【実施例】
【0015】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。
【0016】
(実施例1:NK細胞活性化能を有する新規のカキ抽出物)
(A.実験材料及び方法)
(1.動物)
雌性BALB/c、および、C57BL/6Nマウスは、日本チャールス・リバー株式会社(横浜)より購入した。雌性C3H/HeJマウスは、日本エスエルシー株式会社(浜松)より購入した。室温は26℃±1℃に設定し、自由に摂水及び摂食させた。運搬によるストレスからの回復及び環境変化への順応のため、搬入後SPF環境下で1週間以上飼育し、馴化後、8〜12週齢で実験に使用した。
【0017】
(2.細胞)
YAC−1細胞(マウスリンパ腫)は、Riken BRC Cell Bank(つくば市)より入手した。
【0018】
(3.カキ抽出物の調製)
生カキの可食部を、125℃、2364hPaでの加圧下で2時間熱水抽出した後、ろ過し、真空濃縮機により濃縮、ヘリコイド式瞬間滅菌機による滅菌過程を経て、スプレードライヤーにより乾燥粉末化し、カキ抽出物のパウダーを得た。その主な成分を、表1に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
(4.全脾細胞調製)
マウスを頚椎脱臼により犠牲にし、背部より脾臓を摘出して素早く脾細胞浮遊液を調製した。ステンレスメッシュにて組織塊を除去後、ACK lysis buffer (0.15M NH
4Cl、10mM KHCO
3、0.1mM Na
2EDTA、pH7.2)で処理して赤血球を除去した。これをEagle’s MEM培地中で3回洗浄した後、10% FCSを含むRPMI 1640培地(Sigma−Aldrich Co.)に懸濁したものを全脾細胞として用いた。
【0021】
(5.磁気ビーズ法を用いたNK細胞の精製)
(5.1.NK細胞の富化)
Mouse NK Cell Enrichment Set−DM(BD Biosciences)を用いて、以下の通りに行った。氷冷したDMEM培地(FCSを含まない)でマウス全脾細胞を2×10
7細胞/mLに調製し、これにビオチン標識した抗マウスCD4、CD5、CD8a、CD19、CD24、Ly−6G、Ly−6C、TER−119/Erythroid Cellsモノクローナル抗体を加え、氷上で15分間処理した。続いて遠心洗浄を行い、上清を除いた細胞にBD
TM IMag Streptavidin Particles Plus−DMを20×10
7細胞/mLになるように加え、冷蔵で30分間インキュベートした。その後、細胞浮遊液をプラスチック製丸底試験管に移し、BD
TM IMagnet(BD Biosciences)を用いて細胞を分離し、ネガティブフラクションを、富化したNK細胞とした。
【0022】
(5.2.NK細胞の精製)
Mouse NK Cell Separation Set−DM(BD Biosciences)を用いて、以下の通りに行った。氷冷したDMEM培地でマウス全脾細胞を2×10
7細胞/mLに調製し、これにPE標識した抗マウスCD49b/Pan−NK Cells モノクローナル抗体を加え、冷蔵で15分間処理した。次に遠心洗浄を行い、上清を除いた細胞にBD
TM IMag Anti−PE Particles2−DMを20×10
7細胞/mLになるように加え、冷蔵で30分間インキュベートした。その後、細胞浮遊液をプラスチック製丸底試験管に移し、BD
TM IMagnetを用いて細胞を分離し、ポジティブフラクションを精製NK細胞とした。
【0023】
(6.細胞培養)
10% FCS、100U/mL ペニシリンG、100μg/mLストレプトマイシン及び2mM L−グルタミンを含むRPMI 1640培地を培養培地として用いた。培養は全て37℃、5% CO
2、95% 大気の気相下、加湿環境にて行った。
【0024】
(7.細胞数計数法)
0.04% トリパンブルー(Merck)生理食塩水溶液と等容の細胞懸濁液を混合し、カバーグラスを密着させた改良Neubauer型計数盤にしみ込ませた。顕微鏡下でトリパンブルーによって染色されなかった細胞を生細胞として計数し、細胞生存率を算出した。
