(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、
図7に示すような冷却室130は、5軸車用の従来の機関車に用いられるものであって寸法が大きく、4軸車の機関車に適用しようとすると、コンパクト且つ軽量に構成される4軸車のメリットが阻害されてしまう。即ち、大きな冷却室130によって、車両重量が増加して高速性能が低下すると共に、機関車の全長が長くなってホイールベースも長くなるため、急なカーブが曲がり難くなる。更に、耐荷重の低い橋を通過する際に橋に高負荷を与えることになる。一方、仮に、冷却室130をコンパクトに構成するために、ラジエータ131、オイルクーラ132、冷却ファン133の大きさを単に小さくすると、高速性能を達成するために搭載したディーゼルエンジン及び液体変速機に対して十分な冷却性能を確保できなくなるという問題点がある。
【0009】
そこで、本発明は上記した課題を解決するためになされたものであり、高速性能を達成するために搭載したディーゼルエンジン及び液体変速機に対して十分な冷却性能を確保しつつ、冷却室をコンパクトに構成できる4軸車の高速走行機関車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る高速走行機関車は、ディーゼルエンジンと液体変速機とを有する動力室と、前記動力室に隣接していて前記ディーゼルエンジンの冷却水を熱交換するラジエータと前記液体変速機の作動油を熱交換するオイルクーラと冷却風を吸引する冷却ファンとを有する冷却室とを備え、前記ディーゼルエンジンから台車に駆動力が伝達されて4軸の車輪で走行するものであって、前記冷却室は、2つの前記ラジエータと2つの前記オイルクーラと2つの前記冷却ファンとを有し、前記冷却室の中央部には、回転軸が鉛直方向に延びる2つの冷却ファンが長手方向に直列的に配置され、前記冷却室の両側面には、1つのラジエータと1つのオイルクーラとが長手方向に直列的に配置されると共に、対向する両側面でラジエータとオイルクーラとが正対するように配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る高速走行機関車によれば、比較的小さな2つの冷却ファンを長手方向に直列的に配置することで、吸引する冷却風の風量を十分に確保しつつ、冷却室の幅方向の寸法を小さくできる。また、冷却室の両側面に、1つのラジエータと1つのオイルクーラとを長手方向に直列的に配置すると共に、対向する両側面でラジエータとオイルクーラとが正対するように配置することで、十分な冷却性能を確保しつつ、冷却室の長手方向の寸法を小さくできる。従って、十分な冷却性能を有する冷却室を、コンパクトに構成することができる。
【0012】
また、本発明に係る高速走行機関車において、前記液体変速機の中間軸に、その回転角を検出する回転角検出器が設けられ、前記台車に、走行中の車輪の進行方向前方に対して増粘着剤を噴射する噴射装置が設けられ、前記動力室に隣接する運転室に、前記検出された回転角に基づいて走行速度を演算すると共に前記噴射装置の噴射を制御する制御装置が設けられ、前記制御装置は、走行速度が微小時間に所定速度値以上変化したときに空転又は滑走が生じていると判定して、前記噴射装置が前記粘着剤を噴射するように制御することが好ましい。
【0013】
この場合には、液体変速機の中間軸に回転角検出器を設けて、この回転角検出器を用いて演算される走行速度の変化を見ることで、空転又は滑走が生じているか否かを判定する。このように、空転又は滑走を判定するために、液体変速機の中間軸に1つの回転角検出器を取付けるだけであり、台車側に電気機器を設ける必要がなく、動力室と運転室の制御装置との間に短い電気配線を設ければ良い。従って、構造がシンプルで安価に空転又は滑走を判定できる。
そして、空転又は滑走が生じていると判定されると、噴射装置が車輪の進行方向前方に対して増粘着剤を噴射する。これにより、車輪とレールとの間の粘着力を大きくすることができ、空転又は滑走を防止できる。
【0014】
