(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、これら実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。図面は模式的なものであり、各部の寸法の関係や比率は、現実と異なることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0020】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る顕微鏡の構成を模式的に示す一部断面図である。また、
図2は、
図1のA−Aにおける顕微鏡本体内の一部断面図である。なお、
図2においては、
図1に示す落射蛍光投光管130及び励起フィルタ131の記載を省略している。
【0021】
図1及び
図2に示すように、本発明の実施の形態1に係る顕微鏡1は、顕微鏡本体10と、該顕微鏡本体10の動作を制御する制御装置20とを備える。
【0022】
顕微鏡本体10は、試料SPの上方から試料SPに照射され、該試料SPを透過した透過光、又は試料SPの下方から試料に照射され、該試料SPによって反射された反射光を観察する所謂倒立型の顕微鏡である。顕微鏡本体10は、試料SPを載せた容器(ガラスボトムディッシュ)100が載置される試料ステージ101と、試料ステージ101下方に配置された筐体102と、筐体102上に設けられた透過照明支柱103に取り付けられた透過照明用の光源104と、筐体102に取り付けられた落射照明用の光源105、筐体102に取り付けられたオートフォーカスセンサヘッド(以下、単にセンサヘッドともいう)106、及びCCD等の撮像素子107とを備える。
【0023】
光源104は、試料SPを透過観察する際に用いられる光源であり、可視領域の照明光を発生する。
透過照明支柱103内には、光源104から出射した照明光を試料ステージ101の方向に折り曲げるミラー111が設けられている。また、透過照明支柱103には、ミラー111が折り曲げた照明光を収束させるコンデンサレンズ112が取り付けられている。
【0024】
試料ステージ101は、ミラー111が折り曲げた照明光の光路(透過照明光路)L1と直交する平面(XY平面)において移動可能に設けられている。また、試料ステージ101には、制御装置20の制御の下で動作する焦準用モータ駆動部109によって駆動される焦準用モータ108が設けられており、制御装置20を介した電気的な制御により、光路L1に沿って上下方向に移動可能となっている。なお、筐体102には、手動で合焦操作を行う際に用いられる焦準ハンドル110も設けられており、焦準ハンドル110を操作することにより、手動で試料ステージ101を上下方向に移動させることも可能である。
【0025】
試料ステージ101には、照明光が透過可能な開口101aが設けられており、この開口101aを覆うように、試料SPが入ったガラスボトムディッシュ100が載置される。なお、本実施の形態1においては、試料SPを保持する部材として、底面が透明なガラスからなり、側面に隔壁が設けられたガラスボトムディッシュ100を用いているが、その代わりに、一般的なスライドガラスや、ウェルプレート等、底面が透明で試料SPを保持可能な部材であれば、どのような部材を用いても良い。
【0026】
試料ステージ101下方(筐体102内)の光路L1上には、レボルバ122によって交換可能に保持された対物レンズ121、121’と、ダイクロイックミラー123と、光路L1に挿脱可能に設けられた蛍光フィルタカセット124と、結像レンズ125と、光路切換プリズム126と、ミラー127とが配置されている。また、対物レンズ121と結像レンズ125は、無限遠補正光学系を構成している。ここで、無限遠補正光学系とは、一般に、標本から対物レンズを経た光線が対物レンズでは結像せずに、無限遠の平行光束として結像レンズに入り、結像レンズによって中間像を結ぶ光学系のことである。
【0027】
レボルバ122には、図示しない複数の孔部が設けられており、各孔部に対物レンズ121、121’が挿入されている。なお、
図1〜
図3においては、レボルバ122に2つの対物レンズ121、121’が挿入されている状態を示しているが、レボルバ122には、孔部の数に応じて、さらに多くの(例えば、5つ)対物レンズを設けることも可能である。
【0028】
また、レボルバ122には、制御装置20の下で動作するレボルバ用モータ駆動部142によって駆動され、レボルバ122を回転させるレボルバ用モータ141が設けられている。ユーザは、制御装置20を操作することにより、所望の対物レンズ121、121’を光路L1に挿入させることができる。なお、レボルバ122は、手動で回転させることも可能である。
【0029】
