特許第5959280号(P5959280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5959280トランスフルトリン含有樹脂ペレット及びそれを用いた防虫製品
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  • 特許5959280-トランスフルトリン含有樹脂ペレット及びそれを用いた防虫製品 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959280
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】トランスフルトリン含有樹脂ペレット及びそれを用いた防虫製品
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20160719BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20160719BHJP
   C08K 5/101 20060101ALI20160719BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20160719BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20160719BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20160719BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08L23/08
   C08K5/101
   C08K5/01
   C08K5/07
   C08K3/00
   C08J3/20 ZCES
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-88013(P2012-88013)
(22)【出願日】2012年4月9日
(65)【公開番号】特開2013-216770(P2013-216770A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 誠一
(72)【発明者】
【氏名】柿木 智宏
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
(72)【発明者】
【氏名】松元 増夫
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−544211(JP,A)
【文献】 特開平08−231302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/00− 3/40
C08K 5/01− 5/12
C08J 3/20
A01M 1/00− 99/00
A01N 1/00− 65/48
A01P 1/00− 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスフルトリンとこれに対して1.0質量%以上20質量%以下の結晶析出防止成分を含有するトランスフルトリン含有樹脂ペレットであって、前記結晶析出防止成分が、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ベンゾフェノン、安息香酸フェニルから選ばれた1又は2以上であり、かつ50℃で加温溶解させたトランスフルトリンに前記含有量の1.5倍以上溶解するものであることを特徴とするトランスフルトリン含有樹脂ペレット。
【請求項2】
更に、微粉末担体と、エチレン−ビニルアセテート共重合体及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体を含む請求項1に記載のトランスフルトリン含有樹脂ペレット。
【請求項3】
樹脂ペレット全体量に対して20質量%以上60質量%以下のトランスフルトリンと、
これに対して1.0質量%以上20質量%以下の前記結晶析出防止成分と、
樹脂ペレット全体量に対して10質量%以上30質量%以下の前記微粉末担体と、
樹脂ペレット全体量に対して10質量%以上50質量%以下の前記エチレン−ビニルアセテート共重合体及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体とを含有する請求項2に記載のトランスフルトリン含有樹脂ペレット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスフルトリンを含有しマスターバッチとして押出成形や射出成形等に用いる樹脂ペレット、及びそれによって製造される防虫製品、具体的にはトランスフルトリンを揮散させる防虫ネット等の防虫製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンなどの樹脂に揮散性の防虫成分を含有させた樹脂成形体からなる製品を用い、時間経過とともに防虫成分を揮散させて当該製品もしくはその周囲に害虫が侵入しないようにすることが行われている。