【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上、回収された熱を利用することが無い電動ヒートポンプより、排熱熱交換器を備えて回収された熱を利用するエンジン駆動ヒートポンプムが有利なのであるが、特許文献1に記載のヒートポンプでは、排熱を冷媒に回収して過熱状態にある冷媒ガスを得て、このガスを圧縮するため、効率の上で改善の余地がある。即ち、蒸発器出口で気液混相状態にある冷媒を圧縮機で圧縮し、圧縮機と凝縮器との間に排熱熱交換器を備えて、この排熱熱交換器でエンジンの排熱を冷媒の加熱に使用し、凝縮器入口で80℃程度の冷媒を得るシステム構成を採用すると、圧縮仕事をさらに低下できると考えられる。
【0010】
しかしながら、排熱熱交換器を圧縮機と凝縮器との間に介装した場合、圧縮機には、湿り状態(気液混相状態)で冷媒が流入する。ここで、圧縮機に流入する冷媒の状態が、乾き度が低い例えば0.5以下であると、圧縮機の負荷が過大となり、圧縮機の寿命が短くなる虞がある。従って、排熱熱交換器を圧縮機と凝縮器との間に介装するエンジン駆動ヒートポンプでは、圧縮機に流入する冷媒の状態を精度よく適切に管理する必要がある。
【0011】
一般に、蒸発器で大気から熱を受熱して、凝縮器で空調対象空間内に熱を放出するヒートポンプでは、その蒸発負荷及び凝縮負荷を正確に知ることはできない。例えば、授熱側である蒸発器の熱源は大気(空気)であるため、熱源側即ち大気側で逐次現在の授熱量を正確に計測することはできない。受熱側である蒸発器内を流れる冷媒に関しては、その温度・圧力は判るが、通常、流量を測定していないため、受熱量、即ち蒸発負荷が正確に判明しているわけではない。凝縮負荷に関しても、状況はほぼ同様である。事実上、ヒートポンプにおいて、明確に計測可能な物理量は、システムに設定可能な各点の温度・圧力と、排熱熱交換器入口部位及び出口部位の温度と流量(特許文献1の場合は過熱器の入口部位及び出口部位の温度と流量、排熱熱交換器を圧縮機と凝縮器との間に介装した場合は、当該排熱熱交換器の入口部位及び出口部位の温度と流量)、さらには圧縮機効率に過ぎない。
【0012】
先に説明したように、ヒートポンプを効率の良い状態で運転しようとすると、排熱熱交換器を圧縮機と凝縮器との間に介装することが好ましいのであるが、このヒートポンプの運転を適切に管理できる要件である、圧縮機に流入する冷媒の状態を精度よく適切に管理(制御)する技術は未だ確立されていない。
【0013】
本願の目的は、排熱熱交換器を圧縮機と凝縮機との間に備えるヒートポンプであって、当該ヒートポンプの運転制御が簡便且つ容易でありながら、その運転状態を精度よく適切に制御することができるヒートポンプを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための、圧縮機を冷媒循環路に備え、前記圧縮機により冷媒を圧縮して凝縮器に送り当該凝縮器で熱を放出するとともに、前記凝縮器から冷媒を膨張弁、蒸発器に送り、前記蒸発器で受熱して、前記圧縮機に戻るヒートポンプサイクルを備え、
熱を回収して、前記冷媒循環路を流れる冷媒に与える排熱熱交換器を備えたエンジン駆動ヒートポンプの特徴構成は、
前記排熱熱交換器を前記圧縮機と前記凝縮器との間に備え、
冷媒が前記圧縮機、前記排熱熱交換器、前記凝縮器、前記膨張弁、前記蒸発器の順に循環して前記圧縮機に戻る構成で、
前記圧縮機の入口における冷媒の状態を乾き度が1未満の気液混相状態とし、前記圧縮機の出口における冷媒の状態を過熱状態とする気液混相モードで運転可能とする運転制御手段を備え、前記過熱状態の冷媒が前記排熱熱交換器に流入され
、
前記圧縮機の出口における冷媒の温度及び圧力を検出する圧縮機出口冷媒状態検出手段を備え、
前記運転制御手段に、前記圧縮機出口冷媒状態検出手段により検出される冷媒の温度及び圧力と圧縮機効率から、圧縮機入口における冷媒の乾き度を導出する冷媒乾き度導出手段を備え、
前記冷媒乾き度導出手段により導出される冷媒の乾き度が、前記運転制御手段における運転指標とされることを特徴とする。
