(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載の研磨方法や研磨装置において、ブラシ状砥石を一定のピッチや一定の送り速度で移動させながら、曲面の高さ位置に合わせてブラシ状砥石の高さ位置を調整する方法では、切削痕に起因する凹凸以上に研磨してしまい、曲面の形状精度が低下してしまうという問題点がある。このため、従来は、人手によって切削痕を研磨しているので、生産性が低いとともに、仕上がり状態にばらつきが発生しやすい。
【0006】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、ブラシ状砥石とワークとの相対的な送り移動条件を最適化することにより、曲面の形状精度を低下させずに、切削痕等を効率よく除去することのできる曲面研磨方法、および研磨装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、線状砥材の束を備えるブラシ状砥石を軸線周りに回転させながらワークの曲面に沿って移動させて当該曲面を研磨する曲面研磨方法であって、
前記曲面の高さ方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向をX方向およびY方向とし、前記ブラシ状砥石を
前記X方向の一方側から他方側に送り移動させる際、
前記X方向における前記曲面の高さ変化に基づいて、前記ブラシ状砥石の高さ位置を変化させるとともに、前記ブラシ状砥石の送りピッチまたは送り速度を変化させ、前記ブラシ状砥石を前記X方向に間欠的に送り移動させる際には、前記X方向における前記曲面の高さ変化に基づいて、前記ブラシ状砥石の高さ位置を変化させるとともに、前記ブラシ状砥石の前記送りピッチを変化させ、前記曲面の高さ変化が大である個所では、前記曲面の高さ変化が小である個所に比較して、前記送りピッチが小であり、前記送りピッチは、前記送り移動と停止とを交互に繰り返す前記ブラシ状砥石の停止と停止との間の前記X方向への移動量であり、前記ブラシ状砥石を前記X方向に連続的に送り移動させる際には、前記曲面の高さ変化が大である個所では、前記曲面の高さ変化が小である個所に比較して、前記送り速度を小とすることを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、線状砥材の束を備えるブラシ状砥石を軸線周りに回転させながらワークの曲面に沿って移動させて当該曲面を研磨する研磨装置であって、
前記曲面の高さ方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向をX方向およびY方向として前記ブラシ状砥石を前記
X方向の一方側から他方側に送り移動させる際、前記
X方向における前記曲面の高さ変化に基づいて、前記ブラシ状砥石の高さ位置を変化させるとともに、前記ブラシ状砥石の送りピッチまたは送り速度を変化さ
せ、前記ブラシ状砥石を前記X方向に間欠的に送り移動させる際には、前記X方向における前記曲面の高さ変化に基づいて、前記ブラシ状砥石の高さ位置を変化させるとともに、前記ブラシ状砥石の前記送りピッチを変化させ、前記曲面の高さ変化が大である個所では、前記曲面の高さ変化が小である個所に比較して、前記送りピッチが小であり、前記送りピッチは、前記送り移動と停止とを交互に繰り返す前記ブラシ状砥石の停止と停止との間の前記X方向への移動量であり、前記ブラシ状砥石を前記X方向に連続的に送り移動させる際には、前記X方向における前記曲面の高さ変化に基づいて、前記ブラシ状砥石の高さ位置を変化させるとともに、前記ブラシ状砥石の前記送り速度を変化させ、前記曲面の高さ変化が大である個所では、前記曲面の高さ変化が小である個所に比較して、前記送り速度を小とすることを特徴とする。
【0009】
本発明における「送りピッチまたは送り速度を変化させる」とは、ブラシ状砥石を間欠的に送り移動させる場合には送りピッチを変化させ、ブラシ状砥石を連続的に送り移動させる場合には送り速度を変化させることを意味する。
