(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.粘着シートの全体構成
図1は、本発明の好ましい実施形態による粘着シートの概略断面図である。本発明の粘着シート100は、粘着剤層10と基材層20とを備える。上記粘着剤層10は粘着剤層の厚みと70℃における粘着剤層の弾性率E’との積である弾性値が0.7N/mm以下である。上記基材層20は、70℃における弾性率E’が1MPa以下である。粘着剤層および基材層がこのような特性を備えることにより、粘着シートと被着体との貼合せ工程において、本発明の粘着シートは被着体への優れた密着性を発揮し得る。そのため、本発明の粘着シートは段差追従性に優れる。
【0010】
本発明の粘着シートは、任意の適切な他の層をさらに備え得る。他の層としては、例えば、基材層の粘着剤層とは反対側に備えられ、粘着シートに耐熱性を付与し得る表面層が挙げられる。
【0011】
粘着シート100の厚みは、好ましくは90μm〜285μmであり、より好ましくは105μm〜225μmであり、さらに好ましくは110μm〜205μmである。
【0012】
粘着剤層10の厚みは、粘着剤層の弾性値が0.7N/mm以下となるよう、粘着剤層の70℃の弾性率E’に応じて適宜設定され得る。粘着剤層10の厚みは、例えば、3μm〜200μmであり、好ましくは5μm〜100μmである。
【0013】
基材層20の厚みは、好ましくは20μm〜200μmであり、より好ましくは25μm〜150μmである。
【0014】
本発明書において、粘着シートの段差追従性の指標として、「浮き幅」を用いる。「浮き幅」とは、
図2に示すように、段差xを有する被着体200に粘着シート100を貼着した際に、当該粘着テープが浮いて被着体200と接さない部分の幅aを意味する。好ましくは当該浮き幅が、被着体となる半導体ウエハ上のダイシングライン幅に対して所定の範囲となる粘着シートが用いられる。これにより、例えば、本発明の粘着シートを半導体ウエハのバックグラインド工程に用いる保護シートとして用いる場合には、ダイシングラインへの研削水の侵入を防止し、半導体ウエハの割れの発生を防止し得る。
【0015】
本発明の粘着シートの半導体ウエハへの貼付直後(1時間後)の浮き幅は、6μmの段差(すなわち、
図2のxが6μm)に対し、好ましくは被着体となる半導体ウエハ表面に設けられるダイシングライン幅の1/2以下であり、より好ましくは該ダイシングライン幅の1/3以下である。浮き幅が上記の範囲内であれば、本発明の粘着シートがダイシングラインに好適に追従し、裏面研削中にダイシングラインへの研削水の侵入を防止し得る。具体的には、深さ6μm、幅100μmのダイシングラインを有する半導体ウエハに本発明の粘着シートを適用する場合、上記浮き幅は、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは33μm以下である。
【0016】
本発明の粘着シートを半導体ウエハと貼合せ、温度23℃、湿度50%の条件下で24時間放置した後の浮き幅は、6μmの段差に対し、好ましくは被着体となる半導体ウエハ表面に設けられるダイシングライン幅の1/2以下であり、より好ましくは該ダイシングライン幅の1/3以下である。半導体ウエハと貼り合せ、24時間放置後の粘着シートの浮き幅が上記の範囲内であれば、放置後においても優れた段差追従性を維持可能な粘着シートが得られる。
【0017】
本発明の粘着シートは、セパレータにより保護されて提供され得る。本発明の粘着シートは、セパレータにより保護された状態で、ロール状に巻き取ることができる。セパレータは、実用に供するまで粘着シートを保護する保護材としての機能を有する。セパレータとしては、例えば、シリコン系剥離剤、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチック(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン)フィルム、不織布または紙などが挙げられる。
【0018】
本発明の粘着シートは、例えば、セパレータにより保護されていない場合、粘着剤層とは反対側の最外層に、背面処理を行っていてもよい。背面処理は、例えば、シリコン系剥離剤や長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤を用いて行うことができる。本発明の粘着シートは、背面処理を行うことにより、ロール状に巻き取ることが容易となる。
【0019】
B.粘着剤層
上記粘着剤層は、上記弾性値が0.7N/mm以下である。本発明では、粘着剤層の弾性値が0.7N/mm以下となるよう設計することにより、段差追従性に優れた粘着シートを提供することができる。上記弾性値は好ましくは、0.01N/mm〜0.7N/mmであり、より好ましくは0.01N/mm〜0.25N/mmである。
【0020】
