特許第5959423号(P5959423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5959423-アルミニウム合金箔 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959423
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金箔
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20160719BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20160719BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20160719BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20160719BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20160719BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160719BHJP
【FI】
   C22C21/00 A
   H01M4/64 A
   H01M4/66 A
   H01G11/68
   !C22F1/04 K
   !C22F1/00 622
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 661C
   !C22F1/00 661Z
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-263918(P2012-263918)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-109057(P2014-109057A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】本居 徹也
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 再公表特許第2013/146369(JP,A1)
【文献】 特許第5848672(JP,B2)
【文献】 国際公開第2012/169570(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/008567(WO,A1)
【文献】 特開2012−224927(JP,A)
【文献】 特開2011−241410(JP,A)
【文献】 特開2004−207117(JP,A)
【文献】 特開2011−074433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
H01M 4/64 − 4/66
H01G 11/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分が、質量%で、Si:0.1%以上0.6%以下、Fe:0.2%以上1.5%以下を含有するとともにSi含有量とFe含有量との合計が0.48%以上であり、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
箔厚が20μm以下であり、
Siの固溶量が700質量ppm以上、Feの固溶量が150質量ppm以上であり、
引張強さが220MPa以上であり、
液体窒素中で測定した比抵抗が0.45μΩ・cm以上0.7μΩ・cm以下であることを特徴とするアルミニウム合金箔。
【請求項2】
学成分が、質量%で、Si:0.1%以上0.6%以下、Fe:0.2%以上1.5%以下(但し、Fe:0.2%以上0.5%以下を除く)、Cu:0.01%以上0.25%以下を含有するとともにSi含有量とFe含有量との合計が0.48%以上であり、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
箔厚が20μm以下であり、
Siの固溶量が700質量ppm以上、Feの固溶量が150質量ppm以上であり、
引張強さが220MPa以上であり、
液体窒素中で測定した比抵抗が0.45μΩ・cm以上0.7μΩ・cm以下であることを特徴とするアルミニウム合金箔。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルミニウム合金箔は、蓄電デバイス電極の集電体用であることを特徴とするアルミニウム合金箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金箔に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウム合金箔は様々な分野において使用されている。近年では、アルミニウム合金箔は、薄くて導電性があるなどの観点から、例えば、リチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスにおける電極の集電体などとして使用されている。具体的には、例えば、特許文献1、2に開示されるように、集電体としてのアルミニウム合金箔の一方の面に正極活物質およびバインダーを含む層を塗工し、乾燥させた後、正極活物質の密度向上と箔への密着性を向上させるために圧延を行うことによって蓄電デバイスとしてのリチウムイオン電池の正極が製造されている。