【0025】
(8.NK細胞傷害能の測定)
全脾細胞(1×10
6細胞/200μL/ウェル)、又は、富化したNK細胞(1×10
5細胞/200μL/ウェル)、又は、精製NK細胞(1×10
5細胞/200μL/ウェル)を2−メルカプトエタノール(50μM)及び試薬と共に、96穴平底マイクロカルチャープレート(Nunc)を用いて6時間、24時間もしくは48時間培養した。培養終了後、培養プレートを遠心洗浄後、10%FCS/RPMI 1640培地を(100μL/ウェル)添加した。炭酸ガスインキュベーター内で加温下、Calcein−AM(和光純薬工業株式会社)を取り込ませたYAC−1細胞を、全脾細胞には2×10
4細胞/100μL/ウェル、富化したNK細胞及び精製したNK細胞には1×10
4細胞/100μL/ウェル添加し、4時間培養した。その後培養プレートを遠心洗浄後、1%−Triton X−100−ホウ酸緩衝液を200μl/ウェル添加し30分間インキュベートして細胞を溶解後、YAC−1細胞内の蛍光強度をFuluoloskan Ascent CFにて測定した(励起波長:485nm,発光波長:527nm)。
【0026】
【数1】
【0027】
(9.MTT法による生細胞数(細胞増殖)の測定)
上記の条件で培養し、培養上清のうち150μL/ウェルを除去後、新たな培養培地を50μL/ウェルで添加し、MTT溶液(5mg/mL)を25μl/ウェル加えて、2時間インキュベートした。その後、lysing solution(20% SDS/50% DMF, pH4.5)を100μL/ウェル添加し、遮光下37℃で一晩静置し、細胞を溶解後、570nmの吸光度をプレートリーダーで測定した。
【0028】
(10.インビボ投与後のNK細胞傷害能の測定)
上記「3.」で調製したカキ抽出物のパウダーについて、30% エタノール可溶性−50% エタノール不溶性画分(Ethanol 50)を0.2mLの生理食塩水に溶解したものを3日間連続してマウスの腹腔内に投与した(200mg/kg)。最後の腹腔内投与2時間後に全脾細胞を調製し、前述のように全脾細胞(1×10
6細胞/100μL/ウェル)とCalcein−AMを取り込ませたYAC−1細胞(2×10
4細胞/100μL/ウェル)を4時間培養することによりNK細胞傷害能を測定した。
【0029】
(11.Sephadex G−25によるゲル濾過クロマトグラフィー)
Sephadex G−25(Medium)カラム(PD−10、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)をPBSで平衡化した。カキ抽出物(4mg/2mL)をアプライした後、PBSで溶出しフラクションを回収した(1mL/フラクション)。
【0030】
(12.エタノール分画)
カキ抽出物のH
2O溶液に終濃度30%となるようにエタノールを添加し、4℃で24時間静置した。遠心操作(4℃、3000rpm、10min)後、上清を別の遠沈管に回収し、終濃度50%となるようにエタノールを添加し、4℃で24時間静置した。遠心操作後、上清を別の遠沈管に回収した。その後、各沈殿と最終上清の残渣を凍結乾燥した。
【0031】
(B.結果)
(1.脾細胞におけるNK活性に及ぼすカキの影響)
カキ熱水抽出物について、マウス全脾細胞のNK活性に及ぼす影響を検討した。マウス全脾細胞をカキ抽出物と共に24時間培養し、NK活性を測定した。その結果、NK活性増強作用が認められた。脾細胞に対する細胞毒性をMTT法で測定したところ、実験で用いた濃度のカキ抽出物では細胞毒性は見られず、脾細胞はむしろわずかに増加していた。
【0032】
(2.カキ抽出物のNK活性増強作用に及ぼすトリプシン処理の影響)
カキ抽出物中の活性物質の性質を検討するため、37℃、30分でトリプシン処理を行いNK活性の変化を調べた。その結果、カキ抽出物のNK活性増強作用はトリプシン処理による影響を全く受けなかった。なお、カキ抽出物中にトリプシンインヒビター活性を持つ物質が含まれている可能性があるため、トリプシンによるアゾカゼインの分解をカキ抽出物がどの程度抑制するかを検討した。その結果、カキ抽出物は0.01%トリプシンの活性を抑制しなかった。したがって、カキ抽出物中の有効成分がタンパク質成分でないことが示唆された。
