(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5959445
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】排土式先端形状を有する鋼管杭の製造方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/72 20060101AFI20160719BHJP
E02D 5/56 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
E02D5/72
E02D5/56
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-4361(P2013-4361)
(22)【出願日】2013年1月15日
(65)【公開番号】特開2014-136868(P2014-136868A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】598094517
【氏名又は名称】株式会社双葉工業社
(74)【代理人】
【識別番号】100104330
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 誠二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 亨
(72)【発明者】
【氏名】武川 昌史
【審査官】
苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−105759(JP,A)
【文献】
実開昭61−32288(JP,U)
【文献】
特開2009−243096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22〜 5/80
E02D 7/00〜 13/10
E21B 1/00〜 49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排土式先端形状を有する鋼管杭の製造方法であって、
外径Dの鋼管の先端の対の部分Aを切除する第1段階と、
前記第1段階において前記部分A以外の部分Bと部分Cを互いに接触させるように傾斜させる第2段階と、
前記部分Bと前記部分Cの接触縁を溶接する第3段階とを含み、
前記部分Aが、正投影面で頂点P1 、P2 、P3 、P4 、P5 、P6 、P7 によって形成される不等辺七角形であり、
前記頂点P1 が、前記鋼管の端辺上における右端と左端の中間に位置する点であり、
前記頂点P2 が、前記鋼管の前記端辺上の前記右端を起点として第1稜線に沿って長さ(1.05〜1.10)Dの箇所から、前記端辺と平行に延長した前記第1線上の長さ(0.01〜0.05)Dの箇所であり、
前記頂点P3 が、前記頂点P1 から前記端辺と直交して延長した第2線と、前記頂点P2 から前記第1線に対して角度αをなすように延長した第3線との交点であり、
前記頂点P4 が、前記端辺上における前記左端と同一の箇所であり、
前記頂点P5 が、前記頂点P4 を起点として前記第2稜線に沿って長さ(1.05〜1.10)Dの箇所から、前記第1線上の長さ(0.01〜0.05)Dの箇所であり、
前記頂点P6 が、前記頂点P4 から、前記第2稜線に対して角度βをなすように延長した第4線と、前記端辺から長さ(0.80〜0.85)Dのところに前記端辺と平行に引かれた第5線との交点であり、
前記頂点P7 が、前記頂点P5 から前記第1線に対して角度γをなすように延長した第6線と、前記第6線に対して角度δをなすように前記頂点P6 から延長された第7線との交点であり、
前記角度αが24°〜28°、前記角度βが22°〜26°、前記角度γが24°〜28°、前記角度δが62°〜66°であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記角度αが26°、前記角度βが24°、前記角度γが26°、前記角度δが64°であることを特徴とする請求項1に記載された方法。
【請求項3】
前記第4線が、前記第2線の方へ僅かに湾曲していることを特徴とする請求項1又は2に記載された方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、杭の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、先端が排土式形状を有する鋼管杭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