さらに、レボルバ122には、どの孔部が光路L1に挿入されているかを検出するレボ孔位置検出部143が設けられている。制御装置20は、どの孔部にどの倍率の対物レンズ121、121’が挿入されているかを対応付ける情報を予め保有しており、この情報と、レボ孔位置検出部143から出力信号とに基づいて、現在光路L1に挿入されている対物レンズ121の倍率を認識することができる。
【0030】
ダイクロイックミラー123は、後述するオートフォーカスに用いられるレーザ光の波長成分(赤外領域)を反射させ、その他の波長成分(可視領域)を透過させる。具体的には、試料SPを透過した透過照明光(観察光)や、試料SPに照射させる落射照明光や、試料SPによって反射された落射照明光(観察光)や、試料SPから発生した蛍光光(観察光)等は、ダイクロイックミラー123を透過する。
【0031】
蛍光フィルタカセット124は、試料SPが蛍光色素により染色されている場合に、落射蛍光投光管130から出射した落射照明光のうち、当該蛍光色素を励起可能な波長成分(励起光)を選択的に透過する励起フィルタ131と、励起光を試料SPの方向に選択的に反射すると共に、試料SPにおいて蛍光色素が励起することにより発生した蛍光光を選択的に透過させるダイクロイックミラー132と、ダイクロイックミラー132を透過した蛍光光から不要な波長成分を吸収する吸収フィルタ133とを含む。蛍光フィルタカセット124において、これらの励起フィルタ131、ダイクロイックミラー132、吸収フィルタ133は、複数種類ずつ、ターレット等の切換機構により交換可能に用意されており、使用される蛍光色素に応じて適宜組み合わせて使用される。
【0032】
光路切換プリズム126は、対物レンズ121を透過した試料SPの観察光の一部を分岐し、観察光路L2上に設けられた撮像素子107に入射させる。結像レンズ125は、光路切換プリズム126によって分岐される観察光を撮像素子107が有する受光面において結像させる。撮像素子107が受光した観察光は、撮像素子107において電気信号に変換され、試料SPの画像データとして、制御装置20に出力される。
【0033】
ミラー127は、光路切換プリズム126を透過した観察光を反射し、観察光路L3上に設けられた複数のリレーレンズ128を介して接眼レンズ129に入射する。ユーザは、接眼レンズ129を介して、試料SPの拡大像を観察することができる。
【0034】
一方、光源105は、試料SPを蛍光観察する際に用いられる光源であり、例えば紫外領域の照明光を発生する水銀ランプによって構成される。また、筐体102内には、さらに、光源105が発生した光を透過照明光路L1の方向に導く落射蛍光投光管130が設けられている。蛍光フィルタカセット124は、落射蛍光投光管130と透過照明光路L1とが交差する位置に挿入可能となっている。
【0035】
制御装置20は、例えば、パーソナルコンピュータやワークステーション等によって構成される。制御装置20は、制御部21と、種々の命令や情報の入力を受け付けて制御部21に入力する入力部22と、制御部21が実行する種々のプログラムや当該プログラムの実行中に使用される各種情報を記憶するメモリ23と、表示部24とを備える。
【0036】
制御部21は、例えば、CPU等のハードウェアによって実現され、メモリ23に記憶された所定のプログラムを読み込むことにより、顕微鏡1全体の動作を統括して制御する。
【0037】
入力部22は、例えば、キーボードやマウス等の入力デバイスのほか、各種操作ボタン等の入力部材を含んでも良い。例えば、入力部22は、レボルバ122を回転させて所望の倍率の対物レンズ121、121’を光路L1に挿入させるための対物レンズ変換スイッチや、試料ステージ101を光路L1に沿って上下方向に移動させるための上下動スイッチや、オートフォーカス動作の設定及び解除を行うオートフォーカススイッチ等を含む。入力部22は、これらの入力デバイスや入力部材に対する操作により入力された信号を受け付け、制御部21に出力する。
【0038】
メモリ23は、例えば、顕微鏡1の制御プログラムを格納したROMと、当該制御に必要なデータを随時格納する揮発性メモリであるRAMとによって実現される。
表示部24は、LCDや有機EL等のディスプレイであり、制御部21の制御の下で種々の画像や情報を表示する。
【0039】
この他、制御装置20は、制御信号の入出力を行なうI/Oポートや、これらの各部を互いに接続するデータバス(いずれも図示せず)を備えている。制御装置20は、当該制御装置20に接続される各種モータ駆動部や光源駆動部(発振器)やアドレスデコーダ等(いずれも後述)の周辺装置に対し、これらのI/Oポートやデータバスを介して制御を行う。
【0040】
制御装置20には、フォーカスオフセット値を変更する際の入力手段として、ジョグエンコーダ26及びパルスカウンタ27が設けられている。ジョグエンコーダ26のエンコーダ信号はパルスカウンタ27にてパルス数に変換されて制御部21に入力される。制御部21は、パルスカウンタ27からのパルス数を読み込むことにより、ジョグエンコーダ26がどちらの方向にどれだけ回転されたかを判断し、ジョグエンコーダ26の回転量に応じてフォーカスオフセット値を変更する。
