(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記サセプターの底面は平坦であり、前記誘導加熱コイルの下端部は前記サセプターの前記底面よりも下方に延在していることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱炉。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱処理工程の低コスト化を実現する方法として、ワークを大型化し、一回の処理量を増大させる方法がある。ところで、ワークを大型化した場合、それに応じて誘導加熱炉の各部も大型化する必要があるが、それに伴い各部の重量も増大する。ところで、1500℃以上といった高温処理を行う誘導加熱炉は、サセプターの周囲に断熱材が充填され、断熱材の中にサセプターが埋まっている。したがって、ワークの搬入・排出時に炉の一部を解体し、また再構築する作業が必要となる。炉が大きくなると、これらの作業が大規模なものとなるが、通常のソレノイドコイルを用いる場合、炉
殻の外側にコイルが固定されているので、コイルが作業の邪魔となる場合がある。また、断熱材やサセプターは消耗品であり、消耗あるいは傷みが進んだ段階で交換するメンテナンス作業が必要となるが、このメンテナンス作業時にもソレノイドコイルの存在が邪魔となる場合がある。
【0005】
このような背景において、本発明は、大型化したワークに対応でき、組み立て性やメンテナンス性に優れた誘導加熱
炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、面状のコイルを略逆U字形状に湾曲させた形状の誘導加熱コイルと、前記略逆U字形状に湾曲した前記誘導加熱コイルによって、両側面方向と上方向とが囲まれた状態の炉
殻と、前記炉殻の内側に配置された発熱体として機能するサセプターとを備えることを特徴とする誘導加熱炉である。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、誘導加熱コイルを炉
殻から離して退避させることができるので、炉
殻へのワークの搬入および排出のための作業時、あるいは炉のメンテナンス時の作業時に誘導加熱コイルが作業の支障とならない優位性が得られる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記サセプターの底面は平坦であり、前記誘導加熱コイルの下端部は前記サセプターの前記底面よりも下方に延在していることを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、サセプターの底面に作用する磁束が生じるので、当該発明を採用しない場合に比較して、サセプターの加熱の均一性を高めることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、
筒状の炉殻と、前記炉殻の内側に配置された発熱体として機能するサセプターと
前記炉殻の両側面方向、上方向および底部方向を螺旋状に囲んで配設されたソレノイドコイルからなる誘導加熱コイルと、を備えた誘導加熱炉において、前記誘導加熱コイルの各ターンを、該ターンを軸方向から見た状態で上側のコイル部材と下側のコイル部材とに左右の結合部を介して分割可能に構成するとともに、前記左右の結合部の近傍に、前記上側のコイル部材と前記下側のコイル部材とに冷却水をそれぞれ独立して供給し排水するパイプがそれぞれ接続されていることを特徴とする誘導加熱炉である。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、ソレノイド型の誘導加熱コイルを軸方向から見て上下に分離することができる。このため、誘導加熱コイルの上部を炉
殻から離して退避させることができ、炉
殻へのワークの搬入および排出のための作業時、あるいは炉のメンテナンス時の作業時に誘導加熱コイルが作業の支障とならない優位性が得られる。
【0011】
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘導加熱炉の複数と、前記複数の誘導加熱炉のいずれか一つに高周波電力を供給する高周波電源と、前記高周波電源と前記複数の誘導加熱炉の間に配置され、前記高周波電源からの高周波電力を前記複数の誘導加熱炉の中の何れか一つに選択的に供給するための切り替え回路とを備えることを特徴とする。請求項4に記載の発明によれば、一つの高周波電源を用いて、複数の誘導加熱炉を順次稼働させることで、加熱処理を連続的に行い、作業効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大型化したワークに対応でき、組み立て性やメンテナンス性に優れた誘導加熱