上記粘着剤層の70℃における弾性率E’(貯蔵弾性率E’)は、弾性値が0.7N/mm以下となる値であればよく、粘着剤層の厚みに応じて、任意の適切な値に設定され得る。上記粘着剤層の70℃における弾性率E’は、好ましくは基材層の70℃における弾性率E’以上の値である。粘着剤層の弾性率E’を上記の範囲とすることにより、粘着シートの段差追従性が向上し得る。粘着剤層の70℃における弾性率は、例えば、1MPa以上であり、好ましくは1MPa〜25MPaである。本明細書において、粘着剤層の70℃における弾性率E’は、動的粘弾性測定装置により測定された値をいう。
【0021】
上記粘着剤層の23℃における弾性率E’は、好ましくは3MPa以上であり、より好ましくは3MPa〜100MPaであり、さらに好ましくは3MPa〜75MPaである。粘着剤層の23℃における弾性率E’が上記の範囲内であれば、被着体と貼合せた後放置した場合であっても、粘着剤層が貼付け時の形状を維持することができる。そのため、粘着シートの被着体への貼付後の経時的な浮きの拡大を防止し得る。また、23℃における弾性率E’が上記の範囲内であれば、粘着シート剥離後の被着体への糊残りも防止し得る。従来、弾性率の低い粘着剤層を用いて追従性を改良しているが、この場合、経時的な粘着シートの浮きの発生や、粘着シート剥離後の被着体への糊残りの発生という課題がある。粘着剤層が23℃において、上記のような弾性率E’を備えることにより、このような課題をも解消し得る。本明細書において、粘着剤層の23℃における弾性率E’は、動的粘弾性測定装置により測定された値をいう。
【0022】
上記粘着剤層は、上記弾性値が0.7N/mm以下となる層であればよく、任意の適切な粘着剤により構成され得る。該粘着剤層は、好ましくはポリオレフィン系樹脂を含む。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、低結晶ポリプロピレン、非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体などのエチレン共重合体やポリオレフィン変性ポリマー等が挙げられる。該粘着剤層は、より好ましくは非晶質ポリプロピレン系樹脂を含み、さらに好ましくは非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体を含む。このような粘着剤層であれば、さらに段差追従性に優れる粘着シートを得ることができる。なお、本明細書において、「非晶質」とは、結晶質のように明確な融点を有さない性質をいう。
【0023】
粘着剤に含まれる非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体の含有割合は、粘着剤層の弾性値が0.7N/mm以下となるよう適宜調整され得る。粘着剤に含まれる非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体の含有割合は、重量比で、好ましくは10重量%〜100重量%であり、より好ましくは10重量%〜95重量%である。
【0024】
上記非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体は、好ましくはメタロセン触媒を用いて、プロピレンと1−ブテンとを重合することにより得ることができる。より詳細には、非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体は、例えば、メタロセン触媒を用いてプロピレンと1−ブテンとを重合させる重合工程を行い、当該重合工程の後、触媒残さ除去工程、異物除去工程等の後処理工程を行うことにより、得ることができる。非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体は、このような工程を経て、例えば、パウダー状、ペレット状等の形状で得られる。メタロセン触媒としては、例えば、メタロセン化合物とアルミノキサンとを含むメタロセン均一混合触媒、微粒子状の担体上にメタロセン化合物が担持されたメタロセン担持型触媒等が挙げられる。
【0025】
上記のようにメタロセン触媒を用いて重合された非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体は、狭い分子量分布を示す。上記非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は好ましくは3以下であり、より好ましくは2以下であり、さらに好ましくは1.1〜2であり、特に好ましくは1.2〜1.9である。分子量分布が狭い非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体は低分子量成分が少ないので、このような非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体を用いれば、低分子量成分のブリードによる被着体の汚染を防止し得る粘着シートを得ることができる。
【0026】
