特許第5959359号(P5959359)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5959359-転落防止構造 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959359
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】転落防止構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 6/10 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   E04H6/10 A
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-165464(P2012-165464)
(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2014-25242(P2014-25242A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】石澤 賢史
(72)【発明者】
【氏名】小林 祥一
(72)【発明者】
【氏名】西山 正三
(72)【発明者】
【氏名】金田 和浩
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−247481(JP,A)
【文献】 特開平08−177258(JP,A)
【文献】 特開2011−174371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 6/00 − 6/42
E01F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の駐車場に設けられる転落防止構造であって、
前記既存の駐車場は、外周に沿って延びて駐車場の床面から上方に立ちあがっている既存の防護部を有し、
当該既存の防護部から離れて前記既存の駐車場の床面に載置された基部と、
当該基部から上方に延びて少なくとも前記床面から所定の高さ位置で略水平に延びる防護部と、を備え、
前記基部は、前記既存の駐車場の床面上を駐車スペース側に向かって面状に延出する内側延出部を備え、
前記内側延出部の延出長さは、車両の前端が前記防護部に衝突した場合に、少なくとも前輪が当該内側延出部に載る長さであることを特徴とする転落防止構造。
【請求項2】
前記基部は、前記既存の駐車場の床面上を既存の防護部側に向かって面状に延出する外側延出部を備え、
当該外側延出部には、前記防護部を支持する控え柱が設けられることを特徴とする請求項1に記載の転落防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転落防止構造に関する。詳しくは、既存の駐車場に設けられる転落防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自走式立体駐車場には、車両の転落を防止するための防護壁が取り付けられる(特許文献1〜3参照)。
この防護壁は、外周に沿って設けられて外周大梁等の躯体に固定されており、駐車場床面からある程度の高さを有している。この防護壁によれば、立体駐車場内において車両が暴走して防護壁に衝突しても、車両がこの防護壁を突き破って落下するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−158305号公報
【特許文献2】特開平8−177258号公報
【特許文献3】特開平11−247481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような防護壁について、平成15年2月に国土交通省より設計指針が出されている(「駐車場における自動車転落事故を防止するための装置等に関する設計指針」、国土交通省、平成15年2月)。この設計指針では、防護壁を所定の衝撃力に耐えうる構造とすることが要請されている。
【0005】
しかしながら、既存の自走式立体駐車場の防護壁は、強度が不十分で上述の技術的提言で示された基準を満たしていない場合がある。つまり、車両が防護壁に衝突すると、この防護壁の床面から所定高さの位置に水平方向に衝撃力が作用する。この衝撃力により、防護壁の下端には大きな曲げモーメントが生じて、防護壁が外側に屈曲し、車両が外に飛び出してしまう可能性があった。
【0006】
そこで、既存の自走式立体駐車場に対して、新たに防護壁を設けることが考えられる。この場合、既存の防護壁を解体して撤去し、さらに床を解体して外周梁を露出させ、この外周梁上に、所定の衝撃に耐えうる構造の防護壁を新たに設けて、その後、防水工事を行うことになる。そのため、工事が大がかりになり、コストがかかる、という問題があった。
【0007】
本発明は、既存の駐車場における車両の転落を低コストで防止できる転落防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の転落防止構造(例えば、後述の転落防止構造10)は、既存の駐車場(例えば、後述の既存駐車場1)に設けられる転落防止構造であって、前記既存の駐車場は、外周に沿って延びて駐車場の床面から上方に立ちあがっている既存の防護部(例えば、後述の既存パラペット2)を有し、当該既存の防護部から離れて前記既存の駐車場の床面(例えば、後述の床面3)に載置された基部(例えば、後述の山留材11、鋼板11A)と、当該基部から上方に延びて少なくとも前記床面から所定の高さ位置で略水平に延びる防護部(例えば、後述の支柱12、防護板13)と、を備え、前記基部は、前記既存の駐車場の床面上を駐車スペース側に向かって面状に延出する内側延出部(例えば、後述の内側延出部24、31)を備え、前記内側延出部の延出長さは、車両の前端が前記防護部に衝突した場合に、少なくとも前輪が当該内側延出部に載る長さであることを特徴とする。