【0003】
上記アルミニウム合金箔としては、例えば、特許文献3には、Si:0.01〜0.60質量%、Fe:0.2〜1.0質量%、Cu:0.05〜0.50質量%、Mn:0.5〜1.5質量%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、引張強さが240MPa以上であり、n値が0.1以上であるリチウムイオン電池用のアルミニウム合金箔が開示されている。
【0004】
なお、本願に先行する技術文献として、他にも次の2つがある。特許文献4は、リチウムイオン電池用のアルミニウム合金箔ではないが、同文献には、Si:0.05〜0.30質量%、Fe:0.15〜0.60質量%、Cu:0.01〜0.20質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、引張強さが186〜212N/mm程度、箔厚が30μm〜100μm程度の多孔加工用のアルミニウム合金箔が開示されている。
【0005】
また、特許文献5には、箔素材に使用できるアルミニウム合金板として、Fe:0.1〜2.5質量%およびSi:0.01〜0.5%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物であり、かつ固溶Fe量が200ppm以上であって、熱間圧延されないで冷間圧延されたアルミニウム合金板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−234277号公報
【特許文献2】特開平11−67220号公報
【特許文献3】特開2011−26656号公報
【特許文献4】特開2006−283114号公報
【特許文献5】特開2008−223075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のアルミニウム合金箔は、以下の点で問題がある。すなわち、上述したように、アルミニウム合金箔は、蓄電デバイスの電極等の箔使用部材の製造時において、圧延等により圧縮力を受ける。そのため、アルミニウム合金箔は、このような圧縮力に対して不必要な変形や破損を生じないように十分な強度が求められる。近年では、さらなる箔の薄肉化が求められており、これに対応するためにも箔の高強度化が望まれている。
【0008】
箔の高強度化を図るための代表的な手法として、アルミニウム合金成分を調整する方法がある。しかしながら、単なる合金成分の調整だけでは、Al以外の合金成分の添加によって箔の比抵抗が大きくなり、導電性が低下する。このように、従来のアルミニウム合金箔は、導電性を大きく損なうことなく、高強度化を図ることが困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、導電性を大きく損なうことなく、高強度化を図ることが可能なアルミニウム合金箔を提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、化学成分が、質量%で、Si:0.1%以上0.6%以下、Fe:0.2%以上1.5%以下を含有するとともにSi含有量とFe含有量との合計が0.48%以上であり、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、箔厚が20μm以下であり、Siの固溶量が700質量ppm以上、Feの固溶量が150質量ppm以上であり、引張強さが220MPa以上であり、液体窒素中で測定した比抵抗が0.45μΩ・cm以上0.7μΩ・cm以下であることを特徴とするアルミニウム合金箔にある。
また、本発明の他の態様は、化学成分が、質量%で、Si:0.1%以上0.6%以下、Fe:0.2%以上1.5%以下(但し、Fe:0.2%以上0.5%以下を除く)、Cu:0.01%以上0.25%以下を含有するとともにSi含有量とFe含有量との合計が0.48%以上であり、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、箔厚が20μm以下であり、Siの固溶量が700質量ppm以上、Feの固溶量が150質量ppm以上であり、引張強さが220MPa以上であり、液体窒素中で測定した比抵抗が0.45μΩ・cm以上0.7μΩ・cm以下であることを特徴とするアルミニウム合金箔にある。
