(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959414
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】発振装置
(51)【国際特許分類】
H03B 5/32 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
H03B5/32 J
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-251615(P2012-251615)
(22)【出願日】2012年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-99808(P2014-99808A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 健
(72)【発明者】
【氏名】土屋 昇一
【審査官】
石川 雄太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−188659(JP,A)
【文献】
特開2001−251141(JP,A)
【文献】
特開昭56−085887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/30−5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電振動子を用いた発振回路と、
前記圧電振動子が置かれる雰囲気の温度を検出する温度センサーが含まれ、当該温度センサーの温度検出値が設定温度に維持されるように動作するヒータ回路部と、
電源投入時に、前記ヒータ回路部内に流れる電流または電源部から前記ヒータ回路部に供給される電流を検出し、電流検出値がしきい値以下になったときに昇温完了信号を出力する第1の判断部と、
前記圧電振動子が置かれる雰囲気が昇温中であるか温度安定状態であるかを報知する報知部と、
電源投入時に、前記ヒータ回路部内に流れる電流または前記電源部から前記ヒータ回路部に供給される電流の値をクロックに応じたタイミングでサンプリングして、予め設定されたサンプリング数の移動平均値を求め、前記昇温完了信号が出力されていることを必要条件として、当該移動平均値の時間的推移に基づいて、発振回路が安定したことを報知部に報知させる第2の判断部と、を備えたことを特徴とする発振装置。
【請求項2】
前記第2の判断部は、昇温完了信号が出力されていることと、n(nは自然数)回目のサンプリング時における前記移動平均値及び(n+1)回目のサンプリング時における前記移動平均値の差分が予め設定された回数だけ連続して設定値を越えたことと、のアンド条件により、発振回路が安定したことを報知部に報知させることを特徴とする請求項1に記載の発振装置。
【請求項3】
前記ヒータ回路部は、温度センサーの抵抗値に応じてトランジスタのコレクタに流れ込む電流が制御されるように構成され、
前記前記ヒータ回路部内に流れる電流は、トランジスタのコレクタに流れ込む電流であることを特徴とする請求項1または2記載の発振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆる恒温槽付き圧電発振器を含む発振装置において、電源投入後に圧電振動子の温度が安定化したタイミングを検出する技術分野に関する
【背景技術】
【0002】
恒温槽付き水晶発振器(OCXO)は、圧電振動子である水晶振動子が置かれる雰囲気の温度を一定化して発振周波数を安定化するために、ヒータを備えており、ヒータは例えばサーミスタによる温度検出値が設定温度となるように供給電力が制御される。水晶発振器の発振出力の適用機器への供給は、電源投入後、水晶振動子が置かれる雰囲気の温度(水晶発振器の内部温度)が安定化した後に行われる。あるいは適用機器の電源を投入するタイミングは、当該適用機器に発振出力を供給する水晶発振器の内部温度が安定した後に行われる。このため、前記雰囲気の温度が安定したことを正確に検出することが要求される。
【0003】
前記内部温度が安定したか否かの判断については、サーミスタの抵抗値変化に応じて変化する電流あるいは電圧が設定値以下になったか否かを検出することにより行っていた。例えばサーミスタとトランジスタとを組み合わせたヒータ回路部を用いる場合には、トランジスタのコレクタに流れ込む電流を検出するといったことが行われていた。発振器には一般に内部温度が昇温中であるか安定状態にあるかを表示する発光ダイオードからなる表示ランプが設けられており、このランプが消灯することによりオペレータは内部温度が安定したことが分かる