また、本発明に係る高速走行機関車において、前記制御装置は、空転が生じていると判定すると所定時間の間、エンジン回転数をアイドリング状態に制御すると共に、前記噴射装置が増粘着剤を噴射し続けるように制御し、その後に空転が生じていると判定したときのエンジン回転数より下げた値から空転が生じていると判定したときのエンジン回転数まで、エンジン回転数を徐々に増加させるように制御することが好ましい。
【0015】
この場合には、空転が生じていると判定されると所定時間の間、エンジン回転数がアイドリング状態に制御されて、車輪に作用する駆動力が減少すると共に、噴射装置が増粘着剤を噴射し続けて、車輪とレールとの間の粘着力が大きくなる。こうして、車輪に作用する駆動力の減少と、車輪に作用する粘着力の増大とによって、空転を確実に防止できる。その後、エンジン回転数は、空転が生じていると判定されたときのエンジン回転数より下げた値から、空転が生じていると判定されたときのエンジン回転数まで徐々に増加する。この結果、空転を一旦防止した後に、車輪に作用する駆動力を、空転が生じていると判定されたときの駆動力まで徐々に戻すことによって、空転が再発することを防止できる。
【0016】
また、本発明に係る高速走行機関車において、前記増粘着剤は、アルミナであることが好ましい。
この場合には、増粘着剤として少量のアルミナを用いることで、結果として安価で、車輪とレールとの間の粘着係数を大幅に向上できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高速性能を達成するために搭載したディーゼルエンジン及び液体変速機に対して十分な冷却性能を確保しつつ、冷却室をコンパクトに構成できる4軸車の高速走行機関車を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る高速走行機関車の実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、本実施形態の高速走行機関車1の側面図であり、
図2は、
図1に示した高速走行機関車1の平面図である。
図2では、車体2に収容されている各機器を透視した状態が示されている。
【0020】
高速走行機関車1は、
図1に示すように、車体2を支持する2台の台車3A,3Bによって、合計4軸の車輪4で走行する4軸車である。車体2は、運転室10を有する凸形状になっていて、ボンネットの長い方に動力室20と冷却室30を有し、ボンネットの短い方に燃料室40を有している。各台車3A,3Bは、軸梁式で枕バネを備えている。ここで、高速走行機関車1の走行方向によって車両前方側と車両後方側とが入れ替わるが、本実施形態では説明を分かり易くするために、
図1及び
図2の左側を前方側とし、
図1及び
図2の右側を後方側とする。
【0021】
運転室10には、
図2に示すように、運転台11が設けられていて、運転士が走行するために必要な各装置、即ち、速度指令値Nを入力するためのマスコンハンドル12(
図5参照)、ブレーキ入力値を入力するブレーキハンドル、走行方向を切替えるためのレバーサ等が備えられている。運転室10は、車体2のうち比較的軽量であるため、
図1に示すように、台枠5の長手方向の中央付近の上側に設けられていて、車両の長手方向の重量バランスを保つようになっている。運転室10の上部には、運転士が前後左右方向の視界を確保するための運転窓13が設けられている。
【0022】
動力室20は、運転室10に対して前方側に隣接して設けられていて、
図2に示すように、ディーゼルエンジン21と、液体変速機22とを有している。ディーゼルエンジン21は、V型12気筒であって大きいが、運転窓13からの視界が悪くならないように、台枠5の上側にできるだけ低く設置されている。液体変速機22は、ディーゼルエンジン21に一体的に連結されていて、図示しない逆転機を介して第1推進軸6A及び第2推進軸6B(
図1参照)に連結されている。そして、第1推進軸6Aは、台車3Aの終減速機を介して車輪4に連結し、第2推進軸6Bは、台車3Bの終減速機を介して車輪4に連結している。こうして、ディーゼルエンジン21の駆動力は、液体変速機22と逆転機と第1推進軸6A及び第2推進軸6Bと台車3A,3Bの終減速機とを介して、車輪4に伝達される。
