【実施例】
【0030】
実施例に係るアルミニウム合金箔について、以下に説明する。
【0031】
(実施例1)
表1に示す化学成分のアルミニウム合金を半連続鋳造法にて造塊し面削することにより、アルミニウム合金鋳塊を準備した。なお、表1に示す化学成分のアルミニウム合金のうち、合金A〜Hが実施例に適する化学成分のアルミニウム合金であり、合金I〜Oが比較例としての化学成分のアルミニウム合金である。
【0032】
【表1】
【0033】
上記準備したアルミニウム合金鋳塊を、均質化処理を施すことなく熱間圧延し、厚さ2mmの熱間圧延板を得た。この際、熱間圧延は、粗圧延と仕上圧延を連続して行った。また、上記熱間圧延において、粗圧延に供する前のアルミニウム合金鋳塊は、330℃に加熱して6時間保持することによって粗圧延の開始温度(熱間圧延の開始温度)を330℃とした。また、粗圧延の終了温度(熱間圧延の途中温度)は310℃、仕上圧延の終了温度(熱間圧延の終了温度)は270℃とした。このように本例では、上記熱間圧延の開始温度および終了温度だけでなく、熱間圧延の途中温度である粗圧延の終了温度、つまり、仕上圧延の開始温度も330℃以下とした。
【0034】
次いで、室温に戻った後、途中で焼鈍を行うことなく箔圧延を含む冷間圧延を繰り返し行い、箔厚12μmのアルミニウム合金箔を得た。なお、上記冷間圧延における最終圧延率は、100×(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚2000μm−最終の冷間圧延後のアルミニウム合金箔の箔厚12μm)/(冷間圧延前の熱間圧延板の板厚2000μm)=99.4%である。
【0035】
次に、得られたアルミニウム合金箔を試験材として、引張強さ、耐力および伸び、比抵抗(電気抵抗率)、Si固溶量およびFe固溶量の測定を行った。具体的には、引張強さ、耐力および伸びは、JIS Z2241準拠し、試験材からJIS5号試験片を採取してn=2にて測定した。比抵抗は、JIS H0505に準拠し、ダブルブリッジ法により測定した。なお、雰囲気温度の影響を除去するため、比抵抗の測定は液体窒素中で行った。
【0036】
Si固溶量およびFe固溶量の測定は、次の手順により行った。
図1を参照しながら説明する。
図1には、熱フェノール溶解抽出法により得られた残渣と塩酸溶解抽出法により得られた残渣とから、アルミニウム合金箔におけるSi総析出量、Fe総析出量を分析する方法が記載されている。なお、Si析出量、Fe析出量の分析方法は、「佐藤,泉:軽金属学会第68回春期大会講演概要,(1985),55.」の学術文献、「村松,松尾,小松ら:軽金属学会第76回春期大会講演概要,(1989),51.」の学術文献を参照することができる。
【0037】
先ず、熱フェノール溶解抽出法に関して説明する。アルミニウム合金箔から2gの試験片を採取した(S10)。なお、試験片は、アルミニウム合金箔から小片を切り出し、合計で2gとなるように秤量した。次いで、フェノール50mlを入れたビーカーをホットプレート上に載置してフェノールを170℃〜180℃に加熱した後、試験片を投入して溶解させた(S11)。次いで、上記溶液が入ったビーカーをホットプレートから降ろして冷却した(S12)。次いで、固化防止のため、上記冷却した溶液にベンジルアルコールを添加した(S13)。次いで、上記ベンジルアルコールを添加した溶液を、ポリテトラフルオロエチレン製のメンブランフィルター(孔径0.1μm)により濾過し(S14)、Al−Fe系化合物、Al−Fe−Si系化合物を残渣として得た(S15)。次いで、この熱フェノール溶解抽出法により得られた残渣から10%−NaOH溶液にてSiを溶解させた後、王水(体積比で濃塩酸:濃硝酸=3:1)にてFeを溶解させ、溶解したSi、Feを含む混合液を得た。次いで、この混合液を誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)にて定量分析した(S16)。これにより、Al−Fe系化合物、Al−Fe−Si系化合物として析出したSi析出量、Fe析出量を求めた。
【0038】
次に、塩酸溶解抽出法に関して説明する。アルミニウム合金箔から2gの試験片を採取した(S20)。なお、試験片は、上記と同様に採取した。次いで、HCl(体積比で濃塩酸:水=1:1)120mlを入れたビーカーに試験片を投入して室温にて溶解させ、さらに過酸化水素水H
2O
2を2〜3滴を加えた(S21)。次いで、上記溶液を、ポリテトラフルオロエチレン製のメンブランフィルター(孔径0.1μm)により濾過し(S24)、Si単相粒子を残渣として得た(S25)。次いで、この塩酸溶解抽出法により得られた残渣を10%−NaOH溶液にて溶解させた後、上記王水を混ぜてpH1〜2に酸性化させた。次いで、この溶液を誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)にて定量分析した(S26)。これにより、Si単相粒子として析出したSi析出量を求めた。
【0039】
次に、上記熱フェノール溶解抽出法より得られたSi析出量と塩酸溶解抽出法より得られたSi析出量の和をSi総析出量とした。また、熱フェノール溶解抽出法より得られたFe析出量をFe総析出量とした。そして、アルミニウム合金箔のSi成分分析値からSi総析出量を差し引いた値をSi固溶量とした。また、アルミニウム合金箔のFe成分分析値からFe総析出量を差し引いた値をFe固溶量とした。
【0040】