杭の施工時(すなわち、地中への回転圧入時)に地中内に応力が発生するが、発生する応力が等しくなる点を連ねた等応力線は、杭先端を上端とした球根状の形状を有するため、圧力球根と呼ばれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
杭の施工時には、上述のように地中内に応力が発生するため、杭の直進性を保持しつつ回転圧入するのは、容易ではないという課題がある。一方、地中内応力に抵抗すべく、杭材を補強すると、コスト高になるという課題がある。
【0004】
本発明は、このような状況に鑑みて開発されたものであって、特に鋼管杭の施工時に杭先端に発生する圧力球根を軽減して杭の容易な回転圧入を可能にする、排土式先端形状を有する鋼管杭の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願請求項1に記載の排土式先端形状を有する鋼管杭の製造方法は、外径Dの鋼管の先端の対の部分Aを切除する第1段階と、前記第1段階において前記部分A以外の部分Bと部分Cを互いに接触させるように傾斜させる第2段階と、前記部分Bと前記部分Cの接触縁を溶接する第3段階とを含み、前記部分Aが、正投影面で頂点P
1 、P
2 、P
3 、P
4、P
5 、P
6 、P
7 によって形成される不等辺七角形であり、前記頂点P
1 が、前記鋼管の端辺上における右端と左端の中間に位置する点であり、前記頂点P
2 が、前記鋼管の前記端辺上の前記右端を起点として第1稜線に沿って長さ(1.05〜1.10)Dの箇所から、前記端辺と平行に延長した前記第1線上の長さ(0.01〜0.05)Dの箇所であり、前記頂点P
3 が、前記頂点P
1 から前記端辺と直交して延長した第2線と、前記頂点P
2 から前記第1線に対して角度αをなすように延長した第3線との交点であり、前記頂点P
4 が、前記端辺上における前記左端と同一の箇所であり、前記頂点P
5 が、前記頂点P
4 を起点として前記第2稜線に沿って長さ(1.05〜1.10)Dの箇所から、前記第1線上の長さ(0.01〜0.05)Dの箇所であり、前記頂点P
6 が、前記頂点P
4 から、前記第2稜線に対して角度βをなすように延長した第4線と、前記端辺から長さ(0.80〜0.85)Dのところに前記端辺と平行に引かれた第5線との交点であり、前記頂点P
7 が、前記頂点P
5 から前記第1線に対して角度γをなすように延長した第6線と、前記第6線に対して角度δをなすように前記頂点P
6 から延長された第7線との交点であり、前記角度αが24°〜28°、前記角度βが22°〜26°、前記角度γが24°〜28°、前記角度δが62°〜66°であることを特徴とするものである。
【0006】
本願請求項2に記載の排土式先端形状を有する鋼管杭の製造方法は、前記請求項1の製造方法において、前記角度αが26°、前記角度βが24°、前記角度γが26°、前記角度δが64°であることを特徴とするものである。
【0007】
本願請求項3に記載の排土式先端形状を有する鋼管杭の製造方法は、前記請求項1又は2の製造方法において、前記第4線が、前記第2線の方へ僅かに湾曲していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によって製造された鋼管杭は、施工時に杭先端に発生する圧力球根を軽減することができ、これにより杭の直進性を保持しつつ、容易に回転圧入させることができる。本発明の製造方法によれば、1つの鋼管の加工のみで足りるので、別材の発注や寸法調整が不要であり、比較的手間をかけずに低コストで所要の鋼管杭を製造することができる。また、本発明の方法によって製造された鋼管杭は、同材から加工されるので、品質が安定し、溶接性も優れている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は、本発明の好ましい実施の形態に係る製造方法によって製造された鋼管杭の斜視図、
図1(b)は、
図1(a)の鋼管杭の正面図、
図1(c)は、
図1(b)の線1c−1cに沿って見た底面図である。
【
図2】本発明の好ましい実施の形態に係る製造方法の手順を示した一連の図である。
【
図3】
図1(a)の線3−3に沿って見た図である。
【
図4】
図3の線4a−4a又は線4b−4bに沿って見た図である。
【
図5】本発明の変形形態に係る製造方法によって製造された鋼管杭の
図4と同様な図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の好ましい実施の形態に係る鋼管杭の製造方法について詳細に説明する。
図2は、本発明の好ましい実施の形態に係る製造方法の手順を示した一連の図である。まず最初に、素材となる鋼管(外径D)を準備し(
図2(a))、鋼管の先端の所定部分Aを切除する(