【0010】
なお、線状砥材の場合、切削しているとも言えるが、本発明では、研磨と切削とを区別せず、全て「研磨」と表現する。
【0011】
本発明では、ブラシ状砥石を
X方向の一方側から他方側に送り移動させるとともに、送り移動の際、ブラシ状砥石の
X方向における曲面の高さ変化に基づいてブラシ状砥石の送りピッチを変化させる。このため、曲面の高さに応じて、研磨される量が適正化されるので、曲面の形状精度を低下させずに、切削痕等を効率よく除去することができる。
【0012】
また、本発明によれば、前記ブラシ状砥石を前記
X方向に間欠的に送り移動させる際には、前記
X方向における前記曲面の高さ変化に基づいて、前記ブラシ状砥石の高さ位置を変化させるとともに、前記ブラシ状砥石の送りピッチを変化させる。この場合、前記曲面の高さ変化が大である個所では、前記曲面の高さ変化が小である個所に比較して、前記送りピッチが小であり、
前記送りピッチは、前記送り移動と停止とを交互に繰り返す前記ブラシ状砥石の停止と停止との間の前記X方向への移動量である。かかる構成によれば、曲面の高さ変化が大である個所では、研磨される領域が狭いが、その分、送りピッチが小である。これに対して、曲面の高さ変化が小である個所では、研磨される領域が広いが、その分、送りピッチが大である。従って、曲面の高さ変化が大である箇所、および曲面の高さ変化が小である個所のいずれにおいても、研磨される量が適正化されるので、曲面の形状精度を低下させずに、切削痕等を効率よく除去することができる。
【0013】
本発明においては、前記
X方向において、前記曲面と、該曲面に対する複数の仮想の等高線と各々が交差する複数の位置を、前記ブラシ状砥石の間欠的な送り移動の際
に当該送り移動と停止とを交互に繰り返す前記ブラシ状砥石が停止する停止基準位置とすることが好ましい。かかる構成によれば、曲面の高さ変化に応じて、送りピッチを適正に設定することができる。
【0014】
この場合、前記ブラシ状砥石の前記線状砥材による研磨領域の前記
X方向のうち、前記曲面が高い側における半径方向の中心位置が前記停止基準位置に到達した位置を、前記ブラシ状砥石の間欠的な送り移動の際
に当該送り移動と停止とを交互に繰り返す前記ブラシ状砥石が停止する停止位置とする構成を採用することができる。
【0015】
本発明において、前記
X方向と交差する
Y方向への前記ブラシ状砥石の走査と、前記
X方向の一方側から他方側への前記ブラシ状砥石の間欠的な送り移動とを交互に行って三次元的に展開する前記曲面を研磨することが好ましい。
【0016】
本発明において、前記線状砥材は、無機長繊維の集合糸にバインダー樹脂を含浸、硬化させてなることが好ましい。この場合、前記無機長繊維は、例えば、アルミナ長繊維であることが好ましい。アルミナ長繊維等の無機長繊維を用いたブラシ状砥石であれば、砥粉入りナイロンブラシやワイヤーブラシに比べて研磨力が強く、かつ、ワークとのなじみ性が高いので、切削痕を効率よく除去することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、ブラシ状砥石を
X方向の一方側から他方側に間欠的に送り移動させるとともに、送り移動の際、ブラシ状砥石の
X方向における曲面の高さ変化に基づいてブラシ状砥石の送りピッチを変化させる。このため、曲面の高さに応じて、研磨される量が適正化されるので、曲面の形状精度を低下させずに、切削痕等を効率よく除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。なお、以下の説明では、曲面の高さ方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向をX方向およびY方向とする。また、X方向の一方側をX1側とし、他方側をX2側とし、Y方向の一方側をY1側とし、他方側をY2側とし、Z方向の一方側(下側)をZ1側とし、他方側(上側)をZ2側として表してある。また、ブラシ状砥石を図示するにあたっては、線状砥材の本数等については少なく模式的に示してある。