【0033】
(3.カキ抽出物中のNK活性増強物質のエタノール分画)
カキ抽出物を30〜50%のエタノールで分画し、得られた各フラクションのNK活性増強作用を測定した。その結果、カキ抽出物中の活性物質は30%エタノール可溶性−50%エタノール不溶性画分(Ethanol 50)で最も傷害活性が強かった。その作用は濃度依存的であり、1mg/mLの活性はNK活性化作用をもつことが知られているIL−2(10 U/mL)に匹敵するものであった。また実験で用いた濃度のEthanol 50では細胞毒性は見られなかった。以後の実験では主にEthanol 50を用いた。
【0034】
(4.カキ抽出物及びEthanol 50のNK活性に及ぼす経時的影響)
カキ抽出物及びEthanol 50と共に6、24、48時間培養後の脾細胞を用いてNK活性を測定した。その結果、カキ抽出物及びEthanol 50は共に短時間である6時間のインキュベーションではNK活性をわずかにしか増強しなかったが、24時間、48時間では時間の経過につれて活性は増強された。24時間から48時間の活性増強の程度はカキ抽出物の方がより顕著であった。なお、同様の結果は、LPSに対して低感受性であるC3H/HeJマウスを用いた実験でも観察されたことから、NK活性化にエンドトキシンが関与していないことが確認された。また、このNK活性化は、富化NK細胞を用いた場合でも、精製NK細胞を用いた場合でも観察されたことから、他の種類の細胞を介することなく、カキ抽出物中の成分が直接NK細胞に作用した結果であると結論付けられた。
【0035】
(5.Ethanol 50のゲル濾過クロマトグラフィー)
Ethanol 50中のNK活性増強物質の分子量を測定するために、Sephadex G−25(分画分子量 多糖:100〜5000、ペプチド及び球状タンパク質:1000〜5000)を用いてゲル濾過クロマトグラフィーを行い、得られた各フラクションのNK活性を調べた。その結果、No.2〜7でNK活性促進作用が見られ、そのピークはNo.4であった。分子量2531のinsulin A鎖のピークはNo.3と4の間、分子量1423のBacitracinのピークはNo.4と5の間にあり、したがって、カキ抽出物の活性成分の見かけの分子量は約2000であると推定された。なお、各フラクションの280nmにおける吸光度を測定した結果、No.2〜9に吸収が見られた。
【0036】
(6.Ethanol 50画分のNK活性増強作用に及ぼすカルボキシペプチダーゼY処理の影響)
Ethanol 50画分中の活性物質の性質を検討するため、25℃、30分で0.05%カルボキシペプチダーゼY処理を行いNK活性の変化を調べた。その結果、カキ抽出物のNK活性増強作用はカルボキシペプチダーゼY処理による影響を全く受けなかった。一方、IL−2のNK活性増強作用はカルボキシペプチダーゼY処理により失活した。したがって、カキ抽出物中の有効成分はペプチド成分あるいはポリペプチド成分でないことが示唆された。
【0037】
(7.Ethanol 50画分のNK活性促進作用に対する過ヨウ素酸ナトリウム処理の影響)
次にNK細胞活性促進物質が糖質かどうかを検討するため、過ヨウ素酸ナトリウムでEthanol 50画分を処理しNK細胞促進活性の変化を調べた。過ヨウ素酸ナトリウムはその酸化作用で糖分子のジオール基間炭素結合を切断し、アルデヒド基にすることで糖分子を切断することが知られている。Ethanol 50画分をPBSに溶解させた過ヨウ素酸ナトリウムで2日間、4℃で処理し、チオ硫酸ナトリウムで還元した後、Sephadex G−25ゲルろ過クロマトグラフィーを行い不要なイオンを除きNKアッセイを行った。なお、コントロール群として、Ethanol 50画分を過ヨウ素酸ナトリウムを含まないPBSで2日間、4℃で処理し、チオ硫酸ナトリウムで還元した後、Sephadex G−25ゲルろ過クロマトグラフィーを行いNKアッセイを行った。その結果、NK細胞活性促進作用は過ヨウ素酸ナトリウム処理により失活することが認められた。このことは活性物質が糖質であることを示唆している。