【発明の効果】
【0011】
上記アルミニウム合金箔は、上記特定の構成を有しているので、導電性を大きく損なうことなく、高強度化を図ることができる。したがって、上記アルミニウム合金箔は、例えば、蓄電デバイスの電極等の箔使用部材の製造時に圧延等による圧縮力が加えられた場合でも、不必要な塑性変形を抑制することができ、箔の薄肉化も実現しやすくなる。また、上記アルミニウム合金箔は、高強度化によっても導電性が大きく損なわれず良好な導電性を確保することができる。そのため、上記アルミニウム合金箔を、例えば、リチウムイオン電池等の蓄電デバイスにおける電極の集電体として用いれば、蓄電デバイスの高密度・高エネルギー化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例においてSi固溶量、Fe固溶量を測定する際の概略手順を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記アルミニウム合金箔における特定の化学成分(単位は質量%、以下の化学成分の説明では単に「%」と略記)の意義および限定理由は以下の通りである。
【0014】
Si:0.1%以上0.6%以下
Siは、箔強度の向上を図るために必要な元素である。箔製造時にアルミニウム合金の温度が350℃を超えると、固溶していたSiおよびFeがAl−Fe−Si系化合物として析出しやすくなり、これにより冷間圧延時の加工硬化性が低減して箔強度が低下しやすい。そのため、箔製造時に350℃を超える高温での均質化処理を行わず、350℃以下の条件で熱間圧延を行うことが望ましいが、この条件下で箔強度を高め、箔の比抵抗を低減して導電性を確保するためには、Si含有量を0.1%以上0.6%以下とする必要がある。Si含有量が0.1%未満になると、箔の比抵抗は低減するが、箔の強度が向上しない。Si含有量が0.6%を超えると、さらなる箔強度の向上が困難となり、粗大なSi単相粒子が形成されて20μm以下の箔厚ではピンホールや箔切れの問題が生じやすくなる。Si含有量は、好ましくは0.12%以上であるとよい。Si含有量は、好ましくは0.4%以下であるとよい。
【0015】
Fe:0.2%以上1.5%以下
Feは、Siに次いで箔強度の向上を図るために必要な元素である。箔製造時にアルミニウム合金の温度が350℃を超えると、固溶していたSiおよびFeがAl−Fe−Si系化合物として析出しやすくなり、これにより冷間圧延時の加工硬化性が低減して箔強度が低下しやすい。そのため、箔製造時に350℃を超える高温で均質化処理を行わず、350℃以下の条件で熱間圧延を行うことが望ましいが、この条件下で箔強度を高め、箔の比抵抗を低減して導電性を確保するためには、Fe含有量を0.2%以上1.5%以下とする必要がある。Fe含有量が0.2%未満になると、箔の比抵抗は低減するが、箔の強度が向上しない。Fe含有量が1.5%を超えると、さらなる箔強度の向上が困難となり、粗大なAl−Fe系晶出物が鋳造時に形成される。上記の通り、アルミニウム合金鋳塊に対して350℃を超える高温で均質化処理を行わない場合には、鋳造時に形成されたAl−Fe系晶出物は粗大な状態のまま最終箔厚まで残存することになる。そのため、20μm以下の箔厚ではピンホールや箔切れの問題が生じやすくなる。また、必要以上のFe添加は、製造コスト増加の原因にもなる。Fe含有量は、好ましくは0.30%以上であるとよい。Fe含有量は、好ましくは1.2%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.80%以下であるとよい。但し、後述するように、上記化学成分が、質量%で、Cu:0.01%以上0.25%以下をさらに含有する場合には、Fe:0.2%以上1.5%以下のうち、Fe:0.2%以上0.5%以下が除かれる。
【0016】
Si含有量とFe含有量との合計:0.48%以上
Si含有量とFe含有量との合計(以下、「Si+Fe量」ということがある。)は、220MPa以上の引張強さを確保する上で重要である。Si+Fe量が0.48%未満になると、220MPa以上の引張強さが得られず、高強度化を図ることが困難になる。Si+Fe量は、220MPa以上の引張強さを確保しやすくなる観点から、好ましくは0.49%以上、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.52%以上であるとよい。なお、上述したSi含有量、Fe含有量の上限などを考慮し、Si+Fe量は1.6%以下であるとよく、好ましくは1.4%以下、より好ましくは1.2%以下であるとよい。
【0017】
上記化学成分は、質量%で、Cu:0.01%以上0.25%以下をさらに含有することができる。この場合の意義および限定理由は以下の通りである。
【0018】
Cu:0.01%以上0.25%以下
