特許第5959387号(P5959387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5959387-電子写真機器用導電性ロール 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959387
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】電子写真機器用導電性ロール
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/00 20060101AFI20160719BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20160719BHJP
   G03G 15/16 20060101ALI20160719BHJP
   G03G 15/02 20060101ALI20160719BHJP
   G03G 15/08 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   G03G15/00 551
   F16C13/00 B
   G03G15/16 103
   G03G15/02 101
   G03G15/08 235
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-211125(P2012-211125)
(22)【出願日】2012年9月25日
(65)【公開番号】特開2014-66814(P2014-66814A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智志
(72)【発明者】
【氏名】二村 安紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正則
(72)【発明者】
【氏名】峰松 浩介
【審査官】 野口 聖彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−270839(JP,A)
【文献】 特開2002−194103(JP,A)
【文献】 特開2002−20718(JP,A)
【文献】 特開2007−310212(JP,A)
【文献】 特開2007−47768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/00
G03G 15/08
G03G 15/02
G03G 15/16
G03G 15/20
F16C 13/00
B32B 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、前記軸体の外周面に形成された接着剤層と、前記接着剤層の外周面に形成されたゴム弾性体層とを備え、
前記ゴム弾性体層が、付加反応型シリコーンゴムを用いて形成され、
前記接着剤層が、(A)一液型エポキシ系接着剤と、(B)アルケニル基またはヒドロシリル基と反応する官能基を有する化合物と、を用いて形成されていることを特徴とする電子写真機器用導電性ロール。
【請求項2】
前記(B)成分が、ヒドロシリル基を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項3】
前記ヒドロシリル基を有する化合物が、ヒドロシリル基を有するポリシロキサンであることを特徴とする請求項2に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項4】
前記ヒドロシリル基を有する化合物の添加量が、前記(A)成分100質量部に対し0.3〜16.7質量部の範囲内であることを特徴とする請求項2または3に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項5】
前記(B)成分が、アルケニル基を有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項6】
前記アルケニル基を有する化合物が、アルケニル基を有する液状ゴムであることを特徴とする請求項5に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項7】
前記アルケニル基を有する化合物が、エポキシ変性されているものであることを特徴とする請求項5または6に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用導電性ロールに関し、さらに詳しくは、付加反応型シリコーンゴムを用いてゴム弾性体層が形成された電子写真機器用導電性ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器に用いられる導電性ロールとしては、現像ロール、帯電ロール、転写ロールなどが挙げられる。導電性ロールは、軸体となる芯金の外側にゴム弾性体層を備えている。ゴム弾性体層は、接着剤層を介して芯金に接着されている。ゴム弾性体層の材料にはシリコーンゴムが用いられることがある。
【0003】
例えば特許文献1には、軸体と軸体の外周面に形成される接着剤層と、接着剤層の外周面に形成されるベースゴム層とを備え、ベースゴム層が付加反応型シリコーンエラストマーを用いて形成され、接着剤層が一液型エポキシ系接着剤を用いて形成された導電性ロールが記載されている。
【0004】