【0023】
本実施形態では、ディーゼルエンジン21は、機関車に用いられるエンジンとして高回転且つ高出力の大型のディーゼルエンジンである。具体的に、約90km/h以上の高速性能と十分な牽引力を確保できるように、約2100rpmで1050PSのディーゼルエンジンを用いている。液体変速機22は、正逆2段変速機であり、低速段(1速)の変速比が2.5に設定され、高速段(2速)の変速比が1.0に設定されている。これにより、低速段では、変速比が大きいため、高トルクによって大きな牽引力を得られるようになっている。一方、高速段では、エンジンの高回転を減速せずに伝達することによって、高速性能を達成できるようになっている。
【0024】
冷却室30は、動力室20に対して前方側に隣接して設けられていて、
図2に示すように、同一である2つのラジエータ31A,31Bと、同一である2つのオイルクーラ32A,32Bと、同一である2つの冷却ファン33A,33Bとを有している。各ラジエータ31A,31Bは、ディーゼルエンジン21を冷却するための冷却水を大気と熱交換して冷却するものである。各オイルクーラ32A,32Bは、液体変速機22の作動油(トルコンオイル)を大気と熱交換して冷却するものである。なお、各オイルクーラ32A,32Bは、空冷式のものに限られるものではなく、例えば水冷式のものであっても良い。
【0025】
これらラジエータ31A,31B及びオイルクーラ32A,32Bは、大気に当接する面積を大きくし且つコンパクトに構成するために、
図3に示すように、薄い略直方体形状になっていて、冷却室30の両側面30a,30bに沿って配置されている。そして、
図1に示すように、車体2の前方側の側面には、冷却風としての大気が内部へ流れるための開口部2aが形成されている。このため、開口部2aから内部に流れる冷却風は、各ラジエータ31A,31Bのコア部を流れる冷却水、及び各オイルクーラ32A,32Bのコア部を流れる作動油を冷やすようになっている。
【0026】
各冷却ファン33A,33Bは、冷却風を開口部2aから吸引するためのものであり、
図1に示すように、車体2の前方側の天井面に配置されている。また、各冷却ファン33A,33Bは、
図2に示すように、それぞれ回転軸33aと複数の回転羽根33bとを有している。回転軸33aは鉛直方向に向かって延びていて、図示しない油圧モータが回転駆動することによって、回転軸33a及び回転羽根33bが回転する。なお、油圧モータは、水温センサによって検出される冷却水の水温、又は油温センサによって検出される作動油の油温が或る一定値以上に達したときに、回転駆動するように制御されている。こうして、各冷却ファン33A,33Bが駆動したとき、車体2の開口部2aから吸引された冷却風は、冷却室30の内部を通って各冷却ファン33A,33Bから排出される。各ラジエータ31A,31Bと各オイルクーラ32A,32Bと各冷却ファン33A,33Bの配置については、後に詳しく説明する。
【0027】
燃料室40は、運転室10に対して後方側に隣接して設けられていて、
図2に示すように、燃料タンク41と空気タンク42とを有している。燃料タンク41は、ディーゼルエンジン21に供給する燃料である軽油を貯留するものである。空気タンク42は、空気圧で作動するエアブレーキ装置等に供給する圧縮空気を貯留するものである。燃料室40の下側、及び冷却室30の下側には、フランジ塗油器7が設けられている。フランジ塗油器7は、走行中の車輪4の進行方向前方に対して微量の油を吐出して、車輪4の騒音を抑制するものである。
【0028】
ところで、本実施形態の高速走行機関車1は、上述したように高回転且つ高馬力のディーゼルエンジン21とこのディーゼルエンジン21に合う液体変速機22とを搭載することによって、95km/hの高速性能を達成できる4軸車になっている。しかしながら、このディーゼルエンジン21と液体変速機22に対して冷却性能を確保するために、仮に、
