(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959258
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】質量分析装置のデータ記録装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20160719BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20160719BHJP
H01J 49/26 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
G01N27/62 Y
H01J49/10
H01J49/26
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-68960(P2012-68960)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-200219(P2013-200219A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2014年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤俊幸
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−014476(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/136775(WO,A2)
【文献】
特開平06−325727(JP,A)
【文献】
特開昭60−207049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−27/70
H01J 40/00−49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析装置から時系列的に送られてくる質量スペクトルデータを順次記憶する第1の記憶装置と、
前記第1の記憶装置から転送された質量スペクトルデータを記憶する第2の記憶装置と、前記第2の記憶装置から転送された質量スペクトルデータを記憶する第3の記憶装置と、前記第1、第2、第3の記憶装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記第1の記憶装置に記憶された質量スペクトルデータ又は該質量スペクトルデータを処理したデータを表示する第1の表示手段と、
該第1の表示手段に表示されたデータに基づいて前記第1の記憶装置から前記第2の記憶装置に転送すべき質量スペクトルデータを選択指定する第1の選択手段と、
前記第2の記憶装置に転送記憶された質量スペクトルデータ又は該質量スペクトルデータを処理したデータを表示する第2の表示手段と、
該第2の表示手段に表示されたデータに基づいて前記第2の記憶装置から前記第3の記憶装置に転送すべき質量スペクトルデータを選択指定する第2の選択手段と、
を備えると共に、
前記第1の選択手段によって選択指定された質量スペクトルデータを前記第1の記憶装置から前記第2の記憶装置に転送し、
前記第2の選択手段によって選択指定された質量スペクトルデータを前記第2の記憶装置から前記第3の記憶装置に転送するように制御することを特徴とする質量分析装置におけるデータ記録装置。
【請求項2】
前記第1の記憶装置は、リングバッファー・メモリから構成されることを特徴とする請求項1記載の質量分析装置におけるデータ記録装置。
【請求項3】
前記第2の記憶装置は、リングバッファー・メモリから構成されることを特徴とする請求項2記載の質量分析装置におけるデータ記録装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第1の表示手段に前記第1の記憶装置に記憶された各質量スペクトルに含まれる全スペクトルピーク強度を加算したデータを時系列的に並べたグラフ、または各質量スペクトル中の特定の質量電荷比のスペクトル強度を時系列的に並べたグラフの少なくともいずれかを表示すると共に、前記第1の選択手段により、第1の表示手段に表示されたグラフの所望の期間を指定することにより、前記第2の記憶装置に転送すべき質量スペクトルデータが選択指定されるように制御することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の質量分析装置におけるデータ記録装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第1の表示手段に表示されたグラフに任意の時刻を指定し得るカーソルを重畳表示すると共に、該カーソルによって指定された時刻に得られた質量スペクトルを前記第1の記憶装置から読み出して前記第1の表示手段に表示することを特徴とする請求項4記載の質量分析装置におけるデータ記録装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記第2の記憶装置に記憶された各質量スペクトルに含まれる全スペクトルピーク強度を加算したデータを時系列的に並べたグラフ、または各質量スペクトル中の特定の質量電荷比のスペクトル強度を時系列的に並べたグラフの少なくともいずれかを前記第2の表示手段に表示すると共に、前記第2の選択手段は、第2の表示手段に表示されたグラフの所望の期間を指定することにより、前記第3の記憶装置に転送すべき質量スペクトルデータが選択指定されるように制御することを特徴とする請求項5に記載の質量分析装置におけるデータ記録装置。