図2(b))。部分Aの切除は、ガス切断などの任意の公知の方法で行われる。
【0011】
図4は、
図3の線4a−4a又は線4b−4bに沿って見た図、すなわち切除される部分Aを示した正面図である。換言すると、
図4に示されるのは、切除される部分Aの正投影面である。切除される対の部分Aは、正投影面で頂点P
1 、P
2 、P
3 、P
4 、P
5 、P
6 、P
7 によって形成される不等辺七角形(
図2(b)及び
図4において薄墨で示された部分)である。なお、
図3の線4a−4aに沿って見た場合、及び
図3の線4b−4bに沿って見た場合のいずれの場合においても、切除される部分Aの形状は、同一である。
【0012】
頂点P
1 は、鋼管10の端辺12上における右端12aと左端12bの中間に位置する点である。従って、右端12aと頂点P
1 との長さ、及び左端12bと頂点P
1 との長さは、それぞれ0.5Dである。
【0013】
頂点P
2 は、鋼管10の端辺12上の右端12aを起点として第1稜線(右側の稜線)14に沿って長さ(1.05〜1.10)D(最も好ましくは、1.07D)の箇所14aから、端辺12と平行に延長した第1線18上の長さ(0.01〜0.05)D(最も好ましくは、0.03D)の箇所である。
【0014】
頂点P
3 は、頂点P
1 から端辺12と直交方向に延長した第2線20と、頂点P
2 から第1線18に対して角度αをなすように延長した第3線22との交点である。角度αは24°〜28°であり、最も好ましくは26°である。
【0015】
頂点P
4 は、端辺12上における左端12bと同一の箇所である。
【0016】
頂点P
5 は、端辺12上における左端12b、即ち頂点P
4 を起点として第2稜線(左側の稜線)16に沿って長さ(1.05〜1.10)D(最も好ましくは、1.07D)の箇所16aから、第1線18上の長さ(0.01〜0.05)D(最も好ましくは、0.03D)の箇所である。頂点P
5 は、
図4を参照すると明らかなように、鋼管10の中心軸線X−Xに対して頂点P
2 と対象の箇所に位置する。
【0017】
頂点P
6 は、頂点P
4 から、第2稜線16に対して角度βをなすように延長した第4線24と、端辺12から長さ(0.80〜0.85)D(最も好ましくは、0.82D)のところに端辺12と平行に引かれた第5線26との交点である。角度βは、22°〜26°であり、最も好ましくは24°である。
【0018】
頂点P
7 は、頂点P
5 から第1線18に対して角度γをなすように延長した第6線28と、第6線28に対して角度δをなすように頂点P
6 から延長された第7線30との交点である。角度γは、24°〜28°であり、最も好ましくは、26°である。また、角度δは、62°〜66°であり、最も好ましくは64°である。
【0019】
上述のように、対の部分Aを切除することによって、鋼管の先端には、切除されない部分B、Cが残ることとなる(
図2(c))。切除されない部分Bと部分Cは、実質的に同一の形状を有している。なお、部分Aの切除の際に部分B、Cの形状が歪んだ場合には、部分B、Cが未だ熱いうちに、ハンマー等を用いて整形するのがよい。
【0020】
次いで、切除されない部分Bと部分Cを、互いに接触させるように傾斜させる(
図2(d))。
【0021】
次いで、互いに接触した部分Bと部分Cの接触縁を溶接することによって、
図1(a)、(b)、(c)に示されるように、鋼管の先端に排土式形状が形成されることとなる。
【0022】
上述のようにして製造された鋼管杭の先端は、湾曲してやや上方に向いた対の翼部分、すなわち排土式形状を有するように形作られており、この鋼管杭を回転圧入させると、対の翼部分が土砂を斜め上方に押し上げるため、杭先端に生ずる圧力を和らげ、圧力球根を軽減し、杭孔側壁の強度を保持しつつ、鋼管杭を直線的に推進させることが可能になる。
【0023】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0024】
たとえば、前記実施の形態では、第4線24が直線状のものとして示されているが、
図5に示されるように、第4線24′が第2線20の方へ僅かに湾曲するように形成してもよい。このようにすることにより、切除されない部分Bと部分Cを互いに接触させるように傾斜させたときに密接し易くなるため、より良好な先端形状を形作ることができる。
【符号の説明】
【0025】
10 鋼管
12 端辺
12a 右端
12b 左端
14 第1稜線
16 第2稜線
18 第1線
20 第2線
22 第3線
24、24′ 第4線
26 第5線
28 第6線
30 第7線
A 切除される部分
B、C 切除されない部分
P
1 、P
2 、P
3 、P
4 、P
5 、P
6 、P
7 頂点