しかしながら、サーミスタによる温度検出値である上述の電流あるいは電圧検出値が設定値以下になった後においても、実際には発振周波数はしばらく不安定な状態が続く。その理由は、サーミスタによる温度検出結果では設定温度になっていても、実際に発振器内部の全体温度が一律になるまでには、しばらく時間がかかり、その時間の長さは発振器によりまちまちである。そのため発振器毎に発振周波数が安定化する時間を計測し、その時間をメモリ内に記憶しておいて、電源投入後に当該時間経過後に安定化状態であることを表示することも検討されているが、この手法は、メーカ側にとって調整作業が煩わしいという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、いわゆる恒温槽付き発振器を含む発振装置において、電源投入後における発振装置の内部の温度が安定した時点を高精度で報知することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発振装置は、 圧電振動子を用いた発振回路と、
前記圧電振動子が置かれる雰囲気の温度を検出する温度センサーが含まれ、当該温度センサーの温度検出値が設定温度に維持されるように動作するヒータ回路部と、
電源投入時に、前記ヒータ回路部内に流れる電流または電源部から前記ヒータ回路部に供給される電流を検出し、電流検出値がしきい値以下になったときに昇温完了信号を出力する第1の判断部と、
前記圧電振動子が置かれる雰囲気が昇温中であるか温度安定状態であるかを報知する報知部と、
電源投入時に、前記ヒータ回路部内に流れる電流または前記電源部から前記ヒータ回路部に供給される電流の値をクロックに応じたタイミングでサンプリングして、予め設定されたサンプリング数の移動平均値を求め、前記昇温完了信号が出力されていることを必要条件として、当該移動平均値の時間的推移に基づいて、発振回路が安定したことを報知部に報知させる第2の判断部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、いわゆる恒温槽付き発振器を含む発振装置において、電源投入後にヒータ回路部内に流れる電流の値が設定値以下になったことを必要条件とし、その上で電源部からヒータ回路部に供給される電流の値の移動平均値の変化を監視し、その監視結果に基づいて、発振装置の内部の温度安定時と判定するようにしている。このため発振装置の内部の温度が安定した時点を高精度で知らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の発振装置に係る実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】前記実施形態の要部の回路構成の詳細を示す回路図である。
【
図3】第1の判断部の動作を示すタイムチャートである。
【
図4】ヒータ回路部内の電流の経時変化を示す特性図である。
【
図5】第2の判断部の判断条件を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施形態の作用を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は本発明の実施形態に係る発振装置100を示し、OCXOと記載してある符号1で示す部分は、
図2に示されている発振回路2とこの発振回路2の水晶振動子を設定温度に加熱するための加熱部をなすヒータ回路部3とからなる恒温槽付き発振器に相当する。
発振回路2は
図2に示すように、例えばコルピッツ回路と水晶振動子とから構成されている。21は水晶振動子、22は増幅部をなすトランジスタ、23はバッファアンプ、VDは可変容量ダイオードである。制御電圧端子24に供給される制御電圧により前記可変容量ダイオードVDの容量が調整されて発振周波数が調整される。10は発振回路2に直流電力を供給する電源部であり、この例では電源電圧供給端子を電源部10として取り扱っている。
【0009】
ヒータ回路部3は
図2にて略解して記載されており、水晶振動子21が置かれる雰囲気の温度を検出する温度センサーであるサーミスタ31を備えている。発振回路2及びヒータ回路部3は共通の容器内に収納され、発振回路の置かれている雰囲気が環境温度よりも高い設定温度に維持されるようになっている。電源をオンにして電源部10からヒータ回路部3に電圧が供給された直後は前記雰囲気温度が例えば室温であり、サーミスタ31の抵抗値が高いので差動増幅器32の負端子の電圧が低く、差動増幅器32の出力電圧が大きい。このためトランジスタ33、34に大きな電流が流れ、当該トランジスタ33、34が発熱する。この発熱により前記雰囲気温度が上昇し、サーミスタ31の抵抗値が低くなり、差動増幅器32の負入力端子の電圧が上昇する。この結果トランジスタ33、34に流れる電流が減少し、温度上昇と当該電流の減少とが平衡状態になって前記雰囲気温度が設定温度に収束する。この設定温度は回路定数により決めることができる。
