特許第5959409号(P5959409)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5959409-成膜装置及び成膜装置の動作方法 図000002
  • 特許5959409-成膜装置及び成膜装置の動作方法 図000003
  • 特許5959409-成膜装置及び成膜装置の動作方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959409
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】成膜装置及び成膜装置の動作方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/32 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   C23C14/32 B
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-246104(P2012-246104)
(22)【出願日】2012年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-95111(P2014-95111A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 明
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−102726(JP,A)
【文献】 特表2004−514264(JP,A)
【文献】 特開平11−036073(JP,A)
【文献】 特開平11−273894(JP,A)
【文献】 特開2002−169265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜処理対象の基材を収容し、内部で発生するプラズマにより基材に成膜処理を施す真空室と、真空室内に電子を導入するための放電室と、放電室内に配置されたカソードと、放電室の端部に配置されたアノードと、カソードとアノードとの間に放電電圧を印加するための放電用電源と、放電室内に放電用ガスを供給するための放電用ガス供給手段と、真空室の内壁の電位に対するアノードの電位を制御する制御用電源とを備える成膜装置であって、制御用電源は、アノードに周期的なパルス電圧を印加することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記パルス電圧の最大値は、110V〜200Vの範囲にあることを特徴とする請求項1記載の成膜装置。
【請求項3】
前記パルス電圧の最小値は、70V〜100Vの範囲にあることを特徴とする請求項2記載の成膜装置。
【請求項4】
前記パルス電圧の周波数は、30kHz〜300kHzの範囲にあることを特徴とする請求項3記載の成膜装置。
【請求項5】
前記パルス電圧のduty比は、10%〜50%の範囲にあることを特徴とする請求項4記載の成膜装置。
【請求項6】
成膜処理対象の基材を収容し、内部で発生するプラズマにより基材に成膜処理を施す真空室と、真空室内に電子を導入するための放電室と、放電室内に配置されたカソードと、放電室の端部に配置されたアノードと、カソードとアノードとの間に放電電圧を印加するための放電用電源と、放電室内に放電用ガスを供給するための放電用ガス供給手段と、真空室の内壁の電位に対するアノードの電位を制御する制御用電源とを備える成膜装置の動作方法であって、制御用電源は、アノードに周期的なパルス電圧を印加することを特徴とする成膜装置の動作方法。
【請求項7】
前記パルス電圧の最大値は、110V〜200Vの範囲にあることを特徴とする請求項6記載の成膜装置の動作方法。
【請求項8】
前記パルス電圧の最小値は、70V〜100Vの範囲にあることを特徴とする請求項7記載の成膜装置の動作方法。
【請求項9】
前記パルス電圧の周波数は、30kHz〜300kHzの範囲にあることを特徴とする請求項8記載の成膜装置の動作方法。
【請求項10】
前記パルス電圧のduty比は、10%〜50%の範囲にあることを特徴とする請求項9記載の成膜装置の動作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜処理対象の基板(基材)を収容する真空室内に放電室が設置され、真空室内部で発生するプラズマにより基板に成膜処理を行う成膜装置及び該成膜装置の動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマにより成膜処理を行う成膜装置においては、成膜処理室である真空室内に放電室が設置されたものがある。この放電室はプラズマ発生装置を構成し、該放電室内ではプラズマ(第1のプラズマ)が生成され、該プラズマ中の電子は真空室内に引き出される。
