【実施例】
【0028】
実施例に係るアルミニウム合金箔について、以下に説明する。
【0029】
(実施例1)
表1に示す化学成分のアルミニウム合金を半連続鋳造法にて造塊し面削することにより、アルミニウム合金鋳塊を準備した。なお、表1に示す化学成分のアルミニウム合金のうち、合金A〜Kが実施例に適する化学成分のアルミニウム合金であり、合金L〜Qが比較例としての化学成分のアルミニウム合金である。
【0030】
【表1】
【0031】
上記準備したアルミニウム合金鋳塊を、均質化処理を施すことなく熱間圧延し、厚さ2mmの熱間圧延板を得た。この際、熱間圧延は、粗圧延と仕上圧延を連続して行った。また、上記熱間圧延において、粗圧延に供する前のアルミニウム合金鋳塊は、350℃に加熱して6時間保持することによって粗圧延の開始温度(熱間圧延の開始温度)を350℃とした。また、粗圧延の終了温度(熱間圧延の途中温度)は320℃、仕上圧延の終了温度(熱間圧延の終了温度)は278℃とした。このように本例では、上記熱間圧延の開始温度および終了温度だけでなく、熱間圧延の途中温度である粗圧延の終了温度、つまり、仕上圧延の開始温度も350℃以下とした。
【0032】
次いで、途中で焼鈍を行うことなく箔圧延を含む冷間圧延を繰り返し行い、箔厚12μmのアルミニウム合金箔を得た。この際、200μm以下の箔圧延工程では、箔圧延の終了温度を全て120℃以下になるように調整した。なお、上記冷間圧延における最終圧延率は、100×(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚2000μm−最終の冷間圧延後のアルミニウム合金箔の箔厚12μm)/(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚2000μm)=99.4%である。
【0033】
次に、得られたアルミニウム合金箔を試験材として、引張強さ、耐力および伸び、比抵抗(電気抵抗率)、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率の測定を行った。具体的には、引張強さ、耐力および伸びは、JIS Z2241準拠し、試験材からJIS5号試験片を採取して測定した。比抵抗は、JIS H0505に準拠し、ダブルブリッジ法により測定した。なお、雰囲気温度の影響を除去するため、比抵抗の測定は液体窒素中で行った。結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率は、試料表面を電解研磨(−5℃に冷却した過塩素酸エタノール中で、10V−90秒の電解研磨)で仕上げした後、SEM/EBSD法を用いて、ステップサイズ0.1μmにて試料表面900μm
2のエリアを分析し、隣接する結晶方位測定点間の方位差が5°±0.2°である境界を結晶粒界とみなし、上記測定エリアの面積に占める結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積の割合(%)を算出することにより求めた。また、箔圧延状況について調査するため、試験材の背面から照明を当て、光のもれの有無によりピンホールの発生状況もあわせて調査した。結果を表2に示す。また、
図1に、試験材E11について、SEM/EBSD法にて結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率を測定した結果を示す。
図2に、試験材C1について、SEM/EBSD法にて結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率を測定した結果を示す。両図中、結晶粒径2μm以下のサブグレインは灰色で示されている部分である。なお、試験材E1〜E11が実施例であり、試験材C1〜C4が比較例である。
【0034】
【表2】
【0035】
これらの結果に示されるように、試験材C1は、Si含有量が0.1%未満、Fe含有量が0.2%未満の合金Lを用いており、また、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率が25%と低い。そのため、試験材C1は、さらなる強度向上の効果が得られず、引張強さが210MPa未満と低かった。
【0036】
試験材C2は、Si含有量が0.6%を超える合金Mを用いたため、粗大なSi単相粒子が形成され、これによるピンホールが発生した。
【0037】
試験材C3は、Fe含有量が0.2%未満の合金Nを用いており、また、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率が40%未満と低い。そのため、試験材C3は、さらなる強度向上の効果が得られず、引張強さが210MPa未満と低かった。
【0038】
試験材C4は、Fe含有量が1.0%を超える合金Oを用いたため、粗大なAl−Fe系粒子が形成され、これによるピンホールが発生した。
【0039】