【0010】
トランジスタ33のコレクタ電流の値は第1の判断部4にて検出される。第1の判断部4は、
図3に示すように電流検出値が予め設定したしきい値以下であるか否を判断し、しきい値よりも大きいと判断した時には「COLD」状態であることを知らせる例えば論理レベルが「L」の論理信号を出力する一方、電流検出値がしきい値以下であると判断した時には「WARM」状態であることを知らせる例えば論理レベルが「H」の論理信号(昇温完了信号に相当する)を出力する。「COLD」状態とは、ヒータ回路部3が昇温中であると判断される状態であり、「WARM」状態とはヒータ回路部3の発熱が安定したと判断される状態である。
また電源部10から発振回路2及びヒータ回路部3に直流電力が供給されるが、供給ラインに流れる電流を検出するために電流電圧検出部5が設けられている。第1の判断部4の判断結果及び電流電圧検出部5にて検出された電流検出値は制御部であるマイクロコントローラ5に入力される。
図4は発振装置の電源を投入した後における電流電圧検出部5にて検出された電流検出値の経時変化を示しており、ヒータ回路部3が昇温状態からその発熱が安定する移行期には電流が下がっている。
マイクロコントローラ5のROMに格納されているプログラム61は、前記移行期の終結を捉えるために、電流電圧検出部5からの電流検出値の移動平均、例えばマイクロコントローラ5におけるクロックに同期するサンプリング動作の10回分の移動平均を求めるステップを備えている。そしてプログラム61は、サンプリングのタイミングを整数で表すと、n番目における電流検出値の10回のサンプリング数の移動平均[(n)Avei]と、n+1番目における電流検出値の10回のサンプリング数の移動平均[(n+1)Avei]との差分Δiを求めるステップと、この差分Δiと、既述の「COLD」/「WARM」の判断信号と、を用いて、発振回路2が安定したか否か、つまり水晶振動子21の発振周波数が安定したか否かを判断するステップとを備えている。これらステップの詳細に関しては後述する。プログラム61は第2の判断部に相当する。
【0011】
62は、発振回路2が安定しているか否かを報知する報知部をなすLED発光部であり、マイクロコントローラ5により発振回路2が安定していないと判断されているとき(オーブンアラーム)には点灯し、発振回路2が安定していると判断されたとき(オーブンアラーム解除)には消灯する。63はCPU、64は発振装置に必要なパラメータを記憶する外部メモリとしての不揮発性メモリであるEEPROMである。
【0012】
図1に説明を戻すと、11はデバイダ回路であり、例えば8通りの周波数の発振周波数が生成される。12はスイッチ部であり、発振回路2の発振出力及び外部から送られる基準クロック信号の一方を選択するためのものである。
【0013】
次に上述実施の形態の作用について説明する。先ず発振装置の電源を投入することにより
図2に示す電源部10から発振回路2及びヒータ回路部3に電力が供給される。ヒータ回路部3では、既に動作説明を行ったように、容器内の温度が例えば室温なので既述のようにトランジスタ33,34の各コレクタに電流が流れ込み当該トランジスタ33,34が発熱する。そしてその発熱により水晶振動子が置かれる雰囲気温度、具体的には容器内の温度が上昇し、これに伴いサーミスタの抵抗値が下がり、トランジスタ33,34へ流入する電流が減少する。
図3には、トランジスタ33のコレクタに流れる電流の減少の様子が示され、
図4には、電源部10からヒータ回路部3に流入する電流の減少の様子が示されている。
電源部10からヒータ回路部3に流入する電流の一部が分配されてトランジスタ33のコレクタに流れるため、電源供給ラインの電流に比べてトランジスタ33のコレクタに流れる電流の方が小さい。電源部10からヒータ回路部3に流入する電流の経時変化は、電源部10から発振回路2及びヒータ回路部3に電流を供給するライン上の電流の経時変化と対応していることから、
図2に示す電源電流の分岐点Pよりも上流側の電流(上述の例はこの場合に相当する)あるいは下流側の電流のいずれを検出するようにしてもよい。
そしてマイクロコントローラ6のプログラム61は、第1の判断部4の判断結果と電流電圧検出部5の検出結果とに基づいて
図5に示す判定表のとおりに発振装置の温度安定状態について判定する。
以下に、プログラム61のステップを含む
図6のフローチャートと