図7に示すような従来の冷却室130を適用すると、冷却室130の寸法が大きくなり、コンパクト且つ軽量に構成される4軸車のメリットが失われてしまう。
【0029】
特に、本実施形態の高速走行機関車1は、支線用貨客列車の牽引と入換を兼用する機関車であり、従来の機関車(DE10型ディーゼル機関車)の代替え車両として開発されたものである。このため、4軸車としてコンパクト且つ軽量であることに加えて、支線走行に十分対応できることも要求される。しかし、
図7に示す冷却室130を適用する場合、車両重量が増加して高速性能が低下すると共に、急なカーブが曲がり難くなり、且つ耐荷重の低い橋を通過する際に橋に高負荷を与えることになる。一方、仮に、冷却室130をコンパクトに構成するために、従来のラジエータ131、オイルクーラ132、冷却ファン133の大きさを単に小さくすると、高速性能を達成するために搭載したディーゼルエンジン21及び液体変速機22に対して十分な冷却性能を確保できなくなるという問題点がある。
【0030】
そこで、本実施形態の高速走行機関車1では、上記した問題点を解決するために、冷却室30が
図3に示すように構成されている。
図3は、
図2に示した冷却室30を拡大した平面図である。また、
図4は、
図3に示した冷却室30の正面図である。ここで、本実施形態の冷却室30と、従来の冷却室130とを比較して説明するために、先ず従来の冷却室130の構成を説明する。
【0031】
従来の冷却室130では、
図7に示すように、吸引する冷却風の風量を十分に確保するために、中央部に1つの大きな冷却ファン133が配置されている。この冷却ファン133の直径φ2は1800mmであって大きいため、従来の冷却室130の幅方向の寸法xが必然的に大きくなり2050mmであった。そして、従来の冷却室130では、十分な冷却性能を得るために、一方側の側面130aに沿って大きなラジエータ131が配置され、他方側の側面130bに沿って大きなオイルクーラ132が配置されている。この結果、従来の冷却室130の長手方向の寸法yも大きく2500mmであった。
【0032】
これに対して、本実施形態の冷却室30では、
図3に示すように、中央部に2つの冷却ファン33A,33Bを長手方向に直列的に配置している。このように2つの冷却ファン33A,33Bであれば、直径φ1が小さい冷却ファン33A,33Bであっても、吸引する冷却風の風量を十分に確保できる。加えて、直径φ1が小さい冷却ファン33A,33Bを直列的に配置することで、冷却室30の幅方向の寸法Xを小さくできる。具体的に、本実施形態では冷却ファン33の直径φ1は889mmであり、冷却室30の幅方向の寸法Xは1600mmになっていて、従来の冷却室130の幅方向の寸法x(2050mm)より大幅に小さくできる。
【0033】
更に、本実施形態の冷却室30では、
図3に示すように、従来のラジエータ131より小さい2つのラジエータ31A,31Bと、従来のオイルクーラ132より小さい2つのオイルクーラ32A,32Bとによって、十分な冷却性能を確保している。そして、ラジエータ31Aとオイルクーラ32Aとを一方側の側面30aに沿って直列的に配置し、ラジエータ31Aを後方側(
図3の上側)に配置するのに対してオイルクーラ32Aを前方側(
図3の下側)に配置している。また、ラジエータ31Bとオイルクーラ32Bとを他方側の側面30bに沿って直列的に配置し、ラジエータ31Bを前方側に配置するのに対して、オイルクーラ32Bを後方側に配置している。即ち、冷却室30の両側面30a,30bには、1つのラジエータ31A(32A)と1つのオイルクーラ32A(32B)とが長手方向に直列的に配置されると共に、対向する両側面30a,30bで、ラジエータ31A(31B)とオイルクーラ32B(32A)とが正対する(面と向かい合う)ように配置されている。こうして、本実施形態では冷却室30の長手方向の寸法Yは2050mmになっていて、従来の冷却室130の長手方向の寸法y(2500mm)より大幅に小さくできる。
【0034】