【0041】
なお、フォーカスオフセット値の変更を入力する手段はジョグエンコーダ26に限定されない。例えば、フォーカスオフセット値の増減を支持するボタンを入力部22に設けるなどしても良い。この場合、制御部21は、ボタンを押す回数や押している時間等に応じて、フォーカスオフセット値の変更を設定することとしても良い。
【0042】
次に、センサヘッド106の内部構成及び動作について、詳細に説明する。
図3は、顕微鏡本体10のレボルバ122近傍及びセンサヘッド106内の構成を示す模式図である。また、
図4は、センサヘッド106の動作を説明するための模式図である。
【0043】
センサヘッド106は、オートフォーカスに使用されるレーザ光(以下、AF光という)を発振する基準光源150と、該基準光源150を制御部21の制御の下で駆動する光源駆動部151と、基準光源150から出射したAF光の光軸上に設けられたコリメートレンズ152と、偏光ビームスプリッタ153と、集束レンズ154と、λ/4波長板155と、コリメートレンズ152によってコリメートされたAF光の一部をカットする投光側ストッパ156と、偏光ビームスプリッタ153によって反射されたAF光の光路上に配置された集束レンズ157と、位置検出器(Position Sensitive Detector:PSD)158と、増幅器159と、A/D変換器160とを有する。
【0044】
基準光源150としては、赤外線等の可視外光波長領域のレーザ光を発振可能な光源が使用される。基準光源150は、光源駆動部151の制御によりパルス点灯を行なうと共に、強弱をコントロールされる。
【0045】
コリメートレンズ152は、基準光源150から出射したAF光をコリメートする。
投光側ストッパ156は、コリメートされたAF光のうち、AF光の光軸と直交する面における半分の領域をカットする。
【0046】
偏光ビームスプリッタ153は、カットされなかった残りのAF光のうちP偏光成分を透過させて、ダイクロイックミラー123の方向に導くと共に、ダイクロイックミラー123の方向からの入射する光のうちS偏光成分を反射して集束レンズ157の方向に導く。
【0047】
集束レンズ154は、偏光ビームスプリッタ153を透過したAF光をわずかに集束させる。
λ/4波長板155は、透過するAF光を直線偏光から円偏光へ、または円偏光から直線偏光に変換する。センサヘッド106において、λ/4波長板155は、偏光ビームスプリッタ153を通過した直線偏光の方向に対して光学軸が45°となるように配置される。
【0048】
集束レンズ157は、偏光ビームスプリッタ143によって反射されたAF光を集光して位置検出器158に結像させる。
位置検出器158は、AF光を入射させる受光面を有し、AF光が結像したスポットの位置に応じた電圧信号を出力する。
増幅器159は、位置検出器158が出力した電圧信号を所定の増幅率で増幅する。
A/D変換器160は、増幅された電圧信号をディジタル値に変換して制御装置20に出力する。
【0049】
基準光源から出射したAF光は、コリメートレンズ152によってコリメートされた後、投光側ストッパ156によって半分(
図3においては、図の上半分)をカットされる。残りのAF光は、偏光ビームスプリッタ153を通過してP偏光となり、集束レンズ154によって僅かに集束された後、その直線偏光の方向に対して光学軸が45°となるように配置されたλ/4波長板155によって円偏光に変換させられる。このAF光は、ダイクロイックミラー123によって反射され、対物レンズ121により1点に集光されて試料SP又はその近傍にスポット状の像を形成する。
【0050】
この際、観察光学系においてはコリメート光が対物レンズ121により集光されて試料SPに集光するのに対して、AF光は集束レンズ154により僅かに集束されているので、AF光の集光位置は、対物レンズ121の焦点位置(観察光の集光位置)よりも、対物レンズ121側(
図3においては図の下側)にシフトする。
【0051】
ここで、細胞等の生物標本を観察する場合、一般に、観察対象である試料SPは3次元的な構造を有するため、ユーザは、試料SPの内部、即ち、フォーカス基準面(例えば試料SPとガラスボトムディッシュ100との境界面)よりも光路L1に沿って試料SP側(図の上方)にオフセットした位置を観察する。このため、本実施の形態1においては、観察光の集光位置に対してAF光の集光位置を対物レンズ121側にシフトさせるため、集束レンズ154によって僅かに集光させたAF光を対物レンズ121に入射させている。
【0052】