また、例えば特許文献2には、ロール軸の外周に接着剤組成物を硬化させてなる接着剤層を有し、この接着剤層の外周に付加硬化型シリコーンゴム組成物を硬化して得られるシリコーンゴム層を有する定着ロールにおいて、接着剤層に付加硬化型シリコーンゴム組成物を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−270839号公報
【特許文献2】特開2007−310212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
付加反応型シリコーンエラストマーを用いて形成されたベースゴム層を軸体に接着させる接着剤としてエポキシ系接着剤を用いた場合、接着が不十分となることがある。
【0007】
一方、付加硬化型シリコーンゴム組成物は、通常、2液混合型の接着剤として用いられ、触媒の作用によって混合直後から硬化が始まりやすく、ポットライフが短いため、これを接着剤層の材料に用いると、接着不良を生じやすい。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、接着剤のポットライフが長いことでゴム弾性体層の軸体への接着不良が抑えられるとともに、一液型エポキシ系接着剤を用いた従来よりも接着力が向上された電子写真機器用導電性ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る電子写真機器用導電性ロールは、軸体と、前記軸体の外周面に形成された接着剤層と、前記接着剤層の外周面に形成されたゴム弾性体層とを備え、前記ゴム弾性体層が、付加反応型シリコーンゴムを用いて形成され、前記接着剤層が、(A)一液型エポキシ系接着剤と、(B)アルケニル基またはヒドロシリル基と反応する官能基を有する化合物と、を用いて形成されていることを要旨とするものである。
【0010】
前記(B)成分は、ヒドロシリル基を有する化合物であることが好ましい。ヒドロシリル基を有する化合物としては、ヒドロシリル基を有するポリシロキサンを好適なものとして挙げることができる。ヒドロシリル基を有する化合物の添加量は、前記(A)成分100質量部に対し0.3〜16.7質量部の範囲内であることが好ましい。
【0011】
また、前記(B)成分は、アルケニル基を有する化合物であってもよい。アルケニル基を有する化合物としては、アルケニル基を有する液状ゴムを好適なものとして挙げることができる。アルケニル基を有する化合物は、エポキシ変性されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電子写真機器用導電性ロールによれば、付加反応型シリコーンゴムを用いて形成されるゴム弾性体層に対して、これを軸体に接着させるための接着剤層の材料に(A)一液型エポキシ系接着剤を用いることから、接着剤のポットライフが長く、ゴム弾性体層の軸体への接着不良が抑えられる。そして、(A)一液型エポキシ系接着剤とともに(B)アルケニル基またはヒドロシリル基と反応する官能基を有する化合物を用いることで、ゴム弾性体層と軸体との接着が良好となる。これは、ゴム弾性体層の形成材料として用いられる付加反応型シリコーンゴムのアルケニル基を有するポリシロキサンかヒドロシリル基を有するポリシロキサン(ヒドロシリル架橋剤)と、(B)成分と、がゴム弾性体層の形成時に反応して結合を形成するためと推察される。このように、一液型エポキシ系接着剤を用いた従来よりも接着力が向上する。
【0013】
このとき、(B)成分がヒドロシリル基を有する化合物であると、ゴム弾性体層の形成材料として用いられる付加反応型シリコーンゴムのアルケニル基を有するポリシロキサンとゴム弾性体層の形成時に反応して結合を形成できる。このような結合を形成することにより、ゴム弾性体層と軸体との接着が良好となる。また、(B)成分のヒドロシリル基は、(A)一液型エポキシ系接着剤の分子構造中に含まれる水酸基とも反応して結合を形成できる。このような結合を形成することにより、軸体とゴム弾性体層の接着はさらに良好となる。
【0014】
そして、ヒドロシリル基を有する化合物がヒドロシリル基を有するポリシロキサンであると、ゴム弾性体層の形成材料の成分の1つと同じ基本骨格を有するものであるため、接着剤層の材料とゴム弾性体層の形成材料の相溶性に優れ、接着剤層とゴム弾性体層の接着性が向上する。これにより、軸体とゴム弾性体層の接着がさらに良好となる。
【0015】
そして、ヒドロシリル基を有する化合物の添加量が特定範囲内であると、(A)成分と(B)成分の相溶性に優れるため、軸体とゴム弾性体層の接着は良好となる。
【0016】
また、(B)成分がアルケニル基を有する化合物であると、ゴム弾性体層の形成材料として用いられる付加反応型シリコーンゴムのヒドロシリル基を有するポリシロキサン(ヒドロシリル架橋剤)とゴム弾性体層の形成時に反応して結合を形成できる。このような結合を形成することにより、ゴム弾性体層と軸体との接着が良好となる。
【0017】
そして、アルケニル基を有する化合物がアルケニル基を有する液状ゴムであると、液状ゴム中のアルケニル基が付加反応型シリコーンゴムのヒドロシリル基との反応性に優れるため、接着性が向上する。
【0018】
このとき、アルケニル基を有する化合物がエポキシ変性されていると、(A)一液型エポキシ系接着剤の分子構造中に含まれる水酸基やエポキシ基と反応して結合を形成できる。このような結合を形成することにより、軸体とゴム弾性体層の接着はさらに良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る電子写真機器用導電性ロールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