【0009】
ここで、内側延出部の延出長さは、車両の前端が防護部に衝突した場合に、少なくとも前輪が内側延出部の上に載る程度、あるいは、車両の後端が防護部に衝突した場合に、少なくとも後輪が内側延出部の上に載る程度とする。
【0010】
この発明によれば、既存の駐車場の床面上を駐車スペース側に向かって面状に延出する内側延出部を基部に設けた。
よって、車両が防護部に衝突すると、防護部が変形してエネルギーを吸収するとともに、この衝撃力が基部に分散され、基部が床面上を既存の防護部に向かって移動しようとする。しかしこのとき、この防護部に衝突した車両が内側延出部の上に載っているので、この車両の重量により内側延出部が床面に押し付けられて、この内側延出部と床面との摩擦抵抗により衝撃力が緩和されて基部の移動が低減される。よって、既存の防護部に車両が衝突するのを防止できる。また、車両の重量で内側延出部を押さえつけることで、基部および防護部の転倒を防止できる。
【0011】
また仮に、基部が床面上を移動して既存の防護部に衝突した場合でも、内側延出部と床面との摩擦力で衝撃をある程度緩和しているので、既存の防護部に加わるせん断力を低減できる。
【0012】
したがって、従来のように既存の防護部を解体して所定の衝撃に耐えうる構造の防護壁を新たに設ける必要がないので、既存の駐車場における車両の転落を低コストで防止できる。
また、既存の駐車場の床面に対して何ら工事を行わないため、防水性能を損なうことがないうえに、既存の駐車場を解体する場合には容易に取り外して転用できる。
【0013】
また、内側延出部の上面を円滑な表面とした場合には、前輪駆動の車両が内側延出部上に加速しながら進入しても、この車両の前輪がスリップするので、防護部に加わる衝撃が大きくなるのを防止できる。
【0014】
請求項2に記載の転落防止構造(例えば、後述の転落防止構造10A)は、前記基部は、前記既存の駐車場の床面上を既存の防護部側に向かって面状に延出する外側延出部(例えば、後述の外側延出部32)を備え、当該外側延出部には、前記防護部を支持する控え柱(例えば、後述の控え柱40)が設けられることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、車両が防護部に衝突した場合、この衝撃力により防護部の下端に曲げモーメントが作用して、防護部が屈曲し、車両が防護部を突き抜けてしまうおそれがある。しかしながら、この発明によれば、控え柱を設けたので、この衝撃力が控え柱に圧縮方向の力として作用するから、防護部が折れ曲がるのを防止して、車両が防護部を突き抜けるのを防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車両が防護部に衝突すると、防護部が変形してエネルギーを吸収するとともに、この衝撃力が基部に分散され、基部が床面上を既存の防護部に向かって移動しようとする。しかしこのとき、この防護部に衝突した車両が内側延出部の上に載っているので、この車両の重量により内側延出部が床面に押し付けられて、この内側延出部と床面との摩擦抵抗により衝撃力が緩和されて基部の移動が低減される。よって、既存の防護部に車両が衝突するのを防止できる。また、車両の重量で内側延出部を押さえつけることで、基部および防護部の転倒を防止できる。また仮に、基部が床面上を移動して既存の防護部に衝突した場合でも、内側延出部と床面との摩擦力で衝撃をある程度緩和しているので、既存の防護部に加わるせん断力を低減できる。したがって、従来のように既存の防護部を解体して所定の衝撃に耐えうる構造の防護壁を新たに設ける必要がないので、既存の駐車場における車両の転落を低コストで防止できる。また、既存の駐車場の床面に対して何ら工事を行わないため、防水性能を損なうことがないうえに、既存の駐車場を解体する場合には容易に取り外して転用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る転落防止構造の斜視図である。
図2】前記実施形態に係る転落防止構造の断面図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る転落防止構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る転落防止構造10の斜視図である。図2は、転落防止構造10の断面図である。
【0019】
転落防止構造10は、既存の駐車場である既存駐車場1に設けられる。すなわち、この既存駐車場1は、立体駐車場であり、2階以上のフロアには、外周に沿って延びる既存の防護部としてのあご付きの既存パラペット2が設けられている。
転落防止構造10は、既存パラペット2の内側つまり駐車スペース側の床面3に設けられている。
【0020】
この転落防止構造10は、既存駐車場1の床面3に載置された所定長さの基部としての山留材11と、と、この山留材11に長さ方向に沿って所定間隔おきに設けられた防護部としての支柱12と、これら支柱12に支持された防護部としての防護板13と、山留材11に固定されて既存駐車場1の床面3上を駐車スペース側に向かって延びる面状の内側延出部24と、を備える。