【0038】
Wangら(Mar.Drugs 8,255−268(2010))は、カキをバチルス属菌由来のプロテアーゼで加水分解して生成したカキペプチドにマウスNK細胞活性化を介する抗腫瘍効果があることを示した。しかしながら、本発明のカキ抽出物とは物性が異なり、それゆえ、本発明とは、異なる成分を含むと考えられる。
【0039】
(8.Ethanol 50のインビボ投与によるNK活性増強)
Ethanol 50はインビトロでNK細胞の細胞傷害性を活性化することがわかったので、続いてインビボ投与におけるNK活性に及ぼす影響を検討した。マウスにEthanol 50を3日間連続腹腔内投与し、最後の腹腔内投与2時間後に脾細胞を調製した。全脾細胞をYAC−1細胞とともに4時間培養し、NK活性を測定した。その結果、生理食塩水を投与したコントロール群に対してEthanol 50投与群のNK活性(細胞傷害能)が有意に増強した(
図1)。 上記の実験結果から、本発明の抽出法によって得られたカキ抽出物は、耐熱性であり、かつ、タンパク質、ペプチド成分ではない、分子量約2000の、新規の活性成分を含む抽出物であることが実証された。本発明のカキ抽出物は、NK細胞を直接活性化することにより、細胞障害性を増強することが示された。また、インビボにおいても、NK細胞活性化能が確認された。
【0040】
(実施例2:カキ抽出物の物性および抗腫瘍効果)
(A.実験材料及び方法)
実施例1に加えて、以下の実験材料及び方法を用いた。
【0041】
(1.細胞)
B16細胞(マウスメラノーマ)、Meth A細胞(マウス線維芽肉腫)及びCT−26細胞(マウス結腸癌)は、Riken BRC Cell Bank(つくば市)より入手した。
【0042】
(2.担癌マウスモデルを用いたインビボでの抗腫瘍実験)
PBSに溶解させたEthanol 50画分 (200mg/kg)をB16細胞またはMeth A細胞を播種する3日前から腫瘍播種後14日目まで連日C57BL/6NマウスまたはBALB/cマウスにそれぞれ腹腔内投与した。B16細胞は背部皮下に5×10
5細胞/200μL(FCSを含まないRPMI 1640培地)で、また、Meth A細胞は背部皮下に2×10
6細胞/200μL(FCSを含まないRPMI 1640培地)で播種した。B16細胞またはMeth A細胞播種日を0日目とし、コントロール群にはPBSを−3日目から14日目まで毎日腹腔投与した。背部に腫瘍成長を確認できた日から腫瘍の短径・長径をノギスにて測定した。14日目にC57BL/6NマウスまたはBALB/cマウスを頸椎脱臼にて犠牲にし、腫瘍重量を測定した。評価は群ごとの腫瘍重量、腫瘍体積にて行った。腫瘍体積は短径
2×長径/2で表した。
【0043】
(3.アネキシンV陽性細胞測定)
Annexin V apoptosis detection kit FITC(eBioscience)のプロトコールに沿って、アネキシンV陽性細胞測定を行った。10×Binding Buffer をMilli−Q H
2Oで希釈し、細胞を1×Binding bufferで洗浄した。そして1×10
6細胞/mLの濃度で細胞懸濁液を調製し、FITC−アネキシンVを5μL添加後10〜15分間静置した。その後1×Binding bufferで二回洗浄し、PIを5μL添加してFACS測定を行った。
【0044】
(B.結果)
(1.Ethanol 50画分の担癌マウスにおける抗腫瘍効果)
C57BL/6Nマウスに同種由来のB16メラノーマ細胞を播種し、担癌マウスモデルを作成してEthanol 50画分の抗腫瘍作用を検討した。Ethanol 50画分をあらかじめ(−3日目から)マウスに腹腔内投与して(コントロール群にはPBSを投与)、NK細胞を活性化させ、その後マウス背部皮下にB16細胞を播種し(0日目)、14日目までの腫瘍成長を記録した。Ethanol 50画分を−3日目から14日目まで毎日腹腔内投与した。腫瘍の成長が認められた日から腫瘍の長径と短径をノギスにて測定し、長径×短径