試料SPにより反射されたAF光は、対物レンズ121及びダイクロイックミラー123を介してλ/4波長板155を通過し、この際に、円偏光からS偏光となる。このS偏光のAF光は、集束レンズ154を通過した後、偏光ビームスプリッタ153によって反射され、集束レンズ157により集光されて、位置検出器158の受光面に結像する。それにより、位置検出器158から、AF光のスポットの位置に応じた電圧信号が出力される。この電圧信号は、増幅器159によって所定の増幅率で増幅された後、A/D変換器160によりディジタル値に変換され、AF光のスポット像面データとして制御装置20に出力される。制御装置20は、このスポット像面データに基づいて、境界面C1と対物レンズ121の焦点位置との間の光軸方向における相対距離を算出して、オートフォーカスを実行する。
【0053】
次に、対物レンズ121の焦点位置に対するAF光の集光位置のシフト量δの決定方法について、
図4〜6を参照しながら説明する。
図4(a)〜(c)の各々において、上図は、観察光及びAF光の集光位置近傍を拡大して示しており、下図は、上図の状況において位置検出器158の受光面に結像するAF光のスポット像を示している。なお、
図4においては、試料ステージ101の記載を省略している。
【0054】
本実施の形態1においては、ガラスボトムディッシュ100内の試料SPが生物標本であり、対物レンズ121が液浸系(例えば、オイルイマージョンタイプ)の対物レンズである場合について説明する。この場合、
図4に示すように、ガラスボトムディッシュ100と対物レンズ121との間の空間は、イマージョンオイルLQによって満たされる。
【0055】
一般に、生物標本の屈折率は水の屈折率(1.3)の近傍であり、試料SP内部においてほぼ均一である。また、ガラスボトムディッシュ100及びイマージョンオイルLQの屈折率は約1.5である。従って、ガラスボトムディッシュ100と試料SPとの境界面C1における反射率は約0.4%となり、イマージョンオイルLQとガラスボトムディッシュ100との境界面C2における反射率は約0%となる。このため、対物レンズ121によって試料SP又はその近傍に集光されるAF光は、境界面C2ではほとんど反射されず、主に、境界面C1で反射される。
【0056】
このような状況の下で、
図4(a)に示すように、観察光及び照明光の集光位置(対物レンズ121の焦点位置)が境界面C1と一致する場合を想定する。この場合、AF光の集光位置は境界面C1よりも下方、即ち、AF光が境界面C1に到達する手前の点となる。このため、AF光は、一旦集光した後、再び拡散した状態で境界面C1において反射される。従って、AF光のスポット像IM1の範囲はある程度広がり、広がった分だけ単位面積当たりの光強度は弱くなる。また、スポット像IM1の重心位置Gは、位置検出器158の像面の中心C(AF光の光軸L4に対応する点)から偏った位置となる。
【0057】
次に、
図4(b)に示すように、対物レンズ121が試料SPに若干近づき、観察光及び照明光の集光位置が試料SPの内部に入り、AF光の集光位置が境界面C1と一致する場合を想定する。この場合、AF光のスポット像IM2は、像面の中心Cの1点に集光し、光強度は最も強くなる。
【0058】
さらに、
図4(c)に示すように、対物レンズ121が試料SPにさらに近づき、観察光及び照明光の集光位置が試料SPのさらに深い位置に入り、AF光の集光位置も境界面C1を超えて試料SPの内部に入る場合を想定する。この場合、AF光は、集光する前の拡散した状態で境界面C1において反射される。従って、AF光のスポット像IM3の範囲はある程度広がり、広がった分だけ単位面積あたりの光強度は弱くなる。
【0059】
このように、試料SPに対する観察光(照明光)及びAF光の集光位置を変化させることにより、位置検出器158の受光面に結像するスポット像の単位面積当たりの光強度及び重心位置Gが変化する。
【0060】
図5は、AF光の集光位置に対するスポット像の重心位置の特性を示すグラフである。
図5において、横軸は、光路L1(Z軸)上におけるAF光の集光位置を示す。縦軸は、位置検出器158の受光面におけるスポット像の重心位置Gのy座標を示す。この重心位置(y座標の値)は、位置検出器158の出力信号に基づき、受光面における輝度分布から算出したものである。また、
図6(a)〜(g)は、
図5に示す集光位置P
a〜P
gにおけるスポット像をそれぞれ示している。
【0061】
図5に示すように、スポット像の重心位置の特性は、y=0となる集光位置P
d(AFの集光位置が境界面C1と一致している状態:(
図4(b)参照)を中心として、対称に表れる。
【0062】
このうち、集光位置P
b〜P
fに対応する
図6(b)〜(f)において、スポット像は、集光位置がP
dから離れるほど大きくなり、その重心位置Gは中心Cから離れていく。このため、
図5の集光位置P
b〜P
fの間の領域は、重心位置Gが線形に変化する線形領域となっている。
【0063】
また、集光領域P
a、P
b、P
f、P
gに対応する
