(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959352
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ホットメルトシール組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20160719BHJP
C08L 23/18 20060101ALI20160719BHJP
H01L 31/048 20140101ALI20160719BHJP
【FI】
C09K3/10 Z
C08L23/18
H01L31/04 560
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-162264(P2012-162264)
(22)【出願日】2012年7月23日
(65)【公開番号】特開2014-19837(P2014-19837A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】須藤 真人
【審査官】
馬籠 朋広
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/068597(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/047185(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/10
C08L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が15万〜25万のポリイソブチレンと,重量平均分子量が35万〜45万のポリイソブチレンと,重量平均分子量が8万〜10万のポリイソブチレンと,少なくとも生石灰またはゼオライトから成る吸湿剤と,シラン変性ポリオレフィンと,タルク又はカオリンクレーと,から成り,各ポリイソブチレンの重量平均分子量から求める数平均の分子量が19万〜30万であることを特徴とするホットメルトシール組成物。
【請求項2】
吸湿剤はポリイソブチレン100重量部に対して20〜60重量部含むことを特徴とする請求項1に記載のホットメルトシール組成物。
【請求項3】
シラン変性ポリオレフィンはポリイソブチレン100重量部に対して15〜45重量部含むことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のホットメルトシール組成物。
【請求項4】
タルク又はカオリンクレーは,ポリイソブチレン100重量部に対して50〜200重量部含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のホットメルトシール組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,フレームレス太陽電池モジュールのシール組成物に関し,特に2枚のガラス板を一定の隙間を持たせて重ね合わせた際に形成される4方向の端部をシールするホットメルトシール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,太陽電池用反応型ホットメルトシーリング材組成物として,ブチルゴムと,シリル化したアモルファスポリ−α−オレフィン重合体とを含有する太陽電池用反応型ホットメルトシーリング材組成物が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また,複層ガラスおよび太陽電池パネルの端部を,簡易かつ効率的に封止でき,しかも,絶縁性,防水性,水蒸気バリア性,耐久性に優れるシーリング組成物として,ゴム成分とポリオレフィンとを含有し,前記ゴム成分は,ブチルゴムと,粘度平均分子量が50万〜300万のポリイソブチレンとを含有し,前記ゴム成分の配合割合が,前記ゴム成分および前記ポリオレフィンの総量100重量部に対して,40〜90重量部であり,吸湿性化合物を,前記ゴム成分および前記ポリオレフィンの総量100重量部に対して,0〜30重量部含有することを特徴とする,シーリング組成物が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−166032号公報
【特許文献2】特開2011−231309号公報
【0005】
しかし,特許文献1に示される太陽電池用反応型ホットメルトシーリング材組成物は,その用途が主としてフレームを有する太陽電池モジュール用に使用され,また評価されたものであり,本願発明が目的としているフレームレス太陽電池モジュールのガラス板端部をシールする用途にそのまま適用することが出来ないという課題がある。また該太陽電池用反応型ホットメルトシーリング材組成物は,ブチルゴムが主たるゴム成分であるため,高温における流れ性が不十分な場合があるという課題がある。