【0020】
(全体構成)
図1は、本発明に係る研磨方法および研磨装置の説明図であり、
図1(a)、(b)は、ブラシ状砥石でワークの曲面を研磨する様子を模式的に示す斜視図、および側面図である。
図2は、ブラシ状砥石の説明図であり、
図2(a)、(b)は、ブラシ状砥石の全体構成を示す説明図、およびブラシ状砥石を下方からみたときの底面図である。
図3は、本発明を適用した研磨機のツールホルダ等の断面図である。
【0021】
図1において、本形態で研磨の対象となるワークWは、金型等の金属製品であり、その上面は、ボールエンドミルにより曲面W0に加工されている。本形態において、ワークWの曲面W0は、X方向に高さが変化している一方、Y方向では等しい高さである。ここで、ボールエンドミルによって加工した後の曲面W0には、
図4(b)を参照して後述する切削痕が残るため、本形態では、ブラシ状砥石10を軸線L周りに回転させながらワークWの曲面W0に沿って移動させて、曲面W0を研磨する。その際、Y方向では、ブラシ状砥石10を回転させながら同一の高さ位置で連続して走査させる動作と、ブラシ状砥石10をX軸方向に間欠的に送り移動させる動作とを交互に行って三次元的に展開する曲面W0の全体を研磨する。
【0022】
かかる研磨には、以下に説明する研磨機が用いられる。
図2および
図3において、研磨機は、ブラシ状砥石本体13を備えたブラシ状砥石10(研磨機用ブラシ)と、ブラシ状砥石10をマシニングセンタに連結するためのツールホルダ5と、ブラシ状砥石10の位置をプログラム制御可能なマシニングセンタ100とからなる。ワークWに対する研磨加工は、マシニングセンタ100にツールホルダ5を介して連結したブラシ状砥石10を、軸線L周りに回転駆動して行われる。また、マシニングセンタ100は、X方向、Y方向、およびZ方向において、ブラシ状砥石10とワークWとの相対位置を切り換え、ワークWの曲面W0を研磨する。このようなブラシ状砥石10の動作、およびブラシ状砥石10とワークとの相対的な位置の調節はマシニングセンタ100の制御プログラムによって行われる。なお、以下の説明では、動作が分かりやすいように、ワークWが固定で、ブラシ状砥石10が移動するものとして説明する。
【0023】
図2に示すように、本発明のブラシ状砥石10は、上部にシャンク21を備えた円筒状の金属製のブラシケース12と、このブラシケース12内に上部が挿入されたブラシ状砥石本体13と、このブラシ状砥石本体13をブラシケース12内の所定位置に固定するためのねじ41、42とから構成されている。ブラシケース12の上底部分の中央には丸棒状の支軸25の上端部分が固定され、この支軸25は、ブラシケース12の内側において、周壁と同心状に軸線Lの方向に延びている。また、ブラシケース12の周壁には、その軸線Lの方向に対して平行に溝状に延びた案内孔27が軸線Lを挟む点対称位置に形成されている。ブラシケース12は、周壁がアルミニウム製であり、支軸25はステンレス製である。
【0024】
ブラシ状砥石本体13は、アルミナ長繊維等といった無機長繊維の集合糸にバインダー樹脂を含浸、硬化させた複数の線状砥材32と、これらの線状砥材32の基端側を一括して保持する円筒状の金属製のホルダ31とから構成され、ホルダ31の中央には、支軸25が挿通する軸孔30が形成されている。また、ホルダ31の周壁には、軸線Lを挟む点対称位置に一対のねじ孔が形成され、これらのねじ孔は、ホルダ31の周壁の外周面から軸孔30にまで届いている。本形態では、線状砥材32の束320が複数、周方向で離間した位置に設けられている。
【0025】