このような製品としては、蚊帳や防虫ネットなどの害虫対策のための製品だけでなく、チューブやケーブルなどの外装や、樹脂繊維製品全般が対象となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリオレフィン系樹脂と、ペルメトリンやベンフルスリン(トランスフルトリン)などの害虫防除剤と、非結晶シリカなどの非晶性無機担体とからなる樹脂組成物のマスターバッチを作る旨(0033〜0035)、それに別途ポリオレフィン系樹脂をベース樹脂として混練したものを、押出成形や射出成形等により各種成形体とする旨(0036)などが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、活性化合物としてトランスフルトリン等のピレスロイド系化合物を含み、防虫用樹脂組成物の揮散性改善のために、蒸散性可塑剤及びブリード促進剤を含有させた樹脂組成物が記載されている(0011)。更に、特許文献3は、殺虫活性化合物としてのトランスフルトリンをミリスチン酸イソプロピルやミリスチン酸ノルマルブチル等に溶解させてなる害虫防除液を開示し、これらの高級脂肪酸エステル系溶媒が害虫防除液中でのトランスフルトリンの結晶析出防止に有効であると記述している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−106232号公報
【特許文献2】特許3858929号公報
【特許文献3】特開2001−192309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、防虫成分としてトランスフルトリンを用い、特許文献1のように微粉末担体と混合後樹脂と混練して樹脂ペレットを製造するにあたり、トランスフルトリンの濃度を高めようとすると、この化合物が常温で結晶性であるためブリードに伴って樹脂ペレットの表面に結晶が析出したり、また、樹脂ペレットからのブリード(染み出し)が過多となり、べたついて成形に用いることが難しくなるという問題があった。
本発明者らは、特許文献3で結晶析出防止成分として記載されたミリスチン酸イソプロピルを本発明の樹脂ペレットに適用してみたが、特許文献3の害虫防除液の場合とは異なり結晶析出防止効果を殆ど認めなかった。
【0007】
そこで、本発明は、樹脂成形体の製造に供されるトランスフルトリン含有樹脂ペレットについて、樹脂ペレットの表面に結晶の析出を生じない有用な結晶析出防止成分を見出すとともに、ブリードを適性に調整し成形しやすくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、防虫成分としてのトランスフルトリンとこれの結晶析出防止成分を含有する樹脂ペレットに係り、より具体的には、更に微粉末担体とともに樹脂成分としてエチレン−ビニルアセテート共重合体(EVA)及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)を加え、これらを適切量で混練して樹脂ペレットを製造することにより上記の課題を解決したのである。
すなわち、本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)トランスフルトリンとこれに対して1.0質量%以上20質量%以下の結晶析出防止成分を含有するトランスフルトリン含有樹脂ペレットであって、前記結晶析出防止成分が、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ベンゾフェノン、安息香酸フェニルから選ばれた1又は2以上であり、かつ50℃で加温溶解させたトランスフルトリンに前記含有量の1.5倍以上溶解するものであるトランスフルトリン含有樹脂ペレット。
(2)更に、微粉末担体と、エチレン−ビニルアセテート共重合体及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体を含む(1)に記載のトランスフルトリン含有樹脂ペレット。
(3)樹脂ペレット全体量に対して20質量%以上60質量%以下のトランスフルトリンと、
これに対して1.0質量%以上20質量%以下の前記結晶析出防止成分と、
樹脂ペレット全体量に対して10質量%以上30質量%以下の前記微粉末担体と、
樹脂ペレット全体量に対して10質量%以上50質量%以下の前記エチレン−ビニルアセテート共重合体及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体とを含有する(2)に記載のトランスフルトリン含有樹脂ペレット。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る樹脂ペレットは、防虫成分であるトランスフルトリンの樹脂ペレット表面での結晶析出を防止するとともに、過度のブリードを抑え、樹脂成形体を製造する際にマスターバッチとしてべたつくことがなく、好適に用いることができる。