【0003】
これにより、引き出された電子は、真空室内のプロセスガスや成膜粒子等に照射され、それらをイオン化するのに利用される。この結果、真空室内において、成膜処理に寄与するプラズマ(第2のプラズマ)が生成される。
【0004】
このような成膜装置の概略的な構成を図1に示す。同図において、放電室を構成するケース3内に配置されたカソード1は、タングステン等の熱電子放出材料からなり、カソード加熱電源10に接続されている。ケース3の電位は、フローティング電位となっている。
【0005】
第1のアノード2は、碍子7に支持された状態で水冷されており、抵抗R1を介して放電電源11に接続されている。
【0006】
また、この第1のアノード2には、当該アノード2の表面を覆うように第2のアノード6が取り付けられている。この第2のアノード6は、第1のアノード2との熱抵抗が大きい状態で取り付けられており、水冷機構は設けられていない。
【0007】
ケース3にはシールド4が固定されている。シールド4は、後述する電子ビームが通過するオリフィスを備えている。
【0008】
ケース3の周囲には、コイル5が取り付けられている。このコイル5は、ケース3内部からビームの状態で電子が引き出される方向と平行な磁場を形成するための電磁石からなり、ケース3内で生成されたプラズマ14を当該電子ビームの軸方向に集束させる作用を有する。なお、図中の13は、コイル5に電流を供給するためのコイル電源である。
【0009】
ここで、カソード1、第1のアノード2、第2のアノード6、ケース3、抵抗R1、カソード加熱電源10及び放電電源11により、放電回路が構成される。この放電回路は、直流電源12を介して真空室9の側壁と接続されている。真空室9の側壁(内壁面を含む)は、アース電位になっている。
【0010】
この直流電源12は、バイアス電源として用いられ、真空室9の側壁の電位であるアース電位に対して正電位とされた一定の直流電圧をアノード2に印加することで、放電回路の基準電位を調整する。なお、ケース3には、ガス導入口8が設けられている。
【0011】
以上の装置において、当該放電回路、シールド4、コイル5、碍子7及びコイル電源13により、プラズマ発生装置(直流放電型プラズマ発生装置)が構成される。
【0012】
次に、このような成膜装置の基本動作について説明する。
【0013】
まず、真空室9に接続されている図示しない排気手段によって、真空室9内部及びケース3内部がそれぞれ所定の真空度まで真空引きされている状態において、ガス導入口8からケース3内にアルゴンガスを所定流量にて導入し、ケース3内の圧力を高める。また、これと同時にカソード加熱電源10によりカソード1に電流を流し、カソード1を熱電子放出可能な温度まで加熱する。
【0014】
次に、コイル電源13によりコイル5に所定の電流を流して、ケース3内でのプラズマの点火と安定なプラズマの生成が得られるのに必要とされる磁場を発生させる。
【0015】
この状態で、放電電源11により、第1のアノード2及び第2のアノード6に所定の放電電圧(例えば、150V)を印加すると、それにより生じる加速電界15によりケース3内部で電子が加速されて放電が開始され、ケース3内でプラズマ14が生成される。
【0016】
これによりケース3内で生成されたプラズマ14中の電子は、コイル5が形成する磁場の作用によって上記軸方向に集束を受ける。さらに、当該電子は、シールド4のオリフィス上部に発生した加速電界15により、電子ビームとして、ケース3から真空室9内へと導き出される。
【0017】
これにより真空室9内に導き出された電子ビーム中の電子は、図示しないガス供給口から真空室9内に導入されたプロセスガスや真空室9内に存在する成膜粒子等をイオン化させる。これにより、真空室9内でプラズマ16が形成される。
【0018】
真空室9内における当該電子ビーム中の電子及びプラズマ16中の電子は、真空室6の内壁(側壁)もしくは第2のアノード6に流れ込むこととなり、これにより真空室9内でのプラズマ放電が維持される。
【0019】
ここで、バイアス電源(直流電源)12による印加電圧の電圧値を上げることにより、放電回路全体の基準電位が上昇する。この結果、プラズマ16中の電子はアノード6に向かって加速するとともに、プラズマ16中のイオンはアース電位とされた真空室9の内壁面に向かって加速される。
【0020】
そして、真空室9の内部であってその内壁面側に、成膜処理対象の基板(基材)20を予め配置しておくことにより、基板20の表面にイオンが到達して、基板20への成膜処理が行われる。