このように構成したブラシケース12とブラシ状砥石本体13とを用いてブラシ状砥石10を組み立てる際には、ホルダ31の軸孔30に支軸25が嵌るようにして、ブラシケース12の内側にブラシ状砥石本体13の上部(ホルダ31の側)を挿入した後、ブラシケース12の外周側から案内孔27にねじ41、42を通して、ホルダ31のねじ孔にねじ41、42をそれぞれ止める。この際、ねじ41、42の軸部の先端部が支軸25の外周面に突き当たるまでねじ41、42を締め込む。その結果、ブラシケース12の内側において、ホルダ31はねじ41、42を介してブラシケース12の支軸25上に固定される。その際、ブラシケース12の案内孔27を通してホルダ31のねじ孔にねじ41、42を浅く止めておき、この状態で、ブラシケース12の内側において、ブラシ状砥石本体13を軸線Lの方向に移動させれば、ブラシケース12の内側におけるブラシ状砥石本体13の軸線Lの方向における位置を調整できる。従って、ブラシケース12の下端部29での線状砥材32の自由端33の突出寸法を調整することができるので、線状砥材32の腰の強さ、すなわち、研削性やなじみ性を最適化することができる。
【0026】
(ツールホルダの構成)
再び
図2および
図3において、ブラシ状砥石10は、ブラシケース12の上部で突き出ているシャンク21を介してツールホルダ5に保持され、マシニングセンタ100に連結される。ツールホルダ5は、シャンク21を保持するシリンダ状のツール保持体6と、ツール保持体6の基端側が内側に挿入されたホルダ本体7と、以下に説明するフローティング機構とを備えている。
【0027】
ホルダ本体7は、基端側に向かって縮径する円筒形のテーパ部分71と、長さ方向における略中央に位置する大径の円筒部分72と、ワーク側の小径の円筒部分73とからなる。ホルダ本体7の基端側の端面7aの中心には、ツールホルダ5をマシニングセンタ100に取り付けるための円形の取付け孔50が、軸線Mに沿って延びるように形成されている。取付け孔50の内周面50aには、マシニングセンタ100のツールホルダ取り付けボルト91が蝶合するねじ溝が形成されており、ツールホルダ取り付けボルト91を締め付けることにより、マシニングセンタ100のツール取付け部101にホルダ本体7のテーパ部分71が引き込まれ、嵌合する。
【0028】
ホルダ本体7のワーク側の端部7bの中心には軸線Mに沿って延びる保持孔75が形成されている。保持孔75には、ツール保持体6の基端側から4/5程度の部分が挿入されている。また、保持孔75の底面75aの中心には、ツール保持体6を介してブラシ状砥石10をワークに向けて付勢する圧縮コイルばね80の基端部が当接している。また、底面75aの中心であって、圧縮コイルばね80のコイル開口に相当する位置には、コイル径よりも僅かに小さい径の孔76が形成されており、この孔76は、取付け孔50に連通している。
【0029】
ホルダ本体7の円筒部分72の外周面には周方向に環状溝72aが形成されている。環状溝72aの底面72bには、保持孔75内に連通する複数のボール挿入孔72cが所定の角度位置に形成されている。これらのボール挿入孔72cには回り止めボール77が装着され、回り止めボール77は、一部が保持孔75内に突出している。また、ボール挿入孔72cの内周面にはねじ溝が形成されており、そこには、回り止めボール77を抑える押さえネジ78と、押さえネジの緩みを防止するための緩み防止ネジ79とが螺着されている。
【0030】
ツール保持体6は、円筒形状の部材であり、ワーク側に位置する一方の端面6bの中心には、ブラシ状砥石10のシャンク21を受け入れるための連結孔61が軸線Mに沿って延びるように形成されている。連結孔61の周囲には半径方向から連通する複数のネジ孔62が形成されており、このネジ孔62に蝶合する固定ネジ(図示せず)によってシャンク21が周方向から固定される。
【0031】
ツール保持体6の他方側の端面6aの中心には、ホルダ本体7に取り付けられた圧縮コイルばね80が挿入されるバネ孔が軸線Mに沿って延びるように形成されている。バネ孔の底面の中心には、調整ボルト取り付け孔が軸線Mに沿って形成されており、調整ボルト取り付け孔は、連結孔61と連通している。
【0032】
