特許第5959158号(P5959158)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5959158熱アシスト磁気記録ヘッドおよび熱アシスト磁気記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959158
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】熱アシスト磁気記録ヘッドおよび熱アシスト磁気記録方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/31 20060101AFI20160719BHJP
   G11B 5/02 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   G11B5/31 Z
   G11B5/02 T
   G11B5/31 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-106276(P2011-106276)
(22)【出願日】2011年5月11日
(65)【公開番号】特開2011-238345(P2011-238345A)
(43)【公開日】2011年11月24日
【審査請求日】2014年5月1日
(31)【優先権主張番号】12/800,194
(32)【優先日】2010年5月11日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500475649
【氏名又は名称】ヘッドウェイテクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100109656
【弁理士】
【氏名又は名称】三反崎 泰司
(74)【復代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 研一
(72)【発明者】
【氏名】ジョー スミス
(72)【発明者】
【氏名】エルハルト シュレック
【審査官】 斎藤 眞
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0170319(US,A1)
【文献】 特開2002−133610(JP,A)
【文献】 特開2003−036503(JP,A)
【文献】 特開2008−269757(JP,A)
【文献】 特開2003−332651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/00−5/024
G11B 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録メディアの第1の表面に対して垂直に延伸するメインポールと、前記メインポールと磁気的に結合されたスティッチトポールとを含む複合型磁極を設けることと、
前記スティッチトポールを、前記メインポールから延伸する上面および下面と、上部エッジおよび下部エッジにおいて前記上面および下面とそれぞれ接続されたリーディング面とを有するように成形することと、
前記メインポールに対して平行であり、前記スティッチトポールからの最短距離が10nm以上60nm以下となるように配置され、前記第1の表面においてホットスポットを形成するプラズモンジェネレータを設けること
とを含み、
記上面を前記第1の表面と平行とし、
前記下面を、前記リーディング面および第1の表面の双方から遠ざかるように、かつ、前記第1の表面に対して30°以上70°以下の範囲の傾斜角をなすように傾斜させ、
前記複合型磁極が形成する記録磁界のピークと前記ホットスポットとを重ね合わせるようにし、
前記リーディング面を、前記第1の表面に対して45°以上80°以下の角度をなすようにし、
前記下面を、前記メインポールから延伸させて前記上面よりも長い寸法とする
熱アシスト磁気記録方法。
【請求項2】
前記下部エッジを、前記メインポールから100nm以上1000nm以下の距離だけ離れた位置とする
請求項1記載の熱アシスト磁気記録方法。
【請求項3】
磁気記録メディアの第1の表面に対して垂直に延伸するメインポールと、前記メインポールと磁気的に結合されたスティッチトポールとを含む複合型磁極と、
前記第1の表面においてホットスポットを生成するプラズモンジェネレータと
を備え、
前記スティッチトポールは、前記メインポールから延伸する上面および下面と、前記上面および下面と上部エッジおよび下部エッジにおいてそれぞれ接続されたリーディング面とを有し、
前記プラズモンジェネレータと前記リーディング面との第1の距離は10以上60nm以下であり、
記上面は前記第1の表面に対して平行であり、
前記下面は前記リーディング面および第1の表面の双方から遠ざかるように、かつ、前記第1の表面に対して30°以上70°以下の範囲の傾斜角をなすように傾斜しており、
前記複合型磁極が形成する記録磁界のピークと前記ホットスポットとを重ね合わせるようにし、