【0021】
特に、電子ビーム蒸着等の真空蒸着による薄膜形成時におけるイオンアシスト源として、このような放電室を用いることにより、緻密で高品質な薄膜を基板表面に形成することができる。
【0022】
ここで、特許文献1には、真空室内のプラズマ中の電子がプラズマ発生装置(放電室)側に向かうようにアノード電位をコントロールすることにより、当該プラズマ中のイオンが基板に向けて照射されるようにする点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特許第4980866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
従来の直流放電型プラズマ発生装置においては、上述のごとく、直流電源をバイアス電源として放電回路のアノード電位を制御している。
【0025】
これにより、ある閾値電圧以上のバイアス電圧が印加されると、アース電位面(真空室の内壁面)に形成された薄い酸化膜表面で、プラズマ中の正イオンが蓄積し、異常放電が発生することがあった。
【0026】
このような場合には、真空室の内壁面側に配置された基板の表面に損傷が生じたり、プラズマ放電そのものが不安定なる。
【0027】
この閾値電圧は、真空室内の圧力(真空度)や導入ガス種、放電電源からの印加電圧により変化するが、特に酸素ガスをプロセスガスとして真空室内に導入する反応性プロセスにおいては、異常放電が多発する傾向にある。
【0028】
そのため、真空室内に配置された基板に対するイオン照射効果を高めたい場合であっても、バイアス電圧を異常放電が発生しない程度の低い電圧に抑える必要がある。
【0029】
このように、バイアス電圧を低い電圧に抑えて成膜を行うと、基板表面に向かうイオンの加速が低下して、基板に対するイオン照射効果が低くなり、強度の高い緻密な膜を基板上に成膜することができないという問題があった。
【0030】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、真空室内でのプラズマの異常放電が発生しない状態で、緻密な膜を基板(基材)上に成膜することのできる成膜装置及び成膜装置の動作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明における成膜装置は、成膜処理対象の基材を収容し、内部で発生するプラズマにより基材に成膜処理を施す真空室と、真空室内に電子を導入するための放電室と、放電室内に配置されたカソードと、放電室の端部に配置されたアノードと、カソードとアノードとの間に放電電圧を印加するための放電用電源と、放電室内に放電用ガスを供給するための放電用ガス供給手段と、真空室の内壁の電位に対するアノードの電位を制御する制御用電源とを備える成膜装置であって、制御用電源は、アノードに周期的なパルス電圧を印加することを特徴とする。
【0032】
本発明における成膜装置の動作方法は、成膜処理対象の基材を収容し、内部で発生するプラズマにより基材に成膜処理を施す真空室と、真空室内に電子を導入するための放電室と、放電室内に配置されたカソードと、放電室の端部に配置されたアノードと、カソードとアノードとの間に放電電圧を印加するための放電用電源と、放電室内に放電用ガスを供給するための放電用ガス供給手段と、真空室の内壁の電位に対するアノードの電位を制御する制御用電源とを備える成膜装置の動作方法であって、制御用電源は、アノードに周期的なパルス電圧を印加することを特徴とする。




【発明の効果】
【0033】
本発明においては、制御用電源によってアノードにパルス電圧が印加される。これにより、パルス電圧の立ち上がり期間においては、真空室内で生成されたプラズマ中のイオンが、真空室内壁の電位であるアース電位面に向かって加速・照射される。
【0034】
このとき、当該アース電位面に形成された酸化膜等に蓄積された正電荷は、当該パルス電圧における立ち下り期間中に、プラズマ中の電子により中和される。これにより、真空室内での異常放電の発生を確実に防ぐことができる。
【0035】
これにより、当該パルス電圧の立ち上がり期間では高電圧が印加されることとなり、膜質の良い緻密な膜を基材上に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】従来技術における成膜装置を示す概略構成図である。
図2】本願発明における成膜装置を示す概略構成図である。
図3】印加されるパルス電圧の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して、本願発明について説明する。図2は、本願発明に係る成膜装置を示す概略構成図である。
【0038】