【請求項7】
前記第1の表示手段による画像と前記第2の表示手段による画像は、ひとつの表示画面上に表示されていることを特徴とする請求項1に記載の質量分析装置におけるデータ記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置のデータ記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン化法にはさまざまな方法が知られているが、近年、DART(Direct Analysis in Real Time)(米国登録商標)と呼ばれる電荷を持たない励起されたガス分子(原子)を用いた大気圧イオン化法が注目されている。これは、コロナ放電またはグロー放電によって生成した励起分子を大気圧下で試料と反応させ、試料をイオン化して、質量分析計のイオン導入口(以下、オリフィスと呼ぶ)に導入させるものである。
【0003】
DARTの原理図を
図1に示す。DARTはほぼ大気圧に置かれた連通する3つの部屋で構成されている。まず、第1の部屋51は、ニードル電極55を備え、コロナ放電またはグロー放電によって励起分子を生成させる役割を持っている。第1の部屋51にはヘリウム、ネオン、窒素などのキャリアガスを導入するためのガス導入管54が接続され、第1の部屋51をガスで満たすことができる。以下、ヘリウムを例にとって説明する。
【0004】
第1の部屋51と第2の部屋52との間の仕切り56(対向電極)は接地電位に設定されており、第1の部屋51に取り付けられたニードル電極55と仕切り56との間でコロナ放電またはグロー放電を起こさせることができるようになっている。このコロナ放電またはグロー放電により、第1の部屋1に導入された例えば基底一重項分子ヘリウムガスHe(1
1S)は、ヘリウムイオンHe
+、電子e
−、および、19.8eVに励起された励起三重項分子He(2
3S)の混合物に変化する。
【0005】
第2の部屋52と第3の部屋53との間の仕切り57(穴あき円盤電極)は約100Vに設定されていて、接地電位の仕切り56との間で電位勾配が設けられている。第2の部屋52では第1の部屋51で生成したヘリウムイオンHe
+と電子e
−をブロックし、中性の励起三重項分子He(2
3S)のみを通過させる。ヘリウムイオンHe
+は仕切り57で反射され、電子e
−は仕切り57で吸収される。
【0006】
第2の部屋52を通過した励起三重項分子He(2
3S)は、第3の部屋53において、図示しないヒータによって加熱される。この加熱は、試料の気化、熱脱離を助ける目的でなされるものである。
【0007】
第3の部屋53の出口部58はグリッド電極(仕切り)になっており、約250Vの電圧が印加されている。一方、オリフィス100には、約30Vの電圧が印加されているので、第3の部屋53の出口部58からオリフィス100に向けては、正イオンが加速される電位勾配が発生する。
【0008】
尚、DARTでは、ガス分子の励起を効率良く行なうために、ニードル電極55、仕切り56、仕切り57、出口部58はほぼ直線上に配置されている。
【0009】
第3の部屋53で加熱された中性の励起三重項分子He(2
3S)は、出口部58を介してヘリウムガスの流れに乗って外に取り出され、流れの中に配置される試料59に接触する。試料59は、固体でも液体でも良い。その際、励起三重項分子He(2
3S)は大気中の水分子と反応して、水分子をペニングイオン化する。この水分子正イオンが大気中の水と水クラスター正イオンを形成し、さらにこの水クラスター正イオンが試料59と反応してプロトンH
+が試料分子Mに付加した試料イオンMH
+が生成する。
【0010】
イオン化のメカニズムを表わしたものが
図2である。
図2のメカニズムに基づいて生成した正イオンMH
+は、第3の部屋53の出口部58からオリフィス100に向けて発生した負の電位勾配に従って、オリフィス10に吸い込まれ、図示しない質量分析計により質量分析がなされる。
【0011】
尚、以上の例は正イオンが生成する場合の例であるが、負イオンが生成する場合には、出口部58とオリフィス100の間に印加される電位勾配の向きを逆にする必要がある。
【0012】
このようなDARTイオン化法の薄層クロマトグラフィー(TLC)への応用例を
図3に示す。
【0013】