ここで、各ラジエータ31A(31B)と各オイルクーラ32B(32A)とを正対するように配置するのは、以下の理由に基づく。先ず、ラジエータ31A,31Bの長手方向の長さL1は約1000mmであるのに対して、各オイルクーラ32A,32Bの長手方向の長さは約800mmであり、ラジエータ31A,31Bがオイルクーラ32A,32Bより長い。このため、仮に、ラジエータ31Aとラジエータ31Bとを一方側の側面30aに沿って直列的に配置すると、冷却室の30の長手方向の寸法Yは2300mm以上になってしまう。従って、本実施形態のように各ラジエータ31A(31B)と各オイルクーラ32B(32B)を正対するように配置することで、冷却室30の長手方向の寸法Yをより小さくすることができる。そして、本実施形態の高速走行機関車1では、各ラジエータ31A(31B)と各オイルクーラ32B(32B)を正対するように配置することで、二つの冷却ファン33A,33Bのうち一方が、二つのラジエータ31A,31Bのうち一方と二つのオイルクーラ32A,32Bの一方をそれぞれ独立して冷却できるようになっている。このため、仮に二つの冷却ファン33A,33Bのうち一方が故障しても、他方の冷却ファンが対応するラジエータとオイルクーラを一つずつ冷却することができるため、高速走行は困難でも低速走行することができ、走行不可能な事態を防止できる。
【0035】
こうして、本実施形態の高速走行機関車1によれば、高速性能を達成するために搭載したディーゼルエンジン21及び液体変速機22に対して十分な冷却性能を確保しつつ、冷却室30をコンパクトに構成できる。このため、冷却室30の重量が軽くなり、車両重量が減少するため高速性能を阻害することはない。また、冷却室30がコンパクトに構成されることによって、ホイールベースを短くできるため急なカーブが曲がり難くなることを防止できると共に、耐荷重の低い橋を通過する際に橋に高負荷を与えることを防止できる。従って、支線走行に十分対応できる高速走行機関車1である。
【0036】
次に、本実施形態の高速走行機関車1において、大きな牽引力に対する問題点を説明する。高速走行機関車1では、上述したように、1050PSである高馬力のディーゼルエンジン21と低速段の変速比が2.5であって大きい液体変速機22を搭載したことによって、低速で大きな牽引力(トルク)を得られるようになっている。しかしながら、4軸車であって車両重量が軽くなっているため、空転が生じ易くて、実際に牽引できる牽引重量を大きくし難いという問題点があった。そこで、本実施形態では、空転を防止して牽引重量を大きくするために、空転防止制御が
図5に示すように構成されている。
【0037】
本実施形態では、空転防止制御を実行するために、
図5に示すように、噴射装置50とアブソコーダ60と制御装置70とが設けられている。噴射装置50は、車輪4の空転を防止するために、走行中の車輪4の進行方向前方に対して増粘着剤を噴射して、車輪4とレールとの間の粘着係数(摩擦係数)を増加させるものである。なお、粘着係数と車輪4に掛かる重量との積が、車輪4とレールとの間の粘着力であって、粘着力が大きいほど空転を防止して牽引重量を大きくできる。
【0038】
噴射装置50は、増粘着剤を収容するタンクと圧縮空気を収容するエアタンクと増粘着剤と圧縮空気とを噴射するノズルを備えると共に、固定絞りとレギュレータを備えていて、噴射する圧力を調整可能になっている。噴射装置50による増粘着剤の噴射は、制御装置70から出力される噴射指令に基づいて行われるようになっているが、運転士が運転台11に設けられている噴射ボタン(図示省略)を押すことによって人為的にも行われるようになっている。
【0039】
この噴射装置50は、
図1に示すように、台車3Aの前方側と後方側、及び台車3Bの前方側と後方側に、合計4つ設けられている。ここで、
図1の左側から
図1の右側に向かって順番に、噴射装置50A,50B,50C,50Dと呼ぶことにすると、
図1の左側に向かって走行する場合には、噴射装置50A,50Cのみが増粘着剤を噴射し、
図1の右側に向かって走行する場合には、噴射装置50B,50Dのみが増粘着剤を噴射するように、制御装置70によって制御される。これは、高速走行機関車1の進行方向が切り替わっても、第1軸と第3軸(進行方向前方から見たときの軸)の車輪4の走行方向前方のみに増粘着剤を噴射して、増粘着剤を無駄に消費することなく効率的に粘着係数を増加させるためである。