図6(a)、(b)、(f)、(g)において、スポット像は、一部が受光面からはみ出すほど、受光面の半分の領域いっぱいに広がっている。このため、重心位置Gは受光面の半分の領域のほぼ中央の位置となりあまり変化しない。従って、
図5の集光位置P
a〜P
b、及びP
f〜P
gの領域は、重心位置Gの変化が少ないプラトー領域となっている。
【0064】
なお、プラトー領域の外側は、スポット像の単位面積あたりの光強度が低下し、電気系の暗ノイズ等に埋もれてしまうため、有効な出力強度(輝度情報)が検出されない領域である。
【0065】
このような重心位置の特性のうち、線形領域(集光位置P
b〜P
f)においては、AF光の集光位置と重心位置Gとが一意に決まるため、フォーカスオフセットを行うことが可能となる。しかしながら、線形領域の端部における誤差等を考慮しマージンを取って、実際には、線形領域の一部の領域(例えば、1/2以下の領域)をフォーカスオフセット範囲とすることが好ましい。そこで、本実施の形態1においては、線形領域(集光位置P
b〜P
f)の約1/2の範囲である集光位置P
c〜P
eをフォーカスオフセット範囲として設定している。即ち、対物レンズ121の焦点位置に対するAF光の集光位置のシフト量δがδ=|P
c−P
d|となるように、集束レンズ154を含む光学系の構成を決定する。
【0066】
次に、顕微鏡1におけるオートフォーカス動作について説明する。
入力部22に設けられたオートフォーカススイッチが押下されると、制御部21は、光源駆動部151に対し、動作を開始させる制御信号を出力する。それに応じて、光源駆動部151は、基準光源150の発振を開始させる。基準光源150から出射したAF光は、コリメートレンズ152、偏光ビームスプリッタ153、集束レンズ154、λ/波長板155、ダイクロイックミラー123、及び対物レンズ121を介して、試料SP又はその近傍に集光する。
【0067】
また、制御部21は、焦準用モータ駆動部109に動作を開始させる制御信号を出力する。それに応じて、焦準用モータ駆動部109は、焦準用モータ108を駆動して試料ステージをZ方向に沿って移動させ、試料ステージ101に対する対物レンズ121の相対距離を変化させる。
【0068】
ここで、AF光の集光位置が
図5に示す線形領域(集光位置P
b〜P
f)にある間、重心位置GとAF光の集光位置との関係が一意に決まるため、制御部21は、その間、位置検出器158の出力信号を取り込み、スポット像の重心位置Gを算出する。そして、算出した重心位置Gを、対物レンズの倍率ごとに設定されてメモリ23に予め記憶されているAF目標値と比較し、その差分から、周知の比較制御等を用いて焦準用モータ駆動部109を制御することにより、オートフォーカスを実行する。
【0069】
なお、オートフォーカス動作を集光位置P
b〜P
fの範囲外から実行する場合、制御部21は、まず、位置検出器158の出力信号をモニタしながら焦準用モータ駆動部109を動作させて、光強度が所定値以上になる領域をラフにサーチする。そして、AF光の集光位置が線形の領域(集光位置P
b〜P
f)に入った時点で、上述した比較制御等により、線形の領域内を詳細にサーチすれば良い。
【0070】
また、この比例制御による追い込み動作を連続的に繰り返し実行することで、通常、時間の経過につれて環境温度の変動や、顕微鏡本体の発熱等によって発生するフォーカスドリフトを補正することができる。つまり、時間を追って顕微鏡のフォーカス位置を安定的に維持することができるようになるため、例えば、長時間にわたって生細胞試料の変化を観察するタイムラプス観察に非常に有効である。
【0071】
次に、上述したオートフォーカス動作の実行中に設定されるフォーカスオフセットについて説明する。
オートフォーカス動作中、制御部21は、パルスカウンタ27の出力信号に基づいてジョグエンコーダ26をモニタする。そして、ジョグエンコーダ26において回転を示す信号が発生した場合、制御部21は、当該回転量に応じてフォーカスオフセット値を変更する。より詳細には、制御部21は、回転量に応じたフォーカスオフセット値を、対物レンズ121ごとに設定され、予めメモリ23に記憶されているAF目標値に加算して、AF目標位置を更新する。そして、現在のPSD出力値と更新されたAF目標値とを比較して、その差分がゼロとなるように、比較制御等を用いて焦準用モータ駆動部109を制御することにより、試料ステージ101を移動させる。このような動作を繰り返し実行することで、オートフォーカス動作によって検出された合焦位置に対してフォーカスオフセット値が付加設定され、ユーザが観察したい部位に合焦させることができる。
【0072】