また、このマスターバッチとなる樹脂ペレットは20〜30質量%以上の高濃度でトランスフルトリンを含有しているので、得られる樹脂成形体のトランスフルトリン濃度も高くすることができ、防虫効果の持続時間が長い樹脂成形体を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)実施例で製造した樹脂成形体の斜視図、(b)(a)の正面図、(c)(b)のc−c断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のトランスフルトリン含有樹脂ペレットは、防虫成分としてのトランスフルトリンとこれに対して1.0質量%以上20質量%以下の結晶析出防止成分を含有し、前記結晶析出防止成分は、常温で固体状であり、かつ50℃で加温溶解させたトランスフルトリンに前記含有量の1.5倍以上溶解するものである。そして、更に微粉末担体とともに樹脂成分を加え、混練させて得られた樹脂ペレットはマスターバッチとして用いることができ、必要に応じこれに更に追加の樹脂成分を混合したものは種々の樹脂成形体を製造する際の材料となる。本発明に係るトランスフルトリン含有樹脂ペレットは、その形態で輸送、保存を行うことができ、その間に結晶析出、過度のブリード等が起こることを防止するものである。
【0012】
本発明は、防虫成分として用いるトランスフルトリンが常温で結晶性であるため、これの結晶析出防止成分との併用を必須とする。トランスフルトリンは、樹脂ペレット全体の20質量%以上60質量%以下の範囲で含有させることができ、特に、30質量%以上50質量%以下の範囲がより好適である。トランスフルトリンの含有量が少なすぎるとマスターバッチとして用いる際にそれだけ多量に用意しなければならず、製造上非効率的となる。一方、多すぎると本発明を構成する他の成分によっても、結晶析出及び過度のブリードを抑制しきれず、樹脂ペレットがべたついて保存や輸送、成形の際に支障が出る恐れがある。
【0013】
この含有率で得られるトランスフルトリン含有樹脂ペレットをマスターバッチとして15質量%以上80質量%以下含み、残りが低密度ポリエチレン(LDPE)などのポリオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物は、押出成形や射出成形その他の樹脂成形によって、トランスフルトリンを適度に揮散させ防虫効果に優れた樹脂製品を提供するものである。
【0014】
本発明の樹脂ペレットは、防虫成分のトランスフルトリンとともに、これに対して1.0質量%以上20質量%以下の範囲でトランスフルトリンの結晶析出防止成分を含有する。この結晶析出防止成分とは、常温で結晶性であるトランスフルトリンが表面に析出するのを防止する効果を有する化合物を指し、常温で固体状で、かつ50℃で加温溶解させたトランスフルトリンに前記含有量の1.5倍以上溶解可能なものが利用できる。そして、少なくとも1個の芳香環を有し、その融点が25〜100℃であるのが好ましい。
かかる結晶析出防止成分(融点)としては、ジフェニルメタン(25.9℃)、トリフェニルメタン(78℃)、ベンゾフェノン(49℃)、デカフェノン(35℃)、テトラデカフェノン(59℃)、ヘキサデカフェノン(59℃)、ベンジルフェニルケトン(56℃)、ジドデシルエーテル(32℃)、ジテトラデシルエーテル(42℃)、ベンジルフェニルエーテル(39℃)、安息香酸フェニル(70℃)、ジブチルヒドロキシトルエン(70℃)などがあげられるが、これらに限定されない。
【0015】
従来、固体は結晶析出を助長し結晶析出防止成分としては液状が好ましいと考えられ、例えば、特許文献3によれば、殺虫活性化合物としてトランスフルトリンを含む害虫防除液において、ミリスチン酸イソプロピルやミリスチン酸ノルマルブチル等がトランスフルトリンの結晶析出防止に有効であると記載している。また、本発明者らは、本発明のような樹脂ペレットではミリスチン酸イソプロピルの結晶析出防止効果が殆ど認められなかったことから、先の特願2011−285408において、1)トランスフルトリンの結晶析出防止に係るメカニズムは害虫防除液と樹脂ペレット間で全く異なること、2)樹脂ペレットの場合、常温で液状である、ジブチルサクシネート等の二塩基酸エステル化合物、フタル酸ジエチル等の芳香族エステル化合物等が、トランスフルトリンの結晶析出防止に有効であることを開示した。
本発明は、更に一層有用なトランスフルトリンの結晶析出防止成分を探索する過程で見出した驚くべき知見で、「結晶析出防止成分としては液状が好ましい」という定説を覆すものである。本発明が開示する結晶析出防止メカニズムについては、トランスフルトリンに溶解した結晶析出防止成分の、特に芳香環の存在、ならびにその融点範囲が25〜100℃であることが関与しているものと推測されるが、明確に実証されたわけではない。
なお、本発明では、本発明の作用効果に支障を来たさない範囲で、本発明者らが前記特願2011−285408で提示した常温で液状の結晶析出防止成分、例えば、ジブチルサクシネート等の二塩基酸エステル化合物、フタル酸ジエチル等の芳香族エステル化合物等を適宜添加してもよいことはもちろんである。
【0016】