【0015】
このヒートポンプでは、排熱を従来構成のように蒸発器から出た冷媒の蒸発・過熱に利用するのではなく、圧縮機による圧縮を終えた冷媒の過熱に利用する。即ち、圧縮機の入口まで冷媒を気液混相状態で送り、圧縮機内で蒸発・過熱して圧縮機の出口で過熱状態とする。
【0016】
例えば、安定運転時の蒸発器出口冷媒の乾き度を0.7前後とする。この使用状態では、蒸発器管内を流れる冷媒は、常に気液混相状態であり、これまでの蒸発器出口を常に乾きガスまで昇温する運転に比べて、循環量を増やす効果も相まって蒸発器内での伝熱性能が高められ、圧縮機の吸い込み圧力を高めることができる。さらに、付加的効果として、これにより冬季の着霜を防止することが可能となる。
また、圧縮機における圧縮仕事を低減できるため、システム全体の効率を向上できる。
図2に、
図5,6に対応して、この構成のエンジン駆動ヒートポンプ(ヒートポンプの一例)のモリエル線図上の動作サイクルを実線で示している。この動作サイクルでは、圧縮機により過熱状態の冷媒が圧縮されて60〜70℃程度まで昇温され、排熱熱交換器で80℃まで昇温され、凝縮器で40℃まで放熱し、膨張弁で膨張されて0℃程度まで降温して気液混相状態とされ、蒸発器で受熱し、0℃の過熱状態とされる。図示する例でも、回収可能な排熱を85℃程度の温度で回収している例を示している。同図右に、「圧縮機−凝縮器間排熱熱交換器配置GHP圧縮仕事」として、エンジン駆動ヒートポンプの圧縮機の仕事を示している。
【0017】
以上が、圧縮機と凝縮器との間に排熱熱交換器を備え、冷媒が圧縮機、排熱熱交換器、凝縮器、膨張弁、蒸発器の順に循環して圧縮機に戻る構成の作用効果であるが、圧縮機の負荷を低減する上で有効に働く本願独特の構成は以下のとおりである。
即ち、圧縮機の入口における冷媒の状態を乾き度が1未満の気液混相状態とし且つ圧縮機の出口における冷媒の状態を過熱状態とする運転制御手段を備え、過熱状態の冷媒が前記排熱熱交換器に流入される構成と採用する(
図2参照)。
図2において太破線が冷媒の飽和線である(
図5、
図6で同じ)。
【0018】
本願発明では運転制御手段を備えることで、圧縮機の出口における冷媒の状態を過熱状態とすることで、この部位での冷媒の温度・圧力から一意に冷媒の状態を推定できる。結果、圧縮機の入口における冷媒の状態を圧縮機効率との関係で推定可能となり、その乾き状態の程度を圧縮機負荷が過大とならない程度に制御可能となる。
更に、本願に係るヒートポンプでは、圧縮機の出口の冷媒の温度及び圧力を圧縮機出口冷媒状態検出手段で検出する。そして、これら検出情報と圧縮機効率に基づいて、圧縮機入口の冷媒の乾き度を冷媒乾き度導出手段で導出することができる。
即ち、圧縮機の入口における冷媒の状態(乾き度)が明らかになることにより、この乾き度を、圧縮機に過度に負荷をかけない状態に維持することで、圧縮機を適正な状態(ある程度の乾き度、例えば乾き度0.7〜0.9が確保されている状態)で長期に渡って安定的に運転できる。
【0019】
本願発明のヒートポンプの更なる特徴構成は、
前記運転制御手段は、定格負荷に対応した定格負荷運転において、前記気液混相モードで運転し、
前記定格負荷未満の負荷に対応した部分負荷運転において、前記圧縮機の入口の冷媒の状態を過熱状態とする過熱モードで運転可能である点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、定格負荷運転においては、圧縮機の入口における冷媒状態を乾き度が1未満の気液混相状態とする気液混相モードとすることで、圧縮機の入口における冷媒状態を気液混相状態にでき、冷媒循環量を増加させ伝熱性能を高めることができる。また、冷媒を過熱状態にする必要が無いため、圧縮機への吸い込み圧力を高めることができる。しかし、本運転方式では冷凍機油への冷媒の溶解度が増加することによる油膜圧力の低下や液圧縮することによる、圧縮機耐久性のリスクが高まる可能性がある。