図1には、本発明の一実施形態に係る電子写真機器用導電性ロールを示している。一実施形態に係る電子写真機器用導電性ロール10(以下、単に導電性ロール10ということがある。)は、軸体12と、軸体12の外周面に形成された接着剤層14と、接着剤層14の外周面に形成されたゴム弾性体層16とを備えている。ゴム弾性体層16は、導電性ロール10のベースとなる層である。
【0022】
軸体12には、特に限定されるものではないが、金属製の中実体からなる芯金や金属製の円筒体などが好適に用いられる。軸体12の材料としては、ステンレス、アルミニウム、鉄の表面にめっきが施されたものなどが挙げられる。
【0023】
ゴム弾性体層16は、付加反応型シリコーンゴムを用いて形成されている。付加反応型シリコーンゴムは、例えば、A剤とB剤とにより構成される。また、付加反応では、ヒドロシリル化触媒が用いられる。A剤には、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンとヒドロシリル化触媒が用いられる。B剤には、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンとヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンが用いられる。付加反応型シリコーンゴムは、液状ゴムであってもよいし、ミラブルゴム(固形ゴム)であってもよいが、寸法精度などから液状ゴムであることが好ましい。
【0024】
オルガノポリシロキサンは、有機基を有する。有機基は、1価の置換または非置換の炭化水素基である。非置換の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、β−フェニルエチル基、β−フェニルプロピル基などのアラルキル基などが挙げられる。置換の炭化水素基としては、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などが挙げられる。オルガノポリシロキサンとしては、一般的には、有機基としてメチル基を有するものが、合成のしやすさ等から多用される。オルガノポリシロキサンは、直鎖状のものが好ましいが、分岐状もしくは環状のものであっても良い。
【0025】
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基などが挙げられる。アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有することが好ましい。
【0026】
ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有することが好ましい。ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)として、具体的には、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位とから成る共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C)SiO3/2単位とから成る共重合体などが挙げられる。
【0027】
ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンの配合量は、特に限定されるものではないが、通常、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1〜40質量部の範囲とされる。
【0028】
ヒドロシリル化触媒としては、白金系触媒が挙げられる。白金系触媒としては、微粒子状白金、白金黒、白金担持活性炭、白金担持シリカ、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体などが挙げられる。
【0029】
ヒドロシリル化触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、白金系金属の金属量に換算して、通常、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して1ppm〜1質量部の範囲とされる。
【0030】
付加反応型シリコーンゴムには、本発明を阻害しない範囲内で、シリコーンゴムに添加され得る添加剤を添加することができる。添加剤としては、導電剤、充填剤、架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋助剤、スコーチ防止剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、滑剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、防錆剤などが挙げられる。添加剤は、A剤あるいはB剤のいずれか一方あるいは両方に添加することができる。
【0031】
導電剤としては、カーボンブラック、グラファイト、導電性チタン酸化物、導電性亜鉛酸化物、導電性スズ酸化物などの電子導電剤や、4級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤、イオン液体などのイオン導電剤などが挙げられる。導電剤の配合量は、所望の物性に応じて適宜選択される。
【0032】