Cuは、箔の強度向上に寄与する元素である。その効果を得るため、Cu含有量は0.01%以上とすることが好ましい。なお、0.01%未満のCuは、不可避的不純物として含まれていてもよい。一方、Cu含有量が過大になると箔の強度が増加するが比抵抗も増加する。そのため、Cu含有量は0.25%以下とすることが好ましい。Cu含有量は、好ましくは0.02%以上であるとよい。Cu含有量は、好ましくは0.18%以下であるとよい。
【0019】
上記化学成分は、不可避的不純物としてMn、Mg、Cr、Zn、Ni、Ga、V、Tiなどの元素を含有することができる。但し、Mn、Mgは、過剰に含まれると箔の比抵抗を増加させ、導電率を劣化させるおそれがある。そのため、Mn含有量は0.01%以下、Mg含有量は0.01%以下とすることが好ましい。Cr、Zn、Ni、Ga、V、Tiなどの他の元素は、比較的、比抵抗増大に寄与しない元素であるので、各元素の含有量はそれぞれ0.05%以下とすることが好ましい。また、全体の不可避的不純物の合計含有量は、0.15%以下であれば、導電性や高強度化に実質的な影響を及ぼすことがないので許容することができる。
【0020】
上記アルミニウム合金箔において、箔厚は20μm以下である。箔厚が20μmを超えると、近年要求されることが多い箔の薄肉化(箔厚ゲージダウン)に対応することができない。上記アルミニウム合金箔は、箔厚が20μm以下であるので、例えば、箔の薄肉化の要求が大きい蓄電デバイス電極の集電体用途に特に好適である。上記アルミニウム合金箔において、箔厚は、薄肉化、蓄電デバイスの小型化へ寄与できるなどの観点から、好ましくは20μm未満、より好ましくは19μm以下、さらに好ましくは、18μm以下、さらにより好ましくは17μm以下とすることができる。一方、箔厚は、例えば、蓄電デバイスの電極等の箔使用部材の製造時における取扱容易性などの観点から、好ましくは8μm以上、より好ましくは9μm以上、さらに好ましくは10μm以上とすることができる。
【0021】
上記アルミニウム合金箔において、Siの固溶量は700質量ppm以上、Feの固溶量は150質量ppm以上である。Siの固溶量が700質量ppm未満、Feの固溶量が150質量ppm未満になると、引張強さが220MPa以上という高強度化を図ることができなくなる。Siの固溶量は、上記高強度化を確実なものとする観点から、好ましくは720質量ppm以上、より好ましくは740質量ppm以上、さらに好ましくは760質量ppm以上であるとよい。なお、Siの固溶量は、その値が高いほど好ましいが、実製造上、造塊時の冷却速度などの観点から、その上限は1000質量ppm以下とすることができる。一方、Feの固溶量は、上記高強度化を確実なものとする観点から、好ましくは170質量ppm以上、より好ましくは190質量ppm以上、さらに好ましくは200質量ppm以上であるとよい。なお、Feの固溶量は、その値が高いほど好ましいが、実製造上、造塊時の冷却速度などの観点から、その上限は500質量ppm以下とすることができる。
【0022】
上記Siの固溶量、上記Feの固溶量は、基本的には、以下の方法により測定することができる。すなわち、熱フェノール溶解抽出法を用い、アルミニウム合金箔から採取した試験片に含まれるAl−Fe系化合物、Al−Fe−Si系化合物を残渣として得る。そして、この熱フェノール溶解抽出法による上記残渣からSi、Feを溶解させ、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)による定量分析を行い、上記化合物として析出したSi析出量、Fe析出量を求める。また、塩酸溶解抽出法を用い、アルミニウム合金箔から採取した試験片に含まれるSi単相粒子を残渣として得る。そして、この塩酸溶解抽出法による上記残渣を溶解し、ICPによる定量分析を行い、Si単相粒子として析出したSi析出量を求める。そして、熱フェノール溶解抽出法より得られたSi析出量と塩酸溶解抽出法より得られたSi析出量の和をSi総析出量とする。また、熱フェノール溶解抽出法より得られたFe析出量をFe総析出量とする。そして、アルミニウム合金箔のSi成分分析値からSi総析出量を差し引いた値をSi固溶量とする。また、アルミニウム合金箔のFe成分分析値からFe総析出量を差し引いた値をFe固溶量とする。
【0023】
上記アルミニウム合金箔において、引張強さは220MPa以上である。引張強さが220MPa未満では本願にいう高強度とはいえない。引張強さは、好ましくは223MPa以上、より好ましくは225MPa以上、さらに好ましくは230MPa以上であるとよい。なお、引張強さの上限は、特に限定されるものではないが、比抵抗とのバランスなどを考慮して最適な範囲に決定することができる。引張強さは、例えば、340MPa程度以下とすることができる。なお、引張強さは、JIS Z2241に準拠して測定される値である。
【0024】