据え付けレール10−1上に鉛直方向に立てられた支柱10−2に、所定の距離14、高さ15、および据え付け角度13に設定されたDARTイオン源11が固定されている。その精密な位置合わせは、調整ネジ16、17により行なわれる。
【0014】
DARTイオン源11の噴射ノズル12の延長線上には、薄層クロマトグラフ基板3上に展開された試料4が、基板3ごと置かれている。噴射ノズル12から噴出された励起ガスは、その延長線上に置かれた基板3上の試料スポット4に向けて吹き付けられ、試料スポット4に含まれている試料成分をイオン化する。
【0015】
イオン化された試料成分は、大気圧インターフェイス22上のイオン導入口23に導入され、質量分析装置21により質量分析される。
【0016】
質量分析装置は、パーソナル・コンピュータなどの制御装置30により制御されており、制御装置30は、データ記憶装置としてリングバッファー・メモリ31およびハードディスク装置32を内蔵している。測定されたデータは、表示装置33上に表示させることができる。
【0017】
このようなイオン化方法では、わずか数秒で試料の質量分析が行なえるため、質量分析計の分析動作を継続したまま、次々に試料を測定にかけることができる。その結果得られた測定データは、リングバッファー・メモリに記録され、
図4のようなリアルタイム画面に、測定された個々のマススペクトル、該マススペクトルに含まれる全スペクトルピーク強度を加算したトータルイオン・クロマトグラム、および該マススペクトル中の特定の質量数におけるスペクトルピーク強度を加算したマス・クロマトグラムのセットとして表示される。
【0018】
リングバッファー・メモリの容量は限られているので、データの蓄積が進むと、古いデータから順次削除され、新しいデータがその代わりに順次蓄積されていく(
図5)。その結果、リングバッファー・メモリは、記憶領域が一杯になってそれ以上の測定データを書き込めなくなる、ということがない。
【0019】
図4で示すように、トータルイオン・クロマトグラムならびにマス・クロマトグラムの所望のピークを画面上、カーソル線で選択すると、そのピークにおけるマススペクトルが画面の上部に表示される。こうして表示されたマススペクトルとクロマトグラムとから、有意なデータのみをオペレータが選択して、ハードディスク中に記録する(
図5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第6949741号公報。
【0021】
【特許文献2】WO2004/098743号公報。
【0022】
【特許文献3】特表2006−523367号公報。
【0023】
【特許文献4】特開2004−212172号公報。
【0024】
【特許文献5】特開平6−018293号公報。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】DARTによるイオン化のメカニズムを説明する図である。
【
図3】従来のDARTイオン化質量分析装置を示す図である。
【
図4】従来のDARTイオン化質量分析装置の表示画面を示す図である。
【
図5】従来のDARTイオン化質量分析装置の測定手順を示す図である。
【
図6】本発明にかかるDARTイオン化質量分析装置の表示画面の一実施例を示す図である。
【
図7】本発明が適用可能な測定データの例を示す図である。
【
図8】本発明にかかるDARTイオン化質量分析装置の測定手順の一実施例を示す図である。
【
図9】本発明が適用する測定データ群のリングバッファー・メモリ内への記憶方式を示す図である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
この場合、次のような問題があった。
【0027】
1.注目される試料間の測定間隔が長くなると、前に測定した注目されるデータ領域のデータが古くなり、リングバッファー・メモリから削除されてしまい、必要な際に利用できなくなる場合があった。
【0028】
2.注目されるデータ領域と類似したデータ領域が多数ある場合、本当に注目するデータ領域を探し出すのに手間がかかる場合があった。
【0029】
3.これらの問題点を解決するために、データをハードディスクに記録後、解析作業を進める方法もあるが、その方法では解析のリアルタイム性が損なわれてしまう。
【0030】
本発明の目的は、上述した点に鑑み、データ解析のリアルタイム性を損なうことなく、容易にDARTのデータ解析を行なえる質量分析装置のデータ記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
この目的を達成するため、本発明にかかる質量分析装置のデータ記録装置は、
質量分析装置から時系列的に送られてくる質量スペクトルデータを順次記憶する第1の記憶装置と、
前記第1の記憶装置から転送された質量スペクトルデータを記憶する第2の記憶装置と、前記第2の記憶装置から転送された質量スペクトルデータを記憶する第3の記憶装置と、前記第1、第2、第3の記憶装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記第1の記憶装置に記憶された質量スペクトルデータ又は該質量スペクトルデータを処理したデータを表示する第1の表示手段と、