なお、このように、ユーザの操作によりジョグエンコーダ26から入力された信号に基づいてフォーカスオフセット値又はAF目標位置が変更された場合、制御部21は、変更後のフォーカスオフセット値又はAF目標位置を、そのときの光路L1に挿入されていた対物レンズ121と関連付けてメモリ23内に記憶させても良い。この場合、一旦対物レンズ121を交換した後でも、再び同じ対物レンズ121を使用する際には、メモリ23に記憶された情報に基づいて、変更後のフォーカスオフセット値に対してオートフォーカス動作を再開させることができる。従って、ユーザは、対物レンズ121を交換するたびにフォーカスオフセット値を設定し直すことなく、常に観察したい位置に正確にピントがあった状態から試料SPの観察を開始することが可能となる。また、対物レンズごとに異なる色収差もAF目標位置に反映されるので、常に高精度な観察を行うことが可能となる。
【0073】
ここで、上述したように、本実施の形態1においては、フォーカスオフセットの実行範囲を制限している。即ち、集光位置P
cがフォーカスオフセットの下限であり、集光位置P
dに対して集光位置P
cと対称な集光位置P
eがフォーカスオフセットの上限である。このため、制御部21は、ユーザの操作によりジョグエンコーダ26から入力された信号に基づいて変更されたフォーカスオフセット値が、上記実行範囲の上限又は下限に達した場合、図示しない警告ランプやブザー等の手段により、その旨をユーザに通知するようにしても良い。
【0074】
次に、本実施の形態1において、対物レンズ121の焦点位置に対してAF光の集光位置よりも対物レンズ121側にシフトさせてフォーカスオフセットを行う理由を説明する。
【0075】
AF光の検出にエリアセンサやラインセンサを用いた汎用的な顕微鏡においては、通常、対物レンズの焦点位置とAF光の集光位置とが、サブミクロンオーダの色収差はあるにせよ、ほぼ一致するように構成されている。つまり、この場合、対物レンズ121の焦点位置に対するAF光の集光位置のシフト量δがほぼ0であるため、AF光の集光位置が
図5に示すZ=P
dにある時、対物レンズ121の焦点位置は、
図4に示す境界面C1にあることになる。しかしながら、観察者が観察したい場所は、通常、境界面C1よりも上側(試料SPの内部)にあるので、フォーカスオフセットする場合に使用可能な領域は、
図5に示すZ=P
dより上側に限定される。言い換えれば、重心位置GとAF光の集光位置との関係が一意に決まる線形領域がZ=P
bからZ=P
fまであるにもかかわらず、有効に活用できる領域が、Z=P
dからZ=P
fの領域に限定されてしまう。
【0076】
このような構成の顕微鏡においてフォーカスオフセットを行う場合、広範囲のフォーカスオフセット量を確保するためには、
図5に示す重心位置の特性における線形領域(集光位置P
b〜P
f)を拡大する必要がある。
【0077】
そのために考えられる方法として、AF光を検出するセンサとして、より大型のセンサを用いることが挙げられる。それにより、
図6に示すように、AF光の集光位置が境界面C1に一致している状態(
図6(d)の状態)から離れて、スポット像が大きくなった場合であっても、スポット像の変化を十分に捉えることができる。
【0078】
しかしながら、この場合、センサの大型化によるコスト増加を招いてしまう。また、センサを大型化したとしても、スポット像の単位面積あたりの光強度は面積に反比例して低下する。このため、スポット像を徐々に拡大していった場合、当初は重心位置が線形に変化していても、重心位置の変化がプラトー領域に達する前にノイズに埋もれてしまうことが考えられる。
【0079】
この問題を解決するためには、AF光の強度をオートフォーカス動作の段階に応じて変化させたり、センサや増幅器のS/Nを改良したりすることが考えられるが、装置構成が複雑になり、やはりコスト増加につながってしまう。
【0080】
広範囲のフォーカスオフセット量を確保するための別の方法として、重心位置の特性における線形領域の傾きを緩めることが考えられる。これは、対物レンズ121から試料SPに向かって集束するAF光のNAを低下させることに実現される。しかしながら、この場合、AF光の集光位置の変化に対するセンサの感度が鈍くなってしまう。従って、オートフォーカスの合焦精度とのトレードオフになってしまう。
【0081】
それに対して、本実施の形態1においては、AF光の集光位置を対物レンズ121の焦点位置よりも対物レンズ121側に意図的にシフトさせることにより、フォーカスオフセット可能な範囲を、必要な分だけ広く取ることができる。即ち、重心位置の特性における線形領域は位置検出器158のスペックによって決定されるが、実施の形態1によれば、従来は有効に活用されていなかった、境界面C1よりも下側に対応する線形領域(
図5のZ=P
b〜P
d)を有効活用できるようになる。
【0082】
以上説明したように、実施の形態1によれば、広範囲なフォーカスオフセットを行うことが可能な顕微鏡を、AF光を検出するセンサを大型化したり、S/Nの向上等の対策を採ることなく、また、合焦精度を犠牲にすることなく、安価な構成で実現することが可能となる。