調整ボルト取り付け孔の内周面には、ねじ溝が形成されており、基端側からは調節ボルト85が螺着されている一方、ワーク側からはロックボルト86が螺着されている。調節ボルト85およびロックボルト86には、それぞれの頭部85a、86aの端面の中心に6角レンチ用の嵌合凹部85c、86cが形成されている。調節ボルト85は、
図3に示す状態で、先端面端面85bがロックボルト86の先端面86bに当接するまで深く締められており、これにより、調節ボルト85のこれ以上の締め込みを防止している。
【0033】
ここで、調節ボルト85の頭部には、圧縮コイルばね80の端部が当接している。このため、ツール保持体6は、調節ボルト85を介して圧縮コイルばね80にワークの側に向けて付勢されている。
【0034】
また、ツール保持体6の外周面60には、所定の角度位置に軸線Mに沿って延びる溝状の回り止め凹部68が形成され、これらの回り止め凹部68には、ホルダ本体7のボール挿入孔72cに装着された回り止めボール77が部分的に入り込んでいる。このため、ツール保持体6は、軸線M周りの空回りが規制されている。回り止め凹部68および周り止めボール77は、回り止め凹部68の軸線M方向の長さ寸法に相当する距離だけは、ツール保持体6およびブラシ状砥石10をワークに向かう方向およびワークから遠ざかる方向に移動可能に支持する支持機構として機能する。但し、ツール保持体6は、調節ボルト85を介して圧縮コイルばね80によってワークの側に向けて付勢されているため、回り止めボール77は、回り止め凹部68の端部と当接している。このため、ツール保持体6は、
図3に示す状態から、矢印M1で示す方向への動きは許容されているが、矢印M2で示す方向への動きは規制されている。
【0035】
このように構成したブラシ状砥石10を用いてワークを研磨した際、ブラシ状砥石10は、圧縮コイルばね80の付勢力に相当する一定荷重が印加された状態でワークを研磨する。このため、ブラシ状砥石10は、線状砥材32が磨耗した場合でも、ワークに対する切り込み荷重が一定であるため、一定の切り込み量でワークを高精度に研磨する。
【0036】
(付勢力調整機構)
また、本形態では、圧縮コイルばね80のコイル開口と調節ボルト85の頭部中心に形成された6角レンチ用の嵌合凹部85cとは、軸線M方向に一致した位置にある。また、圧縮コイルばね80のコイル開口に相当する位置には小さな孔76が形成され、この孔76は取付け孔50と連通している。従って、取付け孔50から六角レンチを差し込んで、調節ボルト85を緩め、圧縮コイルばね80の長さ寸法を短くすれば、付勢力を強めることができる。逆に、圧縮コイルばね80の付勢力が強すぎる場合には、調節ボルト85を締めることにより、圧縮コイルばね80の長さ寸法を長くして付勢力を弱めることもできる。
【0037】
(研磨方法)
図4は、本発明を適用した曲面研磨方法の説明図であり、
図4(a)、(b)は、ブラシ状砥石10の間欠的な送り動作の条件を示す説明図、および切削痕の除去効果を示す説明図である。
【0038】
図1を参照して説明したように、ボールエンドミルによって加工した後の曲面W0には、
図4(b)に実線で示す切削痕が残るため、本形態では、ブラシ状砥石10を軸線L周りに回転させながらワークWの曲面W0に沿って移動させて、曲面W0を研磨する。その際、Y方向では、ブラシ状砥石10を回転させながら同一の高さ位置で連続して走査させる動作と、ブラシ状砥石10をX軸方向に間欠的に送り移動させる動作とを交互に行って三次元的に展開する曲面W0の全体を研磨する。
【0039】
本形態では、ブラシ状砥石10を一方方向(X方向の一方側X1から他方側X2)に間欠的に送り移動させる際、一方方向における曲面W0の高さ変化に基づいて、ブラシ状砥石10の高さ位置、およびブラシ状砥石10の送りピッチを変化させる。より具体的には、ブラシ状砥石10を一方方向に間欠的に送り移動させる際、曲面W0の高さ変化が大である個所では、曲面W0の高さ変化が小である個所に比較して、送りピッチを小とし、曲面W0の高さ変化が小である個所では、曲面W0の高さ変化が大である個所に比較して、送りピッチを大とする。