該第1の表示手段に表示されたデータに基づいて前記第1の記憶装置から前記第2の記憶装置に転送すべき質量スペクトルデータを選択指定する第1の選択手段と、
前記第2の記憶装置に転送記憶された質量スペクトルデータ又は該質量スペクトルデータを処理したデータを表示する第2の表示手段と、
該第2の表示手段に表示されたデータに基づいて前記第2の記憶装置から前記第3の記憶装置に転送すべき質量スペクトルデータを選択指定する第2の選択手段と、
を備えると共に、
前記第1の選択手段によって選択指定された質量スペクトルデータを前記第1の記憶装置から前記第2の記憶装置に転送し、
前記第2の選択手段によって選択指定された質量スペクトルデータを前記第2の記憶装置から前記第3の記憶装置に転送するように制御することを特徴としている。
【0032】
また、前記第1の記憶装置は、リングバッファー・メモリから構成されることを特徴としている。
【0033】
また、前記第2の記憶装置は、リングバッファー・メモリから構成されることを特徴としている。
【0034】
また、前記制御装置は、前記第1の表示手段に前記第1の記憶装置に記憶された各質量スペクトルに含まれる全スペクトルピーク強度を加算したデータを時系列的に並べたグラフ、または各質量スペクトル中の特定の質量電荷比のスペクトル強度を時系列的に並べたグラフの少なくともいずれかを表示すると共に、前記第1の選択手段により、第1の表示手段に表示されたグラフの所望の期間を指定することにより、前記第2の記憶装置に転送すべき質量スペクトルデータが選択指定されるように制御することを特徴としている。
【0035】
また、前記制御装置は、前記第1の表示手段に表示されたグラフに任意の時刻を指定し得るカーソルを重畳表示すると共に、該カーソルによって指定された時刻に得られた質量スペクトルを前記第1の記憶装置から読み出して前記第1の表示手段に表示することを特徴としている。
【0036】
また、前記制御装置は、前記第2の記憶装置に記憶された各質量スペクトルに含まれる全スペクトルピーク強度を加算したデータを時系列的に並べたグラフ、または各質量スペクトル中の特定の質量電荷比のスペクトル強度を時系列的に並べたグラフの少なくともいずれかを前記第2の表示手段に表示すると共に、前記第2の選択手段は、第2の表示手段に表示されたグラフの所望の期間を指定することにより、前記第3の記憶装置に転送すべき質量スペクトルデータが選択指定されるように制御することを特徴としている。
【0037】
また、前記第1の表示手段による画像と前記第2の表示手段による画像は、ひとつの表示画面上に表示されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0038】
本発明にかかる質量分析装置のデータ記録装置によれば、
質量分析装置から時系列的に送られてくる質量スペクトルデータを順次記憶する第1の記憶装置と、
前記第1の記憶装置から転送された質量スペクトルデータを記憶する第2の記憶装置と、前記第2の記憶装置から転送された質量スペクトルデータを記憶する第3の記憶装置と、前記第1、第2、第3の記憶装置を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記第1の記憶装置に記憶された質量スペクトルデータ又は該質量スペクトルデータを処理したデータを表示する第1の表示手段と、
該第1の表示手段に表示されたデータに基づいて前記第1の記憶装置から前記第2の記憶装置に転送すべき質量スペクトルデータを選択指定する第1の選択手段と、
前記第2の記憶装置に転送記憶された質量スペクトルデータ又は該質量スペクトルデータを処理したデータを表示する第2の表示手段と、
該第2の表示手段に表示されたデータに基づいて前記第2の記憶装置から前記第3の記憶装置に転送すべき質量スペクトルデータを選択指定する第2の選択手段と、
を備えると共に、
前記第1の選択手段によって選択指定された質量スペクトルデータを前記第1の記憶装置から前記第2の記憶装置に転送し、
前記第2の選択手段によって選択指定された質量スペクトルデータを前記第2の記憶装置から前記第3の記憶装置に転送するように制御することを特徴としているので、
データ解析のリアルタイム性を損なうことなく、容易にDARTのデータ解析を行なえる質量分析装置のデータ解析記録装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。質量分析装置の基本構成自体は、
図3に示した従来の質量分析装置の構成と同じである。
【0040】
さて、本発明のデータ解析記録装置には、従来技術に存在していたリングバッファー・メモリ(第1のリングバッファー・メモリ)に加え、第2のリングバッファー・メモリが用意されている。これらは、高速アクセスが可能なDRAM(デジタル・ランダム・アクセス・メモリ)によって構成されても良いし、ソフトウェア的に構築しても良い。
【0041】