同図において、カソード1は、タングステン等の熱電子放出材料からなり、カソード電源10に接続されている。ケース3は、放電室を構成し、フローティング電位となっている。
【0039】
第1のアノード2は、碍子7により支持された状態で水冷され、放電電源11に抵抗R1を介して接続されている。抵抗R1は、抵抗値としては0.2Ω〜0.5Ωの範囲に設定されている。
【0040】
また、第1のアノード2には、該アノード2の表面を覆うように第2のアノード6が取り付けられている。この第2のアノード6は、第1のアノード2との熱抵抗が大きい状態となっており、水冷機構は設けられていない。シールド4は、ケース3に固定されており、電子ビームが通過するオリフィスを備えている。
【0041】
ケース3の周囲には、コイル5が取り付けられている。このコイル5は、ケース3内部からビームの状態で電子が引き出される方向と平行な磁場を形成するための電磁石からなり、ケース3内で生成されたプラズマ14を当該電子ビームの軸方向に集束させる作用を有する。図中の13は、コイル5に電流を供給するためのコイル電源である。
【0042】
上記構成において、カソード1、第1のアノード2、第2のアノード6、ケース3、抵抗R1、カソード加熱電源10及び放電電源11により、放電回路が構成される。
【0043】
本発明においては、この放電回路がパルス電源21を介して真空室9の側壁と接続されている。真空室9の側壁は、アース電位となっている。パルス電源21は、アノード6に、当該アース電位に対してパルス状に正電位を印加することで、放電回路の基準電位を調整する。なお、ケース3には、ガス導入口8が設けられている。
【0044】
以上の装置において、当該放電回路、シールド4、コイル5、碍子7及びコイル電源13により、プラズマ発生装置が構成される。
【0045】
次に、本成膜装置の動作について説明する。
【0046】
まず、真空室9に接続されている図示しない排気手段によって、真空室9内部及びケース3内部がそれぞれ所定の真空度まで真空引きされている状態において、ガス導入口8からケース3内にアルゴンガスを所定流量にて導入し、ケース3内の圧力を高める。また、これと同時にカソード加熱電源10によりカソード1に電流を流し、カソード1を熱電子放出可能な温度まで加熱する。
【0047】
次に、コイル電源13によりコイル5に所定の電流を流して、ケース3内でのプラズマの点火と安定なプラズマの生成が得られるのに必要とされる磁場を発生させる。
【0048】
この状態で、放電電源11により、第1のアノード2及び第2のアノード6に所定の放電電圧(例えば、150V)を印加すると、それによる加速電界15により電子が加速されて、ケース3内で放電が開始され、プラズマ14が生成される。
【0049】
これによりケース3内で生成されたプラズマ14内の電子は、コイル5が形成する磁場の作用によって上記軸方向に集束を受ける。さらに、当該電子は、シールド4のオリフィス上部に発生した加速電界15により、電子ビームとして、ケース3から真空室9内へと導き出される。
【0050】
これにより導き出された電子ビーム中の電子は、図示しないガス供給口から真空室9内に導入されたプロセスガスや真空室9内に存在する成膜粒子等をイオン化させる。これにより、真空室9内でプラズマ16が形成される。ここで、真空室9内には、その内壁面に沿う位置に基板20が配置されている。
【0051】
真空室9内に引き出された電子ビームの電子及びプラズマ16中の電子は、真空室6の内壁(側壁)もしくは第2のアノード6に流れ込むこととなり、これにより真空室9内でのプラズマ放電が維持される。
【0052】
このとき、本実施例においては、パルス電源21により、放電回路におけるアノード6にパルス電圧が印加されている。
【0053】
図3に、印加されるパルス電圧の例を示す。同図に示すパルス電圧においては、立ち上がり時での最大値Vは200Vであり、立ち下り時での最小値Vは100Vに設定されている。また、この例のパルス電圧の周波数は、140kHzとなっている。
【0054】
このようなパルス電圧がアノード6に印加された状態において、パルス電圧の1サイクルにおける立ち上がり期間Tでは、アノード6の電位が正方向に上昇する。これにより、当該期間Tにおいては、プラズマ16中の電子はアノード6に優先的に流れ、一方、プラズマ16中のイオンはアース電位面(真空室9の内壁面)に向かって加速されて到達する。
【0055】
このとき、当該アース電位面に薄い酸化膜等が存在すると、局所的に正電荷が蓄積し、プラズマの異常放電を誘発することがあるが、本実施例においては、パルス電源21から供給されるパルス電圧のduty比を調整することにより、プラズマポテンシャルをパルス的に変化させることができる。