【0040】
かかる送り動作を実現するにあたって、本形態では、
図4(a)に示すように、曲面W0に対して複数の仮想の等高線Hを設定し、一方方向(X方向の一方側X1から他方側X2)において、曲面W0と、等高線Hとが各々が交差する複数の位置Pをブラシ状砥石の間欠的な送り移動の際の停止基準位置Sとする。このため、ブラシ状砥石10の送りピッチDは、曲面W0の高さ変化に基づいて変化し、曲面W0の高さ変化が大である個所では、曲面W0の高さ変化が小である個所に比較して、送りピッチDが小となり、曲面W0の高さ変化が小である個所では、曲面W0の高さ変化が大である個所に比較して、送りピッチDが大となる。
【0041】
また、本形態では、
図1(b)および
図2(b)に示すように、ブラシ状砥石10の線状砥材32による研磨領域(一点鎖線L0で挟まれた領域)のX方向のうち、曲面W0が高い側(X方向の一方側X1)における半径方向の中心位置O10が停止基準位置Sに到達した位置をブラシ状砥石10の間欠的な送り移動の際の停止位置とする。
【0042】
また、ブラシ状砥石10の停止位置では、停止基準位置Sにおける曲面W0の高さH0と線状砥材32の下端部の高さ位置H32とが一致するように、ブラシ状砥石10の高さ位置を設定する。
【0043】
このように条件を設定して、ブラシ状砥石10のY方向の操作、およびX方向の送り移動を行って曲面W0を研磨すると、
図4(b)に実線で示す切削痕W10が除去される結果、曲面W0は、
図4(b)に点線で示すように、切削痕W10のない平坦面となる。また、曲面W0の形状については、曲率半径等の曲線形状が殆ど変化しない。
【0044】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、ブラシ状砥石10を一方方向に間欠的に送り移動させるとともに、送り移動の際、一方方向における曲面W0の高さ変化に基づいてブラシ状砥石10の送りピッチを変化させる。このため、曲面W0の高さに応じて、研磨される量が適正化されるので、曲面W0の形状精度を低下させずに、切削痕等を効率よく除去することができる。
【0045】
また、本形態では、曲面W0の高さ変化が大である個所では、曲面W0の高さ変化が小である個所に比較して、送りピッチDが小である。このため、曲面W0の高さ変化が大である個所では、研磨される領域が狭いが、その分、送りピッチが小である。これに対して、曲面W0の高さ変化が小である個所では、研磨される領域が広いが、その分、送りピッチが大である。従って、曲面W0の高さ変化が大である箇所、および曲面W0の高さ変化が小である個所のいずれにおいても、研磨される量が適正化されるので、曲面W0の形状精度を低下させずに、切削痕W10等を効率よく除去することができる。また、本形態においては、一方方向において、曲面W0と、曲面W0に対する複数の仮想の等高線Hと各々が交差する複数の位置をブラシ状砥石10の間欠的な送り移動の際の停止基準位置している。このため、曲面W0の高さ変化に応じて、送りピッチDを適正に設定することができる。
【0046】
また、ブラシ状砥石10において線状砥材32による研磨領域の半径方向の中心位置O10が停止基準位置Sに到達した位置をブラシ状砥石10の間欠的な送り移動の際の停止位置とし、かかる停止位置では、停止基準位置Sにおける曲面W0の高さH0と線状砥材32の下端部の高さ位置H32とが一致するように、ブラシ状砥石10の高さ位置を設定する。従って、曲面W0の高さ変化にかかわらず、ブラシ状砥石10と曲面W0との接触状態を適正に設定することができる。
【0047】
また、線状砥材32は、アルミナ長繊維等の無機長繊維の集合糸にバインダー樹脂を含浸、硬化させてなるため、砥粉入りナイロンブラシやワイヤーブラシに比べて研磨力が強く、かつ、ワークとのなじみ性が高いので、切削痕W10を効率よく除去することができる。
【0048】