【0040】
ここで、本実施形態では、噴射装置50が噴射する増粘着剤がアルミナであることに特徴がある。アルミナは、材質が硬くてスパイクのように突き刺さることによって、粘着係数を大幅に向上させることができる。一方、従来において、機関車で噴射される増粘着剤は、一般的に砂であり、安価であるが粘着係数を上げる効果は低いものであった。これは、機関車では、新幹線等の高速鉄道車両に比べて十分低い速度で走行するため、粘着係数を上げる効果に比べて、安価な増粘着剤を用いることが一般的に考えられていたためである。
【0041】
そこで、発明者は、機関車において増粘着剤として少量のアルミナを用いることで、結果として安価で、粘着係数を大幅に向上できることを見出した。具体的に、アルミナは、砂に比べて約6倍高価であるが、使用量が約1/30で済む。こうして、本実施形態では、アルミナを噴射することで、安価且つ大幅に粘着係数を向上させることができる。この結果、車輪4とレールとの間の粘着力を大きくすることができ、牽引重量を大きくすることができる。
【0042】
実測データとして、噴射する圧力(空気圧)を約500kPaに設定して、粒径が0.3mmであるアルミナを噴射することで、晴天時に粘着係数を0.38以上得ることができ、雨天時に粘着係数を0.33以上得ることが確認された。一般的に、晴天時で乾燥している状態の粘着係数は0.25〜0.30であり、雨天時で湿っている状態の粘着係数は0.18〜0.20である。従って、本実施形態によれば、雨天時であっても、一般的な晴天時で乾燥している状態の粘着係数よりも、大きな粘着係数を得ることができる。
【0043】
アブソコーダ60は、車輪4の空転を検知するためのものであり、
図2に示すように、液体変速機22の中間軸22aに取付けられていて、中間軸22aの回転角θを検出している。検出された回転角θは、
図5に示すように、制御装置70の速度検出部71が入力するようになっている。このアブソコーダ60が、本発明の「回転角検出器」に相当する。
【0044】
制御装置70は、検出された回転角θに基づいて走行速度Vを演算すると共に噴射装置50の噴射を制御するものであり、
図2に示すように、運転室10の運転台11の内部に設けられている。制御装置70は、
図5に示すように、速度検出部71と、噴射指令決定部72と、エンジン回転数決定部73と、エンジン制御部74とを備えている。
【0045】
速度検出部71は、検出された回転角θが逐次入力されるようになっていて、入力された回転角θから中間軸22aの回転速度を算出することで、高速走行機関車1の走行速度Vを演算できるようになっている。演算された走行速度Vは、噴射指令決定部72及びエンジン回転数決定部73にそれぞれ入力される。
【0046】
噴射指令決定部72は、空転が生じているか否かを判定して、噴射装置50に噴射指令を出力するようになっている。本実施形態において、噴射指令決定部72は、入力した走行速度Vが0.1秒間(微小時間)で5km/h(所定速度値)以上増加した場合に、車輪4がレールに対して粘着力を超えて回転する空転が生じていると判定する。また、噴射指令決定部72は、入力した走行速度Vが0.1秒間で5km/h以上減少した場合に、車輪4がブレーキでロックして滑る滑走が生じていると判定する。こうして、空転又は滑走が生じていると判定されたとき、噴射指令決定部72が噴射装置50に噴射指令を出力することで、噴射装置50がアルミナを噴射するようになっている。なお、上述した空転又は滑走を判定するための条件の値(0.1秒間で5km/h以上の変化)は、本実施形態における一例であって適宜変更可能である。
【0047】
本実施形態によれば、上述したように、液体変速機22の中間軸22aにアブソコーダ60を取付けて、このアブソコーダ60を用いて演算される走行速度Vの変化を見ることで、空転又は滑走が生じているか否かを判定している。一方、従来においては、台車の駆動輪及び従動輪に回転角センサを取り付けて、駆動輪の回転速度と従動輪の回転速度との差を見ることで、空転又は滑走が生じているか否かを判定する方法がある。