本発明の樹脂ペレットは、樹脂成分として、エチレン−ビニルアセテート共重合体(エチレン−酢酸ビニル樹脂、EVA)及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)を含むことが必要である。エチレン−ビニルアセテート共重合体やエチレン−メタクリル酸メチル共重合体は、単に樹脂ペレットを構成する樹脂成分としての機能のみならず、トランスフルトリンに対してブリード調整剤として作用する。これらの共重合体の配合量は、樹脂ペレット全体に対して10質量%以上含有すると好ましく、15質量%以上であるとより好ましい。10質量%未満では、樹脂ペレット状態においてブリードを抑制する効果が不十分になってしまう。一方、上限は50質量%以下であると好ましく、45質量%以下であるとより好ましい。多すぎると、樹脂ペレットをマスターバッチとして用い、他の樹脂と混練して得られた樹脂成形体においてもブリードを抑制しすぎてしまい、本来の目的であるトランスフルトリンの揮散による防虫効果が過度に低減される恐れを有するためである。本発明によれば、10質量%以上50質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体と混練させることにより、得られる樹脂ペレットのブリードを適度な範囲で調整することが可能となる。
【0017】
なお、エチレン−ビニルアセテート共重合体の場合、その中のエチレン単位とビニルアセテート単位との数比は、90:10〜70:30であると好ましい。ビニルアセテート単位が少なすぎると、ポリエチレンとほとんど物性が変わらなくなってしまい、本発明で必要とするブリード調整効果がほとんど期待できなくなってしまうからである。一方、ビニルアセテート単位が多すぎると樹脂ペレット状に成形しづらくなる。
また、上記のエチレン−ビニルアセテート共重合体のメルトマスフローレイト(MFR)は、5g/10min以上、50g/10min以下であると好ましい。MFRが小さすぎるとブリード調整剤としての効果が期待できなくなり、MFRが大きすぎると樹脂ペレットの物性に与える影響が無視できなくなってしまう恐れがある。
【0018】
更にまた、樹脂ペレットの質量調整や物性の調整のために、上記のエチレン−ビニルアセテート共重合体やエチレン−メタクリル酸メチル共重合体の他に、ポリオレフィン系樹脂やスチレン系樹脂を含有していてもよい。前記ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などがあげられるが、エチレン−ビニルアセテート共重合体やエチレン−メタクリル酸メチル共重合体との親和性から、ポリエチレンが好ましく、成形性の点で特に低密度ポリエチレン、具体的には分岐低密度ポリエチレン(LDPE)、鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましい。
【0019】
ブリードが全く起こらなければトランスフルトリンの揮散も生じないので、ブリードを完全に抑止することはできない。本発明では、ブリード調整樹脂となるエチレン−ビニルアセテート共重合体やエチレン−メタクリル酸メチル共重合体を上記範囲で含有することによって、樹脂ペレット形態時のブリードがコントロールされ、そして、その樹脂ペレットをマスターバッチとして用い、押出成形や射出成形等により得られた樹脂成形体についても、適宜LDPE等のその他の樹脂添加量を調整することによって、揮散に必要なブリードが確保可能となるものである。
【0020】
本発明で用いる微粉末担体は、樹脂ペレット内にトランスフルトリンを担持するために添加する成分である。例えば、いわゆるホワイトカーボンとよばれる微結晶シリカや微粉末ケイ酸、珪藻土、ゼオライト類、粘度鉱物、木粉等が挙げられる。この微粉末担体の含有量は樹脂ペレット全体に対して、10質量%以上30質量%以下であると好ましく、15質量%以上25質量%以下であるとより好ましい。10質量%未満では担体として少なすぎて、トランスフルトリンを担持しきれず、トランスフルトリンのブリードが過大になる恐れがある。一方、30質量%を超えると、後述する樹脂成分との配合比上、樹脂ペレットとしての形を維持するのが難しくなってしまう。また、樹脂ペレットを用いた成形品にも含有されることになるので、多すぎると防虫製品の物性に影響を及ぼす危惧が避けられない。
【0021】
また、上記の微粉末担体の大きさは、数平均粒子径が1μm以上30μm以下であると好ましく、5μm以上20μm以下であるとより好ましい。数平均粒子径が30μmを超えると、上記範囲の含有率で存在していたとしても表面積が不足するため、担体としてトランスフルトリンを担持しにくくなり、得られる樹脂ペレットがべたつきやすくなる。一方、1μm未満の微粒子は現実的には難しく、物性が大きく変わってくるため好ましくない。
ホワイトカーボンのような微結晶シリカなどの微粉末担体は、トランスフルトリンと反応せず、表面積の広い微粉末を用いることができる。これらの微粉末担体はトランスフルトリンを担持してべとつきを抑え、その結果、樹脂成分と共に混練して得られる樹脂ペレットも、全体がべとつきにくくなりマスターバッチとして好適に利用できるものとなる。
【0022】
本発明のトランスフルトリン含有樹脂ペレットには、これらの成分の他に、トランスフルトリンの防虫効果を低減させず、かつ、前記結晶析出防止成分や樹脂成分による結晶析出防止効果や過度のブリード抑制効果を失わさせない範囲で、他の防虫成分、ピレスロイド用共力剤、その他の添加物、例えば、樹脂安定剤や着色剤等を含んでいてもよい。