炉が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.第1の実施形態
図1には、実施形態の誘導加熱炉100の側面透視図(A)と正面透視図(B)が示されている。誘導加熱炉100は、コンクリートベース111の上に設置された炉殻101を有している。炉殻101は、誘導加熱炉100の骨格構造を構成する部材であり、SiC等の耐火物により構成され、中空部を有する筒構造を有している。炉殻101の中空部は、
図1(B)の視点(正面方向)から見て、上側が円形で両側面が垂直で底面が平坦な断面形状を有している。以下、筒状の炉殻101の延在方向(
図1(A)の左右の方向)を軸方向と称する。炉殻101の軸方向の前後は、蓋部材112,113によって蓋がされている。この蓋部材112,113は、例えば金属により構成され、取り外しが可能なようにボルトで炉殻101に取り付けられている。
【0015】
炉殻101の内側には、炭素材料により構成される断熱材102が配置されている。断熱材102は、後述するサセプター103の外側と炉殻101の内側との間、およびサセプター103と蓋部材112,113との間に充填された状態で配置されている。また、蓋部材112とサセプター103との間に位置する断熱材102は、蓋部材112を取り外した状態で、取り出すことが可能とされている。こうすることで、蓋部材112を取り外した状態で、サセプター103の端面の蓋部103aを露出させることができるようになっている。
【0016】
断熱材102の内側には、ワーク(図示省略)を収納するためのサセプター103が配置されている。サセプター103は、発熱体および被熱処理部材の収納容器として機能する部材である。サセプター103は、グラファイトにより構成され、炉殻101を縮小したような形状を有し、その軸方向の前後は、同じ材質の蓋部材103aと103bにより塞がれている。蓋部材103aは、取り外しが可能で、ワークをサセプター103内に搬入する際、およびワークをサセプター103内から搬出する際に取り外される。サセプター103は、パイプ状の炭素繊維強化炭素複合材107を間に介して、炉殻101の底面上に配置されている。サセプター103に収納されるワークの形状や材質、さらに熱処理の形態は限定されない。
【0017】
軸方向(
図1(B)の視点)から見た炉殻101の両側の側面および半円形に湾曲した上面を覆うように誘導加熱コイル104が配置されている。誘導加熱コイル104は、面状のコイルを湾曲させ、ワークの搬入・排出方向から見ると、略逆U字形状を有した構造とされている。
図2には、誘導加熱コイルの側面図(A)および(C)、炉殻101の軸方向から見た正面図(B)が示され、
図3には、
図2(B)に示すような湾曲した構造の誘導加熱コイル104を平面に展開(つまり、湾曲させずに平面的に押し広げた)状態が示されている。すなわち、誘導加熱コイル104は、
図3に示すような角型の渦巻きコイルを水平に配置した状態で対向する2辺(
図3の上下の辺)を内側に向けて湾曲させ、逆U字型に変形させた構造とされている。誘導加熱コイル104には、図示しない高周波電源が接続されている。また、図示省略しているが、誘導加熱コイル104は中空パイプであり、その内部に冷却水を供給し、自身の過熱を防ぐ構成となっている。
【0018】
図2に示すように、誘導加熱コイル104は、サポート部材114,115により、その形状が保持され、サポート部材115が図示しない土台に固定されることで、誘導加熱コイル104は
図1に図示される位置に保持されている。
図1には、誘導加熱コイル104の略逆U字形状の部分が、炉
殻101の上方から被せられ、誘導加熱コイル104の略逆U字形状の部分の内側に炉
殻101が位置した状態が示されている。この構造では、面状のコイルを略逆U字形状に湾曲させた形状の誘導加熱コイル104によって、炉
殻101の両側面方向と上方向とが囲まれた状態となる。
図1(B)の視点から見ると、誘導加熱コイル104は、下方向に開放されているので、そのまま上方に移動させ、炉
殻101から離間させることできる。また、誘導加熱コイル104の下端104aの位置は、サセプター103の底部103cよりも下側に位置する位置関係とされている。符合105は、サセプター103の内部にガス(例えば、窒素ガス等)を送り込むガス導入管である。また、符合106は、サセプター103の内部からガスを排出するガス排気管である。
【0019】
(加熱処理工程の一例)
まず、蓋部材112、蓋部材112とサセプター103の蓋部103aとの間の断熱材102、および蓋部103aを取り外した状態とする。この状態で、サセプター103の内部が露出する。次に、サセプター103の内側にワークを搬入し、蓋部103aをサセプター103に取り付け、更にその手前に断熱材102を充填し、最後に蓋部材112を炉殻101に取り付け、