【0048】
しかし、この従来の方法では、台車側に電気機器を取付ける必要があると共に、台車側と運転室内の制御装置との間に長い電気配線を設ける必要があるため、構造が複雑でコストが高くなる方法であった。これに対して、本実施形態では、液体変速機22の中間軸22aに1つのアブソコーダ60を取付けるだけであり、台車3A,3B側に電気機器を取付ける必要がなく、動力室20と運転室10内の制御装置70との間に短い電気配線を設ければ良い。従って、構造がシンプルで安価に空転又は滑走を判定できる。
【0049】
また、本実施形態では、噴射指令決定部72は、
図5に示すように、ディーゼルエンジン21のエンジン回転数Eを逐次入力されていて、走行速度Vが0から増加したときに、エンジン回転数Eが1000rpmになってから一定時間内に走行速度Vが1km/hまで達しないと、重荷重状態であると判定するようになっている。言い換えると、発進時にエンジン回転数Eに対する走行速度Vの上昇度合いが小さいとき、重荷重状態と判定される。そして、噴射指令決定部72は、重荷重状態と判定したときには、走行速度Vが10km/h(基準速度)に達するまで、噴射装置50に噴射指令を出力するようになっている。なお、上述した重荷重状態を判定するための条件の値(1000rpm、1km/h)、及び噴射指令を出力する際の走行速度Vの上限値(10km/h)は、本実施形態における一例であって適宜変更可能である。
【0050】
エンジン回転数決定部73は、
図5に示すように、マスコンハンドル12から速度指令値N(ノッチ)と、噴射指令決定部72から空転が生じているか否かの判定結果と、速度検出部71から走行速度Vとを入力して、ディーゼルエンジン21が出力すべきエンジン回転数Eに対応した回転数指令値Rを決定する。
【0051】
具体的に、エンジン回転数決定部73は、通常時には、エンジン回転数Eが速度指令値Nに対応した値になるように、回転数指令値Rを決定する。一方、エンジン回転数決定部73は、空転が生じていると判定されたときには、1.5秒間(所定時間の間)エンジン回転数Eがアイドリング状態であるときのエンジン回転数になるように、回転数指令値Rを決定する。ここで、「空転判定時のエンジン回転数」をE1とし、「アイドリング状態のエンジン回転数」をE2とすると、エンジン回転数決定部73は、上述した1.5秒が経過した後、アイドリング状態のエンジン回転数E2から、空転判定時のエンジン回転数E1より所定値だけ下げた値E3(E1>E3>E2)になるように、回転数指令値Rを決定する。その後、エンジン回転数決定部73は、空転判定時のエンジン回転数E1より下げた値E3から、空転判定時のエンジン回転数E1まで、エンジン回転数Eが徐々に増加するように、回転数指令値Rを決定する。
【0052】
エンジン制御部74は、エンジン回転数決定部73が決定した回転数指令値Rに基づいて、燃料供給量や燃料供給タイミング等を決定して、ディーゼルエンジン21の作動を実際に制御する。本実施形態においては、アイドリング状態のエンジン回転数Eが700rpmに設定され、空転が生じていると判定されたときに下げるエンジン回転数が300rpmに設定され、アイドリング状態にする所定時間の間が1.5秒間に設定されているが、上記した各値は本実施形態における一例であって適宜変更可能である。
【0053】
次に、上記のように構成された空転防止制御において、高速走行機関車1が走行し始めたときの作用効果について、
図6を参照しながら説明する。
図6(a)は、速度指令値N(ノッチ)を示したタイムチャートであり、
図6(b)は、エンジン回転数E(rpm)を示したタイムチャートである。また、
図6(c)は、走行速度V(km/h)を示したタイムチャートであり、
図6(d)は、噴射指令を示したタイムチャートである。なお、
図6(a)(b)(c)(d)では、説明を分かり易くするために、模式的なタイムチャートが示されている。
【0054】
高速走行機関車1が走行し始めるとき、