これらに対して、試験材E1〜E11は、いずれも上述した特定の化学成分を有する合金A〜Kからなり、箔厚が20μm以下、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率が40%以上、引張強さが210MPa以上となっている。また、試験材E1〜E11は、いずれも液体窒素中で測定した比抵抗が0.45μΩ・cm以上0.7μΩ・cm以下となっており、導電性が大きく低下していないことがわかる。
【0040】
したがって、本例によれば、導電性を大きく損なうことなく、さらなる強度の向上を図ることが可能なアルミニウム合金箔を提供することができる。このようなアルミニウム合金箔が得られたのは、95%以上の冷間圧延を行い、箔厚20μm以下とした際に、組織の回復が遅れ、微細なサブグレイン組織を呈したことによる効果が大きかったものと考えられる。また、上記アルミニウム合金箔は、薄肉化を図っても高強度であり、ピンホールや箔切れ等の問題も回避することもできる。
【0041】
(実施例2)
表1に示す化学成分のアルミニウム合金Bを半連続鋳造法にて造塊し面削することにより、アルミニウム合金鋳塊を準備した。また、表1に示す従来合金の1050合金(合金P)、3003合金(合金Q)を半連続鋳造法にて造塊し面削することにより、比較としてのアルミニウム合金鋳塊もあわせて準備した。
【0042】
上記準備したアルミニウム合金鋳塊を用いて、表3に示す製造条件にて箔厚12μmのアルミニウム合金箔を製造した。得られたアルミニウム合金箔について、実施例1と同様にして、引張強さ、耐力および伸び、比抵抗(電気抵抗率)、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率の測定し、箔圧延状況(ピンポール発生の有無)を調査した。その結果を表4に示す。なお、試験材E12、E13が実施例であり、試験材C5〜C12が比較例である。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【0045】
表4に示すように、試験材C5〜C7は、熱間圧延時における熱間圧延の開始温度が350℃を超えていたため、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率が40%未満となり、引張強さが210MPa未満と低くなった。
【0046】
試験材C8は、熱間圧延の開始前に520℃で均質化処理を行って作製されたものである。そのため、試験材C8は、Al−Fe−Si系化合物が形成され、Si、Feの固溶量が減少し、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率が40%未満となり、引張強さが210MPa未満と低くなった。
【0047】
試験材C9は、冷間圧延の途中、板厚1mmのときに380℃で途中焼鈍を行って作製されている。そのため、試験材C9は、Al−Fe−Si系化合物の析出が促進され、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率が40%未満となり、引張強さが210MPa未満と低くなった。
【0048】
試験材C10は、その製造時に冷間圧延の終了温度が130℃であった。そのため、 試験材C10は、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率が40%未満となり、引張強さが210MPa未満と低くなった。
【0049】
試験材C11、C12は、従来合金である1050合金(合金P)、3003合金(合金Q)を用い、さらに熱間圧延の開始前に350℃を超える500℃という高温で均質化処理を行って作製されている。そのため、試験材C11は、化学成分が従来合金である1050合金(合金P)と同じであるので、引張強さが210MPaに到達せず、また、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率も40%未満となった。試験材C12は、化学成分が従来合金である3003合金(合金Q)と同じであるので、比抵抗が1.2μΩ・cm以上と極めて高く、導電性に劣っていた。
【0050】
これらに対して、試験材E12、E13は、いずれも上述した特定の化学成分を有する合金Bからなり、箔厚が20μm以下、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率が40%以上、引張強さが210MPa以上となっている。また、試験材E12、E13は、いずれも液体窒素中で測定した比抵抗が0.45μΩ・cm以上0.7μΩ・cm以下となっており、導電性が大きく低下していないことがわかる。
【0051】
したがって、本例によれば、導電性を大きく損なうことなく、さらなる強度の向上を図ることが可能なアルミニウム合金箔を提供することができる。
【0052】
以上、実施例について説明したが、本発明は、上記実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変形を行うことができる。