【実施例1】
【0017】
最初に、
図1〜
図3を参照しながら本発明の実施例1を説明する。
図1(A)は本実施例の変位計測装置の基本構造を示す概略図,
図1(B)は行路L1を示す図,
図1(C)は行路L2を示す図である。
図2は、本実施例による変位計測の原理を示す説明図であり、(A)は反射ミラーの移動前の状態を示す図,(B)は反射ミラーの移動後の状態を示す図である。
図3は、本実施例の変位計測装置の具体例を示す図である。
【0018】
まず、
図1(A)を参照して、本実施例の基本構造を説明する。変位計測装置10は、光源12,コリメータレンズ16,回折格子20,反射ミラー22,光検出器24により構成される。本実施例では、前記光源12としてLED光源を用いている。前記コリメータレンズ16は、前記光源12から照射されたLED光14を直進する平行光18にするものである。前記平行光18の光軸上に、前記回折格子20と反射ミラー22が対向配置されている。ここで、反射ミラー22以外の構成要素は、例えば、後述する
図3に示すように、変位計測ユニット50の固定部52に配置され、前記反射ミラー22のみが可動部54に配置される。前記反射ミラー22としては、金属皮膜をコートした公知の全反射ミラーが用いられる。
【0019】
次に、本実施例による変位計測の原理を定性的に説明する。なお、回折格子20を経由した平行光18は、厳密には、前記平行光18と同方向に進行する0次光(0次回折光)と、該0次光に対して回折角を有する±n次光(又は±n次回折光と表現し、nは1以上の自然数とする)に分かれて進行するが、ここでは、便宜上、回折格子20を経由した後に、前記平行光18と同方向に進行する0次光を直進光26と表現している。
【0020】
前記光源12で発生したLED光14は、コリメータレンズ16を通過して平行光18となり、回折格子20に入射する。該回折格子20は、該回折格子20を通過した平行光18を、
図1(A)及び(B)に示す直進光26と、
図1(A)及び(C)に示す回折光28に分けて進行させるものである。より具体的には、前記直進光26は、前記回折格子20を透過した0次光であり、前記回折光28は、前記回折格子20で回折された±n次光のうちの所定次数の回折光である。本実施例では、±n次光のうち1次光を利用して変位計測を行うこととしているので、前記回折光28は、回折格子20で回折された1次光である。なお、本実施例1では、1次光を利用することとしたが、他の所定次数の回折光を利用して、以下に説明する変位量の計測を行うようにしてもよい。ただし、光量を考慮すると、±3次光までの使用が好ましい。
【0021】
前記反射ミラー22は、前記平行光18の光軸上に、前記回折格子20に対して相対移動可能に配設されており、前記直進光26及び回折光28をそれぞれ反射して、前記回折格子20に再入射させるものである。具体的には、前記反射ミラー22により、前記回折格子20を透過した0次光(直進光26)を反射させて、前記回折格子20まで戻る第1の反射光26´とする(
図1(B)参照)。該第1の反射光26´は、回折格子20に入射し、該第1の反射光26´と同方向に進行する0次光と、該0次光に対して回折角を有する±n次光に分かれて進行する。本実施例では、ここで生じた第1の反射光26´の±n次光のうち、1次光を変位計測に利用する。該第1の反射光26´の1次光は、
図1(B)に回折光30として示されている。
【0022】
また、前記反射ミラー22により、前記回折格子20で回折された1次光(回折光28)を反射させて、前記回折格子20まで戻る第2の反射光28´とする(
図1(C)参照)。該第2の反射光28´は、回折格子20に入射し、前記第2の反射光28´と同方向に進行する0次光と、該0次光に対して回折角を有する±n次光に分かれて進行する。本実施例では、説明を容易にするために、
図1(C)には、第2の反射光28´の0次光のみを回折光32として示し、他の次数の回折光の図示は省略している。
【0023】