上記アルミニウム合金箔において、比抵抗は0.45μΩ・cm以上0.7μΩ・cm以下である。なお、上記比抵抗は、液体窒素中で測定される値である。液体窒素中にて比抵抗を測定するのは、測定雰囲気温度の影響を除去するためである。
【0025】
比抵抗は、合金成分であるSi、Feの固溶量と相関がある。比抵抗が上記範囲内にある場合は、導電性を大きく損なうことなく、高強度化を図ることができる。比抵抗が0.45μΩ・cm未満になると、箔製造時に加工硬化し難く、引張強さを220MPa以上とし難くなる。比抵抗は、好ましくは0.50μΩ・cm以上、より好ましくは0.55μΩ・cm以上とすることができる。一方、比抵抗が高くなると、箔製造時に加工硬化しやすく高強度化を図りやすくなるが、導電性が低下する傾向が見られる。そのため、比抵抗は、比較的高強度のアルミニウム合金箔とされる3003系アルミニウム合金箔の比抵抗の約60%である0.7μΩ・cm程度とするのがよい。比抵抗は、好ましくは0.69μΩ・cm以下、より好ましくは0.68μΩ・cm以下とすることができる。なお、比抵抗は、JIS H0505に準拠し、ダブルブリッジ法により測定することができる。
【0026】
上記アルミニウム合金箔は、蓄電デバイス電極の集電体用として用いることができる。この場合は、集電体としてのアルミニウム合金箔の表面に電極活物質が付けられる。具体的には、この場合は、アルミニウム合金箔の表面に、電極活物質を含む層が塗工され、乾燥後に圧延等による圧縮力が加えられる。このような場合であっても、上記アルミニウム合金箔は、圧縮力により不必要な塑性変形が生じ難いので、電極活物質が剥離し難く、その上、良好な導電性も確保できる。また、上記アルミニウム合金箔は、箔強度に優れるため、箔の薄肉化の要求にも対応しやすい。そのため、この場合は、リチウムイオン電池等の蓄電デバイスの高密度・高エネルギー化に寄与することができる。
【0027】
上記アルミニウム合金箔は、例えば、次のようにして製造することができる。すなわち、上記アルミニウム合金箔は、上記特定の化学成分からなるアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延した後、箔圧延を含む冷間圧延を行うことにより得ることができる。
【0028】
この際、アルミニウム合金鋳塊は350℃を超える高温での均質化処理を行うことなく熱間圧延するとよい。熱間圧延は、350℃以下の温度に加熱してから開始し、熱間圧延の開始時、熱間圧延の途中および熱間圧延の終了時における温度をいずれも350℃以下とすることができる。熱間圧延の開始温度に到達してからの保持時間は特に限定されるものではないが、Al−Fe−Si系化合物の析出を抑制しやすくなるなどの観点から、12時間以内とすることができる。なお、熱間圧延は、一回で行ってもよいし、粗圧延後に仕上圧延を行う等、複数回に分けて行ってもよい。
【0029】
また、冷間圧延は、途中で焼鈍を行うことなく、箔厚を20μm以下とする。途中焼鈍を行うと、Al−Fe−Si系化合物の析出が促進され、冷間圧延時の加工硬化性が低下して箔強度の低下を招くからである。なお、冷間圧延終了後の最終焼鈍も途中焼鈍と同様の理由により行わないことが好ましい。箔圧延を含む冷間圧延における最終圧延率は、引張強さ220MPa以上の高強度化を図る観点から、好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上とすることができる。最終圧延率は、100×(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚−最終の冷間圧延後のアルミニウム合金箔の箔厚)/(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚)から算出される値である。
【実施例】
【0030】
実施例に係るアルミニウム合金箔について、以下に説明する。
【0031】
(実施例1)
表1に示す化学成分のアルミニウム合金を半連続鋳造法にて造塊し面削することにより、アルミニウム合金鋳塊を準備した。なお、表1に示す化学成分のアルミニウム合金のうち、合金A〜Hが実施例に適する化学成分のアルミニウム合金であり、合金I〜Oが比較例としての化学成分のアルミニウム合金である。
【0032】
【表1】
【0033】
上記準備したアルミニウム合金鋳塊を、均質化処理を施すことなく熱間圧延し、厚さ2mmの熱間圧延板を得た。この際、熱間圧延は、粗圧延と仕上圧延を連続して行った。また、上記熱間圧延において、粗圧延に供する前のアルミニウム合金鋳塊は、330℃に加熱して6時間保持することによって粗圧延の開始温度(熱間圧延の開始温度)を330℃とした。また、粗圧延の終了温度(熱間圧延の途中温度)は310℃、仕上圧延の終了温度(熱間圧延の終了温度)は270℃とした。このように本例では、上記熱間圧延の開始温度および終了温度だけでなく、熱間圧延の途中温度である粗圧延の終了温度、つまり、仕上圧延の開始温度も330℃以下とした。
【0034】