上記非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体における、プロピレン由来の構成単位の含有割合は、好ましくは80モル%〜99モル%、より好ましくは85モル%〜99モル%であり、さらに好ましくは90モル%〜99モル%である。
【0027】
上記非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体における、1−ブテン由来の構成単位の含有割合は、好ましくは1モル%〜20モル%、より好ましくは1モル%〜15モル%、さらに好ましくは1モル%〜10モル%である。このような範囲であれば、靭性と柔軟性とのバランスに優れた粘着シートを得ることができる。
【0028】
上記非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体は、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。
【0029】
上記非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体の重量平均分子量(Mw)は好ましくは200,000以上であり、より好ましくは200,000〜500,000であり、さらに好ましくは200,000〜300,000である。非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体の重量平均分子量(Mw)がこのような範囲であれば、一般的なスチレン系熱可塑性樹脂、アクリル系熱可塑性樹脂(Mwが100,000以下)と比較して、低分子量成分が少なく、被着体の汚染を防止し得る粘着シートを得ることができる。
【0030】
上記非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体の230℃、2.16kgfにおけるメルトフローレートは、好ましくは1g/10min〜50g/10minであり、より好ましくは5g/10min〜30g/10minであり、さらに好ましくは5g/10min〜20g/10minである。非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体のメルトフローレートがこのような範囲であれば、共押し出し成形により、加工不良なく厚みの均一な粘着剤層を形成することができる。メルトフローレートは、JISK7210に準じた方法により測定することができる。
【0031】
上記非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらにその他のモノマー由来の構成単位を含んでいてもよい。その他のモノマーとしては、例えば、エチレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン等が挙げられる。
【0032】
上記粘着剤層は、好ましくは結晶性ポリプロピレン系樹脂をさらに含む。結晶性ポリプロピレン系樹脂を含有することにより、粘着剤層の70℃の弾性率E’を所望の値に調整し得る。結晶性ポリプロピレン系樹脂の含有割合は、所望とする弾性率E’に応じて任意の適切な割合に設定され得る。結晶性ポリプロピレン系樹脂の含有割合は、上記非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体と当該結晶性ポリプロピレン系樹脂との合計重量に対して、好ましくは0重量%〜90重量%であり、より好ましくは5重量%〜90重量%である。
【0033】
上記結晶性ポリプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレンであってもよく、プロピレンとプロピレンと共重合可能なモノマーとにより得られる共重合体であってもよい。プロピレンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン等が挙げられる。上記結晶性ポリプロピレン系樹脂がプロピレンとプロピレンと共重合可能なモノマーとにより得られる共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0034】
上記結晶性ポリプロピレン系樹脂は、好ましくは上記非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体同様、メタロセン触媒を用いて重合することにより得られる。このようにして得られた結晶性ポリプロピレン系樹脂を用いれば、低分子量成分のブリードによる被着体の汚染を防止することができる。
【0035】
上記結晶性ポリプロピレン系樹脂の結晶化度は、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上である。結晶化度は、代表的には示差走査熱量分析(DSC)またはX線回折により求められる。
【0036】
好ましくは、上記粘着剤層は、F
−、Cl
−、Br
−、NO
2−、NO
3−、SO
42−、Li
+、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+、NH