前記リーディング面は、前記第1の表面に対して45°以上80°以下の角度をなし、
前記下面は、前記メインポールから延伸し、前記上面よりも長い寸法を有する
熱アシスト磁気記録ヘッド。
【請求項4】
前記下部エッジは、前記メインポールから100nm以上1000nm以下の距離に位置する
請求項3記載の熱アシスト磁気記録ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録一般の技術分野に係り、特に、主磁極およびプラズモンジェネレータの相互のアライメントの改善、および動作中における磁気記録媒体の局所的な保磁力の低減を通じて高記録密度を達成することに関する。
【背景技術】
【0002】
垂直磁気記録(PMR)ヘッドは、ハードディスクドライブ(HDD)において1インチ四方あたり100ギガビットを超えて進行する記録密度の上昇への拡張を可能とする。しかしながら、トラック幅が縮小すると、ヘッドと磁気記録媒体との間隔の減少が適切でなければ、微小な磁極領域とポールチップの飽和とに起因して記録磁界は減少する。この状況では、1インチ四方あたり1テラビットの記録密度の達成が困難である。さらに、そのような高記録密度を達成するには、磁気記録媒体における微小な粒径が要求される。また、従来の解決手法では、熱安定性の面で問題がある。さらなる面記録密度の向上に対する2つの予測された障害は、適切なヘッド磁界の欠如、および、磁気記録媒体における超常磁性の限界(super-paramagnetic limit)に関するものである。
【0003】
幸運なことに、そのような限界を超えて面記録密度の向上を期待させる新技術のオプションが現在検討されている。熱アシスト磁気記録(TAMR:Thermally assisted magnetic recording)は、最も有望な技術である。ビットパターン磁気記録(BPMR:Bit patterned magnetic recording)は、とても高価であり、製造時のスループットも極めて悪い。マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR:Microwave assisted magnetic recording)は、候補の1つであるが、現在の記録密度を向上させるには効果が小さすぎる。そのうえ、高い異方性メディアとの互換性がない。
【0004】
TAMR技術に関しては、以下の先行技術文献が挙げられる。傾斜面を有する様々な形状の磁極について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7532433号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0207525号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0116145号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0233578号明細書
【特許文献5】米国特許第7038881号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は、従来のTAMRヘッド構造を表す。このTAMRヘッドは、光導波路112と、プラズモンジェネレータ113と、コイル114と、再生ヘッド部115と、ヨーク116とを備える。レーザダイオードからの光111は、光導波路12の入り口(inlet)を照射し、光導波路112の内部に光を通し、プラズモンジェネレータ113と結合させるものである。こうすることで、プラズモンモードの光が、プラズモンジェネレータ113の表面もしくはエッジにおいて放出されるようになっている。最終的に、ニアフィールド(近接場)スポットが、ABSにおけるプラズモンジェネレータ113の尖端(tip)に現れる。この小さな近接場スポットは、磁気記録媒体における極めて局所的な温度上昇を誘発する。
【0007】
磁気記録媒体の保磁力(磁界)は、温度上昇と共に減少するので、TAMRでは、室温での記録を行うには大きすぎる保磁力を有するものであっても、そのよな磁気記録媒体への磁気記録が可能となる。しかしながら、TAMRを成功させるためには、加熱スポットと記録磁界との正確な位置合わせが重要である。
【0008】
図2A〜2Cは、TAMRに使用される3つの従来のプラズモンジェネレータおよびメインポールの構造をそれぞれ表す概略図である。プラズモンジェネレータ113は、メインポール121のリーディングエッジからリーディング側へ10〜60mm離れた位置に設けられている。この構造では、加熱スポットの中心はメインポールの直下ではない。しかしながら、TAMRヘッドの記録磁界は、メインポールの内部へ向かう負の傾斜を示している。
【0009】
図3は、メインポール121と関連する、TAMRヘッドの記録磁界のダウントラックプロファイルを表している。図3では、横軸がダウントラック方向の位置(μm)を表し、縦軸が記録磁界Heffの強度(Oe)を表している。記録磁界Heffは、下記の式(1)によって表される。