次いで、室温に戻った後、途中で焼鈍を行うことなく箔圧延を含む冷間圧延を繰り返し行い、箔厚12μmのアルミニウム合金箔を得た。なお、上記冷間圧延における最終圧延率は、100×(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚2000μm−最終の冷間圧延後のアルミニウム合金箔の箔厚12μm)/(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚2000μm)=99.4%である。
【0035】
次に、得られたアルミニウム合金箔を試験材として、引張強さ、耐力および伸び、比抵抗(電気抵抗率)、Si固溶量およびFe固溶量の測定を行った。具体的には、引張強さ、耐力および伸びは、JIS Z2241準拠し、試験材からJIS5号試験片を採取してn=2にて測定した。比抵抗は、JIS H0505に準拠し、ダブルブリッジ法により測定した。なお、雰囲気温度の影響を除去するため、比抵抗の測定は液体窒素中で行った。
【0036】
Si固溶量およびFe固溶量の測定は、次の手順により行った。図1を参照しながら説明する。図1には、熱フェノール溶解抽出法により得られた残渣と塩酸溶解抽出法により得られた残渣とから、アルミニウム合金箔におけるSi総析出量、Fe総析出量を分析する方法が記載されている。なお、Si析出量、Fe析出量の分析方法は、「佐藤,泉:軽金属学会第68回春期大会講演概要,(1985),55.」の学術文献、「村松,松尾,小松ら:軽金属学会第76回春期大会講演概要,(1989),51.」の学術文献を参照することができる。
【0037】
先ず、熱フェノール溶解抽出法に関して説明する。アルミニウム合金箔から2gの試験片を採取した(S10)。なお、試験片は、アルミニウム合金箔から小片を切り出し、合計で2gとなるように秤量した。次いで、フェノール50mlを入れたビーカーをホットプレート上に載置してフェノールを170℃〜180℃に加熱した後、試験片を投入して溶解させた(S11)。次いで、上記溶液が入ったビーカーをホットプレートから降ろして冷却した(S12)。次いで、固化防止のため、上記冷却した溶液にベンジルアルコールを添加した(S13)。次いで、上記ベンジルアルコールを添加した溶液を、ポリテトラフルオロエチレン製のメンブランフィルター(孔径0.1μm)により濾過し(S14)、Al−Fe系化合物、Al−Fe−Si系化合物を残渣として得た(S15)。次いで、この熱フェノール溶解抽出法により得られた残渣から10%−NaOH溶液にてSiを溶解させた後、王水(体積比で濃塩酸:濃硝酸=3:1)にてFeを溶解させ、溶解したSi、Feを含む混合液を得た。次いで、この混合液を誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)にて定量分析した(S16)。これにより、Al−Fe系化合物、Al−Fe−Si系化合物として析出したSi析出量、Fe析出量を求めた。
【0038】
次に、塩酸溶解抽出法に関して説明する。アルミニウム合金箔から2gの試験片を採取した(S20)。なお、試験片は、上記と同様に採取した。次いで、HCl(体積比で濃塩酸:水=1:1)120mlを入れたビーカーに試験片を投入して室温にて溶解させ、さらに過酸化水素水Hを2〜3滴を加えた(S21)。次いで、上記溶液を、ポリテトラフルオロエチレン製のメンブランフィルター(孔径0.1μm)により濾過し(S24)、Si単相粒子を残渣として得た(S25)。次いで、この塩酸溶解抽出法により得られた残渣を10%−NaOH溶液にて溶解させた後、上記王水を混ぜてpH1〜2に酸性化させた。次いで、この溶液を誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)にて定量分析した(S26)。これにより、Si単相粒子として析出したSi析出量を求めた。
【0039】
次に、上記熱フェノール溶解抽出法より得られたSi析出量と塩酸溶解抽出法より得られたSi析出量の和をSi総析出量とした。また、熱フェノール溶解抽出法より得られたFe析出量をFe総析出量とした。そして、アルミニウム合金箔のSi成分分析値からSi総析出量を差し引いた値をSi固溶量とした。また、アルミニウム合金箔のFe成分分析値からFe総析出量を差し引いた値をFe固溶量とした。
【0040】
また、箔圧延状況について調査するため、試験材の背面から照明を当て、光のもれの有無によりピンホールの発生状況もあわせて調査した。以上の結果をまとめて表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
これらの結果に示されるように、試験材C1は、Si+Fe量が0.47%である合金Iを用いたため、引張強さが220MPa未満と低かった。
【0043】
試験材C2は、Si含有量が0.1%未満、Fe含有量が0.2%未満である合金Jを用いており、Si固溶量が700質量ppm未満、Fe固溶量が150質量ppm未満である。そのため、試験材C2は、引張強さが220MPa未満と低かった。