4+を実質的に含まない。被着体を当該イオンで汚染することを防止することができるからである。このような粘着剤層を備える粘着シートは、例えば、半導体ウエハ加工用に用いられる場合、回路の断線または短絡等を生じさせることがない。上記イオンを含まない粘着剤層は、例えば、当該粘着剤層に含まれる非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体を上記のようにメタロセン触媒を用いて溶液重合することにより得ることができる。当該メタロセン触媒を用いた溶液重合においては、非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体は、重合溶媒とは異なる貧溶媒を用いて析出単離(再沈殿法)を繰り返して、精製することができるので、上記イオンを含まない粘着剤層を得ることができる。なお、本明細書において、「F
−、Cl
−、Br
−、NO
2−、NO
3−、SO
42−、Li
+、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+、NH
4+を実質的に含まない」とは、標準的なイオンクロマトグラフ分析(例えば、ダイオネクス社製、商品名「DX−320」、「DX−500」を用いたイオンクロマトグラフ分析)において検出限界未満であることをいう。具体的には、粘着剤層1gに対して、F
−、Cl
−、Br
−、NO
2−、NO
3−、SO
42−およびK
+がそれぞれ0.49μg以下、Li
+およびNa
+がそれぞれ0.20μg以下、Mg
2+およびCa
2+がそれぞれ0.97μg以下、NH
4+が0.5μg以下である場合をいう。
【0037】
上記粘着剤層の貯蔵弾性率(G’)は、好ましくは0.5×10
6Pa〜1.0×10
8Paであり、より好ましくは0.8×10
6Pa〜3.0×10
7Paである。上記粘着剤層の貯蔵弾性率(G’)がこのような範囲であれば、表面に凹凸を有する被着体に対する十分な粘着力と適度な剥離性を両立し得る粘着シートを得ることができる。また、このような貯蔵弾性率(G’)の上記粘着剤層を備える粘着シートは、半導体ウエハの加工用に用いられる場合、ウエハの裏面研削における優れた研削精度の達成に寄与し得る。なお、本発明における貯蔵弾性率(G’)は、動的粘弾性スペクトル測定により測定することができる。
【0038】
上記粘着剤層は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらにその他の成分を含んでいてもよい。当該その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤等が挙げられる。その他の成分の種類および使用量は、目的に応じて適切に選択され得る。
【0039】
C.基材層
上記基材層は、70℃における弾性率E’が1MPa以下である。基材層の70℃における弾性率E’が1MPa以下であることにより、段差追従性に優れた粘着シートが得られる。基材層の70℃における弾性率E’は、好ましくは0.01MPa〜1MPaであり、より好ましくは0.1MPa〜1MPaである。本発明の粘着シートでは、粘着剤層の弾性値を0.7N/mm以下とし、かつ、基材層の70℃における弾性率E’が1MPa以下とすることにより、粘着シートの段差追従性が向上し得る。
【0040】
上記基材層の23℃における弾性率E’は、好ましくは5MPa以上であり、より好ましくは5MPa〜50MPaである。基材層の23℃における弾性率E’が上記の範囲内であれば、粘着シートを被着体に貼付けた後放置した場合であっても、粘着シートの貼付け時の形状が維持され得る。特に、上記粘着剤層の23℃における弾性率E’が3MPa以上である場合には、粘着シートの貼付け時の形状維持効果が相乗的に発揮される。さらに、基材層の23℃における弾性率が上記の範囲内であることにより、粘着シートの剥離時の取扱性が向上し得る。
【0041】
上記基材層は、70℃における弾性率E’が1MPa以下である層であればよく、任意の適切な樹脂を用いることができる。上記基材層は、好ましくはエチレン系樹脂である。上記エチレン系樹脂としては、例えば、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)低分子量ポリエチレン(LDPE)等が挙げられる。
【0042】
上記基材層は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらにその他の成分を含んでいてもよい。当該その他の成分としては、例えば、上記B項で説明した粘着剤層に含まれ得るその他の成分と同様の成分が用いられ得る。
【0043】
D.耐熱性を付与し得る表面層
本発明の粘着シートは、さらに耐熱性を付与し得る表面層を備えていてもよい。該表面層は、上記基材層の粘着剤層とは反対側に備えられ得る。該表面層を備えることにより、ウエハ加工時に受ける熱から、基材層および粘着剤層を保護し得る。該表面層は、好ましくはポリプロピレン系樹脂を含む。