充填剤としては、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、湿式シリカ、ヒュームド酸化チタンなどの補強性充填剤が挙げられる。補強性充填剤は、シリコーンゴム中に分散されやすいなどの観点から、オルガノアルコキシシラン、オルガノハロシラン、オルガノシラザン、分子鎖両末端がシラノール基で封鎖されたジオルガノシロキサンオリゴマー、環状オルガノシロキサン等の有機珪素化合物により表面改質されていても良い。
【0033】
補強性充填剤の添加量は、特に限定されるものではないが、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンあるいはシラノール基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して1〜50質量部の範囲内であることが好ましい。
【0034】
ゴム弾性体層16の形成材料は、例えば各成分をプラネタリーミキサー等の混練機を用いて混練することにより調製できる。
【0035】
接着剤層14は、(A)一液型エポキシ系接着剤と、(B)アルケニル基またはヒドロシリル基と反応する官能基を有する化合物と、を用いて形成されている。接着剤層14は、少なくとも(A)および(B)を含む材料によって形成されている。接着剤層14は、必要に応じて導電化することができる。導電化には、導電剤を用いることができる。導電剤としては、上記のシリコーンゴムに添加され得る導電剤として挙げられたものなどを用いることができる。
【0036】
(A)一液型エポキシ系接着剤としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエステル系樹脂、複素環式エポキシ樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、接着性などの観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。(A)一液型エポキシ系接着剤は、ゴム弾性体層16の付加反応型シリコーンゴムの付加反応を阻害しにくいなどの観点から、アミド基やアミン基を含有しないものが好ましい。
【0037】
(B)成分のうち、アルケニル基と反応する官能基を有する化合物としては、ヒドロシリル基を有する化合物などが挙げられる。ヒドロシリル基を有する化合物としては、ヒドロシリル基を有するポリシロキサンなどが挙げられる。ヒドロシリル基と反応する官能基を有する化合物としては、アルケニル基を有する化合物、水酸基を有する化合物などが挙げられる。アルケニル基を有する化合物としては、アルケニル基を有する液状ゴム、アルケニル基を有するミラブルゴムなどが挙げられる。アルケニル基を有する液状ゴムとしては、液状ブタジエンゴム(BR)、液状イソプレンゴム(IR)、液状アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。
【0038】
(B)成分として、アルケニル基と反応する官能基を有する化合物のみを用いてもよいし、ヒドロシリル基と反応する官能基を有する化合物のみを用いてもよいし、アルケニル基と反応する官能基を有する化合物とヒドロシリル基と反応する官能基を有する化合物の両方を用いてもよい。
【0039】
接着剤層14の材料に(A)一液型エポキシ系接着剤を用いることから、接着剤のポットライフが長く、ゴム弾性体層16の軸体12への接着不良が抑えられる。そして、(A)一液型エポキシ系接着剤とともに(B)アルケニル基またはヒドロシリル基と反応する官能基を有する化合物を用いることで、ゴム弾性体層16と軸体12との接着が良好となる。これは、ゴム弾性体層16の形成材料として用いられる付加反応型シリコーンゴムのアルケニル基を有するポリシロキサンかヒドロシリル基を有するポリシロキサン(ヒドロシリル架橋剤)と、(B)成分と、がゴム弾性体層16の形成時に反応して結合を形成するためと推察される。したがって、ゴム弾性体層16と軸体12の接着力を向上できる。よって、接着剤層14の材料に(A)一液型エポキシ系接着剤のみを用いた従来より接着性を向上できる。
【0040】
ここで、(B)成分がヒドロシリル基を有する化合物であると、ゴム弾性体層16の形成材料として用いられる付加反応型シリコーンゴムのアルケニル基を有するポリシロキサンとゴム弾性体層16の形成時に反応して結合を形成できる。また、(B)成分のヒドロシリル基は、(A)一液型エポキシ系接着剤の分子構造中に含まれる水酸基とも反応して結合を形成できる。このような結合を形成することにより、軸体12とゴム弾性体層16の接着はさらに良好となる。そして、ヒドロシリル基と水酸基の反応は、ヒドロシリル化触媒の非存在下では進行しにくく、ゴム弾性体層16の形成材料に含まれるヒドロシリル化触媒と接触することによって進行する。よって、(A)成分としての一液型エポキシ系接着剤と(B)成分としてのヒドロシリル基を有する化合物とを混合しただけでは容易に反応せず、接着剤層14の形成材料の保存安定性も良い。
【0041】
そして、ヒドロシリル基を有する化合物がヒドロシリル基を有するポリシロキサンであると、ゴム弾性体層16の形成材料の成分の1つと同じ基本骨格を有するものであるため、接着剤層14の材料とゴム弾性体層16の形成材料の相溶性に優れ、接着剤層14とゴム弾性体層16の接着性が向上する。これにより、軸体12とゴム弾性体層16の接着がさらに良好となる。
【0042】