また、本形態では、ブラシ状砥石10を保持するツール保持体6が、ホルダ本体7にワークに向かう方向およびワークから遠ざかる方向に移動可能に支持されている。また、ブラシ状砥石10を保持するツール保持体6が圧縮コイルばね80により、ワークに向けて所定の付勢力をもって付勢されている。従って、バリ取りあるいは表面仕上げ加工に伴いブラシ状砥石10のブラシ状砥石本体13が磨耗しても、ブラシ状砥石本体13の切り込み荷重を一定に保つことができる。この結果、ワークWへの切り込み量を一定に維持することができるので、ワークWに高精度の研磨加工を施すことができる。また、ブラシ状砥石本体13が磨耗しても、機械的な構成により、ブラシ状砥石本体13のワークへの切り込み量を一定に保つことができるので、切り込みを浅くして研磨加工効率をあげる研磨加工方法を用いた場合でも、ブラシ状砥石本体13とワークとの相対的な位置を調整する制御プログラムを簡素化することができる。また、前加工の加工精度のバラツキにより切削痕W10の大きさにバラツキが発生しても、ワークWへの切り込み量を常に一定に保つことができる。この結果、ブラシ状砥石10の磨耗量が一定なので、表面仕上げ加工精度が不安定になることがない。
【0049】
また、本形態では、ブラシ状砥石本体13を有するブラシ状砥石10をワークWに向けて付勢する圧縮コイルばね80の付勢力を調節ボルト85により調整することができる。従って、ブラシ状砥石本体13の磨耗状態、ワークWの材質および研磨加工方法にあわせて適切な付勢力を設定することができ、高精度の研磨加工をすることができる。また、調節ボルト85を緩める作業および締め付ける作業は、ホルダ本体7の基端側の取付け孔50から六角レンチを差し込むことにより、容易に調節することができる。
【0050】
(ブラシ状砥石10の別の形態)
図5は、本発明の別の実施の形態に係るブラシ状砥石10の説明図である。上記実施の形態では、複数の線状砥材32の束320が複数、周方向で離間した位置に設けられたブラシ状砥石10を用いたが、
図5(a)に示すように、複数の線状砥材32が周方向の全体に設けられた環状の束320を備えたブラシ状砥石10を用いてもよい。また、
図5(b)に示すように、複数の線状砥材32が中心にも設けられて1つの束320になっているブラシ状砥石10を用いてもよい。
【0051】
(他の実施の形態)
上記実施の形態では、曲面W0の高い方から低い方にブラシ状砥石10の送り動作を行ったが、曲面W0の低い方から高い方にブラシ状砥石10の送り動作を行ってもよい。
【0052】
また、上記実施の形態では、ブラシ状砥石10をX軸方向に間欠的に送り移動させる際、曲面W0の高さ変化に基づいて、送りピッチを変化させたが、ブラシ状砥石10をX軸方向に連続的に送り移動させる際、曲面W0の高さ変化に基づいて、送り速度を変化させてもよい。この場合、曲面W0の高さ変化が大である個所では、曲面W0の高さ変化が小である個所に比較して、送り速度を小とする。
【0053】
また、上記実施の形態において、ワークWの曲面W0は、X方向に高さが変化している一方、Y方向では等しい高さであったが、Y方向でも高さが変化している曲面W0の研磨に本発明を適用してもよい。この場合、曲面W0に沿うようにブラシ状砥石10をY方向に連続的に走査することになる。また、ワークWの曲面W0がX方向およびY方向の双方において高さが変化している場合、ブラシ状砥石10をY軸方向に連続的に走査させる際には、Y方向の曲面W0の高さ変化に基づいて送り速度を変化させ、ブラシ状砥石10をX方向に間欠的に送り移動させる際、X方向の曲面W0の高さ変化に基づいて、送りピッチを変化させてもよい。
【0054】
上記実施の形態では、ボールエンドミルで曲面加工した際の切削痕の除去に本発明を適用したが、放電加工により曲面加工した際の放電痕の除去に本発明を適用してもよい。
【0055】
また、上記実施の形態では、フローティング機構を備えた研磨機を例示したが、フローティング機構等を備えていない研磨機を用いて本発明に係る曲面研磨を行ってもよい。