第1のリングバッファー・メモリと第2のリングバッファー・メモリは、互いに独立しており、第1のリングバッファー・メモリ中に蓄えられたデータの一部または全部を、第2のリングバッファー・メモリ中に移すことができるよう構成されている。第2のリングバッファー・メモリ中のデータの一部または全部は、別途用意された、情報を磁気的に記憶する大容量HDD(ハードディスク・ドライブ)への書き込みが可能である。
【0042】
図6は、本発明にかかるデータ解析記録装置の表示画面の一実施例である。図中、中段から下段にかけて、第1のリングバッファー・メモリに保持されているデータの内容が表示される。この表示は、基本的に従来技術のリアルタイム画面と同じであり、画面の中段付近にマススペクトル、画面の下段付近にトータルイオン・クロマトグラムならびにマス・クロマトグラムの画像が表示される構成になっている。
【0043】
ここでトータルイオン・クロマトグラムならびにマス・クロマトグラムの所望のピークを画面上、カーソル線で選択すると、そのピークにおけるマススペクトルが画面の中段付近に表示される。こうして表示されたマススペクトルとクロマトグラムとから判断して、有意なデータのみをオペレータが選択することができる。
【0044】
有意なデータ領域(クロマトピーク)の選択は、
図6に示すように、ラバーバンドRBで所望のデータ領域を囲むことにより、行なわせることができる。あるいは別の例として、2本のカーソル線を使って所望のデータ領域を左右から挟むことによって行なわせるようにしても良い。
【0045】
画面の上段左側には、この選択行為によって選択され、第2のリングバッファー・メモリ中に移して記憶されたデータが表示される。表示されるデータは、基本的に第2のリングバッファー・メモリ中に保持されたクロマトグラム・ピーク群である。
【0046】
ここでクロマトグラム・ピーク群の中から所望のピークを画面上、カーソル線で選択すると、そのピークにおけるマススペクトルが画面の上段右側に表示される。こうして表示されたマススペクトルと、画面中下段にすでに表示されている第1のリングバッファー・メモリ中の所望のデータとを対比させることにより、オペレータはこれらのデータが有意なデータか否かを最終的に判断することができる。
【0047】
表示画面の右上隅には、ハードディスクへの記録を指令するボタンが表示されており、このボタンをクリックすれば、第2のリングバッファー・メモリに保持されているデータの中からオペレータが最終的に有意であると判断して選択したデータが、ハードディスク中に記録される。
【0048】
なお、ここでの説明では、DARTイオン源により、薄層クロマトグラフ基板上に点在する試料スポットを連続的にイオン化してトータルイオン・クロマトグラムおよびマス・クロマトグラムを取得した際の有意なデータの選別方法について述べたが、本発明はそれだけに限定されない。
【0049】
例えば、
図7(a)に示すように、複数の薄層クロマトグラフ(TLC)基板を次々と連続させて、時系列的に測定した際の長時間に渡る測定データに対しても、先に述べた方法と全く同様の方法で、異なるTLC間でデータを比較し合うことにより、有意なデータの選別を行なうことが可能である。
【0050】
また、ガラス棒の先端にさまざまな試料を点着させたものを多数本用意し、質量分析装置をONの状態にしたまま、DARTイオン源により、次々に試料棒をイオン化させて質量分析装置で分析すれば、
図7(b)に示すように、見かけ上、イオンピークが測定時間の経過に連動して、出現したり消失したりを繰り返すことになる。これを通常のクロマトグラムに見立てて、先に述べた方法と全く同様の方法で、有意なデータの選別を行なうことも可能である。
【0051】
次に、本実施例の動作を
図8に基づいて説明する。
【0052】
1.DARTイオン源によりイオン化された試料のマススペクトルを質量分析計によって測定する(ステップ1)。
【0053】
2.試料ごとのマススペクトル群を、その試料の測定実時間と対応づけしながら、前記質量分析計から該質量分析計内のデータ処理装置内に設けられた第1のリングバッファー・メモリ中に順次取り込む(ステップ2)。
【0054】
なお、実際にリングバッファー・メモリに取り込まれているデータは、
図9に示すように、1サンプルに対応して測定されたマススペクトル群であり、x軸に質量電荷比の軸、y軸に測定時間軸、z軸にマスピークの信号強度値がそれぞれ割り当てられていて、それらが3次元的なデータの塊として記憶されている。そのようなデータ塊が、測定時間の経過に従って、時系列的に次々にリングバッファー・メモリ中に記憶されていく。その際、リングバッファー・メモリの時間軸と、3次元的なデータ塊が持っている時間軸とが、互いに一致するような記憶方法を取らせる。
【0055】