一方、定格負荷未満の負荷に対応した部分負荷運転においては、冷媒の凝縮圧力が低く、圧縮機の出口の温度も定格負荷運転時より低い(50〜60℃)状態のため、圧縮機の入口における冷媒状態を気液混相状態にせず、通常運転時の過熱度を確保した状態からでも排熱(85℃程度)で加熱する事が可能となり、圧縮機耐久性のリスクを高める事なく、かつシンプルな制御のままで暖房性能を向上する事が可能となる。
もちろん、部分負荷運転時でも定格負荷運転時と同様に気液混相状態から圧縮する場合には、更に暖房性能を向上させる事も可能である。
【0021】
本発明のヒートポンプの更なる特徴構成は、
前記運転制御手段は、前記部分負荷運転において、前記気液混相モードと前記過熱モードとを選択切替可能である点にある。
【0022】
上記特徴構成によれば、部分負荷運転においては、過熱モードと気液混相モードとを選択切替可能に構成されているから、例えば、圧縮機における液圧縮のリスクを低減したい場合には、過熱モードを実行し、運転効率を向上させたい場合には、気液混相モードを実行させることができ、状況に応じたモード選択により、運転の最適化を図ることができる。
【0023】
本願が目的とする「精度の高い適切な運転制御」を実現するために、本願発明では、ヒートポンプが、冷媒循環回路内を逐次流れている「冷媒の流量」及び「圧縮機の入口での冷媒の乾き度」を適切に推定できる構成を採用している。以下、その構成に関して説明する。
冷媒の流量
排熱熱交換器の入口及び出口における熱を搬送する熱媒の温度と、排熱熱交換器を通過する熱媒の流量を検出して、排熱熱交換器で熱媒から冷媒に与えられるエンタルピーを求めるエンタルピー導出手段と、
排熱熱交換器の入口及び出口における冷媒の温度及び圧力を検出して、検出される冷媒の温度及び圧力に基づいて、排熱熱交換器で冷媒が受ける比エンタルピーを求める比エンタルピー導出手段とを備え、
エンタルピー導出手段により導出されるエンタルピーと、比エンタルピー導出手段により導出される比エンタルピーから冷媒循環路を循環する冷媒の流量を導出する冷媒流量導出手段を備え、
冷媒流量導出手段により導出される冷媒の流量を、運転制御手段おける運転指標とする。
【0024】
本願に係る排熱熱交換器での熱の授受は、熱媒から冷媒への温熱の授与である。ここで、熱媒から冷媒へ与えられる熱に関して、そのエンタルピーは計測可能な物理量である排熱熱交換器の入口及び出口における熱媒の温度と、排熱熱交換器を通過する熱媒の流量から求めることができる。
一方、排熱熱交換器の入口、出口における冷媒の比エンタルピーの変化量は、計測可能な物理量である排熱熱交換器の入口及び出口における冷媒の温度・圧力から求めることができる。
従って、排熱熱交換器を通過する冷媒の流量は、熱媒から冷媒に与えられる熱に基づいて、上記エンタルピーと比エンタルピーとの関係から求めることができる。よって、この構成を採用することで、冷媒回路を流れる冷媒の流量を精度よく求め、このようにして得られた正確な冷媒の流量に基づいてヒートポンプサイクルを運転制御手段により適切なサイクルを描かせながら運転することができる。
【0027】
さて、前記圧縮機の出口における冷媒の状態を所定範囲の過熱状態に維持して、前記圧縮機の入口における冷媒の状態を乾き度が1に近い所定の乾き度範囲に維持すべく、前記冷媒の流量を、前記所定の乾き度範囲を下回った場合に冷媒の流量を減少させ、前記所定の乾き度範囲を上回った場合に冷媒の流量を増加するように調整することが好ましい。
先にも説明したように、システムの効率を、その高い状態に維持しようとした場合、少なくとも圧縮機の入口での冷媒状態を気液混相状態に維持する必要がある。一方、ヒートポンプを好適な状態で運転を継続する意味から、その制御指標として冷媒回路を循環する冷媒の流量が不可欠な指標となる。換言すると、圧縮機の入口における冷媒の乾き度を1に近い所定の乾き度範囲に維持しておけば、圧縮機の出口における冷媒の状態を過熱状態とすることが可能となる。そして、この制御を実質的に流量制御より容易に実現できる。