Heff=(H(2/3)in+H(2/3) y3/2 ……(1)
ここで、Hinは面内磁界であり、Hyはエアベアリング面から17.5nm離れた位置での記録磁界Heffの垂直成分である。また、図3には、光スポット131および加熱スポット132の位置を併せて表している。
【0010】
加熱スポット132の直径は100nm未満であるべきであり、特に50nm未満であることが望ましい。加熱スポット132の中心が主磁極からわずか40nm離れた位置にあるときでさえ、加熱スポット132のトレーリングエッジは外側に位置し、もしくはメインポール121の端縁に辛うじて重なる状態である。 結果として、従来はTAMR記録においても変換品質は非常に悪く、従来のTAMRヘッドにおける遷移曲線は良好なものではなかった。これは、磁化遷移は、基本的にヘッドの記録磁界の勾配よりも磁気メディアの異方性の勾配(温度特性に従う)によって決定されるからである。
【0011】
図4は、従来のTAMRヘッドにおける磁気記録媒体の、計算によって求められた記録パターンである。なお、線密度は2000kFCIとした。図4に示したように、磁化遷移はあまり良好ではなく、信号対雑音比(SNR)は僅か5.52dBであった。このような理由により、現状のTAMRの挙動は、熱因子によって支配される。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、磁気記録媒体に記録される記録密度を向上させることにある。また、本発明の第2の目的は、主磁極に近接する加熱スポットでの磁気記録メディアの保磁力を一時的に低下させることにある。本発明の第3の目的は、加熱スポットとメインポールとの距離を低減することにある。さらに、本発明の第4の目的は、記録磁界の最大ピークの位置を、加熱スポットと重ね合わせることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの目的は、書き込み磁極(メインポール)の成形によって達成される。メインポールを、例えば自らのリーディングエッジもしくはその近傍を基点として、磁気記録媒体の表面から離れる方向において傾斜するような下面を有するようにする。このような手法は、一体型のメインポール、もしくは複合型のスティッチトポールに適用される。このような形状の使用による正味の効果は、記録磁界のピークが、プラズモンジェネレータによって生成されるホットスポットの内部に収まるということである。具体的には以下の通りである。
【0014】
本発明の第1の熱アシスト磁気記録方法は、磁気記録メディアの第1の表面に対して垂直に延伸する単一磁極(一体型の磁極)を形成することと、そのような単一磁極を成形することにより、第1の表面に対して垂直をなすように平坦化されたリーディング面を形成することと、リーディング面と平行に、かつ、第1の距離を隔てるように、第1の表面においてホットスポットを生成するプラズモンジェネレータを配置することと、リーディングエッジからの第2の距離が50nm以下である終端縁へ向けてリーディング面から広がるエアベアリング面を有することとなるように単一磁極を成形することと、単一磁極に、終端縁から始まりエアベアリング面に対して30°以上70°以下の角度で第1の表面から遠ざかるトレーリング面を形成することとを含み、単一磁極によって形成される記録磁界のピークをホットスポットと重ね合わせるようにしたものである。
【0015】
本発明の第1の熱アシスト磁気記録方法では、第2の距離を零とするとよい。また、プラズモンジェネレータからリーディング面までの第1の距離を10以上60nm以下とするとよい。また、エアベアリング面を、第1の表面から1nm以上15nm以下の位置とするとよい。また、プラズモンジェネレータを、500以上1400nm以下の波長を有するプラズモンを射出するものとするとよい。
【0016】
本発明の第2の熱アシスト磁気記録方法は、磁気記録メディアの第1の表面に対して垂直に延伸するメインポールと、そのメインポールと磁気的に結合されたスティッチトポールとを含む複合型磁極を設けることと、スティッチトポールを、メインポールから延伸する上面および下面と、上部エッジおよび下部エッジにおいて上面および下面とそれぞれ接続されたリーディング面とを有するように成形することと、メインポールに対して平行であり、スティッチトポールからの最短距離が10nm以上60nm以下となるように配置され、第1の表面においてホットスポットを形成するプラズモンジェネレータを設けることとを含み、複合型磁極が形成する記録磁界のピークとホットスポットとを重ね合わせるようにしたものである。
【0017】