【0006】
また,特許文献2に示されるシーリング組成物は,ブチルゴムのほかにポリイソブチレンを含有するものであるが,ポリイソブチレンの粘度平均分子量は50万〜300万であって,どちらかというと該分子量は高めである。このため,特許文献2において開示された実施例(明細書段落0133の表1)には炭酸カルシウム等の充填剤を配合したものが具体的には示されてはおらず,該充填剤を配合すると該シーリング組成物は高粘度になる可能性があり,使用時に高温で溶融させることを考慮してもその流れ性が十分でない場合があるという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は,フレームレスの太陽電池モジュールのシール材に使用可能で,シール材の溶融温度において適度な流れ性を有し,絶縁性,防水性,水蒸気バリア性,耐久性に優れるホットメルトシール組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は,重量平均分子量が15
万〜25万のポリイソブチレンと,重量平均分子量が35
万〜45万のポリイソブチレンと,重量平均分子量が8
万〜10万のポリイソブチレンと,少なくとも生石灰またはゼオライトから成る吸湿剤と,シラン変性ポリオレフィンと,
タルク又はカオリンクレーと,から成り,各ポリイソブチレンの重量平均分子量から求める数平均の分子量が19万〜30万であることを特徴とするホットメルトシール組成物である。
【0009】
請求項2記載の発明は,吸湿剤はポリイソブチレン100重量部に対して20〜60重量部含むことを特徴とする請求項1に記載のホットメルトシール組成物である。
【0010】
請求項3記載の発明は,シラン変性ポリオレフィンはポリイソブチレン100重量部に対して15〜45重量部含むことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のホットメルトシール組成物である。
【0011】
請求項4記載の発明は,
タルク又はカオリンクレーは,ポリイソブチレン100重量部に対して50〜200重量部含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のホットメルトシール組成物である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るホットメルトシール組成物は,重量平均分子量が異なるポリイソブチレンの混合物から成り,特に重量平均分子量が15〜25万のポリイソブチレンと,重量平均分子量が35〜45万のポリイソブチレンと,重量平均分子量が8〜10万のポリイソブチレンとの混合物から成っていて,混合割合は各重量平均分子量から求める数平均の分子量が19〜30万と成るように配合すればよい。このため,原料となるポリイソブチレンの選択性が広く,手元にあるこれらのポリイソブチレンを各重量平均分子量から求めた数平均の分子量が19〜30万と成るように適宜調整することで,原料を効率良く使用することが可能になり,生産効率が高くなるという効果がある。また配合されたポリイソブチレンの分子量は従来のシーリング組成物と比較して低分子量であるため、高温での使用時に適度の流れ性を有していて施工作業性が良好であるという効果がある。また本発明は特に充填剤を含むものであるが,充填剤が配合された状態で,良好な絶縁性と防水性と水蒸気バリア性及び耐久性を有するという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のホットメルトシール組成物は,重量平均分子量が15〜25万のポリイソブチレンと,重量平均分子量が35〜45万のポリイソブチレンと,重量平均分子量が8〜10万のポリイソブチレンと,少なくとも生石灰またはゼオライトから成る吸湿剤と,シラン変性ポリオレフィンと,充填剤と,から成り,各ポリイソブチレンの重量平均分子量から求める数平均の分子量が19万〜30万であることを特徴とするホットメルトシール組成物であり,必要により,チクソ付与剤,希釈剤,粘着付与剤,耐熱補助剤、難燃剤,酸化防止剤等が配合される。ここでいう各ポリイソブチレンの重量平均分子量から求める数平均の分子量とは,配合された各ポリイソブチレンの分子量(重量平均分子量)の総合計値を,各ポリイソブチレンの分子数の総合計値で除した数値である。
【0016】
ポリイソブチレン