【0083】
(変形例1)
次に、上記実施の形態1と同様の構成の顕微鏡1において、乾燥系の対物レンズを用いる場合について、
図7を参照しながら説明する。
この場合、ガラスボトムディッシュ100と対物レンズ121との間の空間は空気(屈折率1)で満たされるため、ガラスボトムディッシュ100と試料SPとの境界面C1における反射率が約0.4%であるのに対し、ガラスボトムディッシュ100と空気との境界面C2における反射率が圧倒的に大きくなる。このため、対物レンズ121によって試料SP又はその近傍に集光されるAF光は、境界面C2においてほとんど反射されることになる。
【0084】
このような状況の下で、まず、
図7(a)に示すように、観察光及び照明光の集光位置(対物レンズ121の焦点位置)が境界面C1と一致する場合を想定する。この場合、AF光の集光位置は境界面C2よりも下方、即ち、AF光が境界面C2に到達する手前の点となる。このため、AF光、一旦集光した後、再び拡散した状態で境界面C2において反射されるので、ある程度範囲が広がったスポット像IM1’が得られ、その重心位置Gは中心Cからずれた位置となる。
【0085】
次に、
図7(b)に示すように、対物レンズ121が試料SPに若干近づき、観察光及び照明光の集光位置が試料SPの内部に入り、AF光の集光位置が境界面C2と一致する場合を想定する。この場合、スポット像IM2’は、像面の中心Cの1点に集光し、光強度は最も強くなる。
【0086】
さらに、
図7(c)に示すように、対物レンズ121が試料SPにさらに近づき、観察光及び照明光の集光位置が試料SPのさらに深い位置に入り、AF光の集光位置も境界面C1を超えて試料SPの内部に入る場合を想定する。この場合、AF光は集光する前の拡散した状態で境界面C2において反射されるので、スポット像IM3’の範囲はある程度広がり、その重心位置Gは、中心Cからずれた位置となる。
【0087】
このような乾燥系の対物レンズを用いる場合、AF光の集光位置が境界面C2上にあるとき(
図7(b)参照)、
図5に示す重心位置の特性においては線形領域の中心(集光位置P
d)となる。従って、この場合、対物レンズの焦点位置に対するAF光の集光位置のシフト量δ’を、フォーカスオフセット可能な範囲(集光位置P
b〜P
f)の1/2程度の距離にガラスボトムディッシュ100の厚みΔcを加えた量に設定すれば良い。
【0088】
(変形例2)
上記実施の形態1とその変形例1においては、液浸系対物レンズと乾燥系対物レンズとで、対物レンズの焦点位置に対するAF光の集光位置のシフト量δ、δ’が異なっている。そこで、集束レンズ154を、手動又は電動で焦点距離の切換が可能なズーム光学系で構成し、対物レンズの焦点距離とAF光の集光位置との間のシフト量を2段階以上で切り換える切換手段を設けることにより、液浸系の対物レンズと乾燥系対物レンズとの両方で使用可能な顕微鏡を実現することができる。或いは、集束レンズ154を光軸に沿って移動させる移動手段を設けることにより、対物レンズの焦点距離とAF光の集光位置との間のシフト量を変化させるようにしても良い。
【0089】
(変形例3)
図3に示す集束レンズ154は、例えば
図8(a)、(b)に示すような2つのレンズを含むリレー光学系で構成しても良い。
図8(a)に示す構成は、互いに焦点に近い位置に配置された2枚の正のレンズ171、172と、レンズ172の光軸方向に駆動するモータ173とを含む。一方、
図8(b)においては、互いに焦点に近い位置に配置された正のレンズ174及び負のレンズ175と、レンズ175を光軸方向に駆動するモータ176とを含む。なお、いずれの構成においてもレンズ172、175の移動をガイドするガイド手段は省略されている。
【0090】
このようなリレー光学系によれば、当該リレー光学系を構成するレンズのいずれかを光軸方向に移動させて、両者の間隔を調整することにより、リレー光学系に入射するAF光の集束状態を変化させ、対物レンズ121(
図3参照)を通過した後のAF光の集光位置を任意の位置に変化させることができる。この作用について、正のレンズ171、172からなるリレー光学系の場合を例として、
図9を参照しながら説明する。
【0091】
例えば、
図9(a)に示すレンズ171、172の配置に対し、
図9(b)に示すように、レンズ172を図の左方向に長さDだけシフトさせると、対物レンズ121によって集光されたAF光の集光位置は図の右方向に長さdだけシフトする。これらのシフト量D、dの関係は、レンズ171、172及び対物レンズ121各々の焦点距離とレンズ間隔とによって一意に決まる。従って、このようなリレー光学系によれば、対物レンズ121の焦点位置とAF光の集光位置との間のシフト量δ又はδ’を任意の量に設定することができる。
【0092】