【0023】
前記他の防虫成分としては、メトフルトリン、プロフルトリン、エムペントリン、アレスリン、プラレトリン、テラレスリン、フェノトリン、ペルメトリン等のピレスロイド化合物や、エトフェンプロックス、シラフルオフェン等のピレスロイド様化合物、フェニトロチオン、ジクロルボス等の有機リン剤、ジノテフランやイミダクロプリド等のネオニコチノイド系化合物等があげられる。なお、メトフルトリンやフェノトリン等は、防虫効果とともに結晶析出防止効果も期待しえるので、併用は好ましい形態である。
前記ピレスロイド用共力剤とは、ピレスロイドと併用されたときにピレスロイドの殺虫効力を増強させうるもので、具体的には、N−(2−エチルヘキシル)−ビシクロ[2,2,1]−ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドやピペロニルブトキサイド等が代表的である。これらの前記ピレスロイド用共力剤も、結晶析出防止効果を高めることができる。
【0024】
上記の構成及び混合比でトランスフルトリン含有樹脂ペレットを製造する際の手順は特に限定されない。例えば、まず前記結晶析出防止成分をトランスフルトリンに溶解させた後前記微粉末担体に担持させ、これに、エチレン−ビニルアセテート共重合体やエチレン−メタクリル酸メチル共重合体、更に必要ならば他のポリオレフィン系樹脂等を加えて混練する手順が挙げられる。
【0025】
本発明によって得られるトランスフルトリン含有樹脂ペレットは、これをマスターバッチとし、別途ポリオレフィン系樹脂と混練することで、種々の樹脂成形体の成形に用いることができる。成形方法は特に限定されず、押出成形、射出成形、プレス成形、真空成形などをあげることができるが、特に押出成形や射出成形を好適に利用できる。ポリオレフィン系樹脂との混合比率としては、トランスフルトリン含有樹脂ペレットが15質量%以上80質量%以下であり、ポリオレフィン系樹脂が20質量%以上85質量%以下であると、得られる樹脂成形体に適当な量のトランスフルトリンが含まれて適度な揮散性を付与することができる。ここで用いるポリオレフィン系樹脂としては、例えば低密度ポリエチレンが好適に用いられる。トランスフルトリン含有樹脂ペレットに含まれるエチレン−ビニルアセテート共重合体やエチレン−メタクリル酸メチル共重合体との親和性がよいうえ、溶解温度が低いため、成形時、温度によるトランスフルトリンの揮散、分解ロスを最小限に防止できるからである。また、この成形の際には、上記トランスフルトリンを変質させず、かつ、揮散を必要以上に妨げない範囲でその他の添加物を含んでいてもよい。
【0026】
本発明に係るトランスフルトリン含有樹脂ペレットを用いて成形できる形態は特に限定されず、ネット、繊維、不織布、シート、フィルム、棒状体などの種々形態があげられる。具体的な製品の用途としては、ネット状の成形体の場合、例えば、枠体に収容し、窓や扉の近くや物干し竿、あるいは犬小屋、ウサギ小屋等のペット小屋やその周辺、浄化槽やマンホールの内部、キャンプなどにおけるテント内部やその出入り口などに吊してトランスフルトリンを揮散させる防虫ネットや、それ自体が防虫効果を発揮する網戸用ネットなどに用いることができる。繊維状の成形体であれば、その繊維を用いて製造するのれん、ペット用の着衣やリードなど、シートや不織布状の成形体であれば、害虫の生息場所や通過場所に設置する防虫シートや、接着剤を付与しガラス面やテーブルの下などに貼付して使用する防虫シールなどを例示できる。
【0027】
本発明に係るトランスフルトリン含有樹脂ペレットから製造した樹脂成形体は、多くの昆虫類をはじめとする節足動物、具体的には、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、ブユ、ユスリカ類、ハエ類、チョウバエ類、イガ類等に対して殺虫効果又は忌避効果に基づく優れた防虫効果を発揮する。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げてこの発明を具体的に説明する。まず、使用した薬剤について説明する。
・トランスフルトリン(住友化学(株)製:バイオスリン)
・微結晶シリカ(EVONIK社製:カープレックス#80、ホワイトカーボン、平均粒子径:15μm)
・エチレン−ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン710、エチレン:酢酸ビニル単位比=72:28、以降「EVA−A」と記す。)
・エチレン−ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン541、エチレン:酢酸ビニル単位比=90:10、以降「EVA−B」と記す。)
・エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(住友化学(株)製:アクリフトWK307、以降「EMMA」と記す。)
・低密度ポリエチレン(旭化成(株)製:サンテックLDM6520、以降「LDPE−A」と記す。)
・低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLDLJ802、以降「LDPE−B」と記す。)