本発明の第2の熱アシスト磁気記録方法では、リーディング面を第1の表面に対して垂直とし、上面を前記第1の表面と平行とし、下面をリーディング面および第1の表面の双方から遠ざかるように、かつ、第1の表面に対して30°以上70°以下の範囲の傾斜角をなすように傾斜させるとよい。その場合、下部エッジを、メインポールから100nm以上1000nm以下の距離だけ離れた位置とするとよい。あるいは、リーディング面を、第1の表面に対して45°以上80°以下の角度をなすようにし、下面を、メインポールから延伸させて上面よりも長い距離とすると共にリーディング面および第1の表面の双方から遠ざかるように第1の面に対して30°以上70°以下の角度で傾斜させてもよい。その場合、下部エッジを、メインポールから100nm以上1000nm以下の距離だけ離れた位置とするとよい。
【0018】
本発明の第1の熱アシスト磁気記録ヘッドは、磁気記録メディアの第1の表面に対して垂直に延伸し、かつ、第1の表面に対して垂直をなすように平坦化されたリーディング面を有する単一磁極と、リーディング面に対して第1の距離を隔てて平行に設けられたプラズモンジェネレータとを備える。ここで、単一磁極はリーディング面からの第2の距離が50nm以下である端縁に至るまで延在するエアベアリング面を有する。さらに、単一磁極は、端縁からエアベアリング面に対して30°以上70°以下の角度で第1の表面から遠ざかるトレーリング面を有する。
【0019】
本発明の第1の熱アシスト磁気記録ヘッドでは、第2の距離が零であるとよい。第1の距離は、例えばプラズモンジェネレータおよびリーディング面の相互間距離であり、10nm以上60nm以下の範囲であるとよい。また、エアベアリング面は、第1の表面から1nm以上15nm以下の距離に位置するとよい。また、プラズモンジェネレータは、例えば500nm以上1400nm以下の範囲の波長を有するプラズモンを放射するものである。
【0020】
本発明の第2の熱アシスト磁気記録ヘッドは、磁気記録メディアの第1の表面に対して垂直に延伸するメインポールと、このメインポールと磁気的に結合されたスティッチトポールとを含む複合型磁極を備える。ここで、スティッチトポールは、メインポールから延伸する上面および下面と、これら上面および下面と上部エッジおよび下部エッジにおいてそれぞれ接続されたリーディング面とを有するものである。
【0021】
本発明の第2の熱アシスト磁気記録ヘッドでは、リーディング面は第1の表面に対して垂直であり、上面は第1の表面に対して平行であり、下面はリーディング面および第1の表面の双方から遠ざかるように、かつ、第1の表面に対して30°以上70°以下の範囲の傾斜角をなすように傾斜しているとよい。また、下部エッジは、メインポールから100nm以上1000nm以下の距離に位置するとよい。さらに、リーディング面は、第1の表面に対して45°以上80°以下の角度をなし、下面は、メインポールから延伸し、上面よりも長い距離を有すると共に、リーディング面および第1の表面の双方から遠ざかるように第1の面に対して30°以上70°以下の角度で傾斜しているとよい。また、下部エッジは、メインポールから100nm以上1000nm以下の距離に位置するとよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の熱アシスト磁気記録方法および熱アシスト磁気記録ヘッドによれば、磁極の一部に、エアベアリング面に対して傾斜した面を設けるようにしたので、記録磁界の最大ピークの位置を加熱スポットと重ね合わせることが可能となり、記録密度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来のTAMRヘッドを表す断面図である。
図2】従来のTAMRヘッドにおける要部を拡大して表す断面図である。
図3】従来のTAMRヘッドにおける記録磁界のダウントラックプロファイルを表す特性図である。
図4】従来のTAMRヘッドによる磁気記録媒体に対する2000KFCIでの記録パターンを表す説明図である。
図5】本発明に共通する実施態様としてのTAMRヘッドの全体構成を表す概略断面図である。
図6図5に示したTAMRヘッドの要部を表す概略断面図である。
図7】傾斜角の関数としての記録磁界の勾配を表す特性図である。
図8】傾斜角の関数としての、メインポールのリーディングエッジから放出される記録磁界のピーク位置を表す特性図である。
図9】記録磁界と距離t1との関係を表す特性図である。
図10】プラズモンが発生している際の、温度および磁気メディアの異方性磁界と、ダウントラック方向の位置との関係を表す特性図である。
図11】従来および本発明のTAMRヘッドにおけるダウントラック方向のプロファイルを比較した特性図である。
図12】本発明のTAMRヘッドにおける記録パターンを表す特性図である。
図13】本発明に適用可能なスティッチトポールの構成例を表す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の熱アシスト磁気記録ヘッドおよび熱アシスト磁気記録方法における対象、特徴および長所は、以下に述べる実施の形態の記載により理解される。
【0025】