【0044】
試験材C3は、Si含有量が0.6%を超える合金Kを用いたため、粗大なSi単相粒子が形成され、これによるピンホールが発生した。
【0045】
試験材C4は、Fe含有量が0.2%未満の合金Lを用いており、Fe固溶量が150質量ppm未満である。そのため、試験材C3は、引張強さが220MPa未満と低かった。
【0046】
試験材C5は、Fe含有量が1.5%を超える合金Mを用いたため、粗大なAl−Fe系粒子が形成され、これによるピンホールが発生した。
【0047】
これらに対して、試験材E1〜E8は、いずれも上述した特定の化学成分を有する合金A〜Hからなり、箔厚が20μm以下、Siの固溶量が700質量ppm以上、Feの固溶量が150質量ppm以上、引張強さが220MPa以上となっている。また、試験材E1〜E8は、いずれも液体窒素中で測定した比抵抗が0.45μΩ・cm以上0.7μΩ・cm以下となっている。この結果から、試験材E1〜E8は、引張強さが220MPa以上という高強度化がなされているにもかかわらず、導電性が大きく低下していないことがわかる。
【0048】
したがって、本例によれば、導電性を大きく損なうことなく、高強度化を図ることが可能なアルミニウム合金箔を提供することができる。また、上記アルミニウム合金箔は、薄肉化を図っても高強度であるので、ピンホールや箔切れ等の問題も回避することもできる。
【0049】
(実施例2)
表1に示す化学成分のアルミニウム合金Aを半連続鋳造法にて造塊し面削することにより、アルミニウム合金鋳塊を準備した。また、表1に示す従来合金の1050合金(合金N)、3003合金(合金O)を半連続鋳造法にて造塊し面削することにより、比較としてのアルミニウム合金鋳塊もあわせて準備した。
【0050】
上記準備したアルミニウム合金鋳塊を用いて、表3に示す製造条件にて箔厚12μmのアルミニウム合金箔を製造した。なお、表3における冷間圧延は、室温に戻ってから開始した。得られたアルミニウム合金箔について、実施例1と同様にして、引張強さ、耐力および伸び、比抵抗(電気抵抗率)、Si固溶量およびFe固溶量を測定し、箔圧延状況(ピンポール発生の有無)を調査した。その結果をまとめて表4に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
表4に示すように、試験材C6〜C8は、熱間圧延時における熱間圧延の開始温度が350℃を超えていたため、Al−Fe−Si系化合物の形成が促進され、Si固溶量が700質量ppm未満、Fe固溶量が150質量ppm未満となり、引張強さが220MPa未満と低くなった。
【0054】
試験材C9は、熱間圧延の開始前に520℃で均質化処理を行って作製されたものである。そのため、試験材C9は、Al−Fe−Si系化合物の形成が促進され、Si固溶量が700質量ppm未満、Fe固溶量が150質量ppm未満となり、引張強さが220MPa未満と低くなった。
【0055】
試験材C10は、熱間圧延の開始温度は340℃であるが、冷間圧延の途中、板厚1mmのときに380℃で途中焼鈍を行って作製されている。そのため、試験材C10は、Al−Fe−Si系化合物の形成が促進され、Si固溶量が700質量ppm未満、Fe固溶量が150質量ppm未満となり、引張強さが220MPa未満と低くなった。
【0056】
試験材C11、C12は、従来合金である1050合金(合金N)、3003合金(合金O)を用い、さらに熱間圧延の開始前に350℃を超える520℃という高温で均質化処理を行って作製されたものである。試験材C11は、化学成分が従来合金である1050合金(合金N)と同じであるので、220MPa未満と低くなった。試験材C12は、化学成分が従来合金である3003合金(合金O)と同じであるので、比抵抗が1.2μΩ・cm以上と極めて高く、導電性に劣っていた。
【0057】
これらに対して、試験材E9、E10は、いずれも上述した特定の化学成分を有する合金Aからなり、箔厚が20μm以下、Siの固溶量が700質量ppm以上、Feの固溶量が150質量ppm以上、引張強さが220MPa以上となっている。また、試験材E9、E10は、いずれも液体窒素中で測定した比抵抗が0.45μΩ・cm以上0.7μΩ・cm以下となっている。この結果から、試験材E9、E10は、引張強さが220MPa以上という高強度化がなされているにもかかわらず、導電性が大きく低下していないことがわかる。
【0058】
したがって、本例によれば、導電性を大きく損なうことなく、高強度化を図ることが可能なアルミニウム合金箔を提供することができる。
【0059】
以上、実施例について説明したが、本発明は、上記実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変形を行うことができる。
図1