本発明に使用されるポリイソブチレンは,重量平均分子量が15〜25万のイソブチレンの重合体と,重量平均分子量が35〜45万のイソブチレンの重合体と,重量平均分子量が8〜10万のイソブチレンの重合体である。これらのポリイソブチレンは各ポリイソブチレンの重量平均分子量から求める数平均の分子量が19万〜30万となるように混合されるが,混合されたポリイソブチレンは優れた水蒸気バリア効果を有し,比較的低分子量であるため,高温で溶融させて使用する際に良好な流れ性がある。各ポリイソブチレンの重量平均分子量から求める数平均の分子量が19万未満では,高温溶融時の流れ性が過剰となり,30万超では高温溶融時の流れ性が不足する。市販の重量平均分子量が20万のポリイソブチレンにはoppanolB30SF(商品名,BASF社製)が,同重量平均分子量が40万のポリイソブチレンにはoppanolB50SF(商品名,BASF社製),同重量平均分子量が9万のポリイソブチレンにはoppanolB15SFN(商品名,BASF社製)がある。
【0017】
吸湿剤
本発明に使用される吸湿剤は,少なくとも生石灰またはゼオライトから成り,複層ガラスの周囲を本発明であるホットメルトシール組成物でシールした際に,該周囲から複層ガラス内に進入する水分を吸着保持するために配合され,水分を吸着した際の重量増加率は,10〜30%のものが適していて,より好ましくは20〜25%である。10%未満では十分な吸着性能を保持できず,30%超では、吸湿性能が高いため保存安定性が不足する。特に配合される生石灰に関しては,ポリイソブチレンに対する分散性が良好な,粒子の表面を脂肪酸等で処理したものが適している。市販の生石灰としては,CML#31(商品名,表面脂肪酸処理生石灰,水分吸着時の重量増加率:20%,近江化学工業製)が、市販のゼオライトとしては、ミズカシーブス5AP(商品名,水分吸着時の重量増加率:24%,水澤化学製)がある。
【0018】
吸湿剤の配合量は,前記ポリイソブチレン100重量部に対して20〜60重量部であり,より好ましくは30〜50重量部である。20重量部以下では吸湿効果が不十分であり,60重量部超では絶縁性が低下する。30重量部以下では吸湿効果が不十分となる傾向があり,50重量部超では絶縁性が低下する傾向にある。
【0019】
シラン変性ポリオレフィン
シラン変性ポリオレフィンは,シリル化したアモルファスポリ−α-オレフィン重合体である。シリル化前のアモルファス−α−オレフィン重合体としては,アタクチックポリプレピレン,アタクチックポリブテンー1などのホモポリマー,コポリマー;エチレン,プロピレン,ブチレンなどのコポリマーまたはターポリマーを挙げることができる。該シラン変性ポリオレフィンの市販品としてはvestoplast206(粘度;5±1Pa・s/190℃,エポニックデグサ社製)、または、vestoplastEP2403(粘度;3±1Pa・s/190℃,エポニックデグサ社製)、がある。
【0020】
シラン変性ポリオレフィンの配合量は,前記ポリイソブチレン100重量部に対して15〜45重量部であり,より好ましくは20〜40重量部である。15重量部以下では密着性が不良と成り,45重量部超では高温溶融時の流れ性及び絶縁性が不十分となる。20重量部以下では密着性が不良と成る傾向があり,40重量部超では高温溶融時の流れ性及び絶縁性が不十分となる傾向がある。
【0021】
充填剤
本発明に使用する充填剤は,タルク,カオリンクレー,およびカーボンブラックのいずれかより選択される少なくとも1から成る。これらの充填剤は補強性を向上させる効果、および透湿性を向上させる効果があり,粒子表面がカップリング剤(ビニルシランまたは、アミノシラン)で処理されているもののほか未処理のものも使用できる。充填剤の平均粒子径は1nm〜1000μmであり,より好ましくは10nm〜100μmである。
【0022】
充填剤の配合量は,前記ポリイソブチレン100重量部に対して50〜200重量部であり,より好ましくは80重量部〜150重量部である。50重量部以下では補強効果が不十分であり,200重量部超では密着性が不十分となる。80重量部以下では補強効果と透湿性が不十分となる傾向に有り,150重量部超では密着性が不十分となる傾向がある。
【0023】
市販の炭酸カルシウムとしては,BF200(商品名,平均粒子径5.5μm,備北粉化製)があり,タルクとしては,タルクMS(商品名,平均粒子径20μm,日本タルク社製),カオリンクレーとしては,ST−KE(商品名,ビニルシラン処理焼成カオリンクレー,平均粒子径2.2μm,白石カルシウム社製),カーボンブラックとして,旭サーマルカーボン(商品名,旭サーマル社製)やMA100(商品名,三菱化学製)がある。
【0024】
以下,実施例及び比較例にて本出願に係るホットメルトシール組成物について具体的に説明する。
【実施例】
【0025】
実施例1乃至実施例7