図5は、本実施の形態のTAMRヘッドにおける概略構成を表す、エアベアリング面と直交する断面図である。図5に示したように、このTAMRヘッドは、単一構造の主磁極(メインポール)21と、光導波路12と、プラズモンジェネレータ(PG)13と、コイル14と、再生ヘッド部15と、ヨーク16とを備える。
【0026】
コイル14は、その内部を書込電流が流れることにより誘導磁界を発生させ、ヨーク16を介して主磁極21の内部に記録磁界を生成するものである。主磁極21は、磁気記録媒体100へ向けて記録磁界を放出し、磁気記録媒体100への磁気情報の書き込み(記録)を行う部分である。
【0027】
このTAMRヘッドでは、図示しないレーザダイオードからのレーザ光11は、光導波路12に進入してその内部を通過したのち、PG13と結合する。こうすることで、プラズモンモードの光(プラズモン)が、PG13の表面もしくはエッジにおいて放出されるようになっている。PG13は、例えば500nm以上1400nm以下の波長を有するプラズモンを放射するものである。最終的に、ニアフィールド(近接場)スポットが、磁気記録媒体100の記録面100Sと対向するエアベアリング面(ABS)に露出したPG13の尖端に現れる。この小さな近接場スポットは、記録面100Sにおける極めて局所的な温度上昇を誘発する。ABSは、記録面100Sから例えば1nm以上15nm以下の距離に位置する。
【0028】
図6(A),6(B)は、それぞれ、本実施の形態のTAMRヘッドに用いられる主磁極21の形状を拡大して表すものである。主磁極21は、記録面100Sに対して垂直に延伸しており、PG13と対向するリーディング面21LSを有している。リーディング面21LSは、記録面100Sに対して垂直かつ平坦な面である。リーディング面21LSとPG13との距離は、例えば10nm以上60nm以下である。主磁極21は、例えば図6(A)に示したように、リーディング面21LSからの距離t1が例えば50nm以下である端縁21EGに至るまで延在するABSを有している。主磁極21は、端縁21EGからABSに対して30°以上70°以下の傾斜角51をなすように記録面100Sから遠ざかるトレーリング面21TSを有している。また、図6(B)に示したように、主磁極21は、ABSを有さず、リーディング面21LSとトレーリング面21TSとが端縁21EGにおいて交差するような形状(距離t1=0)であることが望ましい。このように、このTAMRヘッドの重要な特徴は、主磁極21のリーディングエッジ21LEとしての端縁21EGもしくはその近傍を基点として、所定の傾斜角51をなすように傾斜した傾斜面(トレーリング面21TS)を有していることである。トレーリング面21TSは、トレーリングエッジ21TEへ近づくほど、ABSからの距離が徐々に増加するようになっている。
【0029】
図7は、距離t1=0および10nmのときの、記録磁界の勾配の傾斜角依存性を示している。図7において、横軸は傾斜角51(°)を表し、縦軸は記録磁界Heffの勾配(Oe/nm)を表す。このデータは、距離t1=0のときに傾斜角51が約55〜65°のときに最小の記録磁界勾配が得られることを示している。すなわち、傾斜するトレーリング面21TSの基点をリーディングエッジ21LEに近づけることが望ましい。
【0030】
図8は、距離t1=0および10nmのときの、記録磁界Heffのピーク位置を、傾斜角51の関数として表したものである。図8において、横軸は傾斜角51(°)を表し、縦軸は主磁極21のリーディングエッジ21LEからの、記録磁界Heffのピークまでの距離(nm)を表す。このピーク磁界は、PG13が形成する加熱スポットの中心で発生することが理想である。このデータによれば、傾斜角51が約20°〜60°の範囲において、ピーク位置が傾斜角51の上昇に伴って増加しており、傾斜角51が60°のとき、距離t1=10に比べて距離t1=0の場合に約2nmほどピーク位置がずれていることがわかる。
【0031】
図9は、傾斜角51が45°のときの距離t1と記録磁界Heffの勾配との関係を表している。距離t1が20nm以下の場合、勾配はほとんど変化せず、−175Oe/nmという非常に大きな数値を示している。ところが、距離t1が30nmに至ると、記録磁界勾配は緩やかになる。しかし、距離t1が100nm以上となっても、記録磁界勾配は従来の一般的なTAMRヘッドの50Oe/nmよりも急な勾配が維持される。
【0032】
図10は、熱アシスト磁気記録の実施中における、磁気記録メディアの温度分布(曲線81)および異方性磁界Hk(曲線82)の分布を表したものである。図10では、横軸がダウントラック方向の位置(μm)を表している。
また、左側の縦軸が温度(K)を表し、右側の縦軸が異方性磁界Hkの強度(Oe)を表している。異方性磁界Hkが零となる部分(温度が700K以上となる領域に相当する)が、主磁極21(リーディングエッジ21LE)から20nmほど離れた位置から始まっていることがわかる。この距離の位置においては、主磁極21の記録磁界勾配が、従来のTAMRヘッドよりも急峻な負の磁界勾配を示している。この相違点は、磁気記録媒体100の異方性磁界がダウントラック方向において主磁極21からさらに約30nm遠ざかる位置で再び増加し始めるまで維持される。