【0044】
上記表面層の厚みは、任意の適切な値に設定され得る。表面層の厚みは、好ましくは5μm〜50μmである。
【0045】
上記ポリプロピレン系樹脂は、好ましくはメタロセン触媒を用いた重合により得られる。より詳細には、ポリプロピレン系樹脂は、例えば、メタロセン触媒を用いてプロピレンを含むモノマー組成物を重合させる重合工程を行い、当該重合工程の後、触媒残さ除去工程、異物除去工程等の後処理工程を行うことにより、得ることができる。ポリプロピレン系樹脂は、このような工程を経て、例えば、パウダー状、ペレット状等の形状で得られる。メタロセン触媒としては、例えば、上記で例示したメタロセン触媒が挙げられる。
【0046】
上記ポリプロピレン系樹脂の融点は好ましくは110℃〜200℃であり、より好ましくは120℃〜170℃であり、さらに好ましくは125℃〜160℃である。このような範囲であれば、耐熱性に優れる粘着シートを得ることができる。このような粘着シートは、接触加熱される場合に特に有用である。例えば、粘着シートが、半導体ウエハ加工用粘着シートとして用いられる場合、粘着シート表面が半導体製造装置の加熱ステージに融着し難く、加工不良を防ぐことができる。さらに、この実施形態の粘着シートは、耐熱性に優れることに加えて、上記のように柔軟性にも優れる。このように耐熱性と柔軟性とのバランスに優れる粘着シートは、例えば、半導体ウエハ加工用粘着シートとして有用である。より具体的には、裏面研削工程からダイシング工程完了までの工程をインラインで行う製造方式(いわゆる、2in1製造方式)に用いられる半導体ウエハ加工用粘着シートとして有用である。このような製造方式においては、粘着シートが連続して裏面研削工程およびダイシング工程に供せられる。本発明の粘着シートを2in1製造方式における半導体ウエハ加工用粘着シートとして用いれば、粘着シート付き半導体ウエハの裏面にダイシングフィルム(またはダイシングダイアタッチフィルム)を貼り付ける際、粘着シートが加熱テーブル(例えば、100℃)と接触しても、粘着シート表面が加熱テーブルに融着することを防ぐことができ、かつ、当該粘着シートの接触を起因とする半導体ウエハの損傷を防ぐことができる。
【0047】
上記ポリプロピレン系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらにその他のモノマー由来の構成単位を含んでいてもよい。その他のモノマーとしては、例えば、エチレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンが挙げられる。その他のモノマー由来の構成単位を含む場合、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。
【0048】
上記ポリプロピレン系樹脂は市販品を用いてもよい。市販品のポリプロピレン系樹脂の具体例としては、日本ポリプロ(株)製の商品名「WINTEC(ウィンテック)」、「WELNEX(ウェルネックス)」シリーズ等が挙げられる。
【0049】
上記表面層は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらにその他の成分を含んでいてもよい。当該その他の成分としては、例えば、上記B項で説明した粘着剤層に含まれ得るその他の成分と同様の成分が用いられ得る。
【0050】
E.粘着シートの製造方法
本発明の粘着シートは、任意の適切な方法で製造される。本発明の粘着シートは好ましくは共押し出し成形により形成され得る。共押し出し成形により粘着シートを形成することにより、層間の接着性が良好な粘着シートを、少ない工程数で、かつ、有機溶剤を使用することなく製造することができる。上記共押し出し成形において、上記粘着剤層および上記基材層の形成材料は、上記の各層の成分を任意の適切な方法で混合した材料が用いられ得る。
【0051】
上記共押し出し成形の具体的方法としては、例えば、ダイスに連結した少なくとも2台の押出し機のうち、1台に粘着剤層形成材料を、別の1台に基材層形成材料を、それぞれ供給し、溶融後、押出し、タッチロール成形法により引き取り、積層体を成形する方法が挙げられる。押し出しの際、各形成材料が合流する部分は、ダイス出口(ダイスリップ)に近いほど好ましい。ダイス内で各形成材料の合流不良が生じ難いからである。したがって、上記ダイスとしては、マルチマニホールド形式のダイスが好ましく用いられる。各形成材料の溶融に用いる押出し機のスクリュータイプは単軸であってもよく、2軸であってもよい。押し出し機は、3台以上であってもよい。押し出し機が3台以上の場合、さらにその他の層(例えば、耐熱性を付与し得る表面層)の形成材料を供給することができる。
【0052】
上記共押し出し成形における成形温度は、好ましくは160℃〜220℃であり、より好ましくは170℃〜200℃である。このような範囲であれば、成形安定性に優れる。
【0053】
上記粘着剤層形成材料と上記基材層形成材料との、温度180℃、せん断速度100sec