2/2を腫瘍体積として経時的変化を調べた(
図2)。またB16腫瘍細胞播種後14日目にマウスを犠牲にし、腫瘍重量を測定した。その結果Ethanol 50画分の投与により腫瘍体積並びに腫瘍重量の増加が有意に抑制された。また、Ethanol 50画分を同様の期間経口投与(2000mg/kg)した場合は、腫瘍体積並びに腫瘍重量の増加に対してより強い抑制効果が認められた。
【0045】
この結果は、本発明のカキ抽出物が、メラノーマに対しても有効であることを示すものである。Jilaveanuら(Clin.Dermatol.27,614−625(2009))に記載され、また、抗がん剤適正使用のガイドライン(http://nvc.halsnet.com/jhattori/cancer−navi/guideline/Guideline_Kouganzai.htm)にも記載されているように、メラノーマの処置は困難であることが広く認識されているため、メラノーマを処置可能であるという本発明のカキ抽出物の効果は、非常に優れた予想外の効果である。
【0046】
次に、BALB/cマウスにMeth A細胞を播種し、担癌マウスモデルを作成してカキエキスの抗腫瘍作用を検討した。Ethanol 50画分をあらかじめ(−3日目から)マウスに腹腔内投与を行い(コントロール群にはPBSを投与)、その後マウス背部皮内にMeth A細胞を播種し(0日目)、14日目までの腫瘍成長を記録した。Ethanol 50画分は−3日目から14日目まで毎日腹腔投与した。腫瘍の成長が確認できた日から腫瘍の長径と短径をノギスにて測定し、長径×短径
2/2を腫瘍体積として経時的変化を調べた。またMeth A腫瘍細胞播種後14日目にマウスを犠牲にし、腫瘍重量と脾臓重量を測定した。その結果、Ethanol 50画分の投与により腫瘍体積の成長が抑制され(
図3)、13、14日目の腫瘍体積に有意な縮小が認められた。またEthanol 50画分の投与により14日目の腫瘍重量の抑制が認められた(
図4)。
【0047】
(2.カキ抽出物のインビトロにおける抗腫瘍効果)
Ethanol 50画分の腫瘍細胞に対する直接的な効果を、インビトロの培養細胞を用いて調べた。その結果、Ethanol 50画分はB16細胞の増殖を担癌マウスを用いたインビボの効果とは逆に促進したが、Meth A細胞(マウス線維芽肉腫)、YAC−1細胞(マウスリンパ腫)、CT−26細胞(マウス結腸癌)の増殖を抑制し、なかでも、Meth A細胞に対する抑制作用が最も強かった(
図5)。
【0048】
このように、Ethanol 50画分がB16細胞の増殖に対してインビトロでは直接抑制せず、むしろ促進したにもかかわらず、担癌マウスを用いたインビボでは抑制効果を示したことは、インビボでは関接的に腫瘍増殖を抑制することが示唆される。Ethanol 50画分がまずNK細胞を活性化し、それを介して抗腫瘍効果を発揮することが考えられる。
【0049】
佐藤友美(弘前大学医学部保健学科検査技術科学専攻卒業論文集 第2巻、297−302頁、2006年3月)は、カキエキスがリンパ球を活性化して抗腫瘍作用を示すとする考え方には無理があるように思えると記述しているが、本発明のカキ抽出物は、NK活性促進作用及び抗腫瘍作用を有する点において特徴的な抽出物である。
【0050】
以下の実験では強い増殖抑制作用を示したMeth A細胞に注目した。まずカキ抽出物のエタノール分画の増殖抑制作用を比較した。OEは、エタノール分画をしていない抽出物を示す。OE30iは、エタノール終濃度を30%とした時の不溶性画分を示す。OE50iは、エタノール終濃度を30%とした時の可溶性画分にエタノールを添加し終濃度を50%とした時の不溶性画分を示す。OE50sは、エタノール終濃度を50%とした時の可溶性画分を示す。エタノール終濃度を50%とした時の不溶性画分であるOE50i(Ethanol 50画分)で最も抗腫瘍作用が強かったが、エタノール終濃度を50%とした時の可溶性画分であるOE50sでもOE50iには及ばないながらも抗腫瘍活性が認められた(
図6)。
【0051】
(3.Ethanol 50画分の経時的抗腫瘍作用)