【0033】
図11は、本実施の形態のTAMRヘッドでの、記録磁界のピークが光スポット(熱スポット)に収まっている様子を表している。図11において、横軸はダウントラック方向の位置(μm)を表し、縦軸は記録磁界Heffの強度(Oe)を表している。また、図11において、曲線C11Aが本実施の形態のTAMRヘッドにおける特性を表し、曲線C11Bが従来のTAMRヘッドにおける特性を表している。これは従来のTAMRヘッドでは見られなかったものである。この特徴は、熱スポットと記録磁界との位置合わせを改善するものである。それにより、記録磁界勾配は主磁極のリーディングエッジ21LEにおいて負となる。さらに、傾斜は、従来のTAMRヘッドに比べてより急峻となる。
【0034】
図12は、本実施の形態のTAMRヘッドによる磁気記録パターンを計算して表したものである。条件は、主磁極の構造を除き、他は図4と同一である。図12に示したように、遷移領域は、従来のような急峻な曲線ではなく、より良好な磁化遷移の品質を示唆するものとなっている。このことは、SNRの改善に反映されている。すなわち、SNRは、従来のTAMRヘッドでは6.41dBであったのに対し、本発明のTAMRヘッドでは11.93dBとなっている。この5.52dBの改善は、より急峻な磁化遷移に関連してノイズが低減されたことによるものである。
【0035】
このように、本実施の形態のTAMRヘッドおよびそれを用いた熱アシスト磁気記録方法によれば、主磁極21の一部に、ABSに対して傾斜したトレーリング面21TSを設けるようにした。このような構造により、記録磁界の最大ピークの位置を加熱スポットと重ね合わせることが可能となり、空間分解能の向上、記録密度の向上を図ることができる。
【0036】
以上、特定の実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態において説明した態様に限定されず、本発明の趣旨から外れることがない限りにおいて、製造方法、プロセス、材料、構造などについての種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態のTAMRヘッドは、1つの部分からなる主磁極21を備えたものであるが、本発明はスティッチトポール構造に適用可能なものである。一般的に、スティッチトポール構造は製造コストが高い。しかしながら、スティッチトポール構造ではないものに比べて以下のような利点を有するものである。
【0037】
具体的には、TAMRヘッドにおいては、主磁極は、プラズモンジェネレータにおけるプラズモンの伝播を弱めることとなり、光導波路の光伝播(light propagation)を低下させてしまう。そのため、光効率を最大にするため、主磁極を、光導波路およびプラズモンジェネレータから十分に離された位置(100nm以上)に設ける必要がある。しかしながら、プラズモンジェネレータはABSにおいて主磁極の尖端に可能な限り近づけるべきである。熱アシスト磁気記録を行う際に、熱スポットと記録磁界の発生領域との位置合わせを最適化するためである。スティッチトポール構造は、記録磁界の発生位置および加熱スポットを近づけつつ、主磁極21の本体20と光導波路およびプラズモンジェネレータとの十分な分離を行うことを可能とするものなので、その点において有利である。
【0038】
図13(A),13(B)に、スティッチトポール91,92の一例を示す。 双方とも、一体型の主磁極21と同様に、PG13から離れるほどABSから遠ざかるように傾斜した下面94を有する。ここで、スティッチトポール91,92におけるABSと反対側の上面93は、図13(A)に示したようにABSと平行であってもよいし、下面94と同様に傾斜していてもよい。スティッチトポール91,92におけるリーディング面95は、上面93および下面94と上部エッジ93EGおよび下部エッジ94EGにおいてそれぞれ接続されている。下部エッジ94EGは、本体20から100nm以上1000nm以下の距離に位置するとよい。また、リーディング面95は、図13(B)に示したように記録面100Sに対して45°以上80°以下の角度をなすように傾斜してもよい。また、スティッチトポール91,92において、下面94は、本体20から延伸し上面93よりも長い寸法を有すると共に、リーディング面95および記録面100Sの双方から遠ざかるようにABS(もしくは記録面100S)に対して30°以上70°以下の角度で傾斜している。
【符号の説明】
【0039】
12…光導波路、13…プラズモンジェネレータ(PG)、14…コイル、15…再生ヘッド部、16…ヨーク、21…主磁極、21LS…リーディング面、21TS…トレーリング面、21EG…端縁。51…傾斜角。
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