図1に示す状態とする。この状態で、サセプター103の内部にワーク(図示省略)が納まった状態を得る。なおこの際、ガス導入管105を図示する状態で取り付ける。
【0020】
図1に示す状態において、サセプター103の内部にワークが納まった状態を得たら、誘導加熱コイル104に高周波電流(例えば、数十Hz〜数十kHzの高周波電流)を流し、熱処理を行なう。この際、グラファイトにより構成されたサセプター103に誘導電流が流れ、この誘導電流に起因するジュール熱によりサセプター103が発熱する。この発熱の輻射熱により、サセプター103内のワーク(図示省略)が加熱され、当該ワークに対する熱処理が行なわれる。熱処理が終了したら、冷却するのを待って、上記と逆の手順により、ワークを外部に搬出する。
【0021】
(優位性)
誘導加熱炉100を組み立てる作業において、炉殻101およびその内部構造を完成させた段階で、上方から逆U字型形状の誘導加熱コイル104を炉殻101に被せるようにして配置できる。このため、大型化したワークに対応するために、全体の構造が大きくなった場合であっても、炉の組み立て作業が行い易い。また、炉内へのワークの搬入、炉内からのワークの排出を行なう作業において、一部の断熱材102の除去や再配置、炉
殻101の一部の取り外しや再取り付けといった作業が必要となる場合があるが、これらの作業時に炉
殻101から誘導加熱コイル104を離間させ、退避させることができるので、これらの作業に誘導加熱コイル104が邪魔になることがない。
【0022】
また、サセプター103や断熱材102は消耗品であり、ある程度使用した段階で交換するメンテナンス作業が必要となるが、誘導加熱コイル104を上方に退避させることが容易であるので、このメンテナンス作業を容易に行うことができる。
【0023】
2.第2の実施形態
本実施形態では、第1の実施形態における誘導加熱コイル104の代わりに上下に2分割できるソレノイド型の誘導加熱コイルを用いる場合の形態を説明する。
図4には、誘導加熱コイルの部分だけの構造が示されている。
図4(A)には、誘導加熱コイル401の側面図が示され、
図4(B)には、軸方向から見た正面図が示されている。誘導加熱コイル401は、軸方向から見た状態において、上部が半円形で、下部の左右が角の丸い略コの字形状を有している。この誘導加熱コイル401は、ソレノイド構造のコイルとして機能する。
【0024】
誘導加熱コイル401は、各ターンの軸方向から見た左右の部分に結合部402を有している。
図5は、
図4(B)の右側の結合部402の拡大図である。
図5に示すように、結合
部402は、上側のコイル部材401aのフランジ部407と下側のコイル部材401bのフランジ部408とを締結部材であるボルト409aとナット409bによって締結し、結合した構造を有している。コイル部材401aと401bは、銅材であり、フランジ部40
7と40
8が接触することで、電気的な導通が確保されている。この構造では、ボルト409aとナット409bの締結を解除することで、上側のコイル部材401aと下側のコイル部材401bとを切り離し、誘導加熱コイル401を上下に分離することができる。
【0025】
誘導加熱コイル401は、各ターンにおいて、上側の部分と下側の部分とのそれぞれに対して、独立に冷却水の供給パイプと排出パイプが接続されている。すなわち、上側のコイル部材401aには、冷却水供給パイプ410から冷却水が供給される。上側のコイル部材401aに供給された冷却水は、
図4(B)の左側の同様の部分に接続された冷却水
排水パイプ411から排水される。下側のコイル部材401bには、冷却水供給パイプ412から冷却水が供給される。下側のコイル部材401bに供給された冷却水は、
図4(B)の左側の同様の部分に接続された冷却水排水パイプ413から排水される。
【0026】
また、誘導加熱コイル401には、
図1および
図2に示す誘導加熱コイル104と異なり、炉
殻の下側を横断する底部の部分が存在する。ここでは、
図1(A)に示されるコンクリートベース111の隣接する部分の間の隙間に誘導加熱コイル401の底部の部分を通す構造とする。この際、隣接するコンクリートベース111の間を通す該当する部分におけるコイル線材は、複数を一束として寄せて纏めた状態とする。なお、寄せて纏められた部分のコイル線材には、絶縁被覆を施し、互いに短絡しないようにする。
【0027】
図6には、
図4に示す誘導加熱コイル401を軸方向に3つ並べた例が示されている。このように、誘導炉の長さに対応して、複数の誘導加熱コイル401を直列に配置する構造も可能であることから、炉の延長を容易に行うことができる。