前記光検出器24としては、フォトダイオードなどが利用される。該光検出器24は、前記第1の反射光26´及び第2の反射光28´がそれぞれ回折格子20に入射して生成した0次光及び±n次光のうち、前記第1の反射光26´の所定次数の回折光の光軸に沿う回折光の光量を一括して、前記光源12側で検出する。本実施例では、上述の通り、第1の反射光26´の1次回折光である回折光30を変位計測に利用するため、該回折光30と、その光軸に沿う回折光である第2の反射光28´の0次光(回折光32)を前記光検出器24で受光する。前記回折光30と回折光32は、互いに干渉し、この干渉光34を、光検出器24で光量検出する。
【0024】
前記反射ミラー22が、
図2(A)に示す位置から、
図2(B)に実線で示す位置まで光軸方向に移動すると、回折光28が反射ミラー22によって反射する位置が移動し、前記干渉光34に位相差が発生する。従って、前記移動量に比例した干渉縞が明暗を繰り返す明暗信号となり、この明暗信号は光検出器24に入射し、変位信号に変換される。
【0025】
次に、本実施例による変位計測の原理を定量的に説明する。
図2(B)に示すように、反射ミラー22を、同図に点線で示す位置から実線で示す位置までΔd1移動させたとすると、行路L1の行路長は、Δd1の往復分である2×Δd1増加する。これに対し、行路L2の往路又は復路の行路長の増加分をΔd2とすると、
Δd2=(Δd1/cosθ)(θは回折角)
で表される。従って、反射ミラー22の移動による行路L2の行路長の増加分は、
2×Δd2=2(Δd1/cosθ)
となる。そうすると、反射ミラー22の移動による行路差Δは、
Δ=2Δd1−2Δd2=2Δd1−2(Δd1/cosθ)=2Δd1×(1−1/cosθ)
となる。このことは、干渉の1波長が拡大されたことになる。即ち、1以上の任意の数値倍になり、この方式を活用することにより、数十倍、数百倍の検出範囲にできる。
【0026】
以上のように、本実施例では、一つの反射ミラー22で干渉する2つのビームの光量を検出する。このため、干渉する2つのビームの光軸が、反射ミラー22の移動によりずれ、重なり部分が少なくなり、信号検出がしにくくなるのを防止するため、検出ビームに対して、照射ビームの幅を2倍以上としている。また、LED光源を用いる場合は、光強度分布特性などを調整する。このような照射条件等の調整により、回折格子20を移動させることなく、反射ミラー22を移動して変位計測を行うことができる。
【0027】
次に、
図3を参照して、本実施例の具体例を説明する。
図3は、変位計測ユニット50を示す図であって、(A)は主要断面図,(B)は前記(A)を矢印F3方向から見た平面図である。変位計測ユニット50は、固定部52と可動部54が、バネ部56で連結された基本筐体51内に、前記変位計測装置10の各構成要素を配置した構成となっている。前記基本筐体51は、例えば、透明樹脂成型体により形成されている。前記固定部52側には、前記光源12,コリメータレンズ16,回折格子20,光検出器24が配置されている。前記反射ミラー22は、前記回折格子20と対向するように、可動部54に配置されている。
【0028】
前記光源12及びコリメータレンズ16は、固定部52に形成されたスペース70内に配置され、前記回折格子20は、可動部52と固定部54の間に形成されたスペース72内の固定部52側に固定されている。前記反射ミラー22は、前記スペース72の可動部54側に固定されている。更に、前記基本筐体51には、光の通路用のスペース74,76が設けられている。
【0029】
前記光源12としては、チップLEDを使用し、光検出器24としては、フォトダイオードが使用される。前記光源12は回路基板58の表面側、すなわち固定部52の内側に、スペース70に位置を合わせて埋め込まれており、前記光検出器24は、回路基板58の裏面側、即ち、固定部52の表面側であって、スペース76に位置を合わせて埋め込まれており、該回路基板58を、基本筐体51の端面に取り付けネジ60A,60Bにより取り付けられている。また、前記バネ部56は、基本筐体51に設けられた複数のスリット56A〜56Cにより形成されている。そして、可動部54が、前記バネ部56の矢印F4方向の伸びによって、固定部52に対して平行を保ちながら移動することで、回折格子20に対する反射ミラー22の位置が移動する。すると、反射ミラー22で反射した反射光26´及び28´の回折光30,32が干渉して検出信号となり、変位検出が可能となる。なお、図示はしていないが、固定部52側を基準となる測定部位側に取り付け、可動部54を可変する測定部位側に取り付けることにより測定装置として機能するようになる。