【0029】
<樹脂ペレットの製造方法>
下記に記載の混合比で、防虫成分としてのトランスフルトリン、結晶析出防止成分、微粒子担体、エチレン−ビニルアセテート共重合体及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体、及びその他の樹脂を混合した。混合する際の手順としては、まず、50℃に加温したトランスフルトリン36質量部に結晶析出防止成分・トリフェニルメタン1.2質量部を添加して溶解・混合したものをホワイトカーボン16質量部に担持させた後、これにエチレン−ビニルアセテート共重合体(EVA−A)40質量部、及びLDPE(LDPE−A)6.8質量部を、(株)テクノベル製:二軸押出し成形機を用いて、120〜140℃で混練・押出成形し、直径3mm、長さ5mmのトランスフルトリン含有樹脂ペレットを製造した。この樹脂ペレットについて、結晶の析出の有無及びブリード状態を測定した。
【0030】
<結晶析出測定方法>
上記ブリード測定方法に用いた試料につき、25℃で7日間保存後、結晶析出の状況を目視で観察し、下記の基準で評価した。
結晶析出による白化なし;○、 僅かに白化;△、 針状結晶が析出;×。
【0031】
<ブリード測定方法>
樹脂ペレット約10gを直径7cmのガラスシャーレに入れ、まんべんなく拡げた後蓋をして密封した。40℃で7日間保存後、樹脂ペレットの表面に染み出した油浮きの状況を目視で観察し、下記の基準で評価した。
油浮きなし;○、 表面がテカる程度;△、 はっきりした油浮き;×。
【0032】
<成形体の製造>
上記トランスフルトリン含有樹脂ペレット100質量部とLDPE(LDPE−B)300質量部(着色剤ペレット10質量部を含む)を120〜140℃で混練後、インジェクション成形機に投入し、図1に示す立体構造体からなる揮散性薬剤含有構造体(10g)を得た。
この立体構造体を構成する矩形波状体1(1a,1b)及び補強材2の断面は、約1.3mm×1.3mmの正方形であり、この立体構造体を構成する矩形波状体1の第1頂部1aと第2頂部1bとの間の距離は10mm、第1頂部1a及び第2頂部1bの長さは、いずれも8mmとした。また、揮散性薬剤含有構造体全体の大きさを、95mm×160mm×12mmとした。
得られた揮散性薬剤含有構造体を室内に吊るし、25℃、風速0.5mの条件下で、揮散性薬剤の揮散量ならびに揮散時間を測定した。揮散量ならびに揮散時間の測定方法は、揮散性薬剤含有構造体の質量を経時的に測定することによって行った。
その結果、揮散時間はおよそ130日で、全期間を通じた平均の揮散量は5.8mg/日であった。
【0033】
上記<樹脂ペレットの製造方法>に準じて表1に示す組成のトランスフルトリン含有樹脂ペレットを製造し、これらの樹脂ペレットにつき、結晶の析出の有無及びブリード状態を測定した。結果を併せて表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
試験の結果、トランスフルトリンとこれに対する結晶析出防止成分と、微粉末担体と、エチレン−ビニルアセテート共重合体及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体とを含有する本発明のトランスフルトリン含有樹脂ペレットは、結晶析出による白化現象が支障となる程度に至らず、また過度なブリードが見られず良好な状態を示した。なお、結晶析出防止成分としては、ジフェニルメタンやトリフェニルメタンのような少なくとも1個の芳香環を有し、その融点が25〜100℃である化合物が結晶析出防止効果に優れる傾向が認められた。
一方、比較例に示すように、結晶析出防止成分として、ミリスチン酸イソプロピルや炭素数が16のイソパラフィンを用いたものは、結晶析出ならびにブリード性の点で問題を生じた。
【0036】
上記<成形体の製造>に準じ、表2に示す樹脂組成物を押出成形し、筒状で網目がひし形状の防虫ネット(4.8g)を調製した。このネットは、外径0.7mmの太さを有して、網目が4mm×4mmであり、筒状を平らに押さえた時の全体の大きさは80mm×150mmであった。
防虫ネット2個を室内に吊るし、25℃、風速0.5mの条件下で、防虫成分の揮散量ならびに揮散時間を測定した。揮散量ならびに揮散時間の測定方法は、防虫ネットの質量を経時的に測定することによって行った。結果を併せて表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
防虫ネットa及び防虫ネットdは、ほぼ目標どおりの平均揮散量ならびに揮散時間を示した。一方、実施例3や実施例5の樹脂ペレットは結晶析出ならびにブリードの問題を生じなかったが、実施例3を用いて製した防虫ネットbは、エチレン−ビニルアセテート共重合体の配合量が幾分多いために揮散量が若干低減する傾向が認められた。逆に、実施例5による防虫ネットcは、エチレン−ビニルアセテート共重合体の配合量が低いことに起因してブリードしやすくなり揮散量は幾分増える傾向を示した。
【符号の説明】
【0039】
1 矩形波状体
1a 第1頂部
1b 第2頂部
2 補強材
図1