即ち、液浸系対物レンズを用いる場合には、フォーカスオフセット可能な範囲の約1/2に相当する距離だけ、対物レンズの焦点位置に対してAF光の集光位置がシフトするように、レンズ172の位置を決定すれば良く、乾燥系対物レンズを用いる場合には、フォーカスオフセット可能な範囲の約1/2に相当する距離にガラスボトムディッシュ100の厚みΔcを加えた距離だけ、対物レンズの焦点位置に対してAF光の集光位置がシフトするように、レンズ172の位置を決定すれば良い。それにより、液浸系対物レンズと乾燥系対物レンズとの両方で使用可能な顕微鏡を実現することができる。
【0093】
なお、上記説明においては、レンズ172、175をモータ173、176により電動で移動させることとしたが、手動で移動させる機構としても良い。又、上記説明においては、レンズ172、175を任意の位置に移動可能としたが、少なくとも2種類の位置に段階的に位置決め可能な構成としても良い。さらに、
図8(a)においてはレンズ172側を移動させるようにしたが、レンズ173側を移動させても良い。同様に、
図8(b)においてはレンズ175側を移動させるようにしたが、レンズ174側を移動させるようにしても良い。
【0094】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
図10は、実施の形態2に係る顕微鏡の一部の構成を示す模式図である。
図10に示すように、実施の形態2に係る顕微鏡(以下、単に顕微鏡ともいう)1は、
図3に示すオートフォーカスセンサヘッド(以下、単にセンサヘッドともいう)106の代わりに、オートフォーカスセンサヘッド180を備える。なお、実施の形態2に係る顕微鏡におけるオートフォーカスセンサヘッド180以外の構成については、
図1及び
図2に示すものと同様である。
【0095】
センサヘッド180は、
図3に示すコリメートレンズ152及び投光側ストッパ156の代わりに、コリメータレンズ181を備える。また、基準光源150及びコリメータレンズ181は、偏光ビームスプリッタ153及び集束レンズ154とは光軸同士をずらして配置されており、基準光源150から出射したAF光は、コリメータレンズ181によってコリメートされた後、偏光ビームスプリッタ153を通過して集束レンズ154に入射する。
【0096】
また、センサヘッド180は、AF光のスポット像を検出する受光センサとして、
図3に示す位置検出器158の代わりに、CCDセンサ182を備える。センサヘッド180におけるそれ以外の構成については、実施の形態1と同様である。
【0097】
このようなセンサヘッド180の構成の場合、
図11に示すように、CCDセンサ182の受光面に形成されるスポット像IM4〜IM6は円形を保ちつつ、AF光の集光位置に応じて、重心位置や変形や光強度を変化させる。CCDセンサ182は、検出したスポット像の輝度を表す出力信号を制御部21に出力する。
【0098】
この場合、制御部21は、CCDセンサ182からの出力信号に基づいて、スポット像IM4〜IM6の重心位置Gを算出する。CCDセンサ182の場合、スポット像IM4〜IM6の重心位置Gを、ピクセル以下の計算値として出力可能であり、十分な分解能を得ることができる。この後、制御部21は、実施の形態1と同様にして、重心位置Gを用いたオートフォーカス動作及びフォーカスオフセット動作を実行する。
【0099】
以上説明したように、実施の形態2によれば、スポット像を検出する受光センサを大型化することなく、また、合焦精度を犠牲にすることなく、簡単な構成で広範囲のフォーカスオフセットを行うことが可能となる。
【0100】
以上説明した実施の形態1及び2において、スポット像を検出する受光センサは、2次元PSD又はCCDに限定されず、例えば、1次元のPSDやCCDや2分割のフォトディテクタをスポット像の移動方向に沿って配置して受光センサを構成しても良い。
【0101】
また、実施の形態1及び2においては、集束レンズ154を省略しても良い。この場合、コリメートレンズ152、181を光軸方向にずらすことにより、基準光源150から出射したAF光を集束光として対物レンズ121に入射させることが可能となる。
【0102】
また、実施の形態1及び2においては、試料ステージ101を移動させることにより、対物レンズ121との相対距離を変化させ、フォーカス調整を行っているが、反対に、試料ステージ101を固定し、対物レンズ121を保持するレボルバ122を移動させても良い。或いは、試料ステージ101及びレボルバ122の両方を移動させても良い。
【0103】
以上説明した実施の形態は、本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、各実施の形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明を形成できる。本発明は、仕様等に応じて種々変形することが可能であり、更に本発明の範囲内において、他の様々な実施の形態が可能である。