【0056】
これにより、プラズマ16中のイオンと電子を交互に当該内壁面及び基板20に引き寄せて、電気的な中和を行うことができる。このとき、パルス電圧のduty比の調整を行うことにより、この中和時間を制御することができ、プラズマの異常放電を抑制することが可能となる。
【0057】
以下に、具体的な成膜条件の例について述べる。
【0058】
まず、プラズマソースである放電室のケース3内にアルゴンガスを10mL/分の流量で導入し、また、成膜処理室となる真空室9内にガス供給口(図示せず)からプロセスガスとして酸素ガスを供給する。このとき、真空室9内は真空引きされており、真空室9内の圧力を1.5×10−2Pa程度とする。
【0059】
さらに、カソード加熱電源10によりカソード1を流れるフィラメント電流を40A程度とし、また、コイル電源13によりコイル5を流れる電流を16A程度として、放電環境を整える。
【0060】
この状態で、放電電源11による放電電圧を120V、放電電流を20Aに設定し、放電室(ケース3)内で放電を発生させてプラズマ(第1のプラズマ)14を生成し、これによる電子ビームを真空室9内に導入することによって、真空室9内でプラズマ(第2のプラズマ)16を発生させる。
【0061】
このような成膜条件の下で、パルス電源21により、最大電圧値(V)200V、最小電圧(V)100V、duty比10%〜50%の条件で、放電回路のアノード6にパルス電圧を印加した場合には、真空室9内において異常放電は発生せず、安定なプラズマ放電の状態を維持することが確認された。
【0062】
一方、同一の成膜条件の下において、パルス電源を使用せずに、直流電源による一定のバイアス電圧をアノード6に印加した場合には、印加電圧が110V程度で真空室9内のアース電位面での異常放電が多発し、放電発生部の損傷や放電痕が多数確認された。
【0063】
このように、直流電源を当該バイアス電源として使用したときには、特に、Ta、TiO及びSiO等の誘電体薄膜を電子ビーム蒸着法により単層又は複数層を蒸着する場合に、真空室9の内壁面に付着した誘電体膜の表面で異常放電が多発することとなる。
【0064】
従って、直流電源をバイアス電源として使用した場合には、その印加電圧を抑える必要が生じ、プラズマアシスト効果も低減する。
【0065】
これに対して、本実施例のようにパルス電源をバイアス電源として使用した場合には、出力電圧(アノード6への印加電圧)が立ち下がっている期間Tに充電された電荷が、圧縮された状態で数μ秒のパルス立ち上がり時間Tに一気に放出されるため、パルスの立ち上がりの間、高いエネルギーがアノード6へ供給されることとなる。
【0066】
この場合には、異常放電を抑えつつプラズマアシスト効果も維持することができ、誘電体薄膜の成膜においては、バイアス電源に直流電源を使用したときと比較して、成膜される膜の屈折率等の膜質を向上させることが可能となる。
【0067】
なお、本実施例において、上記パルス電源21から出力されるパルス電圧の条件は、最大電圧値(V)として110V〜200Vの範囲、最小電圧値(V)として70V〜100Vの範囲、周波数として30kHz〜300kHzの範囲、duty比として10%〜50%の範囲での設定が可能である。
【0068】
本発明の成膜装置は、成膜処理対象の基材20を収容し、内部で発生するプラズマ16により基材20に成膜処理を施す真空室9と、真空室9内に電子を導入するための放電室3と、放電室3内に配置されたカソード1と、放電室3の端部に配置されたアノード6と、カソード1とアノード6との間に放電電圧を印加するための放電用電源11と、放電室3内に放電用ガスを供給するための放電用ガス供給手段8と、真空室9の内壁の電位(アース電位)に対するアノード6の電位を制御する制御用電源21とを備え、制御用電源21は、アノード6にパルス電圧を印加する
本発明においては、真空室9内での成膜処理時に、アノード電極6とアース電位面との間にパルス電圧を印加することにより、アース電位面である真空室9の内側面での異常放電をなくすことができ、安定なプラズマ放電を維持することができる。
【0069】
また、パルス電圧を出力するパルス電源の持つ放電特性から、プラズマからのイオンアシスト効果を維持もしくは向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
1…カソード、2…第1のアノード、3…ケース、4…シールド、5…コイル、6…アノード、7…碍子、8…ガス導入口、9…真空室、10…カソード加熱電源、11…放電電源、12…直流電源、13…コイル電源、14…第1のプラズマ、15…加速電界、16…第2のプラズマ、20…基板、21…パルス電源
図1
図2
図3