マススペクトルとしてデータを表示させる際には、そのデータ塊の所定のy値に対し、x軸を表示の横軸、z軸を表示の縦軸として表示させれば良い。また、マス・クロマトグラムとしてデータを表示させる際には、そのデータ塊の所定のx値に対し、y軸を表示の横軸、z軸を表示の縦軸として表示させれば良い。また、トータルイオン・クロマトグラムとしてデータを表示させる際には、そのデータ塊を構成している各マススペクトルのマスピーク全体をy軸上に投影した後、y軸を表示の横軸、z軸を表示の縦軸として表示させれば良い。このようなデータ記憶方法とデータ表示方法を採用すれば、測定されたデータ塊への高速アクセスが可能となる。
【0056】
3.前述した方法によってトータルイオン・クロマトグラムまたはマス・クロマトグラムを表示させた後、所望のクロマトピークをリアルタイム画面上でカーソル線により選択して、マススペクトルを表示させる。ここで簡単なデータ解析が行なわれても良い。選択されたマススペクトルが注目されるデータである場合は、
図6に示すように、そのマススペクトルが存在するクロマトピークを囲んで指定し、移動を指示する(ステップ3)。
【0057】
4.第2のリングバッファー・メモリ内にその指定されたデータ塊(マス・クロマトグラム、トータルイオン・クロマトグラム、およびマススペクトル。もし存在すればそれらの解析結果も)を記憶させる(ステップ4)。
【0058】
なお、ステップ3とステップ4は、オペレータによる手動操作を想定しているが、マススペクトルやクロマトグラムの自動解析に伴う自動操作であっても良い。また、これらの作業は、第1のリングバッファー・メモリ中にデータが残っている間であれば、いつどのタイミングでも行なうことができる。
【0059】
5.ステップ3とステップ4で選択されなかった不要なデータ塊は、第1のリングバッファー・メモリの容量が満杯になった時点で、古い順に第1のリングバッファー・メモリ中から順次削除される(ステップ5)。
【0060】
6.複数回のステップ4の操作によって第2のリングバッファー・メモリ中に蓄積されたデータ塊は、データ塊の区切りを示す目印や、クロマトグラフの展開時間、測定時刻、試料名などの試料認識情報とともに、リアルタイム画面上に表示でき、リアルタイム画面上でマススペクトルとクロマトグラムの解析を行なうことができる(ステップ6)。
【0061】
なお、リアルタイム画面は、表示区画が大きく2つに分かれており、一方の区画には、第1のリングバッファー・メモリ中のデータ、もう一方の区画には、第2のリングバッファー・メモリ中のデータが表示され、オペレータは、リアルタイム画面上で両方のデータを対比させて評価することができるようになっている。これによりオペレータは、有意なデータと不要なデータとを即座に判別することができる。
【0062】
7.第2のリングバッファー・メモリ内の有意と思われるデータ塊、またはデータ領域を選択して、ハードディスク・メモリ中に記録する(ステップ7)。
【0063】
8.ステップ7で選択されなかった不要なデータ塊、またはデータ領域は、第2のリングバッファー・メモリの容量が満杯になった時点で、古い順に第2のリングバッファー・メモリ中から順次削除される(ステップ8)。
【0064】
このような構成・動作とすることにより、次のような4つの顕著な効果が得られる。
【0065】
1.質量分析装置を動作させたまま、次々に試料を質量分析し、第1のリングバッファー・メモリに測定データを記憶させて、表示画面にリアルタイムで表示させるとともに、注目する結果が出た場合には、測定データを過去に遡って第2のリングバッファー・メモリに移して記憶させることができるので、常時更新され続けるデータと有意なデータとを別々に分けて管理することができる。
【0066】
2.2つのリングバッファー・メモリ中のデータを比較しながら、注目するデータ領域のみを第2のリングバッファー・メモリ内に残すことができるため、注目しなくても良いデータ領域に邪魔されることなく、有意なデータのみを比較したり解析したりすることが容易にできる。
【0067】
3.注目するデータ領域のみを第2のリングバッファー・メモリ内に保持できるため、注目するデータ領域群のみをまとめて、測定後にハードディスク・メモリに一括して記録させることが容易にできる。
【0068】
4.測定中のリアルタイム・データ解析時に、その都度ハードディスク・メモリにアクセスする必要がないため、迅速な解析作業が行なえる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
DARTイオン化法を用いた質量分析装置に広く利用できる。また、DART法に限らず、短い時間で次々に試料を分析できるその他のイオン化方法、および質量分析方法であっても良い。
【符号の説明】
【0070】
1:試料基板、2:レーザー光線が当たっている部分、3:試料基板、4:較正用試料スポット、10−1:据え付けレール、10−2:支柱、11:DARTイオン源、12:励起ガス噴出ノズル、13:角度、14:距離、15:高さ、16:調整ネジ、17:調整ネジ、21:質量分析装置、22:大気圧インターフェイス、23:イオン導入孔、30:パソコン、31:DSP、32:表示装置、51:第1の部屋、52:第2の部屋、53:第3の部屋、54:ガス導入管、55:ニードル電極、56:仕切り、57:仕切り、58:出口部、59:試料、100:オリフィス