【0028】
(優位性)
図4に示す誘導加熱コイル401は、軸方向から見てサセプター(
図1の符合103)の周囲全てを覆う(つまり、サセプターの下方にもコイルがある)ので、サセプターの加熱を均一に行う点で
図1の構造に比較して有利となる。すなわち、サセプターの下方にもコイルがあることで、サセプターの底部に作用する磁束が効率よく生成され、サセプター全体の発熱の均一性を高くできる。また、
図5に図示するコイルの結合構造を採用することで、上下方向における分離結合が自在にできる。このため、誘導加熱炉の組み立てやメンテナンス時に誘導加熱コイル401の上側を取り外した状態で作業が行え、高い作業性が得られる。
【0029】
誘導加熱コイル401の各ターンにおいて、上側のコイル部分401aと下側のコイル部材401bとの間で冷却水の通す構造が必要とされず、電気伝導が確保されればよいので、結合部の構造が簡素化される。
【0030】
3.第3の実施形態
図7には、本発明を利用した誘導加熱炉を複数用いたシステムのブロック図が示されている。
図7には、誘導加熱炉を2台用いる例が示されている。
図7には、誘導加熱炉701と702が示されている。誘導加熱炉701と702は、同じ構造であり、第1または第2の実施形態に示す構造を有している。誘導加熱炉701と702には、高周波電源704から高周波電力が供給される。切り替え
回路703は、高周波電源704から供給される高周波電力の供給先を切り替える。切り替え
回路703が第1の誘導加熱炉701を選択している状況では、高周波電源704から第1の誘導加熱炉701に高周波電力が供給され、第2の誘導加熱炉702への高周波電力の供給は行われない。また、切り替え
回路703が第2の誘導加熱炉702を選択している状況では、高周波電源704から第2の誘導加熱炉702に高周波電力が供給され、第1の誘導加熱炉701への高周波電力の供給は行われない。高周波電源704は、誘導加熱炉701および702が必要とする高周波電力を出力する。使用する周波数や電力値は、任意であり、用途によって適宜選択される。
【0031】
誘導加熱炉701,702として、
図1の誘導加熱炉100を用いた場合を例に挙げ、
図7に示すシステムの動作の一例を説明する。
図8には、この場合の作業チャートの一例が示されている。まず、第1の誘導加熱炉701にワークを搬入し、炉の組み立てを行なう。第1の誘導加熱炉701の組み立てが終了したら、切り替え回路703を用いて高周波電源704を第1の誘導加熱炉701に接続し、第1の誘導加熱炉701での熱処理を開始する。そして、誘導加熱炉701の熱処理および熱処理後の冷却(この冷却にも熱処理と同程度以上の時間が必要とされる)を行なっている間に、高周波電源704が接続されていない第2の誘導加熱炉702へのワークの搬入および炉の組み立てを行なう。
【0032】
そして、第1の誘導加熱炉701の加熱終了後で、且つ、第2の誘導加熱炉702の準備が整った段階で、高周波電源704の接続を第1の誘導加熱炉701から第2の誘導加熱炉702に変更し、第2の誘導加熱炉702での加熱処理を開始する。この第2の誘導加熱炉702での熱処理およびその後の冷却を行う期間において、第1の誘導加熱炉701における熱処理済みのワークの搬出、および次の未熱処理状態のワークの炉内への搬入および炉の組み立てが行なわれる。こうして、第1の誘導加熱炉701と第2の誘導加熱炉702を交互に用いての連続的なワークへの熱処理が繰り返し行なわれる。
【0033】
(優位性)
一方の誘導加熱炉における熱処理および冷却処理の間に、他方の誘導加熱炉におけるワークの搬入・排出に係る処理を行えるので、高い作業効率が得られる。また、高周波電源は一つでよいので設備コストを抑えることができる。また、ワークの搬入作業、排出作業、およびそれらの作業時における炉の一部の解体や組み立てに要する作業において、誘導加熱コイルを退避(第1の実施形態の場合)あるいは誘導加熱コイルの上半分を分離し退避(第2の実施形態の場合)させ、作業空間を確保することができる。このため、誘導加熱炉に対するワークの搬入作業、排出作業、およびそれらの作業時における炉の一部の解体や組み立てにおいて、高い作業性が得られる。
【0034】
(その他)
利用する誘導加熱炉を3台以上とすることもできる。例えば、誘導加熱炉を3台用いる場合、1台が誘導加熱および冷却工程である期間に、他の2台において誘導加熱および冷却以外の作業が行われる。また、1台目が加熱後の冷却工程、2台目がワークの搬入・排出工程、3台目が加熱工程という組み合わせにし、それを順次ずらしてゆくことで、3台の誘導加熱炉を用いた連続処理も可能である。