また、箔圧延状況について調査するため、試験材の背面から照明を当て、光のもれの有無によりピンホールの発生状況もあわせて調査した。以上の結果をまとめて表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
これらの結果に示されるように、試験材C1は、Si+Fe量が0.47%である合金Iを用いたため、引張強さが220MPa未満と低かった。
【0043】
試験材C2は、Si含有量が0.1%未満、Fe含有量が0.2%未満である合金Jを用いており、Si固溶量が700質量ppm未満、Fe固溶量が150質量ppm未満である。そのため、試験材C2は、引張強さが220MPa未満と低かった。
【0044】
試験材C3は、Si含有量が0.6%を超える合金Kを用いたため、粗大なSi単相粒子が形成され、これによるピンホールが発生した。
【0045】
試験材C4は、Fe含有量が0.2%未満の合金Lを用いており、Fe固溶量が150質量ppm未満である。そのため、試験材C3は、引張強さが220MPa未満と低かった。
【0046】
試験材C5は、Fe含有量が1.5%を超える合金Mを用いたため、粗大なAl−Fe系粒子が形成され、これによるピンホールが発生した。
【0047】
これらに対して、試験材E1〜E8は、いずれも上述した特定の化学成分を有する合金A〜Hからなり、箔厚が20μm以下、Siの固溶量が700質量ppm以上、Feの固溶量が150質量ppm以上、引張強さが220MPa以上となっている。また、試験材E1〜E8は、いずれも液体窒素中で測定した比抵抗が0.45μΩ・cm以上0.7μΩ・cm以下となっている。この結果から、試験材E1〜E8は、引張強さが220MPa以上という高強度化がなされているにもかかわらず、導電性が大きく低下していないことがわかる。
【0048】
したがって、本例によれば、導電性を大きく損なうことなく、高強度化を図ることが可能なアルミニウム合金箔を提供することができる。また、上記アルミニウム合金箔は、薄肉化を図っても高強度であるので、ピンホールや箔切れ等の問題も回避することもできる。
【0049】
(実施例2)
表1に示す化学成分のアルミニウム合金Aを半連続鋳造法にて造塊し面削することにより、アルミニウム合金鋳塊を準備した。また、表1に示す従来合金の1050合金(合金N)、3003合金(合金O)を半連続鋳造法にて造塊し面削することにより、比較としてのアルミニウム合金鋳塊もあわせて準備した。
【0050】
上記準備したアルミニウム合金鋳塊を用いて、表3に示す製造条件にて箔厚12μmのアルミニウム合金箔を製造した。なお、表3における冷間圧延は、室温に戻ってから開始した。得られたアルミニウム合金箔について、実施例1と同様にして、引張強さ、耐力および伸び、比抵抗(電気抵抗率)、Si固溶量およびFe固溶量を測定し、箔圧延状況(ピンポール発生の有無)を調査した。その結果をまとめて表4に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
表4に示すように、試験材C6〜C8は、熱間圧延時における熱間圧延の開始温度が350℃を超えていたため、Al−Fe−Si系化合物の形成が促進され、Si固溶量が700質量ppm未満、Fe固溶量が150質量ppm未満となり、引張強さが220MPa未満と低くなった。
【0054】
試験材C9は、熱間圧延の開始前に520℃で均質化処理を行って作製されたものである。そのため、試験材C9は、Al−Fe−Si系化合物の形成が促進され、Si固溶量が700質量ppm未満、Fe固溶量が150質量ppm未満となり、引張強さが220MPa未満と低くなった。
【0055】
試験材C10は、熱間圧延の開始温度は340℃であるが、冷間圧延の途中、板厚1mmのときに380℃で途中焼鈍を行って作製されている。そのため、試験材C10は、Al−Fe−Si系化合物の形成が促進され、Si固溶量が700質量ppm未満、Fe固溶量が150質量ppm未満となり、引張強さが220MPa未満と低くなった。
【0056】
試験材C11、C12は、従来合金である1050合金(合金N)、3003合金(合金O)を用い、さらに熱間圧延の開始前に350℃を超える520℃という高温で均質化処理を行って作製されたものである。試験材C11は、化学成分が従来合金である1050合金(合金N)と同じであるので、220MPa未満と低くなった。試験材C12は、化学成分が従来合金である3003合金(合金O)と同じであるので、比抵抗が1.2μΩ・cm以上と極めて高く、導電性に劣っていた。
【0057】
これらに対して、試験材E9、E10は、いずれも上述した特定の化学成分を有する合金Aからなり、箔厚が20μm以下、Siの固溶量が700質量ppm以上、Feの固溶量が150質量ppm以上、引張強さが220MPa以上となっている。また、試験材E9、E10は、いずれも液体窒素中で測定した比抵抗が0.45μΩ・cm以上0.7μΩ・cm以下となっている。この結果から、試験材E9、E10は、引張強さが220MPa以上という高強度化がなされているにもかかわらず、導電性が大きく低下していないことがわかる。
【0058】
したがって、本例によれば、導電性を大きく損なうことなく、高強度化を図ることが可能なアルミニウム合金箔を提供することができる。
【0059】
以上、実施例について説明したが、本発明は、上記実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変形を行うことができる。