。カラムは、pH7.5の100mMトリス中の1M硫安で平衡化した。カラムを充填した後、平衡バッファーで流速150cm/hで、ベースラインが届くまで洗浄した。ラクダーゼの溶出は、150cm/hで段階的勾配下(100mMトリス、pH7.5)で行った。ラクターゼの溶出後、ラクターゼ液を脱塩し濃縮した。濃縮後、終濃度が50%となるようにグリセリンを添加し、マグネチックスターラー(タイテック株式会社)で200rpm、室温で18時間撹拌し、参考例1のラクターゼ溶液(53,000NLU/g)を得た。参考例1のラクターゼ溶液に含まれる糖類及び還元糖量は、いずれも0%であった。
【0049】
<還元糖量測定>
上述した還元糖量測定方法に従って、本発明に好適なライテス3種類、下記表2および表3に記載したそれぞれの糖類について、還元糖量を測定した。結果を表1〜表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
<加速安定性試験>
(サンプルの調製)
(1)参考例1のラクターゼ溶液に下記表2及び3の糖類を別々に添加し、サンプルとした。
【0052】
(還元糖量と残存活性)
同様に下記表2記載の糖類について、上述する方法により測定した還元糖量と加速安定性測定の条件を50℃で7日間経過後とした時の残存活性の関係について、結果を表2及び
図1に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
(加速安定性測定)
下記表3の糖類を添加した各ラクターゼ溶液の上記サンプルについて、上述した加速安定性測定方法により、50℃において、0日間、7日間及び14日間保存時、並びに40℃において、0日間、31日間及び61日間保存時のラクターゼ活性を測定し、残存活性を測定した。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
(結果)
ラクターゼ中の還元糖量が2.0mg/g以下であれば、50℃において7日間で少なくとも60%以上の残存活性を有することがわかった。
ラクターゼ溶液に含まれる還元糖量を指標とすることで、ラクターゼ溶液の精製工程の省略あるいは短時間化を図ることができるようになるため、ラクターゼの精製工程の効率化に寄与することができる。
【解決手段】 ラクターゼ溶液であって、前記ラクターゼ溶液の全質量を基準として、糖類を0.1g/kg〜100g/kg含有し、前記ラクターゼ溶液の還元糖量が2.0mg/g以下であることを特徴とするラクターゼ溶液。