−1におけるせん断粘度の差(粘着剤層形成材料−基材層形成材料)は、好ましくは−150Pa・s〜600Pa・sであり、より好ましくは−100Pa・s〜550Pa・sであり、さらに好ましくは−50Pa・s〜500Pa・sである。このような範囲であれば、上記粘着剤層形成材料および基材層形成材料のダイス内での流動性が近く、合流不良の発生を防止することができる。なお、せん断粘度は、ツインキャピラリー型の伸長粘度計により測定することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。また、部は重量部を意味する。
【0055】
[実施例1]
粘着剤層形成材料として、メタロセン触媒により重合した非晶質プロピレン−(1−ブテン)共重合体(住友化学社製、商品名「タフセレンH5002」:プロピレン由来の構成単位90モル%/1−ブテン由来の構成単位10モル%、Mw=230,000、Mw/Mn=1.8)60部とメタロセン触媒により重合した結晶性ポリプロピレン系樹脂(日本ポリプロ(株)製、商品名「WINTEC WFX4」)40部とを混合して用いた。
基材層形成材料として、エチレン−酢酸ビニル共重合体(三井デュポン社製、商品名「エバフレックスV523」)を用いた。
耐熱性を付与し得る表面層を形成する材料として、メタロセン触媒により重合した結晶性ポリプロピレン系樹脂(日本ポリプロ社製、商品名「WINTEC WSX02」)を用いた。
上記粘着剤層形成材料100部と、基材層形成材料100部と、表面層形成材料100部とをそれぞれの押し出し機に投入し、Tダイ溶融共押し出し(押し出し機:ジー・エム・エンジニアリング社製、商品名「GM30−28」/Tダイ:フィードブロック方式;押出温度180℃)を行い、粘着剤層の厚みが30μm、基材層の厚みが70μm、表面層の厚みが30μmの粘着シートを得た。なお、各層の厚みは、Tダイ出口の形状により制御した。
【0056】
[実施例2〜13]
粘着剤層形成材料、基材層形成材料、および、表面層形成材料として表1に記載の材料を用いたこと、ならびに、得られた粘着シートの各層の厚みが表1に記載の厚みとなるよう共押し出し成形した以外は実施例1と同様にして、粘着シートを得た。
【0057】
【表1】
【0058】
(比較例1〜3)
粘着剤層形成材料、基材層形成材料、および、表面層形成材料として表1に記載の材料を用いたこと、ならびに、得られた粘着シートの各層の厚みが表1に記載の厚みとなるよう共押し出し成形した以外は実施例1と同様にして、粘着シートを得た。
【0059】
[評価]
実施例および比較例で得られた粘着シートを以下の評価に供した。結果を表2に示す。
(1)弾性率(E’)
実施例および比較例の粘着シートの粘着剤層または基材層を形成する材料について、動的粘弾性測定装置(TA Instrument製、商品名:RSAIII)を用いて、23℃および70℃の弾性率(E’)を測定した。なお、耐熱性を付与し得る表面層を形成する材料(日本ポリプロ社製、商品名「WINTEC WSX02」)の23℃の弾性率(E’)は446.1MPa、70℃の弾性率(E’)は118.8MPaであった。
(2)段差追従性試験(浮き幅)
厚み6μmのテープを粘着シート貼り合せ方向と垂直になるよう半導体ウエハに貼り合せ、試験用の段差を設けた半導体ウエハを作製した。この試験用の段差を設けた半導体ウエハに実施例および比較例で得られた粘着シートを貼合せ、浮き幅を測定した。半導体ウエハと各粘着シートとの貼合せは、テープ貼付け装置(日東精機社製、商品名「DR−3000II」)を用いて、圧力0.5MPa、ステージ温度70℃、速度10mm/minの条件で行った。貼合せた半導体ウエハと粘着シートとを光学顕微鏡(250倍)で観察し、粘着シートの浮き幅(
図2のa)を測定した。
浮き幅を測定後、半導体ウエハと粘着シートの積層体を温度23℃、湿度50%条件下で24時間放置した。24時間放置後の積層体についても、同様に、光学顕微鏡(250倍)で観察し、浮き幅を測定した。
浮き幅が50μm以下の粘着シートであれば、段差追従性に優れる。
【0060】
【表2】
【0061】
粘着剤層の弾性値が0.7N/mm以下であり、かつ、基材層の70℃における弾性率が1MPa以下である実施例1〜13の粘着シートは、浮き幅が小さく、優れた段差追従性(ダイシングラインへの追従性)を有していた。したがって、実施例1〜13の粘着シートをバックグラインド工程時の半導体ウエハの保護シートとして用いた場合には、ダイシングラインへの研削水の侵入を防止し得る。また、実施例1〜13の粘着シートは、24時間保存した後であっても、浮き幅に変化はみられなかった。
【0062】
一方、粘着剤層の弾性値が0.7N/mmを超えるおよび/または基材層の70℃における弾性率が1MPaを超える比較例1〜3では、いずれも浮き幅が大きかった。したがって、これらの粘着シートを半導体ウエハのバックグラインド工程に使用した場合には、研削水がダイシングラインに侵入し、半導体ウエハの割れが生じ得る。