表1に示す配合にて,重量平均分子量20万のポリイソブチレンとしてoppanolB30SFを,同重量平均分子量が40万のポリイソブチレンにはoppanolB50SFを,同重量平均分子量が9万のポリイソブチレンにはoppanolB15SFNを,吸湿剤としてCML#31またはミズカシーブス5APを,充填剤としてタルクMS,旭サーマルカーボン,またはカオリンクレーとしてST−KEを,炭酸カルシウムとしてBF200を,シラン変性ポリオレフィンとしてvestoplast206またはvestoplastEP2403を使用し,試験用ニーダー(1L)で160℃に加熱しながら混練し,実施例1乃至実施例5を得た。
【0026】
比較例1乃至比較例7
表1に示す配合にて,実施例1乃至実施例7と同様の方法で混練し,比較例1乃至比較例7を得た。
【0027】
【表1】
【0028】
評価項目および評価方法
【0029】
透湿度及び透湿飽和時間
実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例7のホットメルトシール組成物を0.7mm厚みに調整した試験片について,JISK7129:2008プラスチックフィルム及びシート−水蒸気透過度の求め方(機器測定法)の赤外線センサ法(付属書B)に準拠し,透過セルの温度85℃湿度100%の条件で,透湿度を測定した。9g/mm
2・day以下を○と評価し,これを越えるものを×とした。また一定の透湿度に到るまでの時間を透湿飽和時間(時間)として求めた。40時間以上を○と評価し,40時間未満を×とした。
【0030】
吸湿性
実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例7のホットメルトシール組成物を10mm×100mm×0.7mm厚みに調整した試験片を,40℃90%RHに14日間放置した際の重量変化率を測定した。重量変化率が2%以上を○と評価し,2%未満を×とした。
【0031】
せん断密着強度及びせん断密着破壊状態
20mm×50mm×3m厚のガラス板に実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例7のホットメルトシール組成物を140〜160℃に加熱して厚さ0.7mm厚で塗付し,直ちに同形状のガラス板を巾10mmでオーバーラップさせるように載置する。150℃5分間真空脱気後,55kPa圧力で15分間プレスする。その後さらに23℃2日間養生後,引張速度20mm/分で2枚のガラス板を引張り,破壊強度を測定し,単位面積あたりの破壊強度をせん断密着強度(N/mm
2)とした。0.4N/mm
2以上を○と評価し0.4N/mm
2未満を×とした。 また,破壊時の破壊面を目視で評価し,ホットメルトシール組成物の100%凝集破壊を○と評価し,これ以外を×とした。
【0032】
180度はく離密着強度及び180度はく離破壊状態
180mm×30mm×3mm厚のガラス板に実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例7のホットメルトシール組成物を140〜160℃に加熱して厚さ0.7mmで塗付し,直ちに25mm×400mm×1mmの綿布を張り付ける。150℃5分間真空脱気後,55kPa圧力で15分間プレスする。その後さらに23℃2日間養生した後,引張速度100mm/分で綿布をガラス板に対して180度方向に引っ張り,綿布がはく離する際の強度を測定し,単位長あたりの強度を180度はく離密着強度(N/mm)とした。1.5N/mm以上を○と評価し,1.5N/mm未満を×とした。また,はく離時のはく離面を目視で評価し,ホットメルトシール組成物の50%以上の凝集破壊を○と評価し,これ以外を×とした。
【0033】
ラミネート性
ガラス板上に実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例7のホットメルトシール組成物を140〜160℃に加熱して厚さ0.7mmで塗付し,145℃で5分間脱気後,55kPa圧力で15分間プレスし,その状態を目視で観察した。ホットメルトシール組成物に気泡の混入がないものを○と評価し,気泡があるものを×とした。
【0034】
耐熱フロー性
ガラス板上に1.4mm×1.4mm×1.4mmに成形した実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例7のホットメルトシール組成物を載置し,150℃1時間後のフローを測定した。10mm以上20mm以下を○と評価し,10mm未満を△,20mm超を×とした。
【0035】
絶縁性
JISK6911の5.13抵抗率に準拠し,実施例1乃至実施例7及び比較例1乃至比較例7の体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。10
11Ω・cm以上を○とし,10
11Ω・cm未満を×とした。
【0036】
評価結果
評価結果を表2に示す。実施例1乃至実施例7はすべての評価項目が○であった。
【0037】
【表2】