【0021】
山留材11は、第1実施形態よりも既存パラペット2から離れて配置される。この山留材11は、例えばH−300×300、長さ5m程度、重量500kg程度であり、H鋼20と、このH鋼20の両端を塞ぐ端部プレート21と、H鋼20の両フランジおよびウエブに溶接固定された補強プレート22と、を備える。H鋼20の両フランジおよび端部プレート21には、ボルトを挿通するための多数の貫通孔23が形成されている。
【0022】
支柱12は、H鋼20のウエブの上面に固定されて上方に延びており、補強プレート22は、この支柱12の直下に取り付けられる。
【0023】
防護板13は、山留材11とほぼ同じ長さのガードレールであり、支柱12の上端側に固定されている。これにより、防護板13は、床面3から所定の高さ位置で略水平に延びている。
内側延出部24は、鋼板であり、この内側延出部24の一端は上方に折り曲げられて立ち上がっており、この立ち上がった部分で山留材11の貫通孔23にボルト25で固定されている。
【0024】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)車両Aが図2中白抜き矢印方向に走行して防護板13に衝突すると、防護板13や支柱12が変形してエネルギーを吸収するとともに、この衝撃力が山留材11に分散され、山留材11が床面3上を既存パラペット2に向かって移動しようとする。しかしこのとき、この防護板13に衝突した車両Aが内側延出部24の上に載っているので、この車両Aの重量により内側延出部24が床面3に押し付けられて、この内側延出部24と床面3との摩擦抵抗により衝撃力が緩和されて山留材11の移動が防止される。よって、既存パラペット2に車両Aが衝突するのを防止できる。また、車両Aの重量で内側延出部24を押さえつけることで、山留材11、支柱12、および防護板13の転倒を防止できる。
また仮に、山留材11が床面3上を図2中黒矢印方向に移動して既存パラペット2に衝突した場合でも、内側延出部24と床面3との摩擦力で衝撃をある程度緩和しているので、既存パラペット2に加わるせん断力を低減できる。
【0025】
したがって、従来のように既存パラペット2を解体して所定の衝撃に耐えうる構造の防護壁を新たに設ける必要がないので、既存駐車場1における車両Aの転落を低コストで防止できる。
また、既存駐車場1の床面3に対して何ら工事を行わないため、防水性能を損なうことがないうえに、既存駐車場1を解体する場合には容易に取り外して転用できる。
【0026】
また、内側延出部24の上面を円滑な表面とした場合には、前輪駆動の車両が内側延出部24上に加速しながら進入しても、この車両の前輪がスリップするので、防護板13や支柱12に加わる衝撃が大きくなるのを防止できる。
【0027】
また、山留材11、支柱12、および防護板13が一体となった仮設ガードレールが市販されているので、この仮設ガードレールを利用することで、転落防止構造10を容易に構築できる。
【0028】
また、補強プレート22を設けたので、支柱12に加わる衝撃力によりH鋼20のフランジやウエブが捻れるのを防止できる。
【0029】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明の第2実施形態に係る転落防止構造10Aの斜視図である。
本実施形態では、山留材11の代わりに基部としての鋼板11Aが設けられている点が、第1実施形態と異なる。
すなわち、鋼板11Aは、既存駐車場1の床面3上に設けられた面状であり、支柱12が取り付けられる支持部30と、この支持部30から駐車スペース側に向かって延びる内側延出部31と、支持部30から既存パラペット2側に向かって延びる外側延出部32と、を備える。
支持部30の上面には、ボルトが溶接固定されており、支柱12は、このボルトを介して支持部30に取り付けられている。
【0030】
また、外側延出部32の既存パラペット2側の部分は、上方に折り曲げられている。この外側延出部32には、支柱12を支持する控え柱40が設けられる。すなわち、この控え柱40は、外側延出部32の折り曲げ箇所から斜めに延びて支柱12の上部に連結される。
【0031】
本実施形態によれば、上述の(1)と同様の効果に加えて、以下のような効果がある。
(2)車両Aが図3中白抜き矢印方向に走行して防護板13に衝突した場合、この衝撃力により支柱12が下端で屈曲してしまい、車両Aが防護板13を突き抜けてしまうおそれがある。しかしながら、この発明によれば、控え柱40を設けたので、この衝撃力が控え柱40に圧縮方向の力として作用するから、支柱12が屈曲するのを防止して、車両Aが防護板13を突き抜けるのを防止できる。
【0032】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、車両が衝突した際の内側延出部24や鋼板11Aの抵抗を増大させるため、必要に応じて、内側延出部24や鋼板11Aを床面3に接着してもよい。
【符号の説明】
【0033】
A…車両
1…既存駐車場(既存の駐車場)
2…既存パラペット(既存の防護部)
3…床面
10、10A…転落防止構造
11…山留材(基部)
11A…鋼板(基部)
12…支柱(防護部)
13…防護板(防護部)
20…H鋼
21…端部プレート
22…補強プレート
23…貫通孔
24…内側延出部
25…ボルト
30…支持部
31…内側延出部
32…外側延出部
40…控え柱
図1
図2
図3