図6(a)に示すように、運転士がマスコンハンドル12で速度指令値Nとして3ノッチを入力すると、
図6(b)に示すように、エンジン回転数Eはアイドリング状態である700rpmから1000rpmまで上昇する。しかし、
図6(c)に示すように、走行速度Vは、時間t1までに1km/hまで達しなくて、発進時に走行速度Vの上昇度合いが小さい。このため、本実施形態では、噴射指令決定部72が時間t1であるときに重荷重状態と判定して、走行速度Vが10km/hに達するまで(時間t2まで)、噴射装置50に噴射指令を出力する。これにより、牽引重量が大きくて重荷重状態であっても、噴射装置50がアルミナを噴射し続けることで、車輪4とレールとの間の粘着力を大きくすることができる。こうして、
図6(c)の時間t1から時間t2までに示すように、走行速度Vの上昇度合いを大きくすることができる。
【0055】
そして、時間t3まで、
図6(a)に示すように、速度指令値Nとして3ノッチを維持することで、
図6(b)に示すように、エンジン回転数Eが1000rpmに維持される。ここで、時間t3であるときに、
図6(a)に示すように、運転士が速度指令値Nを9ノッチまで急に大きくすると、
図6(b)に示すように、エンジン回転数Eは1000rpmから1600rpmまで急に上昇する。これにより、
図6(c)に示すように、時間t3から時間t4までの短時間に、走行速度Vが急激に上昇し、車輪4がレールに対して粘着力を超えて回転する。
【0056】
こうして、空転が生じたとき、走行速度Vが0.1秒間で5km/h以上増加することになる。このため、噴射指令決定部72は、空転が生じていると判定して、
図6(d)に示すように、時刻t4から時刻t5までの1.5秒間、噴射装置50に噴射指令を出力する。これにより、噴射装置50が1.5秒間アルミナを噴射し続けることで、車輪4とレールとの間の粘着力を大きくする。更に、本実施形態では、時刻t4から時刻t5までの1.5秒間、エンジン回転数決定部73は、エンジン回転数Eがアイドリング状態であるときのエンジン回転数になるように回転数指令値Rを決定するため、エンジン回転数Eが700rpmに戻される。この結果、車輪4に作用する粘着力の増大と、車輪4に作用する駆動力の減少とによって、空転を確実に防止できる。
【0057】
加えて、本実施形態では、時間t5であるときに、エンジン回転数決定部73は、エンジン回転数Eが空転が生じていると判定されたときのエンジン回転数(時刻t4で1600rpm)より300rpm下げた値である1300rpmになるように、回転数指令値Rを決定する。そして、エンジン回転数Eが1300rpmから1600rpmまで徐々に増加するように、回転数指令値Rを決定する。こうして、
図6(b)に示すように、時刻t5から時刻t6までに、エンジン回転数Eが1300rpmから1600rpmまで徐々に増加する。この結果、空転を一旦防止した後、車輪4に作用する駆動力を、空転が生じていると判定されたときの駆動力まで徐々に戻すことによって、空転が再発することを防止できる。
【0058】
こうして、本実施形態の高速走行機関車1によれば、4軸車であって車両重量が軽くなっていても、制御装置70による空転防止制御によって、空転に対して的確に対処できて、低速における牽引力を十分に活用できる。従って、本実施形態の高速走行機関車1は、約90km/h以上の高速性能を達成することができると共に、実際に牽引できる牽引重量を大きくできる4軸車の機関車である。
【0059】
以上、本発明に係る高速走行機関車の実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態の高速走行機関車1に限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
本実施形態において、液体変速機22の中間軸22aの回転角を検出する回転角検出器として、アブソコーダ(アブソリュートエンコーダ)60を用いたが、回転角検出器の構成は適宜変更可能であり、例えばインクリメンタルエンコーダと原点センサを用いても良い。