Ethanol 50画分の腫瘍増殖抑制作用の経時的変化をMTT法にて評価した。Ethanol 50画分(0、0.75、1.5mg/mL)とMeth A細胞を24時間および48時間培養したところ、48時間培養の方により強い増殖抑制作用が認められた(
図7)。同様な増殖抑制作用はトリパンブルー法により測定した生細胞数でも認められたが、Ethanol 50画分の濃度が高くなっても細胞生存率に大きな変化は見られなかった(表2)。
【0052】
【表2】
【0053】
従ってEthanol 50画分はMeth A腫瘍細胞を細胞死へ誘導させるのではなく、その細胞増殖能を抑制しているものと考えられる。さらに少ない細胞数のMeth A細胞とEthanol 50画分を長時間(48時間および72時間)培養すると、さらに強い増殖抑制作用が見られた。
【0054】
(4.Ethanol 50画分のアポトーシス誘導作用)
細胞がアポトーシスを起こし始めると初めに起こる細胞形態変化として、通常細胞膜内側に存在するホスファチジルセリンが細胞表面に表出することが知られている。アネキシンVはカルシウム依存的にホスファチジルセリンと結合するため、ホスファチジルセリン陽生かつPI陰性細胞を検出することによりアポトーシス初期の細胞を測定することができる。本発明のカキ抽出物による処理を行っても、トリパンブルー法における細胞生存率の測定ではアポトーシスによる死細胞数に変化は認められなかったが、本発明のカキ抽出物は、アポトーシス初期の細胞数に影響する可能性がある。そこでMeth A細胞を、Ethanol 50画分 (0.75、1.5mg/mL)と24時間および48時間培養し、Meth A細胞表面ホスファチジルセリンをFITC標識したアネキシンVで染色した後、FACSにて初期アポトーシス細胞の検出を行った(
図8)。その結果Ethanol 50画分のMeth Aに対するアポトーシス誘導作用が濃度依存的に認められ、また、24時間の培養と比較して48時間の培養の方が、より強い作用を示した。
【0055】
(5.Ethanol 50画分の抗腫瘍効果に対するプロテイナーゼK処理の影響)
Ethanol 50画分中の腫瘍細胞増殖抑制物質がタンパク質かどうかを検討するため、室温で30分間のプロテイナーゼK処理を行い増殖抑制活性の変化を調べた。その結果、Ethanol 50画分の活性はプロテイナーゼK処理による影響を受けなかった。このことから腫瘍細胞増殖抑制物質はタンパク質ではないことが示唆された。
【0056】
(6.Ethanol 50画分の抗腫瘍効果に対する過ヨウ素酸ナトリウム処理の影響)
Ethanol 50画分中の腫瘍細胞増殖抑制物質が糖質かどうかを検討するため、過ヨウ素酸ナトリウムでEthanol 50画分を処理し増殖抑制活性の変化を調べた。その結果、増殖抑制作用の失活が認められ、このことは増殖抑制成分が糖質であるということを示唆した。
【0057】
(7.Ethanol 50画分のゲル濾過クロマトグラフィー)
腫瘍増殖抑制物質の分子量を測定するために、Sephadex G−50 (分画分子量 1500〜30000)によるゲル濾過クロマトグラフィーを行い、得られた各フラクションの抗腫瘍効果をMeth A細胞を用いて検討した。その結果、活性成分の分子量は約2000であった。
【0058】
最近カキエキス由来のグリコーゲンの抗腫瘍効果が報告されている(熊木奈々(カキエキスの抗腫瘍活性。弘前大学医学部保健学科検査技術科学専攻卒業論文集 第1巻:122−128(2005))、佐藤友美(カキエキスにおける抗腫瘍効果の作用機序解析。弘前大学医学部保健学科検査技術科学専攻卒業論文集 第2巻:297−302(2006))、および、松田芳和ら(カキ(Crassostrea gigas)熱水抽出物の癌細胞増殖抑制作用および抗腫瘍作用の検討。微量栄養素研究 第15集:121−127(1998)))。しかしながら、これら文献におけるカキエキス由来グリコーゲンは、本発明のカキ抽出物と同様に、活性成分は糖類であるが、これら文献に記載される活性成分の分子量は約4000kDaと高分子であり、本発明の活性成分とは異なる。したがって、これら文献に記載されるカキ抽出物と本発明のカキ抽出物は、異なる。