図5の判定表を参照しながら発振装置の電源投入時の動作を説明する。電源を投入した後、第1の判断部4により、ヒータ回路部3のトランジスタ33のコレクタ電流がしきい値以下であるか否か、すなわち「COLD」であるか「WARM」であるかを判断する(ステップS1及びS2)。電源投入直後は、発振回路2が置かれている雰囲気温度は例えば室温と低いのでコレクタ電流はしきい値よりも高く、このため「COLD」と判断されてステップS3に進み、LED62を点灯状態とする。この状態は
図5の判定表に対応させると、昇温中であるオーブンアラーム状態に相当する。
【0014】
そして時間が経過するにつれて水晶振動子21が置かれている雰囲気が温まり、コレクタ電流が下がり始め、しきい値よりも低くなると、「WARM」と判断され、ステップS4にてm=0とされた後、ステップS5にてn番目における電流検出値の例えば10回のサンプリング数の移動平均[(n)Avei]と、n+1番目における電流検出値の10回のサンプリング数の移動平均[(n+1)Avei]との差分Δi{[(n)Avei]−[(n+1)Avei]}がしきい値よりも小さいか否かを判断する。なお既に「WARM」と判断されているので、電流値は減少領域に入っていて常にΔiは正の値である。n番目における電流検出値の例えば10回のサンプリング数の移動平均とは、例えば(n−9)回目のサンプリング時での電流検出値からn回目のサンプリング時までの電流検出値の平均値である。
【0015】
第1の判断部4における判断結果が「COLD」から「WARM」に変わった直後は、電源部10からヒータ回路部3に流れ込む電流値が下がり始めている途中なので、Δiは
図4からわかるように大きな値であり、しきい値を上回っている。従ってステップS6に進んでm=0(この場合、再度m=0となる処理を繰り返すこととなる)とした後、ステップS5に戻るが、しばらくはヒータ回路部3に流れ込む電流値が低い値に向かっているため、Δiは大きな値に維持され、しきい値を上回った状態となる。やがて当該電流値の減少が収まって安定状態になろうとし、Δiがしきい値よりも低い値になると、ステップS7にて、Δiがしきい値よりも低いという判断の回数mが「1」に設定される。
【0016】
この例では当該判断の回数が連続して5回に達した時にオーブンアラーム状態が解除されたと判断するように、つまり水晶振動子21が置かれる雰囲気の温度が安定状態になったと判断するようにプログラム61が構成されている。このためステップS8にて、Δiがしきい値よりも低いという判断の回数が5回に達したか否かが判断され、5回に達するまではステップS5、S6が繰り返され、5回(m=5)に達した時にステップS9に進んでオーブンアラーム状態が解除され、LED62が消灯される。
その後、オペレータが、発振装置に適用される機器、例えば発振装置からの発振出力をクロックとして動作する機器の電源を投入する。なお、オーブンアラーム状態が解除されたと判断したときに、この判断信号に基づいて適用機器の電源を投入するようにシステムを構成してもよい。
【0017】
上述の実施の形態は、いわゆる恒温槽付き発振器を含む発振装置100の電源を投入した後、ヒータ回路部3のトランジスタ33のコレクタに流れる電流の値が設定値以下になったことと、ヒータ回路部3に供給される電流の値の移動平均値の変化の監視結果とに基づいて、水晶振動子21が置かれる雰囲気の温度が安定したか否かを判断するようにしている。電源部10からヒータ回路部3及び発振回路2に供給される電流の値はヒータ回路部3の発熱状態に対応し、しかも電流の値が大きくかつその変化幅も大きいことから、移動平均値を正確に検出することができる。このため移動平均の変化の状態を監視することで水晶振動子21が置かれる雰囲気の温度が安定したか否かを高精度に判断することができ、温度安定時点を高い信頼性をもって知らせることができる。
【0018】
上述の実施形態では、第1の判断部4にてトランジスタ33のコレクタ電流の値を検出し、この電流検出値に基づいて、既述の「COLD」/「WARM」の判定を行っているが、この判定は、電流電圧検出部にて検出された電流検出値に基づいて行ってもよい。この場合には、
図1において、OCXO1から第1の判断部4に向かうラインは削除され、電流電圧検出部5から第1の判断部4に向かう矢印ラインが形成されることになる。
【0019】
また第2の判断部に相当するプログラム61は、電流電圧検出部5における電流検出値を監視するためにステップS5〜ステップS8が組まれているが、プログラム61が監視する対象は、電流電圧検出部5における電流検出値の代わりにトランジスタ33のコレクタ電流の値であってもよい。
これらの場合にも同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0020】
1 発振回路及びヒータ回路部を含む部位
2 発振回路
21 水晶振動子
3 ヒータ回路部
31 サーミスタ
33、34 トランジスタ
4 第1の判断部
5 マイクロコントローラ
62 発光部(LED)