【0030】
このように、実施例1によれば、光源12から発生した光14をコリメータレンズ16により平行光18とし、該平行光18の光軸上に配置された回折格子20に入射させる。そして、回折格子20を透過した0次光(直進光26)と1次回折光(回折光28)のそれぞれを、前記回折格子20に対して相対移動に配置された反射ミラー22により反射する。前記直進光26の反射光26´が回折格子20を通過する際に生成した1次光である回折光30と、前記回折光28の反射光28´が回折格子20を透過した0次光(回折光32)を、光検出器24で光量検出することとしたので、次のような効果がある。
【0031】
(1)回折格子20のみの一枚構成としたため、2枚の回折格子を平行に配置した構成の背景技術と比べ、回折格子の平行度の調整が不要で取扱いが容易となると同時に、サブμmオーダでの高精度の変位計測も可能である。また、経年変化等によるセンサの特性変化の抑制や、製造コストの削減も可能である。
(2)変位計測装置10の構成部品が少ないため、装置が大掛かりになることがなく、小型化が可能となる。特に、一般民生機器用に用いられる小型装置としても利用できる。
(3)トルクセンサやブレーキセンサなどの機械系の歪みや変位を計測するシステムでは、意図した方向の変位以外の信号は、なるべく検出しないものが望ましい。本実施例の変位計測装置では、センサのねじれ方向の信号が発生しないため、余計な外乱信号を検出しないセンサとして利用可能である。
(4)光源12と光検出器24を固定側に配置できるため、光検出器24を可動側に配置する場合に必要となるワイヤ結線をなくすことができ、可動側をワイヤなしで分離することができる。このような構成は、mmオーダの変位センサとして特に有効である。
【0032】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した形状,寸法,材質は一例であり、同様の効果を奏するものであれば、必要に応じて適宜変更してよい。例えば、前記実施例1の変位計測ユニット50では、基本筐体51のバネ部56を、複数のスリット56A〜56Cにより形成することとしたが、これも一例であり、同様の効果を奏する範囲内で、適宜設計変更可能である。
(2)前記実施例1では、0次回折光と1次回折光を利用して変位計測を行うこととしたが、これも一例であり、1次回折光以外の任意の次数の回折光(光量を考慮すると、2次光及び3次光までが好ましい)を利用してもよい。
(3)前記実施例1では、光源12としてLED光源を利用したこれも一例であり、レーザ光源等を用いることを妨げるものではない。
(4)前記実施例では基本筐体51を一体の透明樹脂を使用した例を使用したが、可動部54側を固定部52側から切り離し、固定部52側から突き出た一対の金属棒上を可動部54側がスライドできるようにし、その間をバネで連結してもよい。
【0033】
(5)本発明による変位計測は、例えば、電動アシスト付き自転車で回生ブレーキを効率よくかけるためにブレーキワイヤの伸び量や移動量を検出する場合に利用できる。このほか、本発明は、機械系の歪測定などのように、微小変位の計測全般や、微小長さの計測器の構成などにも適用可能である。例えば、カメラのズームやフォーカス機能は、現状では、メカスイッチアレーで位置検出を行っているが、本発明を適用することにより、位置検出装置の小型化と基板をフレキシブル基板にしたもので、要求に応えることが可能となる。また、検出範囲の拡大により、波長以上の移動に対してリニアな検出が可能となることから、光マイクロホンなどへの応用も可能である。更に、微小振動などの検出も可能であり、振動センサなどでの応用も可能である。