ヒドロシリル基を有する化合物の添加量は、(A)成分100質量部に対し0.3〜16.7質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1.0〜9.0質量部の範囲内である。ヒドロシリル基を有する化合物の添加量が特定範囲内であると、(A)成分と(B)成分の相溶性に優れるため、軸体12とゴム弾性体層16の接着は良好となる。
【0043】
一方、(B)成分がアルケニル基を有する化合物であると、ゴム弾性体層16の形成材料として用いられる付加反応型シリコーンゴムのヒドロシリル基を有するポリシロキサン(ヒドロシリル架橋剤)とゴム弾性体層16の形成時に反応して結合を形成できる。そして、アルケニル基を有する化合物がアルケニル基を有する液状ゴムであると、液状ゴム中のアルケニル基が付加反応型シリコーンゴムのヒドロシリル基との反応性に優れるため、接着性が向上する。
【0044】
この場合、アルケニル基を有する化合物は、エポキシ変性されていることが好ましい。アルケニル基を有する化合物がエポキシ変性されていると、(A)一液型エポキシ系接着剤の分子構造中に含まれる水酸基やエポキシ基と反応して結合を形成できる。このような結合を形成することにより、軸体12とゴム弾性体層16の接着はさらに良好となる。
【0045】
アルケニル基を有する化合物の添加量は、(A)成分100質量部に対し0.3〜16.7質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1.5〜9.0質量部の範囲内である。アルケニル基を有する化合物の添加量が特定範囲内であると、接着剤の粘度上昇が低く抑えられ、塗布ムラが発生しにくいため、軸体12とゴム弾性体層16の接着は良好となる。
【0046】
接着剤層14の形成材料には、(A)成分と(B)成分の他に添加剤が含まれていてもよい。また、各成分を分散あるいは溶解させる溶剤が含まれていてもよい。このような溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどが挙げられる。接着剤層14の形成材料は、例えば、各成分をメチルエチルケトンなどの溶剤に分散あるいは溶解させることにより調製できる。
【0047】
導電性ロール10は、例えば次のようにして作製することができる。まず、芯金などの軸体12を準備する。次いで、スプレー法、浸漬法などの方法で軸体12の外周面に接着剤層14の形成材料を塗工し、これに乾燥および焼き付けを施す。乾燥および焼き付けは、熱風、赤外線などにより行うことができる。乾燥および焼き付けの処理条件としては、100〜200℃で1〜10分程度を選択することができる。これにより、軸体12の外周面に接着剤層14が形成される。次いで、接着剤層14が形成された軸体12を円筒状金型の中空部にセットし、その空隙部にゴム弾性体層16の形成材料を注入し、金型を加熱してゴム弾性体層16の形成材料を付加反応(架橋)させることにより接着剤層14の外周にゴム弾性体層16が形成される。次いで、金型から脱型することにより、軸体12の外周に接着剤層14を介してゴム弾性体層16が形成された導電性ロール10が得られる。付加反応(架橋)の処理条件としては、130〜220℃で1〜30分程度を選択することができる。
【0048】
接着剤層14の厚みは、特に限定されるものではないが、0.1〜5μmの範囲などに設定することができる。ゴム弾性体層16の厚みは、用途に応じて適宜設定すればよく、0.1〜10mmの範囲などに設定することができる。
【0049】
本発明に係る導電性ロールは、図1に示す構成に限定されるものではなく、用途に応じて他の構成とすることができる。例えば、導電性ロールのベース層となるゴム弾性体層の外周に表層を有する2層構成のものであってもよいし、ゴム弾性体層と表層の間に抵抗調整を行う層などの中間層を有する3層以上の構成のものであってもよい。
【0050】
ゴム弾性体層の外周には、必要に応じて、ゴム弾性体層の表面を保護する、導電性ロールの表面特性(低摩擦性、耐摩耗性、汚れ防止など)を付与するなどの目的で、表層が形成されていても良い。また、ゴム弾性体層の外周で表層下には、導電性ロール全体の抵抗を調整する抵抗調整層などの中間層が形成されていても良い。
【0051】
表層の主材料としては、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ブチラール樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素ゴム、フッ素樹脂、フッ素樹脂とフッ素ゴムとの混合物、シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂、シリコーン変性アクリル樹脂、フッ素変性アクリル樹脂等の樹脂などが挙げられる。表層の材料には、主材料に対し、必要に応じて、上述したカーボンブラック等の電子導電剤、四級アンモニウム塩等のイオン導電剤、ウレタン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子等の粗さ形成用粒子、可塑剤、レベリング剤などを添加することができる。表層の材料は、メチルエチルケトン等の溶剤に分散あるいは溶解させて塗料として用いられることが好ましい。表層は、ロールコート法、スプレー法、ディッピング法等の各種の塗工法を用いて表層形成材料を塗工し、表層形成材料に最適な条件で熱処理することにより形成することができる。
【0052】
また、表層の形成に代えて、ゴム弾性体層あるいは抵抗調整層などの中間層に表面改質を施すことにより、表層を形成することと同等の表面特性を有するようにすることもできる。表面改質方法としては、UVや電子線を照射する方法、基層の不飽和結合やハロゲンと反応可能な表面改質剤、例えば、イソシアネート基、ヒドロシリル基、アミノ基、ハロゲン基、チオール基などの反応活性基を含む化合物と接触させる方法などが挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0054】
(実施例1)
<接着剤層用材料の調製>
一液型エポキシ系接着剤(東亞合成社製「キャニーコートP−150」、固形分濃度30質量%)100質量部、液状ブタジエンゴム(日本曹達社製「B−2000」)2.0質量部、メチルエチルケトン700質量部を混合することにより接着剤層用材料を調製した。
【0055】
<ゴム弾性体層用材料の調製>
付加反応型液状シリコーンゴムA液、B液(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「XE16−B7333」のA液、B液)を質量比で1:1の割合でプラネタリーミキサーを用いて混合後、減圧脱泡してゴム弾性体層用材料を調製した。
【0056】
<導電性ロールの作製>
軸体としてSUS303製芯金(直径10mm)を準備し、この外周面に準備した接着剤層用材料を塗布し、続いて、熱風により、乾燥及び焼付け(200℃×10分)を施すことにより、軸体の外周面に接着剤層を形成した。ついで、この軸体(接着剤層付軸体)を、予め170℃に加熱された円筒状金型の中空部にセットし蓋をした後、円筒状金型と軸体との空隙部に、調製したゴム弾性体層用材料を射出機を用いて射出した後、ゴム弾性体層用材料を架橋反応させ(170℃×3分)、ゴム弾性体層を形成した。その後、円筒状金型から脱型することにより、軸体の外周面に接着剤層を介し、ゴム弾性体層(厚み3mm)が形成されてなる導電性ロールを作製した。
【0057】
(実施例2)
接着剤層用材料の調製において、液状ブタジエンゴムに代えてエポキシ変性液状ブタジエンゴム(日本曹達社製「JP−100」)0.5質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを作製した。
【0058】
(実施例3)
接着剤層用材料の調製において、液状ブタジエンゴムに代えてヒドロシリル基含有化合物(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「TSF484」)0.09質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを作製した。
【0059】
(実施例4〜5)
接着剤層用材料の調製において、ヒドロシリル基含有化合物の添加量を変更した以外は実施例3と同様にして、導電性ロールを作製した。
【0060】
(実施例6)
接着剤層用材料の調製において、液状ブタジエンゴムに代えてエポキシ変性液状ブタジエンゴム(日本曹達社製「JP−100」)0.5質量部とヒドロシリル基含有化合物(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「TSF484」)0.5質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを作製した。
【0061】
(比較例1)
接着剤層用材料として、一液型エポキシ系接着剤(東亞合成社製「キャニーコートP−150」、固形分濃度30質量%)100質量部、メチルエチルケトン700質量部を混合したものを用いた以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを作製した。
【0062】
(比較例2)
接着剤層用材料として、シランカップリング剤系接着剤(信越化学工業社製「プライマーNo.4」)を用い、乾燥及び焼付け(150℃×30分)を施した以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを作製した。
【0063】
作製した各導電性ロールにおいて、ゴム弾性体層の軸体への接着性を評価した。評価方法および評価基準は以下の通りである。接着性の評価結果を接着剤層用材料の組成とあわせて表1に示す。
【0064】
(接着性評価)
作製した導電性ロールの表面を目視にて観察し、その表面に、接着不良(接着浮き)に伴うフクレが認められるものを「×」、フクレが認められないものを「○」とした。
【0065】
【表1】
【0066】
比較例1では、接着剤層用材料として一液型エポキシ系接着剤のみを用いているため、設定した架橋反応条件ではゴム弾性体層の軸体への接着性が不十分であった。また、比較例2では、接着剤層用材料としてポットライフが短いシランカップリング剤系接着剤のみを用いているため、ゴム弾性体層の軸体への接着性が不十分であった。
【0067】
これに対し、実施例では、接着剤層用材料として、一液型エポキシ系接着剤とともに、アルケニル基を有している液状ブタジエンゴムやエポキシ変性液状ブタジエンゴム、ヒドロシリル基含有化合物を用いているため、ゴム弾性体層の軸体への接着性が良好であった。エポキシ変性液状ブタジエンゴムやヒドロシリル基含有化合物を用いた場合には、一液型エポキシ系接着剤100質量部に対して0.5質量部以下の少ない添加量であっても良好な接着性が確保された。
【0068】
以上、本発明の実施形態、実施例について